終末ガラルで、ソーナンスと   作:すとらっぷ

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1話に収めようとしたけれどキリが悪くなった上に続きものになってしまった。

ワイルドエリア脱出編の続きです。


不穏の林と二人

「今日から、本格的に動こうと思う」

 

「ソーナンス!」

 

ワイルドエリア突入から3日目、取り敢えずソウさんの怪我も治り、周辺のきのみも尽きてきた頃。

 

太陽の動きから大体の方位も把握し、飲み水も貯蓄できた。動くべきは今だろう。ワイルドエリアは方位さえ見失わなければ迷いにくい。基本的にワイルドエリア駅から出たのであれば北に向かえばエンジンシティに辿り着く。現在地も地形の特徴が大きいので見分けは比較的付きやすいのはありがたい。

 

そして最大の理由、本日のうららか草原の天気は砂嵐だ。早急にここから脱出しなければ身体が持たない。

 

草木で作ったシェルターは砂に切り裂かれボロボロになっている。

 

「本来なら北に向かって真っ直ぐ進むのが最短なんだけど…」

 

「グギャルガァァァァァァァ!!」

 

その先ではバンギラスとジュラルドンが大怪獣決戦中だ。その間を通り抜けることは不可能だろう。第一砂嵐から逃げるのにこの砂嵐の中心点に向かうことは無いだろう。

 

「急いでこもれび林に向かう。あそこなら防砂林になってくれるはずだから、その先は砂嵐になってないはず」

 

それにしてもポケモンというのは不思議なものだ。この草原には砂地など見当たらないのにこれだけ鋭い砂が吹き荒れている。バンギラスはどういった仕組みでこの砂を呼び寄せているのか。

 

僕とソウさんは体と目の保護のため頭から毛布を被る。トゥクトゥクにはフロントガラスがあるのでできる限りガラスに顔を近づけ、砂を避ける。今まではトゥクトゥクに風防があったため気にしてこなかったが、今はゴーグルが欲しい。

 

「ソウさん、目は大丈夫?砂入ってない?」

 

「ソーナンス!」

 

平気そうだ。そもそもソウさんは普段から細目だった。生態的には本来暗闇で過ごすポケモンなので目以外の器官で見てるのかもしれない。

 

砂嵐で視界が悪い。急がなければならないが、安全運転を心がけなければならない。

 

不幸中の幸いだが、この砂嵐では野生のボケモン達もあまり行動出来ないようだ。おかげさまで追突事故の心配はない。

 

「ソウさん!林が見えてきたっゲホッ!!ゴホッゲホッ!」

 

派手に砂を吸い込みむせる。油断した、非常に危険だ。

 

「ソーナンッ…スッ!」

 

ソウさんもむせている。

 

若干むせながら林の中に逃げ込んだ。

 

 

 

 

「ガラガラガラガラ…ぺっ!」

 

こもれび林に入った瞬間、嘘みたいに砂嵐が止んだ。やはりワイルドエリアは不思議だ。こんなにもくっきり天気が分かれるとは…。

 

取り敢えず落ち着いたため、うがいをしておく。

 

「さて、こもれび林か」

 

この場所はワイルドエリアの中でも実りが多いエリアだ。きのみがなる木の数も多く、食べられる植物やきのこも多く自生している。

 

その分危険もある。ここはキテルグマの主な生息地だ。あまり出会いたくない。

 

とはいえ、一般的にキテルグマ達は積極的に人間に危害を与えようとしている訳ではない。キテルグマが人間を襲うのは縄張りに侵入されたとき、子供に危害を加えられた、加えられそうな場合、もしくは逆に愛されすぎて手加減ない愛情表現(大抵ハグで背骨を折られる)の場合だ。

 

キテルグマ対策は多くある。例えば、キテルグマが住んでいる可能性がある場所で野宿する際は、全ての食料を匂いが出ないように密閉した上で、拠点から100m以上離れた場所に置く。木に吊るしておくのがベスト。

 

ヌイコグマを見かけたら近づかず逃げる。その近くに親キテルグマがいる。

 

もしキテルグマとまともに遭遇した場合は、目を合わせず服従している態度を見せる。背を見せない程度に体を横向きにして後ずさりながら逃げよう。正面を向くと攻撃的だとみなされ、反撃しようとしてくる。つまり死ぬ。

 

背を向けると本能的に獲物だと思われ、狩られる場合がある。

 

もし襲われたら死んだふりをする。死んだふりは悪手だとする場合もあるが、もう既に襲われている場合は話が違ってくる。襲われて応戦したらまず勝てない、逃げようとしても間違いなく追いつかれる。生存可能性を1%ほど上げるなら死んだふりをすべきだろう。

 

ちなみにゴロンダ対策にも応用可能だ。

 

「以上、わかったかソウさん」

 

「ソーナンス!」

 

わかったようなので食料を探しながら北上する。食料もあまり残っていない、早いところ食べ物を見つけなければ。

 

ふと見るとソウさんはタンポポを食べていた。ずるい、僕もほしい。

 

 

 

 

 

二人でタンポポを齧りながら林間を進んでいく。根っこは乾かして代用コーヒーにしてみようと思う。苔臭い水よりは美味しく飲めるだろう。どうにかして作り方を調べることが出来ればいいのだが。

 

それにしても森の中は走りにくい。いくらこのトゥクトゥクのサスペンションが優秀であって、3輪が安定性抜群であろうと、森を全力疾走出来るようには設計されていない。安全運転第一、ゆっくりいこう。

 

多分、それが理由だろう。森に紛れるあるものを見つけた。

 

「…あれは、なんだろう」

 

「ソーナンス?」

 

「建物…だよな」

 

プレハブ小屋だ。詳しく言えば植物の蔦に覆われた廃墟のように見える。

 

「もしかしたら、リーグスタッフの詰め所かも知れない。見てみようか」

 

ゆっくりとバイクを走らせると…

 

「ンッンッーー!!ガルルルア!!!」

 

上空から巨大な物体が降ってきた!

 

「なぁにっ!!?」

 

急ブレーキで停車する!

 

黒い巨体、緑色の癖のある髪のような体毛。

 

「ご、ゴリランダー!?」

 

本来ゴリランダーはその巨体に似合わず温厚な性格のはずだ。しかしその目は敵意に溢れている。

 

「マズい、逃げるぞソウさん!」

 

ゴリランダーは巨大な切り株のような物と木の棒を構える。高威力の固有技、ドラムアタックだ。

 

無理やり急発進させ、この場から退避する他ない。ここでトゥクトゥクを失うわけにはいかない。

 

「ソーナンスぅ…!」 

 

ソウさんはゴリランダーに『あまえる』を使用!

 

「ガルルル…ル…」

 

僅かに攻撃の手が緩む。元は温厚なポケモンであるため、おそらくはこの攻撃も本意ではないのだろう。

 

僕は気休めに道中拾ったボロボロのピッピ人形を投げつけた。何もしないよりはマシだ。しかし効果は無さそうである。

 

ゴリランダーは遂に切り株を叩き始める。その振動に呼応するように地面から鋭いツタが次々と現れる!

 

ツタはムチのようにしなりながらトゥクトゥクを狙い始めた!

 

「ッ!!」

 

危機的な状況で、周りの風景がゆっくりに見える。迫りくるツタがはっきりと見えた。

 

初撃はタイミングが合わずに回避、二撃目、三撃目のツタもスピードで振り切る。しかし側面から現れた四撃目がトゥクトゥクの芯を捉える!

 

「ソォォォォォォナンスッ!!」

 

車体から身を乗り出したソウさんがそのツタを頭突きの要領で迎撃!カウンターでの迎撃だ!

 

しかし五撃目、正面の地面が僅かに隆起する。間違いなくツタが生える前兆ソウさんの迎撃は間に合わない、そしてこの不安定な林間で急ハンドルを切ればクラッシュは免れない、万事休すか。

 

「…歯を食いしばって!!」

 

ここで更にスロットルを開け、僅かにハンドルを左に切る!

 

隆起する地面の僅か数メートル前にあるのは巨木、あえてその根に乗り上げる。車体が浮かび、ツタは予想と違う動きをした獲物を捉えきれず空を切る。

 

「ソォォォォォォ!!!」

 

木の根に乗り上げた影響で車体が大きく右に傾く。が、ソウさんが荷物を抱え、車体から大きく身を乗り出す!

 

「ソウさん良くやった!」

 

大きくバランスを崩したものの倒れることなく着地し走行を続ける。ゴリランダーの追撃は無い。

 

「撒いたか…」

 

気を抜いた瞬間、何かが木にぶつかる音と、激しく軋む音が鳴り響く。

 

「ソーナンスッ!!!」

 

安心する暇も無かった。今度は進路上の側面から木が倒れ始める!

 

「なんで!」

 

急ブレーキ!間一髪で倒木を回避した。

 

倒木には根本が何かに抉り取られたような、不自然な痕跡がある。まるで強力な銃弾で撃ち抜かれたような跡。

 

バシュウ!トゥクトゥクの真横の地面が陥没する。何かが着弾したような跡だ。これは…水…?

 

「ソォォォォォォナンスッ!!」

 

ソウさんの尻尾が震える。その瞬間トゥクトゥクから飛び降りたソウさんはミラーコートを発動、どこからか飛来した水弾を弾き返す!

 

ガサササッ!

 

水弾によりへし折れた木の枝、それとともに落ちて来たのは一匹のポケモン。

 

「インテレオン…?なんでこんな所に…」

 

インテレオンは難なく着地すると、その指先を僕に向ける。先程の高威力の水弾はあの指先から発射される。今僕は銃口を向けられているのだ。

 

「ソーナンスッ!!」

 

ソウさんはミラーコートを発動しようとする。

 

「やめて、ソウさん。これ以上攻撃を受けるのは危険だよ」

 

両手を上げて、トゥクトゥクを降りる。

 

「ソーナンス…」

 

ソウさんは既にゴリランダーのドラムアタックを受け、更にあの威力の水弾を受けた。これ以上の戦闘は危険だ。

 

インテレオンは指先を僕に向けたままトゥクトゥクに近づく。焦っている?何かを探している?そんな印象を受けた。続いて荷物を漁り始める。

 

「…何がしたい?」

 

トゥクトゥクからレザーボストンを持ち出し、僕の前に置く。そして指先を僕の背中に突きつけた。

 

「これを持って、一緒に来い…ってことか」

 

「ソーナンス…」

 

ソウさんは不安そうにこちらを見る。

 

「大丈夫、多分。」

 

指先を突き立てられたまま、来た道を戻る。ソウさんもインテレオンの視界に入りながらついてくる。

 

辿り着いたのは先程の小屋。

 

そこにドスドスと追いかけてくるのは先程のゴリランダー、腕を振り上げこちらに向かってくる。

 

「グルルルルァ!!!」

 

「…シャァ!」  

 

身構えたが、インテレオンがそれを片手で制した。ゴリランダーもそれを受け入れ、こちらに危害を加える気配はない。この二匹は仲間のようだ。

 

小屋の中に誘導される。崩れかけの小屋の中で見たものは、ぐったりと倒れる一匹のポケモン、エースバーンだ。

 

「…酷いな」

 

その顔色は悪く、脚からは出血が見て取れる。

 

「シャァァッ!」

 

話が読めた。このインテレオンはエースバーンを治療しろと言っているのだ。人間なら便利な道具を持っていると考え、僕をここに連れてきた。

 

僕は医者じゃない、やれることは限られている。だが、やらねばただではすまないだろう。持てる限りの知識で応急処置をしよう。

 

外傷は…。

 

「…間違いじゃ、無いよな」

 

矢だ。途中で折れていて気づかなかったが、エースバーンの足には矢が刺さっている。傷口は比較的新しい、上手く行けば間に合う…だろう。

 

これが示す事実は、今は考えない。先に治療する。

 

バックから包帯代わりに使う替えのシャツ、水、きずぐすりを取り出す。

 

鏃を確認する。…茶色く濡れていて、異臭がする。

 

「クソ、毒矢か」   

 

本来なら傷口を心臓より高い場所に上げ止血するのが正解だが、毒となれば話は違う。しかもポケモンの毒じゃない。不衛生な感染症を狙うヤツだ。

 

「インテレオン、今から相当エグいことをする。協力が必要だ」

 

多分、伝わっている。

 

インテレオンが出せるだろう無菌の水、ゴリランダーのパワーとツタ、そして…ナイフ、即席で作る松明、火ポケモン。

 

 

 

 

治療は上手く行った…と思う。エースバーンはかなり消耗しているが、絶対に安静しておけば死ぬことはないだろう。なんの影響もなく歩けるようになるかは…ポケモンの自然治癒力の高さに期待する他ない。

 

多分この三匹は元はトレーナーの手持ちポケモンだろう。それもかなり強力なトレーナーの手持ちだろう。ふと、小屋の隅を見ると、小さな写真立てがある。ブリーダーのような格好をした女性と、メッソン、ヒバニー、サルノリ。おそらくこの三匹の昔の姿だ。

 

さて、いい加減考えなければならない。あの毒矢はポケモンが作るものではない。そしてジワジワと殺すための毒。傷の新しさ。ゴリランダーが僕を襲った理由。

 

 

 

 

認めざるを得ない。恐らく近くに人間がいる。殺意ある、邪悪な人間がいる。




序盤のキテルグマ対策は現実のグリズリー対策を参考にしています。森の中で熊に出会った場合はお役立てください。

治療風景はあえて割愛しました。間違いなくR15タグをつけることになるからです。なるだけそれは避けたい。

在りし日のガラル
登場した御三家と詰所
ワイルドエリアに登場する御三家でピンときた方もいるかもしれません。彼らはワイルドエリアでバトルすることが出来るポケモンブリーダーのテツコさんの手持ちポケモンでした。殿堂入り後は全員がレベル60になるということで、かなり強いです。

詰所の小屋ですが、ワットショップやその他のリーグスタッフが常駐していたという設定です。永遠に野ざらしというのは流石に過酷すぎるだろ…という妄想から生まれました。テツコさんもこの詰所を利用していたのでしょう。

テツコの消滅後(もしくは死後)は、手持ちであった彼らも住処として利用しているようです。

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