魔法大国ミストラル北方に存在する街『ブラショーツ』。
 その街にある女性下着専門店『星のアルペジオ』の店主に見てもらった女性は、あらゆる願いが叶うとされ、会員限定の超人気店である。
 今日もまた、予約していたお客様の対応をすべく、店主ライザーは店を開いていると、お忍びで噂を聞いた王女がやってきた。
 そしてその王女を見たライザーは……。

「明らかに不自然な形と大きさ……一体何枚パッドを入れてやがった⁉ 【鑑定】! 五枚だと⁉ 盛り過ぎだろ⁉」
「盛り過ぎ言うな! あとこれは胸よ! 私の胸なの!」
「どうみてもパッドだよ!」

 これはそんな、王国でもっと人気な女性下着専門店でのとある一日。

1 / 1
下着専門店『星のアルペジオ』~鑑定を極めた俺は巨乳に偽装した王女のパッドを見抜いて奪って教育する~

 魔法大国フォルブレイズの北方に存在する街『ブラショーツ』。ここは大陸北部を支配する魔王国領と隣接する街であり、数年前までは争いの絶えない地であった。

 

 今は魔王軍との和睦が成立し平和が続いていているが、戦争を経験してきたこの街は剣呑としており、穏やかとはとても言えない雰囲気だ。

 

 そんな街の中心から少し外れた場所に、一軒の店があった。

 

 ――ランジェリーショップ『星のアルペジオ』

 

 その店の店主に見てもらった女性は、あらゆる願いが叶うとされている、会員限定の超人気店である。

 

 今日もまた、予約していたお客様の対応をすべく、店主ライザーは店を開いていた。

 

「うぉぉぉぉぉ!」

「ひっ!」

 

 目を血走らせたライザーは、女性のある一点を見つめる。胸、乳、おっぱい、男の夢袋。様々な呼び名があるそれに向かって、彼は己の持てる限り全ての力を使い、スキルを使用する。

 

「この瞳は万物の創生すら見通す天上の瞳! 俺の前では何人たりとも偽りなど不可能! さあ見せよ見せよ真実を見せよ……行ぃくぞぉぉぉ! 最近胸が大きくなって肩が凝ったと大袈裟に言い始めて女友達に睨まれているお客様よぉぉぉ!」

「に、睨まれてなんて……」

 

 とてつもない集中力。女性の反論はもう聞こえない。魔力が瞳に集中し、炎のように燃え上がる。そしてそれは純粋な魔力となって閃光となりその輝きを増していった。

 

「これが俺の全力の、鑑・定・だぁぁぁぁ!」

「やっ……あああああ! やっぱり駄目、見ないで! そんな瞳で……私を見透かさないでぇぇぇ!」

 

 両腕で身体を抱き締め膝を抱え込む女性。だがそのような抵抗など無意味! すでにライザーの瞳は彼女の身体の外から内までその全てを捉えている。

 

「見えた!」

 

 手を顔に当て、勢いよく壁に掛けられた一つの下着を掴みとる。

 

「今のお客様に必要な下着は……こいつだぁ!」

 

 そう言って見せつけるその下着は、決して可愛らしさのない、武骨な紺色のスポーツブラ。それは消して異性に向けて見せるものではなく、あくまで身体を動かす用に作られてものだ。

 

「ちょ、ちょっと! どうしてこんな可愛くない下着をオススメしてくるのよ! ここは女性の望みを叶えてくれるランジェリーショップなんでしょ!? だったらもっと可愛くて、男が好きそうなのを選びなさいよ!」

「お客様は可愛い下着が御所望か?」

「当然じゃない!」

「ふっ、甘いな……確かに俺の店は綺麗から可愛いまで多数の下着を多数そろえている。だがしかし!」

 

 ライザーは女性客の身体を上から下までじっと見る。

 

「お客様、最近体重が4㎏ほど増えたな?」

「なっ! 何でそれを……」

 

 今日初めて出会った男にピンポイントで増えた体重を言い当てられ、動揺する女性客。だが驚くのはここからだった。

 

「恐らく前かがみになる仕事をしているのだろう。背筋も曲がり身体のラインも歪んでいるぞ」

「あ……う……」

 

 それも正解。この女性客の仕事は常に前かがみになり、腰に負担がかかるものだった。だがしかし、この店主にそれを言った記憶はない。だからこそ、この女性客は驚き言葉が出なくなってしまう。

 

「身体が歪むと心が歪む。心が歪むと顔が歪む。顔が歪めば……相手の見る目すらも歪ませる! 分かるかお客様、これは連鎖だ。負の連鎖だ! これらから言える事は一つ、今のお客様に必要なのは可愛い下着を着る事ではない。美しい身体を作る事だ!」

「う、美しい身体を……作る事?」

「そうだ! お客様が可愛くないと言ったこのブラは大きくなった胸を押し上げ垂れるのを防ぎ、程よい圧力を加えてくれる! 同時に背筋を圧迫させることで姿勢を良くし、美しい体のラインを作り出す! そしてこの武骨にも見えるこのパンツ! これは太腿とお尻のラインを押し上げ、筋肉を常に使う仕様となっている!」

「あ、う……え?」

 

 スポーツブラを片手に熱弁するライザーに女性客が圧倒され、何も言えなくなってしまう。そんな女性だが、彼の言う心の籠った言葉が己の心を刺激していることはわかった。

 

「お尻を上げると身体が伸びる! そして伸びた身体は美しく、そして心に自信を持てる!」

「でも……でも!」

 

 だがそれでも女性はその言葉を否定しようと首を振る。何せ一年以上待ったのだ。このランジェリーショップ『星のアルペジオ』は、一日三名限定の完全予約の会員制ショップ。

 

 貴族ですら例外ではなく、いくら金を積もうと身分を盾に脅そうと、店主の方針は変わらずだったという。

 

 それでもこのお店が常に予約で満員なのは、ここの店主に見てもらった女性達はみんな、その望みを叶える事が出来ると噂されているからだ。

 

 そんなお店に予約して一年。ようやく、ようやく店に入る事が出来たのだ! だというのに、そこで進められた下着がスポーツブラだなんてあんまりではないだろうか。

 

 涙すら出てきそうな女性客だが、ライザーの言葉は変わらない。

 

「お客様、俺を信じろ! 可愛い下着? これから1か月後、そんな下着一つで手に入れたまやかしの美しさとは違う、真の美しさを貴方は手に入れているはずだ!」

「でも……う、うぅぅ……でもぉ……」

「俺を信じろ! 俺は『星のアルペジオ』の店主、アナライザー・アルペジオ! この世の女性の全ての望みを叶える者だ!」

「う、ぅぅぅ……わかった……わかったわよ! 信じる、信じるから私を、今よりももっと良い女にしてぇぇぇ!」

 

 そんな叫びと共に女性は与えられたスポーツブラを手に取った。そしてそこから始まるライザーによる熱いスポーツブラ講座。さらには日常生活でも有用な動き方。

 

 『星のアルペジオ』はただ商品を売るだけの店ではない。商品を購入されたお客様のその後のサポートまで万全に行い、そして彼女たちの望みを解決していくのだ。

 

 全ての説明を受け終わった女性客は、まるで憑き物が落ちたように柔らかな笑顔でライザーの手を握る。

 

「ありがとう店主さん! 私、頑張るわね」

「それではお客様、良い人生を!」

 

 それから一か月後、女性はとある貴族の令息に見初められたという。

 

 平民でありながら、その美しい立ち振る舞いはまるで上級貴族のようで、その表情は自信に満ち溢れたもので人を惹きつける。最終的にはその貴族の正妻となって夫を支えていく人生を歩んでいくのだが、それはまた先の話である。

 

 

 

 翌日――

 

「さて、今日の仕事も終わったな」

 

 店主であるライザーは身体をほぐしながら表の看板を外し始める。今日来た三名はライザーの顧客の中でも特に個性の強く、扱いが難しいお客様達だったため、少々の疲れがあった。

 

 さあ後は店の片づけをして、ゆっくり休もうかと思った矢先、背後から声がかけられる。

 

「ねえちょっと」

「ん?」

 

 振り向くと、いかにも下町の娘、と言わんばかり格好をした少女がいた。ライザーは今年で二十歳になるが、この少女はもう少しだけ下にも見える。

 

 燃えるように紅い髪を腰まで下ろしたその少女は、ややつり上がった瞳でライザーを見据える。

 

「貴方がこの店の店主?」

「ああ、そうだが……」

「そう、よかった。どうやら間に合ったようね」

 

 少しホッとした様子を見せる少女だが、その言葉にライザーは首を振る。

 

「残念だが、今日はもう店じまいだ」

「え? ……で、でもまだ空も明るいし、店主だっているじゃない」

「うちは完全予約制でな。今日のお客様は全て終わっている」

「か、完全予約制……?」

 

 その言葉に動揺する少女。どうやら店の評判は知っていたが、その内情までは詳しくは知らなかったらしい。

 

 とはいえ時間外であっても将来のお客様だ。無下に扱うわけにはいかないと思い、とりあえず看板をしまう手を止めて少女としっかり向き合う。

 

「ああ、今のところ、次の予約は一年と五ヶ月後に一枠。後は二年以上先だな……」

「にねっ!? ちょ、ちょっとちょっと! いくら何でも無茶苦茶だわ!」

「無茶苦茶と言われても、こちらも商ば……」

 

 と、そこまで言ったところでライザーが不自然に言葉を切る。眼光を鋭くさせ、まるで親の仇を見るように睨んで来るのだ。

 

「え……なに?」

 

 まさか少女は己の身分がばれた? と逃げ出す用意をするが、それよりも早くライザーが凄い剣幕で近づいてくる。

 

「おいお前! ……まさか……まさか!」

「ひっ!」

 

 紅髪の少女はそのあまりの剣幕に思わず一歩後退ってしまう。彼の視線の先がどこを向いているかなど、一目瞭然。

 

 オッパイだ。ライザーの視線は完全に少女のオッパイを睨んでいた。町娘らしいゆったりとした服を着ている少女だが、そんな服装ですら隠す事の出来ないほどの膨らみを持ったオッパイを、彼は睨みつけ続ける。

 

 少女はライザーが己に欲情しているのだと思い、勝ち気だった瞳を不安げに揺らす。もはや身分がばれたとか、そういう話ではない。普通に女としての危険を感じていた。

 

 逃げよう、そう決意した少女だが、その考えはすでに遅かった。多少の距離があったはずなのに、気付けばライザーは目の前にいたからだ。

 

「お前! こっちに来い!」

「え……きゃっ!」

 

 いきなり腕を掴まれ、少女は抵抗する間もなく無理やり店の中へと連れられる。

 

 まさか強姦されるのでは、そんな恐怖で少女が固まる中、ライザーは恐ろしい目付きである一点を睨んでいた。オッパイである。

 

「脱げ」

「はぁ!? ふ、ふざけんじゃないわよ! 私を誰だと思って――」

「いいから脱げ! 脱いでその醜い物を見せてみろ!」

「い、いやよ! いやいや! 誰か、誰か助け――」

「ちっ! 面倒だ! そんなに自分で脱ぎたくないなら、俺が脱がしてやる!」

 

 抵抗を見せる少女にじれったさを感じたのか、ライザーは少女の服を掴む。少女は必死に抵抗を試みるが、強引に着ていた服を剥ぎ取られてしまう。

 

「うっ……うっ……見ないで……」

「ふん、やっぱりな」

 

 少女の服を剥ぎ取ったライザーはその服を丁寧にテーブルの上に置く。そして下着姿で泣いている少女を見下ろしながら、不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

 美しい身体だ。肌は誰にも触れられていない積雪のように白く、腰まで伸びた緋色の髪の毛が明るく照らしている。肩から腰、そしてお尻からつま先まで、まるで一つの芸術作品のように綺麗な曲線を描き、そのシルエットはこれまでライザーが見て来た中でも群を抜いて美しい。

 

 野暮ったい町娘の服と違い、彼女の身に着けている下着が最高品質な物なのも一目でわかった。素材はもちろん、紅い花をモチーフしたそのデザインは彼女の為だけに生み出された、正に至高の逸品だ。

 

 作り手の思いすら伝わって来るその下着は、同業者としては嫉妬以上に感動すら与えてくれる。きっとこの下着の製作者は、下着に人生を捧げているに違いない。

 

「だというのに……お前というやつは……」

 

 神に与えられ、周囲の努力によって磨かれたであろう美しい裸体。そして至高の下着を身に着けながら、彼女はその全てを冒涜している。それがライザーにとって許せない。

 

「なにパッドなんて入れてんだよぉぉぉぉぉ!」

「言わないでぇぇぇぇ!」

 

 少女は己が今強姦される一歩手前の下着姿であることすら忘れ、耳を塞ぎ目を閉じる。全力で現実逃避を行うが、そんな少女を許さないとライザーは、その手を掴み力づくで耳から離させる。

 

「いいや言うね! いいかよく聞け! 確かにパッドを下着に割り込ませれば大きく魅せられる! だけどそれは所詮まやかし! 一時の幻想だ!」

「違う! 違うわ! これは胸! 自前の胸なの!」

「どう見てもパッドだよ! 俺はパッドが悪いとは言わねぇ! 胸の左右差を無くしてシルエットを美しく魅せられし、服に合わせて少し胸の大きさを変えるのは全然アリだ! だけどお前、だけどなぁ!」

 

 ライザーは絞り出すように声を張り上げ、その瞳に魔力を集中させる。

 

「これは違うだろ! 明らかに不自然な形と大きさ……一体何枚入れてやがった!? 鑑定! 五枚だと!? 盛り過ぎだろ!」

「盛り過ぎ言うな! というかなんで分かった!?」

「鍛えに鍛えた俺の鑑定は、女性の体の事なら何でも視える! スリーサイズだろうが、食生活だろうが、コンプレックスだろうがな!」

「何よそれ! ひっ、止めて! 本当にお願いだからこれ以上視ないでぇぇぇ!」

 

 少女が叫ぶがライザーは鑑定を止めない。このランジェリーショップで鍛えに鍛えられた彼の鑑定スキルは、少女がいかに抵抗しようがその根源の底まで全て見通してしまう。

 

 そして彼女の本来のサイズを見切ったライザーは優しく、そして諭す様に少女の肩を叩いた。

 

「こんなもので虚栄心を満たしたって、虚しいだけだろ?」

「同情しないでよぉぉぉ……う、うぅぅぅ……ううううううう!」

 

 まるで小さな子供のように泣きじゃくる少女。

 

 別に泣かす気はなく真実を告げただけだが、流石に気まずい思いをする。それからしばらく、少女は紅い下着姿で泣き続け、ライザーはそれが収まるまでじっと見つめていた。

 

 ようやく泣きつかれたて落ち着いたのか少女が顔を上げた時、髪と同じく真紅の瞳を染め上げていた。

 

「あーその、いきなり悪かったな。お前、名前は」

「……レイナ……レイナ・フォルブレイズ」

「ああ、王女様だったか。どうりで見覚えがあると思った」

 

 何度か戦勝パレードや王都のバルコニーから手を振っている王女を見た事があったライザーは、疑うことなく納得する。流石にお忍びで来ているからか、服装などがこれまで見て来た雰囲気と違い気付かなかったが、彼女の瞳と髪は紛れもなくフォルブレイズ家の証。

 

 とはいえ、個性的なお客様が多いライザーにとって、王女一人くらいはそんなに珍しいものではない。ただ、あれだけ泣かしてしまったうえ、無理やり下着姿に引ん剥いたのは流石に不味いかもしれないと思う。

 

「さてレイナ嬢」

「様くらい付けなさいよ。私、王女なんだけど」

「俺はお客様以外の人間には様を付けないと決めている」

「なにその変なポリシー……まあ別にいいけど……」

 

 北の地で魔族の反乱を抑えている魔王に、東で新たに現れた大魔獣と戦っている聖剣の勇者、そして南の神聖教国で神に身を捧げている聖女。今日入っていた予約のお客様達は全て終わったところだ。

 

「今日のお客様は常連客なうえ、俺の知っている限り最も忙しい方々だった。ゆえに普通のお客様よりもカウンセリングの時間が短く、すこし時間が余っている状態だ」

「……」

 

 ゴクリ、とレイナはつばを飲み込む。もしかして、と期待しているのかもしれない。そしてその期待は現実のものとなる。

 

「ゆえに余った時間だけだが、レイナ嬢を見てもいいと思う」

「本当!?」

 

 余程嬉しかったのだろう。レイナは先ほどまで泣き腫らしていたとは思えない、可愛らしい満面の笑顔を見せる。

 

「一応言っておくがこれは特別だからな。本当なら王族だろうと順番は守ってもらう。間違っても知り合いの貴族に特別扱いされたとか言わないでくれよ」

「ええ、もちろんよ!」

 

 もちろん、ただ時間が余ったからなどと言う理由だけではない。

 

 彼女はこれほど下着受けをする身体を持っているのに、その使い方がなっていない荒い原石。ランジェリー・カウンセラーとして、目の前の少女を放っておくことなど出来なかった。

 

 ライザーは店の奥に設置している、カウンセリング用のソファにレイナを誘導する。

 

「さて、それじゃあ診察から始めから、まずは下着になって……るな」

「アンタが脱がしたんじゃない! しかも……しかも無理やり!」

 

 今の自分の格好をようやく思い出したのか、レイナは慌てて身体を抱き締めて隠そうとする。

 

 しかしこの男には無駄である。鑑定を極め、あらゆる事象を読み取り解析し、その全てを読み解く世界でも類を見ないほどの鑑定魔法の使い手。

 

 さっと見ただけでも、体の数値をコンマ単位で読み解くことなど造作もない。

 

「さて、レイナ嬢の悩みはその控えめな胸を大きくしたいってことで間違いないか?」

「……う、そうよ! 悪い!?」

「悪くなんてない。だが何故だ? レイナ嬢の身体は美しい。きちんと生活さえすれば、他者を寄せ付けないほどの魅力を放つだろう。そこに胸の大きさなど些事だし、小柄なレイナ嬢に大きな胸はバランスを悪くするぞ」

 

 レイナを褒めつつ、事情を伺う。女性に最も合う下着を選ぶことは造作もないが、その心まで満足させてこそ超一流。ゆえにこうしたカウンセリングがとても重要である。

 

 視線をその控えめな胸から真紅の瞳に向ける。するとレイナは少し恥ずかしそうにしながら、それでもポツポツと事情を離し始めた。

 

「憧れの人が、もしかしたら大きいのが好きなのかもって聞いたから……」

 

 それはよくある話であるし、理由としては至極真っ当なものだ。彼女が王女という立場の人間でなければ。

 

「なるほど。とはいえレイナ嬢は王女だろう? いくら憧れの人がいようと、君に自由恋愛が許されるとは思えないが」

「大丈夫よ。相手は勇者様だもの! パパも勇者様が相手ならいいって言ってたわ!」

「勇者は女だぞ!?」

 

 まさかの唐突なレズビアン発言。しかも王様が許可を出してるという。オイどうなってんだこの国は大丈夫なのか!? と国の上層部の頭を心配せざる得ない。

 

「ち、違うわ!」

「違わなくない!」

 

 ライザーの店の常連には聖剣の勇者もいるのだ。何度も彼女の裸を見ているし、今日も見たばかりである。そんな彼女が実は男でしたなんてあり得ない。これは今後の予約を考えるべきかと悩んでいると、レイナが焦ったように言い直す。

 

「聖剣の勇者じゃなくて、私が言っているのは魔王を撃退した黒髪の勇者様よ!」

「……何?」

「貴方だってこの街に住んでるなら知ってるでしょ? 魔王が率いてきた大軍を、たった一人で追い返した最強の魔術師。魔王軍から飛び交う魔術の嵐を単独で突破し、ついには魔王に重症を負わせて追い返した黒髪の勇者の話を」

「あ、ああ……俺はこの街出身だからな。もちろん知っている」

 

 自分が勘違いしていた事、そしてあまり聞きたくない話にライザーの顔が若干引き攣る。だがレイナはよほど聞いて欲しいのか、そんなライザーに気付かずどんどん話を進めていった。

 

「私はね、タイミング悪く魔王軍の侵略の時にこの街にいたの。正直絶望したわ。あんな大軍に襲われたら死ぬしかないって、本気でそう思った。そんな時、たった一人で万を超える魔王軍に立ち向かった彼を見たの」

「お、おお……」

「死ぬ決意をした私にとって、彼の戦いはあまりにも眩しかった。同時に強烈なまでの憧れを抱いたわ」

 

 まるでついこの間の事のようにスラスラと言葉を紡ぐレイナだが、それに比例するようにライザーの表情が曇っていく。まるで若かりし頃のヤンチャを褒められているような顔だ。

 

「顔を仮面で隠してたせいで勇者様の素顔を知る人は誰もいないけど、きっと凄い格好いい方だと思うの!」

「そ、そうか……格好いいと、いいな……ん?」

 

 ふと彼女の言葉の中で違和感に気付く。

 

「ちょっと待て。その素顔を誰も知らない筈の勇者が、どうして巨乳好きになる?」

「え? ああ、私は噂しか聞いてないんだけど、何でも魔王の胸がすっごい大きくて、だから見逃したって噂が流れてるのよ」

「ち、違う! 確かに大きかったが、胸だけじゃなく全身から放たれるポテンシャルの高さに惹かれたんだ!」

「なんで貴方が否定するのよ。もしかして黒髪の勇者様を知ってるの?」

 

 しまった、と思わず声を紡ぐももう遅い。レイナは完全に疑いの眼差しでライザーを見ていた。知らないと言って、通用する状況には見えなかった。

 

 であるなら、答えは一つ。

 

「あ……ま、まあ知っているな」

「うそ、本当!? ねえお願い! 教えて!?」

 

 そう答えた瞬間、レイナの目が輝いた。挟んだ机を乗り出し、前のめりに身体を寄せて来るものだから、パッドのせいで伸びたブラの隙間からピンク色の突起物が目に入る。

 

 そんな彼女の肩を冷静に抑え、ゆっくりソファへと戻す。先ほどまでと違い、今の彼女はずいぶんとご機嫌だ。

 

 全く素性の知れない勇者の手掛かりを手に入れたと思っているのだろう。心なしかライザーを見る目も信頼の色が見え隠れていた。

 

「諸事情があって、レイナ嬢の勇者様は教えられないが……まあ理由は分かった。つまり目的は胸を大きくすることじゃなくて、黒髪の勇者に惚れられることでいいんだな?」

「そうよ! ここは女性のどんな望みも叶えてくれるって評判じゃない! だから、護衛も全部撒いてやってきたの!」

「……流石に誇張が大き過ぎるな。俺は別に望みを叶えてるわけじゃない。彼女達が望み、努力した結果願いが叶っているだけだ。俺は、その為の道を作っているだけ」

 

 もちろん、お客様達が最善を尽くせるようサポートするのも自分の役目だが、努力するのは女性達である。それを忘れて自分の手柄だなんて考えは、傲慢が過ぎるというものだとライザーは考えていた。

 

「だから俺に頼れば何でも叶うなんて考えは、間違いだからな」

「まあ当然よね。本当に何でも叶うなら、貴方を巡って大陸戦争が起きてるところだわ」

「…………そうだな」

 

 すでに魔王と勇者と聖女による三つ巴戦争が世界の裏側で発生している事は言えないライザーである。

 

「しかしそうか……黒髪の勇者か……」

 

 ライザーにしては珍しく歯切れの悪い。

 

「べ、別に難しいならせめて、勇者様の好みの女性とか、好きな物とか、趣味とか、住所とか教えてくれるだけでもいいのよ!」

 

 それは全部教えろと言っているのと同義である。

 

「いや、実はレイナ嬢を鑑定するまでもなく、すでに解決方法は見えている」

「本当!?」

「ああ、ちょっと待っててくれ」

 

 慌てた様にソファから立ち上がるレイナに背を向けて、ライザーは席を離れる。そして数分後、別室からまるで宝物を扱う様に一つの小さな宝箱を持って来た。

 

「なにこれ?」

「神具だ」

「神具って、勇者の聖剣や魔王の指輪、聖女の聖杖と同じあの?」

「ああ、その神具で間違いない」

 

 まさかこのような場所で伝説級の代物が出てくるとは思わず、レイナの身体に緊張が走る。

 

 そんな彼女に向けて、ライザーがゆっくりと箱を開く。そこには美しい純白の布が鎮座されていた。二対一組の翼。その名も――

 

「神具『天使のブラ』と『天使のショーツ』だ」

「神具舐めんな!」

 

 バンッと勢いよくテーブルを叩くレイナに、ライザーは大袈裟な溜息を吐きながら宝箱をしまう動作をする。

 

「そうか、残念だ。レイナ嬢が言う黒髪の勇者はこの神具を身に着けた者と生涯を共にしたいと言っていたが、それなら――」

「言い値で買うわ!」

「綺麗な掌返しありがとう。だがこれは売り物ではない」

 

 再び宝箱を開き、テーブルの上に置く。汚れ一つない、本物の天使の羽根を使用したような純白に優しい肌触り。まさに神具に相応しい完璧な下着だとライザーは思う。

 

「神具は持ち主を選ぶ。個人情報になるから詳しくは言えないが、今日予約があったお客様達はみなこの天使のブラとショーツに挑戦したが、誰一人主として認めてはもらえなかった」

「そ、そんな……」

「それでも、挑戦するか?」

「これを着れたら……黒髪の勇者様と添い遂げられる? ……でも、でももし駄目だったら!」

「挑戦するだけしてみたらいい。神具には意志があり、その女性に最も適切なサイズになるからな。それに、別に今認められないからといって、将来もどうなるかは分からない」

 

 事実、この店で最も常連の三人は月に二回ずつ二年後まで予約を取り続けては、この神具に挑戦しているのだから。

 

 ライザーの言葉にレイナは覚悟を決めたように顔を上げる。

 

「……やるわ。やってやる! 私はレイナ・フォルブレイズ! 偉大なる魔法大国の祖の血を引く大魔導士にして世界最年少で大賢者の地位に付いた天才よ! 例え神具だろうと、着こなして見せる!」

 

 そうして勢いよく立ち上がったレイナは、紅いブラを脱ぎ去り、天使のブラへと手を掴む。瞬間、凄まじい力がレイナに流れ込むのが分かった。

 

「これはっ!」

 

 この現象にライザーが驚く。この現象は紛れもなく――

 

「ハァ!」

 

 レイナは気合と共に天使のブラを胸に当て、そのまま後ろのフックを止める。見惚れてしまうような流れる動作だ。カチっとフックが止まる音が聞こえ、レイナが両手を天使のブラから離しても、その身から神具が離れる気配はない。

 

 神具は選ばれた者にしか身に着ける事が出来ない――すなわち、天使のブラはこの少女を認めたということだ!

 

「まさか一発目で『天使のブラ』に認められるとは……だが――」

「次!」

 

 そうして純白のショーツへ手を付ける。しかし――

 

「っぅ!」

 

 レイナが手に触れたその瞬間、まるで彼女の手を拒否するかのように電撃が走り、その手をはじき返してしまう。明確な拒絶。『天使のショーツ』はレイナを主と認めないという意思表示を示した。

 

 よほど電撃が痛かったのだろう。純白のブラに紅いパンツというミスマッチングな姿で『天使のショーツ』を睨むレイナの瞳には涙が浮かんでいた。

 

「ここまで、だな」

 

 『天使のブラ』を身に着けたことで一瞬期待したが、神具『天使のショーツ』は彼女を主と認めなかったらしい。

 

 ある程度主に寛容な『天使のブラ』と違い、『天使のショーツ』はかなり主を選ぶ。実際、今日来た三人も『天使のブラ』までなら身に着けられるのだ。彼女達は今、『天使のショーツ』を身に着ける為、それぞれ研鑽を積んでいる。

 

 同じ神具なのに何故、と聞かれる事があったが、冷静になって考えれば当然だろう。ブラと違い、ショーツは色々な意味で汚れる可能性が高い。単純にトイレもそうだし、男女の営みの時でも汚れるのはいつもショーツの方だ。となれば、担い手を選ぶ基準ももちろん高くなるに決まっていた。

 

「いいから、大人しく私に穿かれなさいよ! このぉぉぉ!」

 

 電撃で弾かれながらも無理やり己の物にしようとレイナが掴みかかるが、神具は己の意に反することを絶対に認めない。

 

 それからしばらく、レイナは諦め悪くも頑張ったが結果は変わらなかった。

 

「も、もう一回……」

「残念ながらレイナ嬢、時間切れだ」

「え……?」

「言っただろう? 今日はたまたま早く終わったから特別だ、とな。残念だが、今のレイナ嬢では『天使のショーツ』に主と認められないようだ」

「そ、そんな! お願い、後一回、後一回だけ挑戦させて!」

「駄目だ」

 

 ライザーはレイナに近づくと、音もなく彼女の身に着けている『天使のブラ』を取り外す。と同時に元々彼女が着ていた紅いブラを身に着けさせた。

 

 あまりの早業に彼女は悲鳴を上げる間もなく、気が付けば下着が変わっているという、そんなマジックを見ているようで呆気に取られてしまう。

 

 その隙にライザーは『天使のブラ』と『天使のショーツ』を纏め、元々入っていた箱へと封印し懐にしまう。

 

「あぁぁ……勇者様の手掛かりが……」

 

 絶望した様子を見せるレイナを不憫に思ったのか、それとも彼女の可能性に未来を見出したのか、ライザーは最初と違い真剣な表情で彼女に語り掛ける。

 

「レイナ嬢、『天使のショーツ』は身も、そして心も綺麗な者にしか心を許さない。逆を言えば、これを着こなせる者は、それこそレイナ嬢の言う『勇者』に相応しい女性というわけだ」

「……」

「『天使のブラ』を纏えたレイナ嬢には間違いなく素質がある。ただ今はまだその研鑽が足りてないだけでしかない。俺から言えるのは、それだけだ」

 

 そう言ってライザーは一枚のカードを渡す。

 

「これは?」

「うちの店の会員カード。そのゴールドカードは『天使のブラ』を付けられた人だけに渡していて、二週間に一度であれば予約時間外でも対応する」

「っ! つまり……」

「そう、レイナ嬢の場合、二年先の予約を気にする必要はないということだ。まあ、出来れば事前に知らせてくれればありがたいが」

「ありがとう! あ、えっと……」

 

 ここにきてレイナはようやく、彼の名を聞いていなかった事に気付く。

 

「アナライザー・アルペジオ。それが俺の名だ。近しい人はライザーと呼ぶから、そう呼んでくれ」

「わかったわ、ライザー! これからよろしくね!」

「これからレイナ嬢が幸せになるため、全力でサポートさせて頂く。さしあたりそうだな……これと、これと、あとこれがいいな」

 

 ライザーが壁一面にズラリと並ぶ下着からいくつか見繕い、それをレイナに手渡す。

 

「……下着なら王宮戻ればいくらでもあるわよ?」

「それは全部捨てろ。どうせパッドが入る様に無駄に大きいものか、無理やり詰めて生地が伸び切ったものしかないだろう」

「うっ……」

 

 図星だったのか、レイナは胸を押させて気まずそうな顔をする。

 

「そもそもレイナ嬢はクソみたいなパッドの使い方をしたせいで、胸の血流も形のバランスも悪くなっている。まずはキチンとサイズのあった物を使用し、自然の形を取り戻せ。その後は、俺が少しづつレイナ嬢にあった下着や、矯正用のパッドで調整してやろう」

「そ、そこまでされると恥ずかしいんだけど……」

「パッドを五枚も入れる方が恥ずかしいと知れ!」

「わ、わかったわよ! だからもう言わないで!」

 

 そう言いながら元々着ていた町娘の服を着る。

 

「ねえところでさ……」

「ん、なんだ?」

「アンタ、ずっと私の下着姿を見てたわけじゃない?」

「まあ、そうだな」

「もしも、もしもよ……私があの神具に認められなくて、勇者様と結ばれなかったら……せ、責任取りなさいよね!」

 

 今更になって、ずっと下着を見せつけ続けていたことに気付いたレイナは、恥ずかしそうに頬を染めながらそんな事をいう。

 

 その姿はあまりに可憐で、普通の男なら一発でノックダウンさせられてしまうだろう。だが、この男は普通の感性とはかけ離れていた。

 

「断る!」

「な、なんでよ!?」

「俺はランジェリーショップの店主として、神具『天使のブラ』と『天使のショーツ』に認められた女性と結婚したいからだ!」

「なに勇者様みたいなこと言ってんのよ、この変態! 馬鹿! 変態! もう知らない!」

 

 そう言って怒りながら出ていくレイナを見送る。そんな風に怒りながらも、しっかり二週間後の予約を取っているのが彼女だった。

 

「またのご来店をお待ちしております」

 

 最後のクロージングはきっちり敬語で締め、ライザーは店内に戻る。予約者三名に加え、新たな新規客を掴み、本日はこれにて閉店だ。

 

 今日も今日とて神具達に認められる者には出会えなかったが、今日会ったレイナを含め、他の三人も素質は抜群だ。この四人ならいずれ、かの神具にも認められることだろう。

 

「早く、そんな日が来てくれることを祈るばかりだ」

 

 そんな風に呟きながら、ライザーは宝箱をそっと戻し、己の部屋へと戻っていく。明日もまた予約は埋まっているのだ。最近は新規のお客様も多く、色々と忙しくなるだろう。

 

 ランジェリーショップ『星のアルペジオ』。

 

 数多の女性を幸せにする、女性の女性による女性のための下着専門店。その評判は大陸を超え、いずれは全世界に広がるのだが、今はまだ先の話である。






  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。