終末ガラルで、ソーナンスと   作:すとらっぷ

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あけましておめでとうございます。今年も頑張ってガラルを滅ぼしていきます。


ヤローの野菜と二人③

今夜はよく星が見える。少し肌寒いがそれだけに焚き火の炎が暖かい。

 

「よし、こんなもんでいいですかね」

 

火にかけた鍋を外す。中身はワインだ。

 

鍋にワイン、砂糖、ワイルドエリアで見つけたスパイスセットを入れ、イアの実を絞る。それを沸騰しない程度に煮ればホットワインの完成だ。

 

「…はいどうぞ」

 

アルミのコップに注ぎ、ヤローさんに渡す。そしてソウさんにも。

 

旧ポケモンセンター前、焚き火を囲むのは3人。ソウさんとヤローさん、そして僕だ。

 

「ありがとう…」

 

ヤローさんはコップに口を付け一息つく。僕も飲もう。

 

それにしても贅沢なものだ。ワインには詳しくないが、中々高級ワインをホットワインにすることは無いだろう。

 

自分のコップにもワインを注ぎ、味見をする。うん、我ながら良く出来てる。適度に甘く、口当たりも良い。イアの果汁も爽やかだ。ソウさんもチビチビと飲み始めた。…ポケモンがアルコールを摂取して問題が無いのか甚だ疑問だが、本人が飲めると言うのだから仕方がない。熱しているのでアルコールもある程度飛んでいるだろう。

 

全員が少しずつワインに口をつけ、しばしの無言。

 

「今朝は、見苦しいものを見せたね」 

 

はじめに口を開いたのはヤローさんだった。

 

「…いえ、そんなことは。」

 

あの表情のことを言っているのだろう。

 

湿った木がパチリと弾ける。

 

「今朝、ぼくは逃げ出したウールー達を追いかけていただろう?」

 

「ええ」

 

また一口コップに口をつける。

 

「わざと逃してるんだ、あれ。しかも…毎日、毎日…」

 

「…」

 

「昔、消滅が起こる前はさ、ウールー達を追いかけると、町のみんながついてきてくれたりしたんだ。町の名物だなんて言われていた」

 

なるほど、彼がウールー達の奥に見ていたものは住民達だったのだ。

 

「未だに思うんだ。ウールー達を追っていれば、町のみんなが追いかけてきてくれんじゃないかって」

 

「…」

 

「自分でもおかしいとは思ってるんだよ。意味が無いとわかってるんだよ……。でもさ、やめられないんだわ」

 

ウールー達が妙に統制が取れていたのはそのためか。何度も決められたコースの脱走を繰り返す。もはやただの散歩だ。

 

それだけ、ウールー達が決められたコースを逸れることなく走り回るまで繰り返したのだ。何度も、何度も。

 

「もちろん、住民は誰一人帰ってこなかったよ。当たり前だ、消えてしまったからね」

 

「ええ」

 

消えた人間が帰ってくることは無い。死んだ人間が生き返らないように、形は違えど生命の終わりは依然として変わらないのだ。

 

「ごめんね、こんな湿っぽい話をして」

 

「…むしろもっと話してください。ヤローさんの話を聞ける人間は…多分あまり残っていません」

 

「…どれだけ減ったんだろうね」

 

ヤローさんの巨体は、今夜ばかりはとても小さく見えた。自身の無力さを思い知らされた、小さな男の姿だった。

 

 

 

「消滅が始まってすぐの頃を覚えてる?」

 

ヤローさんは2杯目のワインを注ぎながら訊ねる。

 

「…はい。始めて消滅を目の当たりにしたのは、父でした」

 

「消滅は初めに人が一気に消えた。数えた人がいるわけじゃ無いけど、恐らくその時点で人口の大半は消えただろうね」

 

最初の消滅の時点でガラルは完全に停止した。通信は途絶え、他地方の情報も一切途絶えた。

 

「そしてそこから少しずつ消えていった。初めの消滅が起こった時点で、既にターフタウンに残った住民は…10人に満たなかった」

 

この規模の町で10人。機能維持できる筈もない。

 

「でも、ぼくはリーダーだったから。皆を不安にさせる訳にはいかなかった。まあ、無理だったけどね」

 

自嘲するような口調、自分の無力さを嘆き嘲笑う。しかし、誰がそれを責めようと言うのか。

 

「何とか自分を騙して、その10人で頑張ろうと思った。まだ皆の死を確認した訳じゃないからってね。」

 

「…でも、人は消えた」

 

「ああ、消えたよ。さっきまで話していた人が、振り返るともういないんだわ」

 

僕の父と同じだ。

 

「それから、眠るのが怖くなった。目が覚めたら誰かが消えているんだ。周りに人がいると眠れない。最後まで一緒にいた子は…ぼくの腕の中で消えたよ。眠らないように、目を離さないように、お互い抱きしめ合いながら。それでも最後には眠ってしまった。温もりだけが残った感覚は…今でも忘れられない」

 

ヤローさんはワインを飲み干す。

 

「消滅というのは残酷だよ。最後を看取ってやることすら許してくれないんだわ」

 

誰も消滅の瞬間を見た者はいない。突然、気がつけば消えているのだ。最後の言葉も無く、ただ消える。

 

彼はそれを残酷と言った。

 

そのとき、僕はどう感じるだろうか。

 

 

 

 

 

ひとしきり、ヤローさんが話したとき、既にソウさんは眠っていた。

 

「君のポケモンは自由でいいな」

 

「ソウさんには人間の事情なんて関係ないので」

 

こんなところで寝ると風邪を引くので毛布を掛けておく。幸せそうな寝顔だ。

 

「なあ、カイ君。明日一日、ぼくに付き合ってくれないか?」

 

焚き火の片付けをしているとヤローさんが声をかけてきた。

 

 

 

 

 

「収穫祭をやりたいんだ。ターフタウン最後の収穫祭を。」




終末ガラルメモ
ヤローと住民達の関係は彼のリーグカードから考えました。ウールー達を追いかけるヤローを追いかける住民達。もしその住民達が消えたら彼はどうなるのか、それを想像しました。心優しい彼が負う傷は深いものだったでしょう。

ちなみにヤローと最後まで一緒にいた子はゲーム本編で地上絵を見る広場の石碑の近くにいる女の子です。

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