幽鬼の怪物   作:NIRIN0202

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7.捜索

清水「クソッ、クソッ!!お前何逃してんだよ!!バレてたらどうするんだよ!!役立たずがッ!!」

 

 北山脈にある、とある洞窟。その中で一人の男と、二人の魔人族がお互いの報告のために集まっていた。黒髪の男、清水は我儘な子供の様に癇癪を起こし、白野を取り逃がした魔人族に怒鳴り散らしていた。

 

レイス「案ずる事は無いだろう、清水殿。貴殿が諜報用に使役した鼠によれば、どうやら私達の事は町に知れ渡っていないのだろう?何も問題はあるまい。」

 

 清水「そうじゃねぇよッ、馬鹿が!!お前が連れてた魔物で捕まえられなかった事がマズイんだよ!!アイツが畑山を連れて逃げられたら追えねぇって事だろぉが!!そんな事もわからねぇのか!?」

 

 「豊穣の女神」の抹殺。それが、彼が魔人族に「勇者」として加わる為の条件だった。ここで愛子を始末し損ねて、次の機会迄に魔物の軍勢に対抗する準備をさせたら、それだけでも彼女を殺せる確率は減る。

 

?「尚更問題無いだろぉ?勇者サマが用意した6万の軍勢、しかも私が手を貸せば死に絶える事もない。これ程の戦力があれば、何が来ようが捻り潰せば良いだけの話だぁ。」

 

 喚き散らす清水に、もう一人の魔人族がどうでも良い様に語り掛ける。それでも清水の怒りは収まり切らず、苛立った様子を隠しもせずに男を睨みつける。思わず手が出そうになるが、意味が無いと考え直し踏み止まる。彼の力と清水の軍勢はかなり相性が良い事は頭では理解しているが、正直言ってその男の煽る様な態度は気に食わなかった。

 

清水「......お前、つい最近大軍引き連れてた癖にアイツに負けたんだろうが。勝てる見込みあるのかよ?」

 

  ?「勿論あるとも。この間は不意を突かれただけだしねぇ。それに、この指輪さえあれば、私は無敵さぁ...。」

 

 そう言いながら魔人族の男は、左手の人差し指につけた指輪を愛おしそうに撫でながら、継ぎ接ぎだらけの顔に笑みを浮かべた。

 

••••••••••••••••••••••••••••••

 

 愛子「...という訳なので、厚かましいのは充分承知ですが、南雲君達と同行させてくれませんか?」

 

ハジメ「却下だ。行きたきゃ勝手に行けばいい。が、一緒は断る」

 

 翌日の夜明け。ハジメ達は依頼を受けた行方不明者の捜索の為、北門に向かっていた。しかし、そこには既に愛子と生徒達七名が待ち伏せする様に佇んでいた。要約すると、ハジメ達が仕事で北山脈に向かう事を聞いていた愛子は、清水幸利の捜索と白野の探し物の目的地が同じ事を理由に、彼等について行きたいと言い出したのだ。だがその願いはあっさり断られる。

 

 愛子「な、なぜですか?」

 

ハジメ「単純に足の速さが違う。先生達に合わせてチンタラ進んでなんていられないんだ。」

 

 優花「ちょっと、そんな言い方ないでしょ? 南雲が私達のことよく思ってないからって、愛ちゃん先生にまで当たらないでよ。」

 

 愛子を庇う園部の発言に、ハジメは呆れた顔を向けた後、面倒臭そうに指輪を光らせ、トータスには存在しない二輪がついた馬、魔力駆動二輪を取り出す。

 それは地球で言う所の大型バイクだった。愛子達は突然虚空から現れた乗物に目を剥く。

 

ハジメ「理解したか?俺はお前等の事は心底どうでもいい。だから、八つ当たりをする理由もない。そのままの意味で、移動速度が違うと言っているんだ。」

 

 白野「生気の感じられない奇妙な馬ですね。まるで道具の様です。」

 

  昇「玖珠木さん、それ馬じゃないし道具そのものだから。バイクだから。」

 

 白野「馬逝苦?辛そうな名前ですね。」

 

  昇「いや何をどう変換したらそうなるんだよ!?」

 

 何やら外野が騒いでいるが、ハジメはそれを無視してバイクに跨り出発しようとする。しかし、バイクを観察していた白野に引き止められる。

 

 白野「お待ち下さい、ハジメさん。」

 

ハジメ「何だ玖珠木?今度はどんな素敵な物を口に突っ込むつもりだ?」

 

 白野「いえ、今はその様な事はしません。どうしてもハジメさんにお伝えしたい事があります。貴方が探している行方不明者の居場所についてです。」

 

 昨夜の出来事を若干根に持っているのか、皮肉を込めて返事をするハジメだったが、白野の言葉に疑問の視線を向ける。白野は北山脈の方向に指を指して説明する。

 

 白野「私が今指を指している方向に人影が見えます。もしかすると貴方が探している人かもしれません。私ならそこまでの案内も可能ですし、移動手段さえどうにかすれば先生方を同行させても問題は無い筈です。」

 

ハジメ「アホか、何をどうしたら山脈越えて人影が見えるんだよ。信用出来るか。」

 

 白野「遠視魔法で確認したんです。それと、確かに昨日会ったばかりの私では信用たり得ないでしょう。ですが、私を信用した先生方ならば違うのでは無いですか?」

 

 その言葉に、ハジメはこんな妄言を信じるのかと胡乱げな視線を愛子達に向ける。しかし愛子は怖気付かず、ハジメに真っ直ぐ決意の宿った瞳を向け、尚も同行を申し出る。

 空回りこそすれど、彼女の行動力は本物だ。ここで誤魔化したり、逃げたりすれば、それこそ護衛騎士達も使って大々的に捜索するかもしれない。それに、肝心の探し人を宛てもなく探し回って時間を掛ける訳にはいかない。探索用のアーティファクトもあるが、目星が付いているならばそこに向かった方が生存の可能性も上がる。

 

ハジメ「...わかった。同行を許そう。だが玖珠木、もし情報が間違っていて手遅れにでもなったら、責任は取ってもらうからな。」

 

 白野「はい。」

 

 親衛隊と白野の同行が決まり、仕方なくハジメはバイクをしまうと、代わりに車型のアーティファクトを取り出した。しかし、ここで人数が増えた事による問題が起きた。

 

ハジメ「乗れない奴は荷台な。...あ、荷台使っても定員オーバーだな。一人余る。」

 

 愛子「えっと、それではさっきのバイクを使うのはどうですか?」

 

 愛子の提案に頷き、シアにバイクを運転させて何人か分けるかと考えるが、もう一つ提案が出て来た。

 

 白野「それでしたら、私は走って皆様を追いかけますよ。」

 

ハジメ「...あのなぁ、こいつは馬よりも早く走るんだぞ?走って追いかけられる訳無いだろ。」

 

 白野「身体強化魔法で脚力を増強させれば、問題は無いでしょう。」

 

 ふと、愛子達が用意していた馬を見る。数えると一匹、生徒達の人数と合わない。まさかとは思いつつ白野に質問する。

 

ハジメ「...お前、ホルアドからココまでどうやって来た?」

 

 白野「走って来ました。」

 

••••••••••••••••••••••••••••••

 

 前方に山脈地帯を見据えて真っ直ぐに伸びた道を、魔力駆動四輪が走る。道は街道とは比べる迄もない程酷い道ではあるが、大抵の衝撃は車の装置によって無くなる為、車内は勿論、車体後部についている荷台に乗っている男子生徒も特に不自由さは感じていないようだ。

 不自由は感じていないが、目の前の光景に途轍もない違和感は感じていた。

 

ハジメ「...なぁ、シア。身体強化ってあんなに速く走れるもんなのか?」

 

 シア「う〜ん、出来ないことも無いんですけど、あんな風にずっと走り続けるのはちょっと厳しいですね。」

 

ハジメ「そうか、出来ないことも無いのか...。」

 

 白野だ。彼女は今、案内の為魔力駆動四輪の前方を先導して走っている。鎧を着て、武器を背負ったまま、車と同じ速さで、少しも速度を緩めず、何処ぞの目隠し型ゴーグルをつけた戦闘アンドロイドの様な綺麗なフォームで。

 

 優花「何であんなに速く走れるのよ...。」

 

 ユエ「......シアと同じバグキャラ?」

 

ハジメ「怖い事を言わないでくれ、ユエ。そんなのが何人もいてたまるか。」

 

 シア「お二人共近くにいる人に向かって好き放題言い過ぎじゃないですか!?」

 

 その異様な光景に各々が小声で話していると、白野が急に速度を緩めて運転席の横まで来て並走する。話があるのか窓を軽く叩いているので、ハジメはドアを操作し窓を開ける。

 

白野「少し先の麓からは道が無くなるので、そこからは徒歩で移動しましょう。引き続き案内します。」

 

 程無くして、白野が言った通り一行は山の麓に到着した。そこには黄色や紅色、色取り取りの紅葉を織り成す山脈が広がっていた。生徒達が故郷を思い出す様な風景に息を呑む中、ハジメは魔力駆動四輪を指輪にしまい、白野に話し掛ける。

 

ハジメ「それで?お前が見えてるって言う人影は何処にあるんだ?」

 

 白野「少々お待ち下さい。地形を確認して来ます。」

 

 そう言うと、白野はその場から高く飛び上がり、山頂を越える程の高さまで飛んでいく。高飛び選手顔負けの高さを跳んだ彼女に皆唖然とするが、直ぐに白野が降りて来る。このままでは地面に衝突すると生徒達が慌てるが、彼女は風も起こさずに、羽毛が落ちて来たかの様にゆっくり着地する。

 

 白野「お待たせ致しました。山を登って行った先に川があります。上流に行くと滝があるのですが、そこに目標の人物がいるそうです。」

 

 ユエ「......今のは、重力魔法?」

 

白野「はい、そうです。」

 

ハジメ「マジか?いつの間にライセン迷宮なんて攻略したんだ?あんなクソうざったい迷宮、よくクリア出来たな。」

 

 白野「...?いえ、覚えている限りではオルクス迷宮以外の迷宮には行っておりません。」

 

シア「え?」

 

 白野の発言に三人が驚く。神代魔法は迷宮を攻略し踏破した者にしか習得出来無い。なのに彼女は、迷宮にも行っていないにも関わらずその内の一つ、”重力魔法”を使っている。

 

ハジメ「確か玖珠木は、覚えちゃいないが一ヶ月くらいの間、魔人族に捕まってたんだよな?その時に何かされたんじゃ無いか?」

 

 ユエ「......何か思い出せる事は無い?神代魔法の習得法が他にあるなら聞いておきたい。」

 

 白野「思い出せる物はありません。ただ......。」

 

 白野が珍しく言い淀む。視線は地面に向き、俯いている。

 

ユエ「......ただ?」

 

白野「...ただ、何か思い出してはいけない事をされていた様な、そんな覚えがあるんです。それだけは確かです。」

 

 ふと、彼女の左手を見ると、素手なら血が出ている程の強さで手が握り締められていた。まるで、何かを堪える様に。何かに耐えるかの様に。思考に集中しているのか、本人はそれに気づいていない。

 

ハジメ「...そうか、まぁどうやって魔法を知ったか覚えて無いなら、聞いても仕方ないだろ。捜索に戻るぞ。案内してくれ。」

 

 白野「わかりました。」

 

 ハジメは話を戻し、白野に先行する様に促す。一行は白野の案内に従い、山の中へと入って行った。

 

••••••••••••••••••••••••••••••

 

 山を登り始めて半日後、彼等は件の滝壺に到着していた。休憩の時間はとっていたが、殆ど全力疾走で付いて来たからか、ハジメ達と白野以外のメンバーは体力を使い果たし、息も絶え絶えになり四つん這いになっていた。

 

  シア「ここが、ハクノさんが言っていた滝壺ですか?立派な滝ですね〜!」

 

  白野「はい。探していた人影はこの滝の裏にいます。」

 

 ハジメ「みたいだな。気配感知に引っ掛かった。デタラメを言ってた訳じゃ無かったんだな。」

 

  白野「貴方に嘘をつく理由がありません。」

 

 ハジメ「そうかい。ユエ、頼む。」

 

  ユエ「......ん。“波城” “風壁”」

 

 ユエが右手を振り払い魔法を唱えると、圧縮された水の壁が滝を二つに割り、水流が風の防壁により遮られる。すると滝の奥に洞窟が現れた。どうやら件の人物はここで何かから逃げのびていた様だ。二つの属性魔法を無詠唱で行使する少女に生徒達は唖然とするが、ハジメ達が滝に入って行く姿を見て慌てて追い掛ける。

 洞窟の奥には、齢二十前後の男性が一人横倒しになっていた。目立った外傷は無く衰弱している様子では無いが、顔色が悪く青白くなっている。

 

愛子「清水君、ではありませんね...。」

 

 期待していた人物とは違い、愛子が少し気落ちする。すぐに気を取り直し容体を確認しようと動くが、先に白野が青年に近付き、脈を確認する為に籠手を外し首筋に手を当てる。

 

  ?「うひぃ!冷たい!?」

 

白野「あ、ごめんなさい。」

 

 が、急に首に冷たいものを当てられたせいで、青年は飛び起き白野から後退る。状況が掴めず混乱している彼に、ハジメが名前を尋ねる。

 

ハジメ「お前が、ウィル・クデタか? クデタ伯爵家三男の」

 

   ?「えっ、えっ!?君達は一体、どうしてここに...?」

 

ハジメ「質問に答えろ。答え以外の言葉を話す度に、そこの鎧を着た奴にシメてもらうからな。お前は、ウィル・クデタか?」

 

ウィル「えっと、うわっ、はい! そうです! 私がウィル・クデタです! はい!」

 

 青年が言葉に詰まっていると、ハジメの眼が剣呑な光を帯び、白野の右手が彼の首に伸びていく。それに慌てた青年が自らの名を名乗る。どうやら見つけたのはハジメが探していた人のようだ。

 

ハジメ「そうか。俺はハジメだ。南雲ハジメ。フューレンのギルド支部長イルワ・チャングからの依頼で捜索に来た。生きていてよかった」

ウィル「イルワさんが!? そうですか。あの人が……また借りができてしまったようだ……あの、あなたも有難うございます。イルワさんから依頼を受けるなんてよほどの凄腕なのですね。」

 

 尊敬の眼差しと共に礼を言うウィル。それから各人の自己紹介と、何があったのかをウィルから聞いた。

 ウィル含む冒険者達は、五合目の辺りで魔物に遭遇たらしい。逃げながら応戦していたが数は次々と増えて行き、そうこうしている内にこの滝の上流に差し掛かかり魔物に包囲された。抜け出す際に二人の冒険者が犠牲になり、追い立てられながらも走り続けるが、その先に新手が現れた。

 巨大な漆黒の竜だった。竜はウィル達に向かってブレスを放ち、それによって一人が消しとばされた。その攻撃で吹き飛ばされたウィルは、この滝壺に流され、この洞窟にたどり着いたようだ。

 

ウィル「わ、わだじはさいでいだ。うぅ、皆死んでしまったのに、何の役にもただない、ひっく、わたじだけ生き残っで……それを、ぐす……喜んでる……わたじはっ!」

 

 話している内に、感情が高ぶったようですすり泣きを始めた。悲観、屈辱、劣等感、安堵、様々な感情が駆け巡り涙となって溢れ出す。一同はどう声を掛けたらいいか見当がつかず、悲痛そうな表情をウィルに向ける。すると、ハジメが歩き出し、ウィルの胸倉を掴み吊り上げる。

 

ハジメ「生きたいと願うことの何が悪い? 生き残ったことを喜んで何が悪い? その願いも感情も当然にして自然にして必然だ。お前は人間として、極めて正しい。」

 

ウィル「だ、だが……私は……。」

 

ハジメ「それでも、死んだ奴らのことが気になるなら……生き続けろ。これから先も足掻いて足掻いて死ぬ気で生き続けろ。そうすりゃ、いつかは……今日、生き残った意味があったって、そう思える日が来るだろう。」

 

ウィル「……生き続ける。」

 

 会話が終わると、ハジメはウィルを放り出し、気恥ずかしくなったのか、或いは自己嫌悪に陥ったのか、軽く頭を振るい外方を向く。慰める為かユエとシアが彼に近付くが、白野から警告が上がった。

 

 白野「皆様、ここから離脱しましょう。敵が来た様です。」

 

ハジメ「敵?こんな洞窟の奥に何の用だ?」

 

 白野「申し訳ありません。どうやら先刻私が捜索の為に跳んだ時に、敵にも気付かれたそうです。真っ直ぐこちらに向かっています。」

 

 敵を見ているのか、白野は洞窟の入口に目を向けながら荷物をまとめ、逃げる準備をする。一同も慌てて用意を済ませ、入口に駆け出す。

 

ハジメ「敵の数と種類は?」

 

 白野「竜人が一人だけです。他はいませんが、全員が逃げるのは難しそうです。」

 

ハジメ「了解。...待て、今竜人って言ったか?」

 

 ハジメが白野に質問するが、答えが出る前に入口に辿り着く、そして――

 

――グゥルルルル

 

 空に佇む竜がいた。ウィルの話に出てきた黒い竜が、獲物を待ち構える様に飛んでいた。

 その黒竜はウィルと白野の姿を確認すると、その鋭い黄金の瞳を向ける。そして、硬直する人間達を前に、おもむろに頭部を持ち上げ仰け反ると、鋭い牙の並ぶ顎門を開き、口に魔力を集束しだした。

 

キュゥワァアアア!!

 

 不思議な音色が昼下がりの山間に響き渡る。ハジメの脳裏に、川の一部と冒険者を消し飛ばしたという話が脳裏に浮かぶ。

 

ハジメ「ッ!退避しろ!」

 

 ハジメの警告で、ユエとシアはその場から跳びのき退避する。だが、他のメンバーは恐怖で体が動かず逃げ遅れる。ハジメは急ぎ愛子達を庇おうとするが間に合わない。

そして、黒い魔力の奔流が、彼等に放たれた。




ご閲覧ありがとうございました。

白野が最短距離で案内した為、殉職した冒険者たちの遺品が回収されていませんが、この小説では、イルワが派遣した監視員が頑張って回収してくれたことになっております。
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