強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』   作:サルスベリ

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 今回はこんな感じで始まって終わります風味です







それは聖火の如く受け継がれる

 

 

 

 

 

 

 重くのしかかるような、空気が周辺に渦巻いていた。

 

 田中・一郎の言葉に、誰もが顔を向けてはいるが、頭がついて言っていない。

 

 彼が言ったことが何だったのか、それとも何も言ってないのか。

 

 先ほどまでの激闘が嘘のように静まり返った会場の中で、最初に動いたのは誰だったのか。

 

 誰もが誰かを見ようとして見れず、指示を、あるいは言葉を聞きたくて、聞きたくなくて。

 

 矛盾したような感情を抱えたまま、時間だけが流れて行った。

 

 結論を先送りにして、このまま時間が過ぎて解決すればいい、そんなことを考えるのは無理もない。

 

 今まで平和を支えていた、人々に安心を与えていたヒーローが、ようやく一番の強敵を倒す手段を見つけたというのに。

 

 それが、彼というヒーローを『殺す』ことになるなんて。

 

 誰もが信じられず、否定して欲しくて思考と視線を巡らせる中で、声が自然と降りてきた。

 

「迷うことはない、やるんだ、田中少年」

 

「オールマイト」

 

 彼は静かに立つ。傷だらけの体であり、疲労もあるだろう中で、それでも立つ姿は一切の揺るぎはない。

 

 平和の象徴、ナンバーワン・ヒーローはまったく動揺も見せずに、微笑んでいた。

 

「やるんだ。これであいつが、オール・フォー・ワンが倒せるなら、迷うことはない」

 

「けど」

 

 一郎は迷う。彼はやれというが、彼を失うことがどういうことか、冷静に考えられるから。

 

 もし、何もなければ。彼がいなくなっても、世界が変わらないのであれば一郎も迷わなかっただろう。きっとコナンもすぐに『やれ』というはずだ。

 

 しかし、そうはならない。

 

 オールマイトが倒れたなら、ヴィランは勢いを増す。

 

 プロ・ヒーローが消えるわけじゃない、勢力図が一気に反転することはない。変わらない日々が続いていくかもしれないが、そこに人々の心を支える何かが存在しない。

 

「いいんだ」

 

「いいわけがあるか?!」

 

 怒声が、オールマイトの笑みを陰らせた。

 

「エンデヴァー」

 

「詳しい話はよく解らん! 言っていることも俺には解らん! いいや解りたくない! おまえの個性を消せばあいつが倒せる? だから個性を消す? 馬鹿を言うな!」

 

「エンデヴァー、それでいいじゃないか」

 

「ふざけるな!!」

 

 激情のままエンデヴァーはオールマイトに詰め寄る。その顔は怒りに歪んでいるようで、瞳の中に涙が浮かんでいるほど悲しんでいた。

 

「ナンバーワンだぞ! 俺達ヒーローのトップだ! 今まで平穏を支えていたおまえが! 何よりも平和を望んでいたおまえが! そこにいないなどあっていいはずがない!」

 

 炎が踊る、先ほどまで多くの者の心を震わせていた炎が、今では違う感情のままに流れていく。

 

 赤い炎は、まるで涙のように乱れるように火の粉を飛ばしていた。

 

「確かにそうかもしれない。私もそうあってほしいと願い、そうであれと頑張ってきた」

 

「ならば!!」

 

 激情のままさらに腕に力を込めるエンデヴァーの両腕を、オールマイトはそっと触れて顔を上げた。

 

「だからこそだ、私の個性一つで平和が訪れるなら、安いものじゃないか?」

 

 今まで見た高笑いではなく、大きな声でもなかった。けれど、その声は今までの彼のどの言葉よりも高く広く、多くの人の心に届いた。

 

 エンデヴァーは反論しようとして、オールマイトの顔を見て止めた。

 

 穏やかに笑う彼は、まるで『憑きもの』が落ちたようだったから。

 

「・・・・・・解った」

 

 エンデヴァーはゆっくりと手を離し、オールマイトから離れた。

 

「ありがとう。後は、頼む」

 

 その肩を叩き、オールマイトは歩き出す。

 

「待たせたようだな、オール・フォー・ワン」

 

「何、ヒーローの友情を見守るのも、巨悪の余裕だからね。でも、この先はそんなサービスはしないよ?」

 

 先ほどまでと同じ位置で立っていたオール・フォー・ワンに、オールマイトは頬笑みを浮かべたまま拳を突き出す。

 

「その余裕、今日で見納めにしてやろう」

 

「いいね、オールマイト、それでこそだよ」

 

 二人は向かい合ったまま、ゆっくりと歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝利条件は、たった一つ。

 

 コナンが俺に小さく告げる。

 

「同時に、だ。完全に同時に二人の個性を『殺す』。それで終わりだ」

 

「解った」

 

 やっぱり、やるしかないのか。

 

 オール・フォー・ワンを倒すには、オールマイトの個性を消すしかない。理屈は解る、オールマイト自身もそれを望んでいるのも解った。

 

 でも、さ。でも、他の方法があるだろう。こっちにはギルがいるから、『エア』を抜いて。

 

「マスターが、そうと決めたなら、我はその決定に従おう」

 

 ギルガメシュが俺を見ている。その瞳には、嘲笑も怒りもない。まるで鏡だな、あいつが見ているのは俺の魂か心か。

 

 エルもソープも、アインズも、もちろんギルやコナンも。艦娘達だってまだ全力じゃない。制限をつけたまま、本気の能力を解除してない。

 

 そりゃ、能力は制限していても技量は制限してないから、オール・フォー・ワンに倒された時は驚いたけどさ。

 

 でも、全員の制限を解除して全力で当たったら、それはこの世界に『戦争』を持ち込むことだから。

 

 この世界のことは、この世界のヒーロー達がやるから、俺達はあくまで異邦人だからって最初に決めたじゃないか。

 

「・・・・・吹雪」

 

 だから、オールマイトが決めたことを尊重しよう。その後に何かあったら、それはその時に頑張ってどうにかしよう。

 

「オールマイトの」

 

「一郎さん!!!」

 

 で、デク君?

 

「やめてください! 話は解りました! でも、そんなことしないでください!」

 

「けど、それはオールマイトが」

 

「僕がどうにかしますから!!」

 

 そっか、デク君にとってオールマイトはヒーローを目指した原点、オリジンの一つだから、失われることが認められないんだ。

 

「デク!」

 

「かっちゃん」

 

爆豪君も、そう思っているのかな?

 

「邪魔すんな!」

 

「な、なんで?!」

 

「オールマイトが決めたんだよ! 俺達が憧れたヒーローが決めたんだぞ! それを俺達が止めていいわけないだろうが!」

 

「何を言っているのさ?! オールマイトだよ! ナンバーワンがこんなところで倒れたら! そうなったら」

 

「あの人が決めたんだよ! 願ったんだよ!」

 

 あ、爆豪君、泣いている。そっか、君も本当は認めたくない。絶対にさせたくない。でも、君はオールマイトの『願い』を優先してくれたんだね。

 

 デク君は多くの人の『願い』を、オールマイトにまだ象徴でいてほしいっていう願いを優先しようとしてくれた。

 

 でも、爆豪君はオールマイト個人の願いを叶えようとしている。

 

 本当、君たちはどっちもどっちだね。誰かの願いのために全力であろうとして、願いのために自分の心さえ抑え込むなんてさ。

 

「だからって認められないよ! 僕はまだ!!」

 

「甘えてんじゃねぇぞデク!! 俺達はなんだ? 俺達はどういう存在なんだよ?!」

 

 そうだね、デク君。君は今、爆豪君の言葉で固まった。思い出したんだね、自分達がオールマイトに憧れてその背中を追いかける少年じゃなく、その背中を超えていくヒーローだってことを。

 

「思い出したかよ、『グリーン・シップ』」

 

 振り払うように、爆豪君は自分の左手に『資格』を持ち上げた。

 

「うん、そうだったね。ありがとう、『シンガー・ボマー』」

 

 デク君も、資格を手に持って見つめた。

 

「行くぞ」

 

「うん」

 

「あの人の最後の花道だ、かっこわるい姿、見せんなよ」

 

「当たり前じゃないか」

 

 そう言って二人は、オールマイトとオール・フォー・ワンの方へと駆け出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後の歴史においても、今回のような戦闘は起きたことはなかった。

 

 ヴィラン連合対ヒーロー連合対第三勢力対オール・フォー・ワン。複数の存在が入り乱れる中で、たった一人で多数を圧倒した巨悪というのは、後にも先にもオール・フォー・ワンだけ。

 

 彼は、彼が語った通りに最後の障害(ラスボス)だった。

 

「届かせる!!」

 

「届くわけがないよね?!」

 

 オールマイトの拳を、自らの拳でたたき落とし。

 

「燃え尽きろ!」

 

「君がね!」

 

 エンデヴァーの炎を、蒼い炎で巻き返す。

 

 戦闘は長引く、時間だけが過ぎていく中で、オール・フォー・ワンに有効打は与えられない。

 

 艦娘も入り乱れての戦闘であっても、一歩も引かない。相手が複数であっても、真っ正面から打ち砕く。

 

 その姿、たち振る舞いは、彼の思想とはまったく別のものに見えた。

 

 誰かが小さく告げた、まるで彼は『ヒーロー』みたいだ、と。

 

 やがて民間人の退避が完了、会場内にはオール・フォー・ワンと相対する四人のヒーロー、そして一郎率いる鎮守府勢力のみとなった。

 

「フフフ、ようやくかな。ようやく、全力でやれそうだ」

 

「周りの被害を考えていたような物言いだな!」 

 

「当たり前じゃないか、オールマイト。私は巨悪でありラスボスではあるけどね、『殺戮者』ではないんだよ。それにね」

 

 気配が変わる。滲み出るように圧力を増すオール・フォー・ワンに、周囲を囲んでいた全員が気合を入れ直す。

 

「私の怖さを広める人々は多いほうがいいだろう?」

 

 暴風が周囲を薙ぎ払った。防御も回避もできずに飛ばされるヒーローと艦娘達、同時にアインズが結界の密度を上げるも一瞬で崩壊。 

 

「まったくさ!」

 

「なんて威力ですか?!」

 

 空かさずソープとエルが結界の外側に防壁展開。外へと広がる威力を封殺した。

 

「久しぶりに、全力となったわけだが、まだ立てるかね?」

 

 満身創痍だった。正直に言って、オールマイトもエンデヴァーも、先ほどの一撃で立っているのもやっとになってしまった。 

 

 デクと爆豪は艤装とコスチュームのおかげでまだ動けるが、先ほどまでの攻防が出来るかと言われたら、素直に首を振るしかない。

 

 艦娘の方も同じか。艤装が大破状態の子が何人か。無傷なのは、吹雪とエンタープライズのみ。

 

「さすが切り札の子は護りきったみたいだね」

 

「貴方の『個性』は私が必ず殺します」

 

「私とオールマイトの、二つを同時に? どうやってかね?」

 

 ニヤリと笑うオール・フォー・ワンに、吹雪は言葉に詰まる。ほぼ同時に殺しきる自信は、ある。しかしそれは二人の距離が五メートル以内にある時のみだ。それ以上に離れると、同時には無理だというしかない。

 

 きっとそれはオール・フォー・ワンも察している。先ほどまでの立ち回りで、吹雪の近場にいる時は、オールマイトが離れている時のみ。

 

 やり難い、個人の能力が高いのに、戦いの組み立て方も一流。さすが、今までヒーロー達を相手にしてきた巨悪。

 

「エンデヴァー」

 

 そっとオールマイトは、自分の隣に立つ仲間の名を呼ぶ。

 

「なんだ?」

 

 エンデヴァーが顔を向けると、オールマイトが真っ直ぐ見詰めてきた。

 

 言葉はなかったのに、エンデヴァーは彼が何を言いたいか不思議と解った。

 

「頼めるか?」

 

「当たり前だ」

 

「では、頼む」

 

「おう!!!」

 

 炎が立ち上った。炎が燃えるでななく、猛々しく吠えるような。そんな炎の渦が『オールマイトの背中で炸裂』した。

 

「な?!」

 

「オール・フォー・ワン!!」

 

 砲弾のように弾き飛ばされたオールマイトは、そのまま唖然としているオール・フォー・ワンに飛びついた。

 

「今こそおまえと私の因縁を断つ!」

 

「まさかそんな方法で来るとはね?!」

 

「今だ!!」

 

 チャンスを逃すことはなく、吹雪は速やかに二人の個性を殺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の中から何かが失われていくのを感じた。

 

 オールマイトは、目の前で倒れていくオール・フォー・ワンを見ながら、視界が徐々に別の何かを映していくのを感じていた。

 

 お師匠、それと影のように並び立つかつての『ワン・フォー・オール』継承者たち。

 

 すみません、けれどこれでよかったんですよね。

 

 心の中で語りかけると、歴代の継承者たちは微笑んだ後に首を振った。

 

 違うのか、間違っていたのか。やはり、こんなことでワン・フォー・オールを失うのは自分の身勝手だったのか。

 

 小さく悔やむオールマイトの視界で、継承者たちはゆっくりと指をさす。

 

 『まだ終わりじゃないだろ?』。

 

 確かに聞こえた声と、小さく背中を押した感触でオールマイトは前を向いた。

 

「まだだぁぁ!! 私はまだ終われない! 終わるわけにはいかないんだ!!」

 

 オール・フォー・ワンが大地を踏みしめる。踏んばるように足を突き出し、その拳を握り締める。

 

 相手は複数の個性持ち、自分とは違い個性が消えるまで時間がかかるか。

 

 攻撃が来る、そしてその攻撃を防ぐのは今の自分では不可能だ。個性を失った自分に何ができる。 

 

 限界だ、もう力がな。

 

 『限界だぁって感じたら、思い出せ。自分の原点、オリジンって奴をさ』。

 

 グッと背中を押された。声が全身に廻り力を湧きあがらせる。そうだ、とオールマイトは両足を踏みしめ、腰に力を入れた。

 

「私もだ! 私もまだまだ終われない!」

 

 拳を握る、両足を踏みしめる。十分に力を込めての一撃、最後の最後の一撃。 

 

 自分のオリジンを胸に抱きながら拳を握るオールマイトの背中に、多くの人の影が浮かぶ。今まで彼が救った人たち、今まで彼が救えなかった人たち、その想いの欠片が、オールマイトの全身を突き動かす。 

 

 そして、その背中をそっと押す、『志村・転狐』の想いも。

 

 だから、さらだ、オール・フォー・ワン。

 

「UMITED STATES OF SMASH!!!」

 

 オールマイトとしての最後の一撃、渾身のラストSMASH。 

 

 さらばだ、ワン・フォー・オール。

 

 全身全霊をかけた一撃は、確かに彼を叩き伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終わる、もう欠片も残っていない力。全身が痛みを訴え、崩れ落ちるしか許されないような感覚の中。

 

 オール・フォー・ワンはオールマイトの背中に見える多くの人達が、笑顔で前を向いているのを見ていた。

 

 ヒーローとは苦難に立ち向かう、多くの絶望と悲劇を前にしても諦めずに進む存在。その姿は、涙を流し苦しむ人たちに勇気を与えてくれる。

 

 そうか、と彼は思い、同時に『まだだ』と叫んでいた。

 

「おまえがそう背負うならば!」

 

 力など入らなくてもいい。

 

「おまえがそうであるならば!!!」

 

 全身が崩れようとも構わない。

 

 オール・フォー・ワンは両足を砕けんばかりに、大地に突き刺した。

 

「私は、絶対に倒れるわけにはいかない!!」

 

 気概を吐き、気合いを叩きつけるオール・フォー・ワンの背中に、多くの人が浮かんでいた。

 

 泣いている人、苦しんでいる人、誰もが過去の辛いことのために、暗い顔をしていた。

 

 オール・フォー・ワンとワン・フォー・オールは確かに二つで一つだった、けれどその方向性はまったく違うものだった。

 

 片方は喜びや楽しさに、もう一方は悲しみや苦しみに。

 

 まるで人間のように、二つの側面を持った力は、本来なら一つであったものが二つに分かれて、こうしてここに存在していた。

 

 オールマイトは彼の背中の人たちを見つめ、そして自分がまったく動けないことを知りながらも、何処か晴れやかに笑った。

 

「ああ、そうだったな。だからこそ」

 

 オールマイトの手がゆっくりと上がり、指差す。

 

「次は君たちの番だ」

 

 瞬間、オールマイトの背中から飛び出す影が二つ。

 

「その絶望は!!」

 

「その苦しみは!!」

 

 拳を握った二人の姿に、オール・フォー・ワンは驚きながらも何処か『良かった』と感じていた。

 

俺/僕が砕く!

 

 二人のヒーローの一撃は、巨悪が集めた人々の絶望を砕いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テレビモニターを見ていた人達は、オールマイトが崩れる姿に嘆いた。

 

 けれど、その後に映し出された二人のヒーローの姿を見て、嘆いていた顔をあげて見つめる。

 

 そこにいる、絶望を砕いて祓う(人々の自由を護る)ヒーローの姿を見るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

 




 頑張ったと思います。出来るだけ、詰め込んだかなぁって感じです。

 そんな風味ですのでご容赦を。






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