幽鬼の怪物   作:NIRIN0202

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13.変化

 事の発端は夜、愛子達が懇意にしている宿にて。

 あの壮絶な拷問の後、清水は休養も兼ねて一人部屋に入れられていた。白野が再生魔法で傷を治していた為、物理的な怪我は一つもしていない。

 唯、心に負った傷は別だ。白野にしてやられた事により受けた心的外傷は計り知れず、清水は虚空を見つめたままブツブツと何かを呟くだけで、愛子達が話し掛けても上の空だった。結局清水は夕食になっても食堂には降りて来ず、以来部屋に閉じこもっていた。

 

愛子「清水君......。」

 

 見兼ねた愛子は注文したニルシッシルをトレーに乗せ、清水の部屋に向かった。

 正直に言えば愛子自身も気を病んでいた。清水の思いに気付けなかった事、白野が清水を殺し続けた事、彼を助けられなかった事、自責と後悔と白野に対する恨みが、愛子の心を蝕んでいた。

 しかし皮肉な事に、白野のお陰で清水が生きているのも事実だ。生きてさえいれば、やり直す事は幾らでも出来る。持っている食事とてその一環だ。気休め程度にしかならないかも知れないが、何か美味しい物を食べたら彼も少しは気力が戻るかもしれない。幻想の如き僅かな希望と、清水を助けられなかった罪悪感を胸に抱き、愛子は香辛料の香りが効いた、香ばしい湯気の立つそれを抱え部屋の扉を叩いた。

 

愛子「清水君、居ますか? 先生です。」

 

 ノックしながら声を掛けるが、部屋から返事は返って来ない。眠っているのか、未だ今日の悲劇に魘されているのだろうか。仕方無く愛子は扉を開け、部屋に入る事にした。

 

愛子「清水君...?」

 

 しかし、部屋に清水の姿は無かった。部屋も荒された様子は無く、ベッドの上は平たい事から、人が潜り込んでいると言う事は無い。まさかまた失踪したのかと焦り、窓等を確認するが、そこも鍵が掛かっているままで、荷物も愛子達が部屋に運び置いた場所にあるままだ。

 愛子の心に焦りが募り、冷汗が流れる。今の清水の精神状態で、何を起こすかは検討も付かない。そこに二度目の失踪だ。遺書も残さず自殺か、町から単独で逃走したのか、次々と嫌な憶測が浮かんでは消える。

 愛子は慌てた様子で部屋中を探し回り、最後にベッドの掛け布団をめくり上げた。

 

愛子「え?」

 

 そこには、清水の来ていた服のネックから頭だけ出したまま、両目を瞑り安らかに眠っている、ハムスターの姿があった。

 種別はジャンガリアンに近いだろうか、黒と灰色の背中模様に、白い腹毛が体中を覆っており、首の右側辺りに独特な刺青模様の毛が入っている。

 何故こんな所に小動物がいるのか、と言うか何で清水君の服に潜っているのか。その疑問がまず浮かぶだろう。

 

愛子「か、可愛いぃ〜〜〜!」

 

 そんな事は関係無い。大事なのは今、自分の目の前に、毛玉の妖精が可愛らしい寝顔でスヤスヤと眠っていて、愛らしい姿を見せている事だけだ。今の愛子の頭にはそれしか浮かばなかった。

 その姿を見ているだけで、心を蝕んでいた暗い感情が綺麗に消し飛ぶ。愛子の黄色い声が聞こえたのか、親衛隊の面々が集まって来た。

 

優花「愛ちゃん先生? どうしたんですか?」

 

愛子「あ! 園部さん達、見て下さいよこれ! とっても可愛いですよ! あ、でも静かにしましょう。起きてしまったら台無しですからね!」

 

 今の今まで騒いでいた本人が、口の前に人差し指を立てる。園部達は童心に戻っているかの様に目を輝かせ、今にも飛び出さんばかりに喜んでいる愛ちゃん先生が可愛いと思いつつ、愛子が指差すベッドの上に視線を向ける。

 

奈々「わぁ、可愛い〜! 何これ、ジャンガリアン? めっちゃやばい!」

 

妙子「わ、寝ながら頭掻いてる! 凄い可愛い!」

 

 親衛隊も眠る小動物を見て陥落し、同じ様に黄色い声を上げながらハムスターを愛でる。彼女達の頭からは、清水の事がさっぱり消え去っていた。

 

 昇「あれ? この模様、何か見覚え無いか?」

 

淳史「模様? あ、本当だ。これって...玖珠木さんが清水に付けた刺青と同じやつじゃね?」

 

愛子「え?」

 

 愛子が玉井の発言を聞き、ハムスターの模様を見つめる。確かにこの模様は、清水が白野に付けられた物と一致する。形も模様がある位置も、全く同じだ。

 そこで漸く清水を探していた事を思い出た。教師としての根性と、清水を忘れていた事から来た焦りを発揮して頭を高速回転させる。本人の姿は見えない、抜け出した様子も無い、部屋が荒された痕跡も無い、そしてベッドの上にはその場で体だけ無くなった様に置かれた清水の服と、眠っているハムスターがいる。

 

愛子「え、嘘ですよね? まさか......。」

 

明人「そのハムスターって......。」

 

 その時、ハムスターが目を覚ました。ゆっくりと目を開けると、意識がハッキリしたのか視線が愛子達に向く。そして彼女達を見た瞬間、怯えた様に体を震わせると、物凄い速さでその場から駆け出し、枕の裏に飛び込んだ。

 明らかにこちらを恐れている。野生のハムスターとて、こんな風に態々怯えてから逃げ出す様な人間臭い反応はしない。そしてその様子が、昼間の尋問されている清水の姿と重なる。

 

淳史「し、清水が......。」

 

優香「ハムスターになっちゃった......。」

 

••••••••••••••••••••••••••••••

 

愛子「玖珠木さん玖珠木さん玖珠木さん!!」

 

妙子「愛ちゃん、それ詠唱しないと使え無いから! 」

 

 ハムスターとなった清水を籠に入れて捕獲し、愛子は白野に渡された通信用アーティファクトを使い連絡を取ろうとする。が、焦りと混乱で先走り水晶玉を叩いて起動しようとしていた。

 最早白野が清水にした事を気にしている場合では無い。今この場において、清水の身に起きた事を解決出来そうな人物は彼女しかいない。妙子の言葉を聞き慌てて詠唱を始め魔力を込める。すると数秒後に水晶玉から白野の声が聞こえて来た。

 

白野『はい、ハクノです。』

 

愛子「あ、玖珠木さんですか!? 助けて下さい!」

 

白野『何があったんですか?』

 

愛子「清水君が、清水君がハムスターになってしまったんです!」

白野『エリさん、はむすたーとは何ですか?』

 

恵理『は、え? 私に聞くの? え〜と、ウォームラットっているでしょ? 王国で飼育用に売られている奴。見た目はあれに近いかな。』

 

愛子「え? 中村さん? 何で玖珠木さんの近くに?」

 

 ハジメ達から聞いた話では、白野は今日の夕方に町を出た筈だ。幾ら車より足が早いとは言え、ホルアドに着くには余りにも早すぎる。

 

白野『ユキトシさんがウォームラットになったとおっしゃいましたか。一先ず状況を教えて頂けませんか?』

 

 白野に質問され、事の顛末を伝える。生徒が突然動物に変化した。正直言ってかなり荒唐無稽な話だ。とはいえ、確証が無いにしろそう説明するしか無いと言うのも事実だ。素直に今判明している事を話していく。

 

白野『...分りました。原因を探りますので今から其方に向かいます。少々お待ち下さい。』

 

愛子「え、今からですか? もう夜も遅くなりましたけど、大丈夫なんですか?」

 

白野『ご心配無く。直ぐに着きますので。それではお休みなさい、エリさん。』

 

恵理『え? あ、お休み白野。』

 

 急に話を振られたからか、吃りながら返事をする恵理。その言葉を最後に通信が切れる。白野は直ぐに着くと言っていたが、どう言う事――

 

白野「お待たせ致しました。」

 

愛子「へぁ!? く、玖珠木さん!?」

 

優花「何か出て来た!? 何なの今の光!?」

 

 突然光の膜が親衛隊の前に現れ、その中から白野が現れた。王国の魔道士ですら知らない魔法を見て、全員が驚く。

 

愛子「い、今のは一体何ですか?」

 

白野「“界穿”と呼ばれている物です。簡単に説明すると、空間魔法による転送魔法ですね。」

 

愛子「最初からそれを使いましょうよ!? 北の山脈から町に戻る時にそれ使えば私達だけ戻せましたよね!? 何で提案した時先に投げ飛ばす方が出て来たんですか!?」

 

淳史「と言うか、トータスにそんな高レベルな魔法あったんだな...。」

 

 白野が空間魔法を使えると知っていたならば、ハジメに頼らずにウィルの所にも向かう事のみならず、清水に直接会う事も出来ただろう。最も、清水の場合は会った所でそのまま殺されていただろうが。

 今迄火球や突風を引き起こす等の原始的な魔法しか知らなかった玉井の呟きがひっそり聞こえて来るが、白野は気にせず問題に入った。

 

白野「ユキトシさんと思しきネズミは何方に居ますか?」

 

愛子L「は! そうでした!」

 

••••••••••••••••••••••••••••••

 

 白野が調査を始めて数分たった頃。その間、彼女は鞄から取り出した魂結晶と、ハムスターが入っている籠を見比べていた。ハムスターは白野の視線に怯えて逃げ出そうとするが、籠からは抜け出す事が出来ず隅で縮こまるのみに終わっていた。

 

白野「確かに、ユキトシさんですね。」

 

愛子「え、分かるんですか!? じゃあ、そのハムスターは...。」

 

白野「はい、ウォームラットの影が重なって見えますが、間違い無くユキトシさんその人でしょう。」

 

愛子「えっと...影、ですか?」

 

白野「私にはそう見える、それだけです。恐らく皆様には見えない物かと。」

 

――如何やら騎士殿には、只人には見えない物を見ているようじゃな。お主の視界には物理的な物ではなく、何か別の物が写っているのやも知れぬ。

 

 その言葉を聞き、先日のティオの推測を思い出す。もしかしたら、今彼女が見ている物がそうなのだろう。愛子が見た限り、白野が嘘をついている様子も無い。たが、次の白野の発言で表情を暗くする羽目になった。

 

白野「恐らくユキトシさんがこの様な事になった原因は、私が魂結晶に彼の魂を入れたせいでしょう。」

 

愛子「玖珠木さんが、ですか? でも、どう言う原理で...?」

 

白野「説明するには、まず魂の仕組みと肉体との関係性を説明する必要があります。」

 

 白野は鞄から紙とペンを取り出す。分かりやすくする為に図を作成するつもりなのだろう。

 

白野「魂と言うのは、三つの非物質的な要素で構成されています。皆様はどの様な物で出来ているか知っていますか?」

 

淳史「え? あ〜、何かこう、精神とか、霊体みたいな?」

 

白野「大凡その通りです。」

 

 白野が紙に三つの文字を書いていく。それぞれトータスの文字で、記憶、精神、エーテル、と書かれている。

 

白野「今回の説明におきまして、先ず記憶と言うのは、主に知識、経験と呼ばれる物の総称です。例としてあげるならば、知識であれば魔法の詠唱、経験とは剣術等の技術となります。」

 

優花「つまり、今迄体験して来た事の記録って事?」

 

白野「はい。例えるならば個人の記録が綴られた本と言った所です。」

 

 記憶の文字の下に本の絵が追加される。筆が次の文字に移り、説明が続く。

 

白野「次に精神についてですが、これは文字通り喜怒哀楽等に分類される”心”の事です。凡ゆる感情が精神を作り上げており、その人の人格を構成する重要な物です。」

 

 精神の文字の下に、恐らく心を表しているであろうハートマークが描かれた。

 

奈々「じゃあ、この”エーテル”って言うのは?」

 

白野「それは魂を構成する基盤となる物です。魂を非物質に足らしめる、或いは生物が保有する非物質全ての情報を記録する大元の存在、それがエーテルです。」

 

 エーテルの文字の下に人の輪郭が描かれる。その絵の胸の辺りにハートが、頭の中に本が描き加えられた。

 

白野「つまり、この三つが交わる事で、初めて魂が出来ます。これが魂の概要です。」

 

優花「その、魂に付いては分かったけど、それと清水がハムスターになった事とどう関係があるの?」

 

白野「魂を構成している要素は、他の要素にも影響が現れる様に出来ているんです。強いトラウマ(記憶)が精神に影響する事もあれば、個人の価値観(精神)によって経験が変わる事もあります。お互いがそれぞれに影響をもたらす、それは肉体についても言える事です。」

 

 魂の絵画の横に、新たに人が描かれる。肉体を表しているのか、線がハッキリと描かれている。

 

白野「生物と言うのは、育った環境で大きく生態を変える事もあります。分かりやすい例を上げると、人が狼に育てられると、その人は体毛が身体中を覆う様になり、嗅覚が鋭敏になる等、本来持ち得ない狼の特徴が出る様になります。」

 

 その絵の中に、犬の絵が入る。すると白野は人の絵を消し、犬の絵を覆う大きさの、新しく犬の絵を描く。中身も体も犬の絵に変化した。

 

白野「これは記憶に狼の要素が加わった事で魂その物が変質し、肉体にまで影響が及んだ事で起こる現象です。ユキトシさんの体に起きた異変は、これの事例と一致します。」

 

明人「て言うことは、清水の魂にハムスターの情報が混じったって事か? でも、そんなの何処から?」

 

白野「その原因がこれです。」

 

 そう言うと、黒い魂結晶を机の上に置いた。それは白野が清水から吸い出した、彼の魂が込められた結晶だった。昼間の惨劇が思い出され、愛子達の表情が暗くなる。

 

白野「この結晶の中には、どうやらウォームラットの魂が込められていた様です。恐らくこの魂とユキトシさんの魂が混ざった事で、彼の魂にネズミの記憶や精神が書き加えられ、肉体が変化したんでしょう。」

 

淳史「混ざったって、清水の魂は大丈夫なのか? 人格が壊れたりとか...。」

 

白野「小動物の魂は人の魂と比べて脆弱です。清水の魂に度を越した影響は無いでしょう。最も、このまま放って置けばその限りではありませんが。」

 

 白野が言うには、人と小動物では魂の質量が違うらしい。二つの魂が混ざれば、当然量が多い方が勝り、少ない方は吸収される。つまりコットンラットの魂は、全て清水に吸収されたと言う事だ。

 しかし、症状が肉体の変化だけて済んでいるのは、魂が完全に混ざり切ってい無い今だけだ。このまま融合が続けば、運が悪ければ清水の自我が消失し、完全にウォームラットに生まれ変わるだろう。

 

愛子「と言う事は、最初に言った通り今回の異変の元凶は...。」

 

白野「はい、私になります。」

 

 まるで明日は雨になると言う様な気軽さで、悪びれる様子も無く自白した。愛子の表情が僅かに険しくなる。

 

白野「なので私が責任を持ちます。それに、ユキトシさんを元に戻す方法はあります。ネズミの魂さえ取り除けば肉体は人の形に戻るでしょう。」

 

愛子「え、清水君ハムスターじゃ無くなるんですか?」

 

奈々「え、もうハムスターに戻れなくなるの?」

 

 昇「おかしくないか!? そもそも人に戻す為に玖珠木さんを呼んだんだろ!? 何で先生までそんなに哀しそうなんだよ!」

 

 どうやら女性陣は、清水ハムスターが相当お気に召した様だ。清水が殺された時よりも深く絶望した表情をしている。愛子だけは「いけない! そうでした!」と、何とか正気を取り戻していたが。

 

淳史「でも、人に戻さなかったら清水が壊れるかも知れないんだろ? 他に方法なんて――」

 

白野「あります。」

 

淳史「あるの!?」

 

白野「はい。違う精神が混ざる事が問題なだけであって、それさえ取り除けば、ユキトシさんは任意で人とネズミの姿に変化する事が出来る様になります。勿論、肉体の方にも多少手を加え(変性魔法)なければなりませんが、それも大掛かりな物ではありません。」

 

 思わぬ援護射撃に男性陣は顔を引きつらせ、女性陣は顔を輝かせる。可愛い物への執念に駆られた女性達を止める術を、男達は持ち合わせていなかった。

 作業は白野が全て執り行うと申し出た為、親衛隊達は明日に備え休む事にした。白野に任せるのは不安が残ってはいたが、自分達に出来る作業がある筈も無く、結局彼女に一任する形となった。

 

••••••••••••••••••••••••••••••

 

愛子「玖珠木さん、少し良いですか?」

 

 親衛隊達が部屋に戻り、小一時間程時間が経った頃。愛子は清水に渡す筈だったニルシッシルを持って、白野が作業の為に居座っている食堂に来ていた。深夜という事もあり、愛子達以外に人は居ない。

 

白野「どうぞ。どうかしましたか?」

 

愛子「その、お腹空いてませんか? 清水君の分のニルシッシルを注文していたんですけど、余らせてしまいまして。折角だから二人で分けて食べませんか?」

 

白野「貰います。作業も終わりましたので、明け方にはユキトシさんも人に戻っているでしょう。」

 

 ニルシッシルは既に愛子の魔法で温められている。白野は愛子の言葉に頷くと、作業を中断して机の下に仕舞われていたスプーンを取り出した。

 愛子は白野の対面に座り、白野から差し出されたスプーンを受け取ると、ニルシッシルと米を掬い口に含む。時間を掛けて煮込まれた肉が口の上で崩れ、特有の味が、慣れ親しんだ故郷の味が口の中に広がる。

 

愛子「...白野さんは、どうして清水にあんな事をしたんですか?」

 

白野「あんな事とは、清水を何度も殺した事ですか?」

 

愛子「...っ。...そうです。」

 

 こんな時間まで起きてでも白野と二人きりで会話をしているのは、如何しても彼女に問い質したかったからだ。お互い、腹を割って話を付けたかった。

 白野は食事を続けながら、質問に答える。

 

白野「先生が望まれていた、ユキトシさんの保護の為です。」

 

愛子「...保護?」

 

白野「はい。先生はユキトシさんに会いたがっていた様子でしたので、彼を見つけ次第貴女の元に連れ出すつもりでした。」

 

 本来ならばそれだけで済んだ筈の話だった。しかし清水は魔人族と取引し、利己的な理由で愛子を殺そうとしていた。

 

白野「連れ戻したせいで貴女が死んでしまえば、彼を連れ戻した意味が無くなります。それでは貴女を助けられません。」

 

愛子「助けって、もしかして私が清水君を探していた事ですか? 」

 

白野「そうです。ですがユキトシさんは此方に危害を加えて来たので、あの様な手段を取れせて頂きました。」

 

愛子「それって...玖珠木さんは、私を助ける為に...清水君を殺したと言う事ですか?」

 

白野「結果的に言えば、そうなります。」

 

 愛子は清水を探していた。それを聞いた白野は、清水の意思に関係無く愛子の元に連れ戻した。要は助けを求めた人(愛子)の為に、目標の人物(清水)を犠牲にしたと言う事だ。

 

白野「そのつもりだったんですが、如何やら私は先生を助けられていない様です。」

 

愛子「...え?」

 

白野「貴女の表情を見れば、それくらいは私でも分かります。とても、哀しそうな表情をされていますので。」

 

 愛子は俯いていた顔を上げる。白野はいつの間にか食事の手を止めて、愛子の目を見ていた。愛子には彼女の表情から感情は窺えないが、それでも責任を取ろうとしている事だけは分かった。

 

白野「私はあの時、どうすれば良かったんですか?」

 

愛子「それは...。」

 

白野「私は、どうすれば貴女を助けられますか?」

 

 愛子の心から少しづつ暗い感情が消え、思考が晴れて行く。白野は今、償おうとしているのだ。自分がした事の責任を、背負おうとしている。

 

愛子「私は...私は玖珠木さんに、清水君の事も助けて欲しかったんです。彼を、救って欲しかった。でも、もうそれは過ぎてしまった事でもあります...。」

 

 ならば教師として、彼女の先生として道を示さなければならない。ここで白野を非難してしまえば、自分は二度と生徒達に顔向け出来なくなる。

 

愛子「だから玖珠木さん、誰かを助けたいのなら、誰かを切り捨てる様な事はしないで下さい。勿論、それが出来無い場合もありますが、それでもあえて見捨てる様な事は、もうしないで下さい。先生との...約束です。」

 

 愛子の言っている事は理想論だ。それは彼女自身も分かっている。それでも、白野にはその道を目指して欲しかった。それが、白野が笑って過ごせる未来に繋がっている事を信じて。

 

白野「...誰かを助けると言う事は、他の誰かを捨てると言う事です。先生が仰っている事は、幻想に等しい物です。」

 

愛子「う...、そうですよね。玖珠木さんもそう思われますよね...。」

 

白野「ですが、それを目指して進む事は出来ます。」

 

 白野が愛子の手を、両手でそっと握る。死人の様な冷たい手だが、それでも愛子は振り払う様な事はしなかった。

 

白野「先ずは、それを目標にする事にします。」

 

愛子「玖珠木さん...。ありがとうございます!」

 

 白野の手を握り返し、満面の笑みを浮かべる。自分の言葉が、大切な生徒に届いた事に。彼女とわかり合う事が出来た事に、この時愛子は喜んでいた。

 

 

 

 その言葉が、後に彼女を傷付ける事に気付かずに。皮肉にも、自分の言葉で意図せず報復を果たす事になるとも知らずに。




清水「なんか、ひたすら回し車を走ってた記憶がががが」

ご閲覧ありがとうございました。
付箋回のつもりが、想像以上に執筆に時間が掛かってしまいました。
次回、漸く本編に戻ります。
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