終末ガラルで、ソーナンスと   作:すとらっぷ

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これを書いている時点でランキング16位いただきました。ここまで上がるのが初なので大変ビビリ倒しております。応援ありがとうございます!


ヤローの野菜と二人②

ヤローさんのお言葉に甘えて昨日は一日中眠った。そして翌日の早朝、しっかり起きる。旅人は日の出と共に行動を始める生き物だ。どんだけ疲れていても起きてしまう。

 

それにしてもこのポケモンセンターは非常に綺麗な状態で残っている。壊れているのは精々治療装置くらいのものだ。消滅後の混乱から建物が荒れていることはザラだが、この町は相当治安が良かったように思える。

 

朝飯はフレンドリィショップに残っていた登山兼旅人用のエナジーバーを食べる。うん!不味い!相変わらずの味である。というか最近これしか食べてない。しかし現状持っている食料はこればかりだ。どうやらガラル鉱山の作業員も愛用していたらしく鉱山内多く残されていたのだ。

 

「栄養バランスは整ってるんだろうけど…ちゃんと美味しいもの食べたいなぁ…ヤローさんの野菜、分けてくれないかな。物々交換出来そうなものあったっけ?」

 

「ソーナンス!」

 

ソウさんが差し出すのはワイルドエリアで見つけたスパイスセットと、マメ缶。乾かしたクラボの実、後は…

 

「ああ、あのワインがあったな」

 

エンジンシティのカフェバーで頂いたワインである。2瓶が残っていた。

 

「ヤローさん酒飲むといいけどね」

 

荷物の整理を終わらせ、最低限の外出用の荷物をボストンバックに入れる。他の荷物はポケモンセンターのカウンターに置いておく。

 

「よし、ソウさん。観光しようか」

 

「ナンスッ!」

 

せっかくなので昨日おすすめされた地上絵というのを見に行こう。自分は見たことないが、消滅以前から観光地ではあったらしい。

 

 

 

 

「巨大なヒトと…渦…かな?それと小さいヒト」

 

「ソーナンスッ!」

 

ソウさんも概ね肯定か。この地上絵、実際何が書いてあるのかよくわからない。

 

ターフタウンの西の広場から地上絵を眺める。しかし何を表しているのかはよくわからない。

 

「説明書きのような物も…無いなぁ」

 

広場にあるのはベンチと朽ち果てた顔出し看板しかない。フレンドリィショップでガイドブックでも探してくればよかっただろうか。

 

「うーん、巨大なヒト…巨大…ダイマックス?」

 

ダイマックスについては以前から知っている。小さい頃にテレビでダイマックスしたポケモン同士のバトルを見たことがある。先日ワイルドエリアで実物も見た。地上絵になっているということは遠い昔に巨大なポケモンが暴れまわったのだろうか。だが、あの謎の渦は一体…。

 

ヤローさんなら何か知っているのだろうか。

 

「まあ、昔の人の考えることはよくわかんないな。後でヤローさんに話を聞こう」

 

「ソーナンス」

 

 

 

メェェェェェェェ!!!

 

正直地上絵を見ているのも飽きたのでヤローさんに会いに行こうとすると、突如ウールーの群れが現れた!

 

「ソォォォォォ!?ナンスゥゥゥウ!!?」

 

転がる群れを避けきれずソウさんが吹き飛ぶ。

 

「ソウさぁーん!」

 

何という高密度なウールーの群れ。ハロンにもウールーはいたがこんなに統制の取れた暴走をするウールーはいない。

 

僕は道を逸れて芝生に突っ込む事で回避した。

 

「すまんすまーん!怪我はないかー!?」

 

ウールー達の後方からヤローさんの声が聞こえる。

 

「イヌヌワン!!」

 

どうやらワンパチと共に逃げ出したウールー達を追っていたようだ。ウールー達は僕達が先程いた地上絵前の広場に追い込まれ、観念したのか呑気に昼寝をしている。

 

ヤローさんも一休みのようだ。首にかけたタオルで汗を拭き、水を飲んでいる。優しげな風景だ。

 

 

 

 

「……」

 

しかし、ヤローさんのその顔は酷く悲しげな顔をしていた。

 

地上絵について聞こうと思ったが、その悲しげな顔を見ると聞く気が失せる。その目はウールー達を見ていなかった。何か、もっと奥を見ているような気がした。

 

彼はウールーの先に何を見ているのだろう。

 

ふと、ヤローさんと目が合う。その顔には、やはり今までの笑顔はなかった。

 

バツが悪く、なにか話題が無いか探したところ、ソウさんが顔出し看板に顔を突っ込んだ状態で帰ってきた。ナイスタイミング。

 

「…ソウさん、それ抜けないの?」

 

「ソォォォォォナンスッ!!」

 

涙ながらに抜いてくれと訴えかけてくる。

 

「…なんというか、見事にハマったもんじゃのぉ」

 

顔の構造的に無理があるとしか思えないハマり方をしていた。

 

顔出し看板に描かれたヨクバリスの顔面が、見事にソウさんに入れ替わっている。

 

「あっ、これ全然抜けない…」

 

看板を抑えてソウさんの顔を押し出そうとするが全く抜けない。

 

「ソォォォォォォォ!!?」

 

顔がへこむ。

 

「よし!貸してみなさい!」

 

そこでヤローさんが立ち上がりソウさんの足を片手で鷲掴む。

 

「ソ、ソーナンス?」

 

ソウさんは嫌な予感を感じたようだ。

 

僕が看板を両手で掴み直すとヤローさんの全身の筋肉が隆起する。大胸筋が歩いてる!

 

「…ビルドアップ?」

 

完全に格闘タイプの技だ。

 

「おりゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

気合の叫び声と共にソウさんを思いっきり引っ張る!

 

すぽぉん!!

 

「ソォォォォォ!!?」

 

見事にすっぽ抜けた。すっぽ抜けたはいいがソウさんの持ち方が完全にバットだ。

 

「ジ、ジムリーダーってすごい…」

 

「ナ、ナンスゥ…」

 

顔周りに跡が残っている。

 

「ハッハッハー!このくらいどんなもんじゃぁ!」

 

元気にその肉体をアピールするヤロー。

 

 

 

しかし、その元気さは痛々しく見えた。

 

 

 

 

 

 

その後、ヤローさんはウールー達を連れてジムに帰っていった。

 

その日は旅道具とトゥクトゥクの整備をして終える。

 

 

 

 

 

その日。ヤローは珍しく日が落ちたあとも起きていた。普段ならば日の入りと共に眠ってしまう。昨日も結局眠ることができなかった。

 

久々に人間と話したからだろうか。

 

「ぼくは…」

 

コンコンコン!

 

その時、家のドアがノックされた。

 

「…家に客が来るのは…何年ぶりだろうな」

 

扉を開けると、やはりカイがいた。

 

「こんばんは、せっかくなので、お話でもしませんか?」

 

その右手には高そうなワインボトルが握られていた。




次回、夜会。

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