「なんで怒られてるか、分かります?」
ゆかりさんからそう問われた時、私は頭を横に振った。
「じゃあ貴女が何をしたのか、分かります?」
ゆかりさんからそう問われた時、私は頭を縦に振った。
「じゃあ、何をしたのか説明して下さい」
そう言って、ゆかりさんは私の前にあったはずの消えてしまったしまったホールケーキを指差した。王冠のように並べられた苺や純白とも言える美しい生クリーム。その全てが調和し、貫禄ある姿を誇っていたあの姿はもう何処にも無く、ケーキの置かれていた場所には、恐らく元はケーキであっただろう食べカスが散乱している。
そんな光景を見て、私はこう答えた。
「毒味をしていました!」
呆れたような表情を浮かべるゆかりさん。しかし、その表情もすぐに消え、また私に質問をし始めた。
「毒味ですか。なるほど、大変結構。それなら今の貴女の様子を見る限り、毒は無かったんでしょうね」
「はい!このケーキは安心安全です!」
私の言葉に、ゆかりさんはうんうんと頷いた。これならきっと分かってくれるだろうと、私は満足していた。
「じゃあ、なんで全部食べる必要があったんですか?」
その言葉が聞こえた瞬間、私の頭から平穏な空気が消え去った。いや、元からそんなものは無かったのかも知れない。しかし、これにもきちんとした理由があるのだ。
「ゆかりさんと楽しい時間を過ごしたかったからです!」
「と、言うと?」
「もしもこのケーキに毒が入っていたとしたら、私かゆかりさんのどちらかが死んでいた事でしょう。いえ、もしかしたら二人とも死んでしまったかも知れません…」
そう言っていると、私の目尻から自然と涙が出てきた。想像するだけで恐ろしい。楽しい時間の中、もしそんな事が起きてしまったらと考えると、私は涙が止まらなかった。
「……そうですか、それは素晴らしい気遣いだと思います」
「分かってくれましたか…?」
「それでは、なんで全部食べる必要があったんですか?」
再び空気が凍り付いた。ついでに、溢れていたはずの涙も止まってしまった。恐ろしいゆかりさんの圧に、涙が引っ込んでしまったのだ。
ただ、これにもきちんとした理由が存在する。
「それはですね……素材一部に毒が盛られていないかをチェックする為です……」
「……それで?」
「もし仮に、使われていた苺の一つに毒が盛られていたとします。そうしたら、私はゆかりさんを看取る羽目になっていたかも知れません。生クリーム全体だったら、それこそ致命的でした。ならばと思って、犠牲を減らすべく私は一人で全てを調べたのです」
「はぁ……」
ゆかりさんが頭を抱えてしまった。きっと私の想いが通じて、泣いてしまっているのだろう。私は大丈夫だったが、きっと私が居なくなってしまう未来を想像して、私と同じ気持ちになっているに違いない。
だから、私はゆかりさんの肩に手を添えて、こう言った。
「ゆかりさん…大丈夫ですよ。あかりは此処に居ます…」
「あかりちゃん…」
ゆかりさんの柔らかい声、怒らない時の優しい声だ。それに安心しながら、私は言葉を続けようと……
「クリスマスケーキ、要らないって事ですよね?」
「ごめんなさい摘み食いが止まりませんでした」
自白した、サンタさんの砂糖菓子が食べられないのは別問題なのだ。