クリスマスイブ。
防衛任務の帰り道、雪舞う夜空を見上げてひとりの少女が想いを募らせる。

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ハーメルン合同ランク戦にて優勝されたうたた寝犬さん宛の作品です!
へへへ、参加してくれた皆さんありがとうな……!


あなたのとなりをあゆみたい

「はぁ……」

 

悴んだ指先に息を吐き掛けるも、ジンワリと、それも少しだけ温かくなるだけ。それも外側の指だけ。

視線を己の手から空へと向ける。真っ暗な暗闇の中に揺蕩う白のカケラ。

雪だ。

今日は12/24。クリスマスイブ。

季節的にも当然だが……ここ最近は温かく、まさか降るとは思わなかった。

ブルリと体を震わせる。母に言われてコート、マフラー手袋と防寒着は持ってきたが……手袋は諸事情で今はない。

ただ、やはり後輩には体を大切にして欲しい……というちょっとした見栄があった。その結果、思っていたよりも寒くて震えている訳だが。

 

(トリガー使ったら……ダメだよね、流石に)

 

柄にも無くそんな事を考えてしまう。

いつもより、そして自分らしく無く思考が少しダウナーだ。

何があったのか?と聞かれれば何も無かったと答えるだろう。

では何故?理由は──何も無かった。それが答えである。

 

「……」

 

今日、彼女の部隊は通常通り防衛任務だった。隊長である柿崎が、この日に休む他の隊員たちの為に防衛任務を引き受け、それに倣うように彼女達も続いた。

予定は無いのか?無理しなくて良いぞ。

そう言ってくれる柿崎に彼女は笑いながらも、心のどこかでは別の感情を抱いていた。

そして明日12/25。クリスマス当日も柿崎隊は防衛任務だ。

その事を考え、彼女は再び息を吐こうとして──。

 

「──文香?」

 

トクン……と胸の奥が熱くなった。

 

 

 

「送っていくよ」

 

市街地へと繋がる連絡通路の出口でぼうっとしていた彼女に、柿崎は当然のように送迎すると言った。

初めは断っていた彼女も柿崎の「夜道に女の子一人は危ない」という力強い言葉になす術なく、柿崎と肩を……というには身長差があるので、歩幅を合わせて彼女の家に向かう。

その道中、ふと柿崎が口を開いた。

 

「……悪かったな」

 

え?と思わず聞き返す。

 

「ほら、今日はクリスマスイブだろ?そんな日なのに防衛任務に参加させてしまって……。俺は、特に予定も無かったから引き受けたけど、お前たちは俺に付き合って……」

 

どうやら、柿崎は彼女たちを巻き込んだ事に罪悪感を抱いているらしい。

自分の事に対しては無頓着な癖に、部下のことになると神経質になる。

それが彼の優しさであり、甘さだ。

だが、彼女はそんな彼のことが……。

 

彼女は、柿崎に気にしないでくださいと強く言った。

 

「え……?」

 

思っていたよりも声が強く、大きく出てしまった。

頬が熱くなるが、口が、思いが、想いが止まらない。

 

自分も、他の二人も柿崎さんの事を思って付いてきている。

クリスマスの誘いがあった。

しかし、それを差し置いて自分たちは柿崎の元に集った。

仕方なく、では無い。

そうしたいから、柿崎の元に集まった。

 

──それに、クリスマスを過ごしたいのは、本当は、貴方と……。

 

そう熱く語り、出掛けた言葉に彼女はフルリと体を震わせる。

恥ずかしい。

さらに熱く、赤く頬が染まる。

視線が下に向き、そんな彼女の頭の上から声が降りかかる。

 

「──ありがとう、な」

 

……あぁ。

ジンワリと胸の奥が温かくなる。やっぱり、自分は彼のことが……。

 

「って、文香!お前……!」

 

しかしふと柿崎が声を上げる。

どうしたのかと思うと、グイッと腕を取られた。

その力強さにさらに胸が熱くなりながらも、どうしたんですか?と問い掛ける。

 

「お前、こんなに寒いのに手袋していないのか?」

 

そう言われて、そういえばそうだったと思い出した。

外に出て震えていた時のことを思い出して、そして今の自分を思い浮かべて……気付かなかった自分と、その理由に思わず笑ってしまった。

 

「……?な、なんで笑っているんだ?とにかく、これを使え」

 

そう言って柿崎は自分が使っていた手袋を差し出した。

自分が使っていた物よりもサイズの大きいシンプルなデザインの手袋。

 

「俺ので悪いが、家に着くまでそれで我慢してくれ」

 

我慢なんてとんでもない、とは流石に言わなかった。

正直、嬉しかった。ここ最近で最も嬉しいクリスマスプレゼントなのかもしれない。

しかし……。

 

「ん?ああ、俺は大丈夫だ。寒さには耐性がある」

 

そう言って何ともないように柿崎は言った。

しかし、それが痩せ我慢だとすぐに分かった。震える手を隠すように柿崎が手をポケットに入れているからだ。

ここで遠慮しても柿崎は絶対に引き下がらないだろう。その押し問答をすればするだけ柿崎の手は外気に晒される。

だったら……。

 

 

「……なぁ、これで本当に良いのか?」

 

戸惑うように、そして恥ずかしそうに柿崎が問う。

その反応に彼女は気を良くしながら、はい!と迷いなく答える。

現在、柿崎は自分の手袋をしている……右手のみ。

現在、彼女は柿崎の手袋をしている……左手のみ。

 

そして、それぞれ空いた手はポケットの中に入っている──柿崎のポケットの中に。

そして、その中に二人の手はしっかりと握り締められ繋がっている。

 

「……こけるなよ」

 

口調はぶっきらぼうに、しかし歩みからいつでも彼女がバランスを崩せば支えるようにと気を使っているのが感じ取れた。

 

手が熱い。柿崎と繋がっている手が熱かった。

だが、それ以上に……ポカポカした。

 

彼女が、柿崎の名前を呼ぶ。

 

 

 

 

 

「……どうした?」

 

こちらを見た彼に、照屋文香は言った。

 

「メリークリスマスです、隊長」

 

空から舞う雪が、まるで二人を祝福しているようであった。

 




なお作者はボッチメリークルシミマス
なので秀一にもボッチメリークルシミマスしてもらいます
秀一「!?」


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