「久々に日の光を浴びた気がするわぁ…」
「ソォォナンス!」
ガラル鉱山の中を彷徨っていたせいで久々に見る日の光が嬉しくて仕方がない。完全に時間感覚が狂っていたが今ようやくリセットされた。ココガラがピヨピヨ鳴いている、朝の7時と行ったところだろう。
段差ガタガタで薄暗く、硬いポケモンだらけの鉱山内をトゥクトゥク(屋根付き三輪バイク)でやっとこさ切り抜けてきたため疲労困憊だ。
「もう今日一日はゆっくり休もう…町もすぐそこだし…」
「ソーナンス?」
「そりゃソウさんは元々生態的に洞窟住まいだから慣れてるだろうけどさ…」
朝飯代わりのエネルギーバーを二人で齧りながら4番道路を徐行する。
このあたりは段々畑になっていたようだ。流石に消滅が起こってからは手入れする人間がいないため荒れているが。
「…ん、おかしいな」
段々畑の一角が今もなお綺麗な畑の姿を留めている。その傍らには農具が置かれていた。
違和感は確信に変わる。
「…ソウさん、休みは無しだ。警戒しろ」
「…ソーナンス」
ソウさんは了承したようで後席から周囲を警戒する。
僕もいつでも動けるようにスコップを手元に引き寄せておく。ガラル鉱山で見つけた相当丈夫なものだ。…最悪戦える。
綺麗に整備された畑、間違いなくこの近くに整備した人間がいる。
平和的な人間ならいいが、そうでない場合が恐ろしい。銃でも使ってこられようものにはソウさんにカウンターしてもらうしかない。
「…罠はないな」
警戒しながらターフタウンに侵入する。進路上迂回するわけにはいかない。丁寧にクリアリングが必要だ。
トゥクトゥクのエンジンを止め、旧ポケモンセンターの建物の影に駐車した。最低限の荷物と武器となるスコップを構える。
「ソウさん、後ろ頼むよ」
「ソーナンスゥ…」
『任せとけよぉ』みたいなニュアンスを感じた。ソウさんの尻尾も左右に揺れながら警戒している。
流石に街全体から気配を読み取るなんて芸当は出来ないが、人のいた形跡には気を配る。
「…ソーナンスッ」
小声でソウさんがこちらに声をかける。…本当にこういう時のソウさんは頼りになる。ネコと呼ばれる農業用の一輪車がある。車輪の跡がある建物の前で終わっている。
「あそこが家か…?」
ターフタウンで一番大きい建物、ターフジムの前。
「…」
シャベルを握り直し、ジリジリとターフジムに近づく。
「何をしとるんじゃァァァァ!!!」
突然背後から野太い叫び声!
「ナンスッ!!?」
「後ろかっ!!」
民家の影から巨体の男が現れる!
僕はスコップを構えた。ソウさんは体を広げカウンターの用意。
相手と20mほど離れた状態で静止する。
「…何者じゃ」
巨体の男は丸腰だった。顔立ちも優しげで、無理やり怒り顔を作っているように感じる。と、言うがそもそもこの男の顔には見覚えがある。かなり有名人ではないか?
「…こちらに敵意はありません。今武器を置きます」
そっと、地面にスコップを置き、5歩下がる。
「ソウさんも、カウンターの構え、やめて」
「ナンス…」
武器を置いた瞬間、大男はズケズケと距離を詰めてくる…!!
「!?」
「いやぁー!良う来たなぁ!!」
気がつけばもてなされていた。近くの民家の一階でお茶が振る舞われる。
「すまんねぇ、人間を見るのが久しぶりで警戒してしまったんだわ」
「いえいえ、僕達が怪しい動きをしていたのが悪いので」
大男いわく、ジムは倉庫として利用しているとのことで、実際寝泊まりしているのはこの家だと言っていた。
「あの、この町のジムリーダーの方ですよね。ええと…名前は…」
「おお、自己紹介が遅れてごめん。元ターフジムのジムリーダー、ヤローじゃ」
昔、テレビで見かけたことがある。やはり有名なジムリーダーだ。
握手を求められる。その手は応じると大きくゴツゴツした手に力強く握り返された。
「カイと申します。ハロンタウンから来ました。こちらはソーナンスのソウさん」
「ソーナンス!!」
「いやー、人間を見るのは久しぶりじゃあ!」
「この町の住民は…やはり…?」
「うん、ぼくが最後の一人じゃ。他に人はいないんだわ。ハロンの方は?」
「…僕の故郷も僕が最後の一人でした」
「…こうして会えたのは何かの縁じゃ。旅で疲れただろう、ゆっくり休んでいくといい。ポケモンセンターなら比較的綺麗だし好きに使って。中のものも自由にしていいよ」
致せり尽くせりだ。ありがたい限りだが…
「ヤローさん、自分で言うのも難ですが僕達かなりの不審者なんですが…疑ったりはしないんですか?」
法も秩序もない終末において生きている人間は脅威だ。人を見たら泥棒と思え。泥棒で済んだならまだラッキーと思え。
「ポケモンは人間よりずっと素直だからね。君のソーナンスを見れば信用できるかどうかはわかるんじゃ。良く信頼しあってる」
「ソーナンスぅ?」
めちゃめちゃ懐疑的な声を上げるソウさん。ちょっと傷つくぞ。
まあいい、お言葉に甘えて休ませてもらおう。
「そうそう、観光地だった地上絵はまだきれいに残ってるから見に行ってみるのもいいかもよ」
「はい、明日にでも」
こちとらガラル鉱山で夜通し彷徨った上に先ほどの厳戒態勢だ。疲れた!寝る!
ヤローさんの家を去る際、ちらりと写真立てが見えた。光の反射でよく見えなかったが、女性の写真だったと思う。
その傍らに置いてあるのは古ぼけたカジッチュの置物だった。
本シリーズ初の続き物。
終末後にも生きてそうなキャラって誰だろうなと想像して真っ先に思い浮かべたヤローさんです。口調が難しい。