しろはルートクリア後のお話です。

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三歩前を行く君の後ろ姿

 様々な経験をした夏休みが過ぎ、また暑い夏休みがきた。

 誕生日のときに宣言したとおり、俺はフェリーに乗り鳥白島へと向かっていた。

 あの後も、しろはとは便箋での連絡を二回している。

 内容はいずれも短文。

 伝えたいこと話したいことはたくさんあるけれど、言葉も上手くまとまらないし、

しろはとはお互い気持ちが一緒であること知ってはいるものの、もっと先に進むため

どうしたらいいかよく分からないため、当たり障りの無い文章にしかならない。

 しろはのことを考える。

 素直に綺麗な人だと思った。

 一緒に居て楽しい夏休みだった。

 水の底へ吸い込まれていくとき、このまま彼女を失いたくないと思った。

 下手くそな彼女の笑顔をずっと隣で見続けたいと思った。

 彼女のことを考えるだけで心も体も物凄く熱くなる。

 人生で初めて感じた気持ち、これが恋なのか、と理解した。

 改めてしろはに会いに行くため、自分に活を入れる。

 今の関係も楽しいけれど、なんというか物足りないのだ。

 空を見上げる。

 風を切り海を突き進んでいくフェリー。

 傍の空には翼を広げ、寄り添いながらも楽しそうに舞う二羽の鳥の姿があった。

 

* * * * *

 

 島が見えてきた。

 まもなく到着という旨のアナウンスも船内に流れる。

 デッキから見えるのは小さい島。

 歩き回ると意外と広く感じるし、そこには個性豊かな優しい人々が暮している。

 それを俺は知っている。

 島の港に近づくと、去年島に来たあの時と同様の光景があった。

 白い制服姿(夏休みなのに相変わらず制服なんだな)の鳴瀬しろはが空…ではなく

近づいてくるこちらに俺の大好きな優しい瞳を向けていた。

 俺の姿を認識したのか、その顔が段々と柔らかい笑顔へと変わっていく。

 そんな彼女の顔を見て、こちらも笑顔が溢れてくる。

 ただ、ずっと見つめていると恥ずかしい。

 ついついそっぽを向いて照れ隠しに首筋を撫でる。

 熱い。好きな人に会えたことに体中の血管までも喜んでいるようだ。

 照れているのは俺だけか、としろはに目を向けてみると、そこは似たもの同士か、

しろはもここから分かるぐらいには頬を赤らめてやっぱり空を見上げていた。

 相手も同じ気持ちで居てくれているだろうか。

 好きだ、と伝えてくれた気持ちはまだ残っているのか。

 色んな感情でぐるぐるになりながらも「じゃ船降りるから」と軽く一言だけ伝え、

接岸を終えた船から港に降りていく。

 

* * * * *

 

「ほんとにきた」

「手紙でも今日来るって伝えただろ」

 開口一番にこれである。しろはは変わっていない、となんだか安心した。

「うん。そうだけど、え、えっと、こういうときはなんて言うんだっけ」

「久しぶり? でも先月も会ってるからそこまで間は空いてないか」

「うん。一ヶ月ぐらいしか空いてないもんね」

「ああ…」

「………」

 そこで港には静寂が訪れる。

 会話が続かないのも相変わらず。

 でもこの沈黙は嫌いじゃない。

 なぜなら目の前に大好きな女の子がいるからだ。

「しろはに」

「?」

「しろはに会えて良かった」

「な、なに急に…」

「しろはに会いにくるのが、そ、その…も、目的だったから…」

 俯き気味に精一杯の気持ちを込めて伝える。

 頬には力が入り、体中の血液が沸騰するんじゃないかってぐらい熱くなる。

「え、そう…なの?」

「むしろなんのために来ると思ったの」

「………蔵の整理?」

「それは去年の話」

「じゃ、じゃあ本当に私に会いたくてきたの…?」

「あ、ああ…しろはに会いたくて…」

 そこまで言って言葉に詰まり、今度は互いにコンクリートとにらめっこする。

 はたして目の前のしろははどう思っているのか。

 見つめること数十秒。

 音を上げたのは俺のお腹だった。

 それはもう、見事な音色。空腹であることを辺りに訴えるには十分過ぎた。

「…もうお昼過ぎてるけど、何にも食べてないの?」

「ああ。食べる暇なくて、お腹ぺこぺこ」

「なんか作ってあげる」

「え、いいの」

「うん。作ってあげたい…から」

 最後のほうは消え入るようなかすれ声。

 なんとも魅力的な提案。

「ぜ、ぜひお願いします」

 口から出る言葉がなぜか丁寧になってしまう。

「食材も無いだろうから途中で買っていこうよ」

「そうだな」

「じゃ、いこ」

 そう言い、しろはは前を歩き出す。

 俺はその後に続くようについていく。

 傍から見るとなんとも不思議な光景かもしれない。自分でもそう思う。

 恋人同士なら横に並んで一緒に歩いたり、腕を組んだり手を繋いだりするところ。

 俺達はまだ好き同士。

 三歩前を行く君の後ろ姿を見つめながら、夏の日差しを浴び、歩き続ける。

 いつかは隣を歩けるようになりたいと願いながら。

「そういえば…!?」

「あっ、ご、ごめん…」

 見つめていた姿が急に立ち止まりこちらを向くものだから、脳では理解しても体が

ついていかず、しろはの顔が目の前にきてしまう。

 一瞬かかる吐息にドキドキしつつもすぐに一歩下がる。

 互いに下がるものだから、妙に距離が空いてヘンな感じ。

「思ったより近くてびっくりした」

「ああ……今度はちょっと遠いけど」

「ふふ。ヘンなの」

「でも、わりと楽しい」

「そうだね」

 不器用すぎる君の自然な笑顔。

 太陽より眩しい君の笑顔だけはずっと覚えていた。

 やっぱりこの笑顔をずっと見ていたいと思う。

 だから一歩踏み出す、そう決めた。

「並んで歩こうぜ、そのほうが自然だろ」

「うん。そうしたい」

 しろはもきっと最初から並んで歩きたかったのだろう。

 関係を変えていくのは意外と簡単なのだ。

 大事なのは踏み出す勇気。

 二度目の島での生活。

 大切な夏休みの時間と出来れば彼女とすごしていきたい。

 そのためにも次は手を握るのは…難しい! 超えなきゃいけないハードルは高い!

 俺としろはの間を駆け抜ける風が、熱くなった心と体に涼を感じさせた。

 

【三歩前を行く君の後ろ姿 終わり】

 


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