終末ガラルで、ソーナンスと   作:すとらっぷ

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日刊ランキング40位いただきました。応援ありがとうございます。この旅の結末を見れるようにこれからも頑張ります!


出会う二人

ガレージのシャッターを開けたところ、僅か数センチ前に顔があった。

 

「びっくりした…ポケモン…?」

 

「ソーナンス」

 

相手のポケモンも落ち着いたようで脱力している。

 

コイツは…ソーナンスだ。直接は見たことがないが本で見たことがある。何故かこのソーナンスは青いキャップを被っていた。サイズは合っていないようである。

 

「ここはコイツの家だったのか…?」

 

独り言のように呟くと

 

「ソォォォナンス!」

 

元気の良い答えが返ってきた。

 

「…言葉が通じてる?」

 

「ソォォォナンス!」

 

このポケモンは確かソーナンスというポケモンだ。エスパータイプなのである程度考えが読めるのかもしれない。…まあこのポケモンの生態にエスパー要素はほぼ無いのだが。

 

「ええと…何か使える物資を探してるんだが、いらないものがあれば分けてもらいたいんだけど…。」

 

「ソーナンス!」

 

快く迎えてくれるソーナンス。遠慮なく中を覗かせてもらう。

 

「ソーナンスー♪ソーナンスー♪」

 

何だか楽しそうに歌っている。

 

この家から人が消えてから久しい。恐らくこの家のポケモンではなく勝手に住み着いたのだろう。そしてひとりぼっちだった。

 

元々ソーナンスは洞窟など暗い場所に群れを作って生活するポケモンだ。何かの拍子で本来の生息地から離れたところに現れることは多々あるが、群れるポケモンがひとりぼっちだったのは寂しかったのだろう。となるとこのガレージは洞窟代わりか。確かに暗闇。

 

「ソーナーンスー!」

 

それにしてもこのソーナンス、人懐っこい。まるで自慢するようにガレージを見せてくれる。中でも一番アピールしているのは真ん中に鎮座する車両だ。

 

ガレージに保管されているこれはバイクだろうか?しかし普通のバイクではない。前一輪、後二輪の三輪バイク。席も同じく前に一人、後ろに二人を載せられるようだ。

 

そして最大の特徴として、屋根がある。

 

雨や日光を凌げるバイクとは素晴らしい。三輪という点でも安定感があり素晴らしい。

 

問題はちゃんと動くかどうかだが…。

 

「ソーナンス、動かしてみてもいいか?」

 

「ソーーナンスッ!」

 

快諾してくれたようだ。

 

操作方法は原付バイクと同じく単純なものだ、僕でも運転出来そう。…今の時代に道路交通法など無いに等しい。無免許運転上等。

 

キーは既に刺さっていた。キーを捻り、ブレーキに手をかける。スタータースイッチを押した。

 

 

ブロロロォォォォォォン!

 

 

エンジンが唸りを上げる。

 

「燃料駆動の方が…電気式の方が便利だけど、燃料駆動のほうがパワー出るかな」

 

まだガラルに人が溢れていた頃、エネルギーは化石燃料から新エネルギーへの変化の過渡期だった。

 

当時の動力はバイオエネルギーか電気かの2択だったと思う。もしくは一部水素か。時々ポケモンの力も借りていた。

 

消滅当時、こういった車両は電気エネルギーへの完全移行を目指していたが、バイオ燃料機関の車両は多かった。途中大きな街に寄れれば燃料には困らないだろう。

 

ガレージ内には簡単な修理キットと「サルノリでも分かるバイク修理のやり方」という本があった。ありがたい、自分の知能がサルノリ以上であることを祈ろう。

 

予備の燃料缶も見つけた。

 

こうしてみると何者かが旅に出ようとしていたように見える。あまりにも準備が出来過ぎだ。

 

「誰かがこれで旅しようとしてたのか…?」

 

それともとんでもないお人好しがいつでもこれを動かせるようにしていた…?それはないか。

 

「何にしても、ここまで致せり尽くせりでこの車両に乗らない手はないだろう。むしろ乗らないと失礼だ」

 

「ソォォォナンス!」

 

ほら、ソーナンスも同意している。自分の中で正当化完了。

 

 

 

貰えるものは全て貰った。お礼も行った。若干罪悪感はあるがすぐに忘れよう。これは泥棒ではない。

 

 

出かける準備は出来た。取り敢えずの目標としてブラッシータウンを目指す。

 

「ソーナンス、ありがとう。これ…名前わからないけどこのバイク、貰ってもいいんだよね?」

 

「ソォォォナンスッ!!」

 

「…じゃあなんで俺に“かげふみ”してるんだ?」

 

全く逃げられない。見事なブロック、バイクに乗り込めない。これがポケモンの特性ってやつか。

 

「ソォォ……ナンスゥ……」

 

バイクはくれるけど出発はさせてくれない。…これはアレか……。アレなのか…。

 

「…君も一緒にくるのか?」

 

「ソォォォォォォナンスッ!!」

 

今日一番の肯定だ。

 

食料、水…その他いろいろ物資……うーん……。

 

 

 

 

まあいいか、どうせこの先僕は長くない。どうせ死ぬか消滅するなら誰かが一緒にいるのも悪くないだろう。食料はまあ何とかしよう。

 

「好きにしな。せっかく後部座席が空いてるんだ」

 

「ソーナンス!」

 

ソーナンスは素早く後部座席に乗り込んだ。なんという素早い動き。

 

「よし、行くかソーナンス!」

 

「……ソーナンス」

 

「不服?」

 

何故か険しい顔をするソーナンス。

 

自分の事を手で指して首を傾げる

 

「ソーナンス?」

 

その後僕の事を手で指す。

 

「…自己紹介…?」

 

「ソーナンス」

 

「ええと、僕の名前はカイ。」

 

「ソー…」

 

なんだかわからないけどよろしくみたいな事を言ってる気がする。

 

「…うん」

 

「…ソォォォナンス?」

 

なんだろう、『じゃあ俺は?』みたいな感じだろうか。

 

「ソーナンス!」

 

どうやら合ってそうだ。………ん?

 

「君の名前…を…つけろって意味?」

 

「ソーナンス!!」

 

強い肯定。名前か。確かに自分の事を「人間!」って呼ばれるのはちょっと違和感があるかもしれない。

 

「名前…名前か…。ソーナンス…ナンス…ソー…。カイ……カイと…ソーナンス」

 

なんだろう…僕とソーナンス…カイとソーナンス…カイとソー…海藻…蒼海…爽快…?ソウ?

 

 

 

「ソウ、なんてどうかな。安直かもだけど」

 

「…ソウ…ナンス?」

 

コイツの特性“テレパシー”なんじゃないか…?なんか『さんをつけろよデコ助野郎』みたいな気持ちが伝わってくる。

 

「ソウさん?」

 

「ソーナンス!!」

 

気に入ったようだ。さんをつけることで安直感が中和されたようである。

 

「ということは僕はカイさん?」

 

『ソーナンス!』

 

なるほど。何故さん付け…。というかソウさんは「ソーナンス!」しか言わないならさん付け意味ないんじゃないか…?

 

「まあいいか。それじゃ、これからよろしくな、ソウさん」

 

「ソーナンス!!」

 

 

 

時刻はまだ昼過ぎくらい、夕方にはブラッシータウンに到着するだろう。まずはそこで一泊、試運転にはちょうどいいだろう。

 

 

 

 

外には日の光が降りている。薄暗い倉庫とは真逆の日の光。

 

 

 

一匹は旅をしていた。しかし途中で力尽きて、とある男に拾われた。そうして、ほんの少しの時間だけともに同じ時間を過ごし、ほんの少しだけ共に旅をした。

 

最後に辿り着いたのがこのガレージだった。

 

男は一匹に言った。「ここにはもう商売相手がいない。俺は商売がしたいんだ、商売相手がいる場所に行ってくる。売れ残りはお前にやる。コイツはお前が売れ。そして取り立てろ。」

 

「いいか、もうこの世界には金なんてものは鼻をかむ紙にもなりはしない。だから金以外に、何か得をしろ。この世界に商売をする生物は人間しかいなかった。でも人間は滅んだ。でも、商売は無くしちゃいけない。金と欲と繋がり、それが商売で、それが人間だ。人間の生きた証だ。」

 

「勝手だが、それを継いでほしい」

 

 

 

一匹が返事をする前に、男は消滅した。

 

残ったのは一台の三輪バイク。男がガラクタから修理し、“商品”にしたもの。代金は…一匹の欲を満たすこと。

 

一匹は最後の商売人になった。

 

そしてその少しあと、一匹は旅人と出会った。

 

一匹はこの旅人から取り立てようと思った。自分が一匹では出来なかった旅をさせてもらおう。この旅人に見せてもらおう、自分の知らない景色を。

 

 

 

好奇心を取り立てよう。

 

 

 

 

 

一人と一匹は、二人になった。二匹になった。




ソウさん、カイさんのさん付けには特に深い意味はありません。ただ二人の旅というわけでほんのちょっと東海道中膝栗毛の弥次さん喜多さんからなんとなくです。名前もフィーリングでソウカイコンビに決定、数ある乗り物からトゥクトゥクを選んだのもフィーリング。フィーリングで書いてます。

在りし日のガラル
今回登場した民家とガレージはホップとダンデの生家です。
ガレージの中は完全に妄想ですが、地味にソウさんが被っているのはダンデの部屋に元ネタがあります。彼は帽子が好きらしく家には大量のキャップが飾ってあります。ソウさんはどうやらそこから気に入った帽子を拝借したようですね。一話ではニット帽を被っていましたがそこは気分で変えるそうです。

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