【完結】がっこうぐらし!モールスタートめぐねえエンドSランク縛り【MGNEND】   作:月日星夜(木端妖精)

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リスペクト元が完結しているので初投稿です


1パンデミック~みーくん達と合流

 今日は2016年発売の家庭用ゲーム『がっこうぐらし!』のRTAに挑戦していきたいと思います。

 計測開始はゲームスタートを押してから。タイマーストップはエンディングスキップ後、スチルが表示されたら。はい、よーいスタート。

 

 ローディングの間に諸々説明していきましょうか。

 

 このゲームはカスタマイズしたキャラクターを主人公に、アウトブレイクの起こった街を生き抜くサバイバルゲームとなっております。

 

 このゲームの特徴はなんといっても自由度の高さですね。原作を踏襲したルートで走るもよし、一人街を旅するもよし、集団に合流するもよし。用意されたイベントの数は膨大で、発売からだいぶ経ちますが未だに未発見のイベントが起こったりします。最近だと街ルートの"めぐねえ怒りのデスロード"ですかね。発生条件はアウトブレイク後にめぐねえを校外へ連れ出す、めぐねえ以外の生徒が全滅している……という大変フラグ立てがシビアなものなのですが、迫力のあるイベントシーンは一見の価値ありです。ニキ兄貴の『学校ルート採用RTAりーさんEND 23分57秒』(非実在)で見れるのでそちらをどうぞ(ダイマ)。RTAはいいぞ(めっちゃいい)。

 

 そんな先駆者兄貴達に憧れて私も手を出してしまいました。試走はもーめちゃくちゃです。プレイするたびに状況が変わるリアルシミュレーションシステムを採用した本ゲームではチャートを組むのがしんどすぎて辛い。何よりプレイスキルが足りない……なのでこのRTAでは時間を度外視した安定重視のプレイスタイルを採用しております!! スーパープレイに興味のある方は他の走者さんのを見ましょうね~。おすすめはアサルトゲーマー氏の学校スタート(【WR】がっこうぐらしRTA_全員生存ルート【完結】)のやつです。

 

 RTAなのに時間度外視!? と驚愕しているであろう視聴者のためにぃ~……

 本プレイにあたっていくつか縛りを設けます。

 まず、難易度はVery Hard。上に最高難易度(Nightmare)がありますが、私ではベリハが限界です。

 スタート地点はショッピングモール、難易度の高いめぐねえエンドを狙っていきます。

 評価オールS、合計プレイ時間4時間以内、銃火器の使用禁止。拾ってもいいけど撃っては駄目という形で。

 

 学校での攻略可能キャラクター全員生存も追加しましょう。どうせ狙うなら曇っていないめぐねえと幸せな朝を迎えたいですからね。

 

 さっそくキャラクリに移りましょう。既にタイマーは動いているのです。時間は命ですよ、先輩。

 

『あなたは男の子? それともー女の子?』

 

 なんだこのロリ!?

 画面端にポップしたゆきちゃんがフルボイスで問いかけてきましたね。豪華なもんです。

 キャラの容姿を設定する前にいくつか質問をされるのですが、ここでナビゲートしてくれるキャラは学園生活部のメンバーからランダムで選ばれます。さらにここで現れたキャラクターの初期好感度が一段階上がります。好感度は上下しやすいので誤差ですね。厳選等する必要はありませんので最速入力で進めていきましょう。私の指捌きはレボリューションだ!

 

 性別は女。学年は3年生。

 キャラタイプはCで、容姿は事前に登録しておいたこちらを使用します。普遍的な黒髪ウェーブロングのモブ顔眼鏡まな板チビ。いえ性癖ではなくてですね、小柄なのはこのチャートにおいては有利なんです。勘違いしないように。

 

『じゃあ、今からする質問に答えてね!』

 

 画面端に立つゆきちゃんがコミカルな動きと共にいくつか質問を投げかけてきます。これががっこうぐらし!を原作としたゲームであると印象付けられますね。

 ここで決まるのは性格ほか、能力値や各キャラクターの主人公への初期好感度です。

 TNPよく行きましょう。……はい、性格は臆病で、クラスでは目立たないタイプ。得意な科目は図工。所属は園芸部。

 

 臆病な性格は隠密性に補正がかかり、「彼ら」に見つかりにくくなります。

 目立たないタイプも同様。それから"無音歩行"のスキルを最初から取得できます。タイプには他に「目立ちたがり」や「クラスの中心」などがあるのですが、前者は「彼ら」からの発見率が上がる代わりに索敵精度が高まり、後者はカリスマのスキルで味方の好感度を稼ぎやすくなります。

 

 それに比べると「目立たないタイプ」の恩恵は小さいように思えますが、モールスタートだと単独行動が多くなるので実質これ一択になってしまうんですよね。キャラタイプCは小柄であるのがその二つの要素とシナジーがあります。反面、キャラタイプCは体力が少ない。持久力も同様。さらに質問『あなたはお外で遊ぶのが好き? おうちで遊ぶのが好き?』におうちでを選択したので、息を止めていられる時間が短くなってしまっています。戦闘力なんてゆきに劣るほどのクソザコナメクジっぷり。

 

 元よりハイドアンドシークを推奨するゲームではありますが、彼女(タイプC)を操作キャラとした場合それが顕著になります。上等ですね。腕の見せ所ですよ。かくれんぼは得意なのです。

 園芸部なのはりーさんこと若狭悠里との接点を作ることと、ひいてはるーちゃん救出の布石です。

 

 名前は入力時間を考慮してほも……としたいところですが、女の子なのでランダムに任せます。

 千翼優衣(ちひろゆい)になりました。母さん食ってそう(チヒルォ)。よろしくお願いします。

 

『ありがとう、あなたのことい~~っぱいわかったよ!』

 

 ゆきぃ……お前ほんとかわいいなぁ(ノンケ)。

 今回はめぐねえエンドを目指しているので『何が好き?』という質問に「先生が好き」を選択しましたが、「あなたが好き」と答えてたじろがせたいです。「勉強が好き」でも可。ちょっと仲良くなれる自信がない、としょんぼりするゆきちゃんが見れます。

 

 こうしたナビゲートキャラごとに特定の回答をすると特殊な反応を見ることができるので、みなさんもぜひ探してみるといいでしょう(謎の上から目線)。

 個人的にはくるみの『災害時に一番大切な事って、なんだと思う?』の質問に「すみやかな介錯」と答えると不穏な表情が見られるのがなんか好き。

 りーさんの質問に内容を無視して「そんなのただの共依存じゃないですか」と答えると凄いバッチリカイガンするのも好きです。あなたねっ……!

 

 家族構成を問う質問には片親、兄弟姉妹不在と答えると個別ルートに入りやすくなります。

 オープニングムービーはスキップスキップ!

 それじゃ寂しい? よろしい。みぎっかわにムービー流しときます。

 

 

 半ドンで終わった学校に迎えに来た母と久々のショッピングを楽しむ優衣ちゃん。いつも仕事で忙しい唯一の肉親との楽しい時間に、根暗な優衣ちゃんの顔も今ばかりはほころんでいます。ま、すぐ曇るんですけどね。

 見る予定の映画が始まるまでの30分あまりを1階にあるドーナツショップで待っていた二人は、にわかに騒がしくなるのに不思議そうにしています。と、すぐ傍を何人かが駆けていきました。様子が尋常ではありません。

 何かあったのかと話を聞こうとお母さんが席を立ちますが、それが運の尽き。人波から飛び出してきた「かれら」に組みつかれて噛まれてしまいます。

 

 なんとか押し返したものの肩からとめどなく血が溢れ、ふらつく母に慌てて駆け寄った優衣ちゃんは、こうして現れた狂人から逃げるためにみんなが出口へ駆けて行っていたのだと理解し、その波に乗っていくのですが……。

 

 出入り口に殺到する人達が壁となってなかなか前に進めなくなり、さらにはその中から人を襲う「かれら」が生まれる始末。母に肩を貸しながら異様な雰囲気に呑まれて泣きそうになっていた優衣ちゃんは、耳元で発された唸り声に顔をあげ、直後に押し倒されてしまいます。母が「かれら」と化してしまったなどとはこの時の優衣ちゃんには理解できず、噛みつこうとしてくる母に抵抗しながら何度も呼びかけます。

 

 しかしタガの外れた「かれら」と貧弱一般人たる優衣ちゃんでは勝負にすらなりません。あわや、というところで誰かが母を引き剥がしてくれました。

 

「大丈……なっやめ!」

 

 助けてくれたのは警備員。ですが母にマウントを取られてかぶりつかれてしまいます。

 凄惨たる光景に悲鳴さえ出ない優衣ちゃんですが、聖人の如き警備員は必死に逃げるよう呼び掛けてくれたので、なんとか立ち上がれました。

 

 出口方面は団子状態でこちらへ向かってくる狂人が多数。ならば他の出口を求めていったん内側へ戻るしかない。パニックゆえ逆に迅速な行動を起こした優衣ちゃんは、しかし行く手を阻む数人の「かれら」に足を止めます。にじり寄る人であったものたちへの恐怖で身が竦み、もはやこれまでか……。そんな時、2階から落ちてきた人が立てた異音に反応した「かれら」は優衣ちゃんを放ってそちらに向かいました。危機一髪でしたね。

 

 その隙に近くの観葉植物の後ろへ隠れ、息を殺す優衣ちゃん──ここから操作可能になっていきます。

 付近に「かれら」が徘徊してますが、ここは完全に安全地帯となっているので"息を殺してやり過ごせ"という小目標は無視しましょう。植物の生える大きなオブジェクトに背を預け、座った状態でずりずりと横移動。怒号と悲鳴に身を竦める優衣ちゃんは可愛らしいですがいちいち止まるのはNG。

 端に寄ると外側を覗けます。ここに限らずオブジェクトの端っこだと同じアクションができます。これを専門用語でリーンと言います。

 

 ショートムービーが流れホールをうろつく「かれら」の姿に息を呑む優衣ちゃんですが、操作可能になれば即座に立ち上がります。これ以前は立てません。

 ダッシュで入り口側の柱へ移動し、ボディプレス染みたモーションで滑り込んでいきます。物音に振り向く「かれら」ですが、ギリギリ気付かれません。身を起こし、傍に転がるハンコを拾って柱の向こうへ投げ、「かれら」を誘導したら再びダッシュで入り口まで向かいましょう。

 

 今何をすればいいのかは左上に表示される小目標を見ればわかります。今はパニックが収まり始めた優衣ちゃんが母の安否を確認するために元いた場所へ戻ろうとしているようですね。"出口へ向かえ"と表示されています。

 

 入口側は相変わらず阿鼻叫喚の地獄絵図。仰向けに倒れ痙攣する警備員の傍に目的の母がのっそり立っています。そこに向かって全速前進! 左右の「かれら」に視認されますが、直後にムービーが入るので問題なし。「かれら」と化した事を強調する黒いオーラを纏い悍ましく開口する母のムービーはもちろんスキップ。スキップ可能なものは容赦なく飛ばしていきますよ。時間は大事。

 

 母だったものは優衣ちゃんよりも入り口側の騒音を優先してこちらに背を向けましたのでもう用はありません。近づけばスニークキルのマークが出ますが、今やると返り討ちにあって死にます(1敗)。以降も場合によっては返り討ちにあうので現実的に無理そうな場面でスニークキルを実行してはいけない(戒め)。

 

 私は初見の際「お母さん……?」と呼びかけながら近づく主人公ちゃんの傍にマークが出るのに反射でボタンを押してしまい淡々と殺しにかかるのを見た時は爆笑しましたね。そして死んで唖然としました。

 あ、でも無手では殺せないって訳じゃないです。しかし現状、そこにふらつく2体相手のスニークキルは非推奨。素手で二人に勝てる訳ないだろ! 実際体力が足りません。

 

 なお後半のチャプターでは無手での連続キルが基本になっていく模様。臆病な性格とはいったい……?

 

 ホールに戻ってきました。武器が手に入るまでは基本的にスニークする必要がありますが、ここに限っては立ちっぱでも問題ありません。高難易度ゆえ「かれら」の数は多いですが、チュートリアルステージなので戦闘状態に移ったかどうかは評価に入らないんです。しかし入り口で母のムービーを見るまでの最初の数体に発見されると何故か評価に響きます。なので柱に隠れる必要があったんですね。

 

 小目標は"エスカレーターへ!"

 障害物の隙間を縫って駆け抜けていきましょう。血だまりもしっかり避けないと転んだところに殺到されます。見ればわかりますよねそんなの(無敗)。

 あっ。

 なんだその判定(驚愕)たしかに避けたはずの血だまりにつんのめってしまいましたが、流れるようにスニークキル(キルしない)で障害物を退けてエスカレータに辿り着くことができました。操作ガバじゃありません、魅せプレイですよ、先輩。

 ここでムービー。

 

「こっちだ! はやく!!」

 

 背後を振り返って迫りくる「かれら」を確認し青褪める優衣ちゃんに、エスカレータ上から声がかかります。青年が手を差し伸べてきています。どっかで見た事あんなぁお前! そうです、原作漫画版のリーダー君です。

 助けてくれそうな人が現れた事に一瞬喜色を浮かべた優衣ちゃんは、しかしへにゃっと情けない顔をします。ん?

 そして、あ、あ~っ……! リーダー君の手を取ろうとしません!

 

 本来は1も2も無く手を取り引っ張り上げてもらうのですが……これはあれですね。ゲーム開始時に先天的に入手できるスキルのうち、バッドなもの……接触恐怖症(haphephobia)を引いてしまっていたようです。これは生存者とのスキンシップで得られる精神値の回復がマイナスに変わってしまうという、通常プレイではかなりまず(テイスト)なやつですね。

 

「何をしてるんだ、はやくこっちへ!」

 

 焦るリーダー君はさらに前のめりになって手を伸ばしますが、あろうことか優衣ちゃんは両手とも自身の胸に押し当てて嫌がります。背後から迫る気配に四の五の言っていられない状況だというのはわかっているのですが、触れるだけで精神ダメージを受けちゃうので仕方ないね(レ)。

 結局自分の足で駆け上がり始める優衣ちゃんですが、判断が少し遅かった。追い縋る「かれら」の手が服を掴みます。

 

「くそっ!」

 

 比較的安全な上に留まっていたリーダー君はそれを見て覚悟完了。安全圏を捨て駆け下りてきて優衣ちゃんの手を引いてくれますが、上階からもやってきていた1体が落下してきてリーダー君を掻っ攫っていきます。その際強引に上側へ突き飛ばされた優衣ちゃんは転びながらもなんとか2階へ逃れ、階下にて群がられるリーダー君の最期を目撃してしまいます。

 

「に、逃げ……ろ……!」

 

 お前ら揃いも揃って聖人君子か? さっきの警備員もそうですが、ここで登場するモブはやたらと気のいい人たちばかりです。脇道にそれてみると出会えるお姉さんもかなりいい人ですが、死にます。こういう世界ではいい奴から死んでいくのが常ですししょうがないね(野)。

 

 リーダー君の死を無駄にしないよう必ず生き残りましょう!

 ……と言いたいところですが、優衣ちゃん何やら苦悶の表情を浮かべています。

 

 それも当然のこと。母に次ぎ自分を助けてくれた好青年まで目の前で死んでいく……それを目の当たりにした優衣ちゃんはランダムで精神的異常を負ってしまいます。さっきも得た? いいえ、あれは珍しい例です。男性恐怖症とか女性恐怖症とか、そういった不利益をもたらすスキルが初期につく確率は2%もなく、普通は有用なスキルがつきます。クズ運? それもちがぁう。実は接触恐怖症にはバッドスキルの中でもプラスの面もあるまずまずなスキル。それが何かは後述。

 

 さておき、プレイ済みの視聴者さん方もそうだと思いますが、こうして酷い環境で心に傷を負う主人公を見て、ああ、これはゲームであっても遊びじゃないんだな、とこのゲームに引き込まれていったんじゃないでしょうか。私はおおってなりました。

 

 そういったリアリティが魅力の一つでもありますが、一方でやけにシュールな部分も多々あります。

 今悲痛な表情でここを離れる事を決めた主人公がその実なんのバッドステータスも受けなかったりとか、謎の挙動で延々壁に向かって走り続けるNPCや、ムービー中にすっ飛んでいくめぐねえ等。

 

 で、今回の精神異常はなんでしょ。確認するにはステータス画面を開かなければなりませんが、それは当然微ロスになるのでここで確認はしません。やってれば反応からわかるでしょう。そういった細々とした動作も凄いんですよね、このゲーム。

 

 ぽてぽてとした走り方で上階を目指す優衣ちゃん。どんくさい走り方ですが他のキャラとスピードは変わりません。プレイアブルキャラは横並び、NPCも同速度。例外としてくるみちゃんのみ1.3倍の速度で走ります。クルミ・クルミ! シャベルというハンデがあってようやく常人と同じ速度とはやるね陸上部。

 

 倒れ伏す遺体により開閉を繰り返すエレベーターの向こうやモグモグingされている方をあまり視線上に置かないように心掛けつつ駆け抜けていきます。精神値も大事。

 

 ここからみーくんらに合流するまではひたすら階段を上りつつ障害物を避けていくだけなので倍速。その間に説明を忘れていたステータスを解説していきましょう。上部の長いゲージが体力ゲージ。一部状態異常や被弾によって減っていきます。その下の細長いゲージがスタミナ。長い……? 体力の10分の3もありませんね。スタミナカスだからしょうがないしょうがない。こまめに歩きを入れているのはこれのせいですね。

 

 左の顔グラを囲う円のゲージの左半分が空腹ゲージ、右半分が飲料ゲージ。こまめに食事を摂ったり水分を補給しないとパフォーマンスが落ちてしまいます。また、ゲージとして存在はしませんが適度にお手洗いに行かないと、それもパフォーマンスに影響します。戦闘中に漏らすのは……やめようね!

 

 右下にあるのが装備スロット。現在何もセットされていません。左下には精神値。やや減少しているのは、んー、なんでしょうね。付与された精神異常が影響しているのか、道中でちょっと削られたのか判断つきませんね。

 

 学校帰りの優衣ちゃんが本来持っているはずの学生鞄は下の階に置き去りなのでアイテムも何も無し。時々ぽっけに飴とかを忍ばせている事があるのですが、これも今は確認できません。

 みーくんらですが、現在どこにいるかはプレイ時間によって変わってきます。RSS(リアルシミュレーションシステム)によってプレイヤーと同時進行で避難しているので、行動が迅速であればあるほど早期の合流が可能なのですが、おっかしいなーどこにもいませんねぇ……。もう最上階まで逃げてるのかな?

 

 そうすると微ロスです。4階にいる数体は難なくやり過ごせるのですが、みーくんらが立てこもる5階に確定でポップする「かれら」はまさに彼女達が籠城する部屋に取りついているためやり過ごせず、さらにこの段階にはバリケードが築かれているので取り除いてもらうのにやや時間がかかってしまうのです。

 

そっちのダンボール! はやく!!

うっ……ぐ……!

 

 5階廊下に出れば彼女らのくぐもった声が聞こえてきます。扉に取りついてエキサイトしている「かれら」も発見。ダッシュで近づいてアンブッシュ! 襟首を掴んで引き倒し、首を踏み潰して処理します。ドアを叩いている「かれら」は大きな音を立てても振り向くまでに時間がかかるのでスニークキルは簡単です。大抵固まって取りついているので上手く決まる機会はあまりないですが、連続キルが決まると爽快です。

 どの難易度でもここにはこいつ以外絶対に湧かないので、やっつけた事を伝えて中に入れてもらいましょう。

 

えっ……?

ど、どうしよう美紀……入れる?

「……」

 

 あのー、まーだ時間かかりそうですかねー?

 時間が大事って私言いましたよね? これRTAなんだよね。遅延行為は困るよー。

 

「……」

 

 おタイムこわるる^~。

 

「…………」

 

 ヌゥン! ヘッヘッヘ! ……ヌゥン!

 

「……よし……!

 

 あ、やっと終わった? 待ちくたびれたよ。トイレタイムにしようかと思ったわ。

 しばらくダンボールをどかす音がして、その間優衣ちゃんは不安げに縮こまっています。

 ようやく開いた扉はしかし彼女達の心情を表すかのようにほんの僅かな隙間のみ。そこから群青色の瞳を覗かせるのはみーくんですね。凄まじい警戒心が透けて見えますが、優衣ちゃんの制服から同校の生徒であるとわかると入れてくれます。入れてくれました。顔見せムービーはスキップ。ブックマーク完了! ついでにセーブ!

 

「巡ヶ丘学院高校2年の祠堂(しどう) (けい)です」

「同じく2年の直樹(なおき) 美紀(みき)です」

 

 青褪めた顔ながらもはっきりとした声音が芯の強さを感じさせるけーちゃんと、ボーイッシュながら良プロポーションかつ警戒心が滲んでいるみーくんのラブラブカップルにオラオラとエントリーしていきましょう。

 私は巡ヶ丘学院高校3年の千翼優衣! 全ての攻略可能キャラクターを生存させる女だ!!

 

 実際はぽそぽそとコミュ障を遺憾なく発揮し短く自己紹介を済ます優衣ちゃんですが、3年? 年下かと思った、と素直な感想を言われるのに、ちょっと不満げにします。でもそれオブラートに包んでると思うんだよね。高校2年である彼女らと比べても頭半分、下手すれば一個分低い優衣ちゃんはどう見積もっても中学生かそれ以下にしか見えません。しかし年配。二人はしっかりと敬語で接してくれます。人間の鑑がこの野郎……!

 

 自己紹介を終えた事でチャプター1が完了し、評価が出ます。その間も時間は止まらないので妙な動きはしないこと。異常な行動は彼女達の警戒心を上げ、友好度や好感度に響きます。結果は……当然のSランク。

 

 

 

LEVEL UP

 

 はいレベルアップ。得られるポインツは体力・精神・知力・筋力・俊敏に振れます。知力と俊敏に振っておきましょう。

 ノータイムでチャプター2が開始されます。タイトルは"生存"。

 生きるというシンプルな目的のために動いていきます。

 

 さて、雑談タイムです。チャプター2までの自由時間の間にできる限り二人に話しかけて好感度を稼いでおきましょう。これを怠ると一度部屋を出ると二度と入れて貰えなくなったりします。無情、おお無情。

 部屋内の「水(500ml)」と「フレーク」を回収しておきます。棚から「小物」を一つと緊急回避用の「ボールペン」を入手。裏側・隙間に落ちている装備品の「果物ナイフ」を手に入れて……物色はこれくらいでいいですかね。あまり持ちすぎても動きが鈍りますし、二人を無視し続けると不信感を募らせてしまいます。

 

 手に入れた果物ナイフですが、今は装備しません。好感度の低いキャラの前で武器を持つなど自殺行為以外の何物でもありませんからね。目の色が変わったみーくんに言葉の弾丸を撃ち込まれて殺されてしまいます。

 

 アイテム整理ついでに所持品の確認をしましょう。おっ、飴持ってますね。みーくんにあげましょう。懐いてくれよー、たのむよー。

 

「ありがとう、ございます……」

 

 うーん、このなんとも言い難い顔。警戒度は下がっているとはいえ完全には解かれていないのが露骨に出てますね。わかりやすくてグッドです。

 接触恐怖症ゆえに渡し方が『みーくんの差し出した手の30cmほど上からぽとっと落としたのち、ばっちいものに触ったかのように胸に手を掻き抱いて後退する』というムーヴのせいでもありそうですが。好感度プラスされてるこれ? されてない? されてる?

 お礼は言ってくれているので上昇していると信じましょう。

 

 さて、この警戒心バリンバリンのみーくんを攻略するためには、まず彼女の大親友であるけーちゃんを攻略する必要があります。厳密にはみーくん攻略に圭の攻略は不要ですが、断然こっちの方が早い。将を射んと欲すればまず、ですよ、先輩。

 

 空腹値・精神値微回復兼友好度微上昇の効果を持つ飴はもう使っちゃったので会話での友好度上げをしていきましょう。

 二人はどういう集まりなんだっけ?

 

「えっと、買いたいCDがあって……それで美紀と」

 

 自然な流れで二人がここに来た話を聞けましたので冷やかします。

 へー、デートかよ。

 

「違います!」

 

 ズバッとみーくんが切り込んできました。おっと、そんな大声出しちゃうと優衣ちゃん泣いちゃいますよ。いけませんねぇほらほら怯えちゃってます。みーくんやめちくり~。なお無害アピールにより彼女達の警戒心がガクッと下がって友好度を上げやすくなりました。だから、冷やかす必要が、あったんですね。

 

 この小さく怯えがちで控えめ(胸部)な先輩の意外とお茶目でとっつきやすそうな言動を目の当たりにしたみーくんは、まったくもう、と溜め息を一つ、腰に手を当てます。立ち方に気の緩みが現れ始めましたね。だいぶ警戒が解けてきた証拠です。

 

 さて、本来これだけ会話すれば彼女達の友好度が1段階上がる上、パンデミック開始からこの籠城部屋に至るまでに削られた優衣ちゃんの精神値も完全に回復しているはずなのですが、おっかしいなー減ってますねぇ。なんだろうこれ……会話によって精神値が減るようなクソバッドステータスなら選択肢が狭まって良い会話ができないはずだからそれじゃないし、うーん……?

 

 ……。

 あっ、これあれですね!

 見てください。現在会話を行っておらず、身体的接触もありません。にも関わらず精神値が微減していっています。進行形ですね。ですが方向転換して壁を向くと……減少しなくなりました。で、二人に視線を向けると……減ります。

 えー、おそらくあれっすね。精神異常の[食人衝動]っすね。たぶんそれです。空腹ゲージも微減してるし。ん? 壁向く必要はなかったね。

 

 やったぜ。

 

 何喜んでるんだとお思いでしょうが、このバッドステータスは単独行動をするプレイヤーにとっては良スキルになります。字面は凶悪ですけど。

 

 この精神異常にかかっていると生きた人間を視界に入れている間空腹ゲージの減りが早まります。

 それ以外の状態だとやや減速するので、生存者数の少ないモールで長時間物資の調達に動けるし、人を視界に入れる時はほとんど食事の時間に近いので減るのが早まっても回復が勝るので問題ないです。

 

 つまり行動を阻害する食事系アイテムをあまり持たずに探索ができるようになるんですね。ステータス上多く持てない緊急回避用のアイテムを余分に拾っておけばもしガバッても取り返しがつくようになります。いいぞーコレ。

 

 しかし優衣ちゃん、デバフまみれですね……ロジカル思考による精神回復と物資管理が得意なみーくんとフィジカル全開前向き思考のけーちゃんとは食い合わせが悪く、お荷物間違いなしです。

 ですがご安心を。実は優衣ちゃんが発症した接触恐怖症、これは、実は最初の質問の際に意図的に取ったものだったのです。な、なんだってー!?

 

 理由は二つあります。

 

 まず第一に、タイム短縮のためのイベント潰し。

 リーダー君が生存者を纏め、牽引していくとなると女子供は守る対象として行動を制限されてしまいます。それでは当然ロスですし、彼らが生きていると学園生活部が「えんそく」に来てくれないという特大のデメリットがあります。

 なのでリーダー君にはさくっと犠牲になってもらい、タァイム短縮です。かしこーい。

 

 それからもう一つですが……役立たずでどんくさいお荷物の優衣ちゃんですが、ハンデがあるんだよってのを免罪符にして寄生するんですね。味方になり得るキャラは基本的にハンデ持ちに優しくしてくれます。ゲーム的な救済措置なんでしょうね。リアリティを求めて快適なプレイができずクリアできないなんてゲームになりませんからね、当然です。いやまあ本当のところどうなのかはわからないんですけども。

 

 これでなんにもしなくとも学園生活部が到達するまで優衣ちゃんは五体満足で生きられますが……まま、そんなのは通常プレイでの話です。これはRTAですからガンガン動いていきますよー。通常プレイでもじっとして動かないプレイヤーはいない? まあ……そうね。

 動くのになんで庇護下に置かれるためのバドステを取ったかといいますと、これは個別ルートのためです。

 

 めぐねえはコミュ障の優衣ちゃんに殊更目をかけてくれているので初めから友好度が高く、絶対に下がらなくなります。突き飛ばしたって嫌われませんし、刃物で切り付けたって目をかけてくれます。「大丈夫、大丈夫よ……先生が必ず守ってあげるから」とのこと。

 

 …………。

 未知のイベントや台詞を探すためだと言って外道プレイするのはやめましょう、心が死にます。カメラアングル……表情……ゲームだからと好き勝手するプレイヤーの心を確実に抉りにきます……。私はそれでマインドクラッシュされました。心のパズルは強敵でしたね。

 

 話を戻します。

 めぐねえルートに入るためには、めぐねえを生存させる必要があります。

 そのために外に出る必要があるのですが、友好度が高いとバリケードを退けるのを手伝ってくれるものの、警戒度が高いと引き止められてしまいます。説得に時間がかかるため大ロスです。

 

 ……逆じゃない? 警戒しているならとっとと出て行ってほしくならないんだろか。

 どういう心理が働いているのか私にはさっぱりわかりませんが、とにかくそういう事なのでちゃんと会話をしてみーくんの懐に潜り込んでおきましょう。けーちゃんは何もしなくとも警戒してない天使なのでノータッチで大丈夫です。とにかくみーくん、みーくんが大事です。場合によっては彼女の言動によってけーちゃんまで主人公を警戒し始めてしまいますからね。

 

「ほ、ほんとに行くんですか……!?」

 

 何かを言いたげにしながらも引き留めはしないみーくんが見られるのは初回だけ!

 次回以降部屋を出ようとするとかなりの確率で引き留めてきます。遅延行為やめちくり~。

 みーくんの脇からひょこっと顔を覗かせたけーちゃんもお見送りをしてくれるみたいです。

 彼女達を安心させてあげるためにも、強く頷いてあげましょう。

 真剣真面目に……。

 

 私は、走者だから。タイムのこと、守らなくちゃいけないから。

 

 優衣ちゃんの気迫に押されたみーくんはごくりとつばを飲み込むと、頷いてくれました。

 

「……メニュー画面を開いている間も時間は止まりませんから、気を付けてくださいね」

「見つかりそうになったら息を潜めればやり過ごせるかも。「息を潜める」のはR1ボタンを押している間できるよ!」

 

 さて、無事に外に出られました。隙間から小声をかけてくれる二人に控えめに手を振ってから歩き出します。

 

 薄暗い廊下には誰もおらず閑散としていますね。BGMすらありません。安全地帯である籠城部屋から危険地帯である外へ出たと感覚で把握できます。とはいえ、引っ張ってでも来ない限りここに「彼ら」は来ないので速やかに階下に向かいましょう。他にも部屋があるのですが、初日のうちだとほぼ確実に生存者がいて、刺激すると厄介です。チャプター1は終了しているので、残っているモブは黒い奴らばっかりなんですよ。悲しいなあ。

 ところで、優衣ちゃんがやっつけた「彼ら」の残骸はどこに消えたんでしょうね……?

 

 4階には多くの「彼ら」がうろついています。多くはぼうっとしていますが、中には移動している奴もいます。1階で脱出をはかる人達に引き寄せられているのかもしれないですね。ここまで音が届いてるはずもないから違うかな?

 同階に映画館があり、各シアターにはひしめく「彼ら」、または発症寸前の生存者が潜んでいますが、行っても得はないどころか徘徊する「彼ら」の数が多くなるというデメリットしかないのでスルーします。

 

 チャートによっては学園生活部到達前にこれらを解放しやっつけておくことで安全な合流ができるようになりますが、私にはその場合どうやったって彼女達の到着を察知できなかったので採用していません。

 学園生活部が「えんそく」に出るのはバンデミック発生1週間後から完全ランダムで、発生しないケースもあります。それを回避するためにもとっとと1階に急ぎましょう。

 

 道中緊急回避用アイテムである「ボールペン」を拾いつつ、邪魔な敵は物陰があればそれに沿って、視界に入らずやり過ごせそうならば「息を止める」で口を手で押さえて通り抜けていきます。

 物音に反応する「彼ら」の間近を通る場合、通常はしゃがみ移動をする必要がありますが「無音歩行」のスキルがある優衣ちゃんならば歩いていけます。スピードは段違い。要所要所で駆けて行きましょう。

 

 1階に到達しました。うんざりするくらい「彼ら」が徘徊してますね。うーん、うじゃうじゃ。

 本当は駆け抜けてしまいたいところですが戦闘力が皆無なので2~3体に襲われるだけで詰みます。ので、慎重に歩いていきましょう。1~2体は狩っておいて経験値を稼いでおきます。しかしあまり殺しすぎると優衣ちゃんが吐いてしまうので殺りすぎはNG。殺して吐くを繰り返せば精神の絶対値が増えますが、そんな時間はないのだ。

 散乱する小物などを投げて物音を立て、「彼ら」を誘導。目的地の食品売り場に急ぎます。つきました。

 

 現在生存している人達はまだ食料の回収に踏み切るほど切羽詰まっておらず、ここは手つかずです。

 足の速い食品を中心に、肉類や一部の魚類を冷凍ケースに移しておきましょう。3日後以降に持ち帰ると好感度が上がるうえに精神値を大きく回復させてくれます。その時には忘れずにガスコンロや土鍋を持ち帰りましょう。食品だけ持って行って食べられないとなると逆にダメージを与えてしまいますからね(1敗)。

 

 当然ここにも「彼ら」が徘徊しているので行動は慎重に。これみよがしに置かれている系の物は罠アイテムです。所持した状態で食品エリアを出ようとすると警報装置が作動し大量の「彼ら」を呼び寄せてしまいますから、よく説明を見ておきましょう。

 

 優衣ちゃんの筋力は初期値なのでそう多くの物は持って行けません。そして生身では持てる数も限られるので、肩掛け鞄型のマイバッグを入手します。

 回収する食品系アイテムは生で食べられる「お寿司」「お刺身」と「おにぎり」に、しょうゆにわさびに、おっ「がば飲みクリームソーダ」! 良いアイテムを見つけました。

 これはコラボアイテムの一つで、主人公含めた全員の「好きな食べ物」に分類されるため見つけたら必ず回収しておきましょう。コンパクトなペットボトルなので飲みつつ移動ができ、かつ「彼ら」を誘導する「小物」にもなります。プレゼントにももってこいの万能飲料。これさえあれば他は何もいらねぇ。

 

 といいつつ衛生系のアイテムも回収しておきます。ハンドタオルに歯ブラシ等、日常生活を維持するのに必要不可欠なものは彼女達を安定させるのには欠かせません。

 

 回収が終われば移動じゃ移動じゃ。繰り返し言いますが、このゲームで採用されているRSSは今こうして優衣ちゃんがせっせこ「彼ら」をやり過ごしている間も他のキャラが見えないところで行動を起こしているのです。

 籠城部屋では美紀と圭が飲料や食料の数を確認し未来に思いを馳せ、優衣の無事を祈っているでしょう。

 がっこうでは屋上にたてこもった生活部、もとい由紀らがようやっと落ち着いている頃でしょうか。

 

 ですので、あんまり優衣ちゃんの帰りが遅いと二人を不安がらせてしまいます。

 

 そいじゃま、やることはやったんで籠城部屋に戻りましょ。

 道中2体ほど「彼ら」を狩っておきます。注意すべき点は固まった敵に挑まない事です。今の優衣ちゃんではまだ返り討ち必至ですからね。2体くらいなら連続キルで体力が切れる前にギリギリ倒し切れますが、安定を取って1体1体確実に葬りましょう。

 

「ふっ」

 

 手始めに下り階段の真ん前に突っ立ってるのを両手でトンッと押して落とし、少し進んだところにいる壁を向いてぼーっと立っている奴の膝を蹴り込んで服を掴み引き倒し、小ジャンプして顔を踏み砕いた優衣ちゃんはそのまま何事も無く歩き出します。臆病な性格とはいったい……?

 てんてんと続く赤い足跡を残したまま5階に帰還。足跡がつかなくなるまで部屋の前でぐるぐるしてからノックして入れてもらいましょう。足跡がつく状態で部屋に入った場合は……直樹です。

 

「……! 千翼先輩!」

 

 そっ……と僅かな隙間から瞳を覗かせたみーくんが速やかに部屋の中へ招き入れてくれました。好感度足りてたようで安心です。目に見えない数値は怖いなあ。それを意のままに操るのが走者というものです。

 

「ほんとに帰ってきた……」

「外、どうでした? 誰かいましたかっ?」

 

 心底意外そうにつぶやくみーくんは放っておいて、けーちゃんに首を振ってみせます。

 入り口付近にはまだ生きている人もいたのでしょうが、そっちには行っていないので遭遇していないんですよね。落胆する彼女に、でも全部を見た訳じゃないからと慰めてあげましょう。きっとまだ生きてる人はいる。私達だけじゃないはず。

 

「そう、ですよね……きっと。……うん!」

 

 それはそうと、食料持って来たぜ。おらっ好感度寄越せ!

 

「わ、お寿司! ご飯取ってきてくれたんですか!?」

「こっちにも食べられるものはありましたけど、夕食にはなりそうになかったから、すごく助かります」

 

 肩掛け鞄を渡して一歩引く優衣ちゃんに二人の輝く目が向けられます。

 まだ実感は薄いとはいえ、恐ろしい外に出て無事に戻ってきたうえに食料まで持って来てくれたのだから、英雄みたいに感じてるのかもしれませんね。ほんとに表情が細かくて、持ってきてよかったって心から思えます。

 

 ふふん。私は走者ですからね。これくらい当然です。

 

「……! そう、ですね……」

 

 無邪気に喜んでいた二人ですが、優衣ちゃんの言葉にみーくんの顔が曇りました。なんでしょうねー。

 原因は不明ですが、なんか毎回このタイミングでみーくんが沈むんですよね。他の人のプレイ動画を見た限りではそういうことはないみたいなんですが……私の言葉選びが悪いんですかね?

 

「それじゃあ、いただきましょうか」

「千翼先輩、ありがとうございます!」

 

 さっそく食事の時間としゃれこんで、三人輪になってお寿司をつつきます。

 しっかり割り箸も回収してきました。抜かりはありません。素手で食べる事になれば彼女達に非常時である事を強く感じさせて精神値の回復が少なくなってしまいますからね。特定の食べ物以外はお箸等を使わないと回復値にマイナスがついてしまうんですよ。寿司くらい素手で食えんもんかね。

 

「う、わさびだ……」

「圭はわさび駄目なんだっけ」

「んー、辛いの全般が駄目かな……」

 

 細々としたキャラ背景なんかを聞けるのもこのゲームの魅力ですね。

 みーくんからお水を受け取って呷る圭ちゃんの嗜好はしっかり把握してますが、これが大変えっ……貴重なシーンなので敢えてそういったものをチョイスしました。はえー、喉の動き細かい……。

 しかしあんまりじろじろ見ているとせっかく回復するはずの精神値が削られてしまうので、手元に視線を落として食事を続けます。食事を……食事……。

 

「……先輩? 食べないんですか?」

 

 割ったお箸を手にしたまま動かない優衣ちゃんに気付いたみーくんが問いかけてきますが、優衣ちゃんは食欲がないとだけ言って食事を取りやめてしまいました。ああー、貴重な回復の機会が……。

 ま、まだ初日ですし体力・精神・空腹ともに余裕があります! 問題はない!

 

 ……。

 右側にみーくんの苦手な食べ物を持ってきた際の反応を載せときますね(卑劣な囮戦術)。

 

 

 食事が終了し、歯を磨き、タオルで体を拭くだけのお風呂とは程遠い作業をこなし、あとは寝るだけです。

 なぜか二組ある布団のうち一つを優衣ちゃんが占領し、二人には一つの布団を使ってもらいましょう。

 

「いえ、私はソファで……」

 

 だめです。

 

「な、なんでですかっ!?」

 

 だから非常時を想起させる行動は駄目だっつってんだルルォ!?

 

「そうだよ美紀! せっかく布団があるのにソファで寝るだなんて……一緒の布団に入るのは、いや?」

「そういう訳じゃ……。そういう言い方は、ズルいと思う」

「じゃあいいんだよね! おいで!」

 

 一度はソファに移動したみーくんですが、ぱんぱんと自分の横を叩いて誘うけーちゃんには逆らえず渋々布団にインします。ああ^~。

 ま、優衣ちゃんは生存者見ているとお腹が空いてしまうので反対を向いてるんで、声しか聞こえないんですけどね。

 

「……やっぱりソファで寝る」

「ああん、美紀~」

 

 あっこら、だめだぞ! だめってイッテルデショ!

 ……だめみたいですね。みーくん、ソファに戻ってしまいました。

 この辺にぃ乱数に愛されない走者、いるらしいっすよ。

 

 しょーがないので後は寝るだけ。

 ……ではないですね。

 

 みなさんお待ちかね、きららチャンスのお時間です。

 

 1日の終わりに発生するこれは、救済措置的立ち位置のシステムです。

 ミニゲームを行い、その結果により現在味方状態のキャラクターとの友好度が上がります。

 下がる事はないので張り切っていきましょう!

 

 今回のミニゲームはこれ! ババ抜き!

 お相手はみーくん・けーちゃんの二人で、最終局面で始まります。

 私くらいになると1抜けは容易い……む、出番は私が最後ですか。いいでしょう、さ、引くがいい。

 

「いっちぬっけぴ~!」

 

 くっ、けーちゃんがあがってしまいました。ですが勝負はこれから!

 さあみーくん! 引け! このジョーカーをよォ!!

 

「あ、あがりです」

 

 なんだとォ~~!?

 

 

 はいっ☆

 夕焼け空を背景に優衣・美紀・圭の三人が手を繋ぎ、笑顔で大ジャンプ。

 チャンスは逃しましたが、どの道稼ぐことに変わりはないので大丈夫です。

 

 味方を増やせば増やした分だけこの場面での人数が増えていきます。全員生存ルートでのきららジャンプは圧巻の一言。みんなも、見よう!

 

 という訳で今日はここまで。ご視聴、ありがとうございました。

 

 

 ……くそっ。

 

 

 

 

 あの時。

 街道で見たニュースの内容を、もっと気に留めておくべきだったんだ。

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

 熱い。

 動き続ける全身が際限なく熱を生み出して、体中が燃えているみたいだった。

 息を吸い込むのもままならないまま、手を引かれて走り続ける私の頭の中は、空っぽだった。

 

「美紀! 美紀、しっかりして!」

「はぁっ、は、ふっ……!」

 

 それでも名前を呼ばれると意識が浮上して、視界がはっきりしてきて……薄暗い廊下を駆ける圭の姿が見えた。

 足がもつれないよう強張る体をなんとか制御しつつ、やや顎を引いてめいっぱい目を開けば、ちらちらと私を窺いながら走る圭のその先にも誰かが走っているのを見つけた。

 

 何故?

 一瞬現実がわからなくなる。どうして私達はこんなにも苦しくなるまで走っているんだろう。

 その答えは不穏な空気を伴って背後から(せま)っていた。

 

「うわ、うわ、うわっ痛っ、ぎゃあああ!!」

「っ!」

 

 焦燥を含んだ声が悲鳴に変わり、その断末魔の叫びに身が竦む。

 勝手に縮こまろうとする体を無理矢理に前へ動かせば、圭と横並びになった。

 顔を窺う余裕はないけど、握り合った手が、ぬるぬるとして外れてしまいそうなほど汗に濡れていて、それでもなお痛いくらいに掴み合っている手がお互いの感情を伝えていた。

 

(なんで、なんで、こんな……っ!)

 

 絶え間なく漏れ出る大きな吐息の中に思考が浮かぶ。

 疑問。今考えるべきはなぜこんなことになっているのか、じゃない。

 どうしたら私達は助かるのか、だ。

 

(考えろ、考えろ直樹美紀!)

 

 ぐるぐると出口のない迷路に閉じ込められそうになる思考を回転させて打開策を練る。

 そうしなければ、遠からず私達は今しがた先を行っていた女性が足をもつれさせて倒れた、その先に待つのと同じ末路を辿る事になる。

 

 階段を駆け上がる。膝で叩き上げた制服のスカートはいつになく分厚く感じられて、重かった。

 駆け下りてくる人の横を通り過ぎ、圭と手を引き合って減速しないまま回転し昇っていく。

 滑り落ちてきた「なにか」に気を取られないよう強く瞬きをして、衣服の売り場へと出た。

 

(どこまで逃げればいい!? どこか安全な場所を……!)

 

 走っているだけじゃそのうち体力が尽きて追いつかれてしまう。

 かといってあまりに粗雑な隠れ場所を選べば、そこが墓場となるだろう。

 いくら必死に考えても何も思いつかない。このリバーシティ・トロンには何度か足を運んだことはあるが、その全てを把握している訳ではないのだ。

 

 試着室の傍を駆け抜ける。揺れるカーテンの下から投げ出された足がびくびくと痙攣しているのを視界の端に映してしまい、ぎゅうっと心臓が委縮して、針で刺されたような痛みに顔が歪む。

 荒い息の中に悲鳴にもならないか細い声を混じらせる圭の手を強く引いて駆け続ける。

 ここもだめ! 向こうもだめ! 服の隙間も、棚の上も、試着室も、きっとトイレだって安全じゃない。

 

 私達は再び薄暗く続く廊下へ足を踏み入れた。

 でももう、階段には向かえない。屋上にあたる駐車場にはここの階段からはいけないし、そもそもそこに絶対安全な隠れ場所なんてない。

 だからってこの廊下の先に進んでも、追い詰められて終わりだ。

 

「っ、美紀っ!!」

 

 ほとんど悲鳴に近い圭の声にはっとする。前方、右側の扉から出て来ようとしている「なにか」から逃れるように体をよじって、圭に支えられるまま横を抜けた。

 

「どこか部屋の中に!」

 

 身の毛のよだつ危機は、そのまま天啓になった。

 私達も部屋の中へ!

 それだけを考えて、次に目に映った扉へと飛びついた。

 

 幸い、鍵は開いていた。

 幸い、中に「なにか」はいなかった。

 幸い、私達の力でもすぐに動かせてバリケードとなるダンボールがいくつもあった。

 

 多くの幸運に助けられて、私達はなんとか命を繋ぐことができた。

 それでも、危険が去ったとは言えない。

 今すぐにでも体を投げ出して酸素を取り込みたがっている体に鞭打って数段詰んだダンボールに衝撃が走る。

 さっきの「なにか」が扉に取りついたんだ!

 

「っう、くっ……!」

「うう……!」

 

 言葉もなく私達は全力でダンボールを押し始めた。

 これが崩されれば終わりだ、なんて具体的な事を考える余裕も無く、思考する力さえ全部つぎ込んで押し込んだ。

 

 いったいどれくらいの間そうしていただろうか。

 情けない感情に心が支配されてまなじりに涙が滲みだしたころ、突然ふっと腕にかかる負荷が無くなった。

 恐る恐る腕を離しても、もうダンボールは揺れさえしなくて、その向こうの扉に恐ろしい影は映っていなかった。

 

 

──あけて

 

 

「えっ?」

 

 くぐもった、それでいて透き通るような声が聞こえて耳を押さえる。

 思わず圭と顔を見合わせた。圭も同じように片耳を押さえて不安げにしていた。

 

 

──もういないよ。あけて

 

 

「どうしよう美紀、あ、開ける……?」

 

 それは間違いなく生きている者の、人間の声だった。

 声音からいって女の子。おそらくは、子供。

 

 思いきりぶんぶんと首を振る。

 だめ! 罠だ!

 ……。

 罠ってなんだ。混乱してる……ごちゃごちゃと乱れる頭に、私はなんと答えていいのかわからず沈黙を保った。

 

 そうすると圭も何も言わず、ただダンボールに体を預けて、息を潜めて扉の向こうの存在を確かめようとしていた。

 それにならうように私も扉の向こう側を把握しようと意識を向ける。

 ……かすかに感じる気配は、恐ろしくもなんともない。

 でも、それがおかしい。そこにはさっきまで「なにか」がいたのに、彼女がいるのはおかしいんだ。

 だから罠だと感じた。だから、考えるより先に心が拒絶した。

 

 しかし時間が経つにつれ、息も整ってくると正常に思考する余裕が戻ってくる。

 彼女の言葉を信じるのなら、「なにか」はいない。なら彼女がそこで安全にいたって何もおかしくはない。

 でもそれがずっと続くとも限らない。私達が扉を開けない限り、次の瞬間には命を落としてしまうかもしれない。

 

「美紀……」

 

 同じ考えに至ったか定かではないが、圭が訴えるように私を見上げていた。

 顎に当てていた指をそのままダンボールにかける。

 これを退かすこと。彼女を招き入れること。利益と不利益を天秤にかけてしまう自分に嫌な汗を掻きながら、よし、と自分を納得させる。

 

 人命は、何より優先すべきだ。それが道徳的人間のする行動であり、ひいては私達の正気を保つことに繋がるだろう。

 

 協力してダンボールを退かし、そっと扉を開ける。

 本当はもっと普通に開けてあげたかった。でも万が一を考えると警戒してしまって、どうしたってほんの隙間程度しか開けなかった。

 

 まず見えたのは、制服だった。

 見覚えがあって身近なもの。私達と同じ学校の制服。

 未知の存在に対する最大の警戒心はそれでいくらか剥がれ落ちて、外に他に何もいないのを素早く確認してから扉を開け、少女を招き入れた。

 

「巡ヶ丘学院高校……3年、千翼優衣……です」

 

 その子は、なんというか……やや俯きがちに微かな声で氏名を明かす彼女の髪の合間から覗く金色は、厭世的とでもいうべきだろうか。どこか昏い目をしていて、えっと、大人しそう……そう、大人しそうな、小柄な女の子だった。

 

 癖のある髪は肩にかかるくらいのボリュームかと思ったが、白色のリボンで後ろ髪を纏めた長髪のようだ。頭頂部から一房伸びて垂れる毛は寝癖だろうか。

 制服の上に一枚羽織った紫色のカーディガンは着ているというより着られているようで、より幼さを際立てていた。けど……どうやら上級生らしい。

 

 私達も自己紹介をすると、彼女はほっと小さく息を吐いて、同時に体を震わせた。

 「小動物染みた」だとか「庇護欲をそそられる」といったような言葉を感じさせる様子に圭はすっかり絆されたようで、親しい相手に向けるような軽口を叩いていた。

 

 同じ学校に通う人間であり、年も近く、性別も同じで見た目からして警戒する要素はない。頬を膨らませて圭を見上げ、視線が合うのを厭ったのか慌てて顔を伏せる仕草にはかわいらしささえ感じた、が……。

 

 それでも、どうしても私は彼女を……千翼先輩を完全に信用できなかった。

 崩れ切らない警戒心に私自身ショックを受けてしまう。

 

 慎重な性格だとは自覚していたけれど、粗を探すみたいに彼女を観察してしまうくらい、私は人間不信だったのだろうか。この非常時で剥き出しになった、これが私の本当の性格?

 我がことながら呆れてしまう。どうして素直に信じることができないんだろう。こんな状況だから仕方ないと納得しようとしても、こんな状況でこそ信じなければと自分を責めずにはいられない。……ストレスを感じている場合ではないというのに。

 

 けれど、何か……そう、致命的な……見落としをしている気がしてならなくて、ダンボールを積み上げ直している最中も、一息つけるようになった後も胸の奥の焦燥感は消えなかった。

 何を見落としている? それを究明しない事には落ち着けそうもない。

 視界の端に置くつもりで千翼先輩を探せば、思いのほか近くにいた。やましい企みを見透かすような目が、恐ろしかった。

 

「これ、あげる……」

 

 囁くような声量で話しかけてきた千翼先輩は、私が目を向けると露骨に目を逸らす。人と目を合わせられないタイプなのだろう。……わかっていてあえてそうした。……あまり見られていたくない。心底失礼だとは思うけど、どうしようもなく背筋が粟立つから。

 

 何かと思えば、スカートのポケットに入っていたらしいアメをくれた。

 それはそうと、どうにも接触を嫌がっているような動きだ。それを不審に思えど、なぜだか否定的な感情は浮かばなかった。彼女だって私達を警戒しているのかもしれないし、精神に何か異常があってのことかもしれない。だとしても、積極的に交流し壁を無くそうと働きかける彼女の、その、なんというべきか、『生きようとする強さ』に感心してしまった。

 

 人と関わるのが苦手そうなのに、それではきっとこの先生きていけないだろうと私達に話しかける心の強さは見習いたいものだ。なんとなく小学1年生の頃に最上級生に感じていた『大きさ』を思い出した。年上なんだな、と実感したというべきか。

 頻繁に胸のクロスを握り締める動作が宗教的なものを感じさせていちいち引っかかるけど、他人の嗜好をとやかくいう意味はない。

 

 いろいろ分析……と言うのは烏滸がましいか。千翼先輩の事をはかっていたものの、私達が二人で買い物に来たことを「……デート?」とからかうくらいの余裕というか、思っていたより暗い性格ではなさそうな事にひどく安心した。

 

 悪い人じゃなさそうだってようやく自分を納得させられた。……良かった。このまま不信感を募らせて後戻りできないところまでいってしまうんじゃないかって、それが一番怖かった。他人との交流を初めて難しいと感じたかもしれない。ううん、元よりあまり接するタイプじゃないから、気疲れしてしまったのを大袈裟に感じてしまっていただけだったのだろう。きっと。

 

 だから、大丈夫。この人とはやっていけそう。

 一緒の空間で生活できそう。

 パーソナルスペースに招き入れられそう。

 

 ……そう思ってみて、少しの不快感も浮かばない事に、小さく息を吐いた。

 

 なんとか仲良くやれそうだと思うけど、ただ、彼女の気の弱さは予想以上かもしれない。少し語気を強めただけで見てわかるくらい震えていた。胸に押し当てた、クロスを握る手が白むくらいに。

 単に大きな声が苦手なだけか。……家庭環境がどうこうと詮索するのはよそう。これからは努めて声を抑えて話せばいい。

 

 

 自然と会話が途切れると、立っているのもなんだからと私と圭は一度腰を落ち着ける事にした。

 部屋内を見て回るのが先決なのはわかってる。でも、動き続けるのは精神的に辛い。体力は回復してきているが休憩を挟むべきだと圭を説得した。またいつ扉が揺れ出すかもわからないのだから、体力は残しておくべきだ。

 

 しかし千翼先輩は座る気はないようで、部屋の中をうろついては物色し始めた。

 それでわかった事がいくつかある。この部屋は警備員か誰かの寝室だったらしく、寝台もあれば多少の飲食物もあった。

 その一部をポケットにつっこむ千翼先輩に(自分だけ……)と思ったものの、そうやって生存に必要な物を確保するのは当然だと頭を振った。なくなったと思った警戒心は私の中にこびりついているようだ。千翼先輩の言動を穿って見てしまうのをやめられない。

 野暮ったい動作を「かわい」と称して眺めている圭の気楽さを見習いたい。本当に。

 

 視線だけ巡らせれてみれば、トイレだって個室としてあるようだし……水も出るかもしれない。

 缶詰や何かもあるといいのだけど……。

 そうでなかった場合の事を考えると恐ろしくなる。

 物資の調達。生きるためにやらねばならない多くのこと。外の惨状。未来。

 

 自分を抱きしめたくなるくらいに心が震える。息苦しくてたまらなくなる。

 ふと床についていた手に重ねられるものがあって、見れば、圭が微笑んでいた。

 大丈夫、きっとなんとかなるよ。……そういったポジティブさに溢れる目を見ていると、不安や恐怖といった負の感情が溶けて消えていくようだった。

 

 今日は圭に助けられてばかりだな……騒ぎが起こった時だって、手を引いてもらわなければ、きっと今頃……。

 

「外、見に行く」

 

 突飛な事を言い出す千翼先輩を見上げる。

 外を見に行くとは、すなわち物資の調達に行くということだろう。どうなっているのか、何が起こっているのか、救助は来ているのか、生きている人はいるのか。知りたい事はたくさんある……でも、まだ、そんな事しなくたって生きていられるのに、わざわざ今すぐ行かなくたって。

 

 制止の言葉を口にしようとして、彼女がてきぱきと動いていたのを思い出す。

 最初から決めていた事なのだろう。不安に駆られてとか、突発的な話では無さそうだから、私が何か言ったところで「じゃあ行くのやめる」とはならなさそうだった。

 

「私は、3年生だから。貴女たちのこと、守らなくちゃ、だから」

 

 扉の前に立った彼女は、まっすぐ私を見上げて……視線は、合っていなかったけれど。

 はっきりとした口調でそう言った。

 

 どうして?

 学年が上だというたったそれだけの理由で、どうしてそこまで?

 よりにもよってあなたのようなタイプの子が、どうして覚悟を決められるっていうんだ。

 

 胸の内を掻き毟られるような不快感に、それでも私は頷いて、彼女の外出を肯定した。

 私が後ろ向きな事しか考えていない間も、私達のためにと彼女は動いていた。

 きっと圭ではなく私にアメをくれたのも、私がより沈んでいたのを察しての事だったのだろう。

 

 ……何も言えない。言ってはいけない。

 

 そんな責任、背負ってくれなんて頼んでない。

 突き放すような言葉も浮かんだけど、口に出そうだなんて思わなかった。

 弱さゆえ、だ。心の弱さ。

 

 頼りたい。こんな状況なんだ。引っ張ってくれる人についていきたくなるのは当然じゃないか。

 廊下へ出てしまった彼女に一言ばかり投げかけるのが精いっぱいの私は、反対に自分を慰めるための言葉はいくつも浮かべられた。

 

「……」

「……」

 

 固く閉じられた扉の前に、もう一度ダンボールを積み重ねようという考えは起きなかった。

 ただ、圭と二人で立ち尽くして、じっと扉を見つめていた。

 

 

 

 

「……美紀は、それでいいの?」

 

 廊下の空気が入り込んだためか、やけに重い空間に身動ぎ一つできずにいると、おもむろに圭が問いかけてきた。

 意味はわかる。千翼先輩に任せっきりで、頼りきりにして、それでいいのか?

 よくは、ない。でも。

 

「……ごめん」

 

 答えるよりはやく圭が言葉を取り下げたため、開きかけた口を閉じるほかなく、一度形になったはずの言葉は霧散してしまった。

 

 

 

 

 妙な空気を振り払うために、私達は部屋の探索に乗り出した。

 扉にはバリケードを築いていない。

 何を馬鹿なと思うかもしれないけれど、私達の感情にけじめをつけるには、今はこうするほかなかった。

 

 何か起こってからでは遅い。きっと後悔する。そうなった時にはもう命はない。

 ……そんなの、わかってる。でも千翼先輩はもっと危険な場所にたった一人で行ってるんだ。

 ここで初めて出会ったばかりの私達下級生のために。

 

 その帰りを拒絶するような形となるバリケードを築くという行為はとてもじゃないができない。私達がすべきなのはこの部屋を守って帰る場所を確保しておくこと……私達が無事でいることなのは理解していても、どうしてもそれはできなかった。

 私も圭も何も言わなかったけど、考えることは同じだったのか、バリケードについては一言も発さなかった。

 

「電気、生きてるみたい」

 

 千翼先輩が何故か目もくれなかった小さな冷蔵庫は、開いたドアから冷気を漂わせていた。中には未開封の清涼飲料とゼリー等が入っていた。今はまだ電気が来ている。それがいつ止まってしまうかは予測できないが、数日と持たないだろう。

 

 ダンボールの中は期待通り多くの水と食料だった。他はファイルだとか古い業務日誌らしきもの。食べられるものがコーンフレークしかない。

 牛乳はないので水でふやかして食べるか、そのまま頂くしかないのだけど……考えるまでも無く味気ないだろう。お腹は満たせるかもしれないが、考えただけで気が滅入りそうだ。三食それは、きつい。

 

 四の五の言ってられない。飢える心配をしなくていいのだと前向きに考えよう。

 これらの数を把握して、三人で分割した場合何日持つかを考えなければならない。

 ……後回しにするべきじゃないけど、今やる気にはなれなかった。

 

「水も流れるね……」

 

 個室トイレには洗面台といくつかのロールがあった。備え付けのゴミ箱は空で、セットされたトイレットペーパーも大きく、誰かが生活していた痕跡がない。

 それは精神的に助かる要素だった。たとえば年の離れた異性の生活の名残を感じてしまえば、私達の気分は落ち込むだろう。幸いにして二組あった布団は清潔そのもので、うっすらと洗剤の香りがするくらいだった。

 

 後回しにしていた飲食物の管理を手分けしてノートに記し終えたころ、千翼先輩が帰ってきた。

 控えめなノックの音に二人して飛び上がってしまった。先輩の事を考えると際限なく不安が膨れ上がってしまうので意識の外に追いやっていたから尚更だ。

 

「ただいま」

「おかえりなさい!」

 

 習慣づいているのか、意識してか挨拶する千翼先輩に圭が元気よく返す。

 先輩の装いは()()だけ変わっていた。

 目につくのは靴……いや、簡易な手提げ鞄だろうか。エコバッグと呼ばれるいくつかある種類の内の一つは、1階の食品売り場で見かけたことがある。つまり先輩は、そこまで足を運んだのだ。入っているのは当然……。

 

「たべて」

 

 パック寿司を覗かせてみせた先輩は、それを戻した鞄ごと差し出してきた。私が受け取る直前に手を放すと、その手を庇うようにしながら後退した。

 やっぱり他人に触れたくないみたいだ。まるで拒絶されているみたいだけど、不快感はなかった。むしろ申し訳なくなってしまう。

 外は、危険なんだ。それを……先輩とはいえ、私よりも小さな子に任せるなんて。

 動きを見ていればわかるくらい、先輩は運動が得意ではなさそうだった。部屋の中を調べている時の動作からしてみても……。

 

 それなのに、私達のために食料を取って来てくれた。

 それなのに……。

 

「先輩だから。たよって、ね?」

 

 後ろ向きの思考に陥りそうになっていた私の顔に何を思ったのか、念を押すように先輩は言った。

 

 ……そうでもしないと、私達に排除されると思っているのだろうか。

 有用であると示さなければ生き残れないと、そう思っているのだろうか。

 どこか必死で、急いていて、それでいて確かな優しさも感じる千翼先輩の声。

 

 視線が合わないまま微笑んで見せる彼女に、私は頷くことしかできなかった。

 

 

 食事の時間、千翼先輩は手を付けないまま箸を置いてしまった。

 食欲がわかないらしい。……靴についた、もう乾いている血が原因だろうか。

 この部屋を出る前の先輩の靴がどうだったか覚えてないが、外に「なにか」はいなくて行き来が簡単だったとは思わない方が良いだろう。

 

 先輩がどうやって「なにか」をやり過ごしたのかも考えない方が良い。……今は食事に集中しよう。

 

 先輩が持って来てくれた歯ブラシ等で歯磨きができた。一応洗面台に都合よく三つの歯ブラシはあったのだけど、開封済みのそれを使わなくて済んでほっとした。

 他人の物を使うのと、水だけでゆすぐのはどちらがマシだろうか。……どちらもごめんだった。

 

 圭が見つけ出したトランプで遊ぶ。先輩との距離を縮めるのが目的だろう。私達はまだ出会って1日目だ。こういう時間はいくらあってもいいと思う。

 初めこそ『こんなことをしていていいのか』という自問があったが、意外と負けず嫌いなのか何度も再戦を望む先輩と白熱の勝負を繰り広げているうちに忘れてしまった。やっと精神的な余裕を取り戻せた気がする。……そうすると眠気を感じ始めるのだから、人間っていうのは案外強い種族なのかもしれない。

 

 22時頃、布団を敷いて眠りにつく事にした。

 先輩の言うところによると、私達がいる階には「なにか」はいなかったらしい。

 それでも念のため見張りを立てようと提案しようと思っていたのだけど、()()話をしているうちにみんな眠ってしまった。

 

 まったく、先輩はどうしてこう、囃し立てるような事を言うのだろうか。

 圭も圭だ。流れに乗って一緒の布団で寝ようだなんて、恥ずかしい……。

 ソファがあるんだから三人寝るスペースはある。先輩は疲れているだろうから布団で寝てもらわないといけないとして、私はソファで寝るのも布団で寝るのもそんなに変わらないからここでいい。

 ……。そのうち、なんだかんだ言って布団に引きずり込まれそうな気がする。

 

 

 

 

「……」

 

 不意に意識が浮上した。

 薄目を瞬かせると、暗い部屋の天井がぼんやりと見えた。

 固まった体を解すように寝返りを打つ。……狭い。ああ、そうだった。ソファで眠ったんだった。

 

 強い眠気の残る頭の奥で、落ちて物音を立てては「なにか」に気付かれてしまうかもしれないし、圭たちを起こしてしまうと考えつつ、なんとなしに目を向ける。

 

「──……」

 

 ぞっとした。

 室内に「なにか」が入り込んできていた。

 

 ……違う。揺れるシルエットは小柄で、それはきっと、千翼先輩だった。

 先輩は、布団から抜け出して座っていた。圭のすぐ傍。背を丸めて、顔を覗き込むように……非常に近い位置で、じっとしていた。

 

 何を、してるんですか……?

 

 かけようとした声は出なかった。

 微かに輝いて見える金の瞳は前髪に隠れていても、一心に圭の寝顔を見つめているとわかってしまったからだ。

 自分でも理由はわからないまま息を潜める。起きているのを気付かれてはいけない気がした。

 

 ろくに酸素を取り込めないままで苦しくなってきた頃に、先輩が何か呟いているのに気が付いた。

 聞いてはいけない。本能的な忌避感がそう呼びかけてくるのに、部屋はとても静かで、一度気付いてしまえば耳を塞がない限りは聞こえてしまいそうだった。

 そして実際に、先輩が発する声を意味持つ言葉として捉えられた。

 

 聞かなければよかった。

 無理矢理に目をつぶって眠ってしまえばよかった。

 

 

 

「おなか、すいた……」

 

 

 微かな水音の混じる声は、耳の奥にこびりついて……。

 

 

 ………………。

 

 

 窓の外が明るくなるよりはやく、千翼先輩はもぞもぞと自分の布団に潜り込んで、ほどなくして寝息を立て始めた。

 ……。

 体にかけていた毛布を引き上げて頭まで被る。

 

 今はちょっと、何も考えたくなかった。

 




後手後手に回りすぎて旬を逃し、なんの真新しさもない小説になってしまった
こんなんじゃエンターテイメントになんないよー

TIPS
・千翼優衣
体力:だめかも
精神:だめかも
知力:だめかも
筋力:だめかも
俊敏:だめかも
身長:だめかも
体重:だめかも
胸囲:だめかも

・無音歩行
どのような場所でも歩く際に音を発しない
レベルが上がると走っても音がしなくなる

・接触恐怖症
生存者に触れていると精神値が減少する
最初の質問で「好きな人」に挙げた人物に触れているとかなり速く回復する

・食人衝動
生存者を視界に入れていると空腹値と精神値が微減していく
ハンバーガーを美味しく感じなくなる
ちょっとだけ人が食べたくなる
最初の質問で「好きな人」に挙げた人物を食べたくてたまらなくなる

・千翼優衣
44/100

・祠堂圭
88/100

・直樹美紀
31/100

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