【完結】がっこうぐらし!モールスタートめぐねえエンドSランク縛り【MGNEND】 作:月日星夜(木端妖精)
中途半端はしたくないので初投稿です。
──優衣
安心して。あなたは、翔べるから。
あなたが優しさを忘れない限り……千の翼が、あなたをどこまでだって連れて行く。
だからね、優衣。
忘れないで。
約束よ
優衣──
優衣は純真だが走者は邪悪なRTAの続き、はじまるよ!
前回は圭を誘き出したところまで。今回は圭を感染させに行きます。
残念だけどこれRTAなのよね。慈悲はないのだ。
「ゆいせんぱーい! 置いてかないでー!」
第一のバリケードを登っているところでけーちゃんが合流してきました。
おぱんつを見られてしまわないうちにとっとと下りましょう。
「よっ、と……わわ」
足を滑らせて落っこちてくるけーちゃん、受け止められそうな位置なので受け止めてあげますかねー。
べちゃ! 潰されました。優衣ちゃんには無理だったよ。
「あー! ごめーん! ……そんなに重いかな、私……」
重い(無慈悲)。早くどいてくれないと優衣ちゃんがお煎餅になってしまいます。
のそのそ退いたけーちゃんが手を貸して立たせてくれましたのでお礼を言いましょう。精神値削ってくれてどうもありがとう! 解いた手を胸に抱いてやや嫌そうにしている優衣ちゃんの表情もまるで気にせず笑いかけてくるけーちゃんのメンタル、どうなってるんですかね。強すぎる……。戦々恐々としながら進みましょう。
「ね、ね、ゆい先輩……トイレはこっちじゃないよ?」
当初示した目標と関係のない行動をしているので仲間からガイドが入りますが、無視して進みます。
大目標の"学園生活部に入ろう"も今は置いておき、小目標である"由紀に話しかけてみよう"も後回し。チャプター7以降は学園生活部に入ってしまうと遊びに次ぐ遊びで満喫させられてしまい大幅なタイムロスになってしまうのでタイミングを見計らっていきましょう。二回目の「あめのひ」の三日前辺りなら入部しても遊ぶ余裕がなくてグッドです。
ただ、遊ぶだけで評価が得られるという機会を失ってしまうので信頼イベント等を起こしてちまちま評価を稼いでいきましょう。……そういう事ができる本ゲーム、実はSランクを狙うのは難しくないんじゃないか……? と察してしまったあなたには消えてもらう。じゃあなんスか。最高難易度でもないのに何度もSランク落としそうになってる私は雑魚ってことっスか。
「ゆい先輩……?」
ガラリ。ガラリ。教室の扉を前方後方共に開け、少し歩いてはその繰り返し。
中を覗く素振りをしつつ歩く優衣ちゃんに圭は困惑しているようですね。かなり不審な動きですが、警戒度は上がらない。そういう子だからね。
「……あのね、ゆい先輩。めぐねえは、お外に行ったんだよ……」
「……」
「…………ぅ」
階段を降り、渡り廊下の方へ進んでいくと、だんだんけーちゃんが話しかけてこなくなりました。制圧済みの校舎は明るく穏やかですが、NPC任せの制圧の場合必ず他の校舎に彼らが残っているので、それを察してるのかもしれないですね。
「だ、だめだよ、ゆい先輩……もどろ?」
渡り廊下につきました。特に封鎖もされていない扉を開き、向こうを覗きます。たまにすぐ傍の死角に「彼ら」がいて不意打ちを食らってしまうので……ヨシ、いないね。いやいなくちゃ困るんだけど。
長い廊下は至って平和。半ばあたりに自販機と休憩のスペースがあるのですが、その辺に1~2体たむろしてるケースが多いのでそこまで行きましょう。
「……ほんとに……?」
ほんとほんと。なんの話かしりませんけど。
「ゆい先輩……飲み物ほしいの? だったら、これあげるね」
む、けーちゃんがアイテムをくれました。水ですね。水かあ……。
必要なアイテムではありますが、もっと量が必要なので今これだけ貰ってもなーって感じです。
ま、貰えるものはありがたく頂戴しましょう。センキューけーちゃん!
自販機の発する微かな音に引き付けられているのか、すぐ傍に3体立っていて光に照らされてますね。
ちゃんとけーちゃんがついて来てるのを確認して……と。それじゃわざと彼らに襲われて助けに入ってもらいましょ。
「ま、まずいよ……気付かれる前に離れなきゃ……」
言いつつ、傍に落ちているペットボトルを拾うけーちゃんを置いて「彼ら」の下へ近づきます。ダッシュだと助けが間に合わないかもしれないから歩いて……あ、「無音歩行」のせいで反応してくれない。空き缶あるので蹴りましょ。
気付かれました。背を向けて襲われましょう。いいよ! こいよ! 背中噛んで背中!
「先輩っ!!」
悲鳴に近い声を発しながら優衣ちゃんを庇ったけーちゃんは、哀れ「彼ら」の餌食に……!
……なりませんね。ペットボトルを投げつけて怯ませた隙に避難させられました。手を引かれて強制退避の流れに……おいおいおい、これじゃここまで来た意味ないじゃん!
「っ」
「あっ、ゆいせんぱっ……く!」
でも大丈夫! 接触を嫌がった優衣ちゃんが勝手に手を振り払ってくれました。圭もそのまま逃げずに優衣ちゃんを助けようと戻ってきてくれます。すると3体の「彼ら」に壁際に追い詰められる状況に持ち込めたので、あとは1回庇って貰って噛まれていただいて、すかさず3体とも処理してしまいましょ。
「ごめんっ、ごめんねゆい先輩! すぅー……」
お? あれ、なんだそのきょど──
「たすけてぇ────っっ!!!」
……(鼓膜喪失)。
……(予備の鼓膜を装着)
……あっ(近づいてくるクソデカ足音を察知)
「無事か!!」
あっ。
あっ。
「くるみ先輩!」
「っ!」
圭は 助けを 呼んだ!
ゴリラが1体 現れた!
もといくるみちゃんが来てしまいました。なんででしょうね~、どういうフラグ関係でしょうかねぇ~。
えー、実のところ、ここら辺で「くるみちゃんに挨拶をしてない」ことに気付きました。
トイレで彼女の名乗りは聞きましたが、こっちからは名乗ってません。だって名前呼ばれてたんだもん……知ってるなら済ませてるんだって思ったんだもん……。
顔見せは済ませているものの、一切好感度は稼いでないのでおそらく初期値、そこにトイレでの不審な行動(したつもりはありませんけど)で警戒度が上がった状態なので……こういう結果になってしまったみたいですね。
彼女にかかれば3体程度の「彼ら」なんて優衣ちゃんの手を捻るくらい簡単にやっつけられてしまいます。
つまりはですね、わたくしの考えた計画はなにもかもおしまいってことです。
というわけで諦めてくるみちゃんの無双を楽しみましょう!
「はっ!」
瞬く間に1体の首を断ったくるみちゃんは、組みかかってきた「彼ら」をシャベルで受け止めて拮抗しつつ……なんか優衣ちゃんにガン飛ばしてきたんですけど……やだこわい(目逸らし)。
「お前……せっかくめぐねえが──」
「違うの! ゆい先輩は、きっとめぐねえを探してて!」
何やら言おうとしたくるみちゃんを遮って、体ごと優衣ちゃんを庇ってくれる圭ですが、私の頭の中はハテナマークで埋まりました。なんの話してるのかさっぱりだぁ。
あれかな。教室を開けて回ってるのを人探ししてると判断されたのかな。AIの挙動はよくわかりません。そんなんでRTAやってけんの……? 実際なんとかなってるんだからいんじゃない?(てきとう)
「ちっ……話は後だ! まずはこいつらを……!」
「あっ……!」
お、廊下の向こう側から増援が来ました。味方ではなく敵です。声に反応したっぽいですね。
それでもって私達が来た方からも何体か来てます。これは開けてきた教室のロッカーとかに潜んでた奴が追って来たんですね。
右にも左にも逃れられず壁際に追い詰められたままのけーちゃんと優衣ちゃんは揃って目をつぶって顔を伏せてます。「彼ら」がやられてくのを見るだけでも精神値が削られてしまうからですね。まあ優衣ちゃんはそうしてても圭と接触してるので微減してってるわけですが……。
「くそっ……どうしたもんかな……!」
案の定3体を容易く片付けたくるみちゃんは、こちらを庇う形で左右を見回してます。左の方が近く右より1体多い事から先にそっちを対処することに決めたようで、素早くポジショニングして構えました。
そんな彼女の背中にけーちゃんが話しかけます。
「くるみ先輩っ、ゆい先輩は私を食べようとか、そういうつもりじゃなかったと思うんです!」
「……」
無視されてますね。最初に話は後だって言われてるから当然なのでしょうが、くるみちゃんの背中に無言の重圧を感じて仕方がないです。
それはそれとして……目論見ばれてませんか……?
いや、言い方からして優衣ちゃんが直接モグろうとしたと解釈されてるっぽいですね。……あー、くるみちゃんがすぐさま飛んできたのは……優衣ちゃんが部屋を出た時辺りになんらかの会話がなされたと考えるのが自然かな。良い内容ではなさそう。
到達した「彼ら」と交戦し始めるくるみちゃんをやる事もないのでぼーっと眺めております。
……掴み攻撃が頻発してますね。そのせいで一息に片付けられずシャベルでの拮抗を繰り返してます。この筋力勝負でくるみちゃんが負けたの見た事ないなあ。
と、そうこうしてるうちに右側の「彼ら」も到達間近みたいですね。妨害とかをしてないと案外早い。
いや、でもちょっと待って。今けーちゃんに掴まれてて動けない……噛ませるには絶好の体勢ですけど、くるみちゃんが来た以上警戒度を上げる行為はNG! 彼女に睨まれたら生きていけないってことくらい普通に考えればわかりますよね? ね? 危険な場所に連れ出して噛まれたなんて事になったら……あわわわわ。
「っ!」
「なっぇ、せんぱ」
そういう訳なので、ぐりぐり動いて位置取りを変えます。けーちゃんを壁際に押し付け、優衣ちゃんが「彼ら」に背を向ける形。ちょっと両腕使えないのでカウンターもできませんが、噛まれたって体力が削れるだけ。すでに感染してるのでなんの問題もないね。さあこい! 優衣ちゃんは噛まれたって泣かないぞ!
「ばっ……かやろ……っ!」
「彼ら」と優衣ちゃんとの間に突如差し込まれたシャベルは、そのまま平で「彼ら」の顔を叩いて怯ませました。
くるみちゃんのガードが入りましたね……ってことは、仲間判定ではあるんですね? はぇー……わからん。なんもわからん。
腕を目いっぱい伸ばしてこちらの援護に入ったくるみちゃんは、無防備な体を「彼ら」に晒してしまっていますが、こんな程度危機ではないですね。風を伴って引き戻されたシャベルが勢いのまま二回振られ、4体の「彼ら」が死にました。二撃必殺! さっすが……!
「ゆい先輩っ!!」
先程シャベルで怯まされた奴と入れ替わりで迫る2体にけーちゃんが再び位置取りを変えようとしてきましたが死ぬ気で押さえ込みます。お前が噛まれちゃ困るんだよ!! ……こいつ発言の一貫性がねえな? でも仕方ないんです、くるみちゃん怖いから!
「
あっ!
今度もくるみちゃんのガードが入ってシャベルが差し込まれたものの、こちらへ向かう勢いもあったせいか必要以上に踏み込んでしまったらしく、柄ではなく腕を掴まれて噛まれましたね。
やった。 投稿者:変態新千翼 2020/1/27 3:45:26
なんで噛まれたか、明日までに考えてきてください。そうしたら何かが見えてくるはずです。
ほな、(ワクチンルート)いただきます。
「くっそぉ! 祠堂!」
腕を振るって「彼ら」を振り払ったくるみちゃんは、噛まれた個所を手で押さえながら、それでもシャベルを取り落としたりはせずに力強く振るって2体を退けると、体ごと振り返って呼びかけてきました。
「千翼ォ! 逃げろォ!!」
いやです。と拒否りたいところですが、足手纏いにしかならないので今のうちに離れましょう。
しかし過度に離れる必要はないです。感染したくるみちゃんはその状態でも3体を一息にやっつけ、合流してくるので手を貸しつつ部室まで戻りましょう。
たっだいまー!
「おかえりー! 大丈夫だっ……くるみちゃん!?」
びゅーんと飛んできたホーミングゆきちゃんはくるみちゃんに抱き着くとすぐ異常に気付き、目を見開きました。白い制服に血が染みて、もたれかかる彼女を支えながら混乱してます。日常の崩壊の足音……聞こえない?
「え、えっ、くるみちゃ……?」
「くるみ! どうしたの!?」
「ごめん……まずった」
「そんな……じゃあ優衣先輩は本当に……」
「違うよ美紀! ゆい先輩じゃないの! 違うの!」
なんかみんな集まってきてわちゃわちゃしておりますが、気にせず由紀を手伝ってくるみちゃんをソファへ移動させましょう。座っていたるーちゃんとせーちゃんが退いてくれたら寝かせて、毛布をかぶせて、と。
部屋の端に寄せられている机まで移動し左側の机の中から手錠を取り出して戻り、由紀に手渡します。これでくるみちゃんを拘束してもらうのですが、この時絶対に自分でやってはいけません。警戒度はさほど変動しませんが友好度も好感度もガタ落ちします。
誰かに渡して代わりにやってもらったところでこんな迅速な行動をしては結局不信感を募らせてしまうのですが、自分でやるよりは遥かにマシ。そういう訳だからお願いしますよ。
「そんな……できないよ……」
む、ゆきちゃんに拒否されてしまいました。まだ全然会話とかしてないので好感度が足りてませんでしたね。
ならば……子供達には無理でしょうし、りーさんに任せましょう。
「これでくるみを拘束しろと言うの……!? いやよ!」
険しい表情で突っ返されました。おーん。
でもりーさん、なんでも頼み事聞いてくれるんでしたよね?
じゃあさ、やろ?
「っ……」
優衣ちゃんのお願いにぐっと息を呑んだりーさんは、くるみちゃんと手元とに視線をやって逡巡しております。あく! あく! もっとタイムを気にしてタイム!
「……くるみ、ごめんね……!」
目を伏せてソファへと向かいくるみちゃんの手足を椅子の足に繋いでくれました。シュバルゴ(pkmn)。シュバルゴってなんだよ(自問)。
「はあっ、はあっ、い、いいんだ、これで……は、なれとけ……っ、は、」
「くるみ!」
酷い汗を掻いて苦しそうにしているくるみちゃんは、時間経過でやがて言葉を発さなくなり、肌に特徴的な黒い線や血管が浮き上がり始めると唸り声と共に暴れるようになります。そのうち優衣ちゃんもこうなるんですねー。確認した時には既に進行度が中度だったので猶予がどれ程かはわかりませんけど、咳をし始めたら要注意ですね。
怯えて優衣ちゃんの下に集まってくるるーちゃんとせーちゃんの頭を撫で……ないね。そうね。受け止めてあげましょう。りーさんの方に集まらないのはくるみちゃんのすぐ傍だからか。
「大丈夫よ……恵飛須沢、さんは、大丈夫」
不安にさせないよう優しい声で話しかけつつ(内容はなんでもいいです)二人をやんわりと剥がしてけーちゃんに押し付け、外へ向かいます。迅速にシェルターの薬を回収しちゃいましょう。くるみちゃんの症状は主人公が感染している時よりもよっぽどわかりやすく進行していくのですが、初期の状態で薬を打てばものの数時間で回復します。脅威の免疫力! なので超スピード!? で行動開始!!
「どこに行くつもりですか……先輩」
げぇー! みーくん!?
みーくんガードが発動したようです……そりゃね、今優衣ちゃんが外出る意味がわからないからね、止められるわね。
まあまあみーくん、今から優衣ちゃんが薬取ってくるからさ、そこ通して! お願い! 一生のお願い!
「だめです」
ああああ!!!!!!
……と、見せかけて?
「だめです」
ああああ!!!!!!(天丼)
だめみたいですね……。
追い返されてしまったので、子供達に引っ付かれつつ棚まで向かってファイルの間か下の棚か上の私物入れに入ってる緊急避難マニュアルを読み、地下の情報を知りましょう。
棚……無い。下の棚……ない。上……届かない。
椅子を運んできて乗っかって、ジャンプして上へよじ登ってダンボールを漁ってマニュアルを入手。飛び降りて緊急回避でダメージを回避。かなり不審な動きをしてますが幸いみんなくるみちゃんに注目してるので問題ありません。
「……」
「……」
るーちゃんとせーちゃんがガン見しておられるぞ。飴をしゃぶらせて差し上げろ。
ガムしかないのでこれで許してください! オナシャス!
「……」
受け取り拒否されました。今そういう気分じゃないってことですね。
あー、せーちゃんの警戒度大丈夫かな……またサバイバルナイフ盗られそう。後でケアしとかなければ。頭の中のチャートに書き加えておきます。
入手したマニュアルを読みます。本来人為的な災害である確信にがっつり精神値が削られ、信頼していた、またはすべき大人で教師のめぐねえが加担している可能性に追い打ちをかけられるのですが、優衣ちゃんはめぐねえを盲信してるのでノーダメージでした。
ああいや、一応ショックは受けているみたいですけど、反応は軽いですね。前にもっと
地下シェルターの情報を得ました。小目標が"確認に行ってみよう"、"マニュアルの存在を話す?"に変わりました。
こっそりみーくんにだけ見せましょう。
「なっ……んですか、これ……!」
動揺著しいみーくんは、今みんなにこれを見せるのは酷だと伝えれば情報を隠してくれるでしょう(願望)。
なにも追い打ちをかける必要はあるまい。この存在を明かすのはあるかもしれない薬を回収しくるみちゃんを治療して、食料を運んできてからでも遅くないはず。私、何か間違ったこと言ってますか?
「……わかりました……でも、そこへは私もついていきます。優衣先輩にだけは行かせられません」
いいよー。モールと違ってここには「彼ら」もいないし、邪魔にはなりませんからね。断わって嫌われるより全肯定して好かれましょう。
一見ロスのような今のやりとり、しかしどの道ここか職員室で緊急避難マニュアルを読むのは変わらないのでロスではないです。……会話の分だけ時間が過ぎてるんでやっぱロスだね。
「……すみません、優衣先輩……私があんなことを伝えなければ……」
廊下に出ると、みーくんが何事か言い始めましたがダッシュで切り抜けましょう。
階段は緊急回避で短縮。段差にお腹打っても平気な顔してるの冷静に考えると化け物ですね。
この調子で1階まで駆け下りましょう。へいへいみーくん遅れてるー!
「でも、このコミュニティに私達を受け入れてもらうには、隠し事はしない方が良いと思ったんです。優衣先輩が……その、人と触れ合うのを極端に嫌がること、それと……毎晩圭の枕元に座って……お腹が空いたと、繰り返していたこと……それが悪い方にいってしまって、優衣先輩への強い警戒を生む結果になってしまったんです。ごめんなさい! 私、焦ってて……短慮でした。こんなの……ただの言い訳にしかなりませんよね。病み上がりの先輩に負担をかけてしまいました。こんなことになってしまうなんて……。本当は、薬を探しに行くのだって私一人だけで行くって言いたかったんです。でも優衣先輩、それじゃ絶対納得しませんよね……だって優衣先輩は……! ……先輩は、不器用でも優しくて、いつだって私達のことを考えてくれて……理解できないような行動をしたって、決して危害は加えてこなかった! でも、本当はわかってたんです。私も、圭も。先輩は弱くて、臆病で、強がりで……どうしようもなく、優しいんだ、って。それに甘えてばかりだったから……今も、そうです。私達はもっと先輩のことを考えるべきだった。先輩の想いを理解しようと努力するべきだった。知らなかっただなんてなんの免罪符にもなりません。瑠璃ちゃんのこと……星夜ちゃんのこと……モールの中で出会ったって聞いた時、おかしいと思ったのに、何も聞かなかった……。聞けなかったんです……先輩の嘘を暴きたくなかった。でもそれじゃいけなかったんです。私達ばかりが先輩の事を信じてたって意味がない。優衣先輩に頼ってもらえるくらい、こんな、安全を保障された場所以外でも一緒に行動できるくらいの信頼関係を築けるよう努めるべきだったって、後悔してます。……正直に言うと、こうして心の中のことを余さず話してしまうのは怖いです。私達が……私の……醜さを知って……いやに、なりますよね。口では優衣先輩を肯定しているのに、ずっと恐れていたし、手を貸すこともなかった。でも……でも、それでも、言わせてください。私はっ、私も圭も、優衣先輩のことを信じてます! 私達にしょ、食欲を、感じているのは、察してます、でも! 優衣先輩は「彼ら」とは違う……! それを証明してみせます! きっとわかってもらえます。受け入れて貰えます。理解してくれます。優衣先輩は、生きてちゃいけない人なんかじゃない、って。だから……。……先輩。「学園生活部」は……みんなは、そういう人達だから。短い付き合いですけど、優衣先輩に負けないくらい、みんな良い人達ですから。……そんなの、先輩が一番良くわかってますよね。だって先輩は、佐倉先生……めぐねえの事が好き、なんですもんね。あの部屋に閉じこもって何もかもを先輩任せにしていた頃には、そんなことさえ知らなかった。先輩の、その……おか……いえ、……なんでもありません。いえ、やっぱりなんでもなくないです。先輩……優衣先輩、めぐねえはめぐねえです! 先輩のお母さんじゃ──」
「……お腹、空いた……」
優衣ちゃん、空気、読もう!
今みーくんが何か良いこと言ってるっぽいんだから聞いてあげよう?
あ、シェルターについたんでみーくんさ、これ上げるの手伝ってね。
「むっ……先輩、私の話聞いてましたか?」
言葉通りむっとした表情で、それでもすぐさまシェルターへ続くシャッターを上げにかかってくれるみーくん、優しい。
ちなみに今の台詞は話を聞いてない時に出てくる共通セリフです。聞いてた、と答えると好感度のダウンを防げるので軽率に頷いていきましょう。うんうん聞いてた聞いてた。やっぱクリームソーダは最高なんやな……ね!
「もういいです!」
ぷんっとそっぽを向いてしまったみーくんの愛らしい顔はシャッターを上げるシーンに上書きされてしまいました。残念。
じゃあみーくん、後ろについてきて。退路の確保ね。
「? はい、わかりました」
優衣ちゃんにはサバイバルナイフを装備させて、と。
階段を下りていくと、残り3段ほどから浸水した状態になっていて、非常灯の明かりが微かに水面を照らしています。
もう何度も来た所なので敵の配置もマップも頭に入ってるのですが、仲間がいると勝手に電気をつけてくれるので任せて進みましょう。
通常プレイでは大体ここにめぐねえが出現するのですが、めぐねえを死なせないでいると代わりのように1体身元不明の「彼ら」が配置されてます。ので、サクッと倒しましょう。
普通ならしゃがみ移動しても水音で反応されてしまいますが、使いこなせてきた優衣ちゃんの「無音歩行」なら地形の影響を受けずに静かに歩いて行けます。
ほとんどの場合背を見せて立っている「彼ら」にスニキルを叩き込んでやりましょう。
膝裏を蹴り、屈したところで首へナイフを突き立て、一緒に倒れ込むその衝撃で根元まで突き刺し、立ち上がり様に足で押さえて引き抜くモーション。安定のナイフを眺め回す冷たい瞳にぞくぞくするね。
「先輩、気持ち悪いです……」
サイコパスモーションを「気持ち悪い」の一言で済ませるのか……(ドン引き)。
好感度が高いとみんななんでもかんでも肯定的に受け取ってくれるので楽でいいですね。
優衣ちゃんは心無い言葉に涙目になってますけどね。ほんとにメンタル弱いなあ……精神に振ったポイント、どこにいった?
「あっちがっ! そ、そういう意味じゃなくてっ!」
え、急にどうしたみーくん。
「すみません……」
謝られてもよくわからないのですが……てきとうに頷いておきましょう。
いいよいいよ、気にしないよ。
なんでか沈んでるみーくんを連れて先を急ぎましょ。急げ急げ! くるみちゃんを助けるんだ!
なおくるみちゃんが噛まれた原因は100%優衣ちゃんな模様。
「これ……凄い、全部……?」
浸水ゾーンを抜ければ、左右に棚の並ぶ場所に出られます。ほとんど鍵がかかってますが、貴重な食糧を大量に獲得できるうえ、奥の机の傍に置いてあるケースには二本の薬が収められていますので入手しましょう。
「あった! 薬……っ先輩、やりましたね! はやく恵飛須沢先輩を助けに戻りましょう!」
忘れず一本を自分に使います。大喜びしているみーくんからかっぱらってすぐさま使用しよう(激うまギャグ)。
「は……?」
本来これは薬ではなく栄養剤なのですが、本ゲームではきっちりウィルスの抑制として働いてくれますのでご安心を。本来の特効薬の役割を果たす屋上の浄化槽を通した水には疲労回復とかの効果がありますが、残念ながらそれ以外には使えません。使えればこんな地下くんだりまで来なくて済むのに。
ちなみに奥の扉はクリアフラグを立ててないと何をしようとも開きません。
フラグ上書きバグとかも特に意味はないです。そこにフラグとか無いしね。
「まさか先輩、噛まれて……?」
食料の回収もしたいですが、割とくるみちゃんの症状進行はシビアなので涙を呑んで戻ります。
みーくんがふらついてる気がしますが、優衣ちゃんだと手を引いて直接引っ張っていくこともできないのでどっか行かないことを祈りつつ部室に戻ってまいりました。
「千翼さん……!」
「薬! 取ってきました!」
「! ほ、ほんとっ!?」
……、よしっ、まだくるみちゃん暴れ出してません。
近づいて覗き込んでみると、だいぶん苦しそうにしてますし黒い線が走ってますが、正気を失ってはいないようですね。ではお注射の時間だ。りーさん頼んだ!
「ええ、まかせて!」
くるみちゃんの腕を取り、注射器をあてがうりーさん。
この作業はもちろん優衣ちゃんにもできますが、精神値を考慮して人任せに。
ほどなくして強張っていたくるみちゃんの体から力が抜け、穏やかな呼吸に変わりました。
ふぅーい。とりあえずは終わりですね。優衣ちゃんも回復できたし、くるみちゃんも感染からの復活でさらに覚醒しますし、結果的には良い事づくめだったんじゃないでしょうか。
「これで……大丈夫、なんだよね……くるみちゃん、大丈夫なんだよね……?」
ソファに縋って呟くゆきちゃんに肯定を返してあげましょう。
へーきへーき、へーきだから!
「……うん」
弱々しい頷き方にぐっときますね。
あ、そうだ。ゆきちゃん、風船飛ばしてお手紙出したりしました?
「……ね、それ、今しなくちゃいけない話なのかな……?」
怒られました。タイミングがまずかったですかね。また後で改めて聞くとしましょう。
こちらに向けていた目をくるみちゃんに戻し、それから立ち上がったゆきちゃんが机の方へ向かっていくのを横目に外へ出ましょう。今度は食料の回収に行きます。
同行しようとする人間はいませんでしたね。どっちでもいいね。
倍速しつつ今後やるべき事を考えていきます。
まずは先程の「おてがみ」イベをこなしているかどうか。これ如何で14日目にヘリが来るか来ないかが決まります。
NPC任せの進行の場合、大体はやってくれてるんですけど、稀に何故か起きておらず「彼ら」ラッシュ中にヘリが墜落せず長時間の耐久戦を強いられる事があります。タイム的にも難易度的にもやってられないので必ず確認しましょう。
手紙さえ飛ばせば日数に限らず最終日に墜落しに来てくれるので少し遅れてても安心ですね。
さ、持てるだけの食料を持って部屋に戻ってまいりました。
「……お」
するとすでにくるみちゃんが目覚めているので、話しかけに行きましょう。
「そっか……お前と直樹が……ありがとう。おかげでこの通りだよ」
どういたしまして。そうなった原因優衣ちゃんですけどね。これがマッチポンプか……。
「でも、どうしてそんなものがあるってわかったんだ?」
一転、鋭い視線を突き刺してくるくるみちゃんですが、ふっふっふ……言い訳はですね。
なんも考えてなかった。
「くるみ。まだ完全に治ったかもわからないんだから、ほら、横になって……もう少し休んでなさい」
「お、おう……ごめんなりーさん。心配かけて」
「いいのよ。後輩を庇った結果なんでしょう? ……ほんとうに、間に合って良かった……」
「りーさん……ゆきも、ごめんな」
ぎゅーっとくっついているゆきちゃんの頭を撫でるくるみちゃん。なんて心温まる光景なんだ……!
話が逸れたのもあって私も一安心。りーさんに話しかけて食料を渡しちゃいましょう。優衣ちゃんが持っててもなんの意味も無いですしね。
「食料まで? ……ありがとう。力がつくものを作るわね」
よろしくたのまー!
……ふぅん。りーさん……目は閉じっぱなしだし、顔色良いし、精神値めちゃくちゃ高い? るーちゃん効果だけでなくせーちゃん効果もありそう。とても珍しい状態ですね。
でもなあ、りーさんって消耗しやすい上にわかりにくいしなあ。やっぱ一回削り切っちゃった方がいいかなあ。
「……」
「……」
「ゆい先輩、また一人で外に行ったの? 言ってくれればいつでもついていくよ?」
「先輩、薬があって良かったですね。……この調子で誤解も解ければ良いのですが……」
「まだこの学校に食べられるものがあったなんて……なんだかめぐねえ達に悪い気もするわね」
「ゆいちゃん! くるみちゃんを助けてくれてありがとう……!」
考えごとついでにみんなに話しかけて警戒度を下げておきます。結構反応が好意的ですね。
「すっげえ汗掻いてるし……すっげえシャワー浴びたい……」
ぼーっと天井を見上げながら呟くくるみちゃんは、ふと傍らに立つ優衣ちゃんを見ると、「よしっ」と体を起こしました。
「ちょっとくるみ、まだ寝てなくちゃだめよ」
「……!」
「そ! るーちゃん、しっかり押さえててね! ゆきちゃん、くるみが逃げ出さないようしっかり見張ってて」
「はーい」
「あたしは動物園の猿か何かか……わかったよ、もう」
るーちゃんに乗っかられて封じられるくるみちゃん。さしもの彼女も子供には敵わない、と。
「なあ千翼。後でシャワーでも浴びながら話でもしようか」
「……?」
ん? あー、シャワーイベですね。変なタイミングで起こるなあ。
学校スタートかつ女子だと高頻度で起きる、いわゆる裸の付き合いな出来事ですね。
熱いシャワーで汗と疲れを流しつつ心の内を語り合い、精神値を回復させるとともに友好度を高めるいいイベントです。上昇率はそんなでもないですが、発生頻度が高いのでかなり助かりますね。
部室の中では「休む」が選択できるので腰を下ろして時間を進めましょう。
りーさんの手料理を食べて完全に復活したくるみちゃんは、さっそく優衣ちゃんを誘ってきました。1も2も無く頷いてついていきましょう。
パーテーションに区切られたシャワールームは、斜めからのアングルで仕切りと頭頂部しか見えないようになっているのですが、水着を所持していると普通に映してくれます。顔色を窺いながら会話を進められるこっちの方が楽ですね。
「なあ、千翼」
湯が床を打つ音に混じって、くるみちゃんの問いかけ。
「どうして薬のある場所がわかったのか、とか……なんで祠堂を連れ出してあんな場所まで行ってたのかとかさ。……事情があるのかもしれないけど、今は聞かない」
追求せずに許してくれるってことでしょうかね。
それはなぜ?
「祠堂がお前を信じてる。めぐねえだって……お前の……千翼の、体質……って言うべきか」
ざあざあと降り注ぐシャワーの中で、髪を撫でつける優衣ちゃん。
「めぐねえは体を張って、千翼が危険じゃないって教えてくれたんだ。やけに触られるなって思わなかったか?」
あ、あれってそういう意味だったんですね。
ってことは、みーくんかけーちゃん、優衣ちゃんの精神異常を伝えちゃったってことなんですね。
それはまた調整が難しくなることを……でもなんとかなってるっぽいし、結果オーライなのかな。
「祠堂もめぐねえも千翼を信じた。だから、あたしも信じることにした。……それだけ!」
きゅ、と湯を止め、話を切り上げるくるみちゃん。
会話から察するに、今ので警戒度はがくっと下がり、友好度が上がった感じですかね?
うん、シャワーイベ、おいしい!
「これから一緒にやっていこうってんだから、仲良くできればいいな」
そっすね。あ、そうそう、自己紹介しときましょう。
「……うん。あたしのことはくるみでいいよ。あたしも優衣って呼ばせてもらうな」
「……ん」
こちらからの名乗りも済ませましたし、なかなかいい流れなんじゃないかと思います。
今日はもう寝てしまって、明日以降は水を貯め込みましょう。
夕食はステーキです。ひゃっほう! 優衣ちゃんめっちゃ嫌そうな顔してる!!
このタイミングでめぐねえ達が帰ってきました。豪華なメニューを見て驚いてますね。
すかさずめぐねえに引っ付いて精神値の回復に努めましょう。めぐねえはなあ……私の回復スポットなんだよぉ!
「そう、そんなことが……私、また……」
「めぐねえは悪くないよ。わたしたちのためにご飯取りに行ってくれてたんだし!」
「でも、その食料も取りに行く必要なんか……」
あーあーあー。めぐねえめっちゃ沈んでますね。明るい部室、明るい顔色のみんなに囲まれて彼女だけめちゃくちゃ暗い顔をしてます。……さては精神値、やばいな?
でも大丈夫! 豪華な食事は部員の精神値を大幅に回復させてくれますし、たくさん話しかけてればなんとかなるでしょう。
という訳で食事が終わればめぐねえに引っ付いて話しかけまくります!
「……」
あれ? あれあれあれ?
おーい、めぐねえ?
「……」
……無視ですかね?
視線は向けてくれるものの、なんにも喋ってくれません。
「……優衣ちゃん、もう寝ましょう」
あ、喋った。と思ったら強制就寝タイム!
ナチュラルに一緒の布団に潜り込む優衣ちゃんが健気です。
女子かつ彼女に目をかけられている生徒であり、精神値が低いとこうして安心できるよう慰めてくれるんですよね。
ところで……きららチャンス、どこいっちゃったの……?
あの、あれ……いやまあ発生しないケースも多々ありますけど……壊滅的打撃を受けた日の夜とか、人数が一人だけだとか、そういう場合は……。
なぜ発生しないのかさっぱりわからず首を傾げながら、本日はここまで。ご視聴ありがとうございました!
□
それは、逃げのようなものだったのかもしれない。
目の前で母を亡くして、傷ついて、私を母と呼ぶようになった優衣ちゃんに、正面から向き合うことができずに……食料の調達を言い訳に逃げ出した。
最低だ。
彼女を受け止めてあげなくてどうするというのだろう。
彼女の母を手にかけたのは、他ならない私なのに。
「めぐねえ」
窓を叩く音にはっとして、慌てて外に出る。
金属バットを片手に心配そうに私を見上げる柚村さんに笑いかけて、それから、ショッピングモールの半壊した入り口を見据えた。
「行きましょうか」
「気を付けて、な」
足元で尻尾を振っていた太郎丸が先行して中へ入っていくのを追うように、私達二人も館内へと足を踏み入れた。
「……」
薄暗く、泥や血が混ざりあったひどいにおいのする場所に、変わらず泉さんは倒れ伏していた。
……埋葬。そうだ、彼女を埋めてあげなくては。
それが私にできるせめてもの償いであり、手向けになるだろう。
けれど、それをするのは今じゃない。優先すべきは生きている人間……すなわち生徒達だ。
まずは食料の調達をしなければ。
「この1階と地下が食品売り場だったと思う。直樹達がここで生活してたのなら、この階の食料品を持ってってただろうから……あるなら地下かな。缶詰とかも多かったと思うし」
「そうね。そっちを当たりましょう」
ここにはよく来ていたという柚村さんの提案にのり、シャッターで閉ざされた地下への道を進む。
モップを固く握りしめ、彼女に背中を任せて、やや開いているシャッターを上げると、生温い風が頬を撫でた。
「わん!」
太郎丸が突撃していく。彼は、この臭いは平気なのだろうか。
……人よりも危機感に優れる犬が駆けていくなら、ある程度の安全が保障されていると考えるべきか。
警戒を保ちつつ地下へと降りた私達は、少なくはあれど徘徊している「彼ら」の目を盗んで、缶詰をリュックに詰め込んでいった。
「……思ったより、ずっときついな、これは……」
「そうね……」
ごく小さな声でのやりとりは、それだって「彼ら」に勘付かれる危険があったけれど……柚村さんは声を発さずにはいられなかったのだろう。
食料を調達する、ただそれだけでも神経が摩耗しそうな緊張感。一つのミスが死につながるこの非日常に対する心構えなんて、いつまで経ってもできやしない。
「ここで過ごしてた5人……あの子らも……いや、そういえばこうやって調達に出てたのは千翼って子一人だったって言ってたな」
「……優衣ちゃん」
直樹さんも、祠堂さんもそう話していたけれど……にわかには信じられない話だ。
だって、あの子はとてもか弱くて……。
首を振る。
その認識が間違いだった、ということなのだろう。
私は、優衣ちゃんのことを何もわかっていなかったんだ。
「そういやさ、なんか……遠慮してるよね。助けてもらったから、みたいな気持ちでいるみたいで、そうしなくちゃ受け入れてもらえないと思ってるみたいに。……こっちは最初から受け入れてるのにさ」
それは……。
直樹さんや祠堂さんが、話し辛いことでも何もかもを伝えてくれた、そのことを言っているのだろう。
たしかに私も感じた。どこか彼女達と私達には隔たりがある。そうなるだけの理由がある。
優衣ちゃんが……人を食べたがっている、なんて……。
けれど、そうして優衣ちゃんの秘密を話してもまだ遠慮が見えるのは、それだけ優衣ちゃんの側に立っているという証。それを……素直に喜んでいいものか……。
「みんな、どうすればいいのかわからないのよ」
……だから、私が……教師である私が導いていかなければならないの。
そう、私が……。
そのためにも、まずはみんなにしっかり食べて貰おう。食事は"生きる"というそれそのものだ。
今のみんなの目標は"生きる"ことになっている。美味しいものを食べれば、生活が充実すれば、危険が遠のけば、きっとそれも変わっていく。
その環境を整えるのが私の使命だ。
「わんっ!」
「えっ?」
私が決意を新たにしている、そんな時だった。太郎丸が駆け出して、遠く、半開きの扉の向こうへ消えて行ってしまったのは。
「もうっ、太郎丸、どういうつもりだ?」
二人で後を追えば、あまり広くない個室に辿り着いた。そこには女性の遺体があった。
……正確には、「彼ら」化した女性の、だ。
壁際のベッドに自身を縛り付け、誰も食べられないようになのかガムテープで何重にも口を塞いでいる。
その傍らに太郎丸はいた。悲しそうに、寂しそうに縮こまっている。
この人は、太郎丸の飼い主? それとも……。
机の上に畳まれた紙があるのを見つけ、手に取って広げてみる。
それは手記だった。……あるいは、遺書。
突如起きた暴動への動揺。人を襲う人への恐怖。
太郎丸との出会いと、生への渇望。
この女性は最後まで生きるのを諦めず、人を信じて、そして……「彼ら」になってしまったらしい。
「めぐねえ?」
「目をつぶってて……柚村さん」
モップを構える。
これを読んだ私にできることは、安らかな眠りにつけるよう祈ることだけだ。
息を吸う。
吐く。
振り上げたモップを一息に振り下ろせば、一人分の命が私の腕に伸し掛かった。
この重みを、私は生涯忘れることはないだろう。
「わんっわんっわんっ!」
帰り道。
予定していた通りに泉さんを埋葬しようと考えていると、入り口近くに差し掛かったところで太郎丸が騒ぎ始めた。
「ちょっばか、静かにしてろって!」
慌てて柚村さんが押さえ込もうとするものの、するりするりとすり抜けて吠えたてている。
いったいどうしたのだろう……とても興奮しているみたいだけど。
「っ、めぐねえ!?」
柚村さんの悲鳴染みた叫びに反応して身を翻す。
モップを構え、いつでも振り下ろせるようにして視線を巡らせたが……想像していたような、すぐ傍まで「彼ら」が接近しているといったことはなかった。
「めぐねえ、あっち!」
「えっ?」
背後を警戒する私とは裏腹に、柚村さんが指さすのは入り口の方だ。
でも、そっちには「彼ら」はいなかった、は……ず……。
「……い、ずみ、さ」
そんな、ばかな。
彼女は確かに私が、この手で……。
『──』
けれどたしかに泉さんは立ち上がっていた。
人ではない動きで私たちに近づこうと、蠢いていた。
「わん! わんわんっ!!」
太郎丸の吠える声がずっと遠くに聞こえる。
掲げたままのモップを握る手の内側にじっとりと汗が滲んで、今にも取り落としそうで。
……どうして。
「めぐねえ!」
びくっと肩が跳ねる。
自分の腕に半ば塞がれた視界に「彼ら」が映り、反射的にモップを振り下ろして──
『──』
首を断つ。
前に斬ったのとは反対側。
今度は、血は噴き出なかった。
『ゥ────』
腕が伸びてくる。
どうして──切ったのに、切ったのに、どうして!?
乾いて罅割れた首に二つの傷をつけて、なお何かを求めるように私へと近づいてくる泉さん。
優衣ちゃんを探しているのか。
前に切った時から、いや、それよりもずっと前から、ずっとずっと優衣ちゃんを……。
『──ィ』
掠れた声が、粘ついた質感を伴って耳の奥にこびりつく。壊れかけの機械のような動きで開いた口から何かの欠片が零れ続けている。
家族のかたち。血の繋がりは遠くとも彼女達は家族だ。優衣ちゃん。優しい声だった。彼女の背に隠れる優衣ちゃんの、小さな手が握る服の皺が。「おかあさん」。優衣ちゃん、先生は。
心の底から湧き上がり膨れる恐怖が、それを塗り潰して止まない憐憫が、悲しみが、嘆きが──戻らない時間への怒りが、どうしようもない現実への激情が──
その全ては、きっと今、目の前の女性が感じてい
「もういいでしょうッ!?」
どこかで聞こえた甲高い悲鳴が思考を断ち切った。
一心に突き出した槍が泉さんの胸に刺さり、独りでに抜けて、この手にはただ喪失感だけが遺って。
「はあっ、はあっ、は、」
カン、カン、コロロ。
倒れ行く彼女から離れた何かが床を転がる。
弾かれたように駆け出す太郎丸を視界の端に、私は、ただ荒い呼吸が治まるのを待った。
……手に残る骨の感触。肉を断つ感覚。泉さんの顔が目の奥から離れない。
どうして。
息が、吐けない。どうすれば? 息ってどうすればよかったんだろう。ああ、やり方を……忘れてしまった……。
「わん!」
「んぐっ」
ぐっと息が詰まるのに、胸を押さえて吐息する。
塊が喉を通ったように痛んで、目じりに浮かぶ涙を手で拭っていると、足に擦りついてくる感触がした。
見下ろせば、太郎丸が私を見上げている。
「どうしたわんころ、なんか食ってないか……ちょっと……まさか!」
喋れない私に代わって柚村さんが太郎丸の様子を見てくれた。
「なんだこれ……指輪?」
彼女の危惧は杞憂で、太郎丸がくわえていたのは、指輪だった。
綺麗に断たれた紐に通した、銀の指輪。四色の小さな宝石がついた、特別なもの。
……泉さんが首にかけていたものだと、この時はっきりと思い出した。
それが彼女の姉──優衣ちゃんの母のものであることも、同時に。
「めぐねえ、これ」
「……」
指輪を受け取り、汚れを指で拭う。
ただそれだけで指輪は輝きを取り戻して、不思議な眩さを保っている。
……これは、優衣ちゃんに渡すべきものだろう。……時期を、みて……。
私は、それをハンカチに包んで、大切に仕舞った。
ショッピングモールの外に、泉さんの遺体を埋葬する。
一人でやるべきだと思ったが、柚村さんも手伝ってくれた。
傍の花壇で詰んだ花を供えれば、お墓ができた。
祈りを捧げる。
あなたに安息を。
優衣ちゃんは……あなたの娘は、私が必ず守り抜きます。
優衣ちゃんだけじゃない。みんなを守る。それが今、私のやるべきこと。
……。
……ああ、そうか。
「世界を守れるのはただ一人……私なんだ」
「めぐねえ……?」
慈。佐倉慈。あなたは前に言ったね。
"生徒を守れるのはただ一人、私だ"……って。
これは、同じことなのよ。
同じ……教師である私にしか、大人である私にしかできないこと。
そう──。
生徒の世界を守れるのは、私だけなのだから。
「行きましょう、柚む」
『あなたに優衣を任せたのは、間違いだった』
──。
止まった息が、何十秒かの間をおいて緩やかに喉を抜けていった。
振り返る。
小さな山に供えた花が、花弁を風に揺らしていた。
「めぐねえ、大丈夫?」
「え、ええ……」
空耳……。
いいえ、きっとこれは……戒め。
泉さんからの言葉。
厳しい言葉だけど……取り返しはつく。私はまだ生きているのだから。
人に接するのが苦手で、人と話すのが苦手で、人が食べたくて仕方ない。
大丈夫……大丈夫よ。
千翼優衣さん。必ず、先生が治してあげますからね。
……。
学校に戻ると、まず驚いたのは食卓に並んだステーキだ。久しく見なかった真っ当なお肉に思考が凍って……それが優衣ちゃんが……直樹さんと協力して持ってきたものだと聞いて、耳を疑った。
さらに恵飛須沢さんが噛まれたという絶望的な報せも……でも、彼女は音符が飛んでいるのが見えそうなくらいご機嫌にフォークを握っている。感染者特有の症状は見えない。
聞けば、すでに対処されていたらしい。それさえ優衣ちゃんと直樹さんが薬を持ってきたおかげだというのだ。……地下にある、避難区域から……。
ひなん、くいき……?
「あ……」
避難区域。
避難区域!!
知っている。私は、そこを、知っていた……!
知っていたはずなのに……!
「おかあさん」と呼ばれるのが辛くて、逃げるために頭の中から追い出してしまっていた。
どうして、私はこんなにも駄目なのだろう。
この子達はこんなにも強いのに……私、何もできてない。何もしてあげられてない。
──あなたに優衣を任せたのは、間違いだった
泉、さん……!
それでもっ。
それでも、私は巡ヶ丘の教師だから。生徒を、守らなくちゃ、だから。
由紀ちゃん。恵飛須沢さん。若狭さん。
柚村さん。瑠璃ちゃん、星夜ちゃん。
祠堂さん。直樹さん。
──おかあさん。
……優衣、ちゃん。
私は、私は、先生。教師だ。
だから、私は、先生として、あなたたちと接して、い……。
──本当にそれでいいの?
「おかあさん、きもち、わるいの……?」
金の瞳が瞬く。
小さな口から覗く真っ赤な舌に目を奪われて。
蕩けるくらい優しい声に、吐き気がした。
……。
私に母の影を重ねる優衣ちゃんに……どう接するのが正解なのか……私には、わからなかった。
TIPS
・??の指輪
千翼優衣の本当の母親が所持していた指輪
・精神値
・千翼優衣
37/90
・丈槍由紀
61/100
・恵飛須沢胡桃
46/150
・若狭悠里
49/80
・直樹美紀
70/100
・柚村貴依
61/130
・祠堂圭
86/100
・若狭瑠璃
58/100
・月日星夜
47/100
・佐倉慈
10/100
わたしのおかあさんは……
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さいしょのおかあさん
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そだててくれたおかあさん
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めぐねえ