「我が名はウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツゥ!」「はいはいオダブツオダブツ」「勝手に省略することは許さん!」   作:世嗣

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なんかこの話が投稿されるまでにZが始まって終わったりしちゃいましたね。
お久しぶりです。



3

 (タスク)の手にあるクリスタル、『バルタン星人』。

 それはとある宇宙にいたバルタン星人『バルタンバトラーバレル』の姿と力を模してある。

 彼は数少ないバルタン星人の生き残りの一人であり、右腕の剣と鍛え上げた宇宙忍法を用いて戦うバルタンでも指折りの戦士だった。

 

 宇宙忍法と言ってもその技は幅広い。

 

 分身、白色の破壊光線、赤色の凍結光線、そして、『飛行』。

 

 バルタン星人はそのすべてが飛ぶことができる──にも関わらず、なぜか翼はその力を今も引き出すことができないでいた。

 

 

 

 戦場に刃鳴り響く。

 

 片や、魔剣の怪獣バルタン。

 片や、光の巨人ウルトラマンゼロ。

 

 片や、未だ拙い長刀一つ。

 片や、確かな鍛錬を感じる短刃二つ。

 

 片や、背中に天を仰ぎ見る大地を背負いて。

 片や、背中に地を照らす夕陽を背負いて。

 

 どこまでも対照的すぎるほど対照的な二者が、今互いの命をかけて戦っていた。

 

『──捕まえ、たッ!』

 

 ゼロとバルタンとが刃を合わせる。

 右手の剣鋏に左手を添えてバルタンは力で押し切ろうとするが、相手はそれを滑らせるように流して、カウンター気味の蹴り。

 

 そして、バルタンがよろめいた隙に飛翔する。

 

「セェヤッ!」

 

 空を斬り裂くように二刀のスラッガーが飛ぶ。

 弧を描き、バルタンを挟み込むような軌道のスラッガーを転がるようにして避け、上空へのゼロに剣鋏を向ける。

 

「──白色破壊光弾!」

 

 翼によって収束された白色の弾丸は本来ならかわせない速さで放たれた。

 けれどゼロは悠々とかわし、それどころか額のビームランプから緑の光線を放ち、ついでとばかりに撃ち落とす。

 

 ゼロは空を自由に飛ぶ。

 地に這うことしかできないタスクを見下すように。

 

 近接格闘技術、エネルギーを扱う遠距離戦、そして飛行の力。

 

 文字通り、二人には『天と地ほど』の差がある。

 

(オレは、こいつに勝てるのか)

 

 一瞬、翼の中に弱気の影がさした。

 

 そのゆらぎをゼロが見逃すはずはない。

 ゼロが空から降下しバルタンに接近戦を挑みながら、同時にまだ回収していなかったスラッガーを操り、僅かに軌道を変える。

 二つの刃が大きく弧を描きながら必死にゼロと拳を交えるバルタンの死角に潜り込んだ。

 

 ひょう、と二つの高い音が重なる。

 

『この音は……しゃがめ少年!』

 

「え?」

 

 感覚を共有するチェレーザはいち早く気づき、警告したが、翼は声に気を取られて動きが一瞬止まってしまう。

 

 ゼロはその隙にねじ込むように拳を叩き込むと、高みの見物を決め込むように空へと飛ぶ。

 翼は吹き飛ぶ巨体を必死に足でブレーキをかけて止めようとするがそれでも勢いを殺すには至らない。

 

「しま────」

 

 そして、振り向くバルタンの複眼がスラッガーを捉えたときにはもう、二つの刃は避けられないところまで来ていた。

 

 チェレーザがやかましく叫び、翼が息を止め、その寸前に紫の光が花開く。

 

「うーんとこ、しょーっ!」

 

 花はまるで盾のようにバルタンの背中を守り、迫るスラッガーのうち一つを弾いてもう一方とぶつけて、あらぬ方向へと吹き飛ばした。

 

乃木さん(フォッフォッ)?!』

 

「やっほ〜」

 

 光の正体は乃木園子。

 彼女は傘のような盾でふわふわと滑空しつつすたっとバルタンの肩に着地する。

 

なんでここに来たんだ(フォッフォッフォッフォッ)!』

 

「? フォッフォッフォッだけじゃわかんないよ〜」

 

ああ、そっか今オレ怪獣なのかめんどくせえ(フォッフォッフォッフォッフォッフォッ)!』

 

「怪獣だと話せないのは不便だねえ」

 

乃木さんここは危ないから早く別のところに(フォッフォッフォッフォッフォッフォッ)

 

「ハサミをチョキチョキしてどうしたの〜? あ、じゃんけん? じゃんけんだね〜? いくよー、じゃーんけーん、ぐー。私の勝ち〜」

 

違う(フォッ)!!!!』

 

「あ、今のはわかったかも〜」

 

 暁に重なる青き巨人がバルタンとその肩の小癪にも自分の攻撃を防いで見せた人間を見下ろす。

 

 まだゼロの身体は赤混じりの青。

 先日の戦いで見せた灼熱の格闘の力はまだ見せていない。

 

「ーーー」

 

 息を飲むバルタン。

 ゼロが、ぴくと指先を動かした。

 

 バルタンが緊張を高め剣を構えようとした時、突如背後でずるりと、ビルが()()

 

『まさかさっきのスラッガーか?! 回収せずに今ビルを切ったというのか!』

 

 ゼロの動きはブラフ。バルタンの注意を引きつけるためのものだった。

 

「たすくん! まだビルに人が!」

 

 園子の声にバルタンの超視力がビルの中に未だ避難し切れていなかった女の子の姿をとらえた。

 何故そんなところにいるかはわからないが、このままでは彼女はビルの崩落に巻き込まれて死ぬだろう。

 

掴まれよ乃木さん(フォッフォッフォッ)!』

 

 バルタンが左手で軽く肩の園子を包む。

 

『──ッ、間に合えッ(フォッフォッフォッ)!』

 

 翼が叫び、バルタンが風となる。

 道路のアスファルトを踏み砕き、一気に加速したバルタンが滑り落ちそうになっていたビルを紙一重でなんとか受け止めた。

 

ぐ、ぎ、ぎぎ(フォッフォッフォッフォッ)……』

 

 しかし、受け止めて終わりではない。このビルの中にはまだ人がいる。もしここにいる子どもを逃したいなら、別に人手がいる。

 

 ミシミシと腕に食い込むビルを必死に支えながら、翼は肩の園子に向けて指を刺して、次にビルの中を指差した。

 

 言葉はなかった。

 翼のバルタンに言葉を話す力はない。

 彼は怪獣。

 日常に現れ、ただ破壊するだけの存在だ。

 

 けれど、園子には言葉ではなくて、もっと深いところが見えている。

 

「──助けに行けってことだね」

 

 バルタンが頷いた。

 

「任せて」

 

 園子がバルタンの腕を伝ってビルの中に飛び込んだ。

 

 翼が内的宇宙(インナースペース)でほっと一息つこうとした時、視界の端でチカッと緑の光が走る。

 

『エメリウムスラッシュが来るぞ!』

 

「は? エメリウム……ぐあっ!」

 

 ズドン、とバルタンの脇腹に緑の光線が突き刺さる。

 あまりの衝撃にバルタンはうっかりビルを支える手を離してしまう。

 

「きゃああああっ!」

 

 ビルから聞こえてくる悲鳴に、翼が奥歯を噛み締めて地面を踏み締めるともう一度ビルを支えた。

 

『少年手を離せ! このままじゃゼロのいい的だ!』

 

「そんなこと、できる、わけが、ない……」

 

『たかが子ども一人だろう! そのくらいこの先何人出てくるかわからん! そんなもの一々救っていたらキリがない!』

 

「そんなもの、なんかじゃ、ない……!」

 

 痛みで吹き飛びそうになる意識を必死に手繰り寄せるバルタン。

 対しゼロは、ヒーローがそうするようにどこか余裕すら感じさせるようにゆっくりと、エメリウムスラッシュの二射目を構えた。

 

「あの子たちに、俺が、戦わせてる俺が、子どもを見捨てていい訳ない……!」

 

 その中で、園子はちょうどビルの中に取り残されていた女の子のもとにたどり着いていた。

 まだ小さい子だ。きっとまだ小学校の低学年ほどだろうことは、園子からみてもわかった。

 

「だいじょうぶ? 助けに来たよ〜」

 

「は、ああ、あの」

 

「うんうん。怖かったね、もう大丈夫だよ〜。ね、あなた私にぎゅーって掴まれる?」

 

「こ、こう、ですか?」

 

「うん、パーフェクトだよ〜。じゃあ、いっくよ〜!」

 

「へ? いくって、どこに、なんでやりをかまえて……」

 

「ごー!」

 

「あ、きゃあああああっ!」

 

 園子の槍が、園子と園子に抱きついた女の子ごと、一気に加速する。

 直撃すればゼロすら怯むその槍は壁をまるでクッキーのようにぶち抜いて一瞬で外へと飛び出した。

 

「たすくーーーーん! やっちゃってーーー!」

 

う、おおおお(フォッフォッフォッ)!』

 

 園子がグッと拳を突き上げ、それに応えるようにバルタンが吠える。そして、今まで支えていたビルを全力でゼロに向けてぶん投げる。

 ゼロはノータイムで対応し、エメリウムスラッシュでビルを粉々にし、その影から魔剣の怪獣が踏み込んでくる。

 

 これにはゼロも虚をつかれたようにほんの一瞬身を固くした。

 

「勇者が来る前にーーー決めるッ!」

 

 エネルギーを剣鋏の中に収束し、そこから刃に沿わせるように力を操る。

 

 燐光が刃を満たす。

 

「白色──ッ!」

 

 そして翼が勢いそのままに剣を振り抜こうとして、フッというゼロの嘲笑を聞いた。

 ぞわり、と肌が粟立つ。身を捩ってなんとか軌道をずらそうと試みるが、彼にそんな技量などない。

 

(まさか、誘って──!)

 

 剣鋏に蛇のようにしゅるりとゼロの腕が組みつく。

 極められた腕はウルトラマンの誇る圧倒的膂力により固定され、ぐるりと半回転。空へと投げ飛ばされる。

 そして、ゼロは跳躍するように飛行、加速。バルタンのくるであろう位置に回り込み、強烈な火炎を纏う蹴りをたたき込んだ。

 

「ぐ、がああああああああっ!」

 

 一万トンを超える質量が四国の大地に叩き伏せられ、市街地のど真ん中にクレーターを作る。

 

 おそらく、巨人と魔人の戦闘をみていない人たちからすればまるで流星が落ちたかと錯覚したことだろう。

 

「く、た、て……立たなきゃ、いけないんだ……」

 

 無数の建物が乱立する中で道路の瓦礫と土に半ば埋まったバルタンが震える足で立ち上がる。後ろにはまだ、女の子を連れた園子がいるはずなのだ。

 その前に青と赤、銀の身体の光の巨人がゆっくりと地に降り立った。

 

「まだ、終わってねえぞ!」

 

 バルタンが不格好に剣を構えた。

 ゼロは腕を組み仁王立ちで相対する。

 

 先ほどのスピードなど見る影もないバルタンが剣を振るうが、容易くクロスカウンターを叩き込まれる。

 

 ふらついたバルタンが追撃の蹴りでまたもやクレーターの中に叩き込まれる。

 

 そのタイミングでゼロが腕をL字に組み、光を収束した。

 ウルトラマン全ての基本技である『スペシウム光線』の発展『ワイドゼロショット』。父セブンですら一度撃てば活動時間の残りが一分となる技のアレンジであるためその威力は絶大。

 

 戦闘開始から僅か32秒。無数の戦いにエンドマークを打って来た必殺技の一つがバルタンに向けられた。

 

「やっぱり、オレじゃあ、ダメなのか……」

 

 ウルトラマンゼロの表情は全く変わらない。

 見ようによっては慈愛すら感じられるその表情が今は、変えようのない終わりを携える処刑人のそれにさえ見える。

 

「たすくん!!」

 

 どこかから声が聞こえた。動かなきゃ、そう思っても体はもう鉛のようで。

 

 なんとか上げた顔が、L字の向こうのゼロの視線とぶつかった。

 

 ──「お前の限界はそこだ」、そう言われた気がした。

 

 ここが剣の魔人である紅翼(かいじゅう)の限界。

 

 クレーターの中で、陽が沈み星空へと変わり始めた空の下で、バルタンが膝を落とした。

 

 ──ワイドゼロショット。

 

 声なき声で告げられた破壊の光。

 

 速度は光と同質のエネルギーであるゆえに高速。

 そして、光は『クレナイ・タスク』にかわす暇すら与えず、バルタンに命中し、爆音をたてた。

 

「たすくん!!」

 

 園子が叫び、ゼロがもうもうと立ち込める爆煙の向こうを見据える。

 

 それは人間らしい感傷でも、戦士らしい敵への経緯による行為ではなく、そこにある粉々になったバルタンの死体を確認するためだけの作業だ。

 

 一秒、二秒、三秒経ち、煙が晴れる。

 

「──え?」

 

 目を疑った。

 

 そこには無傷のバルタンがぼうっと呆けたように突っ立っていた。

 光線の跡すらなく、まるで無傷であり続けるように作られているとしか思えない姿。

 

「違う、あれは、いつものあの人じゃ……」

 

 その時、地平線に沈む太陽が最後の影を作り出した。

 

 園子がハッとしたように影の根本を追っていく。

 すると高いビルの最上階、その上に乗って荒い息で肩を揺らす魔人の姿がある。

 

 青黒い鎧はそれ自体が夜空のようで、それに反するような『赤い』瞳が、逢魔時を体現するかのようだった。

 

「ーーー『ディフェンスブランチ』」

 

 途端、ゼロの目前からバルタンの姿がかき消えた。

 

「今の、ウルトラマンと戦った時に使ってた……」

 

 園子の記憶に、初めてのバルタンの戦いが思い起こされる。

 

 ──ディフェンスブランチ。

 バルタン星人特有の無限に等しい分身を盾へと変えて相手の攻撃を防ぐ大技。

 

 翼の使ったものではない。彼に使えるのはエネルギーを操る光斬と光弾だけだ。

 

 ならば、誰がやったかなど答えは一つしかない。

 

「チェ、レーザ?」

 

 そう、チェレーザがやった。それ以外に説明がつかない。

 

「おまえ、なんで」

 

『ぬぁぁぁにを諦めようとしている!』

 

 やかましく、声が響いた。

 

『あーんだけ偉そうに私に色々言っといてゼロを前にしたらあっさり諦めそうになってるんじゃないよ! 

 いいかね、夢を叶えるためにはね、変化を恐れてはいけない! 自分から逃げてはいけない! 

 それが今の少年はどうだぁ? 

 心折れそう。勝てないって諦めそう。目の前の現実から目を逸らしそう。

 スリーアウトチェンジバッターアウッ! 

 失格! ウルトラマン失格!』

 

「オレは別にウルトラマンなんかじゃ」

 

『はいはい言い訳しなあい! うじうじしてる暇あったら自分の言葉でもかえりみろいっ!』

 

「オレの、言葉?」

 

『少年は私に『ヒーローを目指してもいいんじゃないか?』と言っただろうっ! そしてそれは、何度でも立ち上がる存在だとっ! 忘れたのかねっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『そのために私は誰よりも強くあらねばならない。負けてはならないんだよ、ヒーローは。

 守れないヒーローよりも……勝てないヒーローの方が論外だ』

 

『人は求める! 完全無欠のヒーローを! 助けてくれと! 救ってくれと! 勝ってくれと! 

 ならば……私が応えるべきなのはその叫びだ。

 絶対に勝てなければ、戦う力を持っていても意味がないんだよ』

 

「いや、チェレーザ、そうじゃないだろ」

 

「お前がさっき乃木さんに話してた『ウルトラマン』はさ、絶対勝てる人じゃなくて、何度負けても立ち上がる人って感じがしたけど、違うか?」

 

「オレたちは『怪獣』だ。『ウルトラマン』にはなれない。でもさ」

 

「せめて、オレたちの在り方くらいはヒーローを目指しても良いと思わないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほんの少し前の自分の話を思い出す。

 

『何故こんなところで諦めそうになっている! いいかね君は私の素晴らしきウルトラマン譚のその序章を任せてやっているのだぞ! ならばこんなところで心を折っとる場合じゃないだろう! というか少年が死ぬと私も死ぬ!』

 

 チェレーザが、あらん限りの声を張り上げる。

 

『こんなところで諦めるな! 敵のいる前を見ろ! そして、今ここで()()()()()()ッ!』

 

「無茶苦茶、言ってくれやがる……」

 

 本当にやかましくて、腹立つくらいにバカにした言い方なのに、その言葉を聞くと、なぜだか背筋がしゃんとした。

 

 内的宇宙(インナースペース)の中で翼が体の痛みを噛み砕きながら唇の端を吊り上げる。

 

「お前の言う通りだよ」

 

 クレナイ・タスクの限界ではゼロには勝てない。

 

 ああ、そうだろうさ。

 自分は弱いただの人間だ。

 なら、限界を越えるために、何でもしなきゃいけない。

 

 内的宇宙(インナースペース)の中の、一秒を百万に区切る一瞬で、少年は彼に向き直った。

 

「チェレーザ」

 

『あん? なんだね弱音なら私は……』

 

()()()()()()()()()()()()

 

 名を呼び、深々と頭を下げた。

 突然のことに、流石のチェレーザも困惑する。

 

『は? 戦い方? 急にどうした?』

 

「お前が何度も言ってただろ。死ぬほど悔しいけど、今のオレじゃあゼロには勝てない。足下にも及ばない」

 

 翼が顔を上げた。

 

 対面を見据えるその目の奥に、悔しさ、怒り、無力感、そんなネガティヴな感情が濁っているのが見える。

 

「でもお前は違う。だってお前はオレよりはるかに、この体(バルタン星人)の動かし方がわかってる」

 

『む──それは、当然だ』

 

 チェレーザにはいつかのために積み上げられた確かな剣術がある。

 チェレーザには憧れに近づくために頭に入れた戦術がある。

 チェレーザには夢のために流離った宇宙で聞いた知識がある。

 

 剣術も戦術も知識もない翼とは違う。

 

 すう、と翼が息を吸った。

 

「チェレーザ、お前はクソ野郎だ。街は守らないし自己中だし空気読めないし勝手にオレの体使うし仕事中には横から口出ししてくるしその指摘はなんだかんだ妥当だしそのおかげで安芸さんからの評価は上がったしつーかそれがかえってムカつく」

 

『なぜ私は突然罵倒されているのかね?! 私今頼み事されてるんだよな?!』

 

「でも、信頼したいとは、思ってる」

 

『──』

 

 なんだかんだ園子の質問に答えてやっていた彼を。

 自分の身を守るためとはいえ手を貸してくれた彼を。

 諦めそうな自分を一喝して前を向かせてくれた彼を。

 

 クレナイ・タスクは、信じたいと思った。

 

「今はオレがお前で、お前がオレなんだから」

 

 そして、頭を深々と下げる。

 

「頼む。お前の力で、オレの限界を超えさせてくれ」

 

『……少年さぁ、めっちゃわがままで虫のいい話してるのわかってるかね?』

 

「わかってる!」

 

『いやそんな元気に言われても』

 

「相手はあのゼロだぞ?」とチェレーザが目で訴えかけた。

 だが翼は頭を下げていたのでその意思は特に伝わらなかった。

 

 一秒が六十分の一の刹那の世界で、チェレーザは考え込む。

 果たして本当にこの少年に手を貸してゼロに勝てる可能性があるのかどうか。

 

 ないだろう、すぐにそう結論づけた。

 

『いいかね、ゼロに勝ちたいなら大人しく身体を私に明け渡したまえ。なあに私なら見事勝って見せる。ほれ、ほれ?』

 

 黒いもやのくせに肩をポンポンと叩こうとしてくるチェレーザに、翼が口を開いた。

 

「なんだよ、もしかして自信ないのか?」

 

『しょうがねえなああああああああああああああっ! やってやるよおおおおおおおお!』

 

 少し考えればわかりそうなあからさまな煽り。けれど千年単位生きても常にネット始めたての中学生のようなメンタルのチェレーザがそんなことに気づくはずもない。

 

 バルタンの()()()()が赤に染まる。

 

「ーーーッ」

 

 ビルを飛び降りた勢いを載せて振り下ろされたバルタンの剣をゼロが十字に組んだスラッガーで受け止める。

 

『行くぞおおおおおおお! ちゃーんと言うこと聞けよ! 少年!』

 

『──ああッ!』

 

 チェレーザが声を張り上げ、翼は短く頷き返した。

 

 魔剣と刃が斬り結んだのも束の間、ゼロは先ほどと同じように刃を滑らせて流そうとする。

 

『左でアッパー!』

 

「らぁっ!」

 

 だがそれよりも早くバルタンの左アッパーがゼロの顎を狙う。

 それを紙一重で交わしたゼロがトン、とバックステップ。構え直して距離を取る。

 

『前へ踏み込め!』

 

 バルタンが食らいつくように一歩前へと踏み出す。

 

『左へステップ!』

 

 たん、と軽やかに左の側面に跳ぶと、僅か数瞬後にゼロの拳が振るわれる。もちろん、もうそこにバルタンがいるはずもない。

 

『唐竹!』

 

 魔剣が垂直に振り下ろされるが、ゼロはそれはもう見たとばかりにスラッガーを重ねてガードする。

 

『……と見せかけて左で蹴れ!』

 

 ゼロの腿にバルタンの蹴りが突き刺さる。

 

 その一撃に、ゼロが()()()()()

 

 生まれたのは針の穴のような小さい隙。翼とチェレーザはその穴を無理やりこじ開けるように、吠える。

 

『少年!』

 

「わかってる!」

 

 バルタンが剣鋏をゼロの腹に向ける。

 

「白色──破壊光弾ッ!」

 

 抜き打ち気味の白い弾丸がバルタンの腕から放たれ、ゼロにぶち当たる。

 

「──ッ」

 

 無敵にすら思えた光の巨人が、大きく後ろに吹き飛ばされる。

 

 ──それは、バルタンがゼロとの戦いで与えた、初めての明確なダメージだった。

 

 ゼロは空中でブレーキをかけると、腹から僅かに漏れ出す光の粒子に手を触れる。粒子はちらちらとその指の隙間から漏れ出し、夕闇に溶けて消えていく。

 

『ハーッハッハッハーッ! どうしたゼロのモノマネくん。少年相手で勘が鈍ったかな?』

 

「変に煽るなよ。オレたちは劣勢なんだ」

 

『大丈夫大丈夫。私たちの声どうせフォッフォッてしか聞こえてないから』

 

 翼が確かにと頷きかける。

 すると、ゼロが自分の手首あたりを叩く。

 

《 ウルトランス! ファイヤーモンスフレイム! 》

 

 一瞬、ゼロの背後に現れた炎の怪獣の姿が、溶けるように炎へと変わりゼロの身体を真紅に染める。

 

《 ストロングコロナゼロ! 》

 

 ゴウ、とゼロの炎が空気を焼いた。

 そして量の拳をガンガンと何度もぶつけ合わせながら、どう考えても過剰に感じるほどの熱量を拳に纏わせる。

 

「……聞こえてたんじゃない?」

 

『……かもしれない』

 

「何やってんだよ! ただでさえアイツつええのに!」

 

『ええい、どっちしろいつかは使ってくるんだ! いつ使われるか分からずにドキドキするよりかはマシだろがい!』

 

「それは慰めでオレが言うことで、お前の方が言うことじゃねえから!」

 

 バルタンが右手の剣を構える。

 

『ストロングコロナ……前回はいいようにやられたが、もう同じと思ってくれるなよ』

 

「オレだけじゃお前に勝てない。それはよくわかった。だから」

 

『私と』

 

「オレで」

 

『お前を倒す!』

「ここを守る!」

 

『……』

 

「……」

 

『合わせろや!』

「合わせろよ!」

 

 微妙に締まらない声が重なり、闇の魔人と真紅の巨人の第二ラウンドの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 激しい爆音を背に受けながら、園子は先ほど助けた女の子を抱えて走る。

 普段の園子ならいかに年下の女の子といえど抱えて走るのは難しかっただろうが、神樹の勇者としての加護を受けている今はこの程度たやすいことだった。

 

「このらへん、かな」

 

 それまで跳ねるように走っていた園子がスピードを緩め、抱えていた女の子をゆっくりと地面に下ろした。

 

 園子は怯えたように体を固まらせる女の子の頭を撫でるとほにゃりと笑う。

 

「ここから先まっすぐ行けば避難所だから。一人で行けるかな?」

 

「は、はい……」

 

「ならよかった〜。転んじゃわないように気をつけるんだよ〜、あなた髪長いし〜」

 

 ばいばい、と手を振り今来た道を戻ろうとする園子を、女の子が呼び止める。

 

「あ、あのっ」

 

「ん〜?」

 

「その、あの大きい、鋏の人って、ニュースでやってた『怪獣』、なんですか?」

 

「……そうだよ〜」

 

「あの巨人と戦ってて、どっちが味方かは、まだ断定できないって」

 

「……そうだね〜」

 

「お姉さんは、あの怪獣さんを助けに行くんですか?」

 

「うん。あの人だけだと色々危なっかしいから〜」

 

「……私は、あの怪獣さんをどう見ればいいんでしょうか。助けてくれた人なのか、それともニュースが言うみたいに」

 

「それは」

 

 園子がいつもの調子で、言葉を遮った。

 

「あなたが決めることだよ。あの人を信じるか、信じないか」

 

 手の中でくるりと槍を回して「まあ」と前置いた園子が、ぐぐっと体を沈み込ませた。

 

「私は、信じることにしたんだけどね〜」

 

 そして、跳ねる。

 

 勇者の強化された身体能力にかかれば、その単純な動作でさえ軽く路面にヒビを入れ、一気に加速。

 バルタンとゼロの戦場の中に舞い戻っていく。

 

「たすくん」

 

 あのゆったりと笑う男の人が、今は気がかりだった。

 

 一歩進むごとに空気が熱くなる。

 季節は未だ春。しかも夜にもかかわらずその熱気は真夏の昼間のよう。

 じり、と異常な熱気が園子の肌を殴りつけるようにも感じる。

 

 それはまさしく太陽(コロナ)

 陽が沈み、夜へと変わる四国の街に現れた三分限りの滅びの夕陽。

 勇者たちは、その三分間を死ぬ気で耐え切らなければならない。

 

 不意に、園子をすっぽりと影が包んだ。

「あれれ?」と園子が首を傾げて空を見上げると、ゼロに吹き飛ばされたバルタンが落ちてきている最中で。

 

「あ」

 

が、があああっ(フォッフォッフォッ)

 

「だ、だーーーいぶっ!」

 

 ずしゃあと園子が道路の脇に滑り込んだ直後、バルタンの巨体が凄まじい音を立てて地面に倒れ込む。

 

ぐ、いつつつつ(フォ、フォフォフォ)……」

 

『ほら早く立ち上がれ! 諦めるな! 前を見るんだよ! ……む、少年、あそこにいるのは乃木園子じゃないか? 随分早く戻ってきたな』

 

ほ、ほんとだ。乃木さん(フォッフォッフォッフォッフォッ)! ここは危ないから下がって(フォッフォッフォッフォッフォッ)!」

 

「うん、一緒に戦うよ~!」

 

駄目だやっぱ伝わってねえ(フォッフォッフォッフォッ)!」

 

『なーんか君たちをみてるとあの三兄妹を思い出す―――っ、少年剣を上段に!』

 

 反射的にタスクが頭上に掲げた剣と、彼方より飛来した紅蓮のスラッガーとが甲高い音を立てたのはほとんど同時のことだった。

 

『転がって避けろ!』

 

 追撃の火球を園子とバルタンがかわす。

 園子は後ろにとんで、バルタンはチェレーザの声の通り前へと転がる。

 

『……ゼロ』

 

 バルタンが空を見る。

 そこには深紅の巨人となったゼロ。

 

 バルタンが背後を見る。

 そこにはゼロの放った火球が燃え移り園子とバルタンの間に大きな火の壁を作っていた。

 

「たすくん〜! 手を貸して〜! 炎でそっちに行けないの〜!」

 

 炎の向こうで赤と黄の二色の瞳で園子を見た。

 

「たすくん?」

 

『ここは俺が戦う。君はさっきみたいに逃げ遅れた人がいないか探してくれ』

 

「たす、くん……?」

 

『……と言っても君には俺の声が伝わってないんだろうけど』

 

 一瞬翼は苦く笑い、けれどすぐに再びゼロへと向き直り、駆け出した。

 

 一人で、絶望的な戦力差の相手へと。

 

「おらこっちだウルトラマン! 来やがれ!」

 

 ドン、と軽めの光弾でゼロの視線を引きつけ、避難所と反対方向へと進む。

 ゼロも今はバルタン以外を相手にするつもりはないようでそのままバルタンを追って炎混じりの光を撃ちながら追いかける。

 

「チェレーザ、今のお前とオレなら空飛んでゼロのところまで行けないか?」

 

『無理だな。少年の求めるものに答えからなのかは知らないが、このバルタンはやたらと力が限定的だ。私が表に出ても空を飛ぶ力は使えんだろうな』

 

 空からの火炎を滑るようにしてかわしながら、バルタンは腕から光弾を飛ばして牽制する。だが、ゼロはそれをたやすくかわしながら倍以上の火炎を浴びせてくる。

 

 一瞬、ポケットの中に入っている『エレキング』のクリスタルに目を向けて、ぶんぶんも首を振る。

 

 このクリスタルはずっと反応しない。今はやはりバルタンだけで戦うしかないのだ。

 

 翼が小さく舌打ちをもらす。

 

「……厳しいな」

 

『……空を飛ぶのは無理だ。が、あのゼロを地面に引き摺り下ろす手がないわけではないぞ』

 

「──!」

 

『しかし少年に主導権がある以上あまり信用はできんな。この作戦の成功の確率は高く見積もっても』

 

「やる。教えてくれ」

 

『フン、決断が早いのは評価してやろう! よーし、では今までとは比にならないシビアなことを求めるぞ! 気合入れろよ少年!』

 

「ああ!」

 

『いいか、まずは──』

 

 チェレーザは指示を出し、翼はそれを黙って聞いた。

 少し前でならあり得なかった、二人なりに関係を進めた形で実現したこと。

 

『──以上だ。できるな?』

 

「うん、やってみせる」

 

『よし……あ、それと今後は私の言うことをよく聞き、不必要に喋らず、過度に悩まず、それでいてスタイリッシュに、たった一人でも決して絆をあきらめず、心を強く持ち、私の名言はちゃんと聞いてメモに取り、ウルトラマンオーブのその活躍の全てをあたまに叩きk』

 

「付け加えがなっげえ! 頭パンクするわ!」

 

『なんだとう! 私のありがたーい言葉がまるで猫に小判! 馬の耳に……馬……鹿……』

 

「このタイミングでうまいこと言おうと考え込んで黙んな──っと」

 

 目の前をスラッガーが通り過ぎた。

 ダラダラと話している暇はない。

 

 すう、と翼が息を吸う。

 

「できることを全力でやる。今のオレにできるのはそれだけだ」

 

 そして二色の瞳の魔人が街の外れでぴたりと足を止めた。

 まるで自分を的にしろと言わんばかりの行為。

 

 バーテックスたる巨人がその隙を見逃すはずはなく、右腕を水平に伸ばす。それは先ほど見た必殺の光線(ワイドゼロショット)の構え。

 

 それに対し一拍遅れ、バルタンが腕を構えて白色の破壊の力を収束する。

 

「ーーー」

 

「──」

 

 二体の間に、一迅の風が吹き抜ける。

 

「ワイドゼロショットッ!」

 

 光の奔流が放たれる。

 当たれば即死のその光線を前にバルタンは腰だめに構えた腕をそのまましっかりと見据えた。

 

『まだだぞ少年』

 

 内的宇宙(インナースペース)のチェレーザの声に頷く。

 

『まだだ』

 

 みしり、と限界まで収束された力に鋏が耐えきれないように軋む。

 

『まだだ』

 

 光線が空気を焼き、その熱がじりとバルタンの表皮に伝わった。

 

『──今!』

 

 限界まで引きつけたワイドゼロショットが肌を撫で、肩のアーマーを吹き飛ばしていく。

 

「ここだぁああああ!」

 

 そして、その瞬間こそを翼は狙っていた。

 アーマーに拮抗したコンマ数秒で、バルタンが身を捩り光線を受け流しつつ、その射線状に光弾を()()()

 

 光弾と光線。

 

 似て非なる二つのエネルギーは混ざり合い、巨大な爆発を引き起こす。

 

()()()()()()()()()()

 

「オレはお前と違って飛べない。お前の当たり前ができない。でも」

 

 ウルトラマンが鳥ならば、翼は地を這う虫に過ぎないだろう。

 でも、地を這う虫だって意地がある。

 

 叛逆のために突き上げる想いがある。

 

 なら、できることはあるはずだ。

 

 バルタンが一瞬爆炎に呑まれて姿を消してそして。

 

「飛べないなら、跳べばいいッ!」

 

 巨人の生み出した光と、自分の中にある闇から生まれた力との爆風に乗ってバルタンは空高くへと跳んだ。

 

「う、おおおおおおッ!」

 

 燐光が刃を満たし──ひゅうんと風切音がした。

 

『右!』

 

 チェレーザの指示を『信じた』翼がそのまま剣を横薙ぎに振るうと、ゼロが飛ばしたスラッガーを──翼は感じ取れなくてもチェレーザには感じ取れていた攻撃を、弾き飛ばした。

 

「そう何度も同じ手を!」

 

『食らうものかよこの野郎!』

 

 半ば捨て身の突撃。バルタンが剣を叩き込むまでの僅かな時間を迎撃に使ったゼロは、もう回避をする余裕はない。

 

「白色──破壊光斬ッ!」

 

 その時、突如ゼロが拳を引いて炎を収束すると、何故か自分の真横に撃った。

 

「迎撃?! いや、でもなんで横に」

 

『いやこっちの方が早い! このまま振り抜け!』

 

 バルタンの剣鋏が白く輝き、ゼロへと迫る。

 

 だが、次の瞬間バルタンの()()()()一筋の熱線が降ってくる。

 

 まるでレーザーのように鋭い光線は今まさにゼロへと食らいつこうとする剣鋏に直撃し、僅かなヒビを入れた。

 

「──剣、が」

 

 バルタンの体勢が崩れ、小さなヒビから剣鋏のエネルギーが霧散していく。

 

 ゼロは勢いの無くなった斬撃を焦らず丁寧に弾いて、空に無防備に浮いたバルタンの体に手をかけた。

 

 轟、と旋風が巻き起こる。

 

 火炎が巻いて、業火の竜巻と代わり生まれた勢いそのままにバルタンを地面へと吹き飛ばした。

 

「い、ま、のは……」

 

 人気のない街の中にできた大きなクレーターから這い出すバルタンがふらふらと空を見上げる。

 

 空には、真紅の巨人と、その周囲を旋回する一対の『ゼロスラッガー』。

 

『ま、まさか、最初のゼロスラッガーの攻撃は私たちを安心させるためのおとりで、本当の狙いは()()()()()()()、私たちの死角から迎撃することだったとでも言うのか』

 

 意識には限界がある。

 万年を生き、そのほとんどが正義の道から外れることのないウルトラマンならいざ知らず、翼もチェレーザも至って普通の精神構造をしている。

 

 だから、()()()()

 

 ゼロスラッガーの攻撃を完璧に防ぎ、あと少し剣を振れば勝てるという状況に、警戒を緩めてしまった。

 

 そして、ゼロはその警戒心の緩みが出ることを理解していた。

 

 攻撃が当たるまでの僅かな隙間に差し込まれた、一見無駄に見えた光線は、弾かれそのまま周囲を旋回していたスラッガーにぶつかり、反射。

 さらにあらかじめ飛ばしておいたもう一つのスラッガーへと光線を送り、バルタンの剣を狙ったのだった。

 

『あの土壇場で私たちがスラッガーを弾くのまで読み切って、しかも寸分違わず剣だけを狙ったというのか……』

 

 ゼロが地面に降り立つと、旋回していたゼロスラッガーがあるべき場所へと戻る。

 

『こんなの、差が、ありすぎる……』

 

 内的宇宙(インナースペース)の中で、翼がふらふらとファイティングポーズを取る。

 

「ま、だ、だ……」 

 

 バルタンが剣を構え、我武者羅に駆けた。

 

 せめて、ゼロに一太刀浴びせようと、最後の逆転の望みをかけて突っ込んでいく。

 

「あああああぁぁぁぁぁああああッ!」

 

 巨人の拳と、魔人の剣とが交錯した。

 

 そして、魔人だけが倒れ、その側に半ばからへし折れた剣鋏が空中に舞い、突き刺さる。

 

『少年! 立て! 諦めるな!』

 

「わかっ、てる……でも」

 

 もはやバルタンは満身創痍。

 翼がどれほど動こうとしても、これ以上は身体の方がついてこない。

 

「オレ、が、倒さな、きゃ……」

 

 バルタンか折れた剣を杖にして立ち上がり、そこで力尽きたように体の端から闇が解けて消えていく。

 

 そして、先ほどまでバルタンがいたところには生身の翼だけが残された。

 

 それは明らかな剣の魔人の敗北という結果だった。

 

 予言*1通り、『魔剣』のバルタン星人では業火の巨人には勝てない。

 

「く、そ……」

 

 未だゼロのカラータイマーは青いまま。

 

 まだゼロはたっぷり一分は活動時間を残している。

 

『少年! 早く立って逃げろ! このままじゃ殺されてしまうぞ!』

 

「わかって、る……」

 

 翼がずるずると這いながらゼロから逃げようとするが、そんなものは時間稼ぎにもならない。

 

 

「そこまでよ」

 

 

 その時、ゼロの肩に小さな青い矢が突き刺さった。

 眩しい、目が眩みそうで、でもどこか目を離せない光の弓矢。

 

「こっちも忘れんなよっと!」

 

 更に間髪入れず叩き込まれるのは紅蓮の炎斧。

 

「こういう守るのは私の役目、だね〜」

 

 ゼロが鬱陶しそうに斧を払い、軽い火炎を飛ばして反撃するが、それが紫紺の盾にて防がれる。

 

「……勇者」

 

 青。赤。紫。

 三つの色からなる、勇気ある少女たち。

 彼女たちは、翼のピンチに颯爽と現れた。

 

 まるで、御伽噺のように。

 

 不意に、翼の体がふっと持ち上げられ、ふわふわと癖のない金色の髪が頬をくすぐった。

 

「ごめんね〜、ちょっとみんなでお勉強してたら来るの遅れちゃった〜」

 

「乃木、さん」

 

「あ、あんま話さないで〜。わっしーとミノさんは遠いから気付いてないけど流石に声とか聞こえちゃうとバレちゃうと思うから〜」

 

「ーーー」

 

「バレたくないんでしょ〜?」

 

 園子は翼を抱えたまま瓦礫の間を縫うように走り、ゼロからも、他の勇者二人からも見えない場所で翼を座らせた。

 

「……ごめん、オレ、勝てなく、て……」

 

「んーん、いいんだよ。がんばってくれたんだね、一人だけで」

 

「乃木さん」

 

「……じゃ、私行くから〜。たすくんは大人しくしててね〜」

 

「まって、くれ。オレも、行く。もう一度、戦う」

 

 園子が足を止める。

 

「……たすくんもう一度変身できるの?」

 

「でき──いや無理だな。原則変身は一日一回だ。おそらく力がたまらんだろう──チェレーザお前勝手に!」

 

「チェレーザが言うならそうなんだろうね〜」

 

『あれ今私呼び捨てにされた?』

 

 翼が壁に手をついて立ち上がろうとするが、途中で膝が砕ける。

 園子はそれを予め見越していたように抱きとめた。

 

「オレが、戦う。そのために、オレは、この力を」

 

「あはは、胸の中でもぞもぞ喋るとくすぐったいよ〜」

 

「今は真面目な話を!」

 

「わかってるよ」

 

 ぽんぽんと園子が翼の頭を撫でた。

 

「わかってる。たすくんがすごーく真面目で、すごーくすごーく、優しい人ってこと」

 

 でもね、と園子が少し寂しそうに目を細めて、翼を再び座らせた。

 

「私はね、たすくんに知って欲しいんだ」

 

 ひゅん、と園子が槍を手の中で回した。

 

「私たちだって、強いってこと!」

 

 紫の影が飛び出し翔ける。その横に赤と青の二つの色が並び立つ。

 

「お、園子! 待ってたぞ!」

 

「逃げ遅れた人、大丈夫だった?」

 

「うん、腰が抜けて歩けなくなってたけど無事だったよ〜」

 

「腰が……この先トラウマとかになってなければいいのだけれど」

 

「そ、それは確かに困るんだよ! とりさんのトサカをみてウルトラマンを思い出すようになるかもしれないんよ〜!」

 

「じゃあこれ以上その人のトリウマ増やさねーように気合入れないとな!」

 

「銀、混ざってるわ。トラウマよ、トラウマ」

 

「とりさんは美味しいよねえ……夕飯はとりさんだといいなあ」

 

「そのっち! 集中して!」

 

「はっ、えへへ、ごめんごめん」

 

 ゼロが狙いをバルタンから目の前で飛び回る取るにたらない小さな生命へと変えた。

 

「ミノさん!」

 

「おうさ!」

 

 園子が左を見ると、銀が頷く。

 

「わっしー!」

 

「ええ!」

 

 園子が右を見ると、須美が頷く。

 

「おうおう、まさか怪獣倒したくらいでいい気になってんのか?」

 

「ここからは、私たちが相手よ」

 

 園子が思い出す、ボロボロになっても尚も立ち上がろうとしていた年上の彼を。

 

「私、私のお友だちいじめられてちょっと怒ってるんだから」

 

 紅蓮の双斧が、紺碧の弓が、紫電の神槍が、並び立つ。

 

「いっくよ〜!」

 

 

*1
「大地の理書き変わりし時吹き荒るるは

 地を燃やし闇を無に帰す光の巨人

 其は原初にして終焉の名を冠し

 焔の剣にて勇者を討つ

 業火は魔剣にて切り裂けず

 纏う嵐のみが道を開く」




 支援絵をいただきました。
 Twitter等投稿時の表紙絵に設定させていただいてます。
 めちゃくちゃやかましくていいイラストなので是非是非確認してもらえると嬉しいです。
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