今後ともどうぞ宜しくお願い致します。
白野が勇者一行に加わってから、数ヶ月程時間がたった頃。彼等はオルクス大迷宮の80階層を攻略していた。
永山「玖珠木!そっちに行ったぞ!」
白野「はい。」
隊列を維持しつつ、生徒達は襲いかかる蜥蜴の群を相手していた。その内の何匹かが、別の群体の撹乱役を引き受けていた小悪党組と、フルフェイスの騎士甲冑姿をした白野に向かって行く。
――シャアアアアァァァァァ!!
集団で突進してくる蜥蜴の魔物、それを相手に白野は背負っていた刃渡り1m程のクレイモアを振り下ろし、首を断つ。その勢いのまま振り上げ後続の魔物の頭を両断する。次の一匹が噛み付こうと白野の首に迫るが、彼女の左腕に展開された障壁に阻まれ、牙にヒビが入る。
――キュイィィ!?
後続の魔物が更に防壁に衝突し突破を試みるが、逆に防壁から発せられた衝撃波に吹き飛ばされ纏めて絶命する。
それは腕を覆う程の大きさの手盾だった。任意で展開されるその防壁は、折り畳み式にも関わらず途轍も無い高度を持っている。この盾は敵の物理攻撃や魔法を魔力に変換し、盾の裏に装着された青白く発光する結晶に溜め込まれる。変換された魔力は衝撃波となって敵を打ち付ける他自身の魔力回復にも使えるらしく、外付けの魔力タンクにもなるようだ。
近藤「オラァ!サッサと死にやがれぇ!」
白野「後ろ危険ですよ。」
近藤「うぉっとぉ!?」
槍術師の近藤が得物を振り回し敵の数を減らして行くが、白野の警告で慌ててその場から飛び退く。そして彼がいた場所に、熊の魔物の腕が叩き付けられ地面にクレーターが出来る。
近藤「危ねぇなぁ!」
白野のおかげで無傷で済み、早々に態勢を立て直し熊に向き直るが、槍を刺す前に投げられたクレイモアが熊の首を両断し、壁に刺さる。
白野「ご無事ですか?」
近藤「ハッ、余計なお世話だ!」
近藤は助けられた事に気に食わなげに鼻を鳴らす。白野の無感情な雰囲気にキミ悪がっているのか、小悪党組は白野を影で毛嫌いしていた。最も、光輝達がいる前では普段通り大人しくなるが。
当の本人はその事を気にもせず、白野は近藤の無事を確認した後、投げた剣を拾う為”身体強化”を使い駆け出す。
――ブモオオオォォォ!
あと少しで届く所で二足歩行をする牛の魔物が立ちはだかり、持っている大斧を横殴りに振る。白野はそれを滑り込む事で回避し、壁に突き刺さっていたクレイモアを引き抜き魔物の膝裏を切り裂く。牛の魔物は立てなくなり膝をつき、上半身が後ろに倒れこむ。その勢いを利用し、白野は魔物の背中に鎧通しを突き刺し、それを支えに腕力と脚力で跳び上がり魔物の上を横転しながら剣を振る。遠心力の乗った刃は容易く胴体を袈裟斬りに切り裂き、魔物を両断した。
光輝「“天翔裂破”!」
そして、詠唱を終えた光輝が光の斬撃を無数に放つ。数ヶ月に渡り磨き抜かれた範囲攻撃魔法は、部屋にいた魔物達は一匹残らず殲滅した。その様を見届けた後、白野はクレイモアの血を拭い背負っている鞘に戻した後、光輝達の元に歩いて行った。
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魔物を掃討し安全確認を終えた後、生徒達は魔物から魔石等を回収するべく、解体作業に入っていた。
光輝「皆、怪我はないか?」
龍太郎「あぁ、何とかな。けど、もう魔力回復薬を使い切っちまったな。」
香織「私もかな。大分長い事潜ってたし、今回は此処で引き上げて、補給しに一旦町に戻った方が良さそうかも。」
光輝は仲間の返答に頷く、方針が決まった一行は荷物をまとめ、撤収に入った。その途中雫が白野に話し掛ける。
雫「白野、今回の武器の使い心地はどう?」
白野「特に問題はありません。火力も充分ありますし、整備も調整もしやすいのでこの剣は有用でしょう。」
雫「つまり、今後使う武器はそれで決まりって事かしら?」
白野「そうなります。」
これまでの間、白野は様々な武器を試しつつ、自分の得物をどれにするか選んでいた。基本白野はどの武器も卒なく使いこなすが、武器を何本も持って行き状況に応じて使い分けながら戦う事は不可能な為、どれか一つに絞る必要があった。そして選ばれたのが今回使われたクレイモアだ。
雫「それは良かった。それにしても凄いわね。その装備品って全部自作した物なんでしょう?王国お抱えの錬成師達が『若いのに自分達より良いものを作る』って言って悔しそうにしてたわ。」
白野「そうでしたか。」
雫の言う通り、白野が身に纏っている鎧も盾も、彼女が作成した物だ。何でも王国の宝物庫にある武器は、既に様々な魔法で鍛えられた物が多く汎用性に欠ける為、有り合わせの鉄くずで作った使い捨ての出来る物の方が調整がしやすいと言い始めたのだ。負けじと王国の錬成師達が全力を注ぎ要望通りの武器を製造したが、それでも白野が鍛造した数打ち品の方が質が良かった。結局装備品は迷宮攻略で手に入れた素材を使い、彼女が全て自作する事となった。
恵理「そういえば白野、あの黒い水晶球は何なのか分かった?」
白野「詳しい事は何も判明しておりません。唯、刻まれている魔法陣はどうやら何かを濾過し、吸収している事は確かです。」
白野が仕舞われていた棺に入っていた、魔人族が常用する魔法陣が刻まれている黒い水晶球。これについては王国の魔術師達も何も知らず、加工が出来ない程非常に硬い結晶と言う事しか分からなかった。白野自身もそれが何なのかは知らず、どういう魔法が使われているのか、どうやって使うのかも分からず仕舞いだ。
白野「今の所、それは唯の置物でしかありません。」
恵理「そうなんだ...。でも、白野が持ってた物って、ステータスプレートとその水晶球だけなんだよね?他に何か手掛かりになる様なのがあれば良いんだけど...。」
白野「手掛かりとは?」
恵理「勿論、白野の記憶だよ。行方不明になってた一ヶ月間何があったのかとか、地球で暮らしてた時の記憶とか。」
補足すると、白野自身も含め、勇者一行が地球と呼ばれる異世界から呼ばれた者達という話は聞かせていた。トータスとは違い、科学と呼ばれる文明が発展した場所という事も。
そこでの生活や、ここには無い文明の利器の話も聞かせたが、白野は何も思い出せずにいた。
鈴「でも、他の宛ってなると、後は魔人族に直接聞き出すくらいしか無いよね。この前会った魔人族は死んじゃったけど...。」
件の肉塊から素材を取り尽くした後、残った臓器や肉等の不要な物は、同じく圧殺された魔人族を含め焼却処理されていた。幾ら不死身とは言え、灰になれば蘇生する事もないだろう。
鈴の言葉を聞いた後、白野は何かを探す様に辺りを見回す。しかし、今歩いている場所の周りは岩壁と緑光石が洞窟内を照らしているだけで、他は何も無い筈だ。魔物でも近くに居るのかと、恵理と鈴は警戒するが、白野は予想とは違う事を言い始めた。
白野「魔人族なら、どうやら北の山脈辺りにいる様ですね。」
鈴「え?」
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メルド「北山脈に魔人族が潜んでいる?」
恵理「はい...、白野が見たものを信じるならそうなります。」
生徒達が宿に戻り休息に入る中、恵理とメルドは、白野が見たものを説明する為に個室に集まっていた。白野曰く、湖畔の町【ウル】の近く、北の山脈に魔人族の姿を見たと。また訳の分からない事を言い出したと、メルドは頭痛を堪える様に顳顬を揉む。
メルド「人影なんて、洞窟の中からどうやって見たんだ?」
白野「遠視魔法によるものです。魔人族は私の事を知る唯一手掛かりになる為、その魔法で辺りを捜索したんです。」
メルド「いや、その魔法については知っているが、それは障害物越しに物を見る様なものでは無いぞ...。」
因みに、透視を可能にする魔法は無い。そんな物があれば世の紳士達がこぞって風呂場を覗くだろう。
メルド「仮に姿を見たとして、お前さんはどうするつもりなんだ?」
白野「その魔人族に会って、私に関する情報を聴き出します。序でにそこで何をしているのかも。」
つまり自分探しの為に【ウル】迄行き、魔人族と接触したいという事らしい。だが、肝心の情報源があまりに不鮮明だ。メルドとて白野を信用していない訳では無い。短い間だが、指示は的確に守り、周りの連中を手助けするよう何でもこなしていた。かく言うメルド達騎士団も迷宮攻略の際は、白野に何度も助けられた。
メルド「その話は、嘘では無いんだな?」
白野「はい、嘘偽りはありません。そもそも貴方達に嘘をつく理由もありません。」
メルドは腕を組み考える。今の話でも言った通り、北の山脈の近くには湖畔の町【ウル】がある。近くて魔人族が動いているとなると、その町に侵攻される可能性も出て来る。観光地という事もあり、そこの防衛設備とて高が知れている。ならば事が大きくなる前に、斥候役として白野を向かわせる事も悪い案では無い。幸い白野が抜けても光輝達なら今迄通り上手くやって行けるだろう。
メルド「因みに、何人で向かうつもりだ?」
白野「他に連れて行ける人はいないので、私一人で行きます。」
メルド「一人で?ステータスプレートを持っていなければ町に入れないぞ?」
白野「その点につきましてはメルド団長にご協力願いたい事があります。貴方が書いた書状を頂きたいのです。それがあれば身分の証明にもなる為町に入る事が出来る筈です。」
メルド「その為に俺の所に来たのか...。」
王国の騎士団長の書状ともなれば、敵国や仲の悪い国でも無い限り信用されるだろう。そうすればステータスプレートが無くとも身分証明は出来るし、町の出入りも可能になる。
メルド「わかった。とりあえずは『北の山脈の調査の為に訪れた』とでも書いて渡しておこう。出発はいつだ?」
白野「 こちらの準備は出来ておりますので、メルド団長の書状が出来次第すぐに出ます。」
白野の返事に頷き、メルドは書状の作成に取り掛かるべく部屋を出て行った。そして二人きりになった時、恵理が白野に話し掛ける。
恵理「白野、魔人族の事だけど...。」
白野「はい、可能であれば、魔人族に取り入る為の取引を持ちかけるつもりです。」
恵理「くふふ、話が早くて助かるよ。と言っても、こっちの準備は未だ途中だし、仲間に入りたい奴がいるって言う情報だけ渡しておいて、後は直接会えるように取り計らえたらそれで良いよ。」
白野「わかりました。魔法の研究は順調ですか?」
恵理「まぁね〜、魔力操作のおかげで練習はしやすいし、魂魄魔法と再生魔法を使えば被験者一人で何回も実験出来るし、結構捗ってるよ。」
白野「それは何よりです。」
恵理は白野の技術提供により、既存の降霊術と時間に干渉する魔法「再生魔法」を新たに習得していた。これと魂魄魔法を駆使すれば被験者の完全な蘇生も可能になり、無駄に多く殺して被験者を増やす必要も無くなった。研究もかなり捗り、降霊術を掛けた死体も生前と全く見た目も性格も変わらず、命令がある迄は勝手にいつも通りに動いてくれる程の出来になった。ここまで来れば何事も無く周囲に紛れ込む事も可能だ。例え死体と言われたとしても、誰も判別付かないだろう。
恵理「実験も進捗したし、後は魔人族と連絡が付けば大詰めかなぁ。」
白野「わかりました。出来る限り早く魔人族とは交渉の場を用意するように致します。」
恵理「よろしくね〜。」
この時、白野は気づけなかった。計画を大いに変革させる事になるイレギュラーの可能性を。嘗ての白野を知るもう一人の存在に会う事を。
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白野「困りましたね......。」
湖畔の町【ウル】
【ホルアド】を出発してから一週間後、騎士甲冑を着た白野が、香辛料を乗せた荷車を引いて成果品の配達の為に街中を歩いていた。
到着したのは数日前だったが、その際に町の住民からの頼み事を引き受けていた。北山脈で魔物の勢力が強まっており、そこでしか収穫できない香辛料の類が採取出来ず町中で在庫が不足している。そんな時現れた神の使徒である白野に、実力を見込み代理で取りに行って欲しいと、主に宿の調理担当や主婦の方々が頼み込んできた。元々魔人族に会いに北山脈へ行く予定だった白野はそれを請け負い、運搬用の荷車を借りて山脈へと向かった。
しかし、香辛料は集まったが肝心の魔人族には会話する事も出来なかった。居場所は見えていたのでそこに向かったはいいが、近付いても逃げるばかりで、無理矢理追いついても取り付く島も無く門前払いされ逆に大量の魔物を差し向けられる始末。交渉したいのに魔人族の配下である魔物を殺す訳にもいかない為、隠密技能を使い数日に渡り逃げ回りつつ、指定された香辛料の採取を済ませ戻って来たのだ。
白野「このままでは何の成果も無く戻る事になりますね...。」
現状入った成果と言えば、依頼達成による金銭と住民からの感謝の言葉だけだ。当初の目的は何も達成されていない。これでは町にボランティアしに来た様な物だ。
一先ずは残りの香辛料を届ける為に“水妖精の宿”に向かう。その施設はこの町一番の高級宿だ。この店のオーナーであるフォス・セルオは、白野に依頼をして来た住民の一人だ。料理に使われる香辛料が不足していた事に嘆いていたので大層喜ぶだろう。
香辛料が詰まった籠を背負い店に入る。オーナーを探して室内を歩いていると、食堂の奥にあるVIPルームから騒ぎ声が聞こえて来た。
?「女の子のファーストキスを奪った挙句、ふ、二股なんて! 直ぐに帰ってこなかったのは、遊び歩いていたからなんですか! もしそうなら……許しません! ええ、先生は絶対許しませんよ! お説教です! そこに直りなさい、南雲君!」
何やら背の低い女性が白い髪をした男性を叱っていた。何方も知らない人物だったが、探していたオーナーもそこにいた。白野は物を渡すべく騒ぎの元に近付く。
白野「オーナー様。少々宜しいでしょうか?」
フォス「おや、使徒様ではないてすか!もしかすると、その籠に入っているのは香辛料で御座いますか?」
白野「はい。ご依頼にあった物を渡しに参りました。」
フォス「こんなに多く取って来てくださったのですか?ありがとうございます!これだけあればまたお客様に香辛料を使った料理を作ることか出来ます。本当に何とお礼をすれば良いか...。」
白野「報酬は既に頂いておりますので、お礼は不要です。それでは、私はこれで失礼致します。」
?「待って下さい!」
白野は籠を渡し、用は済んだとその場を離れようとする。しかしそれを止める人物がいた。先程男性に説教をしていた女性だ。青ざめた顔で、僅かに震えた声で白野に話し掛けてくる。
?「......その声、もしかして玖珠木さんですか...?」
白野「...? はい。クスキとは私の事ですが、貴女は何方様ですか?」
?「────ッ」
白野の言葉に女性は両手で口を抑える。後ろにいる若い男女も狼狽えてる様子だ。その様が、初めて生徒達にあった時の姿と重なる。
白野「貴女は、私の知り合いだった方ですか?」
愛子「......はい、私は教師の畑山愛子です。貴女の先生でもありました。」
白野「そうでしたか。これは失礼致しました。」
白野は被っていた兜を外し、顔を出す。
白野「改めまして、神の使徒をさせて頂いております。クスキ ハクノと申します。以後宜しくお願い致します。」
そう言って、白野は愛子達に頭を下げお辞儀をする。その他人行儀な姿に、愛子達は哀しげな視線を向ける。
カラン...と、コップが倒れる音がした。音がした方向を見ると、先程愛子に説教されていた男がいつのまにか席に座っており、その手からコップが落ちて中の水がテーブルに広がっていた。その男は飲み物を零した事にも気付かず白野を見つめたまま固まっている。その様子は悲しんでいると言うよりは、単純に見たものに驚いている様だった。
?「ハジメ...?」
?「玖珠木...?お前が...?」
白野「...?貴方も私の知り合いだった方ですか?」
お互いの視線が重なり合う。これが、後に魔王と呼ばれる男との出会いだった。
ご閲覧ありがとうございました。
こじつけた感じはありますが、筆者がどうしてもクレイモアを使ってほしかったのでこのような形となりました。今後も白野が使う武器は増えていく予定です。