終末ガラルで、ソーナンスと   作:すとらっぷ

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ミュウツーにボコられながら書きました。


ゴルーグと技師の橋と二人

スパイクタウンを旅立ちすぐ、浜辺にはトゥクトゥク(屋根付き三輪バイク)が停車している。その横には青年とソーナンスが立っていた。青年は地図を片手に景色を眺め、ソーナンスはエネルギーバーに齧り付いていた。

 

「なんだこれ、地図に載ってないぞ?」

 

地図と景色を見比べる。やはり違う。明らかに異質なものが存在した。

 

「ソーナンス?」

 

ソウさんは不思議そうに僕を眺めている。口元についた食べカスを拭き取りつつ、地図を畳んだ。

 

眺めた景色には、控えめに舞う粉雪と分厚い流氷、そしてそこに架かる石橋であった。

 

立派な石橋だ。幅はそれほど広いわけではない。乗用車ではすれ違うことは出来ないだろう。だがバイクで通ってもビクともしなさそうだ。しかしこれは…。

 

「この橋は最近出来たということかな?」

 

持っていた地図には橋など存在していない。在りし日のトレーナー達はこの水道を自転車で渡っていた、もしくはなみのりが使えるポケモンで渡っていたと聞くが、僕たちはそのどちらの手段も使えない。そのためこの場所を渡ることは諦めていたのだが。

 

「あまりにも長くて向こう岸が見えないけど…この橋でキルクスタウンまでいけるのかな」

 

「ソーナンス!」

 

ソウさんは鳴き声と共に水辺の向こうを指し示す。

 

「そうだね、とにかく行ってみようか」

 

橋が途中で途切れていたり、危なそうなら途中で引き返せばいい。見たところではかなり丈夫そうだ。すぐさま崩れることはないだろう。

 

「行こう」

 

エンジンを吹かす。ノロノロと徐行。

 

 

 

流氷が流れている。薄らと粉雪が降る。景色を眺めながらこの橋をゆっくりと渡る。このあたりはもう完全に冬のようだ。ガラル地方では地域によって気候が大きく変わることはあるが、この地域はとにかく冷える。このコートでは少し心もとない。

 

「キルクスの方は雪が積もっていたりするのかな」

 

ブラッシーの駅で見た鉄道会社のパンフレットを思い出す。スキーをするユキノオーと美女の写真だ。

 

「ソォ…ソォ…ナンスッ!!」

 

「クシャミか、それ」

 

「ソーナンス!」

 

トゥクトゥクの後席で、ソウさんはギターを抱えながら凍える。頭にちょこんと乗せただけのニット帽ではオシャレ以上の意味は無さそうである。マフラー代わりに布を首と思しき場所に巻いているようだ。

 

「…ん?」

 

僅かに違和感を感じた。揺れか?トゥクトゥクの揺れとは違うだろう、橋の揺れのようだ。

 

ふと橋の先を見る。途中で橋が途切れていた。向こう岸がすぐそこに見える。

 

「惜しいな…もう少しで向こうにつくのに…」

 

「ソーナンス…」

 

これは崩れたのか?いや、多分違う。この橋は作りかけだ。

 

そのとき、ゴゴゴゴと唸るような音が鳴った。

 

「ソーナンス!?」

 

「なんだ!?……水の中からだ!」

 

吹き上がる水柱、巨大な影。現れたのは……

 

「グォォォォォォォォ!!」

 

「ゴルーグ……?」

 

水の中から現れたのは巨大なゴルーグであった。通常のゴルーグより巨大に見える。そして、所々体が崩れているように見えた。

 

「なんでこんなところにゴルーグが?」

 

ゴルーグの生息地は本来このあたりではなかったはずだ。一応警戒するが、このゴルーグには僕達に敵意を持っているわけではないようだ。キョロキョロと辺りを見渡し、水に潜り、そしてまたキョロキョロしている。

 

「何かを探してる……のかな?」

 

「ソーナンス?」

 

妙な動きをするゴルーグをしばらく眺めていると前方から気配を感じた。

 

「…お?なんだアンタ?」

 

青いジャンパーを着た、細身の男だ。見たところでは武器のようなものは持っていない。向こうもさして警戒している様子は無さそうだ。

 

「すいません、橋があったもので勝手に通ってしまいました。僕はカイ、旅をしています。こっちはソウさん」

 

「ソーナンス!」

 

「……そか、悪いな。この橋は未完成だ」

 

男は橋の縁に腰掛け、ゴルーグを眺める。タバコを咥え、マッチを使い片手で器用に火を灯す。

 

「もしかしてこの橋は貴方とゴルーグが?」

 

「ん?ああ、そうだな。見るか?モンスターボール」

 

男がジャンパーのポケットから取り出したのは紛れもなくモンスターボールだ。今となっては超貴重品である。

 

「おお…凄い久しぶりに見た」

 

「ソーナンスー」

 

男はモンスターボールをしまう。

 

「俺はコイツと橋を作ってる」

 

「通る人はいるんですか?」

 

現在僕が通ってはいるが、それでもかなり珍しいはずだ。

 

「まあ、いないわな。ちょっと前まではスパイクから旅をするガキもいたんだがここ数年は見てない。ま、ライフワークみたいなもんよ」

 

煙を吐き出しながら橋を見る。

 

「あー、自分語りしていいか?人と会うのが久々でね、少し話したい」

 

「ええ、是非、お願いします。」

 

そう言うと彼は立ち上がり、タバコを投げ捨てた。

 

「ここじゃ寒いからな、場所変えよう。着いてきて」

 

このあたりではあまり心配無いだろうが、一応ロトム避けシートをトゥクトゥクに被せておく。それにしてもこの橋にはどこにも建造物のような物は見当たらなかった。一体どこに連れて行こうというのだろうか。

 

少しの間橋をさかのぼって歩くと、途中で足を止めた。

 

「ここだ、ここを降りる」

 

男が指した先にあったのは橋の縁に引っ掛けられた縄梯子だ。全く気づかなかった。

 

橋の影で気づかなかったが橋の下に船がある。

 

「ようこそ、我が家へ」

 

家をそのまま積んだような船。これは、

 

「屋形船?」

 

「そ、この時期に外で寝泊まりするのは過酷だからな。足元気をつけな」

 

木製の屋根の上にゆっくりと足を下ろす。

 

「ソォォォォォ!!?」

 

足を滑らせたソウさんが落ちてきて、屋根の上をバウンドする。水に落ちる前にキリギリでキャッチ。

 

「あっぶない…」

 

「ソーナンス…」

 

男が障子を開けると暖かい空気が外へ出てくる。ストーブだ。着いてきたゴルーグが室内を眺める。

 

「ああ、悪いなゴルーグ。戻って休みな」

 

ボールから赤い光が照射され、ポケモンがボールの中に収まる。改めて見ると不思議な光景だ。

 

「まあ適当に座ってくれ。」

 

置いてあった薄っぺらい座布団に腰を下ろす。ソウさんも隣にぺたんと座る。

 

ストーブの上においてあったヤカンからお茶を淹れてくれた。男が湯呑に口をつけるのを見て、僕も飲み始める。

 

「俺はねぇ、昔から橋作ってたんだわ。見たことある?ワイルドエリアの橋」

 

「もちろん、僕も通ってきました」

 

ワイルドエリアでは橋の柱の間近でカビゴンが暴れまわっていた。あの魔境でロクに整備もされない中、あの橋は姿を変えずに残っていた。彼があの橋を作った技師だというなら、彼の腕は確かなものだろう。

 

「まあそれはただの自慢だけどな。それに実際に働いていたのはゴルーグ達だ。」

 

懐のボールを撫でているようだ。

 

「ま、こんなふうに人間が消えちまったら新しく橋を作る必要も無い。依頼もない。することも無い。生きがいってもんが無くなっちまってよ。その時思い出したんだ、消滅で中止になった建設計画があったってな」

 

「それが、この橋ですか?」

 

「そそ。俺も残り少ないだろう人生楽しい事だけして消えてやろうと思ったんだけどな、やることなーんにも思いつかなかったんだ。それで唯一やってみたいって思ったのがこの橋だったんだ」

 

「ということはこの橋はおひとりで?」

 

「俺と、ゴルーグでな。あのゴルーグとずっと一緒に仕事して来た。あのゴルーグは老齢でな、体も所々崩れてる。一体アイツは何歳なんだろうな」

 

ゴルーグは古代人が作ったなど様々な伝説があるが、あのゴルーグはその中でも古いものだという。当時の学者が検証したそうだ。

 

「アイツは出会ったときから石を積むのが上手かった。もしかしたら古代の城壁でも作ってたのかもな」

 

ポケモンという生物は不思議なものだ。単体で人類の歴史すら超越しかねない寿命を持つ者もいる。かと思えば僕の隣でヨダレを垂らして寝ているポケモンもいるのだ。

 

「ナンスぅー……」

 

コートをかけて寝かせておく。

 

「ま、そんなわけでゴルーグと一緒に橋を作ってるって訳だ」

 

湯呑のお茶はすでに冷めていた。男は再びヤカンからお茶を淹れる。

 

「良ければ君の話も聞かせてくれ。」

 

僕の話…か。そういえばワイルドエリア前半を旅していた頃、画家のクサカベさんに道中の話をしたことはあった。しかし、彼が求めているのはそういうことじゃない。僕がなぜ旅をしているか。

 

お茶を一口含み、何をどう話すかを考える。

 

「僕は自由に生きようとした」

 

何故?

 

「幸せを見つけるために、幸せとは何かを見つけるために」

 

 

 

今までの旅で、僕は何人かの人間に会ってきた。旅の始まりは母だった。不自由な体でありながら、誰よりも自由に生きた人だった。

 

次にあった人間は射手だった。彼もきっと自由だった。自由に惑わされ、奪い、奪われた人だった。

 

クサカベさんはこれから自由に生きようとする人間だった。すべてを失った人間が、それでも生きようとする姿を見た。

 

ヤローさんは消える間際に何かを取り戻した。彼が自由に出会ったかはわからない。それでも彼は最後に幸せを取り戻した。その姿を僕は見た。

 

直接は会わなかったがキバナと出会った。誰よりも強かった彼と、弱かった部分を守った人の繋がりを見た。彼の生きた証に僕は強さを見た。

 

昨日、コンポさんに出会った。たった一人で待ち続ける人の強さを見た。送り出す強さを見た。僕はその強さに送り出された。

 

 

 

自由の形、幸せの形、強さの形、僕は見てきた。

 

 

 

彼らを見て、彼らの話を聞いて、僕は答えを見つけただろうか。僕は幸せを見つけただろうか。

 

 

 

今、僕は幸せだろうか。

 

 

 

 

 

多分、そんなことを話したと思う。

 

 

 

 

 

 

その日、僕は技師さんの屋形船に泊めてもらった。

 

その日、出会った彼らの夢を見た。

 

彼らと僕とを比べて幸せを語ってはいけないのだ。比べて見つけた幸せなんてものはきっと紛い物だ。

 

アイツよりは自分の方がマシだから幸せ。それは本当の幸せか?違う、絶対に違う。まだ僕は自分の幸せを語ることは出来ない。ただ、これまでの旅路のおかげで自身を持って否定出来る。

 

そんな腐った幸せは僕には不要だ。他者と比べて出来た幸せじゃない、自分の幸せを。自分の自由を。そして、その為の強さを。

 

 

 

「ソーナンス!」

 

「…寝言か」

 

そんな決意の夢はソウさんの寝言で打ち切られる。ヨダレを垂らしながら幸せそうな寝顔だ。

 

「…そうだな、振り返るのに大事な存在を忘れていた」

 

この旅で出会った存在は人間だけじゃない。ソウさんやロトム、あの強かな3匹にロゼリアやスボミー、他にも沢山いた。

 

「人の強さは繋がりの強さ…か。そうだな、僕は結局今まで、孤独じゃなかった」

 

僕の隣にはこの不思議な生物がいた。幸せと自由はまだはっきりと掴めない。でも、

 

「僕の強さは…ソウさんかもな」

 

何か、少しだけ答えを垣間見た、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

朝、僕は轟音で目を覚ます。

 

「ソォナンス!!?」

 

驚き飛び起きたソウさんがつまづき、僕の腹にダイブした。

 

「おえっ……ソウさんおはよう…そして何か言うことは?」

 

「ソナンス…」

 

スマンですみたいなイントネーションで手刀を切る。故意ではないので起こってもいない。それにしても今の音は?

 

音と共に揺れる船体に足を取られながら船の外に出ると、両手に何か巨大なものを持ち上げるゴルーグが目に入った。その白く大きい物は…

 

「流氷を持ち上げている?」

 

「正解。おはようさん」

 

「技師さん、これは?」

 

ふざけたような笑い顔で技師は答える。

 

「橋の開通さ、期間限定のね」

 

ゴルーグが持ち上げるその氷塊はまさに橋の足りない部分を埋めている。

 

「君が眠った後で、流氷を削ったのさ。上手くいってくれたよ」

 

氷塊を支えるゴルーグもどこか誇らしげに見える。

 

「旅人が橋を渡ろうとするなら、技師である俺は君を渡さなきゃいけない。それが俺の生きる意味で、それが俺の幸せだ」

 

タバコに火をつけ、煙を吐く。

 

「俺の橋を、その記憶を一緒に連れて行ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

技師とゴルーグは旅人を送りだした。完璧な仕事だった。

 

老齢のゴルーグに、技師は寄り添う。その巨体から溢れる光は、他の個体と比べてあまりにも弱い。

 

技師は知っていた、ゴルーグ自身も知っていた。自分の体は限界に近いと。だからこの橋は我々の最後の仕事だと。

 

「なあゴルーグ、この橋、材料の岩が無くて途中で途切れちまったんだったな」

 

そうだね、とゴルーグは頷いた。

 

「でもな、さっきの方法を使えば、橋は完成するんだ。幸い、柱のことを考えなければ橋は完成する。ギリギリ、材料は足りるんだ」

 

そうだね、とゴルーグは頷いた。

 

「なあ、ゴルーグ。俺とお前で、この橋にならないか?永遠にさ」

 

 

 

 

「死に場所そのものに、なってみないか?」

 

そうだね、とゴルーグは微笑んだ。

 

旅人を送り出した彼らは、橋を作る。

 

自分の死に場所を、自分で作る。永遠に残る、繋がりとして。繋がりそのものとして。




おそらく旅の真ん中くらいのつもりで書きました。

終末ガラルメモ
ゴルーグ橋
ゲーム本編ではキルクスとスパイクを繋ぐ道は流氷と海のみです。ロトム自転車がなければ行き来することは出来ません。即ちトゥクトゥクしか無いカイさんソウさんはこの海域を通ることはできません。

ガラル地方はそらをとぶタクシーが発達しているためそれほど問題にしていないのかもしれませんが、結局陸路がなければ輸送など色々大変だろ!?と考え、アクアライン計画でもあったらいいなぁと考えて石橋が生まれました。

書きながらキノの旅のエピソードを思い出しました。あの話もある意味橋になった人の物語でしたが、彼らが橋になるとき、そこにある幸せは同種か全く異なるものか。そんなこと考えてました。
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