幽鬼の怪物   作:NIRIN0202

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今回、苗床や寄生虫等の過激な表現が含まれております。事中の文はありませんが、苦手な方はご注意下さい。
今回の話を書きながら、運営や読者の皆様からレッドカードを出されないか内心ビビっている作者です。グロはあるけど卑猥は一切無い、筈、多分。


17.私の過去

 生物は、苦痛により進化する。

 

 飢えを凌ぐ為に、毒を口にしても死なない体質になる様に。

 水中で溺れ無い様に、鰓で酸素を取り込める体になる様に。

 苦痛に抗う為の手段を、脅威に晒される過程で進化し、種の生存を勝ち取って来た。

 

 恐怖、危機、天敵、絶滅。その生存への脅威があるからこそ、生物は避ける為に進化を、変化を余儀無くされる。

 

 苦難から逃れたいと、その恐怖が「自我」を生む。

 

••••••••••••••••••••••••••••••

 

香織「ハジメくん!」

 

 突如目の前に降りて来た黒いコートを羽織った男に、歓喜に満ちた声が掛けられる。香織にとってその人物は、数ヶ月前から会いたいと願って止まない最愛の人だった。

 ハジメはその様子を苦笑しつつ更に天井から降りて来た二人を受け止め傍に下ろすと、視線を使徒擬き達に戻し部屋全体を見渡す。その軍勢の奥には鎧を剥がされ、今も尚傀儡に食い荒らされている少女の姿があった。

 その様子に僅かにも表情を変えぬままドンナーを抜き、白野に夢中になり無防備になっている背中を目掛けて、電磁加速させた銃弾をお見舞いする。

 奇跡的な起動を描き数多の使徒擬きをすり抜けた必殺の弾丸は、しかし軌道上に双大剣を割り込ませた別個体の妨害により失敗した。弾は双大剣を大きく折り曲げたが、弾道が外れ明後日の方向に飛び虚しく壁を撃ち抜く。

 

キンドル「邪魔をされては困るなぁ、女神の剣サマよ。ソイツは今調教中でねぇ。」

 

 ハジメ「チッ、まだ生きてるのか。ゴキブリ並の生命力だな。」

 

 ハジメが声のした方向に目を向けると、そこには地面の赤い染みに成り果てていた筈のキンドルが立っていた。いつの間にか体の再生が終わっており、五体満足の状態に戻っている。

 

キンドル「あの程度の攻撃で殺せるとでも思っているのかぁ? おめでたい小僧だ。それでぇ、お前達はこんなカビ臭い穴蔵に何をしに来たのかね?」

 

 ハジメ「死に損ないには関係の無い義理を果たしに来ただけだ。邪魔をしないなら見逃すぞ? 追いも殺しもしない。」

 

 ハジメの傲岸不遜な発言を聞いたキンドルは、一瞬呆けた面を見せた後に言葉の意味を漸く理解したのか、突然ハジメ達を嘲笑い始めた。

 

キンドル「ハハ、ハハハハハハ! 何を言うかと思えば、世迷言か! つくづく神に連なる者は滑稽だなぁ! 逃げ出すのはお前達の方だろう? 最も、お前を見逃すつもりは無いがなぁ。私から見ても、その肉体とアーティファクトは実に興味深い。」

 

 ハジメ「ハッ、寝言は棺桶に入ってから言えよ、迷彩野郎。寧ろお前が俺の実験体になる、の間違いだろ?」

 

 お互いが軽く罵り合う中、嵐の前触れの様に空気が張り詰めて行く。既に使徒擬き達は武器を構え臨戦態勢にあり、ハジメは念話石でユエとシアにお守りの指示を出し、自身も”瞬光”を発動し知覚能力を引き上げている。

 そしてたった一言で、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

キンドル「ーー捕らえろ。殺しても構わん。」

 

 ハジメ「なら遠慮は要らないな。お前は俺の、敵だ。」

 

 先に動いたのは使徒擬きだった。2体の使徒が目にも止まらぬ速さで突進し、ハジメを十字に挟む様に囲み斬りかかる。

 ハジメは迫り来る大剣を屈んで回避すると、使徒擬きの鳩尾に義手の肘鉄を叩き込む。瞬時に肘から散弾を撃ち出し片方の使徒を射殺すると、更に激発の反動と”豪腕”を利用した正拳突きをもう片方の使徒にくらわせた。肉の爆ぜる音と共に使徒擬きの胸部が弾け飛び、内側から砕けた魔石が吐き出され使徒擬きは息絶えた。

 少しの間も置く事すら無く、瞬時にドンナー&シュラークを抜き発砲する。使徒擬きは射撃に対応する為に双大剣を構え防御をとるが、間延びした銃声と共に12発の弾丸が各々の大剣に当たり跳弾すると、ピンボールよろしく跳ね返り続け、まるで吸い込まれるかの様に使徒擬きの胸部を貫いた。

 

キンドル「馬鹿め、無駄な足掻きだぁ!」

 

 罵声と共に、再生魔法の光が死体に降り注ぐ。ハジメに殺された使徒擬き達は瞬く間に蘇生し息を吹き返す。

 

 ハジメ「再生能力に頼ってるようじゃお終いだな。」

 

キンドル「まさか。それだけでは無いさぁ。」

 

 再びドンナーを連射し使徒擬きを撃ち殺そうとするハジメだったが、必殺の弾丸は、あろう事か使徒擬きの肉体に当たった瞬間、柔らかいクッションに跳ね返るボールの様に鈍い音を立てて跳ね返り、あらぬ方向に跳弾する。使徒擬きは少しのダメージも受けた様子も無く平然と立っている。

 全員の顔が驚愕に染まる。銃の存在を知る勇者達は勿論、ハジメと同行しているユエ達もその威力は良く分かっている。硬い装甲を持っている魔物なら兎も角、剥き出しの肉体を持つ使徒擬きでは音速で飛来する金属弾を防ぐ事は不可能だ。先程までは届いていた攻撃が効かない、それが意味する事はつまりーー

 

 ハジメ「適応しているのか? この短時間で。」

 

キンドル「その通りぃ! 頭の回転が早いねぇ。たが、君の玩具はもう効かない。コイツらはーー」

 

 ハジメ「話が長え。お前は新しい玩具を見せびらかしたがるガキか? ゴチャゴチャ喚いてる暇があったらさっさと掛かってきたらどうだ。たっぷり遊んでやるよ。」

 

 校長の長話に退屈した生徒の如く、呆れた視線を向けるハジメに眉を潜めたキンドルは、片手を上げて使徒擬きに短く指示を出す。使徒擬きが一斉に武器を構え、ハジメに向かって駆け出す。ハジメも敵が動き出すより早く武器を取り換え応戦しようとしたその時ーー

 

 キンドルが付けていた指輪が光を失い、黒く澱んだ。

 

••••••••••••••••••••••••••••••

 

 次から次へと絶え間無く、怪物が私の四肢を喰い尽くしている。喰われた端から再生が始まっているが、その度に体を壊され治り切らない。離脱する方法を考えようにも、先程から噛まれる度に伝わって来るナニカのせいで魔法の構築すら出来無い。

 

 

────いたい

 

 

 使徒擬きに齧られる度に、体の奥から何かが湧き出して来る。この地獄の様な光景に、何故か見覚えがあった。こんな光景を前にも見た事がある。

 そうだ、あの不可解な魔法陣があった部屋だ。あの部屋の、硬く閉ざされた扉の奥に、私は閉じ込められていた。

 

 

────イタイ

 

 

 使徒擬きに屠られる度に、見てはならない記憶がこじ開けられる。

 そうだ、思い出した。

 その部屋の中で、私は今と同じ様な目に遭っていたんだ。

 

狼が、私の四肢を噛みちぎり食い尽くした。

蝙蝠が、私に牙を突き立て血を吸い尽くした。

蜘蛛が、私に毒を刺し溶かした血肉を啜った。

蟋蟀が、私の骨を端から齧り尽くした。

小鬼が、私に子を孕ませ腹を食い破り産まれ出た。

百足が、私の脊髄を噛み砕き寄生した。

蛭が、私の体内に住み着き臓物を喰い尽くした。

蜚蠊が、私に卵を産みつけて何匹にも増え続けた。

蜂が、私の体に巣を作り子を育てた。

蛆が、私の体を這い回り腐った肉を食い漁っていた。

 

 何回も、何回も、何回も、体が壊される度に、白い烏に魔法を施され治療された。その度にまた魔物に喰われ、犯され、寄生された。

 

 

────痛イ

 

 

 ソウダ、コレガ、コノ悍シイ穴蔵ニ居タ時間ガ、私ノ過去ダ。

 

••••••••••••••••••••••••••••••

 

キンドル「ガッ!? ゥア、ァァァアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 ハジメ「......何だ、アレは?」

 

 突然、キンドルが前触れも無く苦しみ始める。体中を掻きむしり、狂犬病に罹った犬を彷彿させる動きで、耐え切れない苦痛に喘ぎ無様に地面を転げ回る。

 その体には異変が起きていた。全身の穴と言う穴から血が流れ、血管が不自然に大きく波打ち、何かが蠢いているかの様に血管をなぞり脈を打つ。そして腹部が内側から何かを詰め込まれる様に膨張し、止め処無く大きくなって行く。

 

白野「.......カッ......アァ........ゥア........ッ」

 

恵理「白.......野......?」

 

 そして離れた所で同じ様な症状が、白野と彼女を喰っていた使徒擬きにも起こっていた。ボコボコと、音を立てて全身が波打ち泡立つ。そしてその膨らんでいる腹部は、脂肪で体積を増やしたそれとは違う、胎内に子を宿した母体の様にも見えてーー

 

ハジメ「ーーマズいッ、ユエッ!」

 

 ユエに魔法を放つよう指示を出し、自身も手榴弾を投げ殲滅を図る。しかし、爆弾が起爆する前に、ユエの魔法が発動するより早く、それは起きた。

 

ーーギャァアアァァアアアアアアアア!!!

 

 バチャリと、

 キンドル達の体が、内部から破裂した。

 蝗、小鬼、蠍、狼、百足、蠅、蟷螂、蜂、蜘蛛。所々体が欠損し、体組織が露出した蟲や獣が溢れ出し産声を上げた。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

 ハジメ達の後ろで、絹を裂く様な誰かの悲鳴が上がる。だがこの異常事態を前に、それを気にしている余裕は無い。

 数多の魔物が百鬼夜行の如く群れを成し、大海原の如く部屋を片隅から埋め尽くして行く。湧き出した怪物が互いに牙を剥き、見境無しに周りの者を喰い殺している。その数は数百、数千にも及び、瞬く間に残りの使徒擬き達を数に物を言わせ飲み込んで行く。

 背後に突如現れた敵に、使徒擬き達は抵抗しようと双大剣を振り魔物の数を減らしているが、圧倒的な物量には敵わず抵抗虚しく、蟲に全身を覆い尽くされ体を貪られて行った。

 魔人族の女は土を操り、自身を覆う様に土壁を作り身を守っているが、怪物達はその障壁ごと魔人族の女を飲み込んだ。ブルタールや猿形等の屈強な魔物が、拳を振り翳し障壁を破ろうとしている。あのままでは何れ突破され、使徒擬きの二の舞になるだろう。

 そしてそれはハジメ達や勇者達も同じだ。既に怪物達は使徒擬きの垣根を越え、無差別に彼らへ襲い掛かって来ていた。

 勇者は”限界突破”の副作用で衰弱し、他の生徒達は目の前で突然起きた、白野が破裂するという悍しい光景を直視してしまい恐怖で竦んでいる。そんな中、動く者が居た。

 

ユエ「”天絶”」

 

 鈴「せ、刹那の嵐よ 見えざる盾よ 荒れ狂え 吹き抜けろ 渦巻いて 全てを阻め “爆嵐壁”!」

 

 ハジメとシアが勇者達の元に後退した後、即座にユエが光の障壁を張り進行を阻む。その防壁を覆う様に鈴の攻勢防御魔法が展開され、飛び込んで来た怪物達を纏めて後方に吹き飛ばす。

 この時、鈴自身も恐怖に怯えて半ば呆然としていたが、怪物が迫って来ると言う脅威を前に、青ざめた顔のまま本能的な危機感で咄嗟に防壁を張っていた。

 しかし、彼女の奮闘で多く数を減らしたにも関わらず、怪物達の規模は収まるどころか逆に数を増やしている。

 

ハジメ「チッ、うんざりする量だな、これは。コイツら、何処から湧いて来やがる?」

 

 魔眼石を駆使して室内全体を見渡すと、そこには蟲に喰い荒らされた使徒擬きが横たわっており、白野達と同じ様に全身から怪物が溢れ出ていた。原理は不明だが、どうやらこの怪物達に喰われた瞬間、その者は噛まれて感染するゾンビ宜しく怪物達の苗床と化すらしい。

 だが事今回に於いて、それは劇的に効果を発揮している。魔人族が多くの使徒擬きを引き連れていたせいで、怪物はそれらに寄生し、ねずみ算の要領で爆発的に数を増やしている。既にその数は、勇者達の実力で殲滅する事は不可能な規模になっている。

 

 シア「い、一体何なんですか、この魔物達!? どんどん増えてますよ!」

 

ハジメ「シア、お前は下がっていろ。コイツらに噛まれたら終わりだ。ユエ、魔力はまだ持つか?」

 

 ユエ「......んっ、まだいける。”蒼龍”」

 

 “天絶”の外側、彼らの頭上に直径1m程の青白い炎球が現れる。その炎はうねりを上げて形を龍に変貌させ、蜷局を巻きながら障壁にへばり付いていた怪物達を廃すら残さず焼き尽くす。

 周囲の怪物を焼き払うと、蒼く燃え盛る龍は鎌首を擡げて顎門を開く。重力魔法により目先の敵が宙に浮き、掃除機に吸われる塵の様に触れれば焼け死ぬ龍に吸い込まれて行く。

 

綾子「なに、この魔法……?」

 

 勇者達が見た事も無い魔法を前に呆然とする中、蒼い龍は障壁から離れ辺りの怪物を巻き込みながら前進する。自身を部屋中に這わせる事で全てを掃討するつもりらしい。目論見通り、怪物達は炎に焼かれ数を一気に減らして行く。

 

ハジメ「助かった、ユエ。後はーー」

 

 俺がやる。そう言い切る前に、有り得ない事が起きた。

 突然、ユエが放った”蒼龍”が進行を変え、あろう事かハジメ達に襲い掛かり始めた。その巨体に見合わない速度で勇者達を囲う障壁に突進し、壁を破ろうと噛み付き苛烈な攻撃を重ねる。

 

シア「ユ、ユエさん!? 敵はコッチじゃありませんよ!?」

 

ユエ「違う! 私じゃない!」

 

 血迷ったのかと、シアが魔法を放った張本人であるユエに言葉を掛けるが、返ってきた応答は焦りの混ざる困惑した台詞だった。

 その疑惑に答える様に、”蒼龍”に異変が起きる。長い胴に黒い血管が浮かび上がり、脈打ちながら全身に広がって行く。その様子は、怪物に噛まれた魔物達と同じ現象でーー

 

ユエ「......何かが、何かがおかしい!?」

 

 その瞬間、龍が炎を散らし弾け飛び、中から大量の怪物が現れた。

 

 使徒擬きから湧き出すソレとは桁違いの量が頭上から降り注ぎ、一瞬で障壁の外を埋め尽くす。怪物同士が互いを押し潰しながら障壁を囲い、周囲の者を蹴散らし合いながら防壁を破壊しようと次々に攻撃を加えて来る。

 

 香織「そんな、魔法まで!?」

 

ハジメ「.......悪食にも程があるぞ。達の悪いホラー映画を見てる気分だ。」

 

 原理は不明だが怪物達は魔法に干渉し、何らかの方法で自らの糧に変えたようだ。こうなると魔法による殲滅は難しくなる。放った魔法が片っ端から敵を増やす餌になるのだ。減らす為の攻撃が逆に敵を増やしては話にならない。

 しかし何時迄も手を拱いている場合では無い。障壁に加わる衝撃は止めどなく増えている。一体当たりの火力は大した事は無いが、それが数千規模にもなれば話は変わる。集団で重ねられる圧力は計り知れず、それを表す様に光の防壁には無数の罅が入っている。重圧に押し潰されて怪物達の海に飲み込まれるのも時間の問題だ。

 ハジメ自身も対多数用の兵器を揃えてはいるが、ブルタールは兎も角、蟲等の的が小さい相手は撃ち漏らす可能性が高い。接近戦で万が一にも噛まれてしまえば、それだけで苗床の仲間入りになってしまう。

 ハジメが必死に頭を動かし、対抗策を考えていた時、彼の後ろから意外な人物が話しかけて来た。

 

 恵理「えっと、南雲君......だよね?」

 

ハジメ「...ア? 確かに無能の南雲君だが、何の用だ?」

 

 言葉を掛けたのは恵理だった。苛立っているハジメの視線に怯えながら、地図を片手に話を続けた。

 

 恵理「さっきみたいに、床を壊す事は出来る?」

 

ハジメ「それは.......なるほどな。」

 

 その一言で何かを察したハジメは、宝物庫から魔力回復薬を取り出すと、香織と鈴に投げ渡した。突然の事に目を白黒させながら慌てて瓶を受け取ると、二人揃って疑問の視線をハジメに向けた。

 

ハジメ「お前ら、”聖絶”は使えるよな? 俺が合図を出したら結界を張り直してくれ。出来るな?」

 

 香織「でも、ハジメ君はどうするの!?」

 

ハジメ「決まってんだろ。」

 

 この短時間で以前の「無能」とは思えない程の、圧倒的な戦力を見せつけられた香織だったが、滝から流れる水の様に、無制限に溢れて来る敵の物量を前に悲痛な表情を浮かべる。

 しかし、ハジメの反応は逆だった。口元が不敵に弧を描き、獰猛な獣を思わせるような殺意を滾らせる。その様は、嘗ての彼とは別人とも言える程掛け離れた姿。

 

 香織「......ハジメ......くん?」

 

ハジメ「敵は、殺す。それだけだ。」

 

 そう言いながら踵を返すと、ハジメはミサイル&ロケットランチャー オルカンと、ガトリングレールガン メツェライを取り出し構えると、ユエとシアに指示を出す。それは少しでもしくじれば終わってしまう、綱渡りをする様な作戦だった。

 ユエが”聖絶”の頭上当たりに、人が一人通れる程の大きさの穴を開ける。当然、その部分に張り付いていた怪物達が、重力に従い雨の様に降り注いで来る。しかしそれらが穴を通り抜ける前に、弾幕の嵐が怪物達を襲った。

 

ハジメ「群がるな、害虫供が。」

 

 シア「通しません!」

 

 メツェライから繰り出された毎分1万2千発の弾丸が、ドリュッケンから放たれた炸裂式のスラッグ弾が、怪物達を押し流す様に蹴散らして行く。音速で駆け抜ける金属の暴風は、遂に怪物達の海原を貫きその先の天井が露わになった。

 

ハジメ「壁を張れ!」

 

   「「”聖絶”!」」

 

 ハジメが”空力”で空を跳び障壁の穴を抜けると、香織達に合図を送る。穴の空いた”天絶”を下から塞ぐ様に”聖絶”が展開され、再び怪物の群れを押し留める。

 羽を持つ蜂や蝙蝠等の怪物が、空を飛びハジメを喰い殺そうと襲い掛かるが、そんな事は吸血姫が許さない。

 

ユエ「”黒渦”」

 

 障壁を押し潰さない程度に加減された重力場が空飛ぶ怪物達を捕らえ、地面に縛り付ける。羽虫程度ではその重力から逃れる事は叶わず、他の怪物共々地に伏せる事になった。

 跳び上がったハジメはそのまま天井迄昇ると、靴に仕込んだスパイクを打ち込み天井に張り付く。そして火器の引金を引き、有りったけのロケット弾と焼夷手榴弾を下にいる怪物の海に投下した。

 内包されたタール状の液体に火が灯され、一気に燃え上がる。摂氏3千度の極炎が室内を焼き払い、苗床ごと怪物達を灰に変えた。

 それでも尚、焼かれた端から苗床を起点に驚異的な生命力で怪物達は湧いて出て来る。巣穴を燃やした程度で全滅出来る程度の、柔な連中では無いようだ。これだけで蹴散らせられたら御の字だったが、ハジメの狙いは制圧では無い。

 オルカンから瞬時に取り替えたパイルバンカーが、紅いスパークを放ちながら杭を回転させる。そして、電磁加速したアザンチウムコーティングの杭が発射され、流星の様な光の尾を引き地面を穿った。地面を貫いた杭を起点に壮絶な衝撃波が辺りに放たれ、洗剤を垂らされた油の様に怪物達を吹き飛ばす。

 ハジメはその結果を見る事なく次々に杭を装填し地面に杭を打ち付けて行く。片手で貫かれた地面の穴に手榴弾を投げ入れると、ドンナー&シュラークを抜き発砲した。

 

ハジメ「落ちろ、ゴミ蟲が。」

 

ドパァアアン!!

 

 僅かに間延びした一発分の銃声と共に、複数の銃弾が放たれ手榴弾を撃ち抜く。貫かれた衝撃で炸薬が起爆し、地面に亀裂が入る。そして、大量の怪物達の重量を支え切れなくなったそれは、一気に崩壊を始めた。

 恵理が持っていた物は、自分達が書き記して来た階層の地図だった。今居る階層と一つ下の階の地図を照らし合わせると、この部屋の下に同じ様な広い空間がある事が判明したのだ。一掃が難しいならば、丸毎ゴミ箱に捨てれば良い。それが、彼女が考え付いた作戦だった。

 目論見は成功し、苗床と化したキンドルと使徒擬きも含めて怪物達が下層に落ちて行く。崩壊しない様に加減された勇者達が居る場所に、必死によじ登ろうとする怪物達だったが、下方に発生したユエの”黒渦”により遮られ、障壁に張り付いていた怪物も含め加圧された重力に従いあえなく落ちて行った。

 大海原の如く部屋中を埋め尽くしていた怪物達が、底の抜けたバケツから落ちる水の様に奈落に落ちる。そして、障害物が無くなり、部屋の壁が見えてきた。

 

鈴「ぁ......!」

 

 そこには、崩壊し崩れ落ちている地面と、四肢や胴、果てには顎や目さえも失い、今も尚断面から蟲が湧き出している白野の姿があった。

 

鈴「ーーダメ、白野!!」

 

 鈴の悲痛な叫びと共に、奈落に落ちる白野の下にに結界が張られ、首しか残っていない彼女を拾い上げた。

 それを見たハジメが怒りに顔を歪ませて、殺意の篭った目で鈴を睨む。

 

ハジメ「何のつもりだ、谷口! ソイツを落とせ!!」

 

  鈴「嫌だ!! 絶対に落とさない!」

 

 苗床がある以上、怪物達は無限に繁殖する。元手を絶たなければ終わらないのだ。

 既に白野を乗せた結界の上は蟲が蔓延り、その壁を覆い尽くしている。ユエの重力魔法は怪物を下層に落とし続けてはいるが、魔力は何れ尽きる。そうなれば怪物は壁を登り勇者達を襲うだろう。

 苗床を全て処理した上で蓋をしなければ、状況は逆戻りになってしまう。だからこそ、苗床になってしまった者は、例え仲間だろうと処分しなければならない。

 

ハジメ「ソイツは玖珠木なんかじゃ無ぇ! 血の代わりに霧と蟲を垂れ流す化物だ! アイツはもう死んだんだよ!」

 

  鈴「そんな事無い! 白野はまだ生きてる! だからっ────今度は絶対に助けるんだ!!」

 

 しかし鈴は頑なに結界を解こうとせず、白野を落とすまいと魔力を注ぎ込み”聖絶”を維持する。周りに居た何人かの生徒が鈴を止めようと動いたが、彼女の唯ならぬ気迫に押され、タタラを踏み立ち止まってしまう。

 説得は無意味と判断したハジメは、苛立つ様に舌打ちをしてドンナーの銃口を白野に向ける。彼女ごと障壁を撃ち抜いて下層に叩き落とすつもりだ。

 その引金が引かれる前に、異変が起きた。

 

ハジメ「......何だ? 蟲が.......?」

 

 白野「......ス.......ズ.......さん.....?」

 

 今まで死体同然に動きもしなかった白野から、顎が砕け肺が無くなっているにも関わらず、出ない筈の声が発せられた。

 

 鈴「白野!? 待ってて、今助けるから!」

 

 それと同時に、白野自身から流出していた怪物が、ついさっきまでわんさかと溢れていたのが嘘の様に止まる。出し尽くしたかの様に一匹も現れなくなった。

 

ユエ「......”風爆”。」

 

 鈴「え、あ、ありがとうございます! 」

 

 一先ず怪物のパレードは終わったと判断したユエが、結界越しに放った風を起こし白野に纏わり付いていた蟲を吹き飛ばす。

 鈴は香織に話しかけ、勇者達を守護していた”聖絶”を解くと、白野が居る場所に向かって結界を張り、それを足場にして駆け出した。

 白野に対する警戒を解かないまま、ハジメは天井から降りて壁に手をつき”錬成”を始める。壁剤から練り上げられた土が伸びて行き地面を作る。”土術師”である野村もそれに追従し、同じ様に壁から土を生やし作業に加わる。

 

 鈴「白野! 返事をして、白野!」

 

白野「......スズ...さん。ありが......とう......。」

 

 鈴「────っ!」

 

 途切れ途切れの、蚊の鳴く様な声で言われた彼女の礼に、何故か悲しそうに顔を歪ませる鈴。

 しかしそれでも、白野の生存に喜ぶ様に、大切な者を二度と離さない様に、白野の頭を両腕で抱きしめていた。




ご閲覧、ありがとうございました。

冒頭の文は「バイナリードメイン」の登場人物。天田 洋二の台詞からコp....引用しております。個人的にかなり気に入っている言葉の一つです。
今回の魔人族襲来編ですが、深淵卿ファンの方がいましたら、本当に申し訳ございません。作者の技量不足で遠藤さんを出せませんでした。
メルド達騎士団が白野の妨害で魔人族を押さえていた為、地上にメルド達が救援を求めに戻り、遠藤さんは前話の冒頭の時点で勇者達の元に戻っています。

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