幽鬼の怪物   作:NIRIN0202

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2.目標

2.

 

 魔物が無数に犇めき合う部屋で、二人の少女が状況を確かめる様に見つめ合う。ふと視線を変えると、いつの間にかキンドルが持っていた棺の蓋が開いているのが見えた。どうやら白野と呼ばれた少女はこの中から飛び出して来た様だ。キンドルが訝しげな視線を白野に向ける中、恵理に向かって再び質問が投げられた。

 

  「次はどのように致しますか?」

 

恵理「.......へ?」

 

  「何をすれば貴方を助けられますか?」

 

 無機質な瞳が真っ直ぐに恵理へと向けられる。理由は分からないが、どうやら恵理を助けるつもりの様だ。

 

恵理「え、えっと、じゃあ、此処にいる魔物と魔人族を全部倒して。」

 

  「わかりました。」

 

 かなり無茶な要求を言うが、白野は文句を言わずに了承する。そして直ぐそばにあったプルタールが持っていたのであろうメイスを拾い、キンドル達に体を向ける。

 

キンドル「オカシイねぇ。何でお前が今更起き上がるんだい?そもそも、何が出来ると――」

 

 言葉が途中で途切れる。白野の手から投げナイフの様にスティレットが放たれ、彼の頭と残っていた魔物の全てに降り注いだからだ。

 一瞬で命を絶たれたキンドルは、あっさり地面に崩れ落ちる。

 

――ウオオオォォォォォン!

 

 四つ目狼だけは奇襲を避け、白野に襲いかかる。彼女は攻撃を最小限の動きでかわし、四つ目狼の予測よりも早く、メイスを振り下ろし頭だけを地面のシミに変える。

 そしてその勢いのまま、迫ってきたプルタールの足を砕き、地面に倒れた所で上段から振りかぶり、頭を潰す。

 

「”炎浪”」

 

 そして背後から迫っていた大量の蜘蛛の魔物に向けて、広範囲の炎魔法を放つ。それは恵理が使った時よりも遥かに強力で、炎の色が蒼くなっていた。魔物達は一瞬で灰に変えられる。

 

――シャアアアア!!

 

 大百足が突進してくるが、縮地の様な素早い動きで容易く避ける。しかし大百足の進行方向には未だ気を失っている光輝達がいる。

 

恵理「まずい!?お願い、光輝君を助けて!」

 

  「わかりました」

 

 白野に助けを求め、光輝を救出させようとする。この指示には打算も含まれている。光輝と恵理だけ助けさせて、他を見捨てれば必然的に彼は唯一人生き残った自分を見てくれるだろう。そうでなくとも、恵理にとっての邪魔者は殆ど処分出来る。

 恵理がほくそ笑む中白野はその要望通りに救い出した。......隣にいた遠藤を。

 

恵理「は?」

 

 光輝は無事に大百足に跳ね飛ばされ、華麗なトリプルアクセルを決める。イケメンフェイスと白い目が実に映える。

 

恵理「え、待って、違うから!?そいつじゃなくて今跳ね飛ばされた茶髪の人だから!その人を助けて!」

 

  「わかりました。」

 

 遠藤を恵理の近くに降ろす。今度は蟻の魔物が光輝に迫る中、彼女は跳ね飛ばされていた茶髪の檜山を助ける。

 大量の蟻が砂糖と言う名の光輝に集る。

 

恵理「顔覚えてないの!?分かった!指示を出した僕が悪かった!だから全員助けて!!」

 

  「わかりました」

 

 このままでは光輝が虫に啄ばまれる。考え直した恵理は生徒達全員を救出する方向に変える。序でに白野の「わかりました」は信用できなくなる。

 指示を受けた白野はスティレットを生徒達に投げる。一瞬トドメを刺すのかと思ったが、それが当たると同時に生徒がその場から消えて、恵理の周りに現れる。どうやらあの短剣は、武器として使えるだけでは無い様だ。

 

「”天絶”」

 

 全員を一箇所に集めた後、白野は詠唱もしていないのに魔法を行使する。光の障壁が生徒達を覆う様に展開される。白野が使えない筈の魔法を使う事に驚く中、当の本人は続けて魔物にメイスを振り、時に鎧通しを投げつつ数を減らしていく。途中、使っていたメイスが壊れたが、白野はすぐに他の武器を拾い、魔物を屠っていく。敵は彼女に傷一つ付けられないまま、数を減らしていった。

 

••••••••••••••••••••••••••••••

 

 そして然程時間が経たない内に、部屋にいた魔物は再び全滅した。

 白野は半ばから折れ使い物にならなくなった斧を投げ捨てると、生徒達を守っていた”天絶”を解いて恵理に近づく。

 

恵理「......。」

 

 しかし、恵理は白野に向かって疑惑の視線を向ける。別に不満がある訳では無い。余りにも記憶に合わないからだ。行方不明になる前の白野の戦い方と、今繰り広げられていた戦い方が。

 

恵理(白野は剣や斧とか、他の近接戦闘用の武器も苦手だった筈。だからクロスボウを使っていた。魔法も適性はあったけど、戦闘中の詠唱が出来なかったから使いもしなかった。なのに......。)

 

 白野は武器を振るい、原理は分からないが詠唱もしていないのに魔法を使い続けた。しかも適性の無い魔法さえも。最早別人の域だ。

 

  「怪我はありませんか?」

 

恵理「!」

 

 白野の言葉に我に帰る。考え事をしている場合では無かった。何はともあれ、事件は解決した。早く皆の怪我の治療を済ませ、地上に戻らなければならない。

 

恵理「......私は大丈夫。他の人の治療をするから手伝って。」

 

  「わかりました。”絶象”」

 

恵理「え、何それ......っ!?」

 

 白野が手をかざし、恵理の知らない魔法を使うと、生徒達は光に包まれ、傷が治っていく。いや、外傷だけでは無い。ボロボロになった服も、壊された武器や鎧さえも、瞬く間に修繕されていく。

 

光輝「......うぅ、......ここは?」

 

香織「何が起きて......?」

 

 そうこうしている内に、生徒達が次々に目を覚ましていく。そして、既に立ち上がっていた二人に目を向け、驚愕する。

 

恵理「光輝君!皆!大丈夫!?」

 

光輝「恵理?無事だったのか!?」

 

 雫「あれ?でも、隣の人は、誰なの?」

 

 鈴「嘘でしょ.....?もしかして、ハクノンなの?」

 

香織「白野って、もしかして白野ちゃん!?どうしてこんな所に!?皆探してたんだよ!?」

 

 全員が突然の再会に驚き、白野に向けて次々に質問を投げつける。しかし白野は不思議そうに首を傾げた後、逆に質問をした。

 

 「白野とは誰のことですか?」

 

鈴「え?」

 

 その言葉に理解が追い付かず、全員が静まり返る。余りの衝撃に言葉が出ない。

 

香織「......自分の名前は?」

 

  「分かりません。」

 

香織「今迄何処にいたの?」

 

  「知りません。」

 

 雫「......覚えている限りでの、最初の思い出は?」

 

  「そこの眼鏡をかけた方にお会いした所でしょうか?」

 

 質問を続けた二人は絶句する。つまりは行方不明になっていた約一ヶ月間は愚か、知り合いの名前も、地球にいた頃の記憶さえも無いという事になる。鈴が怯えた様子で白野に詰め寄る。

 

鈴「嘘...でしょ...?忘れちゃったの?私だよ、鈴だよ!あなたの親友で、一年の時クラスメイトだった!本当に覚えてないの!?」

 

 「知りません。」

 

鈴「そんな......。嘘だ......、嘘だよ......。」

 

 鈴がショックでその場に泣き崩れる。生徒達が動揺して俯く中、光輝が先導しようとして――

 

キンドル「いきなりやってくれるねぇ、人形風情が。人の話も聞けないのかい?」

 

「「「!?」」」

 

――忌々しい声が響き渡った。一斉に振り返ると、そこには頭に刺さったスティレットを引き抜き、頭の傷を一瞬で治す魔人族の姿があった。

 

  光輝「そんな、莫迦な...。不死身なのか!?」

 

キンドル「まぁ、そんな所かなぁ。さて、さっきは随分なご挨拶をしてくれたねぇ、クソ女が。また同じ目に会いたいのか?」

 

    「......。」

 

 白野は無言で、再び生徒達を”天絶”で覆う。今度は白野自身も障壁の中にいる。

 

キンドル「馬鹿が、無駄な足掻きだ。」

 

 突如、全ての出入口から再び無数の魔物が現れる。それだけでは無い、白野が倒した魔物もまた蘇った。部屋そのものが魔物で埋め尽くされた。

 

 龍太郎「嘘だろ...?全滅したんじゃ無かったのかよ!?」

 

キンドル「ハハハハハ、肉体がある限り何度でも蘇るさぁ。それにぃ、在庫はまだ無数にいる。この迷宮の十数階層を埋め尽くすほどになぁ!さて、大人しく捕まってもらおうかぁ...!!」

 

 キンドルの顔に嗜虐的な笑みが浮かぶ。圧倒的な戦力差を相手に、勇者達は尚も武器を構えるが、敵の数は先程より倍以上に増えている。しかも個々の戦闘力も向こうの方が遥かに上だ。勝ち目が無い戦いを前に士気が下がっているのが目に見える。

 その軍勢に向けて、白野は手をかざす。

 

「黒天穿」

 

 突如地震のような激しい揺れが起こり、天井から黒い壁が現れた。魔物とキンドルが壁に引き摺り込まれ、押し潰されていく。

 

キンドル「あ!?うあああぁぁぁ!あああアアアァァァァァァァァァァァァ――

 

 否、壁では無い。巨大な塊が、上階から階層を突き抜け、下層に降りながら全てを飲み込み、押し潰していく。

 

光輝「何なんだあれは!?一体、何が起きている!?」

 

 “天絶”から内側は効果が及んでいないのか、勇者達は引き込まれずに済んでいる。だが、壁や地面が崩れる轟音や魔物達の悲鳴と、ブラックホールが目の前にあるかの様な光景に、思わず地面に伏せて蹲る。

 

 やがて、轟音と揺れが収まり、静寂が訪れる。勇者達は安全を確かめるように恐る恐る頭を上げる。そこには――

 

恵理「......何......これ...?あり得ない......。」

 

 生徒達と白野、そして”天絶”が覆われていた辺りで途切れた地面。そして”黒天穿”によって限界まで圧縮された、魔物と瓦礫の塊。それ以外は、何もかも無くなっていた。背後に残った緑光石と、迷宮の入口辺りから差し込む光のみが、生徒達を照らす。

 

「皆様、怪我はありませんか?」

 

 そして、この現象を引き起こした張本人は、何事も無かったかの様に、抑揚の無い声で生徒達に話しかけた。

 

 こうして、一人の魔人族が起こした事件は一先ず解決し、勇者一行は、奇妙な少女に出会った。

 




ご閲覧、ありがとうございました。
展開が急だと思われますが、作者の執筆能力上、このようなことが続くかと思われます。
何卒、宜しくお願い致します。
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