【完結】がっこうぐらし!モールスタートめぐねえエンドSランク縛り【MGNEND】 作:月日星夜(木端妖精)
それも
あんたが始めたSSは、娯楽を求める読者の希望の銀河になってるんだ。
【WR】がっこうぐらしRTA_全員生存ルート【完結】(https://syosetu.org/novel/204792/)は私達の青春銀河なので初投稿です。
なにがなんだかわからないRTAの続き、もう始まってる!
前回はバースデーイベという虚無まで、今回は夜中何が起きているかを探っていくところから。
きららチャンスは「べんきょう」でした。おお知力知力……そんなステータスは無い!
広げた参考書の上にのべーっとなる優衣ちゃんがクソ雑魚な今日この頃、精神に+1されました。やったぜ。
夜寝る前に『起きとく』を選択しましょう。
いざ、禁断のナイトタイムへ! 初体験のイベントっぽいのでドキドキしております。RTAで初体験って大丈夫なんですか?
ランプの明かりが消えると部屋の中は想像以上に暗く、少女達の寝息ばかり聞こえてきます。
そんな中、ゆっくり身を起こす優衣ちゃん。幸い左右の二人の寝相はいいのか朝みたいにがっちり拘束されてることもないですね。
んー……てっきりけーちゃんが起きてるかと思ったのですが、みんな寝てる……念のため一人一人つついて回ってみますが、やっぱり起きてない。夜のイベントじゃなかったのか……? でもけーちゃんは優衣ちゃんに見られてるって言ってたし……うーん。
これ放置したらやっぱり精神値やばいですかね? 無視して進める訳にもいかないし、かなり悩んでます。
というわけで倍速。部屋の中をうろちょろしている優衣ちゃんを背景に今回の原因を考察してみましょう。
圭のあのような言動は優衣への不信感の表れだと思われます。
つまり警戒度が高い状態になってるんですね。
……そこからしてもうわかりません。いや、だってつい先日友好度と好感度がMAXになったじゃないですか!
名前呼びも許し、その二つのステータスが下がるのも防ぎました。不審な行動なんて、せいぜいみんなの前で急に壁に向かってヘッドスライディングしだしたり、壁に嵌まってみせたり、そういえばサバイバルナイフも装備しっぱなしだったりくらいで……えー、ほら! なんもない! ね!?
「ゆい先輩」
ひゅい!?
あ、なんだけーちゃんか。一体何かと思った……うろちょろし始めてから5分ほどで圭が起きてきたみたいです。静かに振り返る優衣ちゃんに、どこか不安げな仕草をみせながらソファに移動した圭は、腰を下ろすと置いてあった鞄からCDの再生機を取り出しました。
「ゆい先輩も寝れないの? ちょっとだけ、お話しない?」
「……」
断る選択肢はないので座りに行きましょ。
仲良いアピールをしようとぴったりくっつく位置に腰を下ろしたら優衣ちゃんが勝手に座り直して体一個分距離をあけました。クソァ!
「あのね、ゆい先輩」
お、けーちゃんが何やら話してくれそうな雰囲気です。なんです? なんでみんな落ち込んでるの?
「……。ううん、もういいや」
え?
「ね、ゆい先輩。一緒に音楽聞かない?」
「……」
え、いや、それは別にいいけど……あの、理由は……理由は話してくださらないんで?
「よかった。みんな寝てるから、音量はちっちゃくね」
ふ、と安心したように笑った圭は、手元の機械を弄ると"練乳を奪いなさい"こと「We took each other's hand」を流し始めました。アニメでは4話のEDに、11話の挿入歌に使われた曲ですね。雰囲気抜群だぁ……。
「ここにあるのがヘッドホンじゃなくてイヤホンなら、片耳ずつつけられるんだけど……」
そう呟いたけーちゃんは、二、三回足を揺らすと、そっと優衣ちゃんを横目で見ました。流し目です。色っぽい。
「もっと……近くに来ても、いいよ」
「……」
そうは言っても、優衣ちゃんは接触恐怖症持ちなのでこれ以上近づけないんですよね。
あ、でもそれを考慮しなければいけるか。やや精神値が不安ですが、ずりずりと移動させて近づきます。
「もっと」
ん? ああはいはい。もうちょっとね。
「もっと」
ええ? もう精神値削れ始めてるくらいの距離なんですけど……密着しろって事ですかね?
それはさすがにきついのでもうちょっと、ちょっとだけね。
「もっと」
もう吐息がかかる距離まで近づいたのに「もっと」「もっと」と強要してくるけーちゃん、鬼畜か?
いや、あれですね、優衣ちゃんの事情を理解してないだけですねこれ。
そういえば話してなかったな。まいっかガハハ!(致命傷)
試走を何回も繰り返してるとこういう細かい事を忘れてしまって困ります。特にこのゲームはそういった些細な事でそれぞれの心理状態が変化していくので……。しかし、優衣ちゃんがバッドステータス持ちだろうがそうでなかろうが「夜中に圭と二人で音楽を聴く」というイベントは初めてですね。別のことが問題なのかも。
「……私、人に触るの……苦手」
「そうなんだ。えいっ」
話し辛そうにしながらも生来の気質と最近得てしまった決定的な精神異常を伝えた優衣ちゃんですが、おもむろに手を取られて両手で握られてしまいました。
「私でも、だめ?」
だめに決まってんだろ精神値ガリガリ削られとるんやぞこっちはぁ!
さっきからなぜか優衣ちゃんが頑張って視線を合わせようとしているので空腹値も削られてます。
も、だめだぁー。このままじゃレッドゾーン突入しちゃうよ、幻覚見ちゃう幻覚見ちゃう……。
「ううん、へいき……かも」
「そっか」
優しい嘘をつく優衣ちゃんに涙がで、でますよ……。
それはそうと、このまま離れられないでいると冗談抜きで精神値がやばいんですけど……。
まーだ、時間かかりそうですかねー?
「……うん。私も、平気」
「……?」
目を伏せがちにして囁く圭の言葉の意味はいまいち理解できませんが、持ち直したって解釈してもいいんですかね?
「……ゆい先輩」
はいはい、なんでしょ。
「……ごめんなさい。それと、いつもありがとう」
どういたしまして? 何を謝られてるのかはわかりませんが。
感謝は、優衣ちゃんに食料調達を任せっきりだからですね。こういうところがやっぱり細かい。
こちらこそ、とこっちからも感謝を伝えておきましょう。いつも暖かく迎えてくれてありがとう。フラーッシュ!
「でも、一人きりで寂しくない? ……おうちに帰りたかったりは、しない?」
「……」
ん? どういう意味だこれ……よくわかんない話運びですね。
ふるふると首を振る優衣ちゃん。帰る家はありますが誰もいませんからね。今はここが家みたいなもんです。
「え、でも家族と……か」
言いながら、それは発言すべきではない事に気付いたのか尻すぼみに消えていくけーちゃんの声。
元々優衣ちゃんの家族は一人だけだし、その一人とも一緒に来たわけなのでやっぱり家が恋しくなったりはしませんよ。
お母さんだって……あー、ストレートに伝えると精神値を削りそうなのでマイルドな表現で……そう、ここではぐれてしまいはしたものの、みんながいるから寂しくはないよ、と。
「はぐれて……」
口の中で呟くように言ったけーちゃんは、窺うように優衣ちゃんを見ると、躊躇いがちに「見つかるといいね、お母さん……」と言ってくれました。
とりあえず頷いておきましょう。
「……。そろそろお布団に戻ろっか」
音楽が止み、微笑みかけてきた圭が立ち上がります。
っと、夜が明けました。今のでイベントは終了したみたいで、優衣ちゃんは布団に戻ってます。
もぞもぞ起き出すと、すでに起きていたみーくんとけーちゃんが笑顔でご挨拶してくれました。うん、いい雰囲気!
圭はりーさんみたいにサイレント発狂をかますタイプではないので、これで解決したと思っておきましょう。
そもそも警戒度が上がりにくく、友好度や好感度が下がりにくいキャラなので不穏なイベントが起きた事には少々驚きましたが、無事に乗り越えられましたね。
みーくんの顔色も悪くありません。いつもはみーくんにけーちゃんが影響される形なんですが、今回は逆だったようです。
るーちゃんとせーちゃんはどうでしょうか。眠そう。
お、優衣ちゃんの精神値がかなり回復してますね。さっきのイベの恩恵かな?
状況を改善する形のイベントだったのがこれで確定しました。一件落着!
おはようございまーす! 朝でーす!
「優衣先輩、それ二回目です」
「挨拶は何回だってしてもいいんじゃない?」
そうだぞ。おはようやおやすみは大切ですからね。しつこくしつこく言ってくぞ。
さて朝ご飯。本日もレトルトご飯にレトルトカレーとレトルトサラダなレトルト三昧。ゲシュタルト崩壊してきた……。雰囲気も良いので精神値がもりっと回復。よし!
部屋の中は薄暗いですが、単純に天気の問題なのでみんなの精神値の影響ではないです。
ゲームの節目7日目の「あめのひ」。
学校同様このモールにも雨宿りしようとどうにかこうにか侵入してきた「彼ら」のせいで低階層の敵の数が増えてます。じゃけん気を付けていきましょうね~。
食料調達に出る前に、ちょっと不安なのでけーちゃんに話しかけに行きましょ。
チラッチラッ。どう? ヘアゴムちゃんと使ってるよ。
「ふふっ、先輩かわいっ」
とのこと。スカートをつまんでフリフリ照れ照れする優衣ちゃんはたしかにめんこい。
それじゃあ、行ってきます。
部屋を出たら倍速。やる事はやっぱりいつもと変わりません。
この5階でかつて生存者であった「彼ら」がいずれかの部屋の内側からばんばん扉を叩いてますが無視でいいです。ちょっかいをかけなければ出てきません。
倍速してる間暇なので特に必要のない情報でも喋る事にしますね。
このゲーム既プレイの兄貴姉貴達は、モールからゲームを開始してチャプターを進めるとやたらしつこく追いかけてくる「彼ら」がいるのに気づいたでしょうか。
そんなのいたっけ? という方、ご安心ください。この「彼ら」はいたりいなかったりします。
というのも、ゲーム開始時の「しつもん」によって特定の境遇となった主人公にのみ現れる特殊な敵なのです。
通常プレイだとチャプター4くらいから、早いとチャプター2の時点で発生し、以降は探索中こちらを発見すると籠城部屋に帰るまで延々と追ってきます。
始末すればいいやん! と思った方、それはもちろん誰しも取ろうと思う手段です。
このゲームに登場する「彼ら」はこちらを発見する精度は違っていても、戦闘能力に差はみられません。
せいぜいちょっと硬いかな、脆いかなってくらいです。
もちろんこの追跡型「彼ら」も簡単に倒すことができます。ただし! 50ほど精神値を持っていかれますけどね。
それはなぜか。
こいつの初期位置が1階の瓦礫で塞がれた出入口付近であると言えば察しの良い兄貴ならわかるかもしれません。
もったいぶってもしょうがないので言っちゃいますが、その「彼ら」とは父か母です。
最初の「しつもん」によって様々に分岐するオープニングの中で死んだ優衣ちゃんのお母さんは、はぐれてしまった我が子をずっと探しているようですね。そして見つけると一緒に家に帰るために捕まえに来るのです。
このオープニングでいくつかの性格の時の主人公は、親が「彼ら」となったことを無意識に忘れているか、あるいは意図的に考えないようにしているか……目視した際も台詞はなく、何度追いかけられても特に反応はしませんが、倒すとそれが元々なんであったかを理解してザックリ精神値を削られます。
当然トラウマとなってなんらかの精神異常を発現させてしまうこともあり、倒すのは非推奨ですね。
幸いなことに足は速くないので油断をしなければ逃げるのは容易です。
そもそも出入口の方にいかなければずっとその辺りでうろうろしてるので問題なかったりもします。
判定は画面が切り替わる辺り。もちろん本チャートでは出入口に用はないので近づいてませんから、お母さんはまだうろうろしてる事でしょう。
探索終了! 必要最低限の物を持ったら大量の「彼ら」に見つからないよう最大限の警戒をもって帰還します。
本来は昨日のうちに両手のかごいっぱいに食料を詰めて「大ジャンプ」で帰るはずだったのですが完全に忘れてたのでちまちまやっております。「物持ち上手」が泣いてるね。
籠城部屋に帰ってきました。たっだいまー!
「わん!」
おっと太郎丸が胸に飛び込んできました。出迎えご苦労。
えー……それでだけどね。
みんなどこ行ったの?
はー。はーつっかえ。
なにこれ?
えー、部屋の中に誰もいなかったので呆然としてしまいましたが、動かなきゃ始まらないということで外に出ました。太郎丸もついてきてくれるようです。
未知のイベントなのか不信イベなのか……。みなさまに説明しますと、友好度が低く警戒度が高いキャラは2種類の反応をみせます。距離をとるか排除しようとするか、です。
「排除する」とは文字通り攻撃してきたり、所属している団体から弾かれるよう誘導してきたり。
「距離をとる」は遠巻きにして関わらないようにするほか、こうして何も言わず姿を消してしまったりします。
しかしその場合一人だけいなくなるというパターンになるので、今回みたいに全員いないってのはちょっとよくわかんないです。いや、全員じゃないか。太郎丸がいた。
……解決したと思った圭の警戒度が高くて出て行ってしまったんでしょうかね? それにみーくんがついて行った、くらいまでならわかります。あんまり遭遇したことはないですが、りーさんがるーちゃんを連れて出て行ったことはありますし。
ほんと、なんなんでしょうね……今までのプレイと違うことは……星夜が存在する事くらいなのでそれ関連かもしれないです。
……まさか「悪戯」か? でも、こんな大規模な事まで起こるもんなんですかね? そこらへん情報が無くてきついです。
ちょっと嫌な予感がしたんですけど、小学校でやったような追いかけっこをここでもやる、みたいな展開にはなりませんよね……?
リセットの四文字が脳裏を過ぎる中、急ぎ足でみんなを探して回ります。
倍速倍速ぅ!
5階にはいませんでした。
4階も……いませんね。
3階。影も形もない。
2階より下は「彼ら」が多くなってくるので行きたくないというか、みんなも下には行かないんじゃないでしょうか。
ということは、見落とした……?
「わん! わんわん!」
おっと、太郎丸が接近する「彼ら」を遠ざけてくれました。サンキュー!
もう一回上から見て回りましょう。不謹慎ながらちょっとわくわくしてたりします。……通常プレイかな?
ま、すぐ寝るかちょっとうろちょろしてから寝るかなのであんまりタイムに影響は……。うおおん。
本来こういう風に2階をうろちょろするのは明日以降にやりたかったことなのですが、しょうがないです。
3階へ急げー! 等速で急げー!
ん? 等速……?
「圭、そっち……」
「ううん、こっちは……あっ」
ここで奇跡的に話し声を拾うことができ、5階へ向かう前に戻る事が出来ました。
吹き抜けの手すりによじ登って下を覗けば、なぜか1階にみーくんとけーちゃんがいますね。柱の影で「彼ら」から身を隠しています。
るーちゃんとせーちゃんは……ここから見た限りじゃ見当たりませんね……。
あ、でもけーちゃんが発見したみたいです。指をさす先にドーナツ屋さんがあり、テラス席の丸テーブルの下に二人固まってる……ぽいですね。たぶん。ここからじゃちょっと見えにくいですが、付近に「彼ら」が多すぎて動くに動けないみたいです。
近くの「彼ら」が変な動きしてるのでおそらくゴム銃で誘導しようとしているのではないでしょうか? 上手くはいってないみたいですけど、転がるゴムの方に気を取られる「彼ら」も多いので悪い手ではないでしょう。
一方で美紀圭は微かな声でやりとりをしていて、ちょっと聞き取れませんが、おそらくどう助けに動くか相談しているのかと思われます。
優衣ちゃんがいなくても動いている……生きようと足掻いている……そこに生まれるドラマは見ていて本当に楽しいですが、走っている身としては気が気でないです。死なれたら困るんです。がっこうぐらしやってるんじゃないんだよこっちは!
「わんっ! わん!」
太郎丸が近づく「彼ら」に攻撃してくれている間にとりあえず荷物を確認。
武器はありませんがサイリウムが三つ、防犯ブザーが一つ、緊急回避用のボールペンがいくつかありました。
ほいじゃ、これで助けに行っちゃいましょうか。行っちゃいましょうよ!
「まずっ……」
「きっ、きた!」
やっばい! 余裕ぶっこいてる場合じゃなかった!!
どうにも美紀圭がピンチみたいです。まだ1階分しか下りてないのでまったく間に合わないというか、隠密してる場合じゃないね!
3階からもう一度下を覗いてみます! おらっ邪魔だ退け退け! あっうそうそ殺到しないで……太郎丸ナイスゥー! やっぱり持つべきものは……犬なんやな、って……手すりによじ登ります。
……るーちゃん達が発見されてしまったのかと思いましたが、そっちは無事なようで、おそらく助けに動こうとしたみーくん達が見つかってしまったのかな、えっ、なんでピアノの上に避難してんの……?
ん? ん? おかしいな?? そこに避難するのって既に学園生活部が来てる時だけじゃない?
彼女達が救援に来るのは明日以降……今日の「あめのひ」を乗り越えた後なのでなんでそこに避難してるのかちょっとわかんないです。フラグの関係か普段は絶対上がらないんですけど……まあいいや。
ピアノの上はちょっとした安置になっているので今のうちに下りちゃいましょう。
一度手すりの上に立って、慎重に振り返って太郎丸に「おいで」と声をかけます。
走り回って「彼ら」の気を引いてくれていた太郎丸が胸に飛び込んでくるのでそのまま落っこちましょう。
投げ出してしまわないようしっかり抱いて……ピアノの上に着地!
「なっ……!」
「ゆい先輩!?」
二人にぶつかることなく無事1階まで下りることができました。驚く二人は放っておいて、さっさと抜け出す準備をしちゃいましょう。今の着地でピアノの耐久値が相当減ってしまいましたからね。
押し寄せる「彼ら」もガリガリと耐久値を削ってきます。その残量はゲージとしては表示されませんが、鍵盤を掻き鳴らしエキサイトしている「彼ら」の奏でる音が激しくなるほど崩壊が近づいているとわかります。
耐久値が残っている限り上に乗っている人物は無事……つまり高所から落ちても骨折しなくて済むという訳ですね。学園生活部が「えんそく」に来ている、かつ美紀や圭がここに追い詰められて耐久フェーズに入っている時のみできる小技です。こんな事するくらいなら始めっから隠密行動して学園生活部と合流する方がはやいね。
ブザーとサイリウムをぶん投げてやや遠い位置の「彼ら」を誘導。るーちゃん達付近のも釣れる位置取りになるよう気を付けて……。さすがにピアノに取りついてるやつらは向かいませんね。ここら辺の判定はよくわかんにゃい。今まさに掴みかかろうとしてる「彼ら」が生存者より付近の音を優先したりする時もあるし、ない時はこんな感じだし。
ま、ちょうどいいですね。6体程狩らせてもらうとしましょう。
……武器ないんですけーどー。どうしようこれ?
ねえみーくん、けーちゃん、ほんとに私のサバイバルナイフ盗ってない?
「いえ、私は持ってないですけど……その、」
「星夜ちゃんが……!」
ふむふむ。
素早く交わした会話によりますと、ナイフを盗っていたのは星夜ちゃんで、彼女がるーちゃんを連れて部屋を出て行ったのに遅れて気が付いた二人が慌てて探索に出た、と。私とは入れ違いになったのかな?
悪ガキめ……と憤りたいところですが、これはあまり触れた事のないキャラなのにほとんど放っておいた私が悪いですね。ゆるしてミ☆
「っ!」
「先輩!!」
とりあえずゲシゲシ蹴りつけてたら足引っ張られて倒されました。あかんこのままじゃ引きずり込まれるぅ!
みーくん助けて! けーちゃん助けて! 私まだ死にたくない! ここまできてリセットしたくないよぉ!
「っしょ!」
「えい!」
みーくんに引っ張り上げてもらいつつけーちゃんが小物を投げつけて「彼ら」の気を逸らしてくれました。助かった。生きてるぅ~あっはっは!
ペッ! カスが効かねぇんだよ!
小物に気を取られている「彼ら」にスニークキルを決めてやりましょう。トゥーキック! 1体討伐。続けてもう1体! シュー! 超! エキサイティン!!
「はあ、はあっ、」
「このっ……!」
「離れてよ!」
むー……3人いれば「彼ら」の攻撃も分散されてなんとか1体ずつ倒していってますが、キリがないうえにのそりのそりと寄ってくる「彼ら」がガンガンピアノの耐久値を削っていきますね。これもう駄目かもわからんね。
ちなみにピアノが崩壊してもゲームオーバーにはなりませんが、こんな状況じゃ確実に誰か乙ります。全員生存を目指している以上それは許容できないので実質ゲームオーバーですね。やんなっちゃうね。
ピィィ──────ッッ!!
おっ!? なにこの音!
「彼ら」が注意を惹かれた先は……るーちゃん達ですね!
ちょっとどういう状況なのか……えーと、優衣ちゃんの誘導でドーナツ屋さんから「彼ら」が離れたために彼女達もある程度動けるようになったみたいですが、ピアノの上の三人がピンチなのを見てるーちゃんが笛を吹いてくれたみたいです。でもその笛がせーちゃんの首にかかってるんですよね。それでもってせーちゃんはわたわたしてます。
慌てて取り出した防犯ブザーを投げたりゴム銃で「彼ら」を撃ったりしてますがほとんど意味を成してません。
大部分の「彼ら」がそっちに動き始めたところでせーちゃんが笛を取り返したのですが、今度は向こうがピンチです。だってまだピアノにも取りついている奴がいるし、倒してから向かうのでは間に合いそうにない。
詰みだぁ^~~はっはっは!
「待って! ……なんの音!?」
「これって……」
ひょ? なんかムービー入りましたけど……瓦礫で塞がれた出入り口が映し出され、なんか音が接近してきてます。……このエンジン音は……?
「っ!」
激しい揺れと共に入り口が爆散! ハイビームが薄暗い館内に差し込み、瓦礫を吹き飛ばして赤い車がエントリー! あ……あれは……!
めぐねえカーだあああああああ!!!!!
えっ、えっ、なんで!?
混乱して優衣ちゃんが棒立ちになっていても事態は進行していきます。
けたたましいブレーキ音を響かせて止まった車に、一時的に「彼ら」の動きが止まりました。みーくんとけーちゃんがすかさずピアノに取りついた「彼ら」を蹴り飛ばしてくれます。
──実は、この車の突入、既知のイベントです。
リバーシティ・トロンの入り口は原作でもアニメでも特に塞がれていませんが、このゲームだと瓦礫が積み重なっている時があります。
その時のNPCのみの学園生活部の行動は、「入らない」一択。主人公が同行していても体格が大きいと入れません。
が、彼女達がちょうど外にいる時にホールで騒ぎを起こしたり、救援要請を送っていたりするとこうして強行突入してくれるのです。
ではなぜ私が困惑したのかというと、今日がまだ7日目だからです。
こんなに早く彼女達が「えんそく」に来たためしはありません。まさか来るとは思っていなかったのですんごい手汗が出てコントローラーすっぽ抜けて、まともに画面が見られませんでした。
車から最初に出てくるのは、最も好感度の高い相手。
「優衣ちゃん!」
ドアを蹴破る勢いで転がり出てきたのは、当然めぐねえ! 固有のカットインがかっこいい!
他の学園生活部とは顔見知りか他人なので当然ですが、やはり嬉しいっすね。めぐねえすき!
「ほんとに生きてた……!」
あ、続いてくるみも出てきましたね。彼女は親友や幼馴染設定の時以外でも共通のカットインが入ります。特殊部隊が全力で救助に来たかのような安心を得られる事請け合い。
実際、子供達が囲まれているのを見つけるとざっぱざっぱとスコップを振るって猛然と助けに向かいました。鎧袖一触……これが恵飛須沢の力かよ……!?
「めぐねえ……」
大好きな先生の登場に感極まって震え声を発する優衣ちゃん。
カメラはくるみちゃんを映してますがここら辺から既に操作可能になるので、万が一にも美紀圭とはぐれないよう手を握っておきましょう。
「めぐねえ……!」
「優衣ちゃん……それに──」
あれ、音消えましたね。編集ミスかな? 画面にノイズが……。
……あっ、えっ、なっ、優衣ちゃんの空腹値が0になってるー!?
はっや! 消耗はっや! 都合2回目の全消費なのでやや体調不良になっているようです。
まま、でもまだ暴走には程遠いので、めぐねえから視線を逸らしてガムを食べましょう。ほんのちょっとでも回復すれば問題ありません。美紀圭や子供達の方も見ないように注意…………あの……ボタン押してるんですけど……もしもーし?
「めぐねえ……たべたかった……!」
アカン(白目)。
このタイミングで操作不能状態とか、そんなことがあっていいんですか!?
あー! だめだめ優衣ちゃんピアノから下りちゃだめ! めぐねえと感動の再会&モグする前に「彼ら」に食べられて死んでしまいます! 動け! 動けってんだよポンコツ! コントローラー壊れてるんじゃないこれ! もう結構長い付き合いだし買い替えるお金もないから仕方ないね!(それは君の甘えじゃないか)
「せっ、せんぱ……!」
せっかく引き留めようとしてくれた二人の腕を、その小柄さを活かして擦り抜けてしまい、ピアノから降りた優衣ちゃん。当然「彼ら」に阻まれめぐねえの下にはいけないどころか、彼女の姿さえ見えません。
腕を伸ばし襲い掛かる「彼ら」を、もはや私はコントローラーを置いて見守ることしかできませんでした、おしまい。
「っ!」
あ、カウンターした。左前方の「彼ら」の伸ばされた腕、その指を掴んで折る勢いで突っ返し、蹴り飛ばした優衣ちゃんは、続けて腕を振るって右前方の「彼ら」の手を弾くとタックルで転ばせました。ぴょんと跳んで顔面着地。ピアノの方から息を呑む声が聞こえますね……。
起き上がろうとする「彼ら」の横っ面につま先をめり込ませるキックをお見舞いした優衣ちゃんの視線は、常にめぐねえに一直線。周りはぼやけてるのにめぐねえの青褪めた顔だけははっきり見えるんだなー(観戦者)。
「ゆ、優衣ちゃ……はっ!」
ただ、2体程度頃したところで「彼ら」を退け切ることは到底かないませんし、めぐねえだって棒立ちしていれば「彼ら」に襲われます。
それをめぐねえ、手にしていたモップ……モップの先を外してナイフを括り付けた即席薙刀のようなものを振りかぶって──
ちょっと待って。
その「彼ら」、すっごく見覚えがあるんですけど。
「やああっ!」
ザシュと首を切りつけられて、赤黒い血を撒き散らしながら倒れ行く「彼ら」。
その光景に、猛然とめぐねえの下へ向かおうとしてた優衣ちゃんの足が止まりました。
いやいやいや……冗談でしょ……? そんなガバガバコンボありえんて……!
「お、かあ、さ……?」
あ。
あ、あ。
ああああああああああああああああああああ!!??!?!?!?
□
「あああああああ──」
優衣ちゃんが、泣いている。
大きく見開かれた目に涙は浮かんでない。
人影の合間に見える彼女の顔にあるのは……ある、のは……。
なにもない。
なんの感情も浮かんでいない……いいえ、抜け落ちてしまったような……それは、なぜ?
ふと、モップが震えているのに気づく。手元に視線を落とすと、どうしてか強く震えていた。
それよりも、ずっと下。足元まで広がってくる黒い水溜まりの真ん中に浮かぶ「彼ら」の遺体……が……?
「泉…………さん…………?」
うつぶせになって、微かに揺れ動くそれは、深く傷つけられた首からトクトクと血を流していた。
◇
「っ、ぅ……」
「はい、おしまい。頑張ったわね、偉いわ」
手当てを終え、涙を堪える優衣ちゃんに、私はほとんど無意識に優しい言葉をかけていた。
ああ、いけない、これはいけないわね……。
だって、彼女は高校生なのだから、幼い子に言い聞かせるような今の言い方では気に障ってしまうんじゃないかしら。
「……っ、……」
頬を撫でた手を引っ込めると、それを追うように顔を上げた優衣ちゃんと目が合った。
金色の瞳。
とてもきれいな、透明の目。
「せん、せ……」
耳を澄まさなければ聞こえないくらいの声量で呼びかけてくる彼女に、「なあに」と聞き返す。
けれど彼女は口を閉ざして、俯いてしまった。それきり何も喋らない。
……でも、これでも前よりはましなのよね。
優衣ちゃん。……千翼優衣さん。
私が正しく彼女を個として認識したのは──こんな言い方は、教師としても人としてもどうかと思うが──初めての三者面談の時だ。
高校二年生としてはかなり小柄な優衣ちゃんは、私が待つ教室に入った時は、保護者の方の背に隠れていた。
椅子に座れば必然対面する事になるのだけど、彼女はずっと俯いていて、主に保護者の……泉さんとばかり話したと記憶している。
それから、1階の渡り廊下の裏側で、膝を抱えて泣いていたのを見つけた時。
「どうしたの」と聞いても答えてくれない彼女に、辛い目に遭ったのではないかと焦ってしまって、用事も忘れて付き添って……膝を汚していたから、転んでしまったのだと察して保健室へ連れて行った。
でも、その1度目じゃなんの意思疎通もできなかった。
今みたいに私を見上げてくれる事も無ければ、明確な言葉を発する事もない。
……嫌われてはいないと思う。むしろ好かれたんじゃないかな。でなければ、その日以来彼女が私の後をついて歩くようになった理由がわからないし、日に日にその装いが私を真似ていった説明もできない。
そういう風にいつも近くにいたから、彼女が消火器に足を引っかけて転んだ時も、すぐにこうして保健室へ連れて来ることができた。
それでわかった。私と彼女との距離は、いつの間にかとても詰められていたようだ。気弱で、人見知りをすると聞いていた彼女の方から歩み寄ってくれていた。
私は、それをとても好ましく思ったし、嬉しいとも思った。……遅れて、不甲斐ないとも。
だってそれは、本来私から行うべきことで、私が汲み取ってあげなければならないものだったはず。
彼女が話しかけてきて初めてそれに気が付くなんて……ああ、なんてだめだめなんだろう、って落ち込んでしまった。
優衣ちゃんが泣いている。
消毒液がよっぽど染みたのだろう。声を抑えて、ふるふると震えている。そうしているとますます小さな子に見えるけど……そうじゃなくて……ああでも、そういう風に接してしまう。
「優衣ちゃん、大丈夫よ」
手を取って、握って、ゆっくりと話しかける。
「痛くない。ね?」
「……」
ふるふると、微かに首を振った優衣ちゃんは、私の手の内から抜いた手を自分の胸に押し当ててきつく制服を握った。
きっと、涙が出たのは消毒液のせいだけじゃないのだろう。それは察せても、白くなった手が何を意味するのか、私にはわからなかった。
だったら、聞いてみればいい。難しいけれど、難しいことではないはず。
「ね、何か悩みがあるのかな。良かったら、先生に話してみない? ……頼りないかもしれないけど」
今の彼女なら心を開いてくれるかもしれないと……注意深く踏み込んでいった。
繊細な心が傷ついてしまわないよう、手を差し伸べて──。
「……おかあ、さんの、こと……かんがえると、胸が、くるしいの……」
少し時間がかかったけど、彼女は話してくれた。
お母さん。それは、泉さんのこと……では、ないようだ。
三者面談で会った彼女は、正確には優衣ちゃんの母親ではなく、その妹にあたる人だった。
実の母は何年も前に亡くなっているらしく、泉さんが今は母代わりを務めている。
あの時話した限りでは……見ていた限りでは本当の親子のように見えたけど、そう簡単なものじゃないのだろう。複雑な家庭環境が元の傷を抱える優衣ちゃんに怯んでしまいそうになるけど、いけない。しっかり向き合わなければ。
「優衣ちゃんは…………」
泉さんの事は、嫌い?
……そう聞こうとして、やめる。
なんとなく、首を横に振ってくれる気はするけれど……だって、彼女が泉さんを慕っているのはわかるから。
でもそれは、今優衣ちゃんの手に籠っている力を抜いてあげられるような問いかけじゃない。これも、なんとなくだけどそう思った。
自分の首に手を通す。後ろで止めたクロスを外して、優衣ちゃんの首にかける。
そうすると、まるきり小さな私が目の前に現れた。
不思議そうにクロスを見つめる彼女の手に十字の先を握らせて、手の甲を撫でる。
「それ、先生の大事なものよ」
「……?」
ぎゅ、と力が籠もり始めた手は、私の声で柔らかな手つきに変わった。
……どうやら成功したみたいね。好意を利用するみたいでちょっと嫌だけど……私の物なら大切に扱ってくれるかな、って……そっちに気を取られてくれるかな、と思ったのだけど、良かった……優しい手つきに変わっている。
「……」
やわやわとクロスを握る彼女は、両手で包んだそれを胸へ当てると、そっと私を見上げてきた。
その手の上へ私の手を重ねる。……あんまり上手く言えないことが余すことなく伝わるように。
「しー、あーわーせになろー」
「?」
目をつむって歌う。ゆっくり、はっきりとしたリズムで。
ほんの僅かに首を傾げる彼女の動きを感じても、照れや何かは生まれなかった。
「えがおで
ゆっくりと目を開く。
優衣ちゃんは、目を逸らさないで耳を傾けてくれているようだった。
懐かしそうな顔をしてるなって……わかる。あんまり変わらない表情が、いつも伏せがちな目が優しく細められている。
私にとっても懐かしい歌だけど……やっぱり、今の子にとってもそうなのね。
聴いたのは小学校の頃? 私は、そうだった。
中学に上がっても、高校に上がっても、よく聞く曲だった。
目を閉じる。ゆっくりと吐き出す息に歌を乗せる。
そうすれば、伝わり辛い気持ちも上手く伝わる気がした。
彼女の気持ちだって、わかる気がした。
「かー、なーしい……こと、もー……」
「えがおで
ゆっくり左右へ体を揺らすと、つられて優衣ちゃんの体も揺れて、導くように歌が続く。
彼女の声はやっぱり小さくて、ちゃんと聞こうとしないと聞こえないけれど……。
……とっても上手ね、優衣ちゃん。
心からの称賛に、優衣ちゃんははにかんで……きゅ、と私の手を包んだ。
「──あああああああ」
──……。
優衣ちゃんが、泣いている。
真っ白な顔に表情はなくとも、痛いくらいに伝わってくる悲しみが、嘆きが、私の心を震わせた。
だから、腕が震えている。足が震えている。
体が、動かない。
「めぐねえっ!!」
慟哭を切り裂くように恵飛須沢さんが叫ぶ。
はっとして顔を上げれば、「彼ら」は優衣ちゃんの声に引き寄せられて動き始めていた。
「っ!」
慌ててモップを振るって、その先についたナイフで「彼ら」を薙ぎ払う。
緩慢に振り返る者の足を払い、切り付けて、突き刺して、掻き分けて。
立ち尽くす優衣ちゃんの下へ辿り着いた時、恵飛須沢さんのいる方から笛の音が響いた。
「先輩っ!」
「ゆい先輩!」
ピアノの上に避難していた女生徒達が下りて駆け寄ってくる。その道を切り開くためにモップを振るって「彼ら」を退ける。
夢中でそうしているうちに合流して、少しずつ下がって、伸ばされる手を掻い潜って、優衣ちゃんを守って──。
私達は、車の中にその身を押し込んで、どうにかこうにかショッピングモールから脱出した。
ある程度進んだ先にあるガソリンスタンドに車を止めて、ようやっと一息つく。
狭い車中から零れ落ちるように外へ出る彼女達を横に、私は一も二もなく後部座席に体を押し込んで優衣ちゃんの様子を見た。
「はっ、はっ、はっ、」
モールにいた時とは打って変わって青白い顔をして浅い呼吸を繰り返す彼女は、いくら声をかけても反応しない。──精神的なショックが強すぎるのだろう。無理もない。だって目の前で──。
「っ、っ!」
ぐ、と息を呑む。口の中に広がる苦いものに険しい顔になるのを自覚しながら、優衣ちゃんの手を取って呼びかけ続けた。
「……あ」
その甲斐あってか、彼女の目がはっきり私を捉えた。身動ぎもして、雨を含んだ風で髪が口にかかると嫌がるように首を振った。
一瞬広がる安堵に、まだ安心なんてできないと気を張り直す。開いたままのドアをそっと閉じた。
「……、」
聞こうとしても聞こえない声量で何事か発する優衣ちゃんに顔を近付ける。
「…………」
声は、する。でも内容がわからない。
ただ、ゆっくりと両腕を上げた彼女が私を求めているように感じたから、重なるように抱き締めた。
肩にかかる彼女の喉が震える。
耳元でなら、さすがに言葉は聞こえた。
「……お、かあ、さ……」
……。
………………。
…………………………。
気を失うように眠ってしまった優衣ちゃんを横にしてあげて、外へ出て窓越しに寝顔を見下ろす。
それから、ベコベコにへこんだボンネットを撫でていると、女生徒の一人が話しかけてきた。
「優衣先輩の具合は、どうですか?」
不安げな表情。優衣ちゃんの事をとても心配しているのがわかる。
……あの時の電話で言っていた、一緒に避難している人とは彼女達の事だったのね。
外傷はない事と、今は眠っているだけだと伝えると、女生徒はほっと息を吐いた。
「あの、助けてくれてありがとうございます。直樹美紀、です。巡ヶ丘高校二年。あなたは、優衣先輩の……お母さん……親御さんであってますか?」
「……いいえ。私は教師よ。あなたたちと同じ巡ヶ丘の国語教師」
やっぱり、知らない人からすると私と優衣ちゃんってそういう風に見えてしまうものなのね。泉さ……、……。
……。
やんわりと訂正すると、彼女……直樹美紀さんは怪訝そうな顔をして「でも、たしかに優衣先輩は「お母さん」って」と呟いた。
……そのことは、話すべきか。……いいえ、今は……やめた方がいい。私とて心の整理がついていないし、学校に戻って、落ち着いてからでも遅くはないはずだ。
「……では……ひょっとして、優衣先輩が言ってた「佐倉慈」先生……?」
「それって遺書の人?」
「いしょ……? えっと、そう、佐倉慈です。優衣ちゃん……千翼さん、二人と仲良くやれていたみたいで安心したわ」
直樹さんの隣にやってきたもう一人の女生徒の言葉に首を傾げつつ、彼女達がそれを知っているという事は優衣ちゃんと話せたという事だから、それと先程の直樹さんを見るにかなり良い関係を築けていたみたいだった。
恵飛須沢さんも交え、私たちは互いに名乗り合い、食料を分け合って疲労の回復に努めた。
こんな状況だけど、若狭さんの妹さんを見つけられたことは僥倖だ。聞けば、優衣ちゃんが「モール内で見つけて」連れて来たのだとか。
……小学校にいたはずの若狭瑠璃さんがなぜショッピングモールに……?
わからない。優衣ちゃんに話を聞いてみないと……。
……私たちが休憩を切り上げて帰る事を決めても、優衣ちゃんはまだ目を覚まさない。不安になって何度か触れてみたけど、ただ眠っているだけのようだった。
太郎丸というらしい小柄な犬が寄り添って眠っているのを見ていると、少し落ち着いた。
改めて、直樹さん達と話をする。
モールでの生活の辛かったことや苦しかったこと、言いたい事はたくさんあるだろうけど、まずは他に人がいなかったか、からだった。
驚くことに探索に出ていたのは優衣ちゃんのみらしく、彼女の話では他に生存者はいなかったらしい。
こちらも学校のこと、由紀ちゃんと柚村さんのこと、設備の事を伝える。
熱いシャワーが浴びられる事が彼女達にとって一番の吉報だったのか、祠堂さんが飛び上がって喜んでいた。
「では1階まで安全を確保して、バリケードも築いて、「彼ら」は中にいないんですね?」
「ええ」
外へ探索に出るにあたって、私たちは全力で校内の安全を確保した。
学校全体という訳ではないけど……一年生から三年生の教室がある校舎の安全は完全に確保したと言ってもいいだろう。
二人を安心させるために、それを強調して、もう一度伝えた。
「学校は安全よ。大丈夫──先生が保証します」
安堵して笑みを零す二人に、不謹慎ながらも、私の胸は誇らしさで満たされた。
□
最近、学校が好きだ。
「2階ももう駄目だ! 上へあがれ!!」
そう言うと変だって言われそう。
でも考えてみてほしい。学校ってすごいよ。
「由紀ちゃん! はやくっ!! はやく登るのよ!!」
めぐねえは優しくっていい先生!
たかえちゃんとのお喋りは楽しいし、くるみちゃんはちょっぴり変だけど面白いし、りーさんはあったかくて、くっついてるといい気分。
「はあっ、はあっ、」
「りーさん! こっち!!」
だからきっと、今はとってもいい気分。
だってこうしてりーさんとくっついて座ってる。
「どうしてっ、どうしてこうなるのよ……!?」
「りーさ……」
「がんばったじゃない! 私達、ここまでやってきて、それがどうしてっ!!」
体が震える。
とっても寒くて震える。
あれ……こんなにくっついてるのに、どうして寒いんだろう?
「柚村さんも……きっともう……」
「っ、リーさん、前っ!」
でも、すぐ暑くなった。立って、走って、息を切らせて。
……めぐねえとくるみちゃん、今頃どうしてるのかな。
千翼さんは見つかったのかな。ちゃんと帰ってくるのかな。
「由紀ちゃんっ!!」
あ……。
「このっ……!!」
真っ白な煙が吹き抜けていく。
消火器で何かを潰したりーさんが蒼い顔して駆け寄ってきてわたしを強く抱き締めると、手を掴んで引っ張った。
部室へ戻る。わたしたちの、「学園生活部」。
「ひっ」
「そんな、ここまで……!?」
新しい子達が来るから、歓迎会の準備をしてた。
本当なら、今頃みんなでパーティしてたんだろうな。
「由紀ちゃんっ、由紀ちゃん、隠れて!」
「でもっりーさ──」
「いいから!!」
狭い場所に体を押し込めて、帽子を深くかぶって、口を押さえる。
そうしてじっとしようとしていたけど……扉の音で、全部だめになった。
しとしとと降る雨の日に、たくさんの人が押し寄せて。
みんなで頑張って作った物は、全部全部壊れてしまった。
めぐねえ。くるみちゃん。みんな……。
ごめんね。ばいばい。
TIPS
・声繋ごうよ
優しい気持ちになれる曲
・精神値
モール組
・千翼優衣
9/90
・祠堂圭
32/100
・直樹美紀
38/100
・若狭瑠璃
33/100
・月日星夜
32/100
遠征組
・佐倉慈
29/120
・恵飛須沢胡桃
31/120
学校組
・丈槍由紀
24/100
・若狭悠里
13/80
・柚村貴依
42/100