強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』 作:サルスベリ
というわけで、真面目は何処かへ逃げ出して、やりたい放題な話になりました。
今回の話は、前話の数年後の話風味を装っています。
悪い知らせ、不幸の便り、そして世界の絶望を望んで終わる
その日、治崎・廻は絶望を知った。
「あのね」
長い間、見守ってきた少女は立派に成長を遂げた。
「話があるの」
女性になる一歩前という危うい雰囲気のある、十六歳の少女となったエリの話に耳を傾けながら、廻は心の中で思う。
うちのエリちゃん、天使じゃなくなった。
まさに女神。
「私ね、好きな人がいるの」
瞬間、彼女の言葉を脳が拒否した。
いったい、どうしたことか、何時も彼女の言葉は真っ先に聞き、素直に答え、時には厳しく叱ったりもしたというのに。
「なんだって?」
廻は手に取っていた、作りかけのサマードレスを作業台に置いて、きょとんとした顔をエリへと向ける。
「だからね!」
しかし、エリは質問に答えずその先を口にした。
「その人と結婚したいの!」
真っ赤な顔で告げるエリを見つめ、『ああ、今日もうちの女神は可愛い』と感じながら、廻の脳は別のことを考えていた。
よし、そいつを殺して世界を滅ぼそう。
穏やかな午後の昼下がり。
今日も平和な一日だな、と死柄木・弔は思っていた。
「我が師よぉぉぉぉぉ!!!」
「平和って尊いな」
店のドアを蹴り破って入ってきた廻を見ながら、弔は誰もが一度は思うことを口にしたのでした。
「廻、おまえはドアを蹴破るのが趣味か、と一郎なら言っているな」
「趣味ではない、生き様だ」
「もっと悪いわ。それで、何の用だ?」
「は?! 我が師は何処に? 非常に可及的重要かつ、危機的状況なのです」
ビシッとスーツを纏い、一流の商社マンのような雰囲気と冷静な顔をしながら、言っていることが意味不明な暴走馬鹿を見ながら、弔は呆れながらも答えてやることにした。
「一郎なら、今日はいないぞ」
「ガッデム!!!!」
見事に崩れた廻に、本当にこいつは今では大派閥となった『鎮守府連合』の幹部の一人か、と思ってしまう。
弔もその一人だが、同じ幹部として情けないと思うべきか、それとも真っ先に最前線に飛び込む猛者の『弾丸グラップラー』の治崎・廻とは、別人と割り切るべきか。
小さな疑問を感じる弔の前で、廻は崩れ落ちたまま拳を床につきたてた。
あ、床が壊れたな。後で修理させればいいか、と弔はのんびりと思っていたという。
「なんということだ。私はどうしてこう間が悪いのか。先日のヴィラン連合・矢じり会との戦闘もそうだった」
「そうだな、おまえは『ヴィラン連合とヒーロー対決ショー』を、本気の抗争と思って突撃していったな」
「いや! 違うな、あの時ではない。悔やまれるのは、保育園への制服の一件だろうか」
「ああ、あの一郎に話が来たから、幹部会でどうするって話をしていた途中で、軍服のような園児服を作って持って行った件か?」
「私はどうしてこう間が悪いのか」
嘆き悲しみ、慟哭を噛みしめながら立ち上がる廻を、弔は半眼で見つめる。
思えば自分も丸くなったな、と思いながら。昔なら真っ先に潰していないか、あるいは崩壊させてすっきりとか。
「ク! それで我が師は?」
「今日はイヨの中学校の下見だそうだ」
「は?! そんな、馬鹿な」
再び廻が崩れ落ちる。失態だ、どうして忘れていたと。
「我が師のご息女の大切な日を忘れるとは。何たることだ」
「いや、ただ公立じゃなく私立がいい、制服可愛いところがいいって、我がまま言っているだけだからな」
「スケジュールを確認しない私が悪いのか?! 秘書をつければいいのか?!」
「おまえ、秘書を徹底的に『グラップラー』に鍛えるから、幹部会から『もうつけない』って言われてるだろうが。俺達は武闘集団じゃないんだぞ」
「いやそれよりも携帯端末を持てば!」
「先日、エルとソープが『絶対壊れない端末』を作ったのに、二秒で砕いたおまえが、どんな端末を持てるっていうんだ?」
「私はどうすれいい弔?!」
「いいから人の話を聞け」
喜劇のように、舞台の役者のように、一つ一つの動作が大げさな廻に、弔は盛大に溜息をついたのでした。
「あら、廻さん、いらっしゃい」
「お久しぶりです、百夫人」
「今日はどうなさったのですか?」
騒ぎを聞きつけたか、あるいは丁度よく戻れたのか、店の入り口から入ってきた死柄木・百(旧姓、八百万)は、笑顔で廻に挨拶した。
店の入り口が完全に壊れていることに気付きながらも、何時ものことを微笑んで流す妻の姿に、弔は『こいつも染まったな』と感心してしまう。
「そうでした!!」
ようやく本題を思い出したか。弔はそう思いながらも姿勢を正す。
「実はエリが好きな人ができたので結婚したいと言い出しました」
「・・・・・よし、そいつを殺そう」
「核弾頭、今の私なら創造が可能でしてよ」
ほんわか空気から一転、店内には殺気が満ちたのでした。
死穢八斎會が一郎達の派閥に下ってから。いや、無理やりに入ってから。まった、あれは取りこんでの方がいいか。
とにかく、彼らが鎮守府と行動を共にするようになってから、エリはこの店にもよく訪れるようになっていた。
可愛い天使、最初は戸惑っていたが周りの優しさに触れ、暖かさに触れてよく話すようになった彼女を、見守り続けた。
見守って、願いを叶えて、間違っていたら叱って。誰もが彼女の親のようにふるまい、彼女を慈しみ育てた。
結果、エリちゃん
「事態は由々しきところまで進んでいます」
「ああ、解っている」
凄みのある笑みを浮かべた廻の言葉に、同じように殺気を滲ませた弔が答える。
まさか、まさかだ。あの蝶よ、花よと育ててきたエリにそんな悪い虫がつくことになるとは。
「廻、おまえは何を見ていた?」
「申し開きもありません。エリにそんな相手がいるなど、私の情報網に引っかかることはなく」
「おまえ、本当に何を見ていたんだ。幹部会での報告にはなかったぞ」
「見落としていたとしか」
肩を落とし、絞り出すように告げる廻の胸倉を弔は掴んだ。
「見落としていた? おまえ、本当に死にたいのか? それで許されると思っていないか?」
「私とて!」
廻は弔の手を弾き、直立不動で睨みつける。
「そんなことで我が罪が許されるなど思っていない」
「なら、どう責任をとる?」
きつい口調の言葉に、廻は黙って拳を握る。
どうすればいい、どう対応すればいいか。二人の男は悩みに悩み、結論を出せないまま固まっていた。
一方、百はというと。
「幹部会の招集もありえるか、と」
『心得た。では、私が動こう』
「いえ、相談役はそのままでお願いします。貴方が動くと世間的に、色々と問題があります」
『ふむ、では何かあったら連絡を望む。頼むぞ』
「はい、では」
通信を閉じて、百は未だに固まっている二人を見つめ、両手を叩いた。
「はい! このお話は一郎さんにしてから、というのはいかがですか?」
「そうだな。廻、おまえの処分はその時にだ」
「解りました。御配慮、ありがたく」
チッと舌打ちする弔と、ギュッと拳を握り一礼する廻。それを横から見ながら百は思う。
『でも、今回の話を進めないとエリちゃんは結婚も恋愛もできないのでは?』と。
「ふむ、厄介なことにならなければいいが」
締め切った部屋の中、薄闇の中で通信端末を置いた彼は、深くイスに腰掛けた。材質からこだわった一品は、今まで全身を優しく包んで癒してくれたのだが、今日は違和感を覚えてしまう。
「私の方から一報を入れるべきか、あるいは」
しばらく悩んだ彼は、すでに何度も押して慣れた番号へと連絡を入れる。
「すまない、少し厄介事だ、力を借りられるか?」
『・・・・・・何時も、何時も思うのだが、我々は盛大に戦った仲ではないか?』
相手から、とても苦々しい返答が来たのだが、それならば通信にでなければいいのではと思うが、彼は一度たりとも通信に応じなかったことはない。
「フフフ、いいじゃないか、それはそれ、これはこれだ。君こそ、一郎君の提案を受けた、ということは君も『愉悦部』に染まったということだろう?」
『昔の私なら『貴様なんぞに!』と言っているところだろうが、年をとったものだな』
「お互いに、ということだろう。では、もしもの時は頼めるかな『オールマイト』?」
『解った、私も酔った勢いとはいえ、参加してしまった責任と義務がある。承った、『オール・フォー・ワン』』
「その名前は捨てたはずだよ。今の私は、『フィクサー』さ」
『いやそれは完全に前のおまえではないか?! 最初に偽名を知った時の私の気持ちが解るか?!』
「いいじゃないか。黒幕として世界を見つめたいのさ。中学生に戻ったみたいに」
『おまえの立場でやったらまずいことを解ってくれないか?! 一応でも、鎮守府連合の相談役だからな!』
「いいね、いいね、昔と変わらない気概じゃないか、オールマイト」
『また殴ってやろうか! オール・フォー・ワン!』
「もう老人に対して、何たる仕打ち。君は雄英の校長になって、丸くなったではないのかね?」
『今も職員会議の真っ最中だ!!!』
「それは失敬。では」
相手が何か叫んでいるが、彼は無言で電話を切る。会議は邪魔しては駄目だ、何があっても。
「さてさて、今回はどうなることやら。ム! こんな時間ではないか」
時計を不意に眺めて、彼はテレビをつける。
『それいけ! ア●パ●マン!!』
「フ、やはりいい作品だ。転生者の知識を奪い、作成しただけはある。やはり、和気あいあいとした姿こそ子供たちのためになる」
ニヤリと笑う彼は、その後も子供向け番組を見続けたのでした。
引退した元凶悪のおじいちゃんは、今日も元気に黒幕みたいなことで愉悦しています。
どうも、田中・一郎です。
現在、俺はエリちゃんの相談を受けています。
「なんだか血相を変えて、飛びだしていっちゃたの」
「ええ、廻おじさんってそうなの?」
相談を受けているはずなんだけど、うちの娘と話しこんじゃって。でも、内容的には、どっちもどっちかなぁって思うんだよね。
「イヨ、エリちゃんはお父さんに相談に来たのよ」
ヒミコちゃん、いいんじゃないの。って思って顔を見ると、『話が進みませんよ』って返されたよ。まあ、確かに。
「は~~い、お母さん。でもでも、私もちょっと解るなぁって」
「私も解る」
「お姉ちゃんもだって」
いや、カグヤの解るはまったく違う方向を向いてないか。
「奪ってくれるくらいが男らしい」
キラリって瞳を輝かせて言うか、うちの長女様は。なんだろう、俺と同じ黒髪なのに、瞳がヒミコちゃん似だから凄い可愛いけど、凄味がある時があるんだよな。
「一郎君」
小声で注意が入りました。
「おい、タケル。おまえの妹達、どうにかしろ」
「父さんの娘だろ、何とかしてくれよ」
まったく別のテーブルに座った長男に話を振ったら、真っ先に否定しやがったよ、こいつ。
「それで、エリちゃんはどうしたいの?」
さっすがヒミコちゃん、頼りになる。そうだ、まずはエリちゃんがどうしたいか、をね。
「私はやっぱり逝ってきます」
「え?」
決意した少女は、そのまま駆け出して行った。
「今さ、いってきますのニュアンスが違ってなかった?」
「頑張れエリちゃん!」
「負けるなエリちゃん!」
「いいぞエリちゃん!」
「なあ、タケル、うちの女性ってどうしてこう、熱くなると人の話を聞かないんだろうな」
「俺が知るかよ、父さん」
そうだよな。はぁ、エリちゃん、暴走してないといいけど。
そして、舞台は弔のお店へ。
廻が壊して直したばかりのドアをけり破り、エリちゃんは店内へ飛び込んできた。
「治崎・廻さん!!」
「エリ?! おまえはなんという!」
「私と結婚してください!!!」
「は?」
「小さい頃から私を見てくれていた貴方と結婚したいんです! お願いします!」
店内の空気が固まった瞬間でした。
その後、動きだした弔に『おまえを殺せばいいのか?』とニヤニヤと笑いながら言われ、百からは『取り越し苦労でしたわね』と言われ。
「・・・・・・・」
「廻さん!?」
「おい廻! どうした?! 傷は浅いぞ!」
「女の子の告白を受けて答えないまま逝くなんて! 私が許しません!」
燃え尽きたように倒れた廻は、一言だけ告げた。
「我が人生に、一片の悔いなし」
その顔はとても安らかだったという。
こうしてエリちゃんの告白は、意中の人へ届いたのでした。
しかし、その後は大変な混乱だったのです。
治崎・廻対、鎮守府連合幹部会、プラス現役を退いたはずのオールマイト、死んでいたと思われたオール・フォー・ワンの大乱闘。
「エリを嫁にするなら、俺たちくらい倒せるよな?」
元死穢八斎會の親分まで揃った一大馬鹿騒ぎに対して、治崎・廻は不敵に笑ったのでした。
「いいぜ!! 俺の拳を止められるもんなら止めてみろぉぉ!!!」
そしてね。
「あの、一郎さん、お願いしますから」
「本当にあんたんところは、馬鹿騒ぎが好きだよな」
「ごめんなさい」
俺こと田中・一郎は、駆けつけてきたデク君と爆豪君に対して、土下座したのでした。
久しぶりなんで、暴走具合が緩い?
ギャグになってない気がする。
真面目な話ばかり続いたから、ちょっとリハビリをかねて一つ。
いや、だってさ、あんなに小さい頃から護っていたら、惚れるよね?
この世界の女性って、突撃して告白して旦那様をゲットが多いですよ、風味な話になりました。