「我が名はウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツゥ!」「はいはいオダブツオダブツ」「勝手に省略することは許さん!」   作:世嗣

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「目に見えるものだけ信じるな」
   ジャグラス・ジャグラー


4

 

 

 

 

「はあ、はあ……」

 

『まだ立つのか』

 

「当たり前、だ」

 

 園子に物陰に座らされた(タスク)がふらつく体のまま立ち上がる。

 2分にも満たない短い戦闘だったにも関わらず翼の体は満身創痍。

 内的宇宙(インナースペース)の奥から冷静にダメージを見れるチェレーザからすれば意識がある方が不思議なくらいだった。

 

『行って何になる! 少年の体はボロボロ! 変身はできない! 戦いなら勇者がやってるじゃないかね!』

 

「それでも行かなきゃ、いけないんだ。何もできなくても」

 

『馬鹿もーん!! それが何になるというんだね! 少年は負けたんだよ! 完膚なきまでに! 負け負け負け負け! 大敗北! もうしょうがないんだよ! 勇者が3分稼いでウルトラマンが帰るのを待つのが賢い選択だぞう!』

 

「黙って、ろ」

 

 戦闘の余波で壊れたビルの壁で体を支えて、三人の勇者の戦場まで戻る。

 

「鷲尾さんたちは──」

 

『期待なんてするだけ無駄だ。考えても見たまえ、私たちがいなければ所詮ウルトラマンにとってはハエみたいなもんだ。もうとっくに負けて……負けて……』

 

 チェレーザのやかましい声が途切れた。そしてただ目の前の光景を見上げて絶句する。

 もしチェレーザに顔があったならびあんぐりと口を開けていたことだろう。

 

『負けてない……というか押してる?! どういうことだね!? 偽物とはいえあのウルトラマンゼロだぞ?!』

 

「戦ってるんだ、勇者が。戦えない、全ての人の代わりに」

 

 翼とチェレーザが共有した視界で50mに迫る巨人と、その周囲を飛び回る三色の光を見上げた。

 

 ウルトラマンゼロが四国結界内に侵入して、もうすぐ二分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一手のミスが致命傷になる、園子はこの戦いをそう結論づけていた。

 

「──シェアッ!」

 

「ミノさん右!」

 

「応よっ!」

 

 周囲を駆け回る虫を蹴散らすようにゼロが足を蹴り上げる。

 狙いは最前線にいる紅蓮の勇者、三ノ輪銀。

 

 だがその攻撃もゼロのリーチから少し離れた絶妙な位置で俯瞰していた園子の指示によって見事にかわされる。

 

「散会!」

 

 蹴りがからぶるや否や、遥か後方から矢継ぎ早に光の矢が飛ぶ。

 目、膝、腹にそれぞれ三本ずつ。

 

 ゼロは一瞬面食らったように動きを固くしたものの、すぐに腕から火炎の盾を生み出してガードついでに射手に反撃の火炎弾を飛ばした。

 

 だが、もうそこには須美はおらず無為に攻撃だけが通り過ぎていく。

 

「安芸先生曰く、撃った後には走る……は思考能力がある敵と戦う時の基本なんだそうよ」

 

 ゼロが苛立たしげに口元を擦り、気づく。

 先ほどまで目の前をちょろちょろと跳び回っていた赤い影がいないことに。

 

「いただき──って、ウッソこれ反応するのか!」

 

 ゼロが生み出した爆炎に紛れて背後に回り込んだ銀が思い切り力を込めて斧を叩きつける。

 だがゼロはほとんどノータイムでそれに反応し腕を重ねてしっかりガード。

 勇者の中で最も火力のある銀ですらゼロの表皮をがり、とほんのり削ることしかできない。

 

 それなのに、銀はにんまりと笑った。

 

 だって勇者は三人だから。彼女たちは押し込める、あと一手がある。

 

「今だ園子!」

 

「おっけー! と、つ、げ、き〜〜っ!」

 

 紫電の風が吹き抜け、紅蓮に染まった巨人の足に斬撃を刻んでいく。

 一、二、三、四。跳ねるように、弾むように園子の手の中で槍が踊る。

 一つ一つは浅い傷だがそれも重なれば巨人も怯む。

 

 まるで巨木のごとく動じることのなかった光の巨人がふらつく。

 

「よっしゃあ、いまだな! もぉぉおおおいっぱーーーつ!」

 

 銀がゼロと空中で競り合う斧へ、×印をつくるようにさらにもう一つの斧を重ねて叩きつける。

 

 ついにゼロが押し負けてバランスを崩して尻餅をついた。

 

「────」

 

 信じられない、とでも言いたげにゼロが手のひらよりも小さな少女たちを見る。

 

「上手くいったな、先生の考えた作戦も大成功だ」

 

 悪戯っぽい笑みを漏らしつつ銀が素早くゼロから距離を取り、中衛の園子の隣まで戻ってくる。

 少し離れた場所にはゼロの攻撃から逃げてきた須美が息を整え、矢を番えていた。

 

「一言だけの指示、そして動き続けて的を絞らせない戦い方。やっぱり安芸先生はすごい方だわ」

 

「その分訓練はギチギチだったけどな!」

 

「そのおかげで今戦えてるんだから感謝しかないでしょう?」

 

「そりゃそうなんだけどさー。でも苦労したかいはあったよな。このままアタシたちだけで勝てちゃうだろこれ!」

 

「もう、銀はすぐそうやって調子に乗るんだから。まだ気を抜いちゃダメよ」

 

「へへっ、ごめんごめん……園子?」

 

 ふと、須美に叱られていた銀が隣にいる園子の雰囲気が張り詰めていることに気づく。

 その表情は普段の「起きてても眠ってるみたいなことを言う」園子とは程遠い。

 

「わっしー、ミノさん、気をつけて」

 

「そりゃ気をつけるけど……」

 

「ええ。言われなくても気なんか抜いてないわよ?」

 

「うん、わかってるよ〜。でもね〜」

 

 じっと園子の目が今ゆっくりと立ち上がりつつある紅蓮の巨人に向いた。

 

「なんか、いやな予感がするんだ」

 

 その言葉を以て、ゼロがこの地上に降り立って二分が経過した。

 常に輝く青色のカラータイマーが赤へと変わり、ゆっくりと点滅を始める。

 

 ゼロが首を回してゴキ、と鳴らしながら歩いてくるのを勇者たちは逃げずに受け止める。

 それぞれ構えた武器は反撃の準備を整え、ゼロへ。

 

 ごくりと勇者の誰かが緊張からか喉を鳴らした。

 

《 ウルトランス! 》

 

 刹那、ゼロの体がびくりと震える。

 

《 FIRE MONS FLAME! 》

 

 ゼロの背後に鳥のような燃える怪獣の姿が見え、それが溶けるようにゼロと重なる。

 

《 Tングコ█ナRO! 》

 

 ぼこぼことゼロの体の銀色のラインに溶岩のような炎が走る。まるでそれは今まで身体の中に抑え込まれていた灼熱が溢れ出してきているようだった。

 

「あちっ」

 

「ウソだろここまで熱が届いてるぞ?!」

 

 ゼロの体の熱はその表面に留まらない。

 溢れ出る火炎により周囲を焼く様はまるで、小さな太陽。

 

「──ア」

 

 ぐぐっとゼロ腕に力を入れて拳を握る。

 

「二人とも急いで私の盾の後ろに!」

 

「──っ、わかった!」

 

 銀が頷き、須美は「この距離なら回避できるんじゃ」と一瞬思ったものの、園子の指示が間違わないことを今までの戦いで知っている。

 素早く園子の槍が変形した盾の後ろに隠れる。

 

「ガルネイトバスター」

 

 光の炎が吹き荒れた。

 

 轟、とバルタンとの戦いも含めて今までで一番の熱量の光線が解き放たれた。

 その桁違いの熱は少し上を通り過ぎただけの道路のアスファルトを火にかけたフライパンのように熱す。

 

「直撃来るよ、二人とも構えて!」

 

 そして、破壊の炎は紫電の盾に直撃する。

 

 いや、直撃という言葉は正しくない。

 その熱線は盾を構える勇者たちをすっぽり呑み込んだのだから。

 

「く、うううう、熱い、けど……まだまだ〜!」

 

「くうっ、あっつ──アタシたちも一緒に盾を抑えるぞ須美!」

 

「ええ! そのっち支えるわ!」

 

「え、へへ、あり、がとう〜」

 

 だが、その中でも勇者たちは燃え尽きてはいなかった。

 それはひとえに園子の盾の展開が間に合ったことと、()()()()()()()()()()()()()()()()おかげだと言えるだろう。

 宇宙最強クラスの光の巨人、その炎の熱量に耐えられるのなら、彼女たちは溶岩の上でも、きっと燃え盛る星の上だって活動できる。

 

 それが必要になる場面が、四国の中であるとは思えないのに。

 

(耐えられてる……私たちはあのトサカの人の攻撃にも負けない)

 

 でも、と炎の中で園子は唇をかむ。

 

「この攻撃、終わる気配がない……!」

 

 そう、終わらない。

 

 これほどの熱量、これほどの威力でありつつも全く衰える様子が見られない。

 もしこれがいつものように一瞬で終わると判断し回避を選択していたならば、その攻撃範囲と持続力にいつか追い詰められていただろう。

 

 故に園子が半ば反射的に選択した盾を構えて防ぐという選択肢は最適解だと言える。

 

 けどそれはイコールで事態の好転を意味しない。

 

 ゼロがこの攻撃を止めない限り園子たちはここから逃げることも反撃に転じることもできない。

 盾の解除はそのまま三人の死を意味する。

 勇者システムにどれだけ強い耐火性能があっても攻撃が直撃すればひとたまりもない。

 

(はやく、おわって……)

 

 どろり、と盾の端が溶け始める。

 

(おねがい……)

 

 しだいに槍の柄を握る手が汗で滑る。

 

(はやく、はやく……!)

 

 炎に包まれて薄くなった空気に三人の意識が朦朧とし始める。

 

 ゼロが光線を維持できなくなるのが先か、それとも園子たちが盾を構えられなくなるのが先か。

 

 揺らぐ意識の中で銀が叫んだ。

 

「諦めんな、よ! 二人ともぉ! いっつも言ってるだろ! 勇者はぁ!」

 

 須美が弱々しくも、いつものように気丈に続ける。

 

「勇者は根性、でしょ?」

 

 二人の声に、園子はほんの少し肩から力が抜ける。張っていた気持ちがゆるんで、いつもの園子のテンションにぐっと近くなる。

 

「そうだね〜。根性だ。私たちは勇者だもんね」

 

 一人なら耐えられなかった。だけど、一人じゃないから。

 1+1+1を3じゃなくて10にする。そんな二人と一緒だから彼女たちはいつだってもう少しがんばれる。

 

 根比べに次ぐ根比べ。

 それに先に根を上げたのはゼロの方だったらしい。

 

 次第に炎の勢いは弱まり、勇者たちを閉じ込めていた熱線が消えていく。

 

「はあ、はあ、息ができる……」

 

「ふはーっ、とんでもねえサウナだった」

 

「でもあれだけの攻撃だったしウルトラマンの疲労も──」

 

 炎の壁から抜けて息も絶え絶えに三人が紅蓮の巨人を見上げる。

 そしてそこにガルネイトバスターを撃っていたのとは()()()()()業火を収束している姿を見た。

 

 ガルネイトバスターは片腕で撃つものだ。

 なら反対の腕で何をしようが自由だろう? 

 

「二人とももう一度盾の後ろに──」

 

 言い終わるよりも早く、ゼロは拳を地面に叩きつけた。

 

 ゼロの意思により保たれていた業火は解き放たれ、地を()きながら火焔の竜巻を生み出し勇者たちを襲う。

 

「わっしー! ミノさん──!」

 

 園子の体は誰よりも早く動いて、二人の前に盾を展開した。

 神がかり的なタイミング。安芸にリーダーの素質があると言われた、タスクに大切なものが見えていると言われた視野の広い彼女だから間に合った。

 

 けれど、もう武器は限界を超えていた。

 

「え」

 

 炎の竜巻を受け止めた時、無敵とすら思えた紫電の盾の三分の一ほどが吹き飛んだ。

 けどそれでも自分と、後ろの二人を炎から守ることには成功したのはさすがというべきか。

 

 けれど幸運もそこまで。壊れた盾は中途半端に風を孕み、そのまま園子を吹き飛ばした。

 竜巻に乗って、空高くに。

 

「そのっち!」

 

 須美が悲痛に叫び、銀が手を伸ばしたが届かない。

 

「──あ」

 

 園子の体がどんどん浮かび上がりあっという間にビルの高さを超えていく。

 こんなところから落ちればいくら勇者といえどもひとたまりもない。

 

 どうにか盾に変形した槍で滑空しようにも穂先の三分の一がなくなった今ではそれも難しい。

 

 絶望的な状況。いままでの人生の中で最も近くに死神の足音が聞こえた。

 

 なのに、その状況で園子は空を見上げていた。

 

「空が近い。まるで、夕陽に沈むみたい」

 

 ふっ、と頬を緩めた園子が届かぬ虚空(ソラ)に手を伸ばす。

 

 

「そっちじゃない! こっちに手を伸ばせッ!」

 

 

 その中で、夕闇を切り裂く一筋の光を手に取った。

 導かれるように、その声に従って。

 

「た、たすくん……?」

 

 誰もついてこられないはずの空に、いつの間にか『彼』がいた。

 

「ど、どーやって」

 

「ビルから飛び降りた!」

 

「ええっ?!」

 

「もともとは君たちがウルトラマンに攻撃を食らってたからあいつの顔に向けて何か……いや今はいい!」

 

 巨人の生み出した業火の竜巻の中で、紅翼が乃木園子の手を強く握る。

 

「今からオレが怪獣に変身して着地する。とりあえずオレの手をちゃんと掴んでろよ!」

 

「変身、できるの?」

 

「やるんだ。君をこれ以上戦わせたりはしない。オレが君を日常に帰すから。だから、オレが」

 

 翼が息を吐き内的宇宙(インナースペース)からジャイロをよびだそうとする。

 心の中でチェレーザがやかましく無理だ無理だと叫んでいたがそれを無視して力を振り絞る。

 だが、園子がその手を掴んで止めた。

 

「乃木さん?」

 

「ねえ、たすくんの大切なものって、なに?」

 

「突然なにを……」

 

「たすくんはすごーくやさしい人。だからかな、たすくんはなんでも一人でやって、ぜーんぶのことをなんとかしたいんだね」

 

 ごう、と火の粉が降りかかり勇者服の一端を焦がす。

 それでも、園子はじっと翼を見つめたまま手を離さない。

 

「たすくん言ったよね。わっしーの苦難を退けたいって。ずっとそうだったのかな。

 倒すだけじゃない、たすくんは誰かのために頑張れる人なんだ。

 頑張りすぎちゃう人のために戦うことを決めたたすくんなら、わかるよね。頑張っちゃう人を心配する気持ち」

 

 園子が微笑んだ。

 

「実はね私も、そうなんだ」

 

 ほにゃり、といつものように。

 

「私だってたすくんを助けたい。がんばってるあなたを、みんなのためにがんばれちゃうあなたを」

 

 私の夢を応援してくれた、あなたを。

 

「違う! オレは怪獣で、戦いたいと思って! でも君たちはまだ戦わなくていいはずの女の子で……!」

 

「違わない。おんなじだよ。

 だって、さっき名前も知らない女の子を助けた時、私もあなたも同じことを思って、同じ目的のために動けたもん」

 

 なら例え言葉が通じなくても。勇者じゃなくても。最初の目的を間違っていても。

 きっと、一緒に戦える。

 

 だって、守りたいものが同じだから。

 

「だから、たすくんが眠っちゃった私をおんぶしてくれたみたいに、私の誰にも言えなかった夢を応援したくれたみたいに、私にもたすくんの夢を背負わせて」

 

 園子が翼の手を握る。

 何度も何度も、自分たちを守るために戦ってくれたやさしい手を。

 

「それに見たでしょ〜? 私たちすっごく強いんだよ〜? どーん、と頼っていいんだよ〜?」

 

「──ああ」

 

 夕闇。昼と夜の境の黄昏。

 翼はただ、目の前の少女の瞳を見つめ、小さくつぶやいた。

 

 業火の嵐、予言に記された闇を斬り裂く光の力。

 その中で初めて園子と正面から向き合う。

 

「オレの方がずっと子どもだった。この力でなんでもできると思ってたから」

 

 翼の力だけでは勝てなかった。翼とチェレーザの力でも勝てなかった。

 なら今度は。

 

「オレたちで、勝とう! みんなの夢を、日常を守るために! 

 そのために君の力を貸してくれ、乃木さん!」

 

「うんっ! うん!」

 

 小さい女の子だと思った。

 いつもふわふわほわほわしてて、須美に叱られて、銀に世話を焼かれて。

 

 でもいつだって『ほんとうに大切なこと』が見えていて、踏み込みそれを教えてくれることを躊躇わない。

 

 きっと彼女は、『勇気』の勇者。

 輝ける青い薔薇、翼を導く紫電の光。

 

 その光は、彼に新たな『力』を与える。

 

『うおおおおおお落ちてる! 落ちてるぞおおお! 空ー! 待てヒーローとはいつでも冷静でなくちゃあならん。まずここで一句……思いつくかーー! というか少年いつまで私のことを無視しとるんだね! いつまでもロリと話してないでこの私の──ん、少年、なんかポケット光ってないかね?』

 

「やかまし──ポケット?」

 

 チェレーザの言葉に園子と繋ぐ手とは反対の手をポケットに突っ込み、そこにあるものを取り出した。

 

「エレキングのクリスタルが、紫色に光ってる?」

 

 いや、それだけではない。

 紫色──乃木園子の勇者としての色と同じ光を宿したクリスタルが()()()()()()

 

 エレキングから、彼が求める形に変わっていく。

 

「たすくん、それ」

 

「ああ。乃木さんがくれた力だ」

 

 最初の力、バルタン星人。

 それは翼が「鷲尾須美の敵を殺し尽くす」という決意とともに、魔剣の怪獣へと変わった。

 

 ならこの『雷』のエレキングの力だって変わるはず。

 乃木園子と共に戦うことを決めた翼の気持ちに従って。

 

「わかる。いまなら、こいつは力を貸してくれる!」

 

 翼が叫ぶ。いままでで使えなかったクリスタル、その新たなる名を。

 

 

「コネクト! ()()()()()()()()()!」

 

《 ハイパーエレキング! 》

 

 音ともに蛞蝓のような二足の怪獣が変化したビジョンが現れ、内的宇宙(インナースペース)の中に溶けていく。

 

「行くぞチェレーザ! 三回だ!」

 

『ええい、力は溜まらんと言っておるだろうが! ウルトラマンでそう決まってるの! 一日一回! 基本はね! ほどよぉ〜く不便じゃないとシナリオの構築に不便なの!』

 

「知るかそんなこと! オレはウルトラマンじゃない! 怪獣だ! なら怪獣らしく──」

 

 内的宇宙(インナースペース)で、タスクがジャイロを構える。

 

「一日一回なんてルール、ぶち壊す!」

 

 一、二、三、引いた回数力が溜まり、翼の声に合わせるようにチェレーザの声が重なる。

 

 

「『 纏うは『嵐』! 紫電の神槍!! 』」

 

 

 瞬間。日が沈み夜が世界を覆い隠すように闇が広がり。

 拳を突き上げた少年を、()()()()()()()()へと姿を変えた。

 

 それは、一日一回なんてヒーローの原則をぶち破る、『怪獣』だからこそ得られた力だった。

 

 

 

 

 

 

 

 須美はただ空を見上げるしかなかった。

 友がウルトラマンゼロの焔の旋風に巻き込まれても手は届かず、かといってできることもない。

 

「まだやれるわよね、銀」

 

「あったり前だ」

 

 ふらつく体を叱咤し、銀と須美が立ち上がる。

 

「ソッコーでウルトラマンのやつに一撃入れて竜巻を解いたら園子が落ちる前に拾いに行く」

 

「ええ! そのっちが守ってくれたんだもの、私たちだって!」

 

 武器を構え、二人が未だ暴走したように炎を放出し続けるゼロに向かおうとした時、変化は訪れた。

 

「……風?」

 

 風が、吹いた。

 

 最初は弱かったその風は次第に強さを増し、逆巻くようにゼロの炎の竜巻に紫電の光で切り裂いていく。

 

 そこにいる勇者が、ウルトラマンゼロですら空を見上げ、そして業火の旋風が、切り裂かれた。

 

「──███ッ!」

 

 咆哮と共に嵐が晴れ、その中から怪獣が現れる。

 

 オリジナルの斑の模様の体表はそのままにやや銀色を増した身体。

 腕と脚にあるのは爬虫類のような爪。口に並ぶのはどんな敵でも噛み砕く牙。

 その中でも一際目を引くのはまるで翼竜のような巨大な翼。

 オリジナルとは戦うステージがあまりに違う。けれどそれは確かに『翼持つエレキング』。

 

 その名を、ハイパーエレキング。

 

 エレキングのクリスタルを鋳型にし、園子の紫電の神槍の力と、クレナイ・タスクの想いによって顕現した、炎を斬り裂く『嵐』の怪獣。

 

『はぁぁああい! ここで一句! ウェッホン、『嵐の前にも三年』。どんなにつよぉぉい相手でも真のヒーローは三年待つような根気強さで常に可能性を切り開くと言う意味だ! 少年、メモしておいて』

 

「んなもん今は持ってねーよ!」

 

『はーー、もうそれじゃあ失格! 私のダーリン失格!』

 

「何でお前のダンナにオレが何なきゃ何ねーんだ! 死んでも嫌だぞオレは!」

 

『は? 何言ってんの、ダーリンは私の秘書のことなんだが。えっ、もしかして少年私のことをそう言う目で……少年、ロリに甘いことと言い少年の価値観に口を出す気はないが、すまんな……』

 

「ガチで謝ってんじゃねえよ!! 10:0で紛らわしいお前が悪いだろ今の!」

 

「──シェアッ!」

 

『ほらゼロが来たぞう! はい、構えてウルトラマン! セクハラは後後! 翼を持つ怪獣を操るイメージは、肩甲骨を意識しておくといいぞう!』

 

「したことねえよ……! ったく、アドバイスはサンキュー!」

 

『フン、少年に限界を超えさせると約束したからな。ゼロに勝つまでは手伝ってやろう!』

 

「は、そーかよ!」

 

 ゼロが口元を擦り飛翔する。狙いは空のハイパーエレキング。

 紅蓮の巨人の飛行速度はこの短い距離ですら容易くマッハに迫る。

 ゼロがいままで何度もバルタンを切り刻んだスラッガーを片手に肉薄していく。

 

「散々それにも苦しめられたけど、いまなら、かわせる!」

 

 人間では目で追うのすら難しいスピードのその攻撃。

 だが、ハイパーエレキングはそれを視認してから、翼をはためかせてゼロの背後に回り込んだ。

 

「──」

 

「ーーー」

 

 刹那、ゼロとエレキングの視線が交わる。

 だがその超スピードの空戦においてはそれはただの揺らぎでしかなく、エレキングが拳で一撃、足で二発の攻撃を入れて叩き落とすことで、その刹那は終わりを告げる。

 

「っとと、少しパワーは落ちてるな。手数は多かったけど手応えがほとんどなかった」

 

『ふん、空を飛べるようになってスピードに特化してる分身体が軽くなっとるのだ。ふっ、オーブ風に言うとハリケーンスラッシュといったところだな』

 

「いやオーブ風に言われてもわからんけども……」

 

 ゼロが踏ん張りの効かない空中で蹴落とされ、土埃をあげて地面に落下する。

 

「な、なんだ、あいつ」

 

「いつもの怪獣じゃないけど……え、なんかこっちに来てない?」

 

「え。嘘だろアタシたちなんかしたっけ?! てか園子どーした?!」

 

「私ならここだよ〜」

 

「声……ってまさか、あの怪獣の手の上にいるのって」

 

「園子ぉ?! なんであんなとこにいるんだよぉ?!」

 

「やっほ〜、ミノさーん、わっしー」

 

 ほんわかと手を振る園子を掌の上に乗せたハイパーエレキングが、須美と銀の背後に着地する。

 

「そのっち無事でよかった!」

 

「わ、わぷぷ、わ、わっしー抱きついたら苦しいよ〜」

 

「もう、心配かけて! だいたいそのっちはいつも──」

 

「はいはい須美お説教はその辺でな〜。で、園子、なんでそのプテラノドンみたいなのと一緒にいるの?」

 

「あ、この人? この人はほらいつもの怪獣くんだよ〜。あのじゃんけんに不便そうな手の〜」

 

「えっ、おんなじやつなの?! こいつが?! マジで?!」

 

 信じられない、とでも言いたげに怪獣を銀が見上げる。

 園子が言うので何かしらの確証はあるのだろうが、銀にはそれが何なのかはわからない。

 

「あの、怪獣さん……でいいんですか」

 

 須美がエレキングを見上げて、おずおずと話しかける。

 

「あなたはこの美しい国を守る価値があると思っていますか?」

 

 美森ちゃん、と翼がエレキングの口で答えようとしたところで言葉が伝わらないことを思い出し、とりあえず人差し指と親指で丸を作っておいた。

 

「あ、なんかフレンドリー! 案外この怪獣お茶目な感じ?」

 

「よし、銀、この方は信頼するに値するわ。この四国の素晴らしさをわかってるもの。愛国よ」

 

「ええ……須美の愛国判定わかんないんだけど……」

 

 満足げに頷く須美と、その横で呆れたように肩をすくめる銀。

 そんな二人とエレキング(タスク)を見ながら園子は「やっぱりわっしーとたすくんは仲良いんだね〜」などと思っていた。

 

「──シェアッ!」

 

 少し離れたところで蹴落とされていたゼロが炎を揺らめかせながら立ち上がる。

 ゼロのカラータイマーの点滅の速度も、今までと比べられないほど早くなり、次がきっと最後の攻防になることを伺わせた。

 

「と、無駄話できるのもここまでか」

 

「そのっち、銀。いきましょう」

 

「うん! 怪獣くんも一緒に、みんなで!」

 

 紅蓮の双斧が、紺碧の弓が、紫電の神槍が、並び立ち、その背後で嵐の怪獣が吠えた。

 

 相手は最強の光の巨人。

 いくつもの怪獣を、闇をその力で打ち破ってきた『光の勇者』。

 光が勝ち、闇が負けるそんな運命。

 

 だけど、怪獣はその運命(おやくそく)に逆らった。

 

『光が正義なんて、誰が決めたッ! オレたちはまだ戦える!』

 

 叫びと共に三人の勇者と一体の怪獣、一人の巨人がぶつかった。

 

「みんな、時間ないから作戦は『アレ』で行こう。二人とも送られてきてたやつ、見たよね?」

 

「『アレ』か。ちゃーんと見てるぞ!」

 

「ええ、『アレ』ね」

 

 アレ? とエレキングの中の翼とチェレーザが首を傾げたが、園子が少し得意げにとんとん、とスマホを叩いて、彼らも理解した。

 

「まったく、本当に真面目な子たちだよ」

 

 まず真っ先に突っ込んだのは赤の勇者三ノ輪銀。誰よりも強く負けん気が強い彼女は火の玉のようにゼロに向かっていく。

 

 ゼロはそんな彼女に額のビームランプから炎を帯びた光線を放つ。

 

させるかよ(ギャアギャア)

 

「おお、サンキュー怪獣!」

 

いつつ(ギャァ)気にするな三ノ輪さん(ギャアギャアギャアギャア)

 

「何言ってるかはわかんないけどアタシは大丈夫だぞ!」

 

ならいいさ。先に行ってくれ(ギャアギャアギャアギャアギャア)

 

 だがそれを誰よりも速く飛んだハイパーエレキングの翼が受け止めた。

 

「耐久力も少しは上がってる……か?」

 

『いやどちらかというと体皮を走る電流のおかげだろう。どうやらこの怪獣は有り余る電気のエネルギーが光線系への耐性を強めてるらしいな』

 

「へえ、それはスペシウムがこうかばつぐんだったバルタンを補う力としては願ってもないな」

 

 エレキングが羽ばたき、ゼロが同じく飛翔した。

 両者ともにあっという間に音の壁を踏み越えて爪と拳、牙と刃とをぶつけ合う。

 

 紅に燃える『光の巨人』と光を超えんとす『嵐の怪獣』。

 彼らはそれぞれ夕闇を赤と紫に染め上げていく。

 

 空を飛べるというアドバンテージは埋まった。

 けれど、両者の間にある技量だけは埋まらない。

 

 空を飛んでいてもなお、戦えば戦うほど翼はゼロの灼熱にその身を焼かれていく。

 

 数度目の交錯の末、エレキングの電撃を纏ったパンチはかわされクロスカウンターでのゼロの右ストレートがエレキングの額を打つ。

 

「あっちちちち!」

 

『少年頭に火が……火が……紅に火がついて……そうかこれはまさしく紅が燃えるぜ!!!』

 

「やかましいわ」

 

 空中でふらつくエレキングにゼロが炎を纏った蹴り(レオゼロキック)を叩き込む。

 

『腕を重ねてガード!』

 

「──ッ、く、ぐうっ」

 

 寸前、チェレーザの指示が間に合い炎の蹴りをエレキングの青白い腕が受け止める。

 だが勢いは殺しきれずそのまま空からを滑るように一番近くのビルにエレキングの身体が張り付けられる。

 

「ぐ、ぐう……やっぱ力じゃ……勝てない……!」

 

 エレキングは必死に腕に力を込めて自分をビルに押し付ける足を除けようとするが、パワーが足りない。

 

 ヘッ、と模倣として作られた光の巨人が笑う。

 

 今度こそ終わりだと言わんばかりに、暴れ狂う熱を腕に収束、赤熱させていく。

 ガルネイトバスター、ストロングコロナゼロ最大最強の一撃。

 

 灼熱は赤々と世界を照らし、全てを無に帰す熱戦が放たれる。

 

「いまだよ! 三点結界発動!」

 

 ──よりも前に、輝ける勇者たちの三色の結界が()()()()()()()()

 

「行けたぞ! ビルを地面に見立てた『三点結界』!」

 

「あはは〜、バッチリハマったね〜」

 

「ええ。安芸先生と……それを使える精度に精査してくれた紅さんのおかげだわ」

 

 

 

 

 

 

『さっきから少年は何を見とるんだね?』

 

「解析指示があったこの前のウルトラマンゼロとの戦闘映像」

 

『ほほう……ほう…………ボロカスだな』

 

「るせっ! んなこと、オレが一番わかってるんだよ! だからせめてこうしてゼロの行動パターンを叩き込もうとしてるんだろうが!」

 

『パターン?』

 

「アイツはオレたちと戦う時一度、バカにするみたいに笑った。それはつまりアイツにも最低限の意思があるってことで、それなら『この時にこうしやすい』っていうパターンがあるんじゃないかと思ってさ」

 

『ふむ……まあ模造品、偽物といえどたしかにあいつには意思はありそうだったな』

 

「だろ? 例えばあいつはオレが飛ばないから飛行を多用する傾向がある。だからあえてこの『飛んでる』っていうあいつにとっての有利につけ込むことができたら……」

 

「おーい、たすくん〜」

 

「と、来たみたいだな」

 

 端末を操作してまとめたデータを送信。

 呼ばれた声に振り返ると、そこには手を振りながらとことこ走ってくる園子。

 

 

 

 

 

「ごめんね〜、ちょっとみんなで()()()してたら来るの遅れちゃった〜」

 

「乃木、さん」

 

「あ、あんま話さないで〜。わっしーとミノさんは遠いから気付いてないけど流石に声とか聞こえちゃうとバレちゃうと思うから〜」

 

 

 

 

 

 

 紅翼は安芸の指示で()()()()()()()()を担当する職員である。

 なら、彼がまとめたデータは指示を出した安芸のもとに送られたはず。

 

 園子は翼に置いて行かれた後、最も戦場に近かったはずなのに来るのは銀と須美と一緒だった。

 じゃあそれがもし前回絶望的な大敗を喫した相手に対する安芸の指示を聞いている時間だったとしたら。

 

 そこには、翼の解析から導き出された()()()()()()()()()()()()()()()が示されていたのだとしたら。

 

 チェレーザにバカにされていた分析にも、バルタンとして粘った二分足らずも、全てに意味がある。

 

 勇者がビルを登る時間を稼ぎ、翼がゼロを空に抑えておけたからこそ、この作戦は成り立った。

 

 勇者と怪獣が同じ方向を見ていられるからこそ、いまこの瞬間は実を結ぶ。

 

 

「「「 三点結界、発動! 」」」

 

 

 神樹が無垢なる少女たちの願いを受けて、結界内の勇者と怪獣、ウルトラマンを本来のフィールドの瀬戸大橋に転移させる。

 

 そこは海に浮かぶ外界と四国をつなぐ唯一の道。

 聳える鉄の柱によって、四国へと敵が逃げないように区切られた限りある空。

 

 もう、ゼロはいままでのような自在な飛行を行えない。

 

「──シェアッ!」

 

 だが模倣品といえど敵はウルトラマンゼロ。

『木』の属性を持つ神樹を燃やし尽くそうと、腕に火災旋風を生み出し、エレキングごと樹海を飲み込もうとする。

 

 これには翼も怯む。この炎をかわすことはできるかもしれないが、その場合この炎の渦は大橋の樹海を燃やすだろう。

 そうなれば現実にどれほどの被害が出るかわからない。

 

 だが、その攻撃に飽き飽きしてる奴がいた。

 

『はー、もうその攻撃何度も見たー』

 

(チェレーザ?)

 

『この解決方法はあの青二才どものパクリのようでパクリなど生涯一度もしないウルトラマンの中のウルトラマンである私が使うのはひっじょーに遺憾なのだが! だが! ええい仕方ない! いいか少年! 竜巻の向きとは逆向きに飛べい!』

 

「逆向きに……?」

 

『フン、乃木くんに散々レスバ負けて心変わりした少年ならわかるだろう、時には『力に逆らった方がいい』ってことくらい』

 

(──そういう、ことか!)

 

 轟、とエレキングが羽ばたき、加速した。

 

 そして音に迫ったスピードそのままに身体を電流で守りながら、ゼロの生み出した竜巻とは逆方向に渦巻く。

 

『いいかこのエセウルトラマンゼロ! ヒーローってのは決め技は何度も何度も使うものじゃないんだよ! ここぞと言う時まで取っといてビシッと一発で決める。そうじゃないと──』

 

 そしてついに紫電の光が、立ち塞がる業火を切り裂いた。

 

『こうして、対策を取られてしまう』

 

 視界が、晴れる。

 

『いくぞ少年! ひよるなよ!』

 

(お前こそここぞという時にビビってやめんなよ!)

 

『だーれにものを言っとるんだね!』

 

 バチリ、とエレキングが雷を纏い空中のゼロへと激突する。

 

(ここ、から──出ていけぇぇぇえええッ!)

 

 その姿はまるで巨大な鳥。

 神に選ばれし勇者の後押しを受けて雷を纏う巨大な鳥がゼロを無理やり引きずっていく。

 

 瀬戸大橋の入り口から、その奥『燃えても現実への被害が少ない場所』へ。

 

「ジェア──」

 

 エレキングは翼の力によってスピードに特化した怪獣へと変質を遂げている。

 その最高速、竜巻を切り裂いた嵐の力を宿す彼のトップスピードはゼロですら振り解けない。

 

 だがゼロがなされるがままなどあり得ない。頭の二つのゼロスラッガーを手に取り、無防備な背中に突き立てようとする。

 

 けれど、ゼロの敵は一人じゃない。

 

 エレキングが加速していく様を見守る一人の人影。彼女は『作戦通り』大橋の入り口に転移させられていた鷲尾須美。

 

「ようやく、届く。嵐が消えたいまなら」

 

 須美が弓に矢を番え、構えた。

 ずっと炎の竜巻に攻撃を阻まれていたその弓と矢を。

 

「南無八幡大菩薩!」

 

 乾坤一擲。

 光の矢がゼロスラッガーに手をかけようとしていたゼロの指に命中、爆発。

 ダメージこそは少ないもののゼロにスラッガーを取り落とさせる。

 

 エレキングが加速する。

 

「シェ──ア──」

 

 だがまだ終わらない。

 ゼロは取り落としたスラッガーに額からのビーム(エメリウムスラッシュ)を命中させることで、エレキングの翼を死角から撃ち抜こうとする。

 

「おっとと、そいつはなしの方向で!」

 

 空中でゼロスラッガーがあらぬ方向へと吹き飛ばされる。

 やったのは三ノ輪銀。

 前衛として誰よりも力が強い彼女だからこそ、巨人の扱う武器ですら弾くことができる。

 

 ゼロのエメリウムスラッシュが大橋を通り抜けて神樹の作る虚空の海に沈んでいく。

 

 そして、ついにゼロの体が大橋の一番奥、神樹の守る樹木の結界の壁にぶち当たる。

 

(はあ、はあ、これで終わりだ──!)

 

 エレキングが爪を構え、肩で息をするゼロのカラータイマーを狙う。

 

「シェ、アアアアッ!」

 

 それでも、まだ終わらない。

 

 ここに来てゼロは左手を水平に、右手を腰だめに構えて光を収束していく。

 その姿を見て翼の心の中のチェレーザが露骨に焦り始める。

 

 彼我の距離はほとんどゼロ。かわすことは、できない。

 

『いかん! アレはワイドゼロショット! さっきはバルタンの分身で防げたが今回は無理だぞ! なんかストロングコロナの炎も巻き込んでるし! アレを食らえば私たちが死ぬのは炊き立てご飯にわかめと味噌汁の朝食! 土曜朝九時からウルトラマンをリアタイした後九時半からのYouTubeで見逃し配信を見るくらい間違いないことだぞう!』

 

(わかりやすいのか分かりにくいのかよくわからん例えだな……)

 

『これ以上なく分かりやすいだろう! カラオケでウルトラマンオーブの祈りを一曲目に入れるくらいと言い直した方がいいのかね?』

 

(それは人によると思うが──でも大丈夫だ。だってオレたちにはもう一人、仲間がいるから)

 

『もう一人……いや少年なんでそもそもさっきから声を出して話さんのだ?』

 

 チェレーザの疑問に答えが出るのを待つことなく、ゼロのL字に組んだ腕から光が放たれた。

 スペシウムが弱点のバルタンはおろか、エレキングですら当たれば即死の必殺技。

 

 それを前に、エレキングはかわすでも向き合うでもなく、ただ口を開けた。

 

「頼んだ────乃木さん!」

 

「こんにちは〜、乃木さんちの園子さんでーす」

 

 エレキングの閉じていた()()()()()槍を手にした乃木園子が現れる。

 

 これには光線をうったゼロも、翼と同じ体を共有しているはずのチェレーザですらギョッとする。

 

『は、はああああ?! い、いつだ?! いつ入ってた?!』

 

「さっき結界に入った直後だよ。三ノ輪さんに投げてもらってエレキングの体に捕まってきて、それでオレの口に入れろとか言ってきてさ。ほんと、むちゃくちゃなこと思いつく子だ」

 

「ふっふっふっ、何を言ってるかわからないけどびっくりしてるのはわかるんよ。たすくんを守るには一番近くにいなきゃだめだもんね、そのためなら何だってするよ〜」

 

『だからって普通怪獣の口に入るかね?!』

 

 園子がいつものように笑いつつ、盾になった槍を構える。

 

乃木さん、頼むよ(ギャアギャアギャアギャア)

 

「うん、任せて」

 

 乃木園子。紫電の神槍の勇者。

 彼女の槍は敵を打ち倒す『武器』でありながら、仲間を守るための『盾』である。

 

 戦うことが基本の弓と斧とは違い、彼女の武器だけは仲間を守るためにも使える。

 

 そして園子はいま、『仲間』を守るために盾を構えた。

 

「う、うう、う──」

 

 光の奔流が青薔薇の盾と競り合い、ほんの少しの時間を生み出した。

 

「たすくん最後、おねがい!」

 

「ああ、任された」

 

 

 

 

 

 その時、大赦の蔵書室、その机の上に置かれた『太平風土記』が一人で書き代わり、一つの未来を指し示した。

 

大地の理書き変わりし時吹き荒るるは

地を燃やし闇を無に帰す光の巨人

其は原初にして終焉の名を冠し

の剣にて勇者を討つ

業火は魔剣にて切り裂けず

纏う嵐のみが道を開く

 

 

 大地の理は書き換えられた。

 

 始まりと終わり(ゼロ)の名を示すウルトラマンは現れた。

 

 そして嵐の怪獣が生まれ、いまこそ怪獣のその剣は『光の勇者』を討ち倒す。

 

 

 

 

 

 

 世界に花が吹き荒れる。

 

「これ……鎮花の儀」

 

 神の意思にて生まれた花吹雪がゼロにまとわりつき、園子へと向かう光線の威力を弱めていく。

 

「そっか、三分だったんだ。だから神樹様が力を貸してくれてるんだ」

 

 勝てない敵を外に追い出すためじゃない、人の力で争った敵を倒すために、最後の一押しをしてくれている。

 

「う、おおおおおッ!」

 

 エレキングが空へと飛翔し、旋回。

 業火を纏う光の巨人に向けて急降下していく。

 

 それはまるで空から降りたる紫電の槍。

 

 乃木園子の力を宿した、決着の一振り。

 

「光が正義なんて、誰が決めたッ!」

 

 その姿を模倣品たるゼロはただ見上げ、腕を下ろすと口元を擦った。

 

俺に勝つとは、やるじゃねえか

 

 

「──紫色雷電光斬ッ!」

 

 

 雷雲纏う暴風竜の一撃は紅蓮の巨人のカラータイマーを切り裂いた。

 

 倒された巨人の体が光の粒子になって消えていく。

 

 それを見ながら着地したエレキングが、ふといつの間にか隣に園子がやってきているのに気がついた。

 

 お疲れ様、と声をかけようとした翼だったが突然園子がすっと腕を上げたので、口も開けず訝しげに眉根を寄せる。

 

「いえーい」

 

 ああ、そういうことかと翼が笑った。

 

いえーい(ギューア)

 

 神樹の花と、勇者と怪獣の紫、その二つが混じる世界。

 翼と園子は人差し指と右手で、互いを労うハイタッチをしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ、か、れ、た〜〜」

 

 くたくたになった園子が自室のベッドに倒れ込む。

 

「いますぐでも寝られちゃいそう〜」

 

 ゼロとの戦いが終わり、二日。

 一日は戦いの疲れも加味して安芸に休みを言い渡された勇者たちだったが、しっかり休んだ今日となればもう違う。

 

 いつ来るかわからない次の戦いに備えての訓練が容赦なく始まり、きっちり絞られてしまったのである。

 

「もうすぐ22時だね〜、サンチョ〜」

 

 抱き枕を抱きしめつつ、ベッドでごろごろ。

 小学生の園子にとってはすっかりおねむの時間。

 ただでさえ眠るのが好きな園子にとってはこの時間に起きておく時間はないのだが、なんとなく、今日はすぐ眠ろうという気になれなかった。

 

「寝ちゃおうかな〜」

 

 けどやっぱり起きててもすることはない。やはりいつも通り眠りにつこうとまぶたを閉じようとした時、ぴりりとサンチョの横に置いてあるスマホが音を立てた。

 

「メール? 誰だろう……」

 

 こしこしと目を擦りながらスマホを手に取って、その内容を見ると、園子は弾かれるように自室の窓へと走り、ばん、と勢いよく開けた。

 

「まだ起きてたか、こんばんは、乃木さん」

 

「たすくん……?」

 

 窓の向こう、乃木家の柵の向こうに片手をあげる翼がいた。

 隣にはいつも須美と登校してくるときに押している自転車があるあたり、それに乗ってここまで来たのだろうか。

 

「本当はお嬢様の君にこういうことをいうのはだめなんだが……」

 

 園子が目をぱちくりさせてると翼は何か言いづらそうに頭をかいた。

 

「ちょっと夜の散歩に行かない?」

 

 

 

 

 追い抜いた夜の風が頬を撫でていく。

 

「すごいね、ほんとに走ってる」

 

「走ってるって、そりゃ自転車なんだから当たり前だろ? 乃木さんは乗れないの?」

 

「実はそうなんだよ〜。ママとパパは自転車買ってあげるよ〜って言ってくれたことがあったんだけど、その時は断っちゃったんだ〜」

 

「断った。なんでまた」

 

「だって私ありさん見るの好きだもん〜」

 

「なんで自転車で蟻が……?」

 

 夜の街を自転車が滑り抜けていく。

 

「すごいね、この前ウルトラマンを倒したばっかりなのにもう復興しかけてるよ〜」

 

「神樹様のお力のおかげだな。復旧物資なんかも手早く供給してくださってる」

 

「へえ〜、神樹様はすごいんだねえ」

 

「ああ、本当にすごい方だ。でももちろん、こうしてその神樹様のお力を形にするために頑張ってる人たちもいるおかげだよ。

 少しでも早く日常を取り戻そうと頑張る人たちがいるからこそ、こうして神樹様のお力も実感できる」

 

「たすくんは、神樹様より神樹様のために頑張る人たちのことを話す時の方がなんだか嬉しそうなんだね」

 

「……ははは、そうかな。

 乃木さん寒くない? もうすぐ夏とはいえ夜はまだ冷えるから」

 

「だいじょうぶだよ〜。たすくんのくれた上着もこもこであったかいもん」

 

「それならよかった……と、そろそろ時間が危ないな。乃木さんもう少し強く掴まれる? ここからちょっと飛ばすよ」

 

「強く……こう?」

 

 園子が少し裾が余って服がダボついてる腕を翼の腰に回した。

 最近は勇者の訓練で鍛えられたね、なんて銀や須美と話したものだが、翼の身体と比べればかわいいものだ。

 

 服越しでもわかる、かたくて、ゴツゴツして、何だか骨も太い。

 

「男の人なんだね〜」

 

「ん、乃木さんなんか言ったー?」

 

「なんでもないよー」

 

 自転車は走る。翼の意思に従って。

 

 走って、走って、走って、そして、園子も知ってるとある場所で止まった。

 

「ついたよ、乃木さん」

 

「ここってこの前たすくんに連れてきてもらったとこ?」

 

 そこは『初めて翼が怪獣になった場所』。

 ゼロと戦った日にも園子と翼が訪れた場所だった。

 

「ねえ、たすくんなんでいまこんなところに連れてきたの?」

 

「ん、あー、覚えてないのか。まあいいや、あと一分……いやいいか」

 

 腕時計を見ていた翼が、少しいたずらっぽく笑って、一本指を立てる。

 

「空、見上げてみ?」

 

 言われるがまま翼の指先から上へと視線を移した。

 

「──あ」

 

 目の前にあったのは、泡沫の星雨だった。

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、私が流れ星になれたらな〜」

 

「?!」

 

「あはは、びっくりしてる〜」

 

 面食らった翼の様子に、園子が春の雲のように笑った。

 

「明後日の夜流星が降るらしいんだよ〜」

 

「ああ、そう言えばそんなことニュースで言ってたな……」

 

「私のおうちからじゃ見えないし、そもそもそんな時間に起きてたらママに怒られちゃうんよ〜」

 

「だから、いっそ流れ星になれたら、ってこと?」

 

「うん。だって自分が流れ星なら周りの流れ星を見放題だし、お願い事だってたくさんできちゃうんだよ〜」

 

「ははは、そりゃいいな。お願いごとし放題か」

 

 

 

 

 

 

「たすくん、覚えててくれたの……?」

 

「覚えてたってほどじゃないよ。ただまあ、うん、なんとなーくさっき思い出しただけ」

 

 そう言って翼はごろんと芝生の上に寝っ転がった。

 

「ほら、乃木さんも寝てみなよ。いまならお願い事し放題だぜ?」

 

「う、うん!」

 

 翼から少し距離を空けて園子が寝転がった。

 

 星が、流れていく。

 

 園子がラムネ瓶の底のようだと言った空。

 周りが木々に囲まれ、ぽっかり空いた丸い空。

 

 はじめてみる、ほんものの流星。

 

「どうだ乃木さん、お願いごと一つくらいできたか?」

 

「え、あ、そっか私お願いごとしたかったんだった」

 

「あはは、なんだそれ。まあでも、それでいいのかな」

 

 隣から聞こえる笑い声に園子が少し顔を傾け、隣の彼を見る。

 大人びてるけどどこか子どもっぽいところもある彼を。

 

「きみの『流れ星をみたい』って夢はかなったろ? ならきみの『小説家になりたい』って夢だって叶うさ。だって、おんなじ夢なんだから」

 

 翼が絶え間ない星雨に手を伸ばす。

 

「今日はこうしてオレがきみに手を貸したけど、きみを想う人はたくさんいる。なら、きっと夢にも手が届くさ。諦めるには、早すぎる」

 

「……そう、なのかな」

 

「ああ、そうさ」

 

「パパとママも、ほんとうに応援してくれるからな」

 

「当たり前だ。だって、今日だって乃木さんのご両親はきみが出かけるの許してくれたんだから」

 

「え」

 

「さすがに夜に女の子を連れていくのにご両親が認知してないのはだめだからな。あらかじめ『今日星を見に連れて行っていいですか?』って聞いといた。そしたらほとんど二つ返事で了承してくれたよ」

 

 まあ一応安全のために乃木家の人を途中まで護衛につけるとは言われちゃったけどさ、と翼が苦く笑う。

 

「だから、乃木さんは自分の夢を持っていいだよ」

 

 ぽんぽん、と寝転がったまま頭を撫でられた。

 妹にするような、優しい手つきだった。

 まるで、たまにはわがまま言っていいんだよ、と言ってくれてるようだった。

 

(あれ、なんだろこれ、なんかどきどきする……?)

 

 胸が弾む。頬に熱が集まる。なにか熱くて、でもやわらかい気持ちが胸の奥に芽吹いたのを感じる。

 

 その中で園子がふと気づく。

 

「あれ、たすくん最初『さっき思い出した』ってたのに、パパとママにはあらかじめ星を見にいく話をしてたの〜?」

 

「あ」

 

「さっき思い立っての行動なら、パパとママにお話する暇ないよね?」

 

 乃木園子、彼女はいつだって大切なものが見えている。

 主に翼のカッコつけた年上ぶった態度まで。

 

 翼がすっと園子から目線を逸らした。

 

「…………なんのことかな」

 

「え〜、今から誤魔化しても意味ないと思うよ〜?」

 

「誤魔化してない。誤魔化してないから。でもとりあえずこう、色々と忘れてくれないか?」

 

「どうしようかな〜、あ、じゃあたすくんが私のこと『園子』って呼んでくれるなら考えようかな〜」

 

「え、ど、よ、呼び捨てですか……? の、のこちゃんとかあだ名とかは……」

 

「かわいくないからだめ〜」

 

「そ、そこをなんとか……」

 

 星降る夜。

 

 ほんとうに大切なものが見える彼女は、この「はじめて」の日を決して褪せない大切のもにするために目の前の景色を焼き付ける。

 

 そして、自分に「夢は叶う」という園子の好きな物語のようなことを教えてくれた彼との距離をそっと詰めた。

 

 

 

 

 




チェレーザ「ちょっといい話なんていらないんだよ!!!」


『ハイパーエレキング』
ウルトラマンベリアルによって作られたエレキングの改造個体。
二つ名は奇しくも同じくハイパーの名を冠するハイパーゼットンと同じ『滅亡の邪神』。原典においてもゼロと戦った怪獣である。
その特徴は本来のエレキングにはない翼を持つことであり、今回は翼の『ゼロに追いつきたい』『園子を助けたい』という思いから選ばれた。
『雷』のエレキングが変質し、『嵐』のクリスタルに変わった。

光の勇者を乗り越え、斬った、『嵐の怪獣』。
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