メルド「......それで、お前さんは白野で合っているのか?」
「分かりません。そもそも、私は自分の名前を知りません。」
場所は一転して、【ホルアド】の宿の一室。白野が迷宮を壊した影響で地上に戻れなくなっていた勇者一行だったが、肉塊と化した魔物達をそのまま下層へ落とそうとする白野を止め(討伐した証拠がそれしか無い為、回収する必要があった)、迷宮の入口に投げさせた後、彼女は再び”絶象”を唱えた。すると魔物以外の壁や床等の迷宮の構造物が以前と全く同じ物に戻っていった。次々に起こる天変地異の様な現象に、勇者達はもう驚くのも疲れた様子で地上へと戻った。念の為、辛うじて無事だった白野が入っていた棺も抱えて。
入口から出ると、案の定白野が投げた肉塊にメルド達騎士団とその他野次馬が所狭しと集っていた。メルドは勇者達に気付くと、地震が起きた事や謎の塊が迷宮から飛び出してきた事など、不可解な現象への説明を要求した。代表として恵理が休息の為にも、先に宿へ戻ると話す。事件のあらましの説明もそこで行うとも。
そして、冒頭に至る。部屋には事情聴取の為に白野と恵理が、対向にメルドがテーブルを挟んで向き合っている。
玖珠木白野。
光輝達と同じく、トータスに「神の使徒」として召喚された生徒の一人。髪は黒い肩口で切り揃えられたセミショートで、平均より少々美人寄りの顔立ち。性格はとても面倒見が良く、どこか大人びている。誰とも分け隔て無く接し、率先して生徒や教師の頼み事を快く引き受けるお人好し。そのお陰か友人も多かった様だ。周りも彼女の事を「皆の秘書」「出来るキャリア女子高生」「何でもいう事を聞いてくれるハクノチャン」と呼び、名前は兎も角かなり慕っていた。
だが、目の前の少女には、以前の白野の面影も無い。先程の質問の答えも合わさって、メルドは頭を抱える。迷宮で事件が起きたと思ったら、その原因が魔人族であり、しかもその男の持ち物から自分達の仲間が記憶を失った状態で現れたのだ。魔人族に囚われていたとも考えられるが、下手をすると仲間だった頃の白野とは見た目か似ているだけで、この女も敵である可能性もあるからだ。その点は助けられた事もあり、生徒全員が否定したが、当の本人はと言うと――
メルド「君は、私達の仲間か?」
「いいえ。今のところはそこの眼鏡をかけた女性の方の味方です。ですは、貴方が彼女の味方なら、私は貴方達の仲間となります。」
何とも短略的な返答をしてくる。要は恵理が味方で無くなったら、全員の敵になるという事だ。これでは余りに信用に足らない。こめかみを抑えながら、メルドは彼女に質問を続ける事にした。
メルド「ステータスプレートは持っているか?」
「持っていません。唯、自分の物かは分かりませんが、たしか棺の中に一枚入っています。」
メルドは部下に視線を向け、棺を開けて中身を確認させる。そこにはステータスプレートと、何の魔法陣かは不明だが、魔人族の魔法陣が彫り込まれた黒い水晶球の様なものが入っていた。一先ず水晶球は置いておいて、ステータスプレートを見る。
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玖珠木白野 享年17歳 女 レベル:20
天職:処刑人
筋力:400
体力:300
耐性:500
敏捷:600
魔力:200
魔耐:200
技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・処刑・暗殺術・射撃・気配操作・気配探知・工作・言語理解
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プレートの表記されているものは確かに白野の物だ。だが、年齢の前に書かれている「享年」の文字が問題だ。これが記入されている事はつまり、玖珠木白野は既に死んでいるという事になる。自分の前に本人がいるにも関わらず。
故障によるものかもしれないため、この問題は新しくステータスプレートを作る事で解決する事にする。そうすればこの娘の名前も詳細もハッキリするだろう。
メルド「君が使っていたと言う青白いスティレット。あれは何の魔法だ?魔法陣も詠唱も無かったそうだが?」
「あれは、手に魔力を込めると出てくるんです。武器に使ったり、相手をその場に縫い止めたり、当てた対象を動かす事も出来ます。後は込めた魔力量によって、強度と効力に差がある位ですか。それ以外の事は知りません。」
メルド「......縫い止めると言うのは?」
「そのままの意味です。例えば敵の足に刺せば、例え空中でもその場に固定する事が出来ます。」
メルドは少しの間考える。白野の言う通りならば、この魔法は魔物が使う「固有技能」と同じ物という事になる。詠唱も魔法陣も不要な魔法と言ったら、トータスの常識ではそれしか無い。
メルド「......魔法を使う時に詠唱が無いのは何故だ?」
「魔力の直接操作によるものです。これが出来るなら詠唱と陣は不要になります。唯、私の場合イメージの保管の為に、魔法名を名乗る必要があります。」
メルド団長、更に頭を抱える。魔力操作が出来るのも魔物だけだ。最早、白野に擬態した魔物と言われる方が信用できる。こんなものを上に報告する事は出来ない。伝わった瞬間白野らしき者の死刑が決まる。そもそも此処で斬り伏せられても文句は言えない。
メルド「質問を変えよう。何故隣の女性を、恵理を助けたんだ?」
メルドは、既に恵理から白野に会った時の話を聞いていた。どうやら助けを呼んだ時に棺から飛び出し、恵理の目の前に現れたのだと。
「助けを呼んでいたからです。それを聞いたら、私は助けなければならないんです。」
メルド「......随分と短絡的だな。それなら、助けを呼んでいたら誰でも助けていたとでも言うのか?」
「はい。私にとって、それが全てです。」
白野ははっきりと断言する。感情の伺えない彼女だが、その言葉だけには絶対的な意思が見受けられた。
メルド「何故そう考える?」
「......誰の声かは分かりませんが、頭の中で、ずっと助けを呼ぶ声が聞こえるんです。」
メルド「声?」
「はい、私が知っていた人なのか、それとも関わりの無い人なのか、何処に居るのかも分かりません。だから、私はその人を見つけて助け出すまで、人を助け続けるつもりです。」
大体の質問を終えて、メルドは悩む。正直、今の彼女は信用できない、今の話だってそうだ。頭の中で声が聞こえるなど、精神疾患を持っているか、妄想癖があるかどうかというレベルだ。どちらにしろ碌なものでは無い。こんな状態の人物を仲間に入れて、背中を預けられる筈も無い。
それに、自分達は明日にも【ヘルシャー帝国】からの、使者と会合の為に【ハイリヒ王国】へ出発する予定がある。そうすれば白野の身柄は自分達で預かるか、【ホルアド】のギルドに任せるしか無くなる。しかし、彼女は勇者達を全滅一歩手前まで追い詰めた魔物の軍勢を、僅か数瞬で壊滅させる程の力がある。ギルドに置いていくには些か危険過ぎるし、かといって王国に連れて行けば、先述の処刑台送りだ。抵抗されて国が地図から消える可能性だってある。
メルドが白野の処遇について悩んでいると、今迄黙って話を聞いていた恵理が話し出した。
恵理「メルドさん。白野の処遇については、提案があるんですけど......。」
メルド「提案?何かいい方法があるのか?」
恵理「はい、少し無理がありますけど。彼女は私が”降霊術”で動かしている死体という事にしませんか?」
その発言に驚愕する。降霊術とは、闇系魔法の中でも超高難度の魔法で、死者の残留思念に作用する魔法だ。戦闘における主な使い方は、遺体の残留思念を魔法で包み実体化の能力を与えて使役したり、遺体に憑依させて傀儡化するというものだ。また、生身の人間に憑依させることで、その技術や能力をある程度トレースすることもできる。
だがそれは、あくまで死体に対してと言う条件がある。肝心の白野は生きているし、死体を演じさせ続ける事も難しい。メルドはその制限について話すと、またもや別の疑問が浮上してしまった。
恵理「それに関しては解決策があります。試しに白野の手に触れてみて下さい。白野、手を出して。」
「......。」
恵理「......白野?」
「......?それは私の事ですか?」
恵理「そこから!?今迄の話ちゃんと聞いてた?白野なんて名前は貴方以外いないから!」
白野「わかりました。」
話の仙骨が折れかけたが、話を戻す。白野は指示通り、メルドに向けて手を差し出す。メルドは伸びてきた手に触れると、僅かに顔を強張らせる。
メルド「.......!?......これは!?」
冷たい。
まるで埋葬される直前の死体のような冷たさだった。手だけでは無い。腕も顔も、何処もかしこも体温は感じられない。同時に、生きていれば必ずある筈の脈動も無かった。これでは動く死体そのものだ。
恵理「白野の状態を利用すれば、傀儡にしたと言えば大凡は通じます。それに、言い方は悪いんですけど...。要は私の道具にあたるので、身分を証明する必要も無くなります。新しくステータスプレートを作り直す事もありません。」
ついでに言えば、戦闘力の面も解決する。建前ではあるが恵理の傀儡なのだから、彼女が指示しなければ味方に刃向かう恐れも無くなるという事になる。寧ろ、傀儡にさせた方が体質的な面で見ても都合が良い。魔力操作や何故体温や脈が無いのか等の疑問が残るが、判明させる方法がない為一先ず保留にする。
メルド「......わかった。君の提案を採用しよう。正直助かったよ。上にどう報告したものか煮詰まっていたからな!」
メルドは豪快に笑い、二人に笑顔を向ける。
白野の身柄は一旦恵理に一任する事になり、方針が決まった所でその場は解散となった。
••••••••••••••••••••••••••••••
その日の夜遅く。恵理は、周りを欺く為の仮面を外し、白野を泊める為に新しく借りた部屋に向かっていた。理由は彼女を自分の計画に組み込み、利用する為だ。彼女の実力なら有事の際に充分役に立つし、自分の知らない魔法の知識を、可能であれば教えてもらう事も出来るだろう。何より、助けを求めるとかなり従順だ。今はまだ降霊術の腕前が足りない為実行はしないが、殺して降霊術を掛けても、前述の体質のお陰で他人にはバレない。色々理由を付けて引き込めば、優秀な駒になる筈だ。
詳細はここでは省くが、恵理には現状自分しか知らない白野に関する情報がある。これ取引に持ち掛けたら、快く引き受てくれるだろう。
そして、白野が割り当てられた部屋に到着した。ドアに手を掛けると鍵がかかっておらず、扉がゆっくりと開く。部屋の明かりは消されており、月明りのみが室内を照らす。目的の人物はベッドに潜り込んでおり、寝息一つたたさず目を閉じていた。その無防備な姿に少し呆れる。
恵理(女性で、しかも一人部屋なのに呑気だねぇ。)
盛った男共が入って来るかもしれないのに。嫌な記憶を振り払いつつ、恵理はベッドに近付くき、白野を起こす為に頭に手を伸ばす。
ガシリと。
伸ばした腕を冷たい手が掴みとり、
無機質な顔がぐるりと恵理に向いた。
恵理「ひ────っ!?────ッ!?」
白野「どうかしましたか?エリさん?」
恵理「────ッ!!」
犯人は白野だ。恵理が手を伸ばした瞬間、何の前触れも無く手を掴み、暗闇の中一瞬で目を開け振り向いてきた。恵理は悲鳴をあげそうになったが、騒がせない為かもう一つの手で口を塞がれ、喋られなくなる。
恵理が何とか落ち着き始めた所で、白野は恵理の口から手を離した。ベッドから立ち上がる。
白野「あまり騒ぐと、他のお客様のご迷惑になりますよ。」
恵理「ぜぇ、ぜぇ、誰のせいだよ!?て言うか、起きてたなら最初から起き上がれよ!!」
恵理は周囲に気付かれない程度の声量で反論する。密会をする為に来たのに、プチホラー体験をする羽目になる現実に苛立ち、頭を掻き毟る。
白野「私に何か御用がお有りでしょうか?」
恵理「用がなかったらこんな夜更けに来ないよ。君に、契約を取り付けたくてね〜。白野さぁ、記憶、取り戻したく無い?」
気を取り直して、恵理は記憶を餌に契約を結ぼうと迫る。もし自分が誰なのか分からなくなったら、失われた記憶を取り戻そうとするのは当然だろう。だから、早速手掛かりになりそうな情報を渡すかのように振る舞う。
白野「いえ、不要です。」
恵理「......え?何て?」
白野「記憶は要りません。」
恵理「...私しか知らない事もあるよ?それでも要らないの?」
白野「はい。」
恵理「えぇ.....?」
恵理さん、早速二度も出鼻を挫かれる。有効な切り札になると思われていたものが紙切れに変わる。
恵理「......じゃあ、白野はこれからどうするつもりなのかなぁ。」
白野「特には何も考えておりません。......そうですね。助けを求めている人を助けながら、世界中を探し回りましょうか。」
恵理は唖然とする。こいつ、何も考えてない。計画性どころか未来も無え。そんな事をすれば悪知恵の働く連中に、程のいいように使われて野垂れ死ぬだけだ。白野自身、そんな事になるとは露ほども思っていないだろう。呆れながらも話を続ける。
恵理「はぁ...。そんな事するぐらいなら、僕と手を組まない?そうすれば例の助けを呼ぶ声が誰か、わかるかもしれないよぉ?」
白野「本当ですか?」
恵理「”かもしれない”ってだけの話だけどね〜。どうせ手掛かりも殆ど無いんだし、情報を持ってそうだった魔人族も、君が殺しちゃったしねぇ。あてがそう簡単に見つかるとも思えない。だったらお互いに協力して、有意義な事をした方が良いとは思わない?」
白野「思いません。」
恵理「こいつ......。」
取りつく島もない様子に、恵理は思わず半目になり白野を睨む。だが、意外な事に白野の方から話が切り出された。
白野「エリさんは、まだ助けを求めていますか?」
恵理「!...そうだねぇ。詳しくは話せないけど、今進めてる計画があるんだぁ。それの下準備が結構大変でさ、誰か助けてくれる人がいると良いんだけどなぁ〜。」
獲物が漸く餌に掛かった事に内心喜びながら、白野の返答を待つ。
白野「良いですよ。では計画の詳細を教えて下さい。」
恵理「ねぇ本当に話ちゃんと聞いてる?話せないって言ったよね?」
舌の根も乾かぬうちに、恵理の喜びが疑惑に変わる。
白野「聞いております。ですが、お互いの認識に齟齬があれは、その計画に支障を来します。全容を知らなければ貴方を助ける事が出来ません。」
恵理「あのさぁ、この計画は周りにバレるとそれだけで破綻するんだよ。情報漏洩のリスクは少ない方がいいし、君が知る必要はぷみゅ!?」
白野が唐突に両手で恵理の頬を抑えつけ、言葉が途中で切れる。万力の様な強さで掴まれ、お互いの顔が向き合う形で固定される。
白野「助けを求められた以上、私には貴女を助ける義務があります。その計画を必ず成功させなければなりません。そして、その為には情報共有が必要不可欠です。」
恵理「...その前に、僕以外の人には絶対にバレないようにする事と、聞いたからには必ず協力する事を約束しろ。じゃなきゃこの話は無しだから。」
白野「わかりました。その旨を遵守致します。紅茶を用意しますので、少々お待ちください。」
話が長くなると予想したのか、顔からから手を離し、物を用意するべくその場から離れる。程無くして、部屋に用意されていた紅茶を淹れ、香りを漂わせながら白野が戻って来る。
白野「お待たせ致しました。」
湯気の立つ暖かそうなそれを受け取り、恵理は白野に掴まれて冷えた手を温めながら、紅茶を口に含む。何故か、ハイリヒ王国のメイド達が入れた物より美味しく感じる。
恵理「紅茶の淹れ方なんて、何処で習ったの?お茶汲みどころか料理も出来なかった癖に...。」
白野「教わった記憶はありません。最初から知っていました。」
またこの現象だ。白野が苦手だった事でさえ、今では容易くこなして見せる。行方をくらましていた一ヶ月の間に猛特訓でもしたのか、それともあのフランケンシュタイン地味た顔をした魔人族に何かされたのか。肝心の本人が何も覚えていない事もあり、答えは出てこない。
恵理「......まぁいいや。君がどうしても聞きたがってる計画の内容だけど、要は光輝君を手に入れる為の下準備だよ。」
白野「コウキとは、誰の事ですか?」
恵理「......キラキラした鎧を着てて、バスターソードを持った茶髪の男。」
白野「髪の色はわかりませんが、確か司令塔を担当されていた方でしょうか?」
恵理「そうそれ。」
恵理は疲れた様に投げやりに答える。
計画を要約すると、光輝に群がる
だがその前に降霊術の腕を磨く必要がある。この魔法の仕様上、一度しか機会がない為失敗は許されない。今の実力では精々青白い顔をしたゾンビが出来上がるだけだ。それでは意味がない。
白野「つまり、練習の為に被験者を用意しなければならない、と言う訳ですね。」
恵理「そうそう、だから君には早速、実験体を用意する為に色々と働いて欲しいんだ。話が早くて助かるよ〜。」
白野「もう一つ、やりやすい案があります。」
恵理「...?何それ?」
恵理が訝しみながら、白野の顔を見つめる。
白野「私が、エリさんに魔法の知識をお教え致します。」
恵理「何それ、君の方が僕より降霊術に詳しいとか言わないよね?」
白野「それはわかりませんが、貴女に丁度いい神代魔法や、色々な降霊術の使い方を伝える方法があります。」
恵理「!?」
後半は兎も角、前の台詞に恵理は驚愕する。
神代魔法。それは現代では失伝した、文字通り神の時代に使われていた魔法だ。その知識は勿論手に入れる術はない。なのに、彼女はそれを知っていて、しかも教えてくれると言うのだ。
恵理「......その魔法はどう言うものなの?」
白野「”魂魄魔法”と呼ばれるものです。魂などの生物の持つ非物質に干渉する魔法です。これなら降霊術の研究にも役立つ筈です。」
恵理は喜びに目を輝かせる。ぴったりなんてものではない。それが手に入れば降霊術以上の事も容易く出来る。非物質というのがどの範囲までかはわからないが、上手くいけば相手の記憶も思考も思いの儘だ。
恵理「でも、教えるにしてもどうやってやるの?」
白野「知識を直接貴女の脳に刷り込みます。そうすれば数分足らずで魂魄魔法を使える様になります。」
恵理はその話を聞き、今すぐ飛び上がりたくなるかのような喜びを感じる。習得に時間も労力もかなり掛かると思っていたが、僅か数分で終わるようだ。喜ばない筈がない。思っても見なかった大きな収穫だ。
恵理「じゃあさぁ、早速教えてよ。その神代魔法。ね、いいでしょ?」
白野「構いません。ですが、先に一つ忠告をさせて下さい。」
恵理「今度は何?まさかとは思うけど、今更この計画を止めろとか言わないよね?」
白野「いえ、先程コウキさんに降霊術を使い、自分だけの物にするとお聞きしたので、その事で一つお話する事があるんです。」
白野の澄んだ瞳が、恵理を真っ直ぐに見つめる。
白野「死んだ人とはずっと一緒にいられるかもしれませんが、二度と会えなくなる事を忘れないで下さい。」
恵理「......随分偉そうなこと言うね。何も覚えてない癖に。」
白野「滅相もありません。忠告は以上です。それでは魔法をお教えしますので、じっとしていて下さい。」
恵理は忠告に不快げに眉を顰めた後、言われた通りに椅子に座って大人しくする。白野は恵理の頭に手を伸ばし、額に触れる。
そして頭の中に、知識が入り込んで来た。
••••••••••••••••••••••••••••••
黒い霧に覆われた所に立っていた。
光は無く、暗い空間が続くだけの景色。
助けて
とても寒くて、身が凍るかのように冷えていく。そんな中、声が聞こえてくる。
たすけて
声がする方向に振り向く。
しかし、何も見えてこない。
黒い霧が絶え間無く吹いているだけ。
仕方なく辺りを見渡していると
タスケテ
磔にされた■■の姿が、
恵理の目の前にあった。
••••••••••••••••••••••••••••••
恵理「────ッ!!ハァッ...ハァッ...ハァッ...!?」
白野「大丈夫ですか?」
気を失っていたのだろう。飛び起きながら、荒くなった呼吸を整えようとする。中々動悸は治らず、体も震えが止まらない。
恵理「今のは...何なの......?」
白野「何か妙なものでも見ましたか?」
全てが死に絶えたかの様な、悍ましい景色だった。恵理は自分が見た光景を白野に伝える。しかし、求めていた答えは返ってこない。
白野「申し訳ありません。その景色はよく見ているのですが、それが何なのかまでは私も知りません。」
恵理「あんな物をよく見るの......?よく生きてられるね......。」
白野「それで、魂魄魔法の知識は得られましたか?」
恵理は少しの間目を閉じ思考する。確かに、さっきまで知らなかった魔法の知識が頭に叩き込まれている。使い方もはっきりと理解出来ている。どうやら知識の伝授自体は成功した様だ。
恵理「へぇ〜。これが神代魔法かぁ〜。くふふ、適正もちゃんとあるみたいだし、これはもう僕の為にある様な魔法だねぇ。あぁ、早く試してみたいなぁ!待ちきれないよ!」
先程迄の嫌な気分も幾らか消し飛び、恍惚な笑みを浮かべながら、恵理は新しいオモチャを手に入れた子供の様に燥ぐ。これを使えば計画に大きな進捗があるだろう。だが、慌ててはいけない。計画は入念に練るのが大事だ。
恵理「まぁ、試すのは実験体を手に入れやすい王国でやればいっか。色々あって疲れたし、今日はもう休むよ。」
白野「そうですね。また何か欲しい物があればお申し付け下さい。出来る限りご用意致します。」
恵理「アハハハハ、良いねぇ。色々と上手くいきそうだよ。そうだ!今度は魔力操作とかを教えてよ。詠唱とか面倒なだけだし、思いの儘に扱えるのはかなり良いし。」
恵理はそう言って、白野に手を差し出す。
白野「これは?」
恵理「握手だよ。ここまで来たからには、白野にも手伝ってもらわないとね〜。だから、計約成立の握手だよ。」
白野「わかりました。」
二人の少女の手が重なる。これを持って、協力関係は成立した。
恵理「ヨロシクね〜。白野。」
白野「宜しくお願い致します。エリさん。」