終末ガラルで、ソーナンスと   作:すとらっぷ

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前話の直後のお話です


お風呂と二人

上空には野良ロトムの群れが飛び交い、真っ暗な街をチカチカと不規則に照らす。人間の大半が消滅したことにより、今まで電化製品に入っていたロトムが一気に野生化した。

 

トゥクトゥク(屋根付き三輪バイク)にイタズラをされては堪らないのでロトム避けのアルミシートを再度かけ直しておく。

 

この辺りのロトムは機械類以外には興味がないようであるため、それにさえ気をつけていればただの照明だ。

 

ソウさんはロトムには全く興味がないようで、焚き火をぼんやりと眺めている。

 

ここはエンジンシティの中央通りど真ん中。往来にトゥクトゥクを駐車して焚き火までしても怒る人間も迷惑する人間もいない。

 

「さて、ソウさん」

 

「ナンス?」

 

完全にイベントについて忘れているようだ。

 

「風呂の時間だよ。久しぶりに温かいお湯に入れる」

 

「…ソォォォナンッス!!」

 

急に跳ね起きたソウさんが一直線に走り始める。先程確保しておいたワイン樽を取りに行ったようだ。その樽にお湯を張って風呂とする。それにしてもあの脚の形でよく走れるな。

 

桶はソウさんに任せてこっちはお湯の用意をしよう。トゥクトゥクに丸めて括り付けておいたホースを解く。流石は蒸気の街エンジンシティ、動くボイラーがいくつか残っていた。

 

赤錆だらけのボイラーからパイプを取り外し、ホースを繋げる。このタイプのボイラーはハロンタウンにもあった為扱いは慣れている。

 

試しにバルブを捻ってみるといい具合の熱湯が流れ出る。

 

「ソォォォォォォォナンスゥゥ!」

 

ワイン樽をゴロゴロと押し転がしながらソウさんが駆け寄ってくる。ナイスタイミング、早速桶にホースを突っ込みバルブを開け放つ。

 

 

じょぼぼぼぼぼぼぼぼぼ  

 

 

白い湯気が立ち上り、見る見るお湯が溜まっていく。樽に不備は無くしっかりとお湯を受け止めているようだ。

 

 

じょぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ

 

 

「さて、ソウさん」

 

「ソーナンス?」

 

「この樽に二人一緒に入るのは流石に狭い。順番に入ろうか」

 

「……ソーナンス」

 

了承してくれたようだ。

 

 

じょぼぼぼぼぼぼぼぼぼ

 

 

丁度良いお湯の量になった樽を間に置き向かい合う二人。その姿はまさにガンマンの決闘のようだ

 

 

じょぼぼぼぼぼぼぼ

 

じょぼぼぼぼ…

 

じょぼぼ…

 

 

ぼ…

 

 

……………

 

 

 

 

「ジャンケンポンッ!!」

 

「ナンスゥッ!!」

 

一瞬の攻防!

 

「俺の勝ち!なんで負けたか明日までに考えておいて下さい!ほなっ!一番風呂いただきますッ!!」

 

高らかにパーを掲げ樽に滑り込む!服は既に脱ぎ捨てた!

 

グーを掲げたソウさんは絶望する。それもそのはず、

 

 

 

▼ソーナンス は チョキ が だせない!

 

 

 

平べったい手の構造的に無理だ!

 

 

「ソーナンスゥゥゥゥ!!」

 

「ははは、いい湯だなぁ!いい湯だなぁ!」

 

ソウさんの熱烈な抗議には耳を向けず、久しぶりの湯船を楽しむ。

 

 

 

思えば、旅に出るまで落ち着いて夜空を見上げるなんてことは無かったかも知れない。ずっと同じ空の下にいたのに、初めて出会った気分だ。

 

きっと、誰も見ていなくても空はずっと美しくて、今僕が消えても変わらず、ずっと美しいのだろう。誰の為でもなく。

 

 

 

そんな夜空が、唐突に掻き消えた。

 

 

 

「ソォォォォォォォナンッスッ!!!」

 

「おいおいおいおいソウさんッ!?」

 

ソウさんが我慢出来ずに湯船に飛び込んてきた。アンタ図鑑じゃがまんポケモンって紹介されてただろ。

 

じょぼぉん!!

 

少ない隙間に体を捩じ込む形で、ソウさんが湯船に入り込んだ。

 

「ソーナンスッ!」

 

何処か満足げに湯船に浸かるソウさん。黒い尻尾もニヤけた顔をしているようだ。ちなみにソーナンスの尻尾には目があるが水中でも大丈夫なんだろうか。息とかはしないのだろうか。

 

入っちゃったなら仕方がない。狭いが観念しよう。入り込んてきたソウさんの頭に腕を乗せ、二人で夜空を見上げる。

 

「いい湯だなぁー」

 

「そぉなんすぅ〜」

 

 

 

仲睦まじい二人の姿を見ているのは夜空と野良ロトムだけだ。

 

ここは終末、エンジンシティのど真ん中。往来で焚き火をしようと、野宿をしようと、ましてや風呂に入ろうと、咎める人は誰もいない。

 

ふたりぼっちの町の王さまだ。




次回が旅の始まりの話になります。

追記
終末ガラルメモ
今後もちょくちょく登場する予定の野良ロトムとロトム対策について。ガラル地方では白物家電からカメラ、スマホ、自転車までロトムが入っています。もはや生活に密着どころの騒ぎではないロトム。しかしある日突然人類が消えたら彼らはどうなるんだろうという妄想から生まれたのが彼ら野良ロトムです。家電に住まう意味を失ったロトム達が夜な夜な群れて街を飛び回り、無人の街を照らす。大好きなイタズラをしようにも驚いてくれる人間はもう居ない。悲しみが深い。

ロトムが機械に乗り移るには特殊なモーターが必要との事ですが乗り移られはしなくても、強力な電磁波を使って機械にイタズラは出来るので対策は必須です。今回は電波を弾くアルミシートを被せることでロトムを近づけないという方法を取りました。他にも実用的なロトム避け対策のアイデアがございましたらご連絡下さい。もしかしたら旅人達が実践するかもしれません。

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