「君の長所は、私を愛してることだよ」   作:ルシエド

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 友奈の拳が迫ってきた、その時。

 リュウの頭の中に浮かんだのは、死の確信だった。

 死ぬ。

 絶対に。

 喰らえば。

 終わる。

 怪獣体の内側に展開される内的宇宙(インナースペース)の中で、遮二無二カードをダークリングにリード、その力を行使していた。

 

《 バルタン星人 》

 

 宇宙恐竜ゼットンの肉体から、宇宙忍者バルタン星人の肉体へと切り替える。

 ゼットンの残影を残し、変わり身の術にて回避を成功させていた。

 そして残影のゼットンが消え、友奈は視線を横に動かす。

 そこには、内臓に深くダメージを受けたバルタン星人が、腹を抑えてうずくまっていた。

 

 宇宙忍者『バルタン星人』。

 ゼットン並みに個体差が大きく、それぞれが持つ技術や能力、武装などのブレ幅が大きいが、分身などの多様な能力を多く持つ多芸な宇宙人だ。

 が。それも、普通に戦えたらの話である。

 重度のダメージを負った今のリュウでは、まともに立つこともできなかった。

 

「別人……いや、別宇宙人?

 だと思ってたけど。

 実際はもしかして全部一人でやってたのかな?

 今姿切り替えたよね? ……まあ、どっちでもいいんだけど」

 

 目の前で姿を切り替えたバルタン星人を見て、友奈は多くを察する。

 ここ三ヶ月友奈が戦ってきた敵。

 その前の一年に、友奈が見てきた複数体の怪物。

 その内の複数体がこの存在の変身した姿であるのなら、と……友奈は察し始める。

 

「悪い人達だったとしても、お前は人を殺したし……レンちを大怪我させた」

 

 殺意に似た明確な敵意に、意識が朦朧としているリュウは悲しむでもなく怯えるでもなく、暖かな気持ちを覚えていた。

 

 四国全土を巻き込んで心中しようとした悪人どもだったはずだ。

 なのに、友奈はそれを殺したリュウを許していない。

 人の命を軽んじていない。

 親友の弥勒蓮華を怪我させたことに怒っている。

 それは、友奈が昔も今も変わらず優しい女の子である証。

 ちゃんと友情を重んじている。

 

「本当は、私が言えることじゃないけど」

 

 リュウが悲しかったのは、友奈がその台詞を上から目線で言ってくれなかったことだ。

 対等の目線で友奈が"許さない"と言っていることだ。

 友奈は自分も人殺しだと思っているから。

 親友の弥勒蓮華を守れなかった自分も同じだと思っているから。

 自分を責めるように、目の前の化物を責めている。

 

 掛け値なしにいいヤツだな、と、リュウは心中で笑う。

 リュウの心は、笑いながら泣いていた。

 友奈には自分のことを棚に上げて欲しいと思っているのは……彼の我儘だ。

 この優しい幼馴染には、身勝手でも自分を許していてほしかった。

 殺人への加担を忘れていてほしかった。

 

「私は、絶対に許せない」

 

 目の前の怪物を許せず、自分を許せない少女。

 自分は許されなくていいから、少女が自分を許せるようになってほしい少年。

 そこに、心暖まる交流はない。

 友奈の拳が、バルタン星人の頬を打ち抜き、バルタン星人が無様に地面を転がった。

 

『ぐ、がっ』

 

「皆が笑ってるこの世界を……私が壊させたりしない! 絶対に!」

 

 少女の怒りの表情が、意識朦朧としたリュウの心を傷ませる。

 「お前は笑ってる方が可愛いぞ」と無意識に言おうとして、言おうとした言葉を噛み殺す。

 リュウは分かっているからだ。

 彼女にこんな表情をさせているのが誰なのか。

 この状況を招いたのが誰なのか。

 だから、言い訳できない。

 

 自分が悪人だという自意識が、リュウの中にはある。

 

(クソ)

 

 大赦を壊した後の崩壊した社会をどうするか、なんてリュウは考えてもいない。

 あるがまま、なすがまま、罪なき人々は不幸になっていくだろう。

 究極の無責任。

 最悪の無責任。

 世界に対して責任を取る気がまるでなく、責任を取る方法など何も思い付けやしない。

 頭の悪いリュウに解決策などなく、あるのは途方も無い罪悪感だけだ。

 

(クソッ)

 

 リュウの内に、嫌悪があった。

 人を殺す最悪な自分への嫌悪。

 何もできない無能な自分への嫌悪。

 良い案を何も思いつけない無様な自分への嫌悪。

 積み重なる嫌悪が自分の中に積み重なり、積み重なり、積み重なり。

 その想いが、ダークリングと共鳴していき。

 

(クソがッ―――なんで、ダメなんだ、なんで、こいつが幸せなら、それだけでいいのに)

 

 

 

 

 

 「お前も赤嶺友奈も、もうこの世界には要らない」と……耳元で何かが囁いて。

 

 「要らない者。お前達の順番が来ただけだ」と……耳元で何かが囁いて。

 

 理不尽な世界に、巡り合わせに、環境に、大赦の対応に、運命に。

 

 『世界が憎い』と、彼はその瞬間、初めて思った。

 

 

 

 

 

 憎しみが体を突き動かす。

 内的宇宙(インナースペース)にて、リュウの腕が勝手に動く。

 ダークリングの使い方など全く知らないリュウの体を、憎しみを媒介にダークリングが動かし、"正解の動き"を体になぞらせる。

 

 ゼットンのカードを、ダークリングにリードする。

 

《 ゼットン 》

 

 バルタン星人のカードを、ダークリングにリードする。

 

《 バルタン星人 》

 

 "道具に操られるように"、リュウは叫んでいた。

 

「来い! 『戦う力』!」

 

 ゼットンとバルタンのカードがほどける。

 二つの闇が混ざって、リュウの体に溶け込む。

 闇と人体が一つになって、新たな力へ昇華する。

 

「超合体―――『ゼットンバルタン』」

 

 "憎悪の奴隷となった者は何も守れない"という、西暦初代勇者が残した訓戒から何も学ばず、それに真っ向から逆らうように。

 

 鷲尾リュウは、闇に飲まれた。

 

 

 

 

 

 その日、その時、その瞬間。

 友奈と、戦場を見張っていた大赦の人間は、揃って上を見上げた。

 50mほどにまで巨大化した、『ゼットンバルタン』の巨体が、そこにはあった。

 

 ゼットンとバルタンを混ぜ合わせたかのような異形。

 セミとザリガニの中間のような宇宙人がバルタン星人で、カミキリムシと恐竜の中間がゼットンならば、それを混ぜ合わせたこれをなんと表現したものか。

 甲殻類と昆虫を高度に混ぜた無機質な人型と表現すべきそれは、恐るべき威容と闇黒をもって街に君臨する。

 

「でっ……でっかっ!?」

 

 友奈が驚愕の声を上げる。

 ゼットン、バルタン、二つ合わせてゼットンバルタン。

 先程までの大きさのゆうに二十倍はあろうかというその巨体。

 ただ歩くだけで街が壊れる。

 一歩踏み出しただけで建物が潰れる。

 人間など豆粒に等しい。

 巨大化した自分の体と、爆発的に増した力に、リュウは酩酊に似た様子を見せる。

 内的宇宙(インナースペース)にて、リュウは力に酔い、飲み込まれていた。

 

『―――いける』

 

 これで何とかなる、と至極当然にリュウが思った、その瞬間。

 

 その瞬間こそが勝機であることを、戦闘巧者は見抜いていた。

 

『……?』

 

 僅かに、ほんの僅かに皮膚に感じた感触に、リュウは違和感を覚える。

 その違和感に反応した時には既に手遅れだった。

 超高速で駆ける小さな影。

 その影はゼットンバルタンの体の表面にある僅かな窪みに足をかけ、ほぼ垂直と言っていい体表を駆け上がり、ゼットンバルタンの顔の前まで飛び上がる。

 

 リュウが眼前に迫る友奈に気付いた時にはもう、拳の鉄槌は振り下ろされていた。

 

「ごめんね。付け焼き刃で勝てるほど、私弱くないんだ」

 

 ガギィン、という酷く鈍く重い音が響く。

 たとえるならば、鉄パイプを全力でフルスイングして、その先端をピンポイントで人間の額に叩きつけるような一撃。

 

 全身全霊全力を一点に収束した一撃が、ゼットンバルタンの額を打ち据える。

 衝撃は額から頭部内部へと伝わり、後頭部から突き抜けていった。

 

『がッ―――!?』

 

 ゼットンバルタンの巨体が崩壊していく。

 慢心、油断、陶酔、自分を見失っていた、等々。

 その瞬間のリュウが致命的な隙を見せた理由には様々名前が付けられるだろう。

 だが、何でもいい。

 恐るべきは友奈の判断力と決断力だ。

 

 突然予想だにしない超合体の力の出現に、リュウは今が戦いの最中であることすら忘れ、友奈は勝機となる隙を見出した。

 新たな力に目覚めた敵が新たな力を使う前に、力を得た一瞬で仕留めきる容赦の無さ。

 容赦の無さを勝利に繋げられる洞察力。

 迷いなくそこに命運を賭けられる『勇気』。

 全てにおいて、友奈は100点満点中120点であったと言えよう。

 その身に宿る力以上に、その精神性が勇士としてあまりにも理想的だった。

 

 かくして、友奈は今日も世界を守ったわけであったが。

 消えた巨体の後に何も残っていないことに、友奈は目敏く気が付いた。

 "逃げられた"と直感的に理解して、桜色の髪を掻く。

 

「むっ、逃した」

 

 周囲に敵の気配はない。

 友奈の手にはいい一発を入れた手応えこそあったが、相手が負ける直前に逃げの姿勢に入っていたなら、どのくらいダメージが入っているかも分からない。

 友奈は少し陰りのある表情で、ゼットンバルタンを殴った拳をさする。

 人間だろうと。

 怪物だろうと。

 他の命を痛めつけた感触を、いつも友奈は好きになれない。

 彼女はきっと、心底憎い相手を殴った時も、心のどこかで謝っている。

 

 "痛みを与えてごめんなさい"、と。

 そんな感情を隠すために、人前ではいつも努めて笑顔で居た。

 

「できれば最初の一回で、勝ち切りたかったのに」

 

 次、また同じ『巨獣』がくれば、友奈はまた同じように勝てる自信はない。

 

 世界を守り、勝利を得たが、戦いは終わらない。

 

「……ごめんリュウ、もうちょっと待ってて。ちゃんと絶対迎えに行くから」

 

 死をもってしか、この戦いは終わらない。

 

 

 

 

 

 12月の凍りつきそうな夜の外気の中、リュウは必死に逃げ、転び、建築物の排水によってできた路面の水溜まりに突っ込んだ。

 泥の水飛沫が舞い上がる。

 リュウの全身が泥まみれになったが、リュウはすぐに立ち上がることすらできない。

 その口から、壊れた笛から漏れるような音がこぼれ落ちていく。

 

「ひゅーっ、ひゅーっ、ヒューッ」

 

 24時間しか間を空けていない変身。

 戦闘中の過大なダメージ。

 初めて使った『超合体』と『巨大化』。

 トドメの一撃のダメージ。

 全てが、彼の命を脅かしていた。

 腹には青々とした青あざと内出血。内臓にもおそらくはダメージがある。額上部にも痛々しい内出血の痕があり、医者が見ればすぐさま脳内の精密検査を強要したことだろう。

 

 だが、そんなことをしていられる余裕も、権利も、もう彼にはない。

 

「居たぞ! こっちだ!」

 

 男達の声がする。

 "大赦の男達の声"が。

 彼らは皆手に銃を持っていた。

 変身が解除され、弱りきったリュウを殺すために。

 

 銃で撃てば、人は死ぬ。

 

 彼らに見つかればリュウは死ぬ。

 世界のために殺される。

 ある者は個人的な事情で。

 ある者は少女にこれ以上人殺しをさせないために。

 ある者は愛する家族が幸せに生きるこの世界を守るために。

 世界を壊す悪魔・鷲尾リュウを、本気で殺そうとしていた。

 

「確実に殺せ! 殺せたら殺したことは発覚させないよう、慎重にな」

 

 彼らが世界を守る正義で。

 

 リュウは世界を壊そうとする悪。

 

 そんなことは、リュウにだって分かっていた。

 

(……死んでたまるか。死んで、たまるか……!)

 

 けれど。

 自分のためではなく、自分の大切な人を死なせないために、死ねない理由があった。

 あの時、リュウが殺した男の言葉が脳裏に蘇る。

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

「せいぜい良い気になっているがいい。

 お前も私達と同じだ。

 世界を壊す気が無いなら……

 世界の仕組みは変わらない。

 ただ"先と後がある"だけだ。我々が先で、お前達が後」

 

「『社会に要らないものを消す』。

 そのやり方を当然のものとして続けるなら……

 お前達もいずれ、我々と同じ場所に立つことになるだろう」

 

「因果応報だ。必ず、必ずそうなる。絶対にな」

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

 脳裏に蘇る言葉を振り払うようにかぶりを振って、リュウは体を引きずるように進む。

 そして、橋の上から、川に落ちた。

 もう歩く力も動く力も無いから、流されるまま川に体を任せる。

 12月の冷え切った川の水が、容赦なく彼の体温と流れる血を奪っていった。

 

「おい、今川に何か落ちなかったか?」

「……念の為手配しておこう。川に逃げられても、逃がすなよ」

「囮の可能性も考えろ! 川に何か投げ落として気を引こうとしてるのかもしれない!」

 

 大赦の者達の内何人かがその音に気付くが、彼らは冷静に対処する。

 

「殺せなくても気にするな。

 元々あの化物と鏑矢はいざという時は潰し合わせる予定だ。

 そのために相互に抑止力になる構造を作っておいたんだからな」

 

 一年と数ヶ月以上前のこと。

 鏑矢が一人だとダメだ、二人にしろと誰かが言った。

 赤嶺友奈と弥勒蓮華が選ばれた。

 鷲尾リュウは鏑矢から独立させておけと、秘密にさせろと、誰かが言った。

 だから彼の現状を友奈は知らない。

 

 一人に大きすぎる力を持たせると、暴走した時誰も止められない。

 だから優れたシステムは、力を絶対に一点に集中させない。組織でも、政治でもだ。

 できる限り複数の力が睨み合う形にして、相互に健全性を保たせる。

 どれか一つが暴走した時、他の何かがそれを止められるようにしておく。

 集団・複数という形にしておくと、一人の頭のおかしい人間が全てを決めることはなく、集団の総意……"無難な民意"を反映した決断が最後に残りやすくなるからだ。

 

 大赦は、処刑人を用意するやり方を理想形としていた。

 

 勇者を止める勇者を用意する、みたいな形はこの時代にはそぐわない。

 

 鏑矢を殺す怪物、怪物を殺す鏑矢。この構図こそが、彼らの望んだ形だった。

 

 臆病な人間は、超常の力を持つ人間達には、できれば同士討ちして共倒れしてほしかった。

 

 

 

 

 

 リュウは息も絶え絶えに、川岸から這い上がる。

 厚手のコートを着ていてもなお寒いような気温の中、凍りつきそうなびしょ濡れの服が張り付いて、リュウの体温が加速度的に奪われていく。

 歯の根が合わないほどにガチガチと歯は打ち合わされ、体は猛烈に震え、顔は生気が見えないほどに真っ青になっている。

 いや、顔に生気がないのは、先の戦闘のダメージのせいだろう。

 

「寒っ……

 早く……体温めねえと……

 風邪なんて引いてられるか……んな余裕ねえんだよ……」

 

 朦朧とする意識を繋ぎ留めるため、覚束ない足取りで歩きながら「なんでもいい、なんでもいい、何か考えろ」とリュウは必死に思考を続ける。

 考えることをやめたら、その瞬間に気絶してしまいそうだった。

 思考に浮かぶのは、先の戦いの最後で出た未知の力。

 『超合体』。

 『巨大化』。

 二つのカードを同時に使う力と、体を二十倍近く巨大にさせる力。

 

「あの力を、どうにかして、意識的に引き出せれば」

 

 だが、どう引き出せばいいのかが分からない。

 どう力を使ったのかさえ覚えていない。

 リュウはあの時、自分が何を考えて何をしたのかさえ朧気だった。

 もう一度あの力を使えるかどうかさえ、あやふやだ。

 リュウが懐に入れたままのダークリングが、鈍く闇の輝きを増していた。

 

 戦いの最中のことを、思い出そうとして。

 リュウの脳裏に蘇るのは、友奈の最後の一撃の記憶。

 生きるか死ぬかの境界線を越えかけたその一瞬の記憶が、リュウの体を震わせる。

 少年は、死を恐れていた。

 

「ふーっ、ふーっ」

 

 されど、その恐れを噛み潰す。

 

「怖くなんかねェ……怖くなんかねェ……

 本当に怖いことは、大切な人が死ぬことだ! 分かってんだろオレは!」

 

 もっと怖いことがあるのなら。

 

 死など恐れてはいられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 友奈はちょっと、いやだいぶしょんぼりとしながら帰路についていた。

 赤嶺友奈はややダウナーだが、人前では基本的に笑顔でいる少女だ。

 けれども、人が見ていないところでは人並みに落ち込むし、悩んでいる。

 この帰り道で彼女は何度ため息をついただろうか。

 はぁ、と一つ溜め息を吐く度、彼女が胸に秘めた想いがじんわりと漏れ出して、彼女がどれだけ"今日終わらせたかったか"が分かる。

 

 友奈は一人、夜道を歩く。

 吐く息は白い。

 遠くの見えない暗闇の夜道が、まるで今の彼女の置かれた立場を示しているかのよう。

 先の見えない夜道も、先の見えない戦いも、どちらも友奈を不安にさせていた。

 心細さで、友奈は一人ぼっちなのに、思わず弱音を吐きそうになる。

 

「……だめだめ。しっかりしないと。私が頑張らないと、世界が終わっちゃいかねないんだ」

 

 頑張ろう、笑おう、としていた友奈が寮に戻ると、部屋の前に荷物が置かれていた。

 時間指定の宅配便。

 この日の夜、指定した時間に届くように注文された荷物であった。

 友奈は宛先の名前が自分だったことに首を傾げ、今日が何月何日かを思い出す。

 

「あ。そっか、今日クリスマスか」

 

 今日は12/25。

 クリスマスの夜だ。

 昨日今日と朝晩一貫して忙しすぎて、友奈もすっかり忘れていた。

 よく見ると、寮の友奈の部屋の電気が点いている。

 部屋を出た時、ちゃんと消したことを確認したはずなのに。

 "友達がパーティーの準備をして待っていてくれている"と気付いて、落ち込み気味だった友奈の心の奥が明るく、暖かくなっていった。

 

 友奈が送られてきていた荷物の送り主の名前を確認すると、友奈は驚いて、表情が綻んで、だらしなく見えるくらいに、とても嬉しそうに笑った。

 

「―――リュウからだ」

 

 それは、リュウが大赦へ反旗を翻す前に、この時に届くよう事前に贈っていたプレゼント。

 友奈は笑う。

 とても嬉しそうに。

 バカに対して苦笑するように。

 

「なんか大変な事に巻き込まれてるから、顔も見せられないくせに」

 

 クリスマスも。

 誕生日も。

 進級時も。

 何かの記念の日には、リュウは必ず友奈に何かを贈ってくれた。

 友奈は星と重ねるように、夜空に贈り物の箱を掲げる。

 

「でもいつもこういうことするから、まだどっかで生きてるって、ちゃんと分かる」

 

 箱を開けてみると、そこには赤い細長のリボンが入っていた。

 一見すると赤一色の何の変哲もないリボンだが、電灯にかざすと桜の模様が浮かび上がる。

 光が透過して桜が浮かぶ仕組みになっているそれは、桜色の友奈の髪を"色ではない"形の桜で彩っていて、友奈はひと目で気に入った。

 

 これを選ぶのに彼がどのくらい時間をかけたのか。

 彼がどのくらい悩んだのか。

 彼がどのくらい真剣だったのか。

 店の前で不器用なりにうんうん唸って悩んで選んでいるリュウを想像して、友奈は思わずもっと笑ってしまう。

 

「ふふっ」

 

 友奈は思わずステップを踏んでしまう。

 子供の頃から、彼女は踊りが好きだった。

 遊びで踊り、練習で踊り、心が高ぶれば踊って、時間があれば踊って、初めての土地でワクワクして一人で踊り出すこともあった。

 神様に奉納する舞いを踊る、女性の神職者のように。

 

 たん。

 たん。

 たん。

 寮の廊下を踏む友奈の軽やかな踊りが、素朴ながらも綺麗な音楽を紡ぎ出す。

 音と踊りが合わさって、友奈の感情を言葉も無しに表現していく。

 

 嬉しさと、感謝と、愛おしさが見て聞くだけで伝わってくるような、そんな踊り。

 

「ばーかっ」

 

 友奈はここではないどこかへ向けて一言呟き、踊りをやめた。

 深呼吸して、高ぶった気持ちを落ち着けて、リボンを大事そうにポケットにしまう。

 抑えきれない嬉しさが顔に出てしまいそうだったので、もう一度深呼吸。

 

 そうして、友達と幸福な時間が待つ、暖かな自分の部屋に入って行った。

 

 

 




・『ゼットンバルタン星人』

 ウルトラマンのライブステージなどに登場。
 初代ウルトラマンの宿敵の代名詞、ゼットンとバルタン星人の合体怪獣。
 ゼッパンドンを除けば、唯一公式の系譜に存在する超合体形態。
 両者の能力を全て行使することができるため、力のゼットンと技のバルタンをかけ合わせた非常に強力な超合体。
 EXPO2017では闇の男・ジャグラスジャグラーがオーブの代わりに世界を守るために変身し、そのままのジャグラーでは手も足も出なかった怪獣軍団を即座に一掃してみせた。

 一兆度は極めて強力だが、友奈の命を奪いかねないため封印。
 赤色凍結光線や白色破壊光弾などの攻撃手段も危険なため封印。
 初代ウルトラマンを殺害した反射光線・ゼットンブレイカーなども封印。
 分厚い鉄板をバターのように切り裂くハサミの挟み込みなども封印。
 それでもなお、瞬間移動、非常に硬いバリア、分身能力、高い近接能力を持ち、スペシウムを弱点とするバルタン星人の特性を光線吸収能力持ちのゼットンでカバーしている。
 基礎能力が高めのため、完全に使いこなすには一定以上の経験・センス・技量が必要。

 『戦う力』が単純に強いため、戦うならば戦闘力で上回る必要がある。

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