強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』 作:サルスベリ
シリアスが続くとシリアルに走りたくなるとか、ギャグ成分が足りないとか色々と考える。
考えたけど結局は、なるようになるのが人生である風味です。
いつだって、世界は冷たい。どんな時も辛いことばかりしかない、頑張って耐え抜いて必死に唇をかみしめて、どうにか前に進んだ先ではもっと大きな何かが立ちふさがっていて。
「僕はいつか、偉大なヒーローになる」
迷いなく両親に告げて、そうなると信じて進んでいても、どうにもできないことはあるって知った。
ヒーローになれる人間なんて、ほんの一握り。ヒーローって職業につける人間は大勢いても、本当のヒーローになれる人はとても少ない。
画面の中で活躍する彼に憧れる。
どんな時でも前向きに笑って、『私が来た』と告げる彼に憧れて、ヒーローになろうと頑張っても。
無理だよ、彼は特別だ、君では届かない。
いやというほど味わっても、どうしても手を伸ばしてしまう。
昔の同級生は、ヒーローになった。いつしか自分の周りは、大人になった友人たちが、それぞれの道を歩いて行っている。
自分の道は何処に、探しても見つけようとしても、ヒーローなんて道は何処にもないから。
「ならば、君はどうしたい?」
不意な声に振り返る。誰がと顔を向けた先には、闇に浮かぶ誰かがいた。
「君はどうしたい? 君はどうなりたい? 今の世界は君にとって、不幸ではないかな?」
「貴方は?」
「私は、オール・フォー・ワン。さあ君の『不幸』を私に預けないか?」
甘く、心の底に染みわたるような声。もう無理だと諦めた心が、そっと救われたような気持ちになって、手を伸ばしてしまった。
「確かに、君の絶望を貰ったよ」
その瞬間、自分の中で『私』が消えた。
何がと手を伸ばしても、変化などない。今まで使えた何かが使えなくなった奇妙な喪失感、二度と戻らない何かを求めて手を振り上げても、世界に変化などなくて。
「返せ! それは私の! 私だけのぉ!!」
必死に伸ばし、喉の底から叫んだとしても相手の姿はなく。
こうして彼は絶望の中で絶叫した。
『ああ、これでヒーローになれない
「クソ個性が!」
何度も殴られる。悪いことなんてしてないのに。個性が悪かった、親の個性を受け告げなかったから。
「なんで俺からてめぇみたいな奴が生まれるんだよ!」
理不尽って言葉を知ったのは何時からだろう。
こんな個性いらない。親のために生まれたわけじゃない。何度も膝を抱えて逃げて、もう逃げられないことを悟って。
また殴られる。
「ここにいたのかよ、クソ野郎」
ああ、また来た。あんな親なんていらない、こんな虚しい個性なんていらない。自分が自分らしく生きたい、そう思って諦めて笑う。
「やあ、君の個性は何かな?」
「あ? 誰だ、てめぇ」
「個性だよ、個性。そんなに相手を貶すのだから、さぞかし素晴らしい個性なんだろうね?」
「当たり前だろ。俺の個性は、こせいは? あれ」
「どうしたんだね? 是非、見せてくれないか?」
「てめぇ! 何しやがった?! 俺の個性をどうした?!」
「おや、私を疑うなんて酷いじゃないか。君の素晴らしい個性を奪うなんて、酷いことをしたとでも?」
「おまえ、何なんだよ。誰なんだよ?」
「自己紹介がまだだってね、私はオール・フォー・ワン。巨悪、あるいはラスボスだよ。じゃあ、ね」
「止めろぉぉぉ!!!」
目の前で、『親らしい男』が消えた。呆然と見上げる男の人は、とても冷たくて怖くて、でも優しい気がした。
「さあ、今度は君の晩だよ。君の不幸を貰おうかな」
「おじさんは、悪い人なの?」
「ああ、とても悪い人だよ。悪くて、冷たくて、人の敵だよ。覚えておくといい」
「でも、僕を助けてくれたよ?」
「フフフ、君は素直でいい子だね。でも、そんな子だと騙されてしまうよ」
ゆっくりと男の人は、『僕から僕を消していった』。
でも怖くない。なくなったとしても、失ったとしても、どうでもよかった。あんなのはあっても意味がないから、辛いだけだから。
「ありがとう」
小さく呟く声に、答える人はいなかった。
「無個性だって? おまえ個性ないんだよな?」
何度も言われた。何度も、クラスメートに馬鹿にされた。
今だってそうだ。クラスで一番の個性とか、将来が有望だって言われてい子から虐められている。
無個性が悪いのか、個性があるのがそんなに偉いのか。何度も繰り返し疑問が浮かんでは、口にすることなく消えてしまう。
「答えろよ!」
蹴とばされて地面に転がった。痛いと泣きたくなった、でも本当に痛いのは体じゃない心だ。もう何度も無個性って言われて、両親に『ごめんな』と何度も謝られた。
無個性だっていいじゃないか。人が生きていくのに個性が、本当に必要なのか解らないけど、虐めとかしている子が強い個性を持って、泣いている子が個性を持たないなんておかしい。
今だって、この子は『ヒーローになるからな』とか言っているのに、やっていることはまるでヴィランだ。
「なんだよ、その目は? 無個性が」
「ヴィランみたいだ」
「なんだと?! 俺はヒーローになるんだよ! ヴィランなんて俺が倒すカスなんだよ!」
「なるほど、ヴィランは倒すカスかぁ。いいね」
誰かの声がした。いじめっ子がゆっくりと顔をあげて行って、蒼白になった。
自分の後ろに誰かいるのだろうか。振り返ろうとした視界に、黒い腕が入ってきた。
「じゃあ、私みたいなヴィランを倒せるんだろうね?」
「や、やめ」
「フフフ、無個性がどうしたんだろうね? 君は無個性だとどう思うんだい?」
「生きてる価値ねぇんだよ!」
精一杯の強がりで叫んだ声に、男の人の笑い声が響いた。
「じゃあ、今の君は生きている価値がないね?」
「何を言ってんだよ。あれ、なんで、なんで個性が使えないんだよ?!」
「決まってるじゃないか、君が無個性だからだよ? 良かったねぇ」
「ふざけるなよ、返せよ!」
必死な叫びに答えることなく男の人は消えた。
そして蹲る彼に向って、小さく呟く。
「君と僕は無個性だよね?」
「ふざけるな! 俺は、俺は・・・」
「個性がないんだから、同じだよ」
薄く頬笑みを浮かべていることを、彼は知らないまま、いじめっ子だった少年を見下ろしていた。
頭の痛い問題は常に傍にある、なんて明言だろうか。
「大々的に始めやがったな、あいつ」
報告を持ってきたコナンは、渋い顔をしていた。
コナンが集めてきた情報はどれも、目を覆いたくなるような内容ばかり。
児童虐待、虐め、将来への絶望、色々なケースはあるけど、どれもが個性を奪われたことを示していた。
「こんなにもあるのか?」
オールマイトが震える声で言っている。まあ、確かにこんなにあるなんて信じられないよな。
あ、どうも、田中・一郎です。今、ちょっとギャグになれないので、ご容赦を。
「親が子供を虐待する? 個性がないから? 個性が使えないから? そんなことが」
震えて俯いているオールマイトの背中が、とても小さいものに見えた。
彼からしてみれば、今までの頑張りを足蹴にされたようなものか。必死になってヴィランを倒し、人々の平穏と平和を勝ち取ってきたっていうのに、その結果がヴィランにならない、『ヴィランのような一般人』の増加。表に出ないだけで裏側では犯罪のようなことが起きていたってことで。
「子供同士でも個性のことでいじめが起きていたなんて」
「今まで知らなかったのかよ?」
「いや知っていた。知ってはいたが、ここまでひどいとは」
コナンの声に、オールマイトが震える声で答えていた。実際、彼の体は震えている。怒りか、それとも悲しみかはわからないけど。
「昔から人は変わらないよ、オールマイト。誰よりも優れたい、優福でいたい、あいつよりも強くなりたい、隣人よりも楽をしたい、そんなものだからね」
ソープ、追い打ち掛けるな。今、オールマイトのアイデンティティが崩壊寸前なんだからさ。
「犯行現場、犯行時間がバラバラだ。世界中のどこにでも出現している。これは黒霧と同じ能力を得たか、あるいは」
「高速移動をしているか、でしょうね?」
コナンの推理の途中で、黒霧が言葉を挟んだ。
そうでないと、この事件件数の多さはちょっと説明がつかないよな。
「ワープ系の能力はとても珍しいものです。なら、移動系のほうが見つけやすいのでは?」
エルの疑問にコナンは首を振った。
「いいや、珍しいだけで前例がないわけじゃないからな。実際、黒霧以外にもワープ系の個性はいる」
チラリとコナンは言葉の途中でオールマイトを見た。
ひょっとしてヒーロー公安委員のほうで、個性を把握しているとか。いやまさか、そんなこと。あり得るかもしれない。
「・・・・・君たちに話してもいいと許可をもらっている。黒霧青年のようなワープではないが、座標点に飛べる個性はいる。いや、『いた』」
絞り出すように告げたオールマイトの言葉に、誰もが顔をしかめるしかない。
厄介な相手に、厄介な能力が渡ったものだ。これで、オール・フォー・ワンの行動予測は不可能だ。何時、何処から、どうやって侵入してくる強奪能力者なんて、悪夢だろうが。
「ただし、行ったことがある場所にしか飛べないとのことだ」
「弱点はある。けれど、弱点じゃない弱点か」
「一回の移動距離も五十キロが限界だと言われているが」
「複数の個性を組み合わせたら、それも限界かどうか疑わしいね」
あいつのことだから、絶対に弱点を強化して無くしているだろうな。
「死穢八斎會の拠点は、大丈夫なんだよな、コナン?」
「あっちにはギルがいるからな。念のためアインズも控えてもらっている」
「二人がいるなら大丈夫か」
「吹雪、本当にあっちでよかったのか?」
コナンが鋭く見てくるので、俺は頷いておく。
俺が決めた方針は、『今は静観』だ。オール・フォー・ワンの言葉は、本心だろう。今まで自分が忘れていたことが、前までのことで思い出したって話も、たぶん本当のこと。
でも、それが『何時まで』か解らない。
人々を平等に平穏にって願って行動しても、それがズレてしまったから、あの頃の他人の個性を奪って脳無を生み出して、人々を怖がらせていたオール・フォー・ワンになってしまったんだろうし。
だから、今は見届けるかなって思ったわけで。
まあ、襲撃はあるだろうしエリちゃんの個性を狙っているから、最大戦力を配置したいって言ったんだけど。
艦娘達、俺から離れるの拒否したんだよな。まあ、俺の個性を奪われたら、最悪の結末になるっていうのは解るんだけど、だからってエリちゃんを放っておけないし。
だから、ギルとアインズに行ってもらって、で吹雪を説得して動いてもらったんだけどね。
廻からは『御意。しかし』と言われたけど。
『殺してしまってもいいのでしょう?』なんて、フラグを立てるあいつは不敵に笑っていたなぁ。
怖いなぁ、廻の奴、絶対に何か隠し玉を持っているな。
「マスターがいいならいいけどさ」
「できれば、第一艦隊もつけたかったんだけどなぁ」
エンタープライズ、大和、イオナ、コンゴウ、土佐、信濃の六隻で第一艦隊なんだけど、全員が拒否してくるからなぁ。
「一郎君は愛されてますね」
「ヒミコちゃんのことも愛してますよ」
「キャ! そんな、皆がいる前で止めてください」
イヤンイヤンって顔を振る、俺の嫁さん、超可愛い。
「あれ、弔は?」
「出かけましたよ」
エルに言われ、店のドアへと顔を向けた。
あいつ、何処へ行ったんだろう?
まさか追いかけたとか、いやまさかなぁ。
「止めてくれよぉ!!」
悲鳴を聞いたのは偶然。調味料が足りなくて買い出しに行ったとき、路地裏から聞こえた声に、思わず飛び出す。
顔にはつけ慣れた仮面。手の形をした仮面をつけて路地裏を駆け抜けた先、とても見慣れた男が立っていた。
「やあ、弔、久し振りだね」
「オール・フォー・ワン」
名を呼ぶと、男は何処か嬉しそうに笑っていた。いや、あのゾイドらしい鎧を着ているから、顔までは解らないのだが、何故か弔には笑っているように感じた。
「こんなところで君に会えるなんて、とても嬉しいよ。おや、一郎君は一緒じゃないのかい?」
「今は一緒じゃない。おまえ、本気なのか?」
「ああ、名探偵から聞いたんだね。本気だよ、私は人々に平穏をもたらして見せよう。誰も個性を持たない、誰もが他者を見下すことなく過ごせる、とても素晴らしい世界じゃないかい?」
確かに、素晴らしいのかもしれない。
誰も優れていない、誰もが他者と競わない。誰もが等しく無個性で、同じような視点で物事を見て、同じように感じて、最大の敵に向かっていくなら。
「君もそんな世界に行ってみないかい?」
「・・・・・確かに、この個性を疎ましく思ったことはある」
「そうだね」
「俺の個性が家族を殺した。それは揺るがない事実だ」
「だったら」
「だから、俺はこの個性を手放さない」
オール・フォー・ワンの手が止まった。闇の中で伸ばしていた彼を見据え、弔はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「辛かった、苦しかった、とても怖かった。逃げ出して、さ迷って、何度も自分なんていなくなればいいって考えた」
「だったら」
「だからこそ、一郎に会えた」
止まった手が動き出しかけて、戸惑うように揺れる。
「俺が辛かったから、今の幸せをかみしめられる。俺が苦しかったから、今が大切に思える。あの時も絶望も怖さも悔しさも悲しみも、そういったマイナスなものすべてが、今の俺を支えてくれている。今の世界が『そんなに悪いもんじゃない』って思えるんだ」
「弔、君はあえて絶望と悲しみを味わうというのか。それが消せるというのに、誰も苦しまず、誰も悲しまない、そんな世界があるのに?」
「夢のような話だ。きっと素晴らしい世界なんだろうな」
「ああ、そうだよ。だから」
「けど、そんな世界は『停滞しているだけ』だ」
きっぱりと告げて、手を振り払う。相手の懐に入り、右手をのばしかけて、影が消えるようにオール・フォー・ワンが消えた。
「絶望があるから、強くなろうとした。悲しみがあるから、他人に優しくしようとした。苦しみがあるから、誰かの笑顔に癒される。全部、俺だ。俺なんだよ、オール・フォー・ワン。喜怒哀楽、一つも俺の人生において無駄なものはない。この経験があるから、俺はここに立っていられる」
家族を崩壊させて世界が一瞬で暗いものになった。
逃げだして怖くなって何も信じられなくて、そんな時に彼らに出会えた。
最初は、一郎だけがいればよかった。
次は、黒霧がいてちょっと安堵できた。
コナンがいて助けられた。
ギルに会えて楽しみを覚えた。
エルと一緒にいて笑顔に釣られるようになった。
ソープと話して穏やかになれた。
アインズの歌を聞いて、体が踊る気持ちを感じた。
艦娘達に会って、自分はここにいてもいいんだと思えた。
「全部、俺だ。俺を形作ってくれるすべてだ。だから、俺は、俺の絶望も悲劇も悲しみも苦しみも、楽しさも優しさも温もりも」
右手を握り締める。ゆっくりと姿勢を落とし、オール・フォー・ワンを睨みつけて見据えた。
「
視界の中にあいつを捕らえた。個性を使う、手に触れなくても崩壊はできる、何度も訓練した成果が、今こそあいつを倒す。
二度と一郎に、いや誰かを苦しませないために。
「ク?! 弔、君は素晴らしく強くなったよ。ああ、流石だ。さすが人々が名付けたヒーローなだけはある」
「そんなに大層なものじゃない。俺は俺の意思で戦っているだけだ。お前の言うような、人々の
きっとそれはあの二人だけの称号だと弔は思う。人々が名付けたのは自分も同じだが、あり方はまったく違う。
『ザ・ハンズマン』は、自己の意志のままに動く。けれど、『グリーン・シップ』と『シンガー・ボマー』は人々の願いのために動くから。
最初から何事にも全力で能力を使う自分と違い、彼らは例え自分が死ぬことになっても『能力のすべて』は使わないだろう。
そこに願いがなければ。
「フフフ、なるほど。君は、そういう『あり方』を選んだんだね。まったく、本当に君は『染まってしまった』ようだね」
「戯言はそれだけか? なら、次は」
フッとオール・フォー・ワンの姿が消えた。また何処かへ移動かと視線を巡らせるが、相手は何処にもいない。
「君に倒されるほど、私の理想は低くはないよ」
言葉だけが風に乗って弔の耳を打った。
「・・・・俺の理想も、おまえの理想に負けるほど安くはない」
小さく呟き、弔は歩き出した。
暗い路地裏から、表通りの光の中へと。
「お帰り、弔、どうしたんだ?」
「・・・・・・なんでもない」
「お~~い、なんで間があった? 誰と会ってたんだよ?」
問いかける一郎に、弔は立ち止まってちょっと振り返る。
「一郎、ありがとうな」
「は? え、何それ?」
「なんでもない」
小さく微笑みながら、弔は再び歩き出した。
ありがとう、おかげで今の自分は何処にいても、歩いていける。
「なんだよ、それ?」
「今日はカレーにしよう」
「え、今日は金曜日じゃないけど?」
「いいじゃないか」
とても嬉しそうに弔は笑いながら、冷蔵庫を開く。
「今は食べたい気分なんだ」
最初の出発点、そこをちょっとだけ懐かしく思いながら。きっと、自分のオリジンは、不器用ながら一生懸命作ってくれた、温もり一杯の一郎のカレーライスだから。
「弔がいいなら、いいけどさ」
「ああ、とびきり『あったかい』カレーライスを作るさ」
とても楽しそうに笑う弔に、一郎も自然と笑顔を向けたのでした。
カレーライスって、家庭ごとに違うそうです。
簡単にできるから、誰もが作れる料理。海軍では曜日感覚を失わないためにカレーライスは金曜日に出していたらしいですね。
死柄木・弔にとって、カレーは彼が家族を失ったことを思い出させるのと同時に、そんな自分を救ってくれた一郎との大切な思い出でもあったりします。
自分らしく生きていいんだって、背中を押してくれた原点。
そんなカレーライスで締めくくった風味です。
文才がもっと欲しいです。