【完結】がっこうぐらし!モールスタートめぐねえエンドSランク縛り【MGNEND】   作:月日星夜(木端妖精)

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いよいよ初投稿です。



10最終日ラッシュ1

 おはようございまーす。朝でーす。

 信頼イベを起こさなきゃいけないのになかなか好感度が稼げず顔が梅干しになるRTAの続き、はじまるよ。

 

 

 とうとう迎えた最終日、空模様はしっかり雨。今はまだ弱くぽつぽつと降っているだけですが、やがて本降りになるでしょう。雷鳴が轟く前に迅速に行動し必要な要素を全て満たさなければこの宇宙は終わりだ。

 

 とろい動きで布団から抜け出すと、案の定部屋の中には誰もいなぶぶぶぇっべべべ。

 

「わふわふわふ……」

「っ、っ、」

 

 太郎丸顔舐めスギィ!

 

 今日も一人かと思いましたが、なんと太郎丸がいてくれました。嬉しい!

 でも布団から抜け出すのを妨害するのはやめてほしかったですね。おタイムの破壊者め。

 

 優衣ちゃんは驚き戸惑っている……じたばたと暴れる手足が弱っちくて笑っちゃうね。

 

「わぅーん」

 

 ふてぶてしい顔だなぁ……。お尻ぺしぺしして退いてもらいましょ。THE・起床!

 さて、布団はもう使わないので放置してエコバッグを背負い、ふらふらっとしつつアイテム欄を見ておきます。

 サバイバルナイフの存命を確認!

 

 空腹値が絶妙に尽きそうなのでガムを口に含んでおきます。これも久し振りですね。

 ところで……そのガム……開封したのはいつですか?

 

「いこ、たろー」

「わん!」

 

 部室へ移動します。

 

「おは──」

「あ! ゆいちゃんおはよう!」

 

 はじめにホーミングゆきちゃんありき。

 

 前回の配慮はなんだったのか、すっ飛んできたゆきちゃんにばっちり抱き着かれてしまいました。

 精神値の管理に苦心している私の心を破壊しようというのでしょうか。そんな子に育てた覚えはないぞ。

 抱き返そうとしてみたけど優衣ちゃんは拒絶の動きをするのみでした。残念。

 

「由紀ちゃん、優衣ちゃんが困っているわ」

「あっ、そうだった。ごめんね、ゆいちゃん」

「ううん……」

 

 めぐねえは天使。おずおずと離れたゆきちゃんは、えへっと笑って下から覗き込むように優衣ちゃんを見上げてきました。目と目が合う時、精神値が削れてる事に気付くの。事情をはかってくれているのかいないのか判断に困るね。太郎丸を見つめる作戦に切り替えていけ。

 

「太郎丸もおはよう!」

「わんわん!」

 

 なんとゆきちゃん、屈みこんで太郎丸を撫で始めました。そんなに優衣ちゃんの視界に入りたいんですかね? 空腹値削れてるってば~。暴走して食べちゃうゾ♡

 ぴゃっとゆきちゃんの手から抜けて駆けて行った太郎丸は、窓際で本を読んでいた物憂げな美少女に飛び掛かかりました。

 

「ひゃあ! た、太郎丸!?」

 

 みーくん迫真のかわいいムーヴ。くすくすと笑うけーちゃんも素敵ですね。

 一生がっこうぐらししてぇなあ私もなあ……。

 

「おなか、すいた……」

「うん、朝ご飯にしよっか!」

 

 どうやら全員部室に集まっているみたいですね。優衣ちゃんが空腹を訴えるとスムーズに朝食に移れました。

 あー、それもそうか。雨だし屋上には行きませんよね。たまに音楽室とかにいる圭とかも今回は普通にここにいた、と。

 

 それと、やや薄暗い部屋内と雨音が前回の「あめのひ」を思い起こさせるのか、部員の顔色がちょっと暗いです。

 その雰囲気を打破するためのホーミングゆきちゃんだったのではないかと私は考察しますが、どうなんでしょうかね。

 くるみちゃんの真横の席を確保し、食事が始まれば自分の分をがんがんくるみちゃんに横流していきます。好感度稼ぎじゃー。

 

「あのなあ……あたしはいいからさ、ちゃんと自分で食べろよな。お前ちっこいんだから」

「…………」

「それはどういう感情の顔なんだ」

 

 正論+精神異常がなければ頭をぐりぐりされていただろう言葉に優衣ちゃん、お得意の真顔です。

 えっ、表情に突っ込んでくるのか……あんまり聞かないタイプの台詞ですね。

 

 エモーションしない限りそんなに表情が変わらないのはプレイヤーキャラの悲しいところ。

 生活部のメンバーを選んでプレイし始めればころころ変わる顔を楽しむ事もできるんですけどね。

 

 それでもってくるみちゃんの言葉は全無視して横流ししまくりましょう。

 

「あのなあ……」

 

 あきれ顔のくるみちゃんですが、俺は止まんねぇからよ……。

 何を言ってもわかりあえないと察したくるみちゃんは、緩やかにお箸を動かし始めながら「優衣って、不器用なんだな」と失礼なことをのたまいました。

 失礼な! 私のバリケード構築大成功率は2割を切るんだぞ! だから最初から人任せにしていたんですね。えっへん。

 

「いや、だからそれはどういう感情の顔なんだ……」

 

 困惑の眼差しを受けつつ完食! 一口も食べてませんけど完食!

 

 こういう時に注意してきそうなめぐねえ達はどうしてるのかというと、優衣ちゃんを真似したせーちゃんがるーちゃんのお皿に嫌いなものを移そうとするのをやんわり阻止しているし、影響されて悪い子になったるーちゃんがお皿の端にすいっすいっと箸で寄せてるのをりーさんが見つめていたり、あっおい見ろよ、みーくんがけーちゃんにあーんされてるぜ! カップルかな? スクショしました。RTAってなんだろな。

 

「おーよしよし、お前はよく食べるねぇ」

「わんわん!」

「由紀、行儀悪いぞ」

 

 ゆきちゃん周りは平和ですね。こんな風に部員がたくさんいると、部屋が暗かろうとめちゃくちゃ雰囲気明るくなるんですよね……酷い時を知ってるとなおさら明るく感じる。

 にしても太郎丸がカリカリ食べてる時の音がすっごい耳に心地良いですね……延々聞いていたくなります。

 

 さ、朝食が終わりましたのでホーミングゆいちゃんと化してくるみちゃんに突撃しましょう。

 信頼イベカモン!

 

「天気、あんまりよくないな。洗濯物は部屋干しするしかないか。……なんつーか、みょーに胸騒ぎがするんだよな……」

 

 むー、起きませんね。好感度が足りん!

 他の子に話しかけてアイテムを貰い、それを貢ぐとしましょう(運頼り)。

 チョーカーさん、なんかちょーだい。

 

「今ご飯食べたばっかりなのに、まだお腹空いてんの? じゃあ……はい」

 

 飴を貰いました。やったあ。

 Uターンしてくるみちゃんに供えに行きます。

 

「くれるなら貰うけどさ……あー、なんだろな……」

 

 微妙な顔をしているくるみちゃんから離れ、りーさんるーちゃんの下へ。

 なんかくださいな!

 

「えっと、じゃあ、余り物で悪いんだけど」

「……」

 

 ふむ、新鮮サラダですか。よろしい。

 るーちゃんは紐をくれました。あやとりしたり縛られたりするのに使われるやつですね。

 ここでりーさんの顔色を確認。むーん、悪くない。昨日削ってから放置してましたけど、かなり回復してるみたいですね。これが全員生存の良い所。脱落者がいないので精神値の回復がお早い。

 しかし単に隠しているだけって可能性もあるんですよね、りーさんの場合。りーさんは難しすぎる……。

 

 ゆーきちゃーん、何かくださいな!

 

「ふふー、じゃあゆいちゃんにはこれあげちゃう!」

「ん」

 

 得意げな笑みを浮かべたゆきちゃんは、スケッチブックと油性ペンを取り出すとずばばばっと猛烈に描き、それをくれました。

 「胡桃の似顔絵」を入手!

 ……忖度してくれてますね。

 

 説明しますと、誰かにアイテムをあげる際、その人物に関連したものを渡すと友好度や好感度の上昇にボーナスが入ります。それが顕著なのが部員で、わかりやすいのも部員。

 今ゆきちゃんがくれた「似顔絵」は自分でも作ることができますが、芸術スキルを持っているかいないか、芸術スキルのレベルで完成度が変わってきます。

 

 もらった似顔絵は………………はい。

 ゆきちゃんの色がよく出ていて素敵ですね(忖度)。

 

 というわけでこれらすべてをくるみちゃんに貢ぎます。

 

「まあ、貰っとくよ。ありがとな、優衣」

 

 先程までのぎこちない関係から何歩も進んで、柔らかな笑みを見せてくれたくるみちゃん。

 ふと伸ばされた手は優衣ちゃんの頭に触れる前に止まり、すっと戻されてしまいましたが、つまりはそこまで関係が進んだったことですね。

 

 でもまだ信頼イベが起こるレベルには達していないようです。

 うー、じゃあボールペンあげる……むむむ、防犯ブザーも! もってけドロボウ!

 

「雨、強くなってきたな……あたしちょっと様子見てくるわ」

 

 しかし信頼イベは起こらない、と。痛いですね……これは痛い。

 さらにタイムアップも近づいてきました。くるみちゃんが偵察に行き、戻ってくると最後の防衛戦が始まります。

 うぐぐ、くるみちゃんだけじゃなくゆきちゃんやチョーカーさんとの信頼イベも起こしたかったのですが、ここはくるみちゃんのみに絞ります! 彼女から貰えるアイテムの中で最高ランクは「くるみのシャベル」! それさえあればあらゆる戦闘はヌルゲーと化します。なおシャベルは分身するもよう。

 というわけでついて行きましょう!

 

「優衣ちゃん、見回りは恵飛須沢さんに任せましょう? あなたは休んでていいのよ」

「?」

 

 げ、めぐねえに阻まれてしまいました。ワンマンプレイがここにきて響いてきてますねぇ!

 タイプCでこの性格で目をかけられてるのに一人でやりすぎましたね。かなり心配されているようです。

 ですがタイムのために、信頼のために、めぐねえの心遣いを無視する必要がある。

 かなり辛いですが、心を鬼にしてくるみちゃんの後を追いましょう。

 

「ね、ゆいちゃんってあのお店でもずっと頑張ってたんだよね」

 

 傍へ来てほしそうにしているめぐねえを無視し、出入り口に来たところで声がかかりました、ゆきちゃんですね。

 ゆきちゃんは、けーちゃんやみーくんとの交流の中で、二人のために、四人のために、一匹のためにゆいちゃんが危険な探索に出続けていた事を聞いていたようです。

 そういった場合に呼び止めてくるのは、「ここには仲間がたくさんいるんだから、もう一人で頑張る必要はないんだよ」と伝えるためですね。

 

 ここで伝える言葉のパターンはチャートにちゃーんと記入してあります。

 数多の試走を乗り越えてきた私がコミュニケーションでガバるなんてありえませんぞ!

 

「わ」

「やばいっ! 奴らが押し寄せてきてるぞ!」

 

 おま、くるみちゃん戻ってくるのはっや! 見回りRTAでもしてんですかね!? ほんとにちゃんと1階まで行った!?

 

「それは本当なの!?」

「それじゃあ、前と同じ……また、また「彼ら」が……」

「……」

 

 浮き足立つめぐねえに、青褪めるりーさん。

 タイミングよく雷鳴が轟き、激しい風雨が窓を叩き始めました。

 

「校庭に、あんなにたくさん……!」

「どうする? バリケードはあるけど、前より脆いぞ!」

 

 前より? え、チョーカーさん今なんて……一回壊されてるんですか? なにそれ聞いてないよ!

 その場合のバリケードって応急処置で作り直されただけで紙みたいなもんじゃないですか!

 初期状態のそこそこ持つものだと思ってたから手を入れなかったのに!

 

 もっとちゃんと会話しておくべきだった……こ、コミュニケーションガバ……!!

 なんで? なんで? ちょっとチャートを……あ、うん。

 めぐねえ達が「あめのひ」にモールに来たから十分な戦力がなくバリケードを突破されちゃってたんですね。

 

 ちなみに学校初日のトイレでそれを思わせる会話がありましたが、完全に聞き逃してました。

 やび!

 

 覚醒めぐねえ頼りのこんなチャートはゴミ箱に仕舞っておいて、続きと行きましょう。

 大丈夫! あらゆるチャートはこの桃色の頭脳の中に……!

 

 というか、もはやどうもこうもありません。みんなには上にいてもらって覚醒組で対応しようと思っていましたが、総力戦以外取れる手段がありませんからね。

 

「ええ、打って出ます。恵飛須沢さん、柚村さん……ごめんなさい。また力を貸してほしいの」

「もちろんだよめぐねえ。こんな時こそ協力していかなきゃな」

 

 生徒に危険な事はさせたくないと顔に書いてあるめぐねえですが、判断はそこそこ的確ですね。

 でも今の口ぶりだと挙がった部員でしか防衛に出なさそうなので、優衣ちゃんの方からみんなのもとを巡って参加するよう誘っていきましょう。

 

「うん! 先生やくるみちゃん達にばっかり任せてちゃいけないよね。ゆい先輩、がんばろ!」

「わかりました。怖いですけど、全力を尽くします」

「ええ、わかったわ。るーちゃんと星夜ちゃんを屋上の方へ連れて行ったら、急いで戻るから」

 

 いや、二人にも参加してもらわないと困ります。少しでも1階と2階のバリケードを生き永らえさせないと時間まで持ちそうにないですし。

 

「そんな! でもっ、」

「……」

「っ……わ、わかったわ」

 

 くい、と袖を引くるーちゃんに言葉を改めたりーさん。うーん、るーちゃんから迸るやる気が見えますね。偉い!

 せーちゃんもゴム銃を手にして参戦する気満々です。

 

「よーし! 学園生活部、出動!」

「おー!」

「わんわんっ!」

 

 ゆきちゃんの号令に「おー」と腕を上げて応えつつ、総出で部室を出ました。

 どやどやどやーっと廊下を行く部員達が壮観ですね。今みーくんにぶつかって転ばせてしまったのは乱数調整です……(小声)。

 気を取り直して、「全力疾走」にて合間を縫って先頭へ出ます。

 

「きゃっ!」

「ちょ、ちょっと!」

「優衣ちゃん!?」

 

 ごめんて! めっちゃぶつかりました! コントローラーが悪いよコントローラーが!

 何が辛いって、るーちゃんを転ばせた時の罪悪感が凄いところですね……。涙ぐんだりするんですよね……。

 

 到着!

 時間の経過や場合によってまちまちですが、今回は1階バリケード前についたところでイベントに入りました。

 すでにバリケードには大量の「彼ら」が取りついてガシャガシャやっております。

 総員迎撃態勢!

 

「ここだけを守っても意味がないわ! ここは私と恵飛須沢さんが守ります。北は柚村さん、あなたに。南は──」

 

 この場面、本来主人公が各バリケードを守る部員の選別を行うのですが、めぐねえがいるとこうして勝手に選んでくれます。異議がある場合は話しかければ自分で選び直せますが、必要なさそうですね。

 ちなみに北をチョーカーさんのみに任せているように聞こえましたが、実際は何人か割り当てられてます。チョーカーさんの傍に移動した部員がそうです。みーくんとけーちゃん、ゆきちゃん、太郎丸……けーちゃんは怪我をさせずに3階まで連れて行って「けーちゃん保険」に賭けたいのでこっちに引き抜きましょう。

 

「ゆい先輩……うん、わかった! でもそうするとあっちには……」

 

 りーさん出すとるーちゃんがついてくし、せーちゃんはこっちで見ておきたいし、うーむ。

 なしで! 優衣ちゃん率いる南のメンバーはけーちゃん・りーさん・るーちゃん・せーちゃんです。これで決定!

 

「優衣ちゃん! っ、……気を、付けてね……!」

「うん」

 

 めぐねえの言葉に頷いて返し、南側のバリケードへ向かいます。ここでもたもたしていると辿り着く前に突破されたりするんですよね。

 ついたらまず取りついている奴らを大雑把に剥がします。そうしてもらうようみんなに指示を出したら防衛開始。近場の掃除用具入れからモップや箒を取り出している彼女達が加わってくれるまで全力で時間を稼ぎます。

 

 チラッ。チラッチラッ。

 逐次ロッカー方面を振り返り、『ロッカーに潜む「彼ら」が襲い来る』とかいう不測の事態にも備えましょう。悲鳴が聞こえてからじゃ間に合わないんだよね。

 ん、大丈夫そうですね。みんなきました。

 

 ならばブザーを隙間へ投げ入れ、「彼ら」の注意をバリケードから逸らす事で時間稼ぎを……投げたブザーがバリケードに弾かれました。よし! よしじゃないが!

 

「私が!」

 

 さっとりーさんが拾い上げてくれました。オナシャス!

 ……ナイッシュー! 見事隙間から向こうへ投げ入れられましたね。

 こうなればこっちのもんです。取りつく「彼ら」が劇的に減るのでらくちんらくちん。

 

 ただ、こんな爆音バイノーラルを開催すると当然このバリケード前に大量の「彼ら」を呼び寄せてしまうのでブザーを絶やさないようにしましょう。尽きたら即突破されるでしょうしね。

 

 2個目いくどー!

 

「……!」

 

 ははっノーコンだぜ。弾かれたブザーをキャッチしたるーちゃんが全身を使って放ってくれました。天井に当たって向こうに落ちていったブザーに群がる「彼ら」。

 しばらく小物を投げつけて時間を稼いだら、ブザーが途絶える前に3個目を……。

 ないね。

 

 ……えっ、3個目ないじゃん!

 

 あっそうだった、くるみちゃんに1個あげたんだった。

 いやだって1階に1個、2階で1個って計算してたから……あ、突破されそう。詰み上げられた椅子が落ちてきたら耐久値消滅寸前の合図です。ヤバヤバヤバイ! ちょちょ、ここら辺でトイレ休憩にしません!?

 引き分け……! 引き分けで手を打たないか……!?

 

「っ」

 

 せーちゃんのゴム銃による援護でバリケードを崩そうとしていた「彼ら」が弾かれました。やっちゃー!

 最後尾にいるのによくもまああんな隙間を通して当てられるもんですね。滅多に出会えない子なだけはある。出会えたー喜びにー♪

 

 今です! みなのもの、撤退ー!!

 

「うえ、いこ」

「そうね、もうまずそうだわ……るーちゃんと星夜ちゃんを連れて先に行って! めぐねえ達に声をかけるのを忘れないでね!」

 

 ばっと腕を廊下の奥へ向け、力強く引き戻して箒を構えるりーさん。

 いや、殿は私が勤めるのでりーさんが行ってね。優衣ちゃんが行くと二箇所のバリケードへわざわざ向かって声をかけなければいけませんが、りーさんなら走りながらどっちにも伝える事ができるので。

 

「っ、わかったわ。でも決して無理はしないで!」

「ん」

 

 迷いは一瞬、強く吐息してから横を駆け抜けていくりーさんに返事をし、一歩遅れてついていきます。えって顔されますが撤退する状況になると残っててもなんも変わらないんですよね。優衣ちゃんが最後尾になりさえすればいいんですよ。

 るーちゃんやせーちゃんが転んだりしないかだけ見ておきましょう。もちろん自分も転ばないように気を付けて……りーさんが声を響かせ、撤退を促すのを聞き届けたらみんなで2階へ駆け上がります。

 

 バリケードを超えるのにもたつくと追いつかれて死にますが、ここが「石鹸」の使い所さん!

 階段にまきびしのごとくばら撒いて足止めに使いましょう。そうすれば、たとえばゆきちゃんがもたついても余裕を持って各員配置につけます。

 

「急いで!」

 

 めぐねえがバリケード脇に立って促してくれるので、みんながちゃんと登るのを見届けてから最後に登ります。

 そこからそれぞれのバリケードに分かれていくのですが、何も言わないとさっきと同じ人員と配置になってしまうので、メンバーはそのままに東──真ん中のバリケードを譲ってもらいましょう。

 

 試走を繰り返していて気付いたのですが、1階は南、2階は東、3階は北のバリケードが最も楽に防衛できます。

 どこか一箇所でも突破されれば撤退することになるのでここは楽な場所を選ばせてもらいましょう。

 大丈夫! 私は学園生活部のみんなを信じてる……きっと時間を稼いでくれるって……!

 

「ごめん! もう、もう無理だ!」

 

 (笑)

 

 なに笑ってんだよぉ! はあ!? はっや! はっや! なにこれ!

 爆速で突破されました。きっと「彼ら」の中にバリケード突破RTAでもやってる走者がいたんでしょうね。

 しょうがない、気を取り直して大急ぎで3階へ駆け上がりましょう!

 

「ぅらあ!」

 

 崩れたバリケードを乗り越えてくる「彼ら」はくるみちゃんが薙ぎ払ってくれるので任せましょう。ぶっちゃけ雪崩れ込む彼らに優衣ちゃんを向かわせたところで踏み潰されるのがオチです。

 そうだそうだ、「物持ち上手」を活かして右手にせーちゃんを、左手にるーちゃ……りーさんが連れてってるので代わりにみーくんを捕まえ、階段を駆け上がります。こうしていれば3人とも転ぶ心配は皆無です。

 

 最後尾じゃなかったので階段に「石鹸」を撒くことができませんでした。ちょっとまずい流れですね……。

 3階のバリケードの防衛に入りました。押し寄せる「彼ら」の数が減っている気がしません。ちゃんと下の階で減らせていればもっと楽なんですけども……!

 

 消耗した掃除用具を取り換える部員達に代わり、優衣ちゃんに「小物」や「石鹸」を拾わせ、とにかく投げつけましょう。数うちゃ当たる! 数うちゃ当たる!

 

「うん! えいっ!」

「……!」

「……」

 

 あのさぁ……「投擲」取ってないからってここまで弾かれることあります?

 代わりにみんながぽいぽい投げてくれるのですが、今せーちゃん思いっきり溜め息吐く動作してましたよね。ア゛ア゛ア゛ア゛!

 

 ……大人しく箒でも拾って柄でつんつくやりましょう。

 掴まれないことだけ注意して、体力の続く限り動き続けます。

 

「これじゃ埒が明かない……!」

「もうそろそろ危ないかも……離れないと!」

 

 舌打ちでもしそうな勢いのりーさんに、撤退を促すけーちゃん。

 いいえ、まだです! 倒さなくても怯ませさえさせればいいんです! 時間さえ経過させられれば……!

 

 りーさん達も必死に「彼ら」を怯ませてくれますが、なかなかこれは……辛いですね……!

 

「わぉーん!」

 

 腕を振り上げてバリケードを崩しにかかってた「彼ら」が太郎丸の吠え声に怯みました。ナイッス!

 しかしそろそろ限界です。一番楽な場所を選んだつもりでしたが、どうにもここが最初に陥落しそうですね。

 

「なら、なら、私が……!」

「祠堂さん!?」

 

 音楽室へ駆けていくけーちゃんを後ろに、りーさんに撤退を伝えましょう。屋上へ!

 太郎丸は……太郎丸は一緒にいてもらいましょう。フォローミー!

 

「優衣ちゃん!」

 

 ついて行かない優衣ちゃんにりーさんがおめめかっぴらいてますが、無視してバリケードに向き合い続けます。

 あ、雷。窓の外が明滅し、その轟音に「彼ら」が数秒硬直しました。遅れてピアノが鳴り始めます。

 その音色で「彼ら」を引き寄せてくれるのが「けーちゃん保険」。正直辿り着く前に雪崩れ込まれるかと思いましたが、乱数に助けられましたね。

 

 ならばバリケード前で待機する意味はなし! いくぞ太郎丸、いったん屋上へ続く階段へ退避だ!

 みんなもぞくぞく集まってきておりま……みーくん顔色わっる!!!

 

「そんな……圭……!」

 

 大丈夫、今から助けに行くからよ! 「彼ら」が音色につられて音楽室へ殺到し始めたのを確認してから取って返し、こちらに背を向ける「彼ら」へスニキルを叩き込んでいきます。向かうのが早すぎると足の遅い「彼ら」に背後を取られて乙ります(7敗)。遅すぎると音楽室に入り込まれてしまいます(20敗)。

 

 お前ら一列に並んで順番にスニキルされに来い!

 服を引っ掴んで引き倒し、屈みこむ勢いを乗せたサバイバルナイフで胸を一突き。ぐっと呻いた「彼ら」は活動停止! 立ち上がり、続けて両手で持って掲げたナイフを振りかぶり、体全体で刺して! 足を蹴飛ばして倒す!

 連続スニークキル、1.2.3! もいっちょくらえい!

 

「やーっ!」

「圭、今助ける!」

 

 お、めぐねえとくるみちゃんが来てくれました。二人とも範囲攻撃のごとく「彼ら」を薙ぎ倒してくれるので助かります。

 階段を昇ってやってくる「彼ら」はみーくんにチョーカーさんが対処してくれるみたいです。か、完璧な布陣……思ったより上手くコトが運んでますね! 屋上まで行ってしまえばこっちのもんです。その先はもう何度も何度も練習したので……こりゃもう……勝ったな!(フラグ)

 

「っ!」

 

 しばらく奮闘している轟音とともに学校全体が揺れ、生活部のみんなも「彼ら」も隔てなくバランスを崩します。

 どうやら時間が来たようですね。ヘリが落ちました。

 

 音楽室前に(たか)る「彼ら」をあらかたやっつけるとほどなくして火の手が上がり、火災報知機が鳴りだしました。そうすると「彼ら」はみんなそこに集まるので、音楽室へ突入してぐったりしているけーちゃんを回収し、……みーくん、頼んだ!

 

「圭、しっかり!」

「う、へへ……腰が抜けちゃったみたい……」

 

 屋上へ退避するぞー!

 誰かがはぐれる事のないようにここでも最後尾になりましょう。

 体力が尽きてるのでへとへと走りですが、ムービー中に回復するのでこのまま行きます。

 

 

「菜園が……私達の……命が、燃えていく……」

「りーさん!」

 

 呆然と呟いたりーさんが膝をつき、るーちゃんじゃ支え切れないところに慌ててゆきちゃんが駆け込みました。

 おーおーよく燃えておるわ。あわよくば何か残っていたら回収するつもりでしたが、満遍なく火の絨毯に覆われてますね。

 

 さあ、ここからが正念場です。

 

 ヘリが落ちようが落ちまいが、落雷により避雷針の傍の発電設備が破壊され、炎上するのですが……結果、今学校は上下から火攻めされてます。

 燃える菜園、校庭の端で燃えるヘリの残骸、集う「彼ら」のムービーを挟み、自由行動ができるようになるので地下シェルターへの移動を──ファッ!?

 

「うっ、すげぇ爆発……!」

 

 あーびっくりした。ヘリの爆発に連鎖して停まってる車も爆発炎上!

 当然めぐねえカーも爆☆散! きもちいー。

 以降、散発的に車が爆発し様々な悪影響を校舎に及ぼすようになりました。

 ここからシェルターへの移動には結構な運要素が入ります。といっても難易度の上下くらいですが。

 

 全員で固まって移動し続けられるのは稀で、分断されたり、あるいは一人で行く羽目になったり。

 炎や「彼ら」に阻まれて遠回りを強要されるパターンや廊下の崩壊によって怪我をしつつもショートカットできるパターン、報知器を無視する難聴「彼ら」の大群から隠れて進むスニーキングパターンなどなど。

 

「これからどうすれば……」

「ここにいても、いずれ火に囲まれてしまうわ。どうにか地下まで移動して、あの避難区域へ逃れましょう」

「そっか、あそこがあった!」

 

 鳴り響く警報の中、途方に暮れるチョーカーさんの呟きにめぐねえがシェルターへ向かう事を提案しました。

 ああ、めぐねえやっぱり知ってたんですね。そうでなくても優衣ちゃんとみーくんが行った事でその情報は共有されているでしょうから、誰が言いださなくとも優衣ちゃんに提案させるところでした。

 

 では休憩もそこそこに地下へ向かうとしましょう。

 

「ゆいちゃん、大丈夫? 行こ?」

 

 とととっと寄ってきたゆきちゃんに誘導されて屋上を出ます。扉脇に立つめぐねえを除くと、動き始めたのは私が最後みたいですね。こりゃまずい。急いで先頭に出ましょう!

 ……人数が多くて階段だと先頭にいけませんね。もどかしい。

 

 3階に下りたらすぐみんなにハンカチを配り、自分も口元を覆います。廊下に漂う煙でたまに大ダメージを受けたり行動不能になったりするのを防ぐ効果があるので余裕があったらやっておくといいでしょう。

 適度にお水も飲んでおきます。スニーキングルートの場合大量に水が必要になるので飲み水に使えるのは一本だけ。

 

 炎が回った時、大抵崩壊したバリケードの方に炎の壁が立っています。簡単には進ませんぞという制作者の強い意思を感じますね。残っているバリケードに向かう必要があるのですが……。

 

「うわ!」

 

 バリケードを崩し、炎上「彼ら」が現れるイベントがたまに起こるんですよね。わかっていれば対処は簡単です。

 まずその時に誰かが掴まれる事はないので、すばやく水入りペットボトルを投げつけて鎮火しましょう。

 今回襲われたのはチョーカーさんだったため、勝手に反撃して処理してくれました。手間が一つ減りました。

 「彼ら」が現れなかった場合は設置されている消火器で火を消す必要があります。もしこの日までに消火器を使い切ってる場合は屋上の水を持ってくる必要があります。

 

「足元に気をつけて! 優衣ちゃん、手を!」

「ん」

 

 めぐねえが注意しつつ差し伸べてくれた手を掴み、バリケードの残骸を乗り越えていきます。たまーに中から腕が出てくる時がありますが、掴まれても特にダメージとかはないびっくり要素ですね。

 そしてロッカーから現れる「彼ら」!

 

「こんなとこにもいんのかよ!」

 

 なんてね。わかってますよーだ。何回ここ練習したと思ってんですか! くるみちゃんを真ん中あたりに配置しておくと前にも後ろにも出てくれるので突発的な事態でも安心です。

 なぜか炎上している一匹はすかさず飛び出したくるみちゃんによって倒されました。ほらね。

 

 2階へ下りてきました。火の手は上下からきているのでこの階が一番ましかもしれませんね。

 さて、そろそろ分断される可能性が出てきました。ムービーによる強制分断か、突発的な事態による回避可能な分断か、あるいは何も起こらないか。

 

「ゆいちゃん、大丈夫?」

 

 何度かこちらを振り返っていたゆきちゃんが後ろ向きのまま戻ってきて、寄り添うように話しかけてきました。

 ずっと最後尾取ってる関係上、生存者を見ている事で精神値と空腹値が削られてきています。水を飲む事で空腹値は誤魔化せますが、水分で回復したゲージは炎に当たると減少するので気を付けよう。よっぽど操作がガバらない限り当たりませんけどね。

 

「由紀ちゃん、優衣ちゃんをお願いね。先生は前に出ます。後ろにも気を付けてね」

「うん。めぐねえ、頑張って!」

「ありがとう……!」

 

 優衣ちゃん達を見て頷いためぐねえは、シェルターへの誘導のために先頭へ向かいました。

 それでもって廊下が崩壊して落ちていきました。めぐねえええええ!!!!!!

 

「きゃっ、わ!」

「ゆきちゃ」

 

 外で起きる爆発に校舎が揺さぶられ、いくつもの悲鳴が重なって、どんどん広がる穴に飲み込まれていく学園生活部。

 画面も揺れ、まともに歩く事もできなくなりますが緊急回避はできるのでゆきちゃんを突き飛ばして落下から逃れましょう。

 あいや待って、一緒に落ちた方が良くない? 選択をミスりました。すぐに立ち上がって後を追いましょう。1階分程度なら飛び降りても大したダメージにはならないし、みんなが受け止めてくれます。

 

「わ、わ、ごめっ」

「んっ」

 

 ちょ、ゆきちゃんどいて! 立ち上がれないんだけど!

 あー、急がないと「彼ら」が……!

 

「おい、来るぞ!」

「くそっ、由紀! 優衣! なんとか別の場所から降りてこい! そっちで合流しよう!」

「優衣ちゃん……!」

 

 くんずほぐれつから解放され、支え合うように立ち上がったゆきちゃんと優衣ちゃんが見たのは、燃え盛る大量の「彼ら」に追われて逃げ始める部員達の姿。誰もが不安げにこちらを見てはいましたが、こうなると穴から降りるのは危険です。

 今の、ムービーを挟まないタイプでしたので判断が間に合えばはぐれることなく進める状況でしたね。思わず崩壊から逃れるように動いてしまったのが間違いだった……。

 

 ていうか二人以外全員落っこちるパターン初めて見ました。逆はよくあるんですけど……ありえなくはないし、想定内ではあります。ただ、一緒にいる部員が誰になるかって相当パターンがあるので、えー、ゆきちゃんの場合は……戦闘力ないし、強行突破は難しい……素直にスニーキングするしかないですかね。

 

 ここまで結構いいタイムでこれてるので駆け抜けていきたいのですが……っと、爆発!

 

「うう、どうしよう……」

「……」

 

 パラパラと何かの欠片を零す天井を見上げて不安げに呟くゆきちゃん。彼女にとっても一緒にいるのが戦闘力皆無(?)の優衣ちゃんだったのは不幸ですね。

 ただ、これ(編集)見返してて気づいたんですけど、ここでゆきちゃんと一緒になるのは必然だったっぽいですね。

 ゆきちゃん、普段はわりと自由に動き回っているのですが、部員の精神値が低くなると寄ってきてケアしてくれるんですよね。さっき優衣ちゃんがかなり削られてたのでやってきて、そして二人で取り残された、と。

 

「ううん、落ち込んでる場合じゃないよね! ゆいちゃん、がんばろ!」

「……」

「あっごめ! ……ごめんね」

 

 心を切り替えたゆきちゃんは、ずっとゆいちゃんの手を握り続けていたことに気付いて慌てて離しました。助かる。

 でも精神値の減りはそんなでもないんですよね。たぶん優衣ちゃんがゆきちゃんを気に入り始めてるからなんでしょうけど。相手からの友好度と好感度が最大でも部員によって減少度変わってくるし接触恐怖症の判定はようわからん。

 

 さ、ここでもたもたしてても意味ありませんし、当然こうしている間も他の部員は動き続けています。できればチョーカーさんが言っていた通り合流したいので行動開始!

 ここはもう通れないので反対のバリケードに急ぎましょう。道中消火器を抱えていきます。ゆきちゃんが大丈夫かと声をかけてくれますが、ここでも物持ち上手が活きてますねぇ! 二つ持ったってふらつきません。必要な時にゆきちゃんに渡して、二人がかりで鎮火しちゃいましょう。

 

 バリケード前につきました。いったん二つとも床に下ろし──爆発。んー、すっ転びました。地味にうざいなこれ。

 気を取り直して片方をゆきちゃんに渡し、もう片方を手に取って、と。

 

「ゆいちゃんっ!!」

 

 ホースをバリケードへ向けたその瞬間、ぶち破って伸びてくる手。

 避ける暇なく腕を掴まれ、ごうっと燃える火が制服の袖に移り──うお、アッツ!

 アーチャチャチャチャチャチャ! アーチャチャチャチャチャチャ!

 

 チャチャチャ オモチャの チャ! チャ! チャ!

 

 

 

 

 

 

 優衣ちゃんの症状に関しては、時間の解決を待つしかない……。

 

 そんな悠長な事を言っている場合ではなかった。

 こんなにも呆気なく、こんなにも早く、安定した生活が崩れてしまうなんて思っていなかったとはいえ──先延ばしにしてしまったのは間違いだった。

 

 そのうち助けを待つだけでなく、呼びに行けるようになるだろう。

 若狭さんの言葉に盲目的に同意していた。他の人の口から出てくる希望に縋って、先のことを考える責任を放棄していた。それはあまりにも──愚かだというのに。

 

 ──未来のことなんて考えても無駄よ。

 

「うあああ!」

 

 燃え盛る「彼ら」を叩き切る。

 ここにいるはずの無い泉さんの形をした影。

 それが、至る所に現れては、冷たい言葉の刃で貫いてくる。

 

 生徒達の身を危険に晒したのは誰なのか。

 不確かな希望をぶら下げて心の緩みを持たせてしまったのは誰なのか。

 力のない二人を取り残して逃げることしかできない存在を教師と呼べるのか。

 

「なんで、こんな、いんだよ!」

「前より多くなってる……どうして!?」

 

「やあああ!」

 

 一心不乱にモップを振るう。若狭さんの言葉への疑問が頭の端っこに浮かんで、消える。

 わからない。私はその時にいなかったから、比べようがない。

 でもたしかに、倒しても、倒しても、倒しても、「彼ら」がいなくならない。

 

 殿を持つ私でさえそう感じているのだから、先を切り開く恵飛須沢さんは尚更そう感じていることだろう。

 

「ふっ、く!」

 

 持ち手を跳ね上げ、棒をしならせ、先に括ったナイフで風とともに「彼ら」を切る。

 熱を持ち軋む筋肉が今にも硬直してしまいそう。疲労が蓄積して、動かなくなってしまいそうだ。

 服の中にこもる熱が、足を動かすたびに外の空気と入れ替わって、熱く、冷たく、風邪と似た症状を引き起こす。

 濡れた肌には強い不快感が纏わりついて離れず、鋭い痛みを発する首に目眩と吐き気を感じていた。

 

「っ」

 

 傍で転びかけた星夜ちゃんの腕を掴んで引き起こす。何人も連なって追い縋る「彼ら」を薙ぎ払って遠ざける。

 這って進んでくる者の焼ける臭いに包まれて、閉じられず乾ききった目に、馴染み深い巡ヶ丘の制服ばかりが映っていた。

 

 

 シェルターへ逃げ込むまでは、そう難しくはなかった。

 命の危険が付きまとい、何かを間違えれば死んでしまっていただろうとしても。

 迫りくる「彼ら」に、最後まで頑張ってくれていた太郎丸がこちらへ駆けて来るのを見てやむを得ず判断を下す。

 

「恵飛須沢さん!」

「っ、……くそっ!」

 

 完全に閉まらないようつかえになっていた机を蹴飛ばした恵飛須沢さんと協力してシャッターを下ろす。

 私はモップで、彼女はシャベルの先で、高熱を持つシャッターを押し込んで。

 外界とこちらとを閉ざす激しい音に胸が痛む。

 

「ちょっと待ってよ! そこ閉めちゃったら、ゆい先輩もゆき先輩も……!」

「わかってる! けど、いくらなんでも数が多すぎる……!」

 

 触覚を持たない「彼ら」がシャッターを叩く。

 怯える子供たちを抱く若狭さんが、抗議の目を私に向ける。

 

 どうしよう、どうすればいい? 彼女達がここに無事に到着するのを祈ることしか、私にはできないの?

 

「じゃあ優衣先輩も由紀先輩も見捨てるっていうんですか!!」

「そうじゃない! けど今出ていくのは自殺行為だろ!?」

 

 生徒達の声にも焦りと不安から棘が立っている。

 今は彼女達を落ち着かせなければ……。

 

「……!」

「るーちゃん……」

 

 声なく泣き出してしまう瑠璃ちゃんを、若狭さんが慰める。

 つられて星夜ちゃんまで泣き出してしまって、柚村さんがあやす。

 彼女だって由紀ちゃんの事が心配だろうに、それでも。

 

 パチパチと音を立てて揺れるシャッターに、何もかも終わりなのだと悲観的になってしまいそうだった。

 

 ……。

 

 重い体を動かして電気をつけてみても、安全なはずのここはいやなにおいに満ちていて……。

 薄暗いままだった。

 

 

 

 

 ペッ! カスが効かねぇんだよ!

 

 うそです。瀕死です。しかし炎上「彼ら」は始末し、ペットボトルを1本消費して水を浴びた優衣ちゃんはやや顔色悪くも元気そうにしてます。

 

 あークッサ! 「彼ら」の焼け焦げた臭いのせいでゆきちゃんが具合悪そうにしてますね。見た目の問題もあるな……。見ちゃ駄目だよー目が腐るよー(かつての級友に向ける辛辣な言葉)。

 

 なにはともあれバリケードは超えられました。何体か「彼ら」がうろついてますけど、大体が報知器に向かっている最中ですね。容易く背後を取って始末できます。ペットボトルを投げつければ破裂した水が火を消し、飛び掛かった優衣ちゃんによってナイフを突き立てられた「彼ら」が崩れ落ち。

 

「うう、すっごくいっぱいいる……!」

「ん」

 

 階段から下へ行こうとすると、階下に蠢く這いずる「彼ら」。登りたくても登れない奴と、それらが邪魔で前へ進めない「彼ら」の姿もありました。

 通れない……通れなくない? しかし後ろには戻れませんのでここからいくしかありませんね。

 

「頑張って、飛び越えてみる? えいやーって行けば、もしかしたら」

「……」

「無理だよね……燃えてるし……。そうだ! 消火器!」

 

 タッと2階へ戻って行くゆきちゃんについていきましょう。

 それでもって消火器を回収し、階下の「彼ら」へ向けて噴射します。

 

「……だめだ」

 

 煙幕のように白い煙は立ったものの、そこを潜り抜けていくのは不可能でしょうね。

 「彼ら」の鎮火はできたので……まあ、飛び越えるしかないですね。

 ここで小技。このまま一緒に飛ぶだけじゃ確率で足を挫いたりしてしまいますが、「物持ち上手」がある場合、抱えて飛べば安全に移動できます。

 問題は……いや、考慮する必要はないですね。確率的にないので。

 

「わたしに、まかせて」

「……ゆいちゃん、でも」

「だいじょうぶ、よ」

 

 ゆきちゃんより小さい優衣ちゃんに「任せて!」とか言われてもそりゃ困惑されますが、そこはごり押しして承諾してもらいましょう。

 おらおらさっさと身を委ねるんだよ! ホラホラホラホラ!

 

「……ん! わかった、ゆいちゃん……跳ぼう!」

「うん」

 

 海より深いゆきちゃんの優しさにより承諾をもぎ取れました。

 ん? いや肩を組むんじゃなくてね、優衣ちゃんがお姫様だっこ的な感じで抱えるんで。

 

「3つ数えていくよ!」

 

 壁際まで下がって助走のための距離を稼ぐゆきちゃんに、神妙に頷く優衣ちゃん。

 あっちょっと待ってもらって……。

 

「いち!」

「にの」

「さーん!」

 

 駆け出した2人は幸せな跳躍をして終了。幸せな跳躍ってなんだよ?

 

()っ……!」

 

 「彼ら」の頭上を飛び越え、着地した2人ですが、案の定ゆきちゃんが足を捻ってしまいました。

 だからゆいちゃんが抱えるって言ったのに!

 まあタイミング悪く外で爆発が起こってたので、抱えてても投げ出しちゃってたと思いますけどね。くそが。

 

「うああっ」

 

 無理に立ち上がろうとして痛みに呻くゆきちゃんを庇い、迫りくる彼らへペットボトルを投げつけます。

 こいつらを殲滅しない限りゆきちゃんが生き残れません。ここは最高速度で始末して2人でシェルターまで逃れましょう!

 

 ぶっ頃してやる……水入りペットボトルはもういらねえ……へへ、水なんて必要ねぇ! ……へへへへ、タイムも必要ねぇや。

 誰が「彼ら」なんか……てめぇらなんか怖かねー! やろうぶっころしゃー!!

 

 

 

 

 なんとか、落ち着いた。

 ……いや、みんな疲れ切っているだけだ。

 誰も何も言わず、ただ俯いている現状を「落ち着いた」と評するのは……私も、疲れているのだろう。

 

 壁に手をついて立ち上がる。

 とにかく、優衣ちゃんを……由紀ちゃんを助ける手立てが必要だ。

 「彼ら」が離れてくれれば言うことはなかったが、未だに叩く音、引っ掻く音が続いている。

 

 そちらから出られない以上、奥に向かうしかない。

 あるいは、外の「彼ら」を一掃し、火や煙をどうにかしなければならない。

 何か……武器。そう、こんな間に合わせじゃない強力な武器でもあれば……。

 

 そんなものがあるとは思えないけれど、一縷の希望に賭けて奥へ進む。階段を下りて、下りて……直線の廊下へ。靴の中へ入り込んでくる水に不快感と嫌悪感を抱きながら、先へ。

 ……いくつもの水音が背後に続く。振り返れば、みんなついてきていた。

 

「……」

 

 パシャパシャと水を蹴って歩んできた星夜ちゃんが私の腕を掴んで、揺らした。

 言いたい事はわかる。……みんな、同じだ。

 誰も二人を見捨てようだなんて思ってない。助けに行きたいと思っている。

 

 ただ、強い絶望も胸に伸し掛かっていて……誰かが動かなければ動き出せなかったのだろう。

 ……この学校はもう駄目だ。消火活動をしようにも「彼ら」に妨げられてスムーズにはいかないはず。

 整っていた設備も、食料も無くなって……それでも、決して諦めてはいけない。

 

 奥へ進む。

 重厚な扉を押し開けると、──っ!

 

 ……人が、首を吊っていた。

 間違いでなければ、これは──。

 

 ふと横を抜けていった星夜ちゃんが部屋を物色し始めるのに息を呑む。

 こんなものを見せてはいけないのに、目を塞いであげる事さえできなかった。

 

「入ってきては駄目よ」

「めぐねえ……?」

「ちょっと待っててね」

 

 外へ声をかけ、扉を閉める。それから…………、……。人を、下ろす。

 冷たくも熱くも無い硬い感触に強く唇を引き結びながら、それを……どこか……。あそこがいい。

 ロッカーの中へ押し込む。

 踏み台に使われたのだろうダンボールも隠そうと振り返れば、そのすぐ傍に星夜ちゃんが屈んでいた。

 

「……」

 

 視線に気づいたのか、私を見て立ち上がった彼女が歩み寄ってきて、一枚の紙を手渡してきた。

 三つ折りにされた縦長の……どう見ても、これは遺書だ。

 開こうとした指が止まる。

 

 ……開くことが、とてつもなく重いことであると、思ってしまった。

 しかし、受け止める覚悟だとか、あるいは感化されないよう心を保護するための時間や何かはない。

 薄く息を吐いてゆっくりと開く。

 文章は、とても短かった。

 

 

最後ノ審判ハ下サレタ

コノ穢レタ街ハ熱消毒デ浄化サレルダロウ

 

 

「……勝手なことを」

 

 びく、と星夜ちゃんが震えるのに、慌てて手に籠っていた力を抜く。

 遺書を畳みなおし、「見つけてくれたのね、ありがとう」と頭を撫でれば、彼女は何も言わず──言えず──抱き着いてきた。

 

「めぐねえー、まだ入っちゃだめかー」

「あ、いえ、もう大丈夫よ」

 

 外から聞こえてきた声に返事をすれば、恵飛須沢さんを先頭にみんなが入ってきた。

 若狭さんの手から離れて駆け寄ってきた瑠璃ちゃんに星夜ちゃんを任せ……何人かの視線が天井へ向かっているのに気づく。

 

「……あ」

 

 振り仰ぐと、輪の形を持つロープが吊り下がっていた。

 

 片手落ちになってしまったことに額を押さえる。けれど、それ以上の反応を示す人はいなかった。

 何か有用なものは見つかったのか。まだなら探そう。

 

 ……それくらいだった。

 

 

 

 

「ゆいちゃん、いいんだよ」

 

 時折起こる爆発で手に持っているものを取り落とすことがあります。

 それは人物にも及び、つまりは、肩を貸して運んであげていたゆきちゃんさえ転ばせてしまうこともある、ということです。

 ついでにサバイバルナイフ、落としました。いや拾いましたけど、小さい武器を落としたのは初めてだったのでびっくり。

 

「怖くったっていいんだよ。泣いたっていいんだよ」

 

 あとなんかすっごいゆきちゃんに話しかけられてるんですよね。

 何を受けての台詞なのかまったくわからない。似た台詞は聞いたことあるな……でも場面が違う。

 

「ゆいちゃん、いっつも我慢してるよね」

 

 待ってね。いやほんと待って!

 今すっごい必死にシャッターに取りつく「彼ら」処理してるから!

 ていうかできる限り離れていて欲しいんですけども。1匹でもそっち行かせたらまずい!

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……(無言プレイ)。

 

 

「こんな時なのに、全然弱音を吐かなくて、それは凄いし、強いなって思うけど……でも!」

 

 ……。

 

「……いいんだよ。ひとりきりで頑張らなくたっていい」

 

 ラストォ!

 全部やっつけました。優衣ちゃんの体はもうボロボロや。

 炎に巻かれて体力はギリギリ、ゆきちゃんとくっつき続けていたので精神値も僅か。水で補っていた空腹値も完全に削られて明滅しております。

 しかし! このシャッターを開きシェルターへ入ってしまえばエンディングはすぐそこ!

 床でも見て進めばなんの問題もないんですよ!

 

「…………」

 

 じゃあシャッターを開け、開け、開け。

 ……振り返るような入力はしてないぞおい。

 

 

「お腹……空いた……」

「えっ?」

 

 

 アア、オワッタ。

 




次回は明日か明後日かしあさって。
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