強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』 作:サルスベリ
書きたくても入れられなかった話も、この話でラストになります。
ネタとしてはあるのですが、とてもじゃないが書けないという結論に達しました。
というわけで、終わり的な風味でお送りします。
現実は小説より奇なり、なんて昔の人は言ったらしい。
「爆豪、CDを出さないかって話が来ているんだが」
「あ?」
寝耳に水か、あるいは馬鹿げた話か。ともかく、爆豪・勝己のところにそんな話が来たのは、あの大決戦が終わってから一か月後のことだった。
不動のナンバーワンが引退。個性を失ってヒーロー活動を休止し、その変わりに燃えるような男、現在一押しの熱血ヒーローとか言われ始めたエンデヴァーがナンバーワンになってから、そんな時間が流れた頃だった。
「相澤先生、病院に行くか?」
素で敬語とか使わずに聞いてくる爆豪に、相澤は首を振ってため息をついた。
「俺は正気だ」
「・・・・・精神系の個性か? チ、デクの奴が今日はいないのが悔やまれるぜ、あいつなら精神系の個性に対してのカウンターがかけられるってのによ。『ちょっとデート』とかふざけやがって。吹雪さんとデートなんて、デートか、デートなぁ。なあ、先生、殺し合いを最近はデートっていうのか?」
「知るか」
「違うか。どちらにしろ、先生にかけられた個性を解くには俺の爆破しかない。宝具は、使ったら相澤先生を消し飛ばしちまう。クッソがぁ、脳細胞の中をミクロン単位での爆破なんて、もっと設備が整ってねぇと無理だ。こんなことなら、アインズさんに『脳細胞内のウィルスを遠隔爆破だ』って訓練の時に、もっとしっかりやっときゃよかったぜ。こんなことに使うなんて考えてなかった、どちらにしてもやるしかねぇ、というわけで先生!」
「待て爆豪! いいから落ち着け! 俺は個性で洗脳されているわけじゃない!」
「個性で洗脳されてないならなんだ?! この学校にも洗脳系の個性持ちはいあるだろうが。いや待った、あいつを呼んでくれば、相殺できないか。やってみる価値はある。先生、そこで待っててくれ」
「俺は正気だ。『シンガー・ボマー』の歌をCDにしたいって話なんだよ」
怒りに震えそうなのをギリギリに抑えた相澤は、何とか言葉を絞り出した。こいつが普段、自分をどう見ているか、後でしっかりと問い詰めるつもりでいるが、今は表に出すことはない。
後日、補習だ、とか思っていることも含めて。
「俺の歌を、CDにしてどうすんだよ? あれか、魔除けか?」
心の底から解ってない顔をする生徒に、確かにと相澤は頷いてしまう。
この歌が聞こえたら、『シンガー・ボマー』がここにいる、誰も近寄るな、ヴィランは特に近づいたら爆破だ、宇宙の彼方まで吹っ飛ばしてやる、なんて言葉が流れてきてもおかしくないだろう。
疲れているのか、と相澤は自分が思いついてしまった、妙な考えを振り払うように口を開いた。
「何処かの音楽会社が聞いて、是非って話だ。今までは『シンガー・ボマー』が捕まらなかったから、話を持って行けなかったらしいがな」
正体不明のヒーロー。ヒーロー委員会でも捕まえられない謎の存在相手に、CD出しませんかなんて言えないか。
爆豪は相澤の説明に納得したように頷いて。
「いや無理だろ」
当然のように断った。
「いい話じゃないか」
「いい話だろうが、何だろうが、俺の歌じゃまだ駄目だ。ロックが足りねぇ、まだまだアインズさんの足元にも及ばないのに、俺がCDなんて出せるかよ」
爆豪は頑なに拒否を重ねた。
彼自身、歌に自信がないわけではないが、目指すべき場所に到達していない以上は、それを売りにすることはしたくない。
もっと先、自分のロックの魂を教えてくれたあの人に、まだまだ追いついていないのだから。
「アインズさんか、そういえば、俺はあの人の歌を聞いたことないな」
ポツリと呟いた相澤に、爆豪の目が怪しく光った。
「そりゃ人生最大の損だぜ先生! あの人の歌を聞いたことがないなんてな!」
「あ、ああ」
普段よりも熱く、普段より激情のように詰め寄る爆豪に、相澤は引いてしまう。そんな先生を逃がさないために、爆豪は相手の襟首を掴みかかり。
「あんなに魂を震わせる音は他にねぇんだ! 聞いていたら自然と体が踊りだす! 理屈なんてどうでもいい! ロックなんだよ!」
「お、おい!」
「心が震える! 魂が燃える! 一度でも聞けばわかるんだよ先生!!」
「だから!!」
「いいから聞いてみろよ!」
「爆豪少年!」
オールマイトの呼びかけに、爆豪はなんだと横を向いた。
「話の内容は解った、解ったんだが、その」
「あ? なんだよ、オールマイト」
「話の内容を聞いてないと、君が相澤君を締め上げているように見える」
「・・・・・」
云われて爆豪は自分の両手を見た。襟首を掴んでいる、確かにこれは不味い。さらに掴んだ両手そのままで、相澤に圧し掛かっている。
自分の姿を客観的にみた爆豪は、その両手を離して真顔になって。
「すみませんでした」
反射的に土下座したのでした。
そんな一悶着が朝からあった日の夕方。
「デク、生きているか?」
「かっちゃん、僕は生きているかな?」
「ああ、おまえはまだ生きてるぜ」
「そっかそうなんだ。うん・・・・・・かっちゃぁぁぁん!!!」
「デクぅぅぅ!!」
「僕はやったよ! やり遂げたよ! 『艤装の扱いが甘い、再訓練』って笑顔でナイフを持っているフル装備の吹雪さん相手に!」
「ああ! あああ!!」
「立ち向かって防いで! 逃げださなかったよ!!」
「すげぇぜデク! おまえはやっぱりすげぇ奴だよ!」
「かっちゃぁぁぁん!!」
「デクぅぅ!!」
なんて叫びながら抱き合う男二人。最近になって噂のヒーローだったことが発覚したクラスメートの奇行に、周りは温かい目を向けるのでした。
「うう、ところでかっちゃん、相澤先生に呼び出されたって聞いたけど?」
無理やりに忘れるために話題を変えるデクに対して、爆豪は盛大に不機嫌な顔を向けた。
「俺の歌をCDにしてぇんだとよ。笑えるだろ?」
「え? あ、そっか。まだアインズさんも出してないからね」
「笑えるぜ」
吐き捨てるように告げる爆豪に、対してデクは大きく頷いた。
爆豪の師匠であるアインズさえCDを出してないのに、その弟子が先に出すなんて。技量で並んでいたり、超えていたりしたなら解るが、未だに辿り着けてない自分が出すなんて、馬鹿馬鹿しいと思っているのだろう。
「え、爆豪! CD出すの?!」
思わず聞いてしまった彼女が、普段とはまったく違う様子で話しかけてきた。
「出すかよ。俺はそんなに歌が上手いわけじゃねぇ」
「いやだって今」
耳郎が手で何かを示そうとしているが、爆豪はそれを読み取らず。
「俺はまだまだなんだよ。そんな半端な奴がCD出すとか、全世界のアーティストに失礼だろうが」
羨ましいとか出したらいいじゃんとか、耳郎が思っていることを爆豪は察していたが、すべて無視して一蹴した。
「いいじゃんか、爆豪、出してみろって。『シンガー・ボマー』の歌なら、俺は欲しいけどな」
上鳴が話に乗ってきて大きく頷いていた。
「アホか。あんなのは『俺が来た』って掛け声と変わらねぇよ。もっと、魂を燃やして震わせる歌じゃなきゃ、ダメだろ」
「相変わらず自己評価が厳し過ぎんだろ。いいじゃんか。出してみろって」
「うるせぇボケ。俺自身が認められねぇんだよ。アインズさんだって、まだ何だし」
「さっきからその『アインズさん』って誰?」
思わず耳郎が聞き返した名前に、爆豪が大きく眼を見開いた。
「嘘だろ、おい。おまえ音楽やってんだろうが!」
「そ、そりゃやってるけどさ」
「なんで知らねぇんだよ! アインズさんだぞ! ロックの伝道師だぞ!」
「え、そこまでの人?」
「当たり前だろうが!」
普段の十倍は怖い顔で言い放つ爆豪に、耳郎と上鳴が少しだけ後ろに下がった。
「アインズさんはな! 絶唱だ、その歌の一つ一つが魂を燃やす、音の一つとっても芸術品だ。クラシックもやれる、ロックもできる。あの人が一人いるだけで、オーケストラだってやれるんだよ。けどな、もっとも熱いのはロックだ。聞いてるだけで体中が熱くなって、心が叫び出して、そして魂が燃えてくる。理屈じゃねぇ、半端じゃねぇんだよ。まさにロック! そういうしかねぇ」
拳を握って力説する爆豪に、聞いていた誰もが思う。
そんな実力者なら、知らないはずがない。きっと爆豪が大げさに言っているだけだろう、と。
「かっちゃん、かっちゃん」
「なんだよ、デク」
「いや皆が解らないって顔しているからさ。聞いてもらった方がいいんじゃないの?」
云われて爆豪が周りを見回し、疑問を浮かべるクラスメートの顔が視界に入ると、速やかに彼はポケットの中から携帯端末を取り出した。
「いいかてめぇら。よく聞けよ。これが」
音楽プレイヤー起動、録音してあるアインズの歌の中でも、爆豪が最も好きな一曲。
『ガイコツが墓場でハートビートブレイクダンス』。
「これがアインズさんの魂のロック・ビートだ!!」
そして流れた爆音が、教室を揺さぶったのでした。
耳郎・響香と上鳴・電気からしてみれば、それは音楽ではなかった。音が奏で、旋律が歌い、声がそっと入ってくる音楽ではない。
音の爆撃。
最初に感じたのは全身を振動させる未知なもの。なんだと疑問を感じる前に、全身を揺さぶる魂の咆哮。
続いて奏でられるギターとドラムの音が、身構えていたはずの体を吹き飛ばす。音楽なんて楽しいものじゃない、全身を貫くような衝撃の後に、それらに負けないほどの声が鳴り響いた。
理屈じゃない。理論じゃない。楽しいとか苦しいとか、そんな感情なんて置き去りにして、ただただ体を動かしたくなる。ジッとしてなんていられない、この爆音のようなものと一緒に、踊って叫んで波に乗りたくなってくる。
心が動けと叫び、魂が弾けろと轟く。
感想なんていらない。
音楽のセンスがどうとか語ることもない。
ただ言えることは、一つだけ。
『これはロックだ』。それだけで十分に、この音楽を語り尽くせる。聞いただけで、ロックだと言える音の爆音に、思わず両手を振り上げた。
見回せばクラスメートたちは誰もが踊っていた。
今が教室、そんなの関係ない。
放課後で先生もまだいる、知ったことか。
自分達は踊りたいから踊る、叫びたいから叫ぶ。こんなロックな音楽を聞いて、ジッと黙っているなんて。
それこそ、音楽への冒涜だから。
「どうだ! これがアインズさんだ!!」
「・・・・・すげぇぇぇぇ!!! 爆豪なんだよそれ?!」
「こんな凄い音楽、初めて聞いたよ!」
「誰の曲!? 何処で売っているの?!」
熱気に包まれたように迫ってくるクラスメートを前に、爆豪はにやりと笑う。
「いいぜ、教えてやる、この人こそな」
彼がその名前を高らかに宣言しようとしたとき、教室のドアが開いた。
「うるさいぞ、お前ら」
「はい、すみません」
先ほどまでの熱気が一気に消えるような、冷たい眼光をした先生がそこにいたのでした。
馬鹿騒ぎが終わった後、帰路についた爆豪は、緑谷を伴って一郎の店へ。
「今日、アインズさんのライブやるって?」
「ああ、新曲があるんだってな。震えるぜ」
楽しそうに笑う爆豪に、緑谷も楽しそうに笑いそうになって、チラリと後ろを見てしまった。
「かっちゃん」
「ああ。出て来いよ」
柱の影に向けて爆豪が鋭く目線を飛ばす。学校から誰かがつけているのは知っていた、偶然かと思っていたがここまで来ると、確実に狙いはどちらかだ。
爆豪か緑谷か、あるいは。
「あ、ごめん」
声に反応して出てきたのは耳郎だった。少し申し訳なさそうな顔の彼女に、二人は『え、何で』と疑問を浮かべてしまう。
「気になってさ。ほら、あんなに凄いロックは聞いたことがないし」
「あ、なら来いよ。今から聞きに行くからな」
「いいの?」
誘われるとは思っていなかった耳郎は、本当にと目線で問いかける。
「いいんだよ。アインズさんの歌はな、たくさんの人を楽しくさせる。だからロックなんだろ?」
ニヤリと笑う爆豪に、そうだねと緑谷は頷いた。
「心臓、ヤベぇーぞ、覚悟しろよ」
「あ、うん」
ドクンと耳郎の心臓が大きく跳ねた。先ほどまでの熱が残っているような、あの魂が揺さぶられる音がまだ耳の中にあったのかもしれない。
「行くぜ、速くしないと始まっちまう」
「そうだね」
爆豪はそう言って歩き出した。緑谷もその後に続いて。
「待ってよ」
耳郎は慌ててその後を追って行ったのでした。
そしてその日、アインズのファンが一人、増えましたとさ。
爆豪・勝己は数年後に思う。
「あったな、そんなこと」
耳郎・響香は数年後に思い出す。
「あれが始まりだったじゃん」
そんなことを言われて、爆豪は飯を食っていた箸を止めた。
「そうだったか?」
「そうだったよ」
正面に座ってご飯を食べていた耳郎は、そう言って嬉しそうに笑った。
「・・・・・・そうかもな」
爆豪はそれに対して、小さく答えて飯の続きを楽しんだのでした。
「次のアインズさんのライブ、行くんでしょ?」
「予定、開けておけよ」
ご飯が終わり、二人は玄関のところでそんなことを言っていた。
「もちろん、開けてあるよ」
「なら楽しもうぜ」
「当然」
そう笑いながら、二人してドアのカギを閉めたのでした。
「まさか、あの二人が同棲するなんて、思わなかったです」
二人の共通の友人、緑谷・出久はそんなことを言いました。
今回の話は、『爆豪、耳郎とロック談義、アインズのライブで同棲を決めました』というネタから発生したものです。
正直、爆豪と耳郎をくっつけるなんて考えはなかったのですが、ロック繋がりで仲良くなったなんて話をよく聞くので、こうなってしまいました。
さて、というわけで。
書きたいネタはまだまだありますが、どうやっても書ききれないので、これにてこのお話は終幕とさせていただきます。
お付き合いいただき、ありがとうございました。