愛子達は目の前のものが理解出来なかった。同級生が一人、惨たらしい死体に変わり果てた事もそうだが、それだけでは無かった。
“はぁああん!ゆ、ゆっくり頼むのじゃ。まだ慣れておらっあふぅうん!〟
四肢は砕け、頭が吹き飛び、体が裂かれているのに、血が一滴も流れていない。それどころか、露わになった首や胴体の断面には、肉は愚か臓器も骨も見当たら無い。唯々黒い霧が、白野の体内を埋め尽くしていた。
その理解出来無い異物に生徒達が呆然としていると、その黒い霧が蠢きだし、断面から溢れ出た。愛子達は動き出した霧に驚き、思わず後ろに下がり武器を構えた。
“やっ、激しいのじゃ!こんな、ああんっ!きちゃうう、何かきちゃうのじゃ~!〟
霧は別れた両方の体から湧き出ると、お互いが絡まり合い結合した後、ゆっくりと半身同士を動かし始めた。同時に霧が頭を形作り、曲がった四肢は音も無く元の状態に戻り、凹んだ鎧は内側から風船の様に膨れ上がり、強引に修復される。
“あひぃいーーー!!す、すごいのじゃ……優しくってお願いしたのに、容赦のかけらもなかったのじゃ……こんなの初めて……”
やがて、首から湧き出た霧が白野の頭に変化し、胴体が繋がり怪我が全て治る。そして目を覚ましたのか、白野は虚な表情のままゆっくり体を起こす。
明人「化物......っ」
思わず声が出たのだろう。白野が声に反応しそちらに顔を向ける。そこには、怯えた様子で武器を構え、自分に向かって武器を構える生徒達がいた。
白野「...?どうかしましたか?」
自分の身に何があったのか気付いていないのか、彼女はまるで何事も無かったかの様に、先程迄と変わらない声音で生徒達に話しかける。
愛子「...玖珠木さん。」
白野「はい。」
愛子は怯えているのか青ざめた顔のまま、恐怖に震えた声音で――
愛子「一旦休みましょう...。先生は頭に入って来る情報が多過ぎてパンクしそうです...。」
白野「わかりました。」
休憩を申し出た。異様な光景と脳に直接響く喘ぎ声で頭がこんがらがったようだ。その案に生徒達も疲れた表情で同意する。
白野は着ている鎧が壊れている事に気付き、錬成を使い元の状態に戻し、落としていた剣を拾い鞘に入れる。
ハジメ「そっちは終わったか?」
優花「...南雲、視界に入らなかったから聞きたいんだけど、今の変な声って何?」
ハジメ「あー、杭が刺さったままだと死ぬから抜いて欲しいって煩いから、さっき迄引っこ抜いてたんだよ。その時にソイツが喚いていただけだ。」
そう言うとハジメは、親指で背後にいる着物の様な服を着た女性を指差す。
腰まで伸ばした黒い髪に、金色の目をした女性がいた。どうやらこの女性が先程まで戦っていた竜の正体のようだ。
愛子「えっと、そちらがさっきまで竜になってたと言う...。」
ティオ「そうじゃ。妾の名はティオ・クラルス。最後の竜人族クラルス族の一人じゃ。先刻は面倒を掛けてしまい、本当に申し訳無かった。」
竜人族の女、ティオはそう言って深々と頭を下げる。
白野「この方の処遇はどの様に致しますか?」
ハジメ「一先ずはコイツから情報を引き出す。話はそれからだ。」
白野「わかりました。ティオさん、怪我されていますが大丈夫ですか?」
ティオは竜に変身していた間に負った傷が反映されている様で、白野の攻撃により右目が切り裂かれ、血が流れている。
ティオ「構わんよ。寧ろ心地良い......と言いたいところじゃが、ちとこの傷は洒落にならんの。まぁ、治る物でもあるまいし、これも無様に操られた妾の戒めとしておこう。」
白野「いえ、私がやった事ですし、治療も可能ですので宜しければ治しますよ。」
ティオ「む?欠損を直す様な治癒魔法があったかの?出来るのであれば有難いが...。」
白野「”絶象”」
白野が再生魔法を唱え、ティオの右目が元に戻り、血が止まる。治癒魔法は愚か、神水でも治せない欠損を容易く修復した魔法に、ハジメを含め全員が驚く。
白野「目に異常はありませんか?」
ティオ「う、うむ、問題無い。寛大な待遇に感謝する、騎士殿。失礼は承知じゃが、一体その魔法は何なのじゃ?」
白野「再生魔法と呼ばれるものです。先程の戦闘の際に、貴女にも掛けられていた魔法ですね。」
ハジメ「そういや、他の神代魔法らしき物もコイツに使われてたな。おい、駄竜。誰がそれを使ったのか、きりきり吐け。」
ティオ「んっ、んっ!そうじゃの、何故妾が汝らを襲ったのかも含めて、順番に話そう。」
ハジメの暴言に何故か頬を染め、呼吸を荒げながらも、ティオは事情の説明を始めた。
••••••••••••••••••••••••••••••
彼女の話を要約すると、異世界からの来訪者、勇者達について調べる為に遠く離れた里から来たティオは、休息をと思いこの山脈に身を隠し休んでいた所を、黒いローブを羽織った人間族の男に洗脳等の闇系統魔法を掛けられてしまった。
その後、彼女は目撃者を殺すべく、山脈へ調査に来たウィル達と白野を追いかけていた。そしてハジメ達に遭遇し、後の事はご覧の有様だ。
ウィル「……ふざけるな。」
話が終わると、ウィルが怒りを押し殺した様な声音で喋り出した。拳を握り締め、瞳には激しい怒りが宿っている。
ウィル「……操られていたから…ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを! 殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ! 大体、今の話だって、本当かどうかなんてわからないだろう! 大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる!」
ティオ「……今話したのは真実じゃ。竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない。」
ティオの言葉に、怒りが収まらないのか尚も言い募ろうとするが、横から口を挟まれた。
ユエ「……きっと、嘘じゃない。」
ウィル「っ、一体何の根拠があってそんな事を……。」
ユエ「……竜人族は高潔で清廉。彼女は“己の誇りにかけて”と言った。なら、きっと嘘じゃない。それに……嘘つきの目がどういうものか私はよく知っている」
ユエはそう言い、目線をずらして過去を思い出す様に遠くを見る。嘘をつき続けられた事でもあったのか、その表情は少し暗くなっている。
ウィル「……それでも、殺した事に変わりないじゃないですか……どうしようもなかったってわかってはいますけど……それでもっ! ゲイルさんは、この仕事が終わったらプロポーズするんだって……彼らの無念はどうすれば……」
白野「...それでは、殺しますか?」
ウィル「え?」
白野「宜しければ此方をどうぞ。」
白野は背負っていた剣を引き抜き、ウィルに持ち手を向け差し出す。急な提案に戸惑いながら、流されるままに剣を握る。
ウィル「!?」
剣を手に取った瞬間、白野に腕を引かれる。剣の切っ先が、ティオの首に持っていかれた。
ウィル「な、何を...!?」
白野「後は、このまま剣を押せばティオさんは死にます。首から血が吹き出る感覚を味わいながら、ゆっくり息を引き取るでしょう。そうしたら、彼女は永遠に誰にも会えなくなり、貴方は復讐を果たせます。」
ウィル「そ、れは...!」
白野の行動に生徒達は目を剥き、ティオは「これもまた償いか」と言わんばかりに、落ち着いた様子でウィルを見ている。
白野「どうしました? 彼等の無念とやらを晴らすのではないんですか? 彼女が生きていれば、また洗脳されて貴方を襲うかも知れませんよ?」
ウィル「私は......っ。」
ウィルの心情を表す様に剣が震え、体が硬直する。やがて、人を殺すと言う重荷に耐え切れなかったのか、ウィルは悔しそうに歯を食い縛りながら俯き、剣を落とした。
ウィル「......っ。」
白野「...。一つ、助言を言わせて貰えますか?」
ウィル「......何ですか? 」
白野「無念とか遺志とか、死んだ人の思想を汲み取る様な言葉がありますが、死んでしまえばその人の精神は形を失います。唯、何も感じないまま、ひたすらに漂い続けるだけ。要は、そんな物は生きている人の都合に合わせた物でしかありません。晴らそうとした所で、意味はありません。」
誰も望んでいませんから。まるで、死んだらどうなるかをよく知っているかの様な言葉を付け加え、白野は落とされた剣を拾い、鞘に戻す。その言葉にウィルは反論しそうになるが、死人が何も言わない事も事実と考え直す。結局何も言えなくなり、黙り込んだ。
ハジメは訝しげな視線を白野から外し、話を戻す。
ハジメ「それで? 神代魔法を使っていたのは誰だ?」
ティオ「うむ、使っている所を見た訳では無いが、妾の推測通りならば隣にいた魔人族であろうな。他に心当たりが無いと言うのもあるが...。」
ハジメ「こんな辺境に魔人族がいるのか? 根拠は?」
ティオ「ローブの男の隣におったからの。しかも騎士殿と同じく、見た事の無い魔法を使っておったのじゃ。妾も魔法の知識は豊富だと自負しておるが、風も起こさずに飛ぶ様な魔法は知らんのでな。」
ユエ「......多分、重力魔法。」
ハジメ「だろうな。ソイツの外見は?」
ティオ「たしか、同じ様な黒いローブを羽織った、初老の魔人族じゃったな。顔が違う種族の皮を縫い合わせたのか継ぎ接ぎだらけでの、左目があらぬ方向に向いておった。」
白野「...?それはおかしいですね。」
ティオの発言に、白野が首を傾げた。その容姿は、白野が知る人物とよく重なる。
ティオ「おかしい、とは?」
白野「その人物は、私が殺して焼き払った筈なんです。逃げ延びているとは思いませんでした。」
ハジメ「何だそりゃ、神代魔法を使える上に不死身なのか? 遠くにいる奴が見えるのに、何で今迄気付かなかった? 」
白野「申し訳ありません。何故か彼だけは他の人よりかなり薄く見えるんですよ。なので、死んだと考えていた事もありますが、見つけ出すのは難しいんです。」
白野のよく分からない説明に、ハジメは不機嫌そうな表情をする。ふと、愛子が思い出した様に今度は白野に質問を始める。
愛子「そう言えば玖珠木さん。どうして最初からティオさんが竜人だと分かったんですか?あった時は竜に変身されていたので、人かどうかは分からない筈ですが?」
白野「竜の体の中に、人影が見えたんです。一般的な竜であればそういったものは無いので、竜人族しかいないと考えたんです。」
白野の発言に皆が首を傾げる。魔眼石を持つハジメでも、竜の体内にそんな物は見えなかった。肉眼なら尚更だ。
ティオ「うぅむ。如何やら騎士殿には、只人には見えない物を見ているようじゃな。お主の視界には物理的な物ではなく、何か別の物が写っているのやも知れぬ。」
白野「...別の物、ですか。」
心当たりはあるのか、白野は俯き思案するが、答えは出て来ない。
ハジメ「...もう一つ質問がある。玖珠木の体についてだ。中身が黒い霧とか、どうなってんだ?」
白野「中身?」
シア「...その、言い難いのですけど、ハクノさんはティオさんに潰されて、体が半分に別れていたんです。」
どうやら生徒達が見ていた光景は、ハジメ達も確認していた様だ。黒い霧について聞き出そうとしてくる。
しかし、本人は自分の体がどうなっているのか気付いていない様だ。見かねたシアが事の顛末を説明する。
白野「そうでしたか。」
話を聴き終えると、白野は徐に左腕の籠手を外し、剣を引き抜くと――
愛子「玖珠木さん!?」
自分の左手を斬り落とした。
やはり断面は黒い霧が詰まっており、やがて霧が切断された手首まで伸びて行き、再び結合する。
白野以外の人物は、何の躊躇いも無く、痛みに顔を歪める事もなく腕を斬り落とした彼女に驚愕し、生徒達は顔を青ざめさせている。
ユエ「......痛く無いの?」
白野「特には何もありません。皆様には申し訳ありませんが、私はこの霧については何も知りません。」
白野は左腕を軽く動かし、感覚を確かめる様に手を握ったり開いたりしていると、確認を終えたのか剣を戻し、籠手を付ける。
何事も無かった様に振舞う白野を見て、愛子が白野に近付き、その手を両手で優しく包み、怒っている様な目を白野にむける。
白野「先生?」
愛子「...玖珠木さん。直ぐに治るからと言って、自身を使い捨てる様な事をしてはいけません...。自分の身はもっと大切にして下さい。」
愛子は悲しんでいた。腕を容易く切った事もそうだが、ティオを捕縛する時だって、あの氷山は自分を巻き込む事を前提に使われていた事は、素人の愛子でも分かっていた。だからこそ先生として、これだけは伝えなければならない。
白野「何故ですか? 大切にする理由がありません。」
愛子「そんな事はありません! 貴女が傷付けば、死んでしまったら、悲しむ人達がいるんです! 先生だって、その一人です。だから、自分の事も大切にして下さい...。先生との約束です。」
白野「...わかりました。」
例え生徒が化物になろうと、その生徒の為に優しく、時には厳しく接する。彼女にとっては、大切な生徒である事には変わりないのだろう。
その熱意が伝わったのかは分からないが、白野は首を縦に振り約束する事を誓う。
ハジメ「話を戻すぞ。その黒いローブの男は何を狙っているんだ?」
質問されたティオが、再び情報を話し出す。
話によれば男は魔物を集め大軍を作り、町を襲うつもりの様だ。その男の容姿は黒髪黒目の、未だ少年位の年齢らしい。そして、勇者に対して恨言を呟いていた事から察するに、彼等と何かしらの関係があるとも。
その容姿と、闇系統魔法に適性がある事。その情報が、愛子達の脳裏に探している人物を思い浮かばせる。
ハジメ「玖珠木、男の位置と大軍の居場所は分かるか?」
白野「はい、それらしき人物と大軍は、既に町に向けて進軍しているようです。数は、大凡4万程かと。」
白野の報告に全員が驚く。このまま行けば町に到達するのに1日も掛からないだろう。そうなれば住民は一人残らず始末される。
ウィル「あの、ハジメ殿なら何とか出来るのでは……?」
皆が動揺する中、ウィルの希望的な提案が呟かれる。その言葉に生徒達がハジメに期待の眼差しを向けるが、彼は仕事を優先すると答え、ウィルを引き摺り出す。
しかしここで、愛子が残り黒いローブを着た男が、清水なのか確かめたいと言い出した。魔物の大軍が迫る場所に置いていく訳にも行かず、生徒達が必死に説得しだし、様々な意見が錯綜する。そこに、白野から提案が出た。
白野「皆様に一つ、提案があります。要は、ここで魔物を押し留めて、誰かが報告に戻れば良いんですよね?」
愛子「えっと、はい、そうなります...?」
何か良い案があるのかと、生徒達の目に希望が宿る。全員の視線が白野に向かう。
白野「私がここに残り、他の方々を町まで投げ飛ばします。そうすれば解決です。」
「「「え°?」」」
前言撤回、紐無しバンジーと同じレベルの提案だった。
優花「......投げ飛ばすって?」
白野「言葉通りの意味です。体を掴んで、町に投げ飛ばします。」
優花「...着地は?」
白野「その為の道具はご用意します。ですが、何らかの理由で着地に失敗した場合町に向かって地面に赤い線が――
愛子「南雲くん! 皆で戻りましょう! ええ、先生は大賛成ですよ! 」
ハジメ「賢明な判断だ。」
意見が纏まり、魔力駆動四輪にハジメ達と生徒達が、魔力駆動二輪にシアとティオ、白野が乗り込み、一行は町に急いだ。
••••••••••••••••••••••••••••••
町に到着した後、白野は一人別行動を取っていた。報告に全員が向かう必要も無いと考え、彼女は大軍に備える為に準備をしていた。
白野「すみません。この鉄棒と木材を下さい。」
店員「あいよ! 全部で2,000ルタだ。」
白野「ありがとうございます。」
多数を相手にするには武器が合わない。魔法で相手するのも良いが、対抗できる手段は多い方が良い。
白野「すみません。このクロスボウを下さい。後、金属の廃材があるなら、それもあるだけ下さい。」
店員「毎度あり! 廃材はとってくるからちょいと待っててくれ。」
白野「ありがとうございます。」
その為にまず、材料を集める。先に武器を作る為の物を集め、それを終えると白野は町を出て、外壁を作るべく大量の岩を集め始めた。
白野「“禍天”。」
重力魔法で岩を持ち上げ、列になる様に積み上げる。足りない分は地面から引き出し、高度5メートル程の防壁を作り上げて行く。
しかし、一人でやるには人手が足りない。効率を上げるべく大急ぎで取り掛かっていると、白野に声を掛ける者が現れた。
ハジメ「よぉ、忙しそうだな。」
白野「ハジメさん? 此処を離れるのではなかったのですか?」
ハジメ「そのつもりだったんだが...まぁ、色々あったんだよ。手を貸すぜ?」
ハジメ達一行だった。ウィルを連れてフューレンに戻ると言っていたのに、何があったのかここに留まり、大軍に応戦するつもりの様だ。
白野「それでしたら、岩を持って来るので、それを使って錬成で外壁を作って下さい。」
ハジメ「お安い御用だ。」
ハジメはそう言い、不敵な笑みを浮かべた。
程なくして外壁を作り終えると、白野は鉄棒と廃材を錬成し、武器の作成に取り掛かる。
作った物は、穂先が三角形に尖った戦斧、バルディッシュだ。これに生成魔法で限界まで魔力を込め、雷系統魔法を付与する。
ハジメ「お前、生成魔法まで使えるのか? 何でも出来るな。」
白野「そうでもありません。知識があるだけです。」
ハジメ「充分だろ。お次は何を作るんだ?」
白野「クロスボウの改造とボルトの作成です。大量の敵を相手にする以上、可能であれば多く射手が欲しい所ですが。」
どうやらボルトに魔法を付与し、殲滅用の物を作るつもりの様だ。しかし、クロスボウや弓の強さを引き出すには数が必要だ。元々観光地であるこの町ではそれを扱える人の数など高が知れている。
ハジメ「...貸せ。」
白野「ハジメさん?」
ハジメ「お前の正体は分からんし、信用出来ない。それでも世話になったからな。武器を作る序でに改造位はやってやる。」
白野「...ありがとうございます。」
そう言うと、ハジメは自分の作業に取り掛かる。白野もそれに合わせ、ボルトの作成を始める。
シア「あの、ハクノさん。ちょっと良いですか?」
白野「はい、何でしょう?」
その前に、シアが白野に話し掛けて来た。白野が向き直ると、彼女は頭を下げた。
シア「昨日は、庇ってくれてありがとうございました。」
白野「庇った、とは?」
シア「えっと、ほら、私がデビッドさんに絡まれた事があったじゃないですか。あの時ハクノさんがあの人を止めてくれましたよね? そのお礼がしたかったんです。」
白野「お礼は不要です。あれは、ハジメさんから私の過去の話を聞く為に、妨害して来た彼を止めただけですよ。」
シア「それでも、ですよ。お陰様で美味しいご飯が食べられました!」
白野「そうでしたか。どういたしまして。」
そこで会話が途切れる。白野は、話は終わったと作業に戻り、木を削り、鉄屑を矢尻に変え羽を取り付け、ボルトを作って行く。シアはそれが気になったのか、作り終わったボルトに手を伸ばす。
白野「それに触ると、体が爆発しますよ?」
シア「えぇ!?」
白野の物騒な警告に驚き、慌てて伸ばした腕を引く。
シア「あ、危なかったですぅ。随分と恐ろしい物を作ってますね...。」
白野「これには、刺した対象の魔力を起爆させる魔法が付与されています。迂闊に触れると爆死しますよ?」
シア「は、はい、反省しますぅ。」
そう言いながら、シアはウサミミをションボリと垂れ下げた。白野は気にした様子もなく、黙々と作業を進める。
シア「あの、ハクノさんは、私の事を気持ち悪いとか思わないんですか?」
ふと、昨日の罵倒を思い出し、思わず尋ねてしまう。他の生徒達はそんな感情は表さなかったが、もしかすると全員がそうではないのかもしれないと思ったのだろうか、若干不安に揺れながら質問する。
白野「気持ち悪い、とは?」
シア「え?それはほら、見ていて気分悪いとか、なんかこう...気持ち悪い? とか? です?」
白野「申し訳ありません。私にはそういった感情の類は分かりません。なので、貴女を罵倒する様な事はしませんよ。」
シア「え、と、そう...ですか?」
感情が分からないとは、どう言う事なんだろう? と、シアは疑問に思うが、「ひょっとして、心が無い?」とも聞けず、話が続かなくなる。
すると、白野が急に作業を止め、再びシアに顔を向けた。
白野「感情は分かりませんが、相手がどう言う気分でいるのかは分かります。」
シア「ハクノさん?」
白野「なので、また悲しそうにしていたら、何度でも助けますよ。」
シアは思わず目を見開く。この人は、種族が何であろうと変わらず接してくれるつもりの様だ。亜人族が迫害される中、この言葉を言われる事は滅多に無い。シアの顔に、自然と笑顔が浮かんだ。
シア「ありがとうございます! ハクノさん!」
白野「お礼は不要です。」
••••••••••••••••••••••••••••••
そして明くる日。
ハジメ「! ……来たか。」
遂に、町の前に大軍が現れた。到達する迄30分は降らないだろう。多種多様な魔族の混成部隊が、ハジメが飛ばした偵察機の下に広がる。
ハジメ「玖珠木、準備は良いか?」
白野「いつでも。」
白野が戦斧を構え、ハジメはガトリングガンを持ち上げ、ユエが手に魔法を構築する。後ろから愛子を称える歓声が上がる中、各々が己の得物を手に、大軍にたちはだかる。
ハジメ「じゃあ、やるか。」
ご閲覧、ありがとうございました。
ハジメ達とはあまり関わらないとか書いて置きながら、ずっぷり関わってますね...。ウル編が終わる迄はこんな状況が続くかもしれません。