終末ガラルで、ソーナンスと   作:すとらっぷ

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前回イワークに襲われた後、ワイルドエリアでのサバイバル初日の話です。


サバイバルと二人

取り敢えず持っている知識でやれることをやろう。

 

死なないための優先順位は『身を守る』、『水を得る』、『食料を得る』。この順番だ。本来なら『身も守る』の次に『救助される準備』が入るのだが、救助してくれる人間はいない。ポケモンの救助隊でもあればいいが、生憎そんなものはない。

 

第一段階である『身を守る』において重要なものにシェルターを作るというものがある。気温気候が馬鹿みたいに変わるワイルドエリアだが、このあたりの気温は秋くらいだろうか。少し肌寒い。シェルターは必須だろう。

 

こういった時に『ひみつのちから』を覚えているポケモンがいると非常にありがたい。もちろんどこでもいいという訳ではないが使えばすぐさま秘密基地が作れるというとんでも無い技だ。

 

まあそんなポケモンはいないんだが。もちろんソウさんも覚えない。

 

しかしながらシェルター、今回においてはありがたい事に簡単に作れる。トゥクトゥクが無事なのだ。初めから屋根があるというのは大きい。ひみつのちからなんて要らないのだ。

 

屋根の次は風よけのために側面をどうにかして塞がねばならない。

 

こういうとき『くさむすび』を覚えているポケモンがいると非常にありがたい。そこらへんに生えている草を編んで簡易的な壁を作れる。『つるのムチ』のツルを編むと更に強固だ。

 

もちろんそのどちらもソウさんは覚えない。

 

今回は岩陰を利用する。近くに丁度よく大きな岩があった。風を防ぐようにトゥクトゥクを置き、風を避ける。反対側は草と若木を折って簡易的な壁を作る。手元にある刃物はハサミを改造したものしかないが、どうにかしよう。田舎暮らしの実力を見せてやる。

 

 

 

ちなみにこれ全部トロピウスが居ると解決したりする。何なら食糧問題まで解決するトロピウスさんは素晴らしい。ぜひガラルにも足を伸ばしてほしいものである。

 

「ソウさん、大丈夫か?」

 

「ソーナンス…」

 

平時であればポケモンセンターにいけばすぐさま治療が出来た。そうでなくとも当時は便利な道具で溢れていて、性能の高いきずぐすりも簡単に手に入った。

 

だがそんなものは無い。すべて滅んだ。幸いポケモンの自然治癒力は人間を大幅に凌駕する。食って、安静にして、寝る。これが基本だ。

 

トゥクトゥクは上手く偽装出来ている。大抵のポケモンからは見つかることは無いだろう。

 

ソウさんはトゥクトゥクの後席に座って休んでいる。元々ソーナンスは打たれ強いポケモンだ。すぐさま命に危険があるわけではない。しかしダメージが大きいことに変わりはないのだ。

 

「ソウさん、取り敢えず当面の食料と水を探してくる。安静にね」

 

「ソーナンス…」

 

最重要目標はオボンの実、無ければオレン、その他回復効果の高いきのみだ。

 

水源は岩の縁に湧き水を見つけた。恐らくこの岩は相当前にポケモンの技で浮き出た物だろう。その際に水源を掘り当てたようだ。

 

ちなみに飲める湧き水の周りには大抵コケが生えている。毒性の無い綺麗な水の周りにしかコケは生えないため、湧き水の安全を確かめる場合はコケに注目するといいだろう。

 

もちろん生水は危険なのでろ過した上で煮沸してから飲むべきだ。

 

ワイルドエリアに限らずどこにいようと水には気をつけよう。

 

 

 

 

さて、ここからは自分でポケモンと戦わなければならない。味方のポケモンがいないからと言えど目の前がまっくらになっている場合では無いのだ。現実を直視しよう。

 

まず前提として、可能な限り戦いは避ける。理由は単純明快、勝てないからだ。どんなに自分より体格が小さかろうと相手はこの大自然を生き抜く野生の申し子、正面を切って戦える相手ではない。

 

とはいえ襲ってくるポケモンの対策は必須だ。この先ずっとソウさんに戦わせるわけにはいかないのだ。

 

他のポケモンであれば相手の攻撃を受けないように立ち回って無力化することも出来ない話ではないだろう。俗に特殊型、害悪型などと呼ばれるポケモンだ。前者は遠距離から攻撃して無力化するタイプ、後者は麻痺などの状態異常やその他絡めてを用いて相手を無力化するタイプだ。

 

ソウさんはそれが出来ない。ソーナンスの戦闘スタイルは常に専守防衛、相手の攻撃を受けることから始まる。

 

平時ならば相手の攻撃を受けてもすぐに回復すればいい。その手段はいくらでもあった。しかし先程も言った通り今は終末だ、そんな手段はない。もしその身に余る大ダメージを受けたら?瀕死などでは済まない、死だ。

 

もちろん大ダメージを受けたら死ぬのは僕だって同じだ。人間はいつか死ぬか消えるかするとは思っているが、最大限そんな事態は避けるべきだろう。

 

だから二人共死なないようにリスクは最小限にする。

 

話を戻す。ポケモン相手に僕が使える手は隠密、奇襲、罠の3つ。これ以外にはない。

 

 

 

「…あった、きのみが実る木」

 

流石はワイルドエリア、きのみは潤沢だ。見たところオレンが実っている、あれは欲しい。

 

周囲を確認し、安全を確保してから木を揺らして実を落とす。

 

あまり太い木ではない為よく揺れる。落ちてきたオレンを3つ拾い、ボストンに入れる。

 

更に揺らす。今度はオレン2つにモモン一つ、更に揺らす。モモンが2個、更に揺らす……

 

 

ボトッ!!

 

 

きのみとは明らかに重量が違う影が落下してきた。

 

「出たぁ!!」

 

その影を視認し、すぐさま影の尻尾に掴みかかる!!

 

太ましい尻尾を握りしめ、左右に揺らせば溜め込まれたきのみが大量に現れる。

 

言うまでもない、落ちてきたのはヨクバリスだ。

 

「ギリュリュリュリュッ!!」

 

落としたきのみを焦って拾おうとするヨクバリス、だがしかしそんなことはさせない。

 

「ザッケンナコラー!!!」

 

とにかく威嚇!大声で威嚇!

 

「ギリュリュリュ!!」

 

ヨクバリスも前歯を鳴らしながらこちらを威嚇する!

 

ヨクバリスの全長は約0.6m、こちらの方が圧倒的に大きい、僕は更に身体を大きく見せるため両手足を広げる。小さいクイタランが威嚇のときに見せるポーズに近い。

 

そして右手にはナイフ、左手にはシャベル。時々それらを打ち鳴らし金属音でも威嚇!

 

そしてにじり寄る!

 

「スッゾコラー!!」

 

ギャリンギャリン!

 

「ギリュ…ギリュリュ……」

 

「チタタプチタタプチタタプ…」

 

ギャリンギャリン…

 

昔本で読んだ古代のシンオウ地方に伝わるリスポケモンの料理を口ずさみながら更ににじり寄る。

 

一歩後ずさるヨクバリス。

 

僕は更ににじり寄る!

 

「ギリュリュリュリュ!!!」

 

ヨクバリスは手近にあったモモンを手早く2つ頬張ると走り去っていった。

 

「……ごめんね、でもこっちも死活問題なんだ」

 

ヨクバリスが落としていったきのみを拾い上げ、全てバッグに入れる。大漁だ。

 

ヨクバリスに襲われた直後に考えた奴らへの復讐方法が役立ってよかった。

 

しかし威嚇が上手くいって良かった。恐らくヨクバリス相手に正面から戦えば負けていただろう。本気で噛みつかれれば無事では済まないだろうしヨクバリスの身体能力は見た目以上だ。

 

 

 

この後、三回ほど同じ方法できのみを手に入れた。中々効率がいい。決してヨクバリスに恨みがあるわけではない。効率がいいからやっているだけだ。3割くらいしか恨みはない。

 

途中でヨクバリスのしっぽの付け根にロープを取り付け放置し、たっぷり尻尾にきのみを仕舞い込んだところでロープを引っ張り尻尾からきのみを削ぎ落とし根こそぎ奪うヨクバリス漁を思いついたが実行には移さなかった。

 

別にヨクバリスを餓死させたい訳じゃない。必要な分貰えればいい。

 

 

 

 

トゥクトゥクに戻る頃にはもう日が暮れていた。 

 

研究所で手に入れたランタンに明かりを灯し食事とする。

 

「ソウさん食べろ、オレンだ」

 

「ソーナンス…」

 

このあたりに自生しているきのみはオレン、クラボ、モモンだった。

 

オレンは普通に食べようとすると非常に硬いため磨り潰して食べる。イワークに襲われたときは緊急事態だったためソウさんにはそのまま食べてもらったが現状はある程度余裕がある。

 

クラボはそのまま食べると辛いのでモモンと共に食べる。果肉を上手く干せれば保存が効くのだが上手く行く確証はない、一応いくつかは試しておこう。

 

「ソーナンス!」

 

ソウさんがモモンを差し出した。僕も食べろと言っているのだろうか。事実僕も朝から何も食べていない。そのまま齧り付く。美味い。

 

クラボを食べ、煮沸消毒した水で喉を潤す。

 

「…コケ臭いな」

 

危険性は無いだろうが美味しい水ではない。

 

「…ソォォ……ナンス」

 

ソウさんは寝たようだ。仕方ない、僕は見張りをしよう。月明かりに照らされながら眠気覚ましにクラボの辛味を味わう。眠気覚ましにはカゴの実のほうが合っているが何も口にしないよりはマシだろう。

 

ナイフと木で武器を作りながら明日からの作戦を考える。

 

過酷なワイルドエリアサバイバルはまだまだ始まったばかりだ。




今回紹介したサバイバル知識は基本的に冒険家ベア・グリルス兄貴の著書『究極のサバイバルテクニック』を参考にしています。みんなも読んで終末に備えよう。

次回はまだ書いてないので未定ですが、恐らく1話と2話で描いたエンジンシティの次くらいのお話になるかと思っております。

終末ガラルメモ
今回は終末旅する際の相棒ポケモンについて。
完全にコメント稼ぎですが興味本位でこれだけは聞いてみたい。

皆さんが終末を旅するなら誰と旅したいですか?

自分が推すのは作中で挙げたトロピウスと、他にはガーディ、ヨクバリスあたりですね。

トロピウス先生は旅においてかなり役立つ秘伝技を数多く覚え、ひみつのちからを覚え、その他覚える技の汎用性も高い。そして顎から食料が生える。唯一の弱点として街中だとトロピウスの食べる物が極端に減りますが、そうなったら森の中でターザンとして生きる道を選びましょう。どうせ文明滅んでるし。

ガーディもかなり優秀です。どこでも火が出せ、忠誠心が高く、小型なので食料も少なくていい。見事。

ヨクバリスは作中で主人公のカイ君が実行しようとして結局やらなかったヨクバリス漁が出来ますね。でもあれってやってること日本の鵜飼いと大して変わらない、むしろ優しいですね。相棒との信頼関係に絶望的なヒビが入りそうですけど。

ちなみにカイ君の相棒にソーナンスを選んだ理由は単純にサバイバルでは役立たなそうだからです。駄目な子ってかわいいじゃん。

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