強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』   作:サルスベリ

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 はっちゃけた話ばかり考えていると、凄く真面目な話を考えたくなる、そんな時があります。

 頭空っぽにしてのこの作品でございますが、当初はもっと真面目に考えていたんですよね。

 これがその片鱗ですので、ご容赦を。

 ちなみに、一郎視点ではなく第三者視点です。

 つまり、いつものサルスベリの書き方という風味でお送りします。






彼の終わり、彼の始まり

 

 

 昔を時々は思い出す。

 

 あの日、家族を崩壊させた時のことを。

 

 一郎に会った時のことを。

 

 『・・・・・』が崩れ去って、『死柄木・弔』が始まった日のことを。

 

「そうか、今年も終わるんだな」

 

 弔は窓から見える朝焼けを眺めながら、そう呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人生で最悪の日なんて言葉は、誰もが一度は使ったことがあるだろう。けれど、それが本当になってしまうことなんて、体験したことがある人は少ない。

 

 人生のどん底、世界中が黒く染まって、誰も信じれないような現実を、どうにか受け入れなくちゃいけない。 

 

 大人になった今ならどうにか向き合えることを、当時の『・・・』は受け入れきれず街中を走りまわって、そして路地裏で泣いていた。

 

 家族が目の前で崩れた、大切な何かを失った、心にぽっかりと穴が空いたような、それでいて何を失ったか解らない感覚が全身を貫く。

 

 小さな子供、世界を知らない幼子の当時の自分は、ただ泣くだけで何処へ行くか、何とかしないとなんてと打開策を考える頭なんてなくて。

 

 泣いて苦しんで悲しんで、叫んで鳴いて。

 

 顔を上げたら、あいつがいた。

 

 ごく普通の顔、何処にでもいるような子供が、きょとんとしたまま、手を伸ばして来て。

 

 触るなとか叫んだ気がした。でも、あいつは気にした様子もなく触ってきて、触れてきて、もう誰も傷つけたくなくて拒絶したのに、あいつは平然と俺に触れていた。

 

 手を握って引っ張ってくれて、暗い路地裏から連れ出してくれた。

 

 個性は無差別に使っているはずなのに、あいつが握っている間は何も崩壊しない。誰かに触れたり、ぶつかったりしても、相手が崩れることはなかった。

 

「よっし、ここにするか。さて、住む場所は確保」

 

「廃墟じゃんか」

 

「おう、廃墟だ。でも屋根があってドアがあって壁があるから、大丈夫!」

 

 胸を張って宣言したあいつは、本当に心の底から笑っていた。世間を憎むでもなく、悲しいと叫ぶでもなくだ。

 

 自分と同じ年齢の田中・一郎は、今も昔も変わらずに高らかに笑って自分の前を進んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五歳児が二人だけの生活。今になって思うと、バカなことしたなって思える生活が、長いこと続いていた。

 

 一郎は毎日、何処かに出かけては食料を仕入れてくる。洋服や日常に使う小物なんかを。

 

「これ何処から持ってくるんだ?」

 

「ん、色々なところから。気にすんな、俺は気にしない」

 

 ポーズを決める一郎は、自分で『決まったぜ』とか小さく呟いているが、まったく決まっていない。五歳児が精一杯に手を伸ばして、埠頭に足をかけた海の男らしい格好をしているが、背伸びしているだけのガキにしか見えない。

 

「アホらし」

 

「アホでもなんでも、男ってのは格好つけるもんなんだよ」

 

「そんなもんか」

 

「そんなもんだ。さて、食おうぜ」

 

 一郎は何時だって笑顔で多くを語らない。無視しても、返事をしなくても一人で大声で話しかけて、笑って、怒って、そして最後にはこっちの言葉を引き出していく。

 

 だから、ポツリポツリと語ってしまう。

 

「僕は家族を殺したんだ」

 

「・・・・おう、かなりヘビィな話題が出てきたな」

 

「僕の個性は『崩壊』だから、触った相手を壊しちゃう」

 

「え、俺は?」

 

 驚いて下がる一郎に、きょとんとした顔を返してしまう。何を言っているのか、当時の自分は解らなかったが、今の自分なら解る。

 

 あいつは素で、何の裏側もなく、『え、そんな能力だったの、怖?!』と。

 

「なんで個性がきかないのか解らないけど」

 

「へ、へぇ~~そっか、そっか。大丈夫ならいいや、さあ食べようぜ」

 

 無理やり話題を反らした感じがする一郎に、当時の自分は気づくことなく頷いた。

 

 そんな毎日が流れて行った。

 

 一郎は何時だって生きるのに必要なものを届けてくれた、一年が過ぎて、二年が過ぎても、生活に困らずに暮らせたのは一郎のおかげだ。

 

 笑顔で楽しそうに笑っている一郎に釣られて、自然と笑うようになった。毎日、一郎の話を聞きながら、自分も話せるようになっていった。

 

 笑顔だった、元気だった、だから当時の自分は気づかなかった。一郎が毎日、どうやって食材を持ってきていたのかを。

 

 裏稼業の人たち、命さえ安いものだと考える人たちの使いっパシリ。鉄砲玉のほうが高いような仕事と、自分の命を賭けにして生活に困らないものを手に入れてきてくれた。

 

 知ったのは、三年経ってから。

 

 傷だらけになって倒れるように戻ってきた一郎を見た時に。

 

「一郎!? 何があったんだよ?! どうしたんだよ?!」

 

「いや、ちょっとドジった。ははは、大丈夫、何とかなるさ」

 

「何とかって血がこんなに!」

 

 医者に連れて行かないと死ぬ。子供心に思った瞬間、一郎を支えて立とうとして、足を滑らせた。

 

 八歳の子供が、同じ八歳児を支えるなんて無理だった。生活に困らなかっただけで、体を鍛えられるようなものはなかったから、一郎を支えるなんて無理だった。

 

 どうしよう、何ができる、どうにかしないと。頭の中でグルグルと考えが回るだけで、一歩も動けずに立ち尽くす。

 

 そんな時だ、『あいつ』が来たのは。

 

「君かね、なるほど、二人ともかなり強い個性を持っているようだ」

 

「誰?」

 

「私かね? 私は『オール・フォー・ワン』とでも呼んでもらおうか? 彼を助けるために来た。二人とも辛かっただろう? 怖かっただろう? さあ、私と一緒に行こう」

 

 優しく手を差し伸べてくるあいつを、当時の自分は信じてしまった。一郎が必死に人の優しさを教えてくれたから、この人も信じてもいいのではと思ってしまった。

 

 今になって思えば、あの時に触れて壊したほうが、世界のためだった。あんな奴は存在してちゃいけない。あいつは殺しても足りない、魂さえ消して砕いて、地獄の底で苦しんだ方がいい。

 

 心の底から怒りが湧いてくるほど、憎らしいあいつをこの時の自分は信じてついていってしまった。

 

 『・・・』ではなく、『死柄木・弔』にとって、最初にして最大の罪だ、これが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『オール・フォー・ワン』に連れられて、とある場所に連れて来られて、名前を与えられて、すぐに気付いた。

 

 ここは異常だ。世間に対しての憎しみを植え付ける教育、不満を口にして打開する手段を、自分で生み出すのではなく、世界を壊すために使おうとしている。

 

 そして、何より、『徐々になくなっていく子供たち』。

 

 一郎とはあれっきり会えていない。あいつは『治療しているよ』と答えるだけで、会わせてくれない。

 

 日々、焦燥感が募る。あいつは本当に信じれるのか、何か裏側があるのじゃないか。周りの施設で訓練を重ねながら、次第に嫌な予感が膨れ上がる。

 

「・・・君がいなくなったの」

 

「昨日は・・・ちゃんが奥に連れて行かれたよ」

 

 小耳に挟む話に、ギリっと奥歯を噛んだ。やはり、あいつは信じられない、あいつは何か企んでいる。

 

 一郎を預けていたら、よくないことが起きる。

 

 探さないと。でもどうやって、施設の中を見回すと監視カメラや監視員の姿がある。明らかに外からの侵入者じゃなく、内側からの脱走を警戒している。

 

「一郎に教え込まれた、『簡単軍人マニュアル』役に立つな」

 

 ポツリと呟いて、さあ動くかと考えた瞬間だった。

 

 施設が揺れた。微細にじゃない、細かくじゃない。まるで施設ごと浮かびあがったかのように、吹き飛んだ。

 

「逃げるな! この変態がぁぁぁ!」

 

 叫び声と共に地面を割って出てきたのは恐竜だった。機械で作られた恐竜が両手を上げて何かを追っている。

 

 なんだ、あれは。本当に何が起きているのか。呆けてしまった視界に、三十メートルを超える恐竜の手に乗る、一郎の姿を入ってきた。

 

「子供達に悪戯して何するつもりだてめぇ!」

 

「い、一郎?」

 

「大和! いいから波動砲連射! あいつを消せ!」

 

「はい!」

 

 なんだろう、あの女性は。なんか鋼鉄の塊を纏った女性が、恐竜のいたる所に張り付いているんだけど。

 

 それに、なんだかすっごい異形って姿の連中が足元から湧いているけど、あれも一郎の仲間か。

 

「変態め! イエスロリータ! ノータッチ! この言葉を知らんのか?! イオナ! コンゴウ! 侵食弾頭一斉射! 資材を気にすんな!」

 

「了解」

 

「解った」

 

 なんだか、見える範囲がすべて黒く染まったけど。攻撃なのか、それとも幻なのか。

 

「ふ、ふふふ、いいね、実に興味深い個性だ。君から奪えなかったから、無個性かと思ったら」

 

「奪うってなんだよ!? てめぇは子供なら誰でもいいのかよ?!」

 

「なるほど、『オール・フォー・ワン』で奪えないわけだ。君の個性は、『君の中にない』。それが君の個性の大元か。なるほど、君の体は個性の『出力のみ』を行っているわけか」

 

「わけわかんないことを言うな! 土佐! 信濃! 艦載機発艦!」

 

「オッケー!」

 

「解りました!」

 

「誰が考えたか知らないけど、いい『防御策』だね。これなら、個性を無効化されることも、個性を奪うこともできない。何しろ、田中・一郎には個性がない、でも個性を使える。なるほど、興味深いね」

 

 なんだか、色々なことが起きているな。人間と同じサイズの航空機が、無数に飛び交って爆弾とミサイルを降らせているのを、遠い目で見てしまうくらいに現実離れしていた。

 

「おい」

 

「え?」

 

「おまえが、『・・・』だな」

 

 声を振り返ると、小学生がそこに立っていた。

 

 眼鏡をかけて半ズボンの少年は、見た目以上に落ち着いた雰囲気で、手を伸ばしてきた。

 

「初めましてだな、俺は江戸川・コナン。探偵だ。一郎から言われて、おまえを保護しにきた」

 

「一郎から?」

 

「ああ、詳しい話は後で話すぜ。ついてこいよ」

 

「あ・・・あれ?」

 

 コナンは自然と腕を握ってきた。でも、彼は崩れることなく不敵な笑みを浮かべていた。

 

「フ、この探偵に暴けない嘘や技術はないんだよ。おまえの個性は俺には効かないぜ。だから、遠慮なく掴めよ」

 

「なんで、だって一郎以外は触れられないって」

 

「なら、俺が二人目だな。安心しろよ、俺以外にも大勢がおまえに触れても崩れないって約束するぜ」

 

 コナンはそう言って、暴れている恐竜を親指で示す。

 

「あの、俺達の守護神に誓ってな」

 

 何処までも不敵で、何処までも高く、そして何処までも頼りになる顔でコナンはそう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は、毎日が楽しかった。

 

「ふん、雑種が」

 

 ギルガメッシュに笑われて、怒られて、諭されて。

 

「初めまして、レディオス・ソープです。一応、男ね」

 

 ソープに技術とか教えられて。

 

「どうも、エルネスティです。ロボットって好きですか? 好きですよね? もちろんですよね?!」

 

 エルにロボット愛とパソコン関係の技術を教え込まれて。

 

「よし! 今日の気持ちを歌に込めるのだ!!」

 

 アインズに歌を教えられて。

 

「ふ、海は何処までも広い。さあ、行くぞ」

 

 エンタープライズや大和、イオナ、コンゴウ、土佐と信濃に連れられて海を進んで。

 

「にしし、何処見てるにゃしー?」

 

「もうまた迷子なの? けがしてない?」

 

「ぽいぽいぽい」

 

 睦月と如月と夕立に土地感と気配を読むことを教えられて。

 

「さあ行くわよ!」

 

「全力で頑張りましょう!」

 

 天津風と榛名に『がんばる』意味を教えられて。

 

「こっちですよ、こっち」

 

「なのです」

 

 ジャベリンと電に近接と遠距離攻撃の対処法を叩きこまれ。

 

「こっちで大丈夫」

 

「はぁ~~~い」

 

「さあ、参りましょうか」

 

 ユニコーン、エターナル、フロンティアにマッピングや乗り物を使うことを教えられて。

 

「ゆっくり歩く」

 

「後ろを見たらダメ」

 

 イムヤとゴーヤに尾行の仕方、尾行の撒き方を覚えさせられて。

 

「ぱんぱかぱ~~ん」

 

 愛宕に気合を入れて楽しくなる精神制御を叩きこまれ。

 

「さあ、行きましょうか?」

 

 吹雪に総合戦闘訓練をさせられて、個性の制御を教えられた。

 

「ほら、どうした?」

 

 コナンに事務仕事全般から、一般教養まで。学校で教えられることをすべて教えてもらった。

 

 そして、一郎に。

 

「ん、なんだよ、弔?」

 

「何でもない」

 

 常に前を向いて笑顔で生きることを、教えられた。自分の前を進んでいく背中に、『そうか』と何度も思えた。

 

 生きるって辛いことで、悲しいこともあって、苦しいこともあって。でも、笑顔でいられるなら大丈夫、楽しいと感じて進んでいけるなら生きていける。

 

 そんな強い心を、あの背中に教えられたから。

 

 だから・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プレデターとかエイリアンとか、妖精とかに囲まれても、俺は大丈夫だ」

 

「いや、弔、たまには拒否した方がいいって」

 

 異形とか小さい生き物とか、そんな連中に埋もれた弔に、一郎は心の底からそう呟いた。

 

「いや、一郎、俺はいいんだ。心地いい」 

 

「マジで? いや弔がそれでいいなら、いいんだけど。俺は止めたほうがいいって思うんだけど」

 

「大丈夫だ。俺は今、幸せだ」

 

「・・・あれ、弔? いや待った弔?! 返事しろ! 息してないだろおまえ?!」

 

 返事がない、まるで屍のようだ。

 

「弔ぁぁぁぁぁ!!」

 

「ああ、一郎、『刻が視える』」

 

「それは幻覚だからぁぁぁ!!」

 

 だから、死柄木・弔は今日も笑顔で元気で、毎日を楽しく生きている。

 

 時々、死にかけるけど。

 

 

 

 

 

 







 死柄木・弔始まりの物語。

 正直、この話ともう一つが浮かんだから、こんなハチャメチャな作品を書こうと思い至ったわけです。

 最高のヒーロー、その条件ってなんだろうってところで。

 という風味になっています。




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