ある夜、部屋で眠りについた高嶺清麿が目を覚ますと、緑豊かな森の中にいた。森の中心には深い池があり、父・清太郎が教授として働くイギリスの研究所付近を思い起こさせる。
「俺、いつの間にこんなところにいるんだ?ガッシュがいるわけはないし、とりあえずここを抜け出さないと…」
魔本を持ってきはじめてしばらく経った時、清麿の右足がツタに絡まった。しかも運が悪いことに地面の小石につまづき転んでしまう。
悪いことは重なるもので、その拍子に持っていた魔本が手から離れて池に落ちてしまった。
「なんだ、この突然すぎる不幸の三重奏!!」
怒りと驚きを込めたツッコミが森一帯にむなしく響いた。
(しかし、魔本を池に落としちまうとは予想外だ。ガッシュとも合流してねぇのに、もし魔物が出てきたらひとたまりもねえぞ。
クソ…、一体どうすれば…)
予想外すぎるトラブルを前に、必死に平静を保とうとする清麿。その時…
「ハアーッハッハッハッハ!!」
池の辺りから聞き覚えのある低音の高笑いが聴こえた。凄まじい水しぶきと共に、割れたアゴに金髪
「嘆くのはよしたまえ、青年よ。池の神である私が助けてやるぞ!?」
どこからどう見てもキャンチョメのパートナーであるパルコ・フォルゴレそっくりな神のいでたちに、清麿の表情がなんとも言えない表情になった。しかし神の話は続く。
「私の神々しさに目を奪われているのだな!?君はつくづくみる目がある」
「…あんた、フォルゴレだろ?」
「そのような映画俳優、私は知らん!」
あっさりと、けれども少し取り乱したように否定をし、コホンと咳払いをする神の姿に清麿は自分の予想が確信になったことを悟った。そんな彼を尻目に2冊の本が神の手に置かれた。
左手には7色の本が、右手にはガッシュの真っ赤な魔本が置かれている。
「お前が落としたのは、この虹色に輝く魔本か?それとも真っ赤で水に濡れた魔本か?」
さりげなく自分の魔本をいじられた事に腹をたてる清麿だったが、こらえて口を開いた。
「俺の魔本は、フォル…神様が右手にお持ちの赤い魔本です」
清麿の答えに満足した神の表情が明るくなった。
「なんと正直な
(やれやれ。これで魔本を返してもらえる)
安堵する清麿だったが、神の答えは想像を超えるものだった。
「特別に、大きなイ○○ツを授けよう!これさえあればいかなる 美女バンビーナの鉄壁なガードも一発で貫通することができる!!どうだ、またとないシロモノだと思わんかね?」
しかしそのような誘惑に引っかかる清麿ではなかった。
「ドサクサに紛れて何言ってんだ!?完全にあんたの願望じゃねぇか!!!!」
しかし、神のペースが崩れることはなかった。
「何を言う?これは世の
「知るか!そんなのいりませんよ。魔本を返してくれれば十分です」
清麿の訴えに、神の表情が急に真顔になった。
「ほう。この本にそれほど思い入れがあるのだね?」
「その本と出逢わせてくれた奴と叶えたい夢があって、それを実現させたくて頑張ってるところなんです。今の俺にとっては1番大事なものなんです」
うなずきながら、神は話を熱心に聞いている。清麿の訴えは続いた。
「夢を叶えるために、その真っ赤な魔本は不可欠なんです。どうかお願いします、落としちまった真っ赤な魔本を俺に…!!」
土下座をして頼み込む清麿。しばしの沈黙が流れた。
を上げようとしない清麿を前に滝のような涙を浮かべた神の口が開いた。
「なんと…、なんと美しい友情だ…!!ならばお前に…!!」
(やっと魔本が戻ってくる…!!)
清麿の頭が上がりかけた時、涙をぬぐった神が決断を下した。
「間をとって、真っ赤なイ○○ツを授けよう!寒い冬や深夜も一瞬で布団を温めることができる。
冷えたおかずの残りモノも一瞬で出来立て同様間違いなしだ!!」
またしても清麿の期待は裏切られることとなった。神の胸ぐらを掴み、グイグイと引っ張る。
「誰が得すんだよ、そんな物!どう間をとったらそうなる、えぇ!?」
「全国の主婦のみなさんが喜ぶではないか?」
「そんな方法で温めたら引くに決まってんだろーがあぁ!!」
魔人のような形相で、神の言い分を論破した。すると、たまりかねた神が両手を合わせ、モニョモニョと小声で何かを唱え始めた。
あたりはまたも沈黙に包まれる。しばらくしてビューと大風が吹き始めた。
「神を
腰を立て続けに回転させると、風の勢いは清麿のいる方へ増していった。そして彼を吹き飛ばす。
飛ばされた清麿は宙に浮いて上下左右に回転させられた。
「なんじゃこりゃああああぁ!!」
叫ぶ清麿を尻目に、腰を回転させる神の高笑いが響く。
「ハッハッハッハ!イ○○ツをあなどる者はイ○○ツに泣くのだ。己の所業を悔いるが良い!」
「格言でもなんでもねえよ!それよりいい加減魔本を返してくれぇぇ〜!!!」
清麿の叫びが風にかき消され、神は池に沈んでいくのだった。
の音が止んだかと思うと、目覚まし時計のアラーム音が聞こえた。飛ばされた清麿が目を覚ますと、池に飛ばされる前にいた自分の部屋が映っている。
「…夢か」
今まで見た夢の中でも1番アホで恐ろしい夢だった。思い出すだけでも呆れてしまう自分がいる。階段越しから母親である華の声がする。
「清麿〜、朝ご飯できたから降りてきなさい!今日は日直でしょ!?」
見ると時計は朝の6時45分をまわっている。このままだと遅刻は免れない。
「まずい、感傷にふけってる場合じゃない!」
急いでパジャマから制服に着替え、1階のキッチンへと降りていくのだった。
完