【完結】がっこうぐらし!モールスタートめぐねえエンドSランク縛り【MGNEND】   作:月日星夜(木端妖精)

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そろそろ……エンディングは近いようだな!
このチャプターには、あらゆる運命がかかってる! 最高のRTAだな……!

初投稿は一度きり……。

学園生活部の運命は、僕が変える!
「彼ら」の運命は、俺が変える!




11最終日ラッシュ2

 

 

 

──優衣ちゃん、いいんだよ。

 

 振るったナイフが「彼ら」を裂いて、飛び散ったものが床を汚す。

 焦げた臭いと、取り落とさないよう強く握りしめたせいで痛む手の感覚が、頭を冴えさせていた。

 

──怖くたっていいんだよ。泣いたっていいんだよ。

 

 あんなにたくさんいた「彼ら」も、頑張って動き続けると、いつの間にか全部死んでいた。

 何かに突き動かされるみたいに、無我夢中で、よくわからない世界の中にいた。

 すごく疲れた、けど……ゆきちゃんを守れたし、いっか。

 

──優衣ちゃん、いっつも我慢してるよね

 

 ……。

 バックからお水を取り出そうとして、何も残ってないのに手を彷徨わせる。

 それを、首へ当てた。喉が渇いていた。

 

「……いいんだよ。ひとりきりで頑張らなくたっていい」

 

 ナイフを、仕舞う。空いた手になんだか違和感を感じて、何度か握ったり開いたりした。

 

 振り返る。

 座り込んで、足を押さえて痛そうにしているゆきちゃんがいる。

 それ以外、怪我は無さそう。よかった。ちゃんと守れた。

 これでわたしは、ちゃんと、ゆいだ。

 

 ね。

 ひとりでも、だいじょうぶ、よ。

 

 ……あ。

 なんにも喋らないから、ゆきちゃん、それがわからないんだ。

 ちゃんと喋ろう。そうすれば、けいちゃんみたいに、みきちゃんみたいに、お喋りできると思う。

 

「……わたし」

 

 ……うん。声、ちゃんと出た。

 でも、すっごく喉が渇く。……何か飲みたいな。

 

「……わたしは、……、……だから。ゆきちゃんのこと、守らなくちゃ、だから」

「ゆいちゃんは、すごいよ。それでほんとにわたしのこと、守ってくれてる。みんなのこと、助けてくれてる」

 

 痛そうにしながら立ち上がったゆきちゃんが、まっすぐわたしを見る。

 視線が合ったのに、嫌ではなくて、見つめ合った。

 

「でもね……大丈夫なんだよ? そうしなくたって、いいんだよ」

 

 それって……どういう意味?

 助けなくて良かった、ってこと?

 

「無理しなくていいんだよ。わたし、頼りなく見えるかもしれないけど……一緒に頑張ろう?」

 

 だめだよ。

 わたしが、守ってあげるから。

 優しくしてあげるから、それ以外のことはしちゃだめだよ。

 

 

優 衣 ち ゃ ん が 優 し い 子 だ っ て こ と

 

先 生 は ち ゃ ん と 知 っ て ま す か ら ね

 

 

 ……わたしは、優しいこ、だから。

 優しいこでいなくちゃ、だから。

 

 じゃなきゃ、めぐねえは、知らない。

 優しいわたしじゃなきゃ、めぐねえは、知らないの。

 

 みきちゃん、けいちゃん。

 学年が下のこを守るのは、優しいせんぱい。

 

 るりちゃん、せいよちゃん。

 子供を守るのは、優しいおとな。

 

 たろー、まる。

 動物に優しくするのも、優しいこ。

 

 おかあさんが死んじゃったら、泣いてあげるのも。

 それが優しいこの条件だから。

 

 

 わたしは、千翼優衣、だから。

 おかあさんの子供でいるには、約束を守らなくちゃいけないの。

 

 ゆきちゃん。どうして「いい」なんて言うの?

 おかあさんの子でいちゃいけないの? ほんとのおかあさん以外はだめなの?

 すきって言うのはだめ? だいすきって思うのは、だめ?

 

 やくそく、よ。

 生きて。新しいしあわせを見つけて。笑顔でいてね。

 

 ……わたしは、悪いこだから。おかあさんとの約束、守れなかった。

 

 生きるのは辛いよ。おかあさんがいないんだもの。

 しあわせって何かわからないよ。難しいことは、わからないの。

 笑顔は得意じゃないよ。笑いたくなることってないもの。

 

 

 でもね、わかったの。

 まだ、わからないことも多いけど……。

 

 めぐねえは……わたしに、優しくしてくれたから……。

 おかあさんとおんなじくらい、優しくしてくれたから……。

 

 だからすき。

 

 だから、会いたいの。

 

「えっ……?」

 

 ……?

 

「ゆ、いちゃ……なに、言ってるの……?」

 

 ……。

 変なこと、いったかな。

 

 ゆきちゃんにとってはそうなの?

 人をすきになるのは、ヘンだ、って……。

 だれかを愛するのは、いけないっ、て……。

 

 

 どうしてそんなこというの?

 

 

 ゆきちゃん、優しくて良いこだなって思ってたのに。

 会いたくて仕方ないくらい、すきになってたのに。

 

 だから。

 

 だから。

 

 …………あ。

 

 

 ……。

 

 

 ……。……。

 

 

 …………お腹、空いたな……。

 

 

 

 

 ゆいちゃんは、頑張りすぎだと思う。

 ううん、こんな状況なんだから、いくら頑張っても頑張り足りないくらいだとは思うけど……。

 

 それでもやっぱり、ゆいちゃんは頑張りすぎだと思う。

 もっとみんなに頼ってもいいと思う。

 

 大人しい子だからか、なんにも言わないけど……本当はきついんじゃないかな、って考えて。

 だから、聞いた。……燃える校舎の中で、たくさんの「彼ら」と戦うゆいちゃんに向けて。

 

 タイミングは変だったかもしれないけど、ここで言わなくていつ言うんだ、って考えたら、勝手に喋り出していた。そうしたら、だんだんゆいちゃんの様子がおかしくなっていって。

 

「えっ?」

 

 ふらふらと寄ってきた彼女に抱き着かれた。そうと感じた時には押し倒されていて。

 本当に様子が変だ。ゆいちゃん、どうしちゃったの……!?

 クァ、と口を開く音が耳元で聞こえて、一気に怖くなった。

 

「ゆいちゃっ、やめてぇっ!」

「……!」

「ぃぎっ……!? あ、あっ……!」

 

 腕が熱くなった。そう思ったら、すぐ痛くなって──ああ、食べられたんだ、ってわかった。

 二の腕にぽっかりと穴が開いているのがわかる。……それ以外は、わからなかった。

 だって、痛い……ううん、熱い? あ、寒い、かも……。

 

「あっ、あっ、あっ」

 

 何度もゆいちゃんの頭が動いて、肌に張り付く唇の感触がはっきりとあって。

 頭の中がぐるぐるして、ふと思い出した。

 そういえばめぐねえが言ってたな……。ゆいちゃんって……人が、食べたくなっちゃう時もある、って。

 

 それって。

 

 

 ──それって、どれだけ辛いことなんだろう。

 

 

 だって、人が食べたいのに、周りにはたくさん人がいて。

 それでも我慢して、わたし達を守ってくれてた。

 今こうなっちゃってるのは……もう、我慢しきれなくなっちゃったからなんだ。

 

「う、くっ……」

 

 わかってる。わかってなかったかもだけど、でも、わかってるよ。

 ゆいちゃん、人が食べたいんだよね。でも「彼ら」とは違うんだよね。

 

 手を伸ばす。食べられてるのとは反対の手を、背中に回す。

 そっと撫でる。

 

 一心不乱にわたしを食べてたゆいちゃんは、動きを止めて、はっきりとわたしを見た。

 

 ほんとは……いやだよね……こんなの。

 だってゆいちゃんは。

 

 ──優しい子だから。

 

「あ……」

 

 口の周りを真っ赤に汚したゆいちゃんは、目を大きく開いて、瞳いっぱいにわたしの顔を映し出した。

 背中を撫でる。

 かすかに動くゆいちゃんの口からぽたりと零れた血が、ちょっと冷たかった。

 

「食べていいよ。お腹、空いたんだよね」

「で、でも、ゆきちゃ……い、いたく、ないの?」

 

 目をつぶる。

 強張っていた体から力が抜けていく。

 どくどくと脈打つ腕の感覚も、どこか遠くにあって、痛みとかは全然なくて。

 

 ただ、お腹が空いてるんだな、わたしが食べたいんだなって思ったら……こうしたくなった。 

 

「……」

 

 頬にかかる手がぬるりと動く。

 両側から挟まれて、撫でるような動きに薄目を開く。

 

「ごめんね……ゆきちゃん、ごめんね……」

 

 いたいよね。あたりまえだよね。

 わからなくってごめんね。食べちゃって、ごめんね。

 

 呟くように、囁くように、ほんの小さな声で……目に涙をためて、ゆいちゃんが言う。

 

「なか……ないで」

 

 ゆっくりと、背中を撫でる。

 きっと今、ゆいちゃんの心だって痛いんだ。

 

 ……痛いよね。ゆいちゃん、痛いよね。

 

「みんな、同じだよ。痛くて、辛くて、苦しくて……けど

 ここまで頑張ってきたんだよ。もうひとふんばり、がんばろ?」

 

 大丈夫。わたしたちは、いつだって支え合って、助け合って、生きていくって決めたんだから。

 こんなのへっちゃらだよ。

 

 微笑みかけると、ゆいちゃんはすんって鼻を鳴らして、つらそうに何かを飲み込んで、喉を鳴らして。

 

「……もっと食べていい?」

 

 

 

「いいよ」

 

 そう答えると、ゆいちゃんはぶんぶんと首を振った。

 だめだよ、って。そんなのだめだよ、って。

 

「食べたいなって思うのは当たり前のことだよ」

 

 ふるふると首を振るゆいちゃんから零れた涙が、熱かった。

 

「だから、いただきますって言うんだよ」

 

 ぽたぽたと降る涙が愛おしくて、自然と笑みが浮かんでくる。

 でも、ちょっと、目の奥が暗くて……だんだん自分で何を言ってるのか、わかんなくなってきた、かも……。

 

「ゆきちゃん……先生(めぐねえ)みたい……」

 

 いつも静かで平坦なゆいちゃんの声が、上擦って、跳ねていた。

 なんだか珍しい……そういう風に考えるのはひどいかな。

 

 なんとか腕を持ち上げて、両腕で優衣ちゃんを抱きしめる。

 されるがままに胸へ抱かれたゆいちゃんは、やっぱり震えて、泣いていて……でも、へんに我慢してて、泣き方がわからないみたいだった。

 それが──よく、わからないけど……とろとろと腕から流れる血もなんともないくらいに……、……。

 

 頭を撫でる。

 それから、肩を押して、顔を合わせて。

 前髪を上げて、額にキスをする。

 

 ゆいちゃん、気に病むことなんかなんにもないんだよ?

 わたしは、全然へいき。

 

「っ!」

 

 ばっと立ち上がったゆいちゃんが、何かを堪えるような顔で離れて行く。

 それを追うために立ち上がる気力は……さすがになかった。

 ううん、違う。立ち上がろうとしたけど、体に力が入らなくて……ふわふわしてて。

 

 校舎の燃える音と、ずっと遠くで響く警報の音だけに包まれていた。

 ああ、だから、か。

 

 わたしたち、結構騒がしくしたと思ったんだけど……きっと、避難区域っていう場所……ゆいちゃんが目指してた、地下……目の前の、「彼ら」が群がっていたシャッターの先。

 開いていたはずのそこが閉まってるってことは、きっとみんな、あそこにいるんだよね。

 でも気付いてもらえてないみたい。まだ……シャッターの開く音はしない。

 

 サイレンの音が邪魔だったのかな。時々起こる爆発の音が、邪魔だったのかな。わたしたちがいるってこと、きっとめぐねえ達に届いてない。

 

 ……じゃあ、ここで、終わり?

 ゆいちゃん、あんなに頑張ってたのに……熱くて、痛くて、苦しいのに……。

 

 ああ、寒い。とっても寒いよ……。

 

 ……でもね。

 さよならも、ばいばいも、しないよ。

 

 前の雨の日の時は、諦めかけちゃったけど。

 今は、助けてくれるたかえちゃんも、りーさんもいないけど。

 だったら今、わたしが、頑張らなくちゃ。

 ゆいちゃんを、せめて、助けてあげなくちゃ。

 

 目をつむる。

 ……あ。あ、だめかも。

 今つぶっちゃったから、元気になるまでもう一回目を開けるのは、無理そう。

 

 息を吸う。

 ……吸えてるのかわからない。

 わからなくても、やろう。

 

 大きな声で、ううん、もっと……すごく、いっぱい!

 かなり! 叫んで! みんなに伝えて! とどけて!

 

「みんなーーっ!! あけてぇーーっ!!」

 

 「わたしたちは、ここにいます」って。

 

 

 

 

「み……な……」

 

 掠れた声で助けを呼ぶゆきちゃんの声で、意識が浮き上がった。

 

 駆け戻って、抱いたゆきちゃんは、青白い顔でぼうっとしていた。

 いっぱい齧ってしまった腕も、もう血は止まってるのに、全然元気じゃない。

 揺らしても、声をかけても、なんにも言ってくれない。

 いつも笑ってた顔が、今はなんにもない。

 

 それが悲しくてたまらなかった。

 

「ゆきちゃ……っ」

 

 誰かのために涙を流したのは久しぶりだった。

 最初のおかあさんが死んじゃった時と同じくらい……悲しいのかもしれない。

 だって、ゆきちゃんの未来が消えていく。私の腕の中で、熱と一緒に、命が、想いが、消えていく。

 

 こんなの、あっていいことじゃない。

 

 わたしが……わたしのせいで。

 こんなの、優しいこじゃない。

 こんなの……わたしじゃない!

 

 ……そんなのどうでもいいの!

 優しいこじゃなくてもいいの、ゆきちゃんが元気じゃなくちゃだめなの!

 

「ぅぁ……」

 

 もっと強く揺らすと、かすかに声が聞こえた。

 でも、たぶん、これはだめなやつだ。

 あんまり揺らしちゃだめなんだ。

 

 壁の方へ連れて行ったゆきちゃんをもたれかけさせる。

 お腹の上に両手を置いて、ほっぺについた汚れを拭う。

 拭っても拭ってもべったり張り付いた血はとれない。

 

「ん……」

 

 頬に舌を這わせると、きゅうっとお腹が締め付けられるような感じがして、ゆきちゃんの涙はしょっぱくて。

 きれいになった。

 ……ずれてるねこのぼうしをなおす。

 

「ゆきちゃん」

「……ひ、……ぅ」

 

 すー、すー、って、小さな風の音みたいな呼吸がこわい。

 死んじゃう……ゆきちゃんが……。

 

 ──わたしたち、これで友達だね!

 

「ぅ、う……」

 

 目を拭う。涙が止まらなくて、喉が辛くて、息ができなくて。

 頭を振る。胸のクロスを強く握って、はっとする。

 乱暴に外したクロスをゆきちゃんの手の中に押し込んだ。ぎゅうっと握らせて……お祈りする。

 

 しなないで。しんじゃやだよ。

 ……このお守りがあれば、生きるのが辛くても、何をしていいのかわからなくても、夜の部屋の暗闇も平気になれる。

 きっと、これがゆきちゃんを守ってくれる。

 

 顔を上げる。それから、シャッターの方へ駆け寄った。

 開けようとして触れてみたけど──っ、熱くてすぐに手を離してしまった。

 これじゃ、開けられない……。

 なら、なら、ゆきちゃんみたいに呼びかければ。

 

「あけてっ」

 

 小さな声。それくらいしか出なかった。こんな声じゃ、ぜったい届かない。

 でも、おかあさんなら……めぐねえになら、届いてほしい。とどいて。

 

「ぅっ、く……ぁ……」

 

 弱まってくゆきちゃんの気配。かすかな声。

 溢れてくる涙に、頭を押さえて首を振る。

 だめだよ。こんなの、だめだよ……!

 

「っ!」

 

 シャッターを開けようにも、やっぱりフライパンみたく熱くて、触れない。

 だから頑張って大きな声を出してるのに……!

 

「あけて……っ。あけてっ、あけてっ、あけてっ」

 

 声が、出ない。

 おっきな声の出し方がわからない。

 だって、今までそんな風に声を出したこと、ない。

 

 必要がなかったから。相手がいなかったから。

 大きな声を出すひとは、悪いひとだから。

 

 どうすればいいの? こんなの、どうしたら……。

 右を見たって、左を見たって、答えなんてどこにもない。

 きっと教えてくれる人は、このシャッターの向こうにいる。

 

 わからない。

 わかんない。

 

 わたし、どうしたらいいのかわからないよ。

 

 悲しくて、うずくまってしまいたくなるのを、制服の裾を掴んでたえる。

 もっと声を出さなきゃ。もっと、がんばらなきゃ。

 

「めぐねえっ……あけてっ、あけてっ」

 

 にこにことしためぐねえの顔が浮かぶ。

 

「おねがいっ、あけてっ」

 

 眉を寄せて、半目になってわたしを見つめるみきちゃんの顔。

 

「み、ちゃ……けいちゃんっ」

 

 わたしの苦手なこと、だめなことも、いいよって言ってくれたけいちゃん。

 

「どうして……っ」

 

 怖いけど、ほんとは優しい同級生(たかえちゃん。くるみちゃん)

 頼りになるお姉さ(ゆうりさん)ん。やんちゃだけど、いつだって元気づけてくれた子供達(るりちゃん。せいよちゃん)

 そして──わたしの、初めての友達。

 

 必死に頭を巡らせて、考えて、考えて、考えて。

 吐く息が熱くて、甘い匂いがいっぱいして、お腹が空いて、頭がぼうっとして……。

 

「っ!」

 

 炎の爆ぜる音と、煙の臭いの中にいやな気配を感じて振り返る。

 廊下の向こうから「彼ら」がやってきていた。

 ナイフを抜く。悲しみを超えて違う感情(こころ)が浮かんでくるのを感じた。

 

「じゃまするな……!」

 

 駆けて、飛んで、首を切る。

 着地して、振り返って、膝の裏を蹴る。

 転んだ「彼ら」の首へナイフを突き立てて、足をかけて抜く。

 

「……、……。………………」

 

 ゆきちゃんからできるだけ離そうと端の方へ押しやっていると、もう一匹きた。

 頭が真っ白になる。息が詰まって、体中が硬くなって──。

 

「いいかげんに……!」

 

 何回も刺した、制服姿の「彼ら」を炎の中に押しやる。

 そうしている間に、体のなかに満ちていたよくわからない何かはなくなっていた。

 おんなじように、ナイフも根元だけを残して壊れた。

 

 立ち上がる。力を抜いた手から落ちたナイフが音を立てて、それが、答えな気がした。

 

 ……そうだ。

 ゆきちゃんは……いいんだよ、って言ってくれたけど。

 ……やることは、変わらない。

 

 友達だから。 

 "友達のゆきちゃん"には、まだなんにもしてあげられてないから。

 

 ……優しいこでいるには。

 ……代わりに怖いこと、痛いこと、してあげないと。

 

「……ゅ、ぃ……」 

 

 そばを通ったとき、名前を呼ばれた気がした。

 立ち止まらず、シャッターの前に立つ。

 胸に手を当てて息を吸う。吐く。

 

 シャッターに両腕を押し付けた。

 

 

「うぅあああああああああ!!!」

 

 腕が焼ける。

 熱い。痛い。はなれたい。

 

「あぁあああぁあああああああ!!!!」

 

 だめ。大きな声、出さなくちゃ、なんだから。

 こうでもしないと、わたしは大声、出せないんだから。

 

 少しでも痛みから逃れようと上を向いて、逃げようとする体を押さえ込むように前に傾く。

 自分のもののはずなのに、全然違うふうに聞こえる声に……。

 

 ダダダダッと激しい足音が混じった。

 

 シャッターが揺れる。そう思った時には上がり始めていて、離れると、一気に開けられた。

 

「ぐぅうううあっ! ──優衣ちゃんっ!」

 

 めぐねえだ!

 手の平と腕とでシャッターを押さえためぐねえは、すぐわたしの腕を取った。刺すような痛みに体が勝手に反応してしまって、思わず腕を引く。

 

「つっ、う!」

 

 それはめぐねえもおなじだった。……めぐねえも、手でシャッターに触ってたからだと思う。めぐねえは、赤くなった手を庇いながら、それでもほっと息を吐いた。

 

「優衣先輩っ!!」 

「せんぱいっ!」

 

 あ、みきちゃん……けいちゃん。

 屈んでくぐり抜けてきた二人が私の手を見て悲しそうな顔をする。

 何かを言おうとしたみきちゃんのすぐ横を、たかえちゃんが駆けて行った。

 

「由紀!!」

 

 ……ゆきちゃん。

 わたしのことなんてどうでもいいの。

 ゆきちゃんが……。

 

 めぐねえと、くるみちゃんも外へ出て、ゆきちゃんを連れてくる。

 避難区域へと入ると、すぐにシャッターは下ろされた。

 

 やっと、ここまでこれた。

 そう思ったけど……みんなの顔が暗くて、何も言えなかった。

 

 

 

 

 このままエンディング入っていースか?(コキ……)

 

 ……いや、なんか……ゆきちゃんモグり始めた時はどうなるかと思いましたが、信頼イベが起こったおかげで難を逃れましたね。

 それでもって本来消火器や水が必要なシャッターを強行突破しました。火傷のバステがつきますがもうすぐエンディングなので関係ないね。

 

 全てがおじゃんになるかと思っていたのでここまでこれて小躍りしているのですが、なぜかみんなの顔色が優れません。どうしたんでしょうかね~。

 ……はい。ゆきちゃんが「彼ら」に噛まれたと思ってるんですね。

 ここら辺で全力で口を洗いたいんですけどもー……水、あの、下の階に行かせてもらえませんか……浸水した場所で寝転がれば大抵の汚れは落とせますからね。

 

「優衣、ちゃん……? その、その、口の……」

 

 ぎゃあ! こそこそ移動してたらりーさんに気付かれました!

 やべえ! 連鎖する視線! ゆきちゃんを襲った犯人が誰か判明してしまいます!

 

 ……いや、大丈夫! 大丈夫だ! 学園生活部との絆を信じろっ!!

 

「お前っ! まさか由紀をっ……!」

 

 だめみたいですね! くるみちゃんに胸倉掴まれて壁に叩き付けられました。あかん死ぬぅ!

 処刑じゃ……処刑の時間じゃ……。

 

「待って……くるみちゃん……」

「ばか由紀、喋るな!」

「ううん、あのねっ……ちがうの」

 

 お、チョーカーさんの制止を振り切って、復活したゆきちゃんが弁明をしてくれるみたいです。

 

「お腹減ってるみたいだったから……わたしが、食べてってお願いしたの」

 

 う、うーん? それ苦しくないですかね……。

 案の条みんな「それはない」って顔してます。子供達とか露骨に人の影に身を隠してます。

 めぐね……めぐねえの顔から感情という感情が抜け落ちとる。

 

「そ、んな」

 

 膝から崩れ落ちるめぐねえ。何事かと手を離すくるみちゃん。

 今や! そそくさと下の階へ移動します。イベント会話? 無視だ無視だ!

 首吊り氏体から「車の鍵」さえゲットしてしまえばこっちのもんです! 奥の部屋へ突撃ィー!

 

 ……。

 ……えー、氏体がありませんね。

 そういうパターンかー……あれですね。主人公不在で生活部がここへ辿り着いた時、たまにそれを片付けちゃうことがあるんですよね。

 そうなるとこっちでできることってなんもない。みんなで探し始めると不思議と鍵だけ生えてくるので戻ってイベントを進行させるとしましょう。

 

 足元の水で口の血を落とします。放っておくと事故のもと。最後まで油断しない走者の鑑ですね。

 

 あ、廊下の棚から「水入りペットボトル」と「ホワイトチョコレート」「消毒液」「包帯」「ガーゼ」等のアイテムを持って行きます。

 この状況で手ぶらで帰ったら話の中心人物の癖に途中でふらっと抜け出してふらっと戻ってくる精神異常者になってしまいますからね。そうなったらさすがに終わりよ。

 

「先生! こんな時に貴女がそんなのでどうするんですか!」

「あ……」

「っし、血は止まってるな……由紀、意識ははっきりしてるか?」

「うん……」

「優衣先輩! あのっ、う……」

 

 B1Fに戻ると場は混沌としてました。りーさんがめぐねえの腕を掴んで立たせようとしてるのメチャコワなので壁際すれすれを歩いて反応されないようにしつつ、くるみとチョーカーさんが診ているゆきちゃんの下へ駆け寄ります。話したそうにしているみーくんはこっちが何もしなくとも道を譲ってくれました。さあゆきちゃんを助けましょう!

 

 厳しい目で見られますが、接触の妨害はされませんでした。抱えていたアイテムのおかげでしょうかね。

 

「これ……」

「……ああ、ありがとな」

 

 くるみちゃんは何も言わず、チョーカーさんが険しい顔つきでお礼を言ってくれました。声ひっく!

 消毒し、包帯を巻き、チョコを食べさせたことでゆきちゃん復活! ……とはいきませんが、まあこれで安定でしょう。なぜか既に血が止まっていたのでガーゼが無駄になりましたがまあいっか。

 

 こうしたように部員が負傷し、かつ奥の部屋に首吊りが無い場合、休憩時間を挟まないと探索が開始されません。ので、壁に向かって真正面からくっついて視界を潰しつつ待機しましょう。

 

「優衣ちゃん、優衣ちゃんっ!」

「……めぐねえ」

 

 お、復活したらしいめぐねえがやってきました。肩を掴まれ、頬を両手で挟まれて顔を上げさせられましたね。

 感染の確認をしてる時みたいだぁ……。取り出したハンカチで口元を拭かれました。お? お? 血残ってましたかね?

 

「ごめんね……!」

 

 なぜか抱き締められる優衣ちゃん。おー……わからん。なんもわからん。

 体を離しためぐねえはさっと優衣ちゃんの頭をひと撫ですると、由紀ちゃんの傍に屈みました。そのまま動かなくなりましたね。

 

「……あのね、ゆいちゃんは、悪くないよ……」

「わかってる。わかってるから、今は休んどけ」

「ん……」

 

 ぽつぽつと話す由紀ちゃんの額に濡らしたハンカチを乗せるチョーカーさん。

 あとは時間経過するのを待つだけなので、倍速。

 

 ちなみにさっきからぐすぐす聞こえるのは優衣ちゃんが泣いてるからでした。





こんなのRTAじゃないわ! ただのSSよ!

三日以内に更新できたら格好良いと思うんですよね、私。

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