強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』 作:サルスベリ
長らくお付き合いいただき、ありがとうございます。
一応、本筋といいますか、本編といっていいのか解りませんが。
最終話という風味の話になっています。
長い長い、戦いが終わった。
とても一言で片づけられないけど、とても長い戦いだった。
彼が始めたことが、ここでようやく終わりを告げた。
考えてみれば、最初の始まりは彼だった。
彼が願ったこと、彼が思ったこと。その結果、今の世界が作られ成長したとしたら、彼は間違いなくこの世界にとっての始まりの『ヒーロー』だったのではないだろうか。
オール・フォー・ワンは巨悪だった。確かにやってきたことは褒められるものじゃない。けれど、彼が始めたからこそ今の社会が作られたとしたら。
もしも、彼が弟に能力を与えなければ、どうなっていたか。
ワン・フォー・オールが生まれなかった世界、オールマイトが立たなかった混迷の時代、そう考えると彼はある意味で、『ヒーロー』と呼べるのでないだろうか。
「先輩、何を書いているんですか? 明日の朝刊の記事、終わったんですか?」
「ん、いやちょっと私的なメモを取っていただけだよ。俺って、すぐに忘れるからさ」
「そうなんですか」
後輩の言葉に頷いて、彼はパソコンを閉じた。
あの悪夢の似た雄英の襲撃事件後、色々なことが起きた。
まず最初に雄英の上層部が世間から叩かれた。何故、行ったのか、どうして体育祭を開催したのか。
それに対して、教師陣は誰もが逃げず真っ直ぐ誠実に答え続けた。
守るべき子供たちの未来と、何よりその自由を奪いたくなかった、と。
嘘も虚言も交えない返答は次第に世間に広がって行き、やがて雄英に対しての批判は少なくなっていった。
同時に持ちあがったのが、オールマイトの引退、及びその後を継いだナンバーワン・ヒーロー、『エンデヴァー』の話題。
彼はオールマイトのようなナンバーワンではなかった。彼のように真っ先に飛び出し、誰よりも速く駆け付けるわけでもなく。
「行くぞおまえら!」
「オー!!!」
常に仲間を引き連れ、その先頭に立ち事件現場へと突撃していった。
たった一人の孤高ではなく、多くの者の先頭を走って行く姿は、世間では『オールマイトより弱い』とみられていたが、次第にその背中を追いかけるように、惹かれるように人気が高まって行き、やがて『ナンバーワン』と誰からも認められるようになった。
「エンデヴァー、貴方はどうしてそんなに強くいられるのですか?」
ある日、雑誌の取材に応じた彼に対して、記者はそんな質問を投げた。
「昔の俺を知らないのか?」
「いえ、知っていますが。あれが幻だったように思えます」
「そうか。ならば、答えてやろう。今の俺は、俺だけじゃない『あいつ』の意思を受け継いでいるからな」
フッと笑う男に、昔のすべてを憎むような面影はなかった。
「オールマイトの、ですか?」
「ああ、そうだ。それだけじゃない、人を救いたい、多くの人の自由を護る、そんなヒーロー達の意思が、俺の中で燃えている。だから、強く在れる。ただそれだけだ」
炎を燃やし語る彼の言葉は、何処までも熱くて何処までも心を燃やしてくる。彼がいてくれるなら、怖いものはないと思えるほどに。
「では、最後に、貴方は『グリーン・シップ』、『シンガー・ボマー』とお知り合いだと伺いました。紹介していただけませんか?」
「なるほどな。だが、断らせてもらおう」
「どうして、と質問しても?」
てっきり二人を紹介してくれると考えていた記者に対して、エンデヴァーは軽く首を振り口を開く。
「あいつらはな、まだ学生だ」
「はい、解っています。それでも」
「そして、一流のヒーローだ。きっとインタビューを受けるより、助けての声に答えることを優先するだろう」
「そうですか」
「残念そうだが、あいつらへのインタビューを企画しているなら、最高の場を知っているぞ」
「それは何処ですか?」
驚いて問いかける記者に対して、エンデヴァーはちょっと悪戯っぽく告げた。
「助けてと声がしたところへ行け、そこに最高に輝いている奴らがいる。あいつらの活躍を見れば、後は言葉など無用だろう?」
「ああ、確かに」
記者は納得したように笑った。
今日も彼らは動きだす。
「おい! 緑谷! 爆豪!!」
「先生すみません!」
「後で補習でもしてくれよ!」
走り去っていく背中を見送りながら、相澤は深くため息をついた。
あの事件後、授業を真面目に受けていた二人は、こうして授業を抜け出すことが多くなった。
「焦っているのか、あいつら」
「先生、俺もいいか?」
「おい、おまえな」
轟の発言に困った顔を向けた相澤は、クラス全員が同じ顔をしているのに気づく、小さく嘆息する。
「馬鹿なことを言っているな、おまえらはまだ学生だ。いいから授業を受けろ」
「でもよ! 爆豪と緑谷はいいのかよ?!」
切島の発言に、クラスメートたちはそうだそうだと大合唱。自分達も行きたい、助けての声に答えたい。
あの事件を目の当たりにして、体全体で意思と理想のぶつかり合いを見た全員が、心の底から『ヒーロー』になりたいと叫び続けていた。
「あの二人の学力に追いつけるのか?」
途端に、誰もが顔を反らして声が消えた。
「あの二人の実力に追いつけたのか?」
誰もが頷かない。視線を反らし、それでもと顔を上げた生徒達を見つめながら、相澤は笑顔で迎え撃った。
「安心しろ、お前達は必ずヒーローにしてやる。あの二人に負けないくらいのヒーローにな。だから、今は学べ。知識をつけろ、個性を磨け、技術を身につけろ」
相澤は口で否定し態度で駄目だと告げながら、表情はとても晴れやかで嬉しそうに笑っていた。
「あの二人に追いつけるように、俺達教師が徹底的に鍛え上げてやる。だから今は授業を受けろ、解ったな有精卵ども」
「はい!!」
「なら、教科書を開け。言っておくが、あの二人は、先日のMIT試験と東大の試験、全教科で満点を叩きだしたからな」
蛇足のように二人の実力の高さを叩きつけると、誰もが蒼白になって項垂れたのだが。
追いかけろ、と相澤は無言で告げる。あの二人は間違いなく、ヒーローの頂点を目指して駆けあがっている。ならば、その背中を目指して追いかけて、追い抜いて行け、と。
その先に、誰もが憧れるヒーローの姿があるのだから、と。
無言のエールを送りながらも、彼は今日も教鞭をとる。
そして、クラスメートたち、あるいは全国のヒーローアカデミアの生徒達が目指す二人は。
「デク!」
「二百メートル先、火災に巻き込まれた人たちがいる!」
「そっちは俺が何とかする! おまえは火元を消せ!」
「うんかっちゃん! 任せた!」
「おまえこそしくじるなよ!」
二人して同時に分かれ、ヒーローとしての姿を身に纏う。
以前よりもしっくりと体に馴染むそれは、今では重石でもあった。
あの時、最後の一撃をオールマイトから譲られたから。巨悪を倒し、その理想と願いを砕いたから、だからこそ今の自分達は一歩でも退かない。
絶望も悲しみもない、誰もが平等に笑って過ごせる世界のために。
理想すぎるか、いいや理想は高い方がいい。叶えられないかもしれない、でも自分達は絶対に諦めない。
最初の時、誰もが諦めた巨悪に対して、立ち向かった最初のヒーローのように。
混迷の時代にあっても、ヴィランに対して闘い抜いたヒーロー達のように。
そして、自分達のようにヒーローに憧れて、その背中を追う人達のために。
「次だデク!」
「うん、かっちゃん!」
足を止めずに前に進もう。
振り返ることもある、辛くて立ち止まることもあるかもしれない。
それでも、前に前に。ただその先へ。
最初のヒーローが胸に抱いた想いを、その意思を受け継いで未来へ、その先に待っているヒーローに渡すために。
受け継がれるのだから。
そして、時は流れて。
『今日のゲストは、噂のナンバーワン・ヒーロー! 多くを救い、多くのヴィランも救ってきた不屈の超人! 『ノービス』です!』
『いや、そんな恥ずかしいですよ』
『いえいえ、歴代最高と呼ばれる貴方を招いて番組を始められるなんて、こんなに光栄なことはありません』
『歴代最高、ですか?』
『そうですよ。貴方ほど強いヒーローはいないでしょう?』
『いいえ、違いますよ。俺は、『
『ええ。そんなことないでしょう?』
キャスターの返答に、彼は一冊の本をテーブルの上に置く。
『これは?』
『古い友人からもらったものです。これが俺の原点であり、オリジンです。彼らに比べたら、俺なんて未熟者ですから』
『そうなんですか』
キャスターが手に持った本を開く。カメラの画面には、そこにある古ぼけた写真を次々に移していった。
混迷の時代を切り開いたオールマイト。
ヒーローの心に炎をともしたエンデヴァー。
『ああ、知っていますよ。伝説のヒーローですよね』
『はい、そうです。その背中を追い掛けて、俺はヒーローになりました』
彼は常に余裕を持って、優雅に振る舞ったヒーローだった。けど、今の彼は何処か少年のように憧憬を持って本を見つめていた。
『なるほど。では、ここで少し意地悪な質問をしてもいいですか?』
『意地悪かぁ、ちょっと怖いですね。どうぞ』
『では、『貴方にとって最高のヒーロー』って誰ですか?』
先ほどまで笑っていたキャスターが、笑顔を消して真顔で問いかける。
対して、ノービスも真顔になりゆっくりと瞳を閉じた。
『俺は実は、三・・いえ二人、どうしてもそうなりたいってヒーローがいます』
『お、噂のノービスを育てたヒーローですね? 誰も名前を知らないヒーローの名前、ついに公開ですか?』
『はい、俺の戦闘技術、俺の知識、俺の精神、いやノービスってヒーローを鍛え上げてくれた、最高のヒーロー達です』
憧れた少年の顔から、青年の顔へ。彼は語りながらも、昔を懐かしむようにゆっくりと告げた。
『グリーン・シップ』。
『シンガー・ボマー』。
『俺の中で、最高のヒーローですよ』
そう笑う彼は、再び少年の顔に戻っていた。
憧れて、手を伸ばして求めて、その背中を必死に追いかけていた頃に。
インタビューが終わり、機材の片づけを始めたスタッフの中、現場へ戻ろうと歩きだしたノービスを、先ほどのキャスターが呼び止めた。
「さっき、三人っていいかけましたよね?」
「気づかれちゃいましたか。あと一人は、話だけ聞いていて会ったことないんです」
「なるほど。でも言わなかったのは?」
「ヴィランだったんです。それも、史上最悪の」
その言葉で、キャスターは誰もことか解った。
「オール・フォー・ワン」
「ええ。あの人のやったことは、確かに悪ですし許せないものでした。でも、理想のために、ただ一人であっても強く高く、多くの人のことを考えていた人はいない。そういった意味で、『ヒーロー』ではなかったかな、と」
すみませんと謝るノービスに対して、キャスターは首を振った。
「いえ、私もそう感じることがありますよ。ということは、貴方もあの『本』を?」
「貴方もでしたか。はい、持っています」
「彼は許せない、最大級の犯罪者です。でも、その姿勢は立派なものだった」
「私は、ああなりたい。誰に言われても、誰が攻めてきても絶対に揺るがない、最後の最後まで諦めず立ち向かうヒーローに」
「そうですか。私も立場は違えど、同じ気持ちです。真実を、人々の自由のためにこれを選んだ」
キャスターはそっとマイクを持ち上げる。
「お互い、道は違いますけど、その志は同じ、ですね」
ノービスはそう告げて、手を差し出す。
「はい、同じ志を持った者同士、頑張りましょう」
「ええ。そういえばあの本に、書かれていたこと、覚えていますか?」
「最後の一文ですよね? 私も好きなんですよ」
「私もですよ」
そう言い合って、二人は笑いながら、同じ言葉を告げた。
お付き合いいただき、ありがとうございます。
これにて最終話とさせていただきます。
サルスベリの突拍子もないヒーローアカデミア、これにて終幕です。
後は話の流れ的に入れられなかった話、ネタだけある話を入れていくのみとなります。
完全ギャグ、ぶっ飛びハイウェイをさらに飛んで行く、裏も伏線も、そんなのなしな話になりますので、どうかご容赦を。
ここからあとがきに変えての話です。
元々、サルスベリが好きなのは、『仮面ライダー』でした。
ヒーローと聞いて仮面ライダーと答えるか、あるいは水戸黄門、大岡越前って答えるくらいなのが、サルスベリです。
嵐のように現れて、敵を倒して、嵐のように去っていく。
『仮面ライダーをつくった男たち』は、名作だと思います。2011年のほうがサルスベリは好きです。
だから、作中にはところどころに仮面ライダー的なものが入っているのは、どうか見逃してください。
ある人が言っていた、『俺達は正義のために戦っているんじゃない、人間の自由のために戦っているんだ』は、震えが来るほど興奮しました。
正義なんて曖昧だし、味方とか状況によって変わるから。
だから自由のために戦うヒーロー、そういうことでこの作品は始まったかもしれません。
カッコよく言ってみましたが、頭空っぽなのは本当ですよ。本当に一話目と最終話を書いて、後はその場のノリで! 的は話で行きました。
長々となってしまいましたが、お付き合いいただきありがとうございます。
蛇足的は話が入りますが、これにてサルスベリのヒロアカ三作目を終わりとさせていただきます。
読んでいただき、ありがとうございます。
最後の没ネタ最終話の内容だけ。
オール・フォー・ワン、オールマイトを倒すことを考えて、考えすぎて、一日中オールマイトのことを考えて、弔に言われて自覚する。
「おまえ、それは愛じゃないか?」
「なるほど!!! これが愛か?! オールマイト! 私はおまえが欲しいぃぃぃぃぃ!!!!」
「来るなオール・フォー・ワン! 私はぁぁぁぁ!!」
「さあ私と一緒になろう(深い意味で)」
「止めろぉぉぉ!!」
オール・フォー・ワン、オールマイトにラブ・アタック。
その後、長い間の追いかけっこの終わりに、二人そろって天寿を全う。
「オールマイト、愛しているよ」
「止めてくれ」
寿命を迎え、隣同士のベッドで永眠す。
よっしゃぁ、次はギャグに行ける! ギャグだギャグだ!