強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』 作:サルスベリ
ふわっと考え、頭空っぽというのがコンセプト。
でもやりたいことはいくつかあったから、その内の半分は達成できました。
残り半分、え、半分もあるの?
ちょっと驚いた風味でお送りします。
話がある、マスター。
そんなことを暗い顔でコナンに言われて、何かあったと察した。
「なんだよ、話って?」
「ちょっとな。今、オールマイトも呼んだから待っててくれ」
え、オールマイトもいないと不味い話?
あれひょっとしてオール・フォー・ワン関係かな、と考えていたのですが、なんだかギルが考え込むみたいな仕草なんだけど、勘違いかな。腕を組んで直立不動って、初めて見るんだけど。
「マスター、今回の話、心して聞くがよい。貴様にとって、決断の時かもしれぬ」
「え?」
「何を決めようと、どう判断を下そうとも我は口を挟まぬ。好きにするがいい」
な、何があったんだ、ギル。どうした、その慈愛に満ちた顔は。
「だが一つだけ決して忘れるなよ、マスター? 貴様は英雄王ギルガメッシュのマスターであり、名探偵と名高いコナンのマスターでもある。そして、その気になれば世界を滅ぼせる戦力を持った、『鎮守府』という組織の長であることを」
「え、はい」
うわ、なんだか本当に王様の前にいるような、あれギルは最初から王様だったな。あれ、なんだろ、王からの訓示を受けた気になってきた。
「そして、どのような結末であろうとも我は常に貴様の隣にいよう」
「おう、サンキュ」
「フ、我も随分と俗世にまみれたようだ。昔の我ならこのようなこと、考えることもなかっただろうにな」
なんだろう、ギルがいつになく優しいんだけど。あれぇ~~なんか、最終回って気がしてきたけど、気のせいだよね。
「はーはっはっはっは! 私が来た!」
「よっし、揃ったな。じゃあ、始めるか」
「いやスルーは酷くないか、コナン少年?」
「わりぃなオールマイト、ちょっとギャグにつきあえない内容なんだ」
え、ギャグなしでの会話、あれ、俺はちょっと付き合えないかな、と思っていたらソープやエルも凄い真面目な顔している。
アインズさえも普段と違う、あの魔王様って衣装をまとっているから、かなりきつい内容なのかな。
「オール・フォー・ワンが動いた」
その一言が、今回の事件の始まりを示している、そんな気がした。
いや、マジですか。え、何の冗談。でも、コナンがマジな顔しているから、冗談でもなんでもなく。
「本当のことなのか?」
オールマイトが怖い顔している。声が僅かに震えているのは、怒りを抑えているからかな。
「ああ」
「ふざけるな!! あいつが! あいつが何をしてきたか! 知っているのか?!」
激昂したオールマイトの拳がテーブルを叩き、粉々に砕いた。
「あいつは、あいつはお師匠を、大勢の人たちを」
悔しさと怒りを混ぜ合わせたような、そんなオールマイトの横顔は初めて見た。俺たちよりもオール・フォー・ワンとの付き合い、いや戦いはオールマイトの方が長い。
もっと昔から、彼がヒーローになった頃から、ずっと続いてきたんだろうな。
「あいつは嘘は言ってない」
「コナン少年!」
「話の辻褄が合っちまったんだよ、オールマイト。確かにあいつのしたことは許せない、以前のあいつが『誰もが平等で自由』なんて理想を掲げていなかったのは明らかだ」
「ならば嘘ではないか?!」
「けどな、『個性を奪って集めて自分を』って点においては、揺らいでない。人間って奴は厄介な存在だ。長い年月を過ごせば、理想を見失って、やがて何が目的か忘れちまうことがある」
「忘れたから、忘れていたからと許されることではない」
「だからさ、オールマイト。だから奴は思い出して、俺達に宣言したんだよ。かつての自分の罪を見つめ、そしてかつての理想を叶えるってな」
怒りに震えて周りを圧倒するオールマイトに対して、コナンは何処までも静かで穏やかだ。何を入れても決して声を荒げず、諭すように話すのはあいつが推理を披露する時と同じ。
本当に、風に逆らわないようにスッと入ってくる話し方だから、俺は間違えずに話を聞けた。
「本気だったんだな?」
「ああ、それは確実だ」
「そっか」
彼にもあったってわけだ。彼があんな行動をすることになった、何か根本的な出来事があって、彼は理想を抱いたってことか。
オリジンって奴か。
「認めない、あいつは」
オールマイトの気持ちは解らないでもないけど。
「私は納得できるな」
「アインズ殿?!」
不意に呟いたアインズに、オールマイトが鋭く睨みつけた。
おい、この状況で言うかよ。
「納得は出来る。現在の世の中を考えれば、『個性こそがすべて』という考えはあまりに危険だ。個性があって、人がある。そうではない、個性があるからこそ人でいられる、そう誰もが思っていないか?」
「それは」
オールマイトが言葉に詰まったように、顔を反らした。
確かにそうかもしれない。無個性を笑う人たちがいて、個性の強さ弱さで相手を見ている人たちが大半だ。
「個性がなければ人ではない、そう誰もが無意識に思ってしまうほど、世界の常識は個性に寄りかかっている。個性のみで、人の価値を決めてしまうほどに。これはとても怖く、そしてとても冷たい考えだ」
アインズは極端な言い方をしているけど、そうかもしれない。
今の世界は、個性を基準に構築されているから。個性がなければ無理だ、個性があればできる、個性だけを見てその人を見ない、個性だけが価値があって個性がなければ人として生きている意味さえない、そんなことを誰もが無意識に感じて、実行している。
「僕はそうは思いません。個性は確かに人の価値を決めているかもしれない。でも個性だけじゃなく、それ以外の何かをその人に見つけて、そして磨いている人たちだっています」
エルの意見もまた納得できる。個性だけで判断している世の中に傾いているけど、それを必死にとどめている人たちだっている。個性はその人の一部だって言って、全部じゃないって言っている人たちは頑張っている。
「どちらも正しく間違っている。人っていうのは、そういった成否を併せ持つ性質を持っているからね。でも、今の世の中のあり方がこうなったのはある意味、仕方ないかもね」
ソープはチラリとオールマイトを見た。
いや、待った。待て、おまえ、それは駄目だ。まさか、『個性があるから人としての価値がある』を決定づけたのは、ヒーローが活躍したからとか言うんじゃないよな。
「オールマイト、きついことを言うけどね」
「何かな?」
冷静になろうとして、何とか何時も通りの声を出した彼に、ソープは冷たく告げた。
「君たちヒーローが、今の世の中の意思を決めてしまったんじゃないの?」
俺は止められなかった。
オールマイトは言われたことに対して、『言い返せなかった』。
彼も薄々、気づいていたのかもしれない。自分達がヴィランを相手にして、ヒーロー資格を持って活躍して、平和を取り戻した結果の世界のことを。
必死だったんだと思う。誰もが悲しまない世界にしたいと走って、夢中で頑張って、そして平穏を取り戻した世界を見回した時、彼は気づいてしまったのかもしれない。
個性こそがすべて、という考えを持ってしまった民衆の姿を。世界が個性こそがすべてと決めてしまったことを。
「とにかく!!」
わざと、コナンは大きな声を出して手を叩いた。
「あいつは動く、だからオールマイト、ヒーロー側に注意を促してくれ」
「解った、すまない、ありがとう」
そう告げて立ち去る彼の背中は、何時もよりも小さくて弱々しかった。
「ソープ」
「ごめん、でも一郎だって気づいてたんじゃないの?」
「まあ、それは。俺は提督だからさ。世間のこととか、ちょっとひねくれて見るようになっていたし」
まあ、鎮守府を預かっていると周辺住民の意識とか、影響力って考えてしまうからなぁ。
「オールマイトは、平和の象徴として頑張って人々に平穏を取り戻した。その結果が、これか。皮肉だな」
「彼への称賛が、そのまま彼への批判になるなんて、世界は冷たいですね」
コナンは肩をすくめて、エルは自嘲気味に笑っているけど、これって人ごとじゃないんだよな。
「で、マスター、俺達はどうする? 死穢八斎會は俺達の下部組織になっているから、マスターの決定がそのまま『俺達の行動指針』になるぜ?」
うわぁ、いきなり重圧をかけるなよ、コナン。
俺はちょっと考えながら、チラリとギルへと視線を向けた。
腕を組んで直立不動で瞳を閉じている英雄王は、何も告げてこない。本当に俺の決定に従うつもりか。人類の裁定者ってそれでいいのかよ。
「俺達は」
まったく一国の防衛を担う軍令部総長なんて、とっくの昔に引退したはずなのにさ。
世界の命運も背負えって? ごめんだね。
何処をどう歩いたか、覚えてはいない。ただ、誰にも会わない道を歩き、ふらつくように足を進めていただけ。
重く言葉がのしかかる。世界を見て、混乱している人たちの嘆きを聞いて、誰もが悲しまない世界を作りたいと思っていた頃。
ヴィランを相手に戦い、助けての声に答えてひたすらに動き続けたあの頃が、今ではとても眩しく感じる。
今の自分は、あの頃の自分の目にどう映っているだろうか。理想とした自分のままでいられるか、それともヴィランのように映っていないか。
馬鹿な、あり得ない。自分はヒーロー、ナンバーワン・ヒーローだ。正義のために戦い、人々の悲しみを拭うために突き進んできたはずなのに。
自信を持って言えたことが、今では揺らぐ。助けられない人たちの影が、目の前をチラつく。どうして助けてくれなかったのか、どうして呼んでも来てくれなかったのか。
もう一歩、速ければ。
もう少し先に動ければ。
救えた命はあったのではないか。
何度も自問してどうにか乗り越えた答えが、今では揺らいで見えなくなった。
「私は」
「やあ、オールマイト」
声に反射的に顔を上げた。
狭い路地裏、その直線の先にあいつがいた。
「オール・フォー・ワン!!」
「どうした? ナンバーワン・ヒーローが酷いあり様じゃないか?」
「貴様! 貴様が!」
「その様子だと名探偵から聞いたようだね。そうだ、私は人々の自由と平等のために、『私の理想のために』戦うことを決めた」
「貴様が何をしてきたか忘れたのか?! 多くの人を苦しめ、多くの悲しみを広めた貴様が! 今更人々の自由と平等などと!!」
怒りが渦巻く。こいつは偽善だ、嘘を並べて人を惑わす悪人だ。ヴィランだ、倒しておかないとまた世界が。
拳を握るオールマイトの前で、彼は真っ直ぐに見詰めて答えた。
「ああ、そうだ。私がしてきたことだ。すべての人々を苦しめ、自分のために個性を奪って、平穏を乱した極悪人だ」
間髪入れずに答えられたことに、さらに苛立つ。
「開き直るのか?!」
「事実を受け止めているだけだ。私の個人的な感情で動き、個人的な理由で人々の個性を奪った。これは純然たる事実、それに言い訳をするつもりはない。すべてが私の罪だ。間違いなく」
「貴様ぁぁ!!」
「そういった意味では、君も大差ないのでは、オールマイト?」
言われた言葉に、彼は意識が追い付かなかった。
何を言った、何を言われたと疑問が頭の中を廻る。
「君はヴィランを倒した。自由でありたい、自分らしくありたいと願った人たちを悲しみのどん底に落とした。これは私とどう違う?」
「まったく違う!」
反射的に怒鳴った。感情のままに怒鳴り返し、ふざけるなと心の底から叫び声を上げる。
「貴様らヴィランは普通に生きている人たちを虐げた! それを止めた私と貴様が同じだと?!」
「同じではないか? 誰かの意思を捻じ曲げる、それは同じことだろう?」
「詭弁だ!」
「正論だよ、オールマイト。私達はお互いの『信念』の元、立ち位置が違うだけで同じ存在でしかない。君は、平和の象徴」
オール・フォー・ワンの右手がオールマイトへ向けられる。
「私は人々の『欲望の象徴』」
今度は自分へと左手が向けられた。
「表と裏だよ、オールマイト。正義も悪も、見方によっては逆転する。だからこそ、私は裏側になる。誰もが私を真っ直ぐに見つめ、私が世界を見つめることで価値観は統一され、誰もが平等になる」
オール・フォー・ワンの両手が合わさった。
「貴様の詭弁など聞く耳などない!!」
「そうかね。私は君には聞かせたい、宣言したいと考えていたがね?」
「何を?!」
「ワン・フォー・オールの継承者の君こそ、私にとって超える壁だからだ」
真っ直ぐに彼はオールマイトを見つめる。
「『ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン』。一人は皆のために、皆は一人のために。元は一つの言葉が、一つの力だったものが二つに分かれ、一つは私に、もう一つは受け継がれ君の中に宿った。だからこそ、私達はお互いがお互いに超えるべき壁だ。超えた者が、完璧を手に入れる」
「ならば貴様は私が倒す!」
全身に力を巡らせる。この場で倒せば、後に起きる混乱などない。オールマイトはそう決意し、力を解き放とうとした。
「間違っているな、オールマイト。私を倒すのは君じゃない。君が私を倒せば、後に残るのは象徴としての君だ。誰もが君に依存し、他の何も考えない人として『終わっている世界だ』」
「何を言っている? 貴様は何が言いたい?!」
意味が解らない、こいつは人を惑わしているだけだ。
「私が君を倒しても同じかもしれないがね。象徴がどちらかになるだけ、人が一人で世界を支えることに変わりはない」
「虚言か、オール・フォー・ワン!!」
「いいや、心理さ、オールマイト。私も君も、『本当の意味で人々の代弁者』ではない、という意味では同じだからね」
言っている意味が解らない。目の前の男が何を言いたいのか、オールマイトには察することが出来なかった。
「象徴ではない、相対するのではない。多くの人の願いと希望を背負って、真っ直ぐに進む存在。それこそ、世界のあり方を示す道しるべではないかね?」
「なるほど、貴様は自分の言っていることを嘘だと認めるのだな?! 先ほどの貴様の言葉とまったく違うではないか?!」
「いいや、違わないさ、オールマイト。私が目指しているのは自由と平等だ。そこに個人も世界も関係ない。多くの人が考え、多くの人が願う、そういった平等な世界だ」
「ならば私がおまえを倒して手にして見せよう!」
「君では無理だ。今のヒーローでは不可能なんだよ、オールマイト。理由は解っているだろう?」
「世迷言を!!」
「今のヒーローは人々の代弁者ではない。自らヒーローを名乗り、自らの活動を『仕事』と思っている者達では、人々の希望を集める存在ではない」
「ふざけるな!! 今の世界のヒーローはそういった存在だ! 今の世界にそれ以外の・・・・・」
気づく。オールマイトは言い掛けて、気づいてしまった。
この世界にたった三人だけ。仕事ではなく、自ら名乗ったのではないヒーローがいることを。
「気づいたようだね?」
何処か嬉しそうに、オール・フォー・ワンは語る。
『ザ・ハンズマン』。
『シンガー・ボマー』。
『グリーン・シップ』。
彼らは自ら名乗ったわけではない。救った人たちが、助けてと叫んだ人たちが、その願いの先に見つけた存在。
多くの人達の想いが込められた名前を名乗る彼らこそが、ヴィランでもなくヒーローでもない、この世界に初めて生まれた他者の願いのために戦う英雄こそが、この世界の歪んだ何かを正してくれる。
「きっと僕や君を倒すのは、象徴を倒し人々の、一人一人の心に希望を灯すのは彼らのような存在だろうね」
「私は、私は」
納得をしてしまった。支えるのではなく、見上げるのでもない。ただそこにあって勇気を与えてくれる存在、同じ道を歩き、その先に背中を見せて『ついてこい』と道しるべのように告げる。
ああ、だからこそ田中・一郎はこう言ったのか。
「フフフ、もちろん、私は負けるつもりはないがね、君にもあの三人にも。私はやり遂げるさ。誰もができなかったことも、私ならできる」
そう告げて彼は、闇の中へと姿を消していった。
後に残されたオールマイトは、開いていた手をゆっくりと握る。
理解はできる、納得も悔しいがしてしまった。
しかし、だ。まだまだ譲るつもりはない。
あの時、田中・一郎と約束したのだから。大人として教師として。
「私も負けるつもりはない。まだまだ彼らには教えたいことがたくさんあるのだからな。首を洗って待っていろ、オール・フォー・ワン」
彼はそう告げて、光の中へと歩き出した。
よっし、なんか形になった、何とかなった。
あれ、でもこんな予定はなかったような。
独自解釈、原作無視、原作崩壊タグがついているから、なんとかなりそうだなぁという風味でございます。