幽鬼の怪物   作:NIRIN0202

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11.服従

 目の前の光景が、理解出来なかった。

 撃たれた衝撃で倒れる中、視界の端にこちらに向けて手をかざす魔人族が見える。魔人族(味方)が放った魔法が、自分の体を貫いていた。

 

幸利(嘘だ...。)

 

 到底受け入れられる物では無かった。【オルクス大迷宮】で死の恐怖に落ち入り、適性のある闇系統魔法による洗脳に希望を見出し此処まで来た。

 そして魔人族と協力し条件を満たした後、自分は勇者へと返り咲き、理想を叶える。

 その夢想を抱き駆け抜けた結果が、この状況だ。使役した魔物は一瞬で全滅し、キンドルに直様復活させるも、ある筈の無い兵器を使う厨二野郎に妨害され、その間に彼が敗北した事で又も手下を失った。

 必死になって死体に躓きながらも逃げようとしたが捕まり、標的の筈の踏み台(愛子)の前に跪がされる。

 

幸利(こんなの...嘘だ...。)

 

 それでも愛子を人質にして、始末しようと足掻いた。なのに結局、魔人族にとって清水は唯の使い捨ての駒に過ぎなかった。取引も所詮は、清水を小手先で動かす為の程のいい物でしか無かったのだ。

 

幸利「し、死にだくない……だ、助け、で……っ。」

 

 こんな所で死んでられ無い。ここまで来たのに、モブのまま終わる人生なんて認められ無い。

 ここに彼の味方は一人もいないにも関わらず、清水は譫言の様に助けを求め、弱々しく虚空に手を伸ばす。

 

 その手が、怪物に掴まれた。

 

••••••••••••••••••••••••••••••

 

白野「大丈夫ですか?ハウリアさん。」

 

シア「あ!? ハクノさん待って! 治さないでぇ! 私もハジメに口移しして欲しいんですぅ!」

 

 キンドルを始末して町に戻っていると、そこには胸を撃ち抜かれ血を流す清水と、同じく横腹に穴を開けられたシア、毒を盛られたのか顔色が悪い愛子がいた。

 攻撃を仕掛けて来た魔人族を殺そうとしているのだろう。ハジメが銃を引き抜き空に向かって乱射している。その内の何発か当たり下手人の魔人族は腕をもがれる。重症を負いながらも男は遁走し追撃を逃れて行った。

 ここで彼を追いかけて治療する事も出来るが、下手をすると魔人族と繋がりがあると疑われてしまう。本来の目的は果たせ無くなるが、あの男の事は放置するしか無い。

 愛子の解毒はハジメが取り掛かったので、白野はシアの治療にあたる。

 

白野「何があったんですか?」

 

ユエ「......あの男に愛子が人質に取られている隙に撃たれた。アイツは魔人族と取引してたみたい。」

 

 ユエの言葉を確認する様に、清水に向き直る。心臓を貫かれ、血が多く流れ出ている。このまま放置していても勝手に死ぬだろう。

 ぶつぶつと、聞き取りづらい声で助けを求め、何も無い方向に手を伸ばしている。しかし、その助けを否定する様に全員が清水から目を逸らした。

 この男は自分の都合で先生を、町の住民諸共殺そうとした外道だ。クラスメイトとは言え、助ける道理が無い。

 

優花「...白野?」

 

白野「”絶象”」

 

 そんな時、白野が清水に歩み寄り、手を掴んだ。そして、再生魔法を唱え清水の傷を癒す。敵を助ける行動に全員が目を見開き、猜疑の視線を向ける。

 

ハジメ「何のつもりだ。玖珠木。」

 

 ハジメはドンナーを構え、場合によってはお前も殺すと言わんばかりに照準を清水と白野に向ける。

 

 白野「治療しただけです。助けを求めていたので。」

 

ハジメ「助け? ソイツは自分の都合で魔人族と取引した上に先生を殺そうとしたんだぞ。唯の鉄砲玉みたいだし、情報も何も持って無い。生かす必要あんのか?」

 

 白野「助けを呼んでいただけでも、私には手を差し伸べる必要があります。」

 

 そう言って白野は清水の腕を掴んだまま、血溜まりから引き上げる。清水は全快した事に混乱しているのか、縺れながらも引かれるままに体を動かす。

 

白野「助けないといけないんです。頭の中でずっと聞こえる、声が聞こえなくなる迄は。」

 

 感情の見えない機械の様な視線が、スリットの奥から清水へと向けられる。清水はその視線に怯えて後退ろうとするが、腕を掴まれたままなので、強引にその場に座らせられる。

 

幸利「な、何だよ...?はな、放せよ...っ。」

 

白野「これからどうするつもりですか?」

 

幸利「はぁ? ど、どうするって...?」

 

白野「助けはしましたが、貴方がまだ敵である事に変わりはありません。」

 

 助けられておいて、また暴れられるのは不本意なのだろう。返答次第では痛い目を見ると言う様に、スティレットをいつでも突き刺せる様手に握っている。

 彼女が一先ずは清水を敵と判断していると分かると、ハジメはドンナーの照準を清水のみに向ける。

 

白野「貴方は、私達の味方ですか?」

 

幸利「...み、味方だ。お、俺、どうかしてたんだ。何でもする。助けてくれたら、あ、あんたの為に軍隊だって作るさ。…ち、誓うよ、あんたに忠誠を誓う。何でもするから...だから……。」

 

 漸く命を握られていると分かった清水は、慌てて命乞いをする。引きつった顔を見せながら、必死に味方になると申し出る。その瞳は酷く澱んでいた。嫉妬、不満、憎悪、凡ゆる負の感情が混ざり合った目が、白野に向けられる。

 

幸利「......だから......おい...手を、放せよ...。」

 

 白野は清水の腕を掴んだまま、彼の目を見つめている。振り解こうと弱々しく抵抗するが、ピクリとも動かない。

 白野は視線を外さないまま、鞄から白い水晶を取り出す。そして白野は清水の首を掴み、握力で締め付けながら釣り上げた。

 

幸利「かっ!? うぁ...っ!?」

 

愛子「玖珠木さん!?」

 

 慌てて愛子達が止めに入ろうとするが、ハジメが手で制する。

 

白野「嘘をつきましたね。ユキトシさん。」

 

 白野が腕に魔力を込めると、清水から何かを吸い出され、白い水晶に入って行き黒く染まる。それが終わると白野は首から手を離し、清水を地面に落とす。やっとの思いで呼吸が出来た清水は、咳き込みながらも白野に噛み付く。

 

幸利「ゲホッ! ゲホッ! な、何だよ!? 何しやがった!?」

 

白野「序でに、少々試してみようかと考えまして。」

 

 白野はクレイモアを引き抜き、狙いを定める様に切っ先を清水の喉に向ける。清水は慌てて逃げ出そうとするが、酸欠と目眩で上手く体を動かせずにいる。

 

愛子「待って! ダメェ!!」

 

 そして、何の躊躇いもなく清水の首に剣が刺さり、その命を絶った。

 

 同級生が、クラスメイトを殺した。その光景に生徒達が息を飲む。白野は剣を首から抜くと、鞄から布を取り出し血を拭う。そして、何かを観察する様に清水の死体を見つめている。

 

愛子「……どうして?」

 

 愛子は目の前の光景が理解出来なかった。呆然とした様子で清水の亡骸を見つめながら、白野に疑問を掛ける。

 

白野「どうして、とは?」

 

愛子「......答えて下さい。...どうして...清水君を殺したんですか?」

 

白野「嘘をついたからです。後は、実験も兼ねてでしょうか。」

 

愛子「.....嘘? そんな、何を持って清水君が言っていた事が嘘だと分かるんですか...? それに、実験って...? 何を...言っているんですか? そんな物の為に、清水君を殺したんですか!?」

 

白野「死んではいませんよ。」

 

 白野の言葉に全員が驚き、清水に顔を向ける。そこには、首からの流血が止まり、ゆっくりと、微々たる早さで首の傷が塞がっていく姿があった。

 

白野「キンドル、...件の魔人族から不死身の原理を聞き出せたんです。これはそれの試験ですね。予想より随分と再生速度が遅い様ですが。」

 

 白野は再生魔法を唱え、清水の傷を治す。すると、突如清水が咳込み呼吸を始める。荒い呼吸を繰り返し、あるものを確認する様に喉笛にふれている。

 

幸利「ハァッ...ハァッ...!? く...首が...斬れ...!?」

 

白野「もう一度聞きます。味方になりますか?」

 

幸利「ひっ!? や、やめろ。味方だ、味方になるから...っ!」

 

白野「嘘ですね。」

 

 先日ハジメから渡された銃を鞄から取り出し、清水の両足を撃ち抜く。五発分の乾いた銃声と共に鉛弾が飛んで行き、清水が悲鳴を上げて地面に転がる。彼の両足を、三発の弾丸が貫いていた。

 白野は尚も止まらず銃を撃ち続ける。銃声と悲鳴が上がり、清水の血肉が辺りに飛び散る。

 

愛子「...ダメです...玖珠木さんっ。お願いです! もう止めて!」

 

 目の前の光景に呆然としていた愛子だったが、正気に戻ると白野の胴体に掴み掛かり、必死に凶行を止めようとする。

 

白野「それは出来ません。彼が味方にならない以上、ユキトシさんを安全な状態で先生の下に戻すには、彼を服従させるしかありません。その為には、完全に従う迄彼を痛め付けるしか無いんです。」

 

愛子「そんな!? そんな物の為にやる事がこれですか!? 人を殺し続けるなんてあんまりです! 無理矢理従わせるなんて事をしなくても、他に方法は幾らでもあるでしょう!?」

 

 愛子が必死に白野がもつ銃を抑えようとするが、片腕で軽くあしらわれ、尚も立て続けに銃弾が放たれる。何発かは見当違いの方向に飛んで行くが、それでも清水の体に次々と銃傷が付けられていく。

 白野を止められないと判断すると、愛子は身代わりになってでも清水を守ろうと、射線を遮る為に清水の前に走り出そうとする。

 

チェイス「...申し訳御座いません。愛子さん。」

愛子「ぅ...っ!?」

 

 だが、チェイスが愛子の鳩尾を殴り、気絶させる事でそれを止める。崩れ落ちる愛子の体を腕で受け止め、そのまま肩に担ぐ。

 白野を止めず、更には愛子の護衛に付いている筈の神殿騎士が護衛対象を気絶させた事に同僚は愚か生徒達からも抗議が上がるが、本人の血涙を流すかの様な、苦渋に満ちた顔を見て息を呑む。

 

チェイス「宜しいですか? これ以上の事は愛子さんには荷が重すぎます。皆さんもこの場に留まれば、決して浅く無い傷になります。...原理は理解出来ませんが、少なくとも清水君が死ぬ事もありません。後の事は玖珠木さんに任せましょう。」

 

  優花「でも、だからってあんなの!?」

 

チェイス「...私とて、こんな方法を取るのは容認しかねます。ですが、清水さんを生かしたいのであれば、それこそ奴隷にするか、彼女が言った様に服従させるしかありません。清水君にとって愛子さんはもう、自分が成り上がる為の生贄でしか無いのでしょう。」

 

 だから、不本意であっても非道な手段を取る。騎士に勤めていれば、敵を限界まで痛めつけて情報を引き出す様な事だってある。今回が、偶々味方だった人物が対象に変わっただけだ。

 チェイスは清水の悲鳴から目を逸らし、愛子を生徒達に抱えさせて、町に引き返す様強引に背中を押して行く。残りの神殿騎士達も渋々とそれに追従し、ハジメ達も続いて町に戻って行く。

 残ったのは白野と清水の二人きりとなった。清水が嘘をつき続ける限り、ここに彼を味方する者はいない。尚も拷問紛いの虐殺が続いて行く。

 

白野「味方になりますか?」

 

幸利「やめろッ、もうやめてくれッ! 味方になるから、だから――」

 

白野「嘘です。」

 

 クレイモアが振り下ろされ、清水の四肢がなます斬りにされる。

 再生魔法で治療される。

 

白野「忠誠を誓いますか?」

 

幸利「誓う! 誓うからッ! 助け――」

 

白野「嘘です。」

 

 バルディッシュが清水の腹に突き刺さり、内側から雷で肉を焼かれる。

 再生魔法で治療される。

 

白野「私達を守りますか?」

 

幸利「がぁ...ッ! ぅ...守......る......ッ!」

 

白野「嘘です。」

 

 拳が清水の全身の骨を砕き、肉を裂く。

 再生魔法で治療される。

 

殺す

治す

殺す

治す

殺す

治す

殺す

治す

殺す

治す

.

.

.

.

.

.

.

 

 どれ程の時間が経っただろうか、悲鳴が止み、静寂が訪れる。

 辺りに清水の血肉だった物が広がり、地面の色が変色している。弾痕や斬撃が土を抉り尽くし、惨たらしい拷問の跡が散見される。

 その中心に、清水が倒れている。全く動かず、側からみれば死体にも見えるそれは、まだか細い呼吸があり、生きている事が分かる。

 白野は清水の頭を掴むと、無理矢理顔を自分に向けさせる。焦点があわない、光を映さない虚な瞳が虚空に向けられる。

 

白野「貴方はこれから、どうするつもりですか?」

 

 飽きる事も無く、白野の質問が投げられる。

 

幸利「......いや...だ.....しにたく...な......」

 

 帰って来た返答は、譫言の様に繰り返される、嘘偽りの無い、生を願う言葉だけだった。

 

白野「わかりました。ユキトシさん。」

 

 その言葉に漸く首を縦に振ると、白野は清水の首に手を当て、魔力を込めながら魔法で首筋に刺青を彫って行く。

 それは契約者に反抗、ないし危害を加えると効果を発揮する魔法陣だ。一般的には奴隷に使われる物で、大抵は相手に苦痛を与える程度の威力の攻撃性魔法が使われるが、勿論調整次第では死ぬ事もある。

 しかし、今回使われているものは独自の改造が加わっている。

 

白野「貴方が私や先生達に従う限り、貴方は死にません。ですが、もし貴方が私達を裏切った場合――」

 

 懐から取り出した魂結晶を見せる。これは先刻、清水の魂を吸い出した物だ。魂の一部は清水の中にある為、この結晶が壊れない限り清水が死ぬ事は無い。

 

白野「それに連動して、この結晶が砕かれます。そうなれば貴方はその時点で死にます。」

 

 魂結晶から抜けた魂は霧散し、勝手に本来の宿主に戻る事は無い。そうなれば、魂が中途半端な量しか残っていない肉体は朽ち果てる。

 清水は意味の無い呻き声を上げながら、震える手で魂結晶を掴もうとするが、その前に白野が立ち上がり、清水の手が空を切る。

 

白野「ねぇ、ユキトシさん。――死にたく無いですよね?」

 

 白野の手が契約を迫る様に手を差し出す。無機質な視線が清水を貫いている。その視線に恐怖で強張りながら、清水は覚束無い口取りで話出す。

 

幸利「う、ぁ......死に...たく、ない...。あんたたちに...従う、から......たすけて...っ。」

 

 清水の手が白野を掴む。

 清水は永遠の生命を手に入れ、白野は従順な駒を手に入れた。ここに、契約は為された。

 

••••••••••••••••••••••••••••••

 

ハジメ「...何でも出来るんだな、お前。」

 

 戦いが終わり、日がとうの昔に沈んだ頃。勝利の美酒の余韻に浸る間も無く、住民達は戦後処理に悩まされる事になった。

 汚染された土壌は”作農師”の愛子の活用により解決する見込みがあるが、大量の死体が残った事が問題になった。解体しようにも数が多過ぎるし、放置すれば辺りに腐臭と感染症が撒き散らされる事になる。

 

 白野「何でも出来る程万能ではありません。出来る事は知っている物だけです。」

 

ハジメ「神代魔法を知っているだけでも充分だけどな...。この御時世”宝物庫”を作れるのはお前だけだろうよ。」

 

 その問題は、白野の手により解消される事となった。キンドルの持ち物から新たに見つけられた、魔法陣が刻まれた黒い結晶。どうやらこれも魂結晶の様で、中には大量の魂魄が詰め込まれていた。

 量から察するに、これは今回の戦闘で使役されていた魔物達の魂なのだろう。恐らくキンドルは魂を集める為に今回の作戦に参加していたのだろう。

 これを魂魄魔法で死体に戻す事で蘇生し、魔物の軍勢を自陣に取り入れる事が出来たが、この数を連れ歩く事は不可能だった。そこで白野はハジメが持っている物と同質の”腕輪型宝物庫”を作り上げ左腕に装着し、それに死体を収容する事でいつでも軍勢を呼び出せる様にした。

 如何言う訳か魂から精神と記憶が抜け落ちており、自立で動く事は無いが、清水がやっていた様に闇系統魔法で指示を出せば動かせる様だ。キンドルが変性魔法と昇華魔法で強化した事もあり、かなりの戦力が期待できる。

 

 白野「ハジメさん。装備品の技術提供の件、ありがとうございました。お陰様で戦術の幅が広がりました。」

 

ハジメ「おう、たっぷり感謝しろ。いつか必ず取り立ててやる。」

 

 防衛戦の前に白野が新たに作成した武器だが、何を思ったのか全てをハジメ達に売り払おうとして来た。曰く、これ以上武器を増やしても持ち切れない、との事だ。

 宝物庫を作れるのだからそれに入れたら良い、と受け取りを拒否したが、どうも宝物庫の扱いが下手らしく、任意の場所に出来無い様だ。

 試しに使う所を見せて貰うと、右腕に付けられた腕輪が光った瞬間、ハジメの目と鼻の先に、ボルトのみが矢先をこちらに向いた方向で現れて来た。

 あと一歩ズレていたら爆死していたと言う洒落にならないスリルを味わったハジメは、このままでは街中で死人が出ると戦慄し、宝物庫に魔法陣を付け加え指向性を持たせる事を提案したのだった。

 これにより出現させる場所は固定されるが、魔力を通すだけで瞬時に物を取り出せる様に改造された。白野は新たに宝石を用意し、指向性の宝物庫を武器の数に合わせて量産した後、剣帯等に飾り付ける事で瞬時に武器を切り替えられる様にした。

 つまりハジメがやった事は助言の一言のみで、別に何かを手伝った訳では無い。闇金業者もビックリな高利貸しだ。被害者(白野)は嫌な顔どころか、顔色一つ変化していないが。

 

白野「それでは、用事も済みましたので私はこれで失礼致します。」

 

シア「...その、愛子さん達の事は良いんですか?」

 

 清水を服従させた後、白野は彼を背負い愛子達の前に連れ出した。

 清水が俯きながらブツブツと「死にたくない」と呟き続けている様子を見て、愛子達は青ざめた顔で呆然とした。これが人のやる事なのかと、クラスメイトをこんな目に合わせたのが、あの分け隔て無く優しかった白野なのか、と。

 愛子は清水をそっと抱き締めると、泣きながら謝り続けた。守れなくてごめんなさい、気付いてあげられなくて、ごめんなさい、と。

 その後、結局愛子の強い志願と彼の精神状態の事もあり、清水の身柄は愛子達が預かる事になった。白野も清水が愛子達に危害を加える事は無いと判断し、それに同意した。

 案の定先刻の事もあり、白野を見る親衛隊達の視線は苦々しく、彼女もその目からは心なしか、これ以上関わらないでくれと言っている様に見えていた。それ以降白野は愛子達の前に顔を出さず、今の今まで死体の撤去作業に専念していた。

 

白野「今は私がいない方が宜しいかと。この状態で何を言っても、お互いに亀裂が深まるだけでしょう。」

 

シア「それは、そうですけど...。」

 

 どこか釈然としない。シアはそんな表情をしていた。このまま放置して良いものかと言う様に。

 

白野「他に良い方法があったんでしょうか?」

 

シア「え?」

 

白野「ユキトシさんの事です。私は、彼を先生の下に帰らせるには、あの様にするしか無いと考えました。それしか、考え付かなかったんです。」

 

 ただ傷を治した状態で愛子に引き渡せば、清水は愛子を殺しただろう。それでは本末転倒だ。双方が生きた状態で事を済ませる為の最善策が、あれしか出なかったのだ。

 

白野「洗脳すれば良かったのでしょうか? それとも、降霊術で使役したら良いのでしょうか? 私には分かりません。」

 

シア「ハクノさん......。」

 

 シアが悲しそうな目で白野を見る。彼女の言葉からは、後悔の念は感じ取れない。

 どちらかと言えば、それは判断を間違えた様だから他の案が無いか探している、一つ目の案が駄目だったから二つ目、三つ目の案を試す。そんな微かな情動も感じられ無い、機械的な考えをしている様に見える。

 

ハジメ「さぁな。それぐらい、自分で考えろ。」

 

 白野「そうですか...。忠告、ありがとうございます。」

 

 ハジメが関係無いと、投げやりな返事を返す。言葉を聞いて一先ずは納得したのか、白野は荷物を纏めて終えると、ハジメ達に向き直り頭を下げる。

 

ハジメ「またホルアド迄走って行くのか? ご苦労なこった。」

 

 白野「いえ、帰りは別の方法を取ります。」

 

ハジメ「あ?」

 

 何か他の交通手段があったか? と、ハジメは首を傾げる。白野は腕を前に伸ばすと、その先に光り輝く膜が現れた。

 

白野「お土産等の荷物も増えたので、帰りは空間魔法を使います。これならホルアドに直接帰られます。」

 

「「「......うん?」」」

 

白野「それでは失礼致します。」

 

 白野はそう言い、光のカーテンに入って行った。白野の姿が見えなくなるとその光も消え、後には星が煌めく夜景が広がる。

 

ハジメ「......最初からそれ使えよ。」

 

 ハジメの言葉が夜の空に発せられ消えて行く。そのツッコミに、全員が頷いた。




ご閲覧、ありがとうございました。
綺麗なチェイスさんとか言ってはいけない。彼も一応は騎士なので...。

以下しょうもないボツネタ

白野「従わ無い場合、貴方をAKIRA型爆弾(通称:暴走した鉄雄くん)に変えて魔人族領に放り込みます。英雄になれますよ。」
ハジメ「ヤメロォ!! BANされる!!」
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