「ヤバイヤバイヤバイヤバイッ!!」
「ソォォォナンス!!」
原っぱを爆走してるのは一台のトゥクトゥク(屋根付き三輪バイク)。かなり焦っている様子だ。
その後ろから追いかけてくるのはイワーク。物凄いスピードで地上と地中を行き来しながらトゥクトゥクを追いかけ回す。
「クソッ!デカイ図体の癖に速い…!」
サイドミラーで後ろを確認しながら毒づく。
「ソォォォナンスッ!!」
その時イワークが地面に頭だけを突っ込んだ。そしてそのまま地面をめくり上げると次々と岩が隆起し始める!
「ストーンエッジ!?」
岩タイプの中でも高位に位置する強力な技だ。これを使えるイワークはそうそう居ない。つまりこのイワークはかなりの実力者、まともに戦える相手ではない!
「ソーナンス!!?」
「喰らえっ!!」
身を乗り出し、アンダースローでむしよけスプレーを投げつける!
パァン!
イワークの出した岩に運良く当たり、スプレー缶が破裂する!
「グガァァァァァァァァ!!」
「おお…ラッキー!」
「ソォォォナンス!」
かなり予想外だったようで驚きのたうち回る。
「…グガァァァァァァァァァァァァ!!!!」
そして前より更に凶暴そうな声を上げる!
「…ラッキーでは無さそうだな!!」
紫色の炎がイワークの口から溢れる…!
「ソォォォナンス!!?」
「逃げろぉぉぉぉぉぉ!!!」
竜の息吹ッ!!!
ここはワイルドエリア前半、うららか草原。この光景のどこが麗らかなのか激しく問いただしたい場所。
物語は数時間前に遡る。
「これは…越えられないな…」
「ソーナンス…」
ブラッシータウンからガラル鉄道の線路に沿ってエンジンシティを目指していたが、生憎途中で土砂崩れが起こっていた。
それだけならまだ良かったが不運は続く。ヨクバリスとホシガリスの群れが襲いかかってきた。命に別状は無いが食料を軒並み持っていかれてしまった。
「ソウさん、これは死ねるな」
「ソォォナンスゥ!!」
土砂崩れを迂回し、どうにか山越え出来ないか考えたが現実的ではない。
そして早急に食料と飲み水を確保しなければならない。
「…行くか、ワイルドエリア」
ワイルドエリアには水も食料も豊富だ。過去にワイルドエリアを管理していた職員の詰所や遺物もあるだろうしサバイバルするにはもってこいではある。
しかしその多くの利点とは引き換えに危険が多い。
凶暴で強力なポケモンがそこら中にうろちょろしている。キテルグマの群れに囲われているなんてホラーも現実になるのだ。
そしてもう一つの危険要素として異常気象がある。
とにかく気候変動が激しい。さっきまで晴れていたのに数歩歩けば砂嵐、吹雪、大嵐。そんなことがあまり前に起こるのだ。油断すればすぐに遭難する。
だから極力迂回したかったのだが、背に腹は変えられない。
その結果がこれだ。
「ソウさん…生きてるか…」
「…ソーナンス」
先程の虫よけスプレーの目潰しが効いたようで直撃は免れた。しかし、2発目は避けられそうにない。
「グガァァァァァァァァァァァァッ!!!」
トゥクトゥクは横転しているが上手く転べたようで運転に支障は無さそうだ。不幸中の幸いか荷物はヨクバリス達にかなりの量を持って行かれたため影響は少ない。
立て直して走れるか…
「ソーナンス…!」
そこにソウさんが立ちはだかった。
「ソォォォナンス!!」
「ソウさん…跳ね返すつもりか!」
ソーナンスの代名詞、カウンターとミラーコート。確かに決まればこれだけ強力なイワークすら一撃で倒しかねない…。しかし耐えられなければ…
「…ソーナンス!」
『気にするな、やれ!』そんな事を言っているような気がした。
ソウさんが時間を稼いでいる間に策を考えなければ…
「ソーナンスッ!!!」
ソウさんが声を上げてイワークの視線を奪う。
「頼む!」
その間にトゥクトゥクを立て直す。火事場の馬鹿力なのか難なく立て直せる。
「ソォォォ……………」
「グガァァァァ!!!」
一触即発、先に動いたのはソウさんだった!
▼ ソウさん の あまえる!
「ソ〜ナンス♡」
「…………」
「ガ……グ…ガァァァァァ!!」
戸惑いながらもストーンエッジ仕掛けるイワーク!その攻撃に先程のキレは無い!威力が下がっている!
「ソウさん!!」
トゥクトゥクのエンジンを鳴らし、ソウさんの回収を目指す!が、間に合わない!
「ソォォォォォォォォォォォォ……!!」
鋭い岩がソウさんを貫こうと飛来する!
対するソウさんは全身をオレンジ色に輝かし…
「ナンスゥゥゥゥッ!!!」
ストーンエッジの鋭い岩を殴り返すッ!!
「グガァァァァァァァァァァァァ!」
そのままイワークの顔面に直撃!
「ソウさぁん!!」
運転席から手を伸ばす!
「ソーナンスッ!!」
ソウさんはその手を掴むッ!!
「うらぁっ!!!」
体重約28kgを片手で引っ張り上げる!!
「ソーナンスぅ……」
命に別状は無いだろうが、それでもかなりのダメージのようだ。
『あまえる』で攻撃力を軽減していなければただでは済まなかったかもしれない。
「逃げ切ったら治療しよう…僕も明日は壮絶な筋肉痛だ…」
ソウさんは後部座席に乗り込み、唯一残っていたオレンの実を食べている。焼け石に水だが少しは回復出来るだろう。
『グガァァァァァァァァァァァァッ!!!』
「生きて明日を迎えられればね…」
怒り狂ったイワークが追いかけてくる。こちらもフルスロットルで逃げるがジリ貧だ。これ以上ソウさんに無理させる訳にもいかない。
目指すは水辺、ワイルドエリアの湖なら奴がいる!
プァーーーーーーーー!!!
クラクションを掻き鳴らす!!
「ヤバイ奴にはヤバイ奴をぶつけるんだよぉ!!!」
音に反応し巨大な影が現れる!水の塊が大きく膨らむ!
「ギャァァオオオオオオオオ!!」
ギャラドスが現れた!!
「図鑑じゃギャラドスが現れるのは珍しいってことになってるのに、クラクション一つで出てくるってのが魔境かぁ!!」
ギャラドスの口には巨大な水のエネルギーが溢れる。
「来るぞ!ソウさんしっかり掴まっててよ!せーのっ!」
ハンドルを右に切り、体重を掛ける!!
一瞬前までトゥクトゥクがあった場所を強大な水の奔流が通り過ぎる。
ハイドロポンプ!
トゥクトゥクの真後ろにいたイワークにハイドロポンプが直撃!!
「グゴォォォォォォォォォ!!」
そのままフルスロットルで逃げる!!!
ギャラドスはイワークに怒りをぶつけたようでこちらに危害を加えるつもりは無さそうだ。
「とにかく今は逃げよう、安全なところに。食料は二の次だ」
「ソーナンス…」
これが魔境ワイルドエリアの洗礼。食料も水も満足になく、自分の居場所すらわからない。助けは無い、自分の力だけで生き延びねばならない。
生きろ。それがこの場所のルールだ。
私がワイルドエリアで初めて出会ってボコボコにされたのがイワークでした。
ワイルドエリア脱出編は時系列を無視しながらちょくちょく色んなエピソードに挟みながら進行したいと思っております。