12.報告
恵理「ふ〜ん。結局魔人族とは何も連絡取れずに帰って来たわけ?」
白野「はい。ご期待にお応えできず、申し訳ありません。」
ホルアドに戻り、ウルにて報酬代わりに貰っていた作物等のお土産を勇者達に配り終えた後、白野は恵理の部屋に向かい、事の顛末を報告していた。
とは言ったものの、目的の魔人族とは取引すら出来ず、得られた成果と言えばキンドルか持っていた指輪と魂結晶、香辛料の納品で給料代わりに支払われた特産品の菓子と農作物位だろう。
その内の菓子は今、恵理の目の前に紅茶と一緒に並べられている。炊いた米が餡子で覆われた牡丹餅の様な物だ。
恵理は報告を聞きながらそれを手に取り、憮然そうな顔をしつつゆっくり味わいながら食べている。表情こそ不機嫌そうだが、心なしか目元は和らいでいる様に見える。何だかんだ言いつつ、甘い物は好きな様だ。
恵理「ま、いいよ。焦らなくても時間はあるし。遅かれ早かれ魔人族とは関わる事になるだろうし。それまでに下準備を済ませれば良いだけの事だよ。」
恵理は如何と言う事は無いと言う様に、のんびりと菓子を舌鼓を打ち、紅茶を口に含む。
恵理「それよりも、南雲が生きていた事には驚いたね。まさか香織が愚直に迷宮攻略に勤しんでいる間に、とっくの昔に自力で地上に出てたなんてねぇ?」
恵理はクスクスと、面白い冗談を聞いたかの様に笑い出す。
ハジメが存命していた事については、メルド達や勇者一行には話していない。本人達から口止めをされていたからだ。曰く、彼等を通じて教会の連中に存在を知られるのは面倒だ、との事だ。
しかし、白野はこの事を恵理だけには報告した。彼等の戦力の事もあり、契約者である恵理に報告しない訳にはいかないからだ。
ハジメが写った写真を見せた時は、容姿が余りにも違う事から別人だと思われたが、銃の存在を話すと恵理もこの話を信じた。トータスで銃の存在を知っているのは、自分達召喚者だけだからだ。
白野「彼等とは敵対しない方が宜しいかと。その気になれば、軍隊は愚か国ですら滅ぼせる存在です。」
恵理「随分高く評価するね。そんなに強いの?」
白野「彼は単独でも大軍を相手に出来る存在です。道具だけで無く、推定ではありますか素の身体能力も相当な物かと、現状私達の戦力で敵う相手ではありません。」
恵理「うへぇ、冗談みたいな奴だな。あの最弱がそこまでねぇ? まぁ、今の所はアイツもこっちに関わるつもりは無いんでしょ? だったら、向こうから来ない限りは放置した方が良さそうだね。」
一先ず、恵理はハジメ達の事は置いておく事にする。白野もその判断に賛同し、首を縦に振る。
恵理「それにしてもその指輪、得体の知れない物だね。最初からあのフランケンシュタインが持ってたのに、今更になって君に飛んで来るなんてねぇ? 」
白野の指に付いている指輪を眺めながら、
皮肉気に語る。
恵理の言う通り、変な話だ。原理は分からないが白野の元に飛んでくるならば、初めてキンドルに会った際に手に入っていてもおかしくは無い。なのにこのアーティファクトは、まるで計った様な頃合いで白野の手に渡った。
白野「何か、切っ掛けがある筈なんですが...。」
恵理「切っ掛けねぇ。ありきたりだけど、何かの拍子に指輪に触れたとか?」
白野「接触、ですか? 」
触れたと言えば戦闘の際に、キンドルが指輪を付けた手で白野の顔を殴り付けた事があった。触れたと言うより当たった、と表現する方が正しいが、指輪に触れたのはそれ以外は無い。
白野「つまり、私の体に何かしらの反応が起きて、この様な現象が起きたと。」
恵理「さぁね〜。ぶっちゃけ、どうして手に入ったかなんてどうでも良いよ。他に何か分かった事は無いの?」
白野「詳しい事は何も。唯、変わった事が出来ます。」
恵理「どんな?」
質問されると、白野は詠唱する事も無くその場から消えて見せた。高速で移動した訳では無い。椅子に座ったまま、音も無く煙の様に見えなくなった。
どこに行ったのかと辺りを見回していると、突然恵理の真横に白野が現れる。
恵理「うわ!? ......何で脅かす様に現れるのかなぁ?」
白野「申し訳ありません。その様なつもりは無かったのですが。」
恵理が不機嫌そうにジト目を向けるが、白野はどうと言う事は無いとでも言うように、無表情のまま謝罪する。
白野曰く、どうやら指輪をつけている間は、様々な知識が頭に入ってくる他、肉体を変質させて霊体になる事が出来るらしい。これを応用して姿を消したり、変質率を変えて半分霊体になる事で、高速で移動する事も可能になるそうだ。
恵理「へぇ〜、便利なもんだ。量産とか出来ないの?」
白野「はい、キンドルの持ち物を漁りはしたんですが、製造法に関する事は何もありませんでした。指輪を付けてから判明しましたが、霊体化につきましても魂魄魔法を使われれば、攻撃は通じてしまいます。」
恵理「あっそ。まぁ、現物が手に入っただけでもマシか。その霊体化ってのも、その指輪からの知識のおかげ?」
白野「いいえ、違います。」
恵理「え?」
恵理が不思議に思ったのか、指輪から目を離し白野に向く。
白野「この力は知識で知ったと言うよりは、霊体の性質が体感で分かったと言った方が正しいかと。」
恵理「あー、つまり頭じゃなくて体で分かったって事? 普通の体じゃ無いのにそう言うのは分かるんだ?」
皮肉混じりな恵理の返事を気にもかけず、白野はその返答に頷く。
恵理「ハァ、何かこうして見ると、君の素性って幽霊じみた物ばっかりだね。」
白野「幽霊、ですか?」
恵理「だってそうでしょ。消えたり、冷たかったり、失われた知識を知ってたり。差し詰め神代に滅んだ亡者って所かな。」
指輪も白野の体についても、亡霊に関する様な能力がある事から鑑みるに、恐らくこれらの力はは魂に関係する物なのだろう。
指輪について探って行けば何か分かるかもしれない。今迄はなんの糸口も掴めなかったが、今回の一件で進捗を得られたのは僥倖だ。
白野「そういえば、エリさんに一つ聞いておきたい事があります。」
一連の報告を終え、白野は鞄から物を取り出し机に置く。
恵理「あれ? 無くしてたのに戻って来たんだ。」
白野「はい、ハジメさんと会った際にこれを渡されまして。どうやら彼が奈落に落ちた際にこれも落とされていたそうです。」
それは先日、鍋を奢った際に返却された銃だった。薬莢と銃弾はハジメから予備が支給されており、弾の込められた弾倉が幾つか並べられる。
恵理は弾を抜かれた銃を手に取り、興味深そうに様々な角度から鉄の兵器を眺める。
恵理「何? これを天職でも無いのに十八番になった錬成で量産したりでもするの? 世界観崩壊しそうだね。」
白野「それは難しいかと。精密な機構の複製までは何とかなりますが、ダンガンとやらを作る為の材料が集めにくいんです。」
銃を錬成するにはそれこそ手作業で精密機器を一から作る様な錬成精度と、銃弾を作る為の希少な材料が必要だ。手元にある物では、それらを作る為の物資も無い。量産など夢のまた夢だ。
白野「エリさんなら、何かご存知かと思いまして。これは誰でも所持が可能な物なんですか?」
恵理「まさか。こんなのが持てるのは警察──トータスで言う所の憲兵とか、兵隊でしか取り扱えないよ。一般人が手にしてたら速攻で捕まるね。」
海外ならともかく、武器の取締りが厳しい日本では免許でも無い限り所持するのは難しい。一介の女子高生なら尚更だ。
しかし、トータスに銃の存在しないのと、錬成師に製作技術が無い以上、白野は召喚される前から銃を携帯していた事になる。
白野「何故、私はこれを持っていたんでしょう?」
恵理「僕もそれについては知らない。銃を持っていたなんて、それを使った時に初めて知ったからね。存外、物騒な奴だったのかもねぇ?」
恵理も白野が銃を隠し持っていた事は知らなかったらしい。裏の顔も含めて親しかったと語る恵理が知らない以上、この事を知っている人物はいないだろう。
白野「宜しければ、エリさんが知っている過去の私について聞かせてくれませんか? 何か手掛かりがあるかも知れません。」
恵理「そうは言われてもねぇ。何処から話したらいいかな?」
白野「取り敢えずは、エリさんが初めて顔を合わせた所から聞かせていただけませんか? その後は要所だけで構いません。」
恵理「はいはい、分かりました。長くなるから、紅茶でも淹れてくれない?」
恵理からカップを渡され、白野は魔法で手に火を宿し湯を沸かす。ランタンの灯だけが薄暗い部屋を照らす中、恵理の回想劇が始まった。
ご閲覧、ありがとうございました。
短い文字数ですが、キリが良いので今回はここまでとなります。ちょっとした付箋回ですね。
次回は入れるタイミングを見失っていた、地球にいた頃の白野の話になります。