終末ガラルで、ソーナンスと   作:すとらっぷ

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旅立ちの一人

母は出来る限り丁重に弔った。不格好ではあるが棺桶を作り、花を添え、庭に埋めた。棺桶を彩る花はスボミー達が分けてくれた。専門家ではないので正しい方法では無いだろうが、出来る限りのことはした。

 

抱き上げた母の体はいつもよりずっと軽く感じた。

 

ただの岩ではあるが墓石を置いておく。僕はその墓前に座った。剥げた芝生の上はやはり冷たい。

 

「母さん、僕は旅に出ようと思うよ。旅なんかした事ないし、うまくは行かないだろうけど、行けるところまで行ってみようと思う」

 

庭ではスボミー達が日光浴をし、どこからか侵入したウールーが残った芝生を食んでいた。

 

「ほら、母さんはそんなに寂しくなさそうだし」

 

墓石の周りで野生のポケモン達が昼寝をしている。よく日が当たり暖かいのだ。

 

「まあ消滅が始まる前は10歳の子供でも旅してたんだ。そりゃ状況は今と昔じゃ全然違うけど」

 

傍らに置いたバッグから家に残っていた保存食を開封し、半分に分ける。半分墓前に供えた。デボンの登山兼非常用携帯食料ブロック。モソモソした何とも言い難いお味だが栄養バランスだけは完璧という代物。しかし母はこれを好んで食べていた。食が細くなってからもふやかして食べていた。一体この味のどこが母を駆り立てたのだろうか。

 

手に持った方の半分を口に含む。うむ、やはり何とも言い難い。嘘、不味い。

 

「やっぱり理解出来ないよ母さん」

 

そう墓石に笑いかけると包装を握って丸めてポケットに突っ込んだ。

 

「家にはもうほとんど何も残ってないし、旅に必要なものは道中の空き家から色々拝借する。褒められたことじゃないけど文句言われる相手もいないでしょ」

 

そう言って立ち上がり、バッグを背負った。丈夫なレザーボストンバッグ。昔、父が使っていた物だ。

 

「それじゃ、行ってくる」

 

振り返ると、ロゼリアがこちらを見て立っていた。

 

「どうした?」

 

するとトテトテと庭の端に駆け出す。ついてこいという意味だろうか。

 

「何かあるのかロゼリア?」

 

ロゼリアが手の花で指し示すのは昔花壇だった場所。今となってはスボミー達の寝床になっている場所だ。

 

そこに刺さっているのは園芸用の小さなシャベル。

 

「ロゼッ!」

 

「…持っていけってことか?」

 

「ロォゼッ!」

 

確かに、旅においてシャベルは実需品だ。主にトイレ用に。

 

このスコップは確か母が買ったものだった。まだ母が元気だった頃は共にガーデニングをしていた。そのときの良質な土に引き寄せられてやってきたのがロゼリア、あの頃はまだスボミーだった。

 

「ありがとう。…大切に使うよ」

 

シャベルの穴に紐を通し、バッグに引っ掛ける。

 

「ロゼリア、スボミー達とこの家を頼んでもいいか?」

 

「ロゼッ!」

 

言葉が通じているか通じていないかはわからないが頼もしく感じる。

 

ロゼリアの頭を撫でると、再びバッグを背負い直し、この人生の大半を過ごした家を一望する。

 

 

「お世話になりました」

 

 

行こう。答えを探しに。

 

 

 

僕は最初の一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

まずはハロンタウン内で何か使えるものを探そう。近所に無人の民家がある。有名なトレーナーの生家だ、表にはバトルフィールドまである。

 

「…お邪魔します」

 

一応挨拶してから民家の扉を開けた。

 

中は綺麗なままだ。この町は治安が悪化する間もなく大半の人間が消えた。家を荒らす者もいなかったのだろう。

 

「生きるためだ、すいませんね」

 

キャンプ道具でも残っていてくれれば大当たりだが、なければダンボールや新聞紙があるとありがたい。寝具にもなれば燃やすこともできる。火もほしい。家にマッチが2箱あったので持ってきたが、少し心細い。

 

火ポケモンでも捕まえられれば楽なんだろうが、そもそもモンスターボールがない。昔はありふれていてどこにでも売っていたボールだが今となっては貴重品だ。  

 

モンスターボールの販売元は主にシルフとデボンの2社が大手だ。しかしガラルにはこの2社の工場は存在しない。地元企業のマクロコスモスが一部ライセンス生産していたはずだが、あくまで一部でありボールの大半は他地方から買い付けるしかない。

 

ガラル内でモンスターボールの供給が無くなるが、需要は無くならなかった。残った人間は自分が生き残るために便利なポケモンを捕獲しようとした。

 

しかし焦って捕獲しようとしてもうまく行かないものでボールを浪費、なまじ捕獲してもその人間も消滅。

 

結果、かつて栄花を誇ったモンスターボールはどこにもなくなった。

 

 

 

そんな回想を交えつつ、ランプと携帯食料、水筒、何枚かタオルを拝借する。タオルは水のろ過に使える。

 

「流石にキャンプ道具までは見つからなかったか…」

 

取り敢えずは上々と判断し引き上げようと踵を返す。

 

「そういえば、この家ガレージのような物があったな。ガレージか倉庫かはわからないけど、何か使えるものがあるかもしれない。」

 

忘れ物がないか周囲を確認しつつ玄関まで進んだ。

 

「お邪魔しました」

 

一応の礼儀は大切だ。

 

 

 

 

「さて、開けてみるか」

 

外に出てガレージを確認する。重そうなシャッターだ。本腰を入れて開けなければならないだろう。荷物を傍らに置き、腰に力を入れ、シャッターを持ち上げる。

 

「ふんっ!!!」

 

ガラララララララララ!

 

勢いよくシャッター開ける!

 

 

 

 

目の前が水色に染まった

 

 

 

「ソォォォォォォォナンスッ!!!!?」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 

 

 

何者かがシャッターの奥に立っていた!

 

「おおおおおおおお!!」

 

「ソォォォォォナンスっ!!」

 

「おおおお…お?」

 

「ソォ…ナンス?」

 

 

 

全く同じポーズで驚き、同じポーズで固まった。

 

 

 

 

こうして、ここから、一人と一匹は二人になった。




今までのエピソードのあとがきに「終末ガラルメモ」もしくは「在りし日のガラル」が追加されました。「終末ガラルメモ」にはこの作品のオリジナル要素の解説、「在りし日のガラル」には作中に出てきた原作要素の元ネタを紹介しております。ぜひともご一読下さい。

在りし日のガラル
今回登場するスボミーとロゼリアについて。ポケットモンスターソード・シールドの主人公の家の前にはスボミーがいます。今作のスボミーは彼らという設定です。ハロンタウン周辺にスボミーはいないので彼らは主人公のお母さんの手持ちなのかもしれないですね。是非原作主人公と生活を共にしてきたスボミー達を観察してみては
如何でしょうか。可愛いことは保証します。
ちなみに終末ナンスでは彼らは野生のポケモンという設定です。

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