強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』   作:サルスベリ

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 そろそろ、終わりが見えてきたかなってところです。

 書きたいこと詰め込んだ、ような風味でお送りします。







光と影、あるいは二つにして一つの存在

 

 

 

 

 

 

 

 歴史が変わる瞬間、というものがある。

 

 誰もが立ち会えるわけじゃないけど、必ず人の歴史の何処かで『転換期』は訪れて、その後の歴史を違う流れで紡いでいく。

 

 不意に、俺はそんなことを思い出していた。 

 

 田中・一郎にとって、何度か見たことがある、歴史が変わる瞬間。

 

「クッソ」

 

 悪態くらいつかせてくれよ。

 

 なんだよこれは、何だって言うんだよ。

 

「よもや、ここまでとはな」

 

 ギル、俺もそれは思ったよ。まさか、だよな。

 

「こうなるんじゃないかって思ってたんだよな」

 

 コナン、予想していたならいってくれよ。

 

「本当にまったくさ。クッソってもう一度、言いたくなってきた」

 

 俺の目の前で、オールマイトが、エンデヴァーが、『グリーン・シップ』が、『シンガー・ボマー』が、地面に倒れていた。

 

「さあ、次は君たちかな?」

 

 そして、四人を倒したあいつは、ゆっくりとこっちを見てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初の攻撃は、確かオールマイトからだった。

 

「行くぞぉ!!」

 

「来い!」

 

 気合の乗った拳は確かに、オール・フォー・ワンを捕らえた。轟音と衝撃が会場を揺らし、細かい破片が飛び散った。

 

 でも、あいつは動かない。

 

「燃え尽きろ!」

 

 続いて、エンデヴァーの炎が燃え盛る。オールマイトごと燃やしつくしそうな炎の渦が逆巻いてって、あれオールマイトごと?!

 

「避けたな! オールマイト!」

 

「ああ! もっときつめでもよかったぞ、エンデヴァー!」

 

 うわぁ、あの二人、息ぴったり。あれ、でもエンデヴァーってオールマイトを憎んでいたんじゃなかったっけ。

 

「憎んで妬んでいたから、よく観察しているってあるよね」

 

「ありますね」

 

 ソープとエル、なんでそんなに嬉しそうに笑っているわけ。え、そういうものなの。

 

「決まってないな」

 

 コナンが重く呟くと同時に、炎が散った。いや、あれって風か、まさか風を操る個性まで持っているって、どんだけ多くの個性を扱えるだよ。

 

 今だって肉体強化に全身を覆うような鋼だろ、その上に回復系も使っている様子もあるし。

 

「フフフ、まさかその程度で倒せると思っているのかい?」

 

「思ってねぇよ!」

 

 瞬間、会場が爆発した。

 

 うわぁ、爆豪君、初っ端から全力だ。自分の個性と槍の能力を使って、一気に吹き飛ばした。

 

「デク!!」

 

「いっけぇぇぇ!!」

 

 あ、あれ。

 

「待ったデク君!!」

 

 ちょっと待った! あれは不味い! 本当に不味い!

 

「アインズ!」

 

「もう展開した」

 

 あ、封鎖結界、間に合った。これで周りの被害は出ないと信じたいけど。

 

 デク君、最初の一撃が『超重力砲』って、そんなにご立腹だったのかな。いやオール・フォー・ワンがやってきたこと考えると、怒りたくなるのも納得できるけど。

 

「一郎君、まだです」

 

「ヒミコちゃん、いやいや、さすがにもう終わったって」

 

「まだ、です」

 

 ちょっと顔色が悪いけど、どうしたのさ。いやだって、超重力砲だぜ、重力の塊だし、ブラックホール並の威力があるって。

 

「嘘だろ」

 

 マジか、なんだよあいつ。本当に何の個性を使えば、あんなこと出来るって言うんだよ。

 

「もう終わりかね?」

 

 不敵に笑った、よな。あいつ、笑って片手を『クイクイ』って、明かに挑発している。

 

「あれで終わらねぇのかよ」

 

 爆豪君、その気持ちはよく解る。

 

「たたみかければいいだけだ!」

 

 オールマイトが動く。全身に気合をが満ちたのが、俺でも解る。ギルが『ほう』って感心したような声を出したから、あの一撃が凄まじいのは解るのに。

 

 オール・フォー・ワンは一歩も動かなかった。

 

「覚悟しろ! オール・フォー・ワン!」

 

 拳が入る。腰の入ったいい拳で、素晴らしい一撃だ。素人目にも解る一撃に大地が割れて、あいつの体が吹き飛んだ。

 

 よっし、有効打!

 

「俺の炎があの程度だと思うなよ!!」

 

 飛んで行った先に待っていたエンデヴァーの全身が燃えた。凄まじい勢いで燃え上がる炎が、オール・フォー・ワンを包む。

 

「プロミネンス・バーン!」

 

 吹きあがるような焔があいつを上に巻き上げた。

 

 よっし、上がった。

 

「行くぜ! 爆王撃!!」

 

 あ、名前ってそれにしたんだ。

 

 爆豪君の槍が膨張、彼の個性の『爆破』の能力をギュッと凝縮して、放たれる。その一撃は、一発の最大威力は核に匹敵するほど。

 

 回避はしない、防御もない、まさに直撃。その衝撃と威力が、オール・フォー・ワンを叩き潰した。

 

「貴方の航路はここで終わりです。波動砲、撃て」

 

 よっし、終わった! あれで終わりだ! 波動砲の直撃だ、いくら生身でも下手したら宇宙が壊せるって一撃を受けて、終わらないはずがない。

 

 爆発と衝撃、それが生み出した突風の中、黒い影が落ちてきた。

 

 ボロボロになった鎧と、傷だらけの肉体、あれって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと落ちてきた肉体が、地面に叩きつけられた。

 

 油断していたわけではないが、まさにここまでとは。

 

 四対一だった、相手のヒーローの強さはどれも一級品以上だった。そんなものは言い訳でしかない。

 

 戦うと決めて、倒すべき敵だと見据えてきた。エンデヴァーがあそこまで『人を引っ張る気合を示した』ことは予想外だったが、それでもオールマイトを倒すために、『シンガー・ボマー』と『グリーン・シップ』を打倒するために、力を磨いてきた。

 

 多くの個性を吸った、多くの不幸を知った、多くの絶望を飲み込んだ。

 

 地面に叩きつけられた体が動かない。

 

 遠くに見える四人は、誰もが満身創痍ではない、余裕はなさそうだが、まだまだ戦えそうだ。

 

 立ち上がらなければ。気合を込めて、体を動かそうにも、入れた力がゆっくりと抜け落ちていく。

 

 どうにかと歯を食いしばったところで、抜けて行った力は戻らない。個性を使えば、どれを使えばいいかと思考を巡らせる中で、彼らは歩いてくる。

 

 油断してない顔だ、実にヒーローらしい。ヴィランである自分が倒れていても、油断は欠片もしていない。

 

「フフフ、いいね」

 

 思わず声が出た。そうだ、そうでなければ。油断して倒したと安堵して、見逃されるなんてことは、絶対に許さない。

 

 一瞬も油断せず、一時も楽観せずに、全力で倒しに来てくれないと。そうでなければ、自分というラスボスはただの薄い壁で終わってしまう。

 

 ラスボスとは最後まで立ちふさがり、最後には倒される存在。

 

 馬鹿な、と内心で激怒した。倒されるだと、倒されて終わり、ヒーローが勝って後はめでたしめでたし、ハッピーエンドだとでも自分は思ったのか。

 

 呆れてしまった、自分はそんなに『悲観的』だったのか、と。こんな結末のために立ったわけではない、こんな終わりのために彼らに宣言したわけではない。

 

「終わりだ、オール・フォー・ワン」

 

 オールマイトの声にグッと力が入った。

 

「おまえは、確かに強い。けれど、私たちヒーローのほうが強い」

 

「そうかな」

 

 気合を入れろ、もっと力を絞り出せ。もっと高く、もっと強く、もっと魂の奥底からだ。

 

「強いとそう思っているだけではないかね?」

 

「そうかもしれない。しかし、私たちは負けるわけにはいかない。私たちヒーローは護るべき者達、そのために何度でも立ち上がる。その人たちのためにも、負けられない」

 

 拳を握るオールマイトの背中に、一般市民の姿が見えた。四人の背中越しに、逃げている人たちの顔を見た。

 

 自分を見る視線には、恐怖が宿っていた。

 

 ああ、良かった、と。オール・フォー・ワンは思った。

 

「そうだね。君たちヒーローは護るべき者が多いようだ」

 

 一人一人が自分を怖いと見つめる。ヒーロー達でさえ、恐れを抱いて自分を見ていた。

 

 ああ、良かったと心の底から思った。

 

「彼らを護るために戦い、彼らのために平穏を勝ち取る」

 

 不思議と体が動いた。先ほどまで動かなかった手足に、力が巡っていく。

 

「多くの人を護るために、多くの人の意思のままに」

 

 痛みはない、苦しみもない。先ほどまで重かった体が、今は羽毛のように軽く感じる。

 

「ああ、だからこそ」

 

 オールマイトが何か告げようとしたが、その先は『自分のセリフ』だ。

 

「でもね、私にもあるんだよ。護るものがね」

 

「何を言っている?」

 

「あるんだよ、私にも背負うべきものがね」

 

 拳を握り、足に力を入れて、立ち上がる。

 

「貴様が背負うものなどない!!」

 

 エンデヴァーが炎を纏った拳で迫る。その姿を見ながら、僅かに身を引いて一撃を回避。

 

「あるんだよ」

 

 無防備となった脇腹にひざ蹴り、一撃に衝撃波と重力を合わせて彼を弾き飛ばす。

 

「エンデヴァー?! 貴様ぁ!!」

 

 続いてくるのはオールマイト。得意の『スマッシュ』だろう、やたらと力を込めた一撃、先ほどとは違う拳か。

 

「DETROIT SMASH!!」

 

 向かってくる拳は顔の横を通り過ぎ、変わりに筋肉を増強した一撃がオールマイトの顔を捕らえた。

 

「あると言った!!」

 

 そのまま風圧を込めてオールマイトを殴り飛ばす。

 

「私にはある! 今まで奪った個性の者達の! 無個性故に蔑まれた人たちの! 多くの不幸と絶望を! 私は背負ってここにいる!」 

 

「てめぇ!」

 

 『シンガー・ボマー』が来た。槍の一撃はおとり、本命は左手にため込んだ爆破か。

 

 爆破は衝撃、空気の断層を作って威力を流しながら、振動を叩きつけた。

 

「恐怖せよ! 絶望するがいい!!」

 

 彼を地面に叩きつけ、跳ね上がってきたところ右足の一撃。加速させた一撃は、彼をギャラリー席まで吹き飛ばした。

 

「貴方は!」

 

 続いて『グリーン・シップ』の砲撃。砲弾は威力がある、艦載機まで来たか。それでも、だ。こちらも弾丸は作れる、爆弾は作れるから。

 

 すべてを相殺、ついでに特大の砲弾を彼に当てて弾き飛ばした。

 

「私こそが、オール・フォー・ワン。貴様らの敵だ」

 

 そう宣言しよう。誰もが自分を見て、誰もが自分に恐怖する。だからこそ、誰もが隣人を愛し隣人を信じる。

 

 恐怖の対象を前に、人は一致団結するものだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うっそだろ、クッソ。なんであの四人がかりで、止められないんだよ。

 

「提督、行ってくる」

 

「ああ」

 

 できれば介入したくなかった。

 

 そう思う俺にエンタープライズは笑って頷いてくれた。

 

 相変わらず彼女たちは、俺の気持ちを組んでくれている。

 

「一郎、俺も行ってくる」

 

「私も行きましょう」

 

 弔と廻も行った。エルもソープも、アインズさえも合流して一斉に責め立てた。

 

 攻撃に落ち度はない、威力も十分で、誰もが手加減なんてしてなかった。

 

 だって言うのにさ。

 

「なんだよこれ」

 

 ウソだろって俺は言いたい。だって、あの世界で深海棲艦だろうと、BETAだろうと宇宙怪獣だろうと、簡単に倒してきたうちの鎮守府だぞ。

 

「まさか、ここまでなんてな」

 

 コナンが唖然としているなんて、初めて見るよ。

 

「よもや、か」

 

 ギル、予想してなかったなんて、言わないでくれよ。

 

「残りは、誰かな?」

 

 オール・フォー・ワンは無傷で立っていた。艦娘は全員が地面に倒れている、アインズもエルも、ソープでさえ倒された。

 

「行ってくるぞ、マスター」

 

「ギル、けど」

 

「確かに今の我は対人戦闘能力は高くない。サーヴァントとは、クラスに能力を落としこむ故にな。転生特典として、多少はそれが緩むことはあるが」

 

「俺も付き合うぜ、多少はかきまわせるはずだ」

 

 コナンまで。

 

 そう、だよな。俺も覚悟を決めないとな。なら、全戦力を使うべきか。出し惜しみして、後のことを考えたら勝てるものも勝てないから。

 

 やるしかない、よな。

 

「吹雪」

 

 俺は唯一、戦闘に加わらずに待機していた彼女に声をかけた。

 

「いいんだな、マスター?」

 

「貴様の決定ならば、我は従おう」

 

「ああ」

 

 今の個性社会において、吹雪の能力はオール・フォー・ワン以上に『厄介なことになる』。

 

 個性を消せるとか、個性を戻せるじゃない。個性を殺すってことは、二度と戻らないこと、再生や巻き戻しでも戻せないことを意味している。

 

 下手をしなくても、全世界を敵に回す結果にしかならない。だから、俺は使わないように、何があっても露見しないように吹雪を下げていた。

 

「・・・・・あいつの個性を殺せ」

 

「はい」

 

 トンっと小さな音がして。

 

「君が来るのか・・・・・ね?」

 

 身構えるオール・フォー・ワンの呆けた声と同時に、いつの間にか彼の背後にいた吹雪のナイフが、一閃された。

 

「オール・フォー・ワン、悪いけど今まで吹雪は『全力』じゃなかったんだよ」 

 

「な、何が?」

 

 戸惑っている彼を見つめながら、俺は小さく呟くように告げた。

 

「十分の一、艤装を使わない状態でその程度しか、日常生活で使ってなかったんだ。動作もたち振る舞いも、全部に枷をかけてあった。アインズとエル、ソープにも協力してもらって、毎日の生活に『重り』を付けていた。何故って聞きたそうだな?」

 

 目線を向けてくるオール・フォー・ワンに、俺はちょっとだけ苦笑を向けた。

 

「吹雪だけ、艦娘ってカテゴリーから逸脱してるんだよ。その能力値も、その攻撃方法もな。『直死の魔眼』を全開で使った時、全部の枷が外れて全力の吹雪になれる。これが俺の最大のカードだよ」

 

 できれば、使いたくなかったけど。その凶悪なまでの滅殺能力とは裏腹に、吹雪の性格は温厚だから。

 

「そうか、そういうことか。フフフ、君の最大の切り札は、それだったのか」

 

 終わりか。できれば、この世界のことはこの世界のヒーロー達に任せたかったけど。

 

「マスター!」

 

「コナン、どうしたんだ?」

 

「読み間違えた!」

 

 は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 崩れ落ちるのが自覚できた。自分の中の個性が、すべて『死んでいく』のが解る。残らない、滅びて欠片も残されない。

 

 『直死の魔眼』、聞いたことがある。誰かの個性を奪った時に、その名前が出てきていた。

 

 生きているなら神様だって殺せる、ものの死が見える魔眼であり、その魔眼が見た線を切るとすべてを殺せる、つまりは滅ぼせて消せるというらしい。

 

 まさか、ここまでとは。個性さえ殺せるなんて、そんなことないと思っていたが、どうやら思い違いだったようだ。

 

 個性も、生物の一部。ならば殺せるのが道理か。

 

 一つ一つと死んでいく。今まで集めた個性が、体の中から抜け落ちていく奇妙な感覚の中で、オール・フォー・ワンは笑うしかなかった。

 

 到達していない、目的を果たしてない。もっと多くの畏怖を集めて、もっと大勢に前に君臨するつもりだったのに。

 

 ここで終わりか、志半ばだというのに、もう進むことは許されないのか。

 

 慢心していたわけではないが、艦娘という彼の最大の戦力を倒せたから、もう後は英雄王と名探偵を倒せば終わり、駆逐艦クラス一隻が残っていたが、勝てると思ってしまったから悪かったのか。

 

 いや、ダメだ。まだ終われない、個性を奪った人たちも分まで、彼らの不幸を吸いこんだ自分がここで終わったら、人々は永遠にお互いを憎しみ、お互いを傷つけて生きていく。

 

 そんな世界、苦しくて悲しいだけだ。

 

 しかし、もう個性がない。最後の残った個性も、もうすでに消えて。

 

 いや、まさか、とオール・フォー・ワンは気づく。

 

「ふ・・・・・ふははははは!!!」

 

 思わず笑ってしまう。そうか、と妙に納得してしまう。

 

「マスター!」

 

 名探偵が叫ぶ、一郎はきょとんとした顔のまま固まっていた。

 

 勘違いをしていた。自分の個性は奪うものだと、誰かの個性を奪って自分のものにする。そして与える、それですべてだと。

 

 勘違いだ、思い違いをしていた。

 

 かつての自分は、オールマイトに語ったではないか。

 

 『オール・フォー・ワン、ワン・フォー・オール。元は一つの力』と。自分で語っておきながら、その本質をまったく理解していなかった。

 

「ありがとう、弟よ。おまえのおかげで私はまだ戦える」

 

 フッと笑い、オールマイトを見た。

 

 君たちが紡いできた聖火のごとき力は、確かに大勢を救う源だ。

 

「私さえ、救って見せたのだからね」

 

 心の底から、その時の自分は感謝しながら笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダブルだ!」

 

「は?!」 

 

 いやいやコナン! それじゃ解らないって!

 

「存在分離、いやこの場合は存在を分けたのか。ク、我としたことがこんな単純なことも見落とすとは」

 

「だから!」

 

 誰か説明してくれよ、それで解るのはおまえらだけだって。

 

「あいつの個性は、あいつの中だけじゃない。もう一つ、分けてあったんだよ」

 

「分けるって、そんなの」

 

 誰にどうやって分けるって言うんだよ。今のあいつなら、誰かに託すってことしそうだけど、昔のあいつはそんなこと考えてなかっただろうし。

 

「いいや! あいつ自身が意図したものじゃない、でもな、結果的にそうなった。クッソ、完全に予想してなかったぜ」

 

 コナン、なんだよ、どういうことだよ。

 

「まさか」

 

 あれ、オールマイト。良かった、まだ戦えそうだ。

 

「ああ」

 

 え、コナン、なんだよ、その顔。なんでピンチって顔しているんだよ。オールマイトが立ち上がったんだぞ。

 

 エンデヴァーも、デク君も爆豪君も立ち上がった。艦娘達だって、まだまだ戦えそうだ。もう一度、これで総攻撃かけて吹雪を突撃させて。

 

「それじゃまた同じだ。あいつの個性の根本を、『オール・フォー・ワン』を殺さないとだめだ」

 

「いや、それはさっき出来なかっただろ。なんか、他の手段を考えてさ」

 

「今度はできるだろうな」

 

 ギル、さすが頼りになる英雄王。もう手段を見つけたってことだよな。

 

 あれ、でもなんでオールマイトを見ているんだよ。

 

 え、まさか、だよな。

 

「そうか、そういうことか。なるほど、な」

 

 オールマイト、何を悟った顔しているんだよ。いや、待てよ、なんで貴方がそんな顔しているんだよ。

 

 覚悟を決めたって顔、なんでしているんだよ。

 

「二つで一つ、か。確かにそのようだな、オール・フォー・ワン」

 

「気づいたようだね、オールマイト。意図していたわけじゃないけど、今は感謝しているよ」

 

「貴様の感謝などいらん。しかし、『これを行った時の貴様には』感謝しよう。おかげで私はおまえを倒すことができる」

 

「させると思うのかね? また私が奪えばいい話だ」

 

「それを私が許すとでも?」

 

 いやいやいや、二人だけで話を進めないで!

 

 つまり、つまりさ。

 

「オール・フォー・ワンの個性を消すためには、オールマイトの個性を殺さないといけないってことか?」

 

 恐る恐ると口にした俺の顔を、コナンもギルも見ようとしなかった。

 

 無言の返答、俺の体に重く圧し掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 



 最初にオールマイトとオール・フォー・ワンの個性を知ったとき、『あれ、これって二つに分けてあるから、二つとも消さないとだめ』的な設定かな、とか思ったのが、この話の大筋となっています。

 ラスボスを倒すために、ヒーローを失うことになる。

 世界の平穏のために、平和の象徴を倒すしかない。そんな二者択一って話になった風味です。








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