永遠なんて、その一時の為にあったのかもしれない。
世の中には、答えを知らなくても良い、知るべきでない問いというものが存在する。
私は今、それに答えなくてはいけない状況にある。
彼女は、ここ数年間毎日のように私に会いに来るのだ。
私などと話していても、時間の無駄だ、浪費だ。と、何度言っても聞きやしない。
葉も落ち、冷たい風が吹く時期が今年もやって来て、今日は特別冷たいのだが、社の石段に座りながら、彼女は何時もの調子で私に取り留めのない話をする。
私は殆ど聴いているだけなのだが、偶に彼女は私に問いを投げかけてくる。
私の好物から、この街の歴史や、勉学についてなど。
そこそこ知識はある方なので、私は適当な調子で返答する。
無限に近い時間を過ごしているので、それこそ知識を溜め込むくらいしか、することがないから。
私がそうやって返事をする度に、彼女は嬉しそうに笑うのだ。
その様子が、私にとっては好ましいものだから、いつだって返事をして来た。
しかし、今日投げかけられた問いは、どうしても答えてはいけないのだ。
答えを私自信がよく理解しているからこそ、私が、私の身勝手な想いのために答えたくないのだ。
返答を、想いのまま打ち明けるのはきっと簡単なことなのだろう。
しかし、しかし。
どうしても、答えを言うことが出来ない。
彼女は、街の学生だ。
私の事なんかに構っている所為で、学校でも陰湿な嫌がらせを受けているようだ。
彼女はどんな時も明るく、また、人を心配させまいと努める。
だから、一言だって、嫌がらせを受けていることを口に出したことはない。
どれだけ隠しても、体に残った痣や、生傷。
後は、纏う雰囲気で大体分かってしまう。
こうして、長く人を見ていると、分からなくても良いことが分かってしまうのだ。
彼女が私を心配させまいと隠す、その心遣いを、その優しさを、たかが洞察力程度で、嘘を見抜いてしまう。
なんてつまらないんだ、私は。
出来る事なら彼女を助けたいけれど、ここに縛られた私には、到底叶わない。
彼女の話を、ただ聴くことしかできない。
彼女の、嘘を。
彼女の美しくもくぐもった瞳に、既に私は映ってはいないだろう。
人間というものは、理解できない存在を嫌がり、拒絶する生き物だというのは、身に染みて分かっていた。
だからこそ、拒絶しない、私を受け入れてくれる彼女は美しい。
けれど、ああ。
私を捉える事の出来なくなった彼女は、私の事を拒絶するのだろうか。
捉えることの出来ない存在を、拒絶するのだろうか。
そう考えると、答えは、やはり言えない。
その答えは、彼女が真に求めるもので。
その答えを与えると、私は誰にも認識されなくなる。
これは呪いだ。
永く生きたいと、遥か昔に願った私に掛けられた呪い。
最後に私の愛した。
最後に私を認識できた、彼女に恋することが出来ない呪い。
私は、消えてなくなる。
彼女は普通の学生になり、私の事も忘れるさ。
それで良いんだ。
私は、自分の存在なんかのために、彼女のこれからの人生の内、その一瞬でも無駄にしてしまったのかもしれない。
呪いで生かされている、こんな紛い物が居なくなっても、彼女が忘れるだけだ。
それで良いんだ。
哀しく、寂しくとも。
二度と彼女の明るい笑顔を見ることが出来なくとも。
彼女と共に、他愛の無い事を話すことが出来なくなったとしても。
君が私を忘れようとも。
「それでも。」
「私は、最後に伝えよう。」
「君の事が好きだ。」
「君のことを愛している」
「さようなら。」
「…ごめんね」
その日。
この地を護る英雄の名を。永遠を生きる英雄の名を。
全ての人が忘れ去った。
立ち尽くした女学生は、ボロボロになった御守りを握り締めたまま、ただただ、風を受けていた。
その眼に涙を滲ませ。
彼女は誰と何をしていて、どんな感情を抱いていたのか。
彼女自身にも、決して分かりはしない。
思い出すことだって、しないだろう。
なぜなら、彼女の恋する人は、もう居ないのだから。
しかし。
きっと、最後の一時でも、満たされていたのだろう。