終末ガラルで、ソーナンスと   作:すとらっぷ

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幕間、何にもない日常回です。


紫の欠片と二人

朽ちて倒れた標識には「07」と記されている。ここは七番道路、旅の分かれ道。東に進めばルートナイントンネル、その先のスパイクタウン、北に進めば8番道路、遺跡の迷宮。その先にはキルクスタウン。

 

道の端にはトゥクトゥク(屋根付き三輪バイク)が停車している。今日はどこにも進まない日だ。西の空に雲は無く、空気もカラッとしている。雨は降らないだろう。移動というものは知らず知らずの内に体力を使っているものである。旅において何もしない日というのは案外重要だったりするのだ。

 

とはいえ、本当に何もしないのは暇だ。荷物の整理、備品の記録、道具の修理、やることはいくらでもある。

 

「ソウさんもやるか?お裁縫」

 

僕は地べたに座り、穴の空いた服をチクチクと補修する。問いかけにソウさんはまったく興味を示していない。そのへんに生えていたタンポポを齧りながらギターを弾いている。

 

「ソウさん、こういうことには全く役立たないんだよなー」

 

「ソーーナンスーー」

 

歌うのに忙しいと言わんばかりに声のボリュームを上げやがった。ソウさんは妙に手先が器用なのだから料理やら裁縫やら手伝ってくれてもいいのだが、さらさらその気はないようである。

 

さて、今僕はボロ布を使ってシャツを適当に補修する。布同士で色も合わせていないし縫い方も適当だ、オシャレさはない露骨な継ぎ接ぎだが、着るのはどうせ自分なのであまり気にしない。それにこの旅においてファッション性なんて必要ないだろう。

 

「そろそろ厚手の服に替えたいな。だいぶ寒くなってきた」

 

今はワイルドエリアで奪ったコートを着ているが、本格的な冬が訪れる前には更に暖かい上着が必要になるだろう。

 

「…裏地に綿敷き詰めるのもアリかなぁ」

 

旅の荷物はできる限り増やしたくないため、既存の服を上手く使いたい所だ。このコートを冬用に上手く生まれ変わらせることが出来るならそれに越したことはない。ワタシラガの生息地ってどこだっただろうか。…ああ、ワイルドエリアだ、諦めよう。もう二度と戻りたくない。

 

コートにも穴が空いていたため補修をし、ふとソウさんを見ると曲に釣られたマーイーカやフォクスライに囲まれている。ソウさんはあくタイプ苦手なので困惑しているようだ。まあ敵意が無さそうなので放っておいていいだろう。

 

僕の方には野生のニャイキングが絡んで来ているが軽くいなす。どうやら胸についているターフバッチが気になるらしい。輝くものが気になるのはニャースタチと変わらないようだ。

 

「…流石にそれは渡せないよ。これで我慢して」

 

ナックルシティで見つけた瓶の王冠を渡しておく。満足してくれたようで何より。

 

軽くじゃれながら一息つく。太陽が頂上に登った。そろそろ昼時かな。

 

 

 

「…食料の整理を始めた途端にこれだよ」

 

「ソーナンスーー!」

 

裁縫を一段落させ、昼食がてら食糧の整理をしているとソウさんは器用に自分で缶詰を開けて食べ始めた。…僕も残量確認したら食べよう。ナックルシティで補給したため、食糧は豊富だ。それに、その辺りににきのみがなる木もあったため心配はなさそうだ。

 

「…ん?なんだこれ」

 

整理した食糧をリュックに戻そうとすると、奥底に見慣れないものを見つけた。取り出してみると紫色の鋭い欠片だった。

 

「ああ、これか」

 

先日ナックルシティのジムで見つけた謎の欠片、30cmくらいの、光を紫色に怪しく反射させるその欠片には不思議な力を感じる。石や金属ではなさそうだが、手触りから丈夫さと鋭さを感じる。綺麗だったし、後で使えそうだったためリュックに放り込んだのだった。今の今まで忘れていたが。

 

「研いでナイフにしようと思ってたんだった。ご飯食べたら他のナイフと一緒に研ごう」

 

缶詰パンと一緒にきのみを食べ、水を汲んだバケツに砥石を入れておく。包丁の研ぎ方は母と暮らしているときに学んだ。社会崩壊後の金属製品は貴重だ、長く大切に使うべきである。

 

「ソウさんも研ぐ?」

 

「ソーーナンスーー」

 

またギターに逃げやがった。仕方ない、音色に合わせてナイフを研ごう。

 

紫の欠片は生物の爪のように鋭い。軽く研ぐだけで立派なナイフになりそうだ。シャリシャリと研いでいく。

 

 

 

 

気がつけば日が暮れていた。紫の欠片は想定していたよりも遥かに硬かった。物凄い時間を使ってしまったようだ。手元の欠片はなんとなくだがより一層輝きが増したように思える。本格的な柄は作れないため、丈夫な布を研いでいない部分に巻いて完成にしておこう。

 

「…まあこんなもんでいいか」

 

形は包丁に近い。元の形が欠けた爪のようであったため、それとあまり形は変わらない。もしかしたら本当にポケモンの爪だったのかもしれない。

 

「ソーナンス?」

 

ソウさんが様子を見に来たようだ。

 

「ソウさんも見る?包丁」

 

「ソーナンス…」

 

その刀身は薄紫に発光しているかのように光を反射する。そこにはどこか美しさすらもあった。

 

「試し切りでもしてみようか」

 

夕食のためにとっておいたきのみをいくつかカットしてみることにする。ナナシのみが手元にあった。

 

「うおっ…」

 

ただ実の上に刃を乗せたくらいの力しか堕していない筈なのに真っ二つに切れる。

 

「…ナナシって硬いきのみの筈…だよな?」

 

「…ナンス」

 

ソウさんが半分に割れたナナシを齧りながら答える。

 

「カゴのみもイケるかな…」

 

手持ちのきのみの中では最上級に硬いカゴの実でも試してみる。スッパリ切れた。とてつもなく硬いきのみがスッパリと。

 

「…はえー」

 

「…ナンスー」

 

試しに缶詰に刃先を突き立ててみるとスルッと刺さった。そのまま缶切りの要領で開けてみる。難なく開く。刃こぼれもない。

 

「…とんでもないものを拾ってしまったかもしれない」

 

缶詰と実を食べ終わると、すぐに周りの木を使って簡易的な鞘を作った。他のナイフ以上にちゃんと保護しないと危険そうだ。

 

「…まあ、便利だからいいか」

 

ありえないくらいの不思議物体だが、気にしないことにした。何で切ろうと今日のご飯は美味しかったのだ。

 

 

 

焚き火に薪を放り込もうとするが、手元に丁度いいサイズのものがなかった。紫のナイフで薪を割ってみる。難なく割れてしまうのだから仕方ない。なんとなくだが紫のナイフは不本意そうだ。

 

見上げた夜空には星が浮かんでいる。ソウさんはギターを抱えたまま眠ってしまったようだ。吸い込まれそうな夜空寂しくも、暖かい。人ひとり居ない自然の中で、孤独な宇宙に思いを馳せるのも悪くないだろう。

 

「明日はどこにも進もうかな」

 

独り言は夜空に溶けていった。




前回の最後に手に入れた紫の欠片を加工したらとんでもない切れ味の刃物が生まれました。凄い重要なアイテムに見えますが前回の話を書いている途中に突発的に思いついたため、今後物語に大きく関わるかは完全に不明です。ただ旅は多少楽になりそうです。何かと使いそうです。

終末ガラルメモ
紫のナイフ(正式名称未定)

ナックルシティの地下から流れてきた謎の欠片をカイ君が加工したものです。美しく濃い紫色をしています。刀身はまるで夜空のようとも例えられます。作中では元はポケモンの爪だったのではないかと考察されていますが詳細は不明。金属より軽く、金属より鋭い、ただの爪とは思えない程の切れ味を持っています。カイ汲んだ曰く不思議な雰囲気を持っている、とのことですがナチュラルにナタ代わりに使ったりしています。包丁サイズでナタ以上の働きが出来る作中最高のチートアイテムといっても過言ではないでしょう。

その正体は…?
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