強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』 作:サルスベリ
皆さまの好きなものは何ですか?
小さい頃、カレーはお好きでしたか?
ちなみに、そのカレーは『何カレーでした』か?
ケンカしませんでしたか?
という風味な話になっています。
昔、死柄木・弔はそれを食べて涙を流した。
家族を失って、一郎と暮らすようになって、やっと食べられた、食べ物らしい食べ物。きちんと人の手が入った、ジャンクフードじゃない食事に、弔は涙を流して夢中になって食べた。
それは彼にとって、大切な思い出の一つ。
今でも大切にしている、とても重要な食べ物の思い出。
昔、海軍さんは海上にいて曜日感覚を失わないように、決まって金曜日にカレーを出したそうな。
カレーはスパイスが入っている、野菜も入っている。栄養もとれるし、大人数分が作りやすい、滋養強壮にいい。何より作り方が簡単。
というわけで、うちも金曜日はカレーなんですよ。
どうも、田中・一郎です。
「よっし、今日はカレーだ」
うちのカレーは弔が拘るから、インスタントではなくてスパイスから作り上げているカレーなんですよね。
常連さんの中には金曜日にカレーが出るのを知っていて、金曜日にしか来ない人達もいるくらいに、弔のカレーは美味しいものです。
「ム?! 弔よ、どういうことだ?」
あれ、ギルの手が止まった。何時も美味しそうに食べるのに、何でか憤怒の形相なんですけど、何があったのかな?
「何がだ?」
カレーをかけながら、弔は疑問を浮かべているけど、それは俺もだよ。
「何が、だと? この王の中の王に出すカレーが、これとは。我も舐められたものだな」
「はい? いや、待った、ギルどうしたんだよ?」
「どうしたではないわ!」
うひゃ?! こ、こっちに殺気が向いてきた。なんて威力だ、前のオールマイトを超えている。さすが王の中の王、カリスマ全開で怒るとこんなに怖いんだな。
「貴様ら! このカレーを食して何も思わんのか?!」
「え、カレー? え、今日のカレーって何時もと違うの?」
そんなバカなと俺は口に運んで食べて、一瞬だけ止まった。
あれぇ~~なんだろ、俺は舌が馬鹿になったのかな? え、これを作ったの弔だよな。あの弔がこんなカレーを作るなんてこと。
「味見したのかよ?」
コナンがスプーン持ったまま止まっている。さすが名探偵、何人か食べてから食べ始めるなんて、おまえはまさに洞察力の塊だな。
いや、ギルが食べる前に止めてくれよ、お前。その洞察力、なんで自分を護ること全開で使ってんだよ。
「味見したな」
「ならばどういうことだ!? 貴様! この我に! こんな甘いカレーを食せというのか?!」
あ、うん、そうなんだよね。何時も弔のカレーはちょっと辛い、大人向けのカレーなんだけど、今日のカレーはほんのり甘い子供向けなんだよね。
「味見した」
「まだ言うか貴様!!」
ちょっとギル待った!
「おまえ『エア』を抜くほどか?!」
「止めろよギル! こんなところで宝具なんて使うなよ!!」
コナンと俺で止めるのだが、ギルはもう鎧を纏っていて、絶対に許さないって顔している。これは一発くらいは覚悟しないとだめか?!
「味見はした。ユニコーンがな」
ピタリと、ギルが固まるように止まって、そのまま自然な動作でイスに座りなおした。
「でかしたぞ、弔、お代りを持て」
「おいギル!!」
「おまえはそれでいいのかよ!?」
すっげぇ清々しい顔で笑ってんじゃないよ! さっきまでの怒りは何処いったんだよおまえ?!
「何を言う、雑種ども。あのユニコーンが味見したカレーが不味いわけなかろう」
「甘いって怒ってなかったか?」
俺が口を挟むと、ギルはフッと笑った。
「男には、いや王には退けぬこともある。故に、すべてを飲み込むものだ」
いやそれ王様関係ないじゃん。ただ、ユニコーンが可愛いだけだろうが。
「てめぇ、やっぱりロリコン王って呼んでやろうか?」
半眼のコナンの意見に、俺は大いに同意する。なんでか、最初からギルってユニコーン関係はマジになるんだよな。
具体的には、ユニコーンが出撃するとエアを持ったギルが追従するくらいに。
あれって、天と地を裂いた一撃じゃなかったかな、とか思ったものさ。
「ふ、名探偵よ、その侮蔑は万死に値するぞ。我はロリコンではない」
「じゃなんだよ? 幼女趣味じゃないって言うつもりか?」
「当然だ。我はユニコンだ」
え、なんて? 今、なんておっしゃいました? 棒が抜けただけに聞こえたんだけど、なんて言ったのさ?
「おいおい、マジかよ」
え、コナンは解ったの。なんで顔を抑えて蹲りそうなの?
「フ、我はユニコーン・コンプレックスだ。略してユニコンだ。フハハハハハハ!」
「・・・・・・誰か、精神科医紹介してあげて」
なんだか、馬鹿げた話になってきた、もうこいつのユニコーン関係は放っておこう。
そうしよう。
ギルが大人しくなって、やっと食事ができるって思っていました、俺はかなり甘いようです。
「やっぱりカレーは牛肉だね」
ソープが凄い真面目な顔で言ったことに、空気が凍りついた。
「聞き捨てならんな、ソープ。今、カレーは何と言った?」
え、アインズがそこに食いつくの? いやスケルトンでも、食べ物を食べられるって喜んでいたのは知っているけど、今そこで食いつくの?
「牛肉と言ったんだよ。僕はカレーの肉は牛肉が至高だと思っているって」
「ふ・・・・・・ふはははははは!! ギャグにしても笑えんぞ、ソープ」
いや笑ってんじゃん。って、今度はアインズが怒りだしたんだけど、何でだよ。食事時なんだから、静かに食べられないのかよ。
「ギャグ? アインズこそ、何を言っているのか、解らないんだけど?」
「カレーは豚肉こそ至高であると、私は言わせてもらおう」
「な?! 正気なのかい? 豚肉なんて、そんなものは邪道だ」
「邪道ではない! あの深い味わい、油と肉と見事なハーモニー。歯ごたえがあり、噛むたびにうまみが出るのは豚肉だけだ」
えっと~~あのさ、アインズ、なんでそんなに語るかな。え、今って食レポの時間だったっけ?
「ふう、まさかアインズともあろうものが、そんなバカな考えを持っているとはね。カレーは牛肉が入ってこそ、トロミが増す。牛肉をじっくり煮込み、カレーと混ざり合わせたうま味は、まさに天下一品」
さあっと髪をかきあげ、言い切った顔でソープは最後に指をアインズにつきつけた。
「豚肉なんてものを入れたらカレーが脂っこくなる!」
「笑止!! 牛肉こそ脂の塊ではないか?!」
「君、少し味覚を鍛えた方がいよ?」
「それは貴様だろう、馬鹿舌が」
バチリと二人の間で火花が散った。
え、待って、カレーの肉の話でそこまで本気になるの。え、待ってアインズ、杖は持ち出さないようにしようよ。ソープも髪の色を戻して、封印解いてんじゃないよ。
え、カレーの話題で二人が全力戦闘って。
「待ってください!!」
「エル! おまえはさすがだ! おまえは止めてくれるって信じてた!!」
よっし、エルが割って入った。これで止まる。
「カレーは鶏肉です! チキンカレーこそ至高に相応しいものです!」
「裏切り者ぉぉぉぉぉぉ!!」
「ム! 一郎さんは、チキンカレーを冒涜するんですか!?」
「そうじゃない! いやそうでも有るけど! なんで火に油を注ぐようなことしてんだよ?!」
「譲れないからです!」
燃える瞳で言い切るなよ! なんでおまえまで参戦してんだよ!
「フ、これは勝負をつけねばならんか」
「そうだね。白黒はっきりさせた方がいい」
「当然の結論ですね」
アインズ、ソープ、エルの三人が睨みあって、それぞれの右手が武器を持ち上げる。
あ、ダメだこれ。もう止められない、こいつらを止めるためには俺も最終手段を使うしかない。
「ギルガメッシュ!」
「なんだ?」
「令呪を持って命じる!」
「待てマスター! こんなことで令呪を使って何をさせるつもりだ?!」
「宝具を」
「さらに待て!! 貴様、まさか我の至高の宝具を、カレー戦争を止めるために使用させるつもりか?!」
「し、仕方ないんだ、ギル。俺はもうどう止めていいか解らないんだ」
震えるように、絞り出すように伝えると、ギルは悔しそうに視線を反らした。
「そう、か。これも人の世の常か。無情だな、マスターよ」
「すまない、ギル。おまえの至高の宝具を、こんなことに使用させるなんて。俺を恨んでくれていいぞ」
「何を言う。あの時、我はおまえに言ったはずだ。最後まで付き合おう、マスター。我のマスターはおまえのみだ、と」
「ぎ、ギルぅ」
慈愛のこもった瞳を向けてくる英雄王に、俺は思わず涙ぐんで俯いてしまった。その肩に、ギルが優しく手を置いてくれる。
「では行くぞ、マスターよ。我のマスターらしく、胸を張るがよい」
「ああ、ギル、おまえの雄姿は俺が見届ける」
「フ、ならば心してみるがいい! これが英雄王の戦いよ!」
ああ、眩しいな、おまえは何時も眩しい奴だよ。
「・・・・・・コナン、俺はビーフもポークもチキンも作ったんだが、言った方がいいか?」
「戻ってきたら教えてやればいいんじゃないか?」
「戻って来れるんだろうか?」
「さあ、な」
後ろで弔とコナンが、そんなことを言っていたが、俺は聞かなかったことにした。
さあ、て。馬鹿騒ぎは以上で終わりだな。もう誰も騒がないな、誰も騒がせないぞ、今度騒いだら鎮守府を動かしてやる。
「波動砲と縮退砲と超重力砲にバスターランチャーって一斉に撃ったことないな」
「待てマスター! 落ち着け!」
「そうだぞ! 我のマスターともあろうものが、短絡過ぎる!」
「悪い冗談だよね、止めた方がいいよ」
「そうです! ロマンの欠片もありませんよ!」
コナン、ギル、ソープ、エル。おまえらさ、そんな必死になるんだったら、カレーの味やカレーに入っている肉の種類でマジになるなよ。
まったくさぁ。
あれ、アインズは何やってんだ? あいつだけ反省してない?
「出来たぞ!」
え、なんでギターを持ち上げているのかな? あれ、カレーは食いきったみたいだけど、何ができたのか教えてくれ。
「『いざすすめカレー戦線! 我がカレー人生に一片の食い残しなし!』だ!」
「え?」
「『前に広がるは一面のカレー。我が退路はすでに乏しく、逃げるもカレーに阻まれて、進む足はカレーに取られてしまう。ああ、カレーは我が人生、カレーこそ我が運命。いつか、このカレーの世界を、私のこの手に掴みたい。ああ、カレー道、それは修羅の道。ああ、カレー道、私は一片の食い残しなし』。フ、今日も私は冴えた我が頭脳が恐ろしい」
「俺はおまえのその即興で歌を作れる才能が恐ろしい」
なんであの大騒ぎとマジギレの後に、そんなバカな歌が出来上がるの。どっかの歌姫もびっくりな美声で、めちゃくちゃ馬鹿げた歌詞を歌ってんだけど、どっから出てきたのそれ。
「さて、二番も作るか」
「いや待った! カレー食べている時に、その歌はキツイ! マジで止めてアインズ!」
「ふ、ふはははははは一郎、止めても無駄だ。我がギターと喉は今日の絶好調だ!」
「いや喉ないでしょ!? おまえスケルトン! ガイコツで喉がないでしょうが!」
「ふむ、おかしなことを言う。ではなぜ、私は『食べられる』のかな?」
あ、あれ。なんでアインズが食事ができることに、疑問を感じなかったのか。どうして毎日、同じ食卓にいたのに、疑問が浮かばなかったのか。
ま、まさか、お前。
「ククククク、我が名はアインズ・ウール・ゴウン。ナザリック大墳墓の主にして」
「おまえ俺たちに精神系魔法を!」
「今は流しのギター若大将!」
「はい?」
「正直! 私も何故、喉があるか知らん! 食事が取れる理由など、考えたこともない!」
「なんだと!? じゃ、なんで今、俺にそんなことを言った?!」
「その方が面白いからだ!」
おう、シット。納得してしまった。面白いってことで、俺の中で疑問が消えてしまったぜ。
「アインズよ、おまえもようやく愉悦が解ったようだな」
「英雄王に認めてもらえるとは。私もようやく一つ上の段階に進めたようだ」
「ようこそ、アインズ、愉悦部へ」
「歓迎しますよ」
「ありがとう、ソープ、エル」
あ、あれ、俺の目の前で凄い同盟が結束されているんだけど、妨害したほうがいいかな、邪魔した方がいいよね。
いやだって、あの四人が愉悦部を続けたら、確実に俺が死ぬよね。
ダメだ、生贄になる自分しか予想できない。
「おまえら!」
コナン! やっぱり俺の味方はお前だけだ! 絶対に俺を見捨てない、名探偵! おまえの観察力と洞察力で、俺をたった一つの真実に導いてくれ!
「俺も、もちろん入れるよな?」
「裏切り者どもがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
もう泣いてやる! もう誰も信じてやらないからな!!
「一郎、俺はおまえの味方だ」
「弔ぁぁぁ」
「ああ、だから、食事時に騒ぐのは止めろ」
「サーイエッサー!!」
俺達は思わず直立不動で敬礼した。
「なるほど、そのようなことが?」
お酒の仕入れで昼食は外食していた黒霧が戻ってきたので、騒動の顛末をお話しました。
「カレーは弔にとって、大切な料理ですからね」
「へぇ~~そうなんだ」
「ええ、自分の人間らしい生き方を教えてくれた人が、最初にふるまってくれた料理とか」
え、そうなんだ。そんな凄い人がいたんだ。そっか、そっか。
「一郎さん、貴方は記憶喪失ですか?」
「え? そんなわけないじゃん。俺は今までの人生も転生したことも、きちんと覚えているぜ」
カッコよくポーズ決めてやりました。
でも、黒霧に深くため息をつかれたけど。
「やったほうは忘れているが、やられたほうは覚えている。この意味を、こんな時に実感するとは思いませんでした」
「え、何それ? 哲学?」
「はぁ」
あれ、黒霧、なんでそんなに疲れてるのさ。え、俺が悪いの、何かしたの俺?
その日、黒霧はなんで溜息をついたか、教えてくれませんでした。
「一郎、世の中には青いカレーがあるらしい」
「え?」
後日、弔が作った蒼いカレーは見た目に反して、絶品でした。
というわけで、カレーのお話です。
一話丸々カレーになるとは思いませんでした。
カレーは好きですか。
三食カレーでもいいですか、一週間まで行けますか。
カレーの好みは人それぞれ、そんな風味のお話でした。