始まりの天使 -Dear sweet reminiscence- 作:寝る練る錬るね
……てなわけで、チョコの供給です。本作の藤丸立香はぐだ男しかいないため、大ッッッ変不本意ながら、彼がサーヴァントからチョコレートを受け取る形となります。畜生!
ともかく、本日中に亡霊くんちゃんとアンヘルくんの分も投げます。
無論、ほんぺではこんなことは書けないので
ではまぁ、定番の……
誰かがいる……
ハーメルン バレンタインイベント
「お、親様……!」
廊下を歩いていた立香を引き留めたのは、そんな健気な呼びかけだった。シミュレーションルームに向かおうとしていた立香の足がごくごく自然な動きで180°回転し、まるで手がそこにあるのが当然かのように声の主の頭へと運んだ。その時間、僅か0.1秒である。
「ハーメルン!!どうしたの!?今日もかわいいなぁ!」
「……あ、……わわ……」
頭を撫で、胴を掴み、グルグルとその場で何度か回転。終わった後は頬擦りまでがワンセット。この行動に最初の頃は驚いていたハーメルンも会うたびにされることで慣れに慣れ、いつしか楽しみを見出していた。
「お、親様ぁ……降ろしてぇ……」
……はずなのだが。今日のハーメルンはあまり嬉しくはなさそうだった。いや、正確には嫌そうにはしていないが、少し困っているといった具合だ。
涙ぐまれながらそう言われてしまうと流石に回し続けるわけにもいかず。立香は仕方なくハーメルンをぎゅうっと抱きしめ、名残惜しくも手の中から解放した。
「ご、ごめん!もしかして、嫌だった……?」
やってしまってから、もしかするとまずかったか、などと立香は考えてしまうが、それもどうやら違うらしい。ハーメルンはとんでもないという風に首をブンブンと振った。
「……ち、違うの。…今日は、特別………これ、崩したくなくて……」
そう弁解するハーメルンの腕を見ると、なるほど。リボンで綺麗にラッピングされた茶色の箱がその手には握られていた。
……問題は、今日がバレンタインという日であり、かつ男であるハーメルンがその箱を誰にもらったのか、だが。
「ハーメルン!バレンタインチョコ貰ったのか!よかったなぁ!ジャックか?ナーサリー?それともジャンヌリリィ?」
思わぬ我が子の幸せにまた抱きしめそうになりながらも、それは自重して。頭を撫でるに留め、屈んでハーメルンの目線に合わせた。
暫く顔を赤くして口をモゴモゴとさせていたハーメルンは、おもむろに手の箱を立香の胸へと押しつけた。
「……違うの。これ、親様に……」
「…………えっ!?は、ハーメルンから!?いいの!?」
無言でコクリと頷かれ、貰った箱を喜びのままに天に掲げる。さしずめ勝利のガッツポーズに、喜んでいることを察したハーメルンの顔が緩んだ。
「開けていい!?」
「……う、うん。いいよ…」
返事を聞くや否や。慎重かつ大胆に包装を剥がし、紙袋のさらに中の袋を開けて中身を確認する。
そこには、粉砂糖やチョコレートでコーティングされた、コロコロとした茶色い球の菓子らしきものが沢山入っていた。
「これ……クッキー?」
「……ううん。……シュネーバル……ドイツの、ドーナツ……故郷の味。……昔、一回だけ…食べたことがあるの……サクサクで、甘くて、美味しい……」
味を思い出したのか、語りながら幸せそうに顔を綻ばせるハーメルン。あまりにも幸せそうな顔に、このシュネーバルなるものがいかに美味しいのかが伝わってくる。
……なんだか、今すぐ食べたくなってきた。
「ハーメルンは食べたの?」
「……ちょっと、だけ。……作ってる最中とか…味見ぐらいは…」
「なら、一緒に食べよう!マシュも呼んで、ちょっとしたお茶会みたいな感じでさ。きっと楽しいよ!」
「……ボクも、参加して…いいの?」
「当たり前だよ!ほら、行こう行こう!」
思いついたら即行動。ハーメルンの小さな手を引き、マイルームへと向かう。繋いだ手は子供特有で柔らかく、暖かかった。
そうして元々の目的、トレーニングを完全にすっぽかした立香は、三人で……途中でエミヤ他数名が加わって大きな茶会になったが…………幸せな時間を過ごしたのだった。
ハーメルンは黄色のフードの下で、幸せそうにお菓子を頬張る。
昔の記憶。心に刻まれた大罪の疵口を上から塗り固めるように。心に空いた穴を埋めるかのように。その時間は、彼にとって幸せに満ちたものだった。
その幻想は、果たしていつか叶うのだろうか。
『だから。……だからね、親様──────…』
礼装:何よりも大切なあなたへ
解説:ハーメルンからのバレンタインチョコ。シュネーバルと呼ばれる揚げ菓子。
『雪玉』という意味で、彼の故郷ではとても有名らしい。今回は手の平サイズで様々な種類が味わえるように工夫されている。一種類だけで飽きないようにという、彼なりの心遣いなのかもしれない。
誰より、なにより大切な
……なお、揚げた上にバターたっぷりでカロリーは計り知れないため、ちょっと正気を喪うこともあるらしいが。それはそれ、これはこれである。