始まりの天使 -Dear sweet reminiscence- 作:寝る練る錬るね
A. 大きいビット(大体同じサイズの菱形)を中心から八方向それぞれに伸ばして、それより小さいビット(同じサイズの二等辺三角形)をできた隙間に挟む。と、盾っぽい形ができる。……はず!要するに八方向の骨組みの間をいくつかの三角形が埋めてる。的な。
そんな説明じゃわかんねぇよこのクソゴミカス語彙力野郎!という方向け。唐突
1.ちょっと規則正しい菱形で『米』の字を書きます。
2.できた隙間に二等辺三角形をいい感じに挿し込みます
3.接着部があまりにも少なく、何故こんなバランスで形を保っていられるのか不思議な盾ができます。
………(´・ω・)アレ?
最早言葉で説明することが難しくなったので思考放棄します。投了!なんかトゲトゲの盾ってことにしといてください!
Q.アンヘル君の戦闘時の服装って?
A.最近作者が服について調べているとやっとモデルにしていた服がわかりました。千と千尋のハクが着てたやーつです。陰陽服というらしいですね。おんみょーんww
あれと天のドレス合わせたらそれっぽい!はー!すっきりした!
……とか思ってたらアンヘル君とハクがイコールで結びついてしまった……ちがう……アンヘル君は決しておかっぱじゃないのに……なんで……
※当話は全年齢ハートフル。美少年と美少女たちが日常をキャッキャウフフしながら過ごす話となっております。特にFate/stay night[Heaven's feel]で印象的だった日常のシーンを取り入れたりなど、バリエーションも様々です。是非お楽しみください。
『どうしたんだい、ギル。そんな暗い顔をして。悪い幻覚でも見たのかい?』
『王様、平気?健康管理はちゃんとしといたほうがいいよ』
夢を、見ていた。
叶いもしない、夢を見ていた。
ありもしない夢だ。二人の親友が死なずに揃っていて、穏やかな日常を過ごすという。たったそれだけの、都合のいい嘘と見えすいた幻想。
天から遣わされた、全てを繫ぎ止める楔。未来から来訪した、友へ心を砕く少年。
あまりにも懐かしく、あまりにも遠い。遠い、遠い、………遠い。その光景。
『……?ほんとにおかしいよ、ギル。もしかして、故障かい……?』
『ほんとだ、王様………なんで、泣いてるの?』
郷愁の念など、抱いたことはない。後悔など、していいはずがない。それは冒涜だ。死んでいった彼らへの、冒涜に他ならない。
……だが。
もしもこの夢が、悠久に続くというのなら─────それは現実と、何が違うというのだろうか?
ゴトン、ゴトンと。車体が揺れて、身体が跳ねた。煌々と照る日が、少しだけ眩しくて。吹きつけるそよ風が、涼しくて心地よかった。
「今回は、荷物運びのお仕事ですね、先輩」
「荷車の瓶を観測所のものと入れ替えて、海水を持ち帰ればいいんだよね?水質調査……だっけ」
「はい。通行証が二人分だったので、アナさんとマーリンさんが来れないのは残念でしたが……」
そう言って、気まずそうに後ろの荷台を見やるマシュ。立香もあまり後ろを見ないように意識していたが、現実逃避をし続けるわけにもいかず振り返る。
「フハハハハ!よい!よいではないか!うむ。では精々踊るがいい!美しい蝶が舞うのならば、こういう戯れも嫌いではないぞ!」
……そこでは、黄金のペンダントを猫じゃらしが如く弄び、愉快そうに笑っているギルガメッシュと。
「………ぐ、とれ……ない!」
「………ハーメルン、程々にね」
猫のようにそれに
「王様は、お暇なんですか?」
「戯け!暇でないからこうして目を忍んで旅をしているのだろうが!…………不意を突いても無駄だぞ童。王たる
「………む、むむ…」
事は、この数時間前に遡る。
数時間前、あろうことかカルデア大使館に突撃してきたギルガメッシュ。ものの数秒で大使館を雨樋呼ばわりする暴君さを見せつけ、立香に先ほどマシュが言った通りの仕事を伝えに来たそうなのだが………
よりにもよって、何故かついてきてしまったのだ。多忙中の多忙のはずのギルガメッシュ王が、何故か、立香たちの仕事に。……ちなみにハーメルンは霊体化して門をくぐり抜けていた。羊飼いの仕事はちょうどお休みらしい。
そして、此処からが本題だ。最初の方こそ荷台で退屈そうにしていたギルガメッシュと、立香とマシュの間で楽しそうにはしゃいでいたハーメルン。
しかし、暫くするとハーメルンに興味を持ち始めたらしいギルガメッシュ。首にかけていた金のストラップを見せびらかしてハーメルンを挑発。そしてどうやら黄色のものに目がないらしいハーメルンはほいほいとそれについていってしまった。ギルガメッシュもなんだかんだハーメルンを気に入り………その結果が、先ほどまでの惨状である。
ちなみにそのハーメルンは、いまは立香の膝の上で大人しくしている。その上には動けないように寝ているフォウ君。実に可愛らしい鏡餅だが、たまにチラチラと後ろに目をやっているは気のせいではないだろう。幼いながらに好奇心で輝いていている。比喩抜きでおもちゃを前にした猫のようだ。
「あんまりからかわないであげてください……」
「ははは、同行人を肴に愉悦を極める!これも旅の愉しみというものよ!酒があればもっとよいのだが………まぁ、そこは童相手だ。この
「随分とハーメルンを気に入りましたね…」
かっくし、と肩を落とし。ついでにハーメルンが逃げ出さないように少しだけ固定する手を強くする。……とても柔らかい感触を腕が鬼のように伝えてきているが。それは毎日隣で寝ている鋼の忍耐力で我慢。我慢である。
「貴様こそ、随分と入れこんでいるではないか。もしや惚れているか?」
「だから違いますって……ハーメルンは俺の
「そう躍起になって否定せずでもよいではないか!男同士の恋愛ごとなど、ウルクでは珍しくないぞ?」
「だから違いますってば………」
……何やらとんでもない事実が聞こえた気がしたが、流石に立香とて同性愛に目覚めるつもりはない。ハーメルンに抱いているのは、純粋な庇護欲、親心だ。フォウ君に抱いているモノと大差なく、恋愛感情などでは決してない。ないったらない。そこは強く強調しておく。
「………ハーメルン君、ハーメルン君」
「………なぁに、マシュさん?」
「私の呼び方が変わっているのはどうしてなのでしょう?できれば是非、前と同じように……」
「……ボクの親様は、やっぱり親様だけだから。ごめんなさい」
「………くっ!このマシュ・キリエライト、油断しました!味方だと思った相手がとんでもない強敵だったようです……このままでは、先輩の『正式』サーヴァントである威厳が……!」
……何やらとんでもない会話が聞こえてこないでもないが。深く聞いてはいないので口を挟むわけにもいかない。黙っていることにする。沈黙は金なり、だ。
「それはそうと。ウルクは大丈夫なんですか?王様がいないと、できない仕事とか…」
「……案ずるな。ウルクの文官の実力は折り紙付きよ。
自信満々にそう言い切るギルガメッシュ。何やら確信があるらしい。……いや、絶対そんなことないだろう、と思う。
仕事をしたことがない立香はよくわからないが、上司が不在という状況は下っ端にとって、少なくともいい迷惑ではあるはずだ。出会って間もない立香でもシドゥリが疲れきった顔で溜息をついているのが容易に想像できる。
哀れ、黙祷。
「ギルガメッシュ王。それで、本当に何の用事でついてこられたのですか?」
目を閉じて名も知らぬウルクの人々に励ましのオーラを送っていると、マシュがそう尋ねた。腕の中のハーメルンもしきりにうんうんと頷いている。
その問いかけに、ギルガメッシュが答える。心なしか、寂しそうに。
「……何、少し夢見が悪くてな。……いや、夢見が悪かったことを夢見た……といったところか」
「夢、ですか?」
夢といえば。一週間ほど前に知った、
「…………それって。金ピカ、王様の……都合のいい夢?」
「き、金ピカ王様って……」
ハーメルンが、不遜極まりないあだ名でギルガメッシュを呼ぶ。もうちょっとマシな呼び方は無かったのだろうか。確かに金髪で金の装飾品をつけているが。
「よい、幼童の言うことだ。……そうさな。あれは都合がいい夢だった。笑わせてくれる。
自嘲するように、ギルガメッシュは乾いた笑いを溢した。でも、それは確かに自嘲だけではなくて。別の何かが入っていて。でも、それがどうしてもわからなかった。
彼奴とは、きっとアンヘルのことだ。ウルクで過ごしていると、偽エルキドゥほどではないが稀に話題に入ってくる。………それを、ギルガメッシュは待ち続けているということか。
でも、なんというか──
「……意外か?」
「……はい。ギルガメッシュ王は、こんなにいっぱい話さない人だと思ってました。王城で見た限りでは、ですけど……」
少し気恥ずかしくて。人差し指でポリポリと頰を掻く。想像ではもっと威厳たっぷりで、もっと寡黙な人で。もっと堅苦しい人だったのだが。
そんな立香を称賛するように、ギルガメッシュは声高く笑う。
「ハハハ!良い目だ。あながち間違いではない。だが生憎と、思ったことは正直に話すと約しているのでな。こうせねば友人ができんぞ、と苦言を呈されたことがあったのだ」
それを守っているにすぎん、とまたギルガメッシュは漏らすように笑った。確かに、何も言わず黙っているよりかは、今のような方が交友関係は広がりそうに思えるが……
「別にそれだけという訳ではない。純粋に悪癖でな。齢を重ねるとどうしても余計なことにまで口を挟みたくなってしまうものだ。許せ、雑種」
「……はぁ、そうなんですか」
それにしては雑種呼びは変わらないんですね。なんて不遜極まりないことを思った。流石に怖すぎて口に出すことはしないが。
「話を戻すが………別に貴様らとの旅に付き合ったのはそれだけが目的ではない。貴様ら、色々とトラブルに巻き込まれているようではないか。『すまない、話の途中だがワイバーンだ!』……だったか。いつしかマーリンが話していた面白おかしい旅路を、見物しようとも思ってな」
それ、言っていればトラブルが向かってきたぞ。とギルガメッシュが荷車の行く先を指差した途端。突然、手の中にいたハーメルンが御者から飛び降りた。同じように、マシュも戦闘態勢に入る。フォウ君はいつの間にか荷台に避けられている。
「……親様、戦闘」
『……いつから話に入ればいいかわからなかったが!すまない!話の途中だがスプリガンだ!』
「……ほう、捨てられた巨像の類か。フン、冒険の前哨戦としてはこんなものだろう。避けるのも面倒だ。見事蹴散らしてみせよ、藤丸」
傲岸不遜にそう命令をかけたギルガメッシュが、しかしそれだけではなくスクリと立ち上がる。
「まぁ、なんだ。
蹴散らしてくれるわ!と割と前言に全くそぐわずやる気満々のギルガメッシュ。頼もしい。頼もしいが、なんだか嫌な予感がしないでもない。
「マスター!前方から敵十数体、来ますっ!」
ズカズカと歩み寄ってくる
「……くっ!何故だ!何故なのだ!」
「……まだ、言ってる………」
それから数時間後。一行は、無事スプリガン達を倒して観測所に到着していた。
「何故一体だけ
「確実に悪意のある配置でしたね……」
先ほど戦闘したスプリガンの群れ。その最後に残った一体が、他が全て
ちなみに、
「……ともあれ。殆どなにもなく着いてしまったではないか。これではつまらん、つまらなさすぎる」
「まぁ、何もないほうがいいことはいいですから。……えっと、瓶を取り換えればいいんでしたっけ?」
「あぁ、今の
ではな、と言ってギルガメッシュは観測所の中へ入ってしまう。倣って瓶を持ち内部に入る。
観測所内は、誰かいるのかと思ったが無人だった。だが、研究跡や生活感はある。ちょくちょく誰が足を運んでいるようだ。そういえば、ここも結界が張られているから
ギルガメッシュは慣れた足取りで二階部分へと向かっていく。つられて行こうとすると「戯け、海水を貯める水瓶なのだから外に決まっておろう。二階部分ではない」と、怒られてしまった。
「先輩?」
「ごめん、外みたいだ。海側に行ってみよう」
「フォウ!フォーウ」
それから瓶を持ちながら外を探し、放置されている水瓶を発見して。何度か荷車を往復して空の瓶と入れ替える。三人がかりでうち二人がサーヴァントだ。かなり早く終わって、なんだかんだ、時間を持て余してしまったのだった。
「フォウ!フォッキュ!フォフォ!」
「あ……!待って……!」
「フォウさーん!ハーメルンくーん!あんまり遠くに行ってはダメですよー!」
これといってやることもない立香達は、結局浜辺に行くことにした。海を見たのは初めてだったのか、はしゃぎきりのハーメルンが白い素足を晒し、フォウ君と追いかけっこをして遊んでいる。尊い。
「……ふぅ、ちょっと疲れたね」
「………はい。でも、久しぶりにリフレッシュできた気もします」
『このまま休みになってたら、海で泳ぐこともできるんだけどね。残念だ』
手のリングから、ドクターの少し疲れたような声が聞こえてくる。確かに、神代の海で泳いでみたいという気がないではない。マシュの水着姿というのも、いつか見てみたいものだ。
「……ペルシャ湾、ですよね。この先に、インド洋が広がっている……少し、ワクワクします」
『あぁ。ここは特異点だけど、この海はインド洋まで観測結果が届いている。メソポタミア世界にとって、この海は重要なファクターなんだろう。……第三特異点でみたものとは、やっぱり違うかい?』
「……うん。やっぱり、船の上から見る景色とはちょっと違って見える、かな」
日が傾きかけ、少し紅く染まっている空を反射して、オレンジに輝く海。色だけではないが、やはり地に足をつけて見ると少し違うものがある。
……だが。そんな憩いの時間は、そう長くは続かなかった。
「………フォウ!フォウ!フォッフォ!」
「…………何か、来る……!」
突然、フォウ君が海に向かって吠え始める。その瞬間、ハーメルンがそのフォウ君を手に抱えて、大急ぎで砂浜へと戻ってきた。彼もまた、立香には見えない何かを感じ取ったらしい。
いや、違う。立香にも見えた。目の前の海に見える白い帯。日本でもみたことがある雲。あれは。
「飛行機雲!?」
『こっちでも観測できた!神代のマナで……500km!?9時の方角!接触まであと3、2、1……マシュ!シールドで衝撃に備えて!』
突然のカウント。そして、つんざくような騒音と、衝撃。そして───
「───呆れた。危機感が薄いね、君たちは」
平和を壊すものが、姿を現した。
忘れられない、緑の髪。白い服。この特異点で三番目に出会った青年、エルキドゥ……を、名乗る偽物。
「こんな人気のないところに、護衛もつけずに来るだなんて……イシュタルの支配下から出たのが君たちの運の尽きだ」
「……親、様………下がって……」
「はい!マスター、下がってください!」
ハーメルンとマシュの二人が、立香とエルキドゥの間に立つ。いつも通り、立香も礼装に仕込まれた支援魔術をいつでも使えるように待機させた。
「………新しい仲間が一人加わっているようだが、なんだ。単なる子供じゃないか。いくらサーヴァントとはいえ、僕を舐めているのか?」
「……偽、エルキドゥ………!」
「………多少所有者が変わっただけで偽物偽物と。どうしようもないな、人間というものは」
「………所有者?」
呆れたようにため息を吐く彼は、立香達とは対称的に戦闘準備ができているとは思えない。……だが、立香とマシュは知っている。その嫋やかな顔に似合わず、とんでもない力の持ち主であることを。
「まぁ、確かに。そうだね、ボクはエルキドゥとしては偽物だ。それだけは明言しておこう。だって、変に期待されても困るだろう?ボクは人間の敵だ。それは、この体が壊れるまで変わらない」
手を胸に当て、自己の存在を知らしめるように。まるで演じるかのように。エルキドゥを名乗る何者は、愉快そうに笑いふける。
そして、戦闘開始の合図をするが如く。その体から、電気のような何かがバチバチと発生した。
「それを今、君たちの命を対価に教えてあげよう」
「……仮称的エルキドゥ、来ますッ!」
「マシュ!」
先手を取ったのは、マシュだった。サーヴァントとしての唯一の武装、盾を構え、エルキドゥに突撃する。
移動するだけで砂埃が舞うほど速い、英霊の速度。海岸側に立つエルキドゥまで、約百メートルといったところ。マシュならば、ほんの数秒で詰められる距離……だが。
「くっ!」
「おいおい、拍子抜けだな。そんな速度で、ボクをどうやって殺すっていうんだい?」
雨のように降りそそぐ鎖が、マシュの足を止める。よくよく見れば、エルキドゥの背後から現れた光の渦から、次々と鎖が生み出され、使い終わったものから光の粒となり、また生み出されていた。
その一撃一撃が必殺の威力を孕んでいるのは、穴だらけの砂漠を見れば瞭然だ。防御に徹しながら動こうにも、隙なく叩きつけられる鎖は留まるところを知らない。
『アレら一つひとつが、宝具級の最上の武器!これはまさしく、ギルガメッシュの
「
エルキドゥの背後の渦が、さらにその量を増す。鎖の弾幕が厚くなり、ついには進むことすら困難になる。
そして、マシュの盾が幾度となく繰り返される連撃に耐えきれず、ついに弾かれた。無防備になったマシュの体に、一本の鎖が迫っていて。
「マシュっ!」
その鎖を、マシュを押し退けて辛うじて回避する。砂埃が舞い、エルキドゥの方角が見えなくなる。
体制を立て直さなければ避けられない。だが、足場の砂が悪いせいか、立ち上がるのには時間がかかってしまう。そんなことをしているより、致死の刃の方が絶対的に速く。無機質な鎖の先端が、立香たちに迫っていた。
「……こんなものか、呆気のない」
エルキドゥは、思った以上に手応えの無かった敵に肩透かしを喰らっていた。砂煙が上がっている先では、旧人類に残った最後のマスターとそのサーヴァントが、鎖に貫かれて息絶えているはずだ。
やはり、取るに足りない。前回は妙な魔術師に一本とられたが、誰もいなければ単なる雑魚だったと。認識を改めることもなかった。
認識を。
……エルキドゥは、誰かを、忘れていた。
「………あの子供はどこに…………?」
「シッッ!!」
そのことに気がついた時にはもう遅く。エルキドゥの眼前に、風の刃が迫る。それを避けても、エルキドゥの側面で身を潜めていたハーメルンが笛の発射孔を向け、エルキドゥを仕留めんとそれを振りかざしていた。
「なにっ!?」
それは風を濃縮した、笛を柄とする即席の剣。刃渡りは短いが、威力は絶大。例え神に作られた存在であるエルキドゥとて、当たればただでは済まない。
「………
カァン、と。不可視の風の刃を知っていたかのように、エルキドゥの足元から生まれた鎖の壁が、刃を完璧に防いだ。
そして、驚愕に見舞われるハーメルンの腹に、エルキドゥの目にも止まらぬ蹴りが炸裂する。ハーメルンの体から嫌な音が鳴り、体がくの字に曲がったまま、立香たちの方向へと弾き飛ばされた。
「カ…………ハッッ……」
「ハーメルン!!」
「……どうでもいい存在過ぎて、忘れてしまっていたよ。盾のサーヴァントで目を引いて[気配遮断]スキルでの不意打ち狙い。大方、さっきの鎖も風で防いだのか。そんなもの、この
慌てて、立香はハーメルンに駆け寄ろうとした。だが、飛ばされたハーメルンは、空中のある一点で
「……それに、そんな[
ハーメルンは、動かない。いや、動けないのか。鎖が黄金に輝いて、ハーメルンの動きを完全に封殺している。
抵抗しているから鎖は揺れるが、それだけ。抜けることも、壊すこともできていない。ゆっくりと彼に歩み寄ってくるエルキドゥに、何かをすることも叶わない。
「さて、君は不確定分子。ボク相手には役に立たないが、[
「……ぐっ!」
必死に身体を揺らして拘束から逃れようとするハーメルン。だが、それは虚しく鎖を揺らすだけの結果で終わる。拘束を抜けるまでは、どうしたって至らない。
「さようなら、見知らぬサーヴァント。まずは君からだ。せめて、身体の中をぐちゃぐちゃにして、一瞬で殺してあげよう」
エルキドゥから放たれた一つの鎖が、ハーメルンの心臓、霊核を目指して一直線に進んでいく。当たれば、ハーメルンは死んでしまうだろう。その身体を魔力の残滓にして、消えてしまうのだ。
視界が、真っ白に染まる。体が熱い。足が駆け出していた。意思とは関係なく、本能で身体が動いて。
「やめろぉぉぉっ!!」
「マスター!?」
『藤丸君!?』
気がつけば、立香はハーメルンを庇うように、鎖とハーメルンの間に身を投げていた。恐怖で体が震えるが、ほんの数秒そこに体があれば、ハーメルンは無事で済むだろう。
「マスターがサーヴァント風情を庇うだと?血迷ったか!?」
「………ッ!?親様、ダメぇぇっ!」
背後から、ハーメルンの悲痛な叫びが聞こえてくる。磔にされた彼は、必死に逃げようともがいている。だが、もう間に合わない。あとコンマ数秒で鎖は立香を貫き、その命を絶えさせるだろう。
鎖が立香を捕らえるまで、あと5、4、3………
「何をやっている、この痴れ者が」
突如降り注いだ魔力弾が、立香を殺す寸前の鎖を撃ち抜いた。
海岸に面する崖に、人影があった。頭部の白いターバンらしきものを揺らし、紅の瞳でこちらを見下ろす影。
「………ギルガメッシュ王!?」
「そろそろだとは思っていたがな。
魔力弾の主、ギルガメッシュが、海岸沿いに反りたった崖から舞い降りる。戦闘用なのか、その手には本のように開かれた粘土板が握られていた。
「サーヴァント風情に大層時間をかけたな、エルキドゥ。故障か?高性能が珍しいな」
まさに傲岸不遜。戦闘とは思えない優雅な足取りで、ギルガメッシュはエルキドゥに対峙していた。
「───あ──な───!おま……え……は……」
うってかわって、エルキドゥは困惑しているように見えた。しきりに首を振り、目の前のギルガメッシュを見ようとして、また目を逸らす。何かのバグでも起きているかのように。目を押さえて何かを堪えていた。
「戦闘を楽しむなぞ、貴様らしく無いなエルキドゥ。なんだ、先の思わせぶりな戦闘は。思わず笑ってしまったわ。あのような鮮やかな手法、どこで身につけた?」
「なっ!ち、違う!あれは───!」
おかしそうに笑うギルガメッシュに、咄嗟に何かを口にしようとしたエルキドゥ。だが、またも途中で身体を俯かせ、その言葉は続かない。まるで、自分で自分の行動に困惑しているようだった。
「───お前が………ギルガメッシュ?」
「………他の何に見えるか、間抜け」
ひどく寂しそうに。何かを懐古するかのように、しみじみと、噛みしめるように、ギルガメッシュは、そうエルキドゥを罵った。
「──っ!あぁぁっ!」
その言葉に苛ついたのか。或いは、立香も知らぬ理由があったのか。エルキドゥが鎖でもなんでも無い、単なる魔力の塊をギルガメッシュに投げつけた。そのあまりに粗末な代物は、ギルガメッシュによって生じた火炎によって燃え尽きる。
「違います!ギルガメッシュ王!あれは偽物!本物のエルキドゥさんではありません!」
「ほう、それにしては良くできている!出力も以前より上がっているな!よほどいい魔力を得たのだろう!」
次々と放たれる魔力の弾。ギルガメッシュはそれらを全て、宝物庫から取り出した戦斧で弾き、切り伏せ、消滅させていく。
エルキドゥが動揺したからか、ハーメルンに繋がれていた鎖が光の粒になって消滅する。そのまま地面に崩れ落ちそうになるハーメルンを、なんとか抱き抱えた。
「ハーメルン、大丈夫か!?」
「……ごめん、なさい。違う……違うん、です……許して……だめ……」
だが、その瞳に正気は宿っていない。怯えるように何かを呟くハーメルンは、泣きながら立香の胸に顔を埋めた。
だが、ここに留まるのも危険だ。宥めるために抱きしめて、ギルガメッシュ達から離れているマシュと合流する。
「マスター!ハーメルンさんは!?」
「無事だけど……何かに怯えてるみたいなんだ!大丈夫、大丈夫だから、ハーメルン!」
ハーメルンを抱きしめながら、しきりに励ましの言葉を口にする。何かを呟き続けているが、内容が断片的過ぎて、立香にはわからなかった。
「………ごめんなさい……ごめんなさい……」
そのまましばらくすると、ハーメルンは落ち着きを取り戻した。何度か謝罪の言葉を口にするが、正気を失っているようではない。何度か頭を撫でて、抱きしめていた手を離す。
「……マスター、あれは………!」
……エルキドゥとギルガメッシュの戦闘は、新たな局面を迎えていた。無数の鎖を生み出して攻撃するエルキドゥに、大量の魔杖を以ってしてそれを潰すギルガメッシュ。その行動のどれもが洗練され、一撃一撃が重い。
何度も何度も打ち合い、その度に突風と魔力が、目に見える電気の形をとってバチバチと弾ける。
それは、もはや個の戦争。世界の終わりを思わせる、最高峰の戦い。強者のみが存在する、最強のステージ。
「………この世界で、最強の創造物はボクだ!お前なんかに……!
エルキドゥの言葉に、ギルガメッシュの端正な顔が歪んだ。だが、それでも力は拮抗している。お互いは弾かれるように後ろへ下がり、また一時の間が生まれた。
「お前なんかに、何がわかる!?愚かなウルクの王!お前を殺してボクは、この世界を終わらせてやるっ!!」
その一言と共に、エルキドゥが纏う雰囲気が変化する。本能的に、彼がこの戦いの最後の一撃を放とうとしているのだと分かった。
地に手を付け、そこから大量の鎖を生み出す。鎖を束ねて、束ねて。さらに太い鎖が、緑の息吹となって地面を覆う。まるで、大地の怒りが形になっているようだ。
ギルガメッシュは、何も言わなかった。ただ少し悲しそうにして。天に向かって手を広げて、魔力を集める。
天から開かれた黄金の門。そこから覗く大量の魔杖がそれぞれ金の光を放ち、まるで天の裁が如く荘厳な光を放つ。片方を大地の怒りとするならば、それは天の怒り。稲妻の如き天災。あまりにも巨大な雷が、エルキドゥに降り注がんとしていた。
雷の柱が、エルキドゥを直撃する。轟音と、熱と、焼ききれんばかりの、光。だが、その光はエルキドゥにぶつかる寸前で消滅していく。彼の鎖と[対魔力]スキルだ。圧力に耐える彼の顔が、獰猛な笑みを刻む。
光の柱は絶えず降り注ぐが、それは一方向。合間を縫って、エルキドゥの鎖が十数本、ギルガメッシュへと飛来した。数本を魔術で叩き落としたが、それでも何本かは生き残ってギルガメッシュに迫る。
しかし、その生き残りも全て戦斧で見事に弾かれる。余裕を残したギルガメッシュが、すかさず魔術で追撃を加えようとした、その時。
「………!?」
ギルガメッシュは、自らの足が動かないことに気がついた。どころか、体全体が鉛のように動かない。
足に目をやれば、そこには黄金の渦。そして──神に連なるものを縛り付ける、天の鎖。
「殺して、やるっ!」
エルキドゥは、致命的なその数瞬を逃さない。用意していた巨大な鎖を空へと解き放ち、重力を乗せて、ギルガメッシュめがけて落とす。
「殺す!裏切り者の貴様に、報いを!」
それは、神さえも砕く一撃。空から墜ちる母の怒り。彼の宝具。外す気はエルキドゥには毛頭ない。そもそも、外さない。エルキドゥはもう、その軌道を操作できる段階にいなかった。
故に、この攻撃は必中。外れることなど、絶対になかった。外すことなど、出来はしなかった。
しかし。
「
強者のみが踏み入ることを許されたその戦いに。戦争に。
「
文字通り最悪の横槍を差さんとする強者がいたことが、エルキドゥにとって、最大の誤算となった。
そして。立香とマシュは、目撃した。
エルキドゥが放った一撃が、ギルガメッシュを貫く、そのコンマ数秒前。見覚えのある姿の
とてつもない光と熱を迸らせて。
「
エルキドゥの全力が込められたであろうその鎖を…………跡形もなく、消し去ったのを。
流れる星のような輝きは、鎖を消し去ってなお余りある力を以って地平線の彼方へと、軌跡を残しながら小さくなり───轟音。
しぶきを上げながら巻き込んだ大量の海水を蒸発させ、完全に消滅した。
「………あれ、は……」
「………第六、特異点の………」
酷く震えて、掠れた声が口から漏れた。
忘れもしない。円卓の騎士達に立ち向かい、砂漠と山岳の中で生存を勝ち取った第六特異点。その元凶。立香達を滞在した村を襲った、巨大なクレーターすら形成する星の槍。
もう、二度と見る事はないと思っていたのに。
『間違いない……あれは寸分違わず、女神ロンゴミニアドが使用していた
ドクターロマンの声も、全く耳に入ってこなかった。助けられたことに対する、安堵もなかった。ただあったのは驚愕と……………そして、恐怖。
………とんでもない仮説が、立香の中で組み上がろうとしていた。
数週間前の夜、マーリンの発した言葉が思い出される。
『要するに、何にでもなれる宝具、というわけさ』
「………まさか………宝具も、なのか……?」
もしも。もしも、彼の宝具が、他のサーヴァントの宝具にすら変わるというのなら。そして、魔術王によって今までの特異点の記録が知られているとするならば。
「………今までのサーヴァント達の宝具が……全部……?」
全て、全て。
敵味方関係なく、今まで会ったサーヴァントの宝具が全て使用できるのだとしたら。そして、そんな相手が敵なのだとしたら。
「………そんなの…………勝てるわけが……」
マシュも同じ結論に至ったらしく、顔を青く染めて小刻みに震えていた。……そして、一度そう考えてしまえば、そうとしか考えられなくなる。最悪の事態の予感が、頭にへばりついて離れてくれない。
勝てない。絶対に。
その考えが、脳を支配し始めた、その時。
「……戯け」
立香とマシュの頭を、いつの間にか拘束を外したギルガメッシュが軽く小突いた。
「あのような宝具、そうそう連発できるはずがなかろう。そうでなければ今頃、ウルクは灰燼と化しているはずだ。そもそも敵対しているかも怪しい」
それに……と、エルキドゥの方を指さして続ける。
「どうやら、敵も一枚岩ではないようだぞ?」
向けられた指の先。偽者のエルキドゥを注視すると………驚くべきことに、彼もまた、消え去った光の槍を見て驚愕の表情を浮かべているではないか。
「……なんだ……なんなんだ……あれは………!あんなもの、ボクは知らない!何も聞いていないぞ……!?……くそっ!何のつもりだ、あの男は!」
ぶつぶつと何かを呟いているエルキドゥ。何を言っているのかは聞き取れないが、少なくとも、彼のことを知っている風にはどうしても見えない。
しばらくして、結論が出なかったのか浜の砂を叩き、キッと虚空を睨みつける。正確には、この槍を放った下手人の方角を。
……フードが、とれていた。被っていた布が、星の槍の暴風に耐えきれなかったのか。風に灰の布を靡かせて、その
ハーメルンと似通った、低い身長。流れるような、美しい金の髪。石英のような純白の肌。そして───
「…………ほぉ……」
同じように
だが、全くの別人である事は明らかだ。身長も、身体的特徴も、放つオーラも。顔つき以外の何もかもが、彼女とはかけ離れている。何も。今にも崩れ落ちてしまいそうに弱々しく立つ
「……死なれちゃ、困るんでね……です」
口を開き、何かの言葉を発した彼。その元に、黒や、紫。モヤがかかったような、不鮮明な色の球体が集った。……一度だけ見た、彼の宝具。
「……おい、お前!一体何者だ……!余計な手出しを……覚悟はできているんだろうな!?」
エルキドゥが、憤慨したようにズカズカと近づいていく。……だが、その言葉に
先程のギルガメッシュと同じく。なんだか、少し悲しそうにエルキドゥの方を見やって。……そのまま、振り向いて何処かに行ってしまおうとする。
「……なっ!待っ………ぐっ!………くそ!くそっ!……こんな!こんな、故障さえなければ……!」
呼び止めようとしたエルキドゥは、また何かあったのか、目を押さえてその場に蹲る。その隙を逃すことなく、
「………愚かなウルクの王。そして人類最後の
そして、偽のエルキドゥもまた。何を思ったのか空へと浮かび上がり、
「この、馬鹿者めが!」
パァン、という乾いた音が、ウルクへの帰路についた馬車の中で響いた。……ぶたれた。立香がそう理解するのに、そう時間は必要無かった。
「先輩!」
「いいんだ、マシュ!」
御者のマシュが心配して駆け寄ろうとしてくれるが、手で抑えて止める。何故こんなことになったのか、立香は理解していたから。
「……ほう。ならば、自らの失敗は理解しているか?」
「………ハーメルンを庇って、とっさに前に出た……ことです」
あのときは、ただただ必死だった。体が勝手に動いて、気がつけばあそこにいた。……冷静でいたならば、それは失敗だと気がつけたはずだったのに。
「……貴様はマスターだ。……マスターの役割は何だ。言ってみろ」
「……サーヴァントの、援護をすることです」
「そうか。では、そのサーヴァントは何を以って力を発揮できている?」
「…………マスターを介して、です」
……サーヴァントは、マスターからの魔力供給がなければ存在を保つことができない。ハーメルンのようなはぐれサーヴァントがどうかは知らないが、少なくともマスターを失えば魔力がなくなり、本来の力を発揮できなくなることは明白だった。故に、立香は最後の砦。前に出て自らを捨てる行為は、即ちサーヴァントをも危険に晒すことを意味する。
ギルガメッシュの助けが入らなければ、立香は独断でカルデアのこの一年間を無駄にしたことになっていた。
「……子に愛を注ぐなとは言わんがな。貴様は入れこみすぎだ。そんなことでは、いずれ身を滅ぼすことになるぞ」
「………はい」
当のハーメルンはあまりにショックだったのか、荷台の端に座り込んだまま一言も発さない。ただ、暗い顔をしているのだけは見て取れた。
「……しばらく距離を置け。貴様と此奴は生者と死者だ。この特異点を修復できるできないに関わらず、袂はすでに分かれている。このままでは別れが辛くなるだけだ」
「そ、そんな言い方は!」
マシュがギルガメッシュに談判しようとするが、それも首を振って辞する。……ギルガメッシュの言っていることは正しい。それは何より、自分が一番わかっていた。
吹き付ける風が強い。潮風が冷たくて、たまらなく寒かった。
「…………雲行きが、随分悪い」
星はない。月も、雲に隠れて見えない。暗い外が、異様に恐ろしく見える。
「少し急がせるぞ。これは、雨になる」
ギルガメッシュ自らが御者に座り、手綱を握る。
暗い沈黙と冷たい冷気が、帰り道には満ちていた。
『どうした?』
「………なんの、こと」
人のように暖かな故郷もなく。
泥人形のように帰るべき場所もなく。
また、天使のように面倒を見る神もおらず。
何も持たない
『惚けるな。なんのことも何も、何故手を出した。何もしなければ、
「…うるせぇ、です」
やけに頭に残る声を、無理やり黙らせる。
憤怒も疑問も、何も示していない無機質な音を、
「あいつは。…あの魔術師は、ウチが殺す。そういう契約だったはずだ、です」
運悪く、見られてしまった。自分があの王を助けてしまった瞬間を。以前忠告した際は偶然目に止まらなかったが、今回はそう上手くいかなかったようだ。
『だから妨げた、と?ならばより一層疑問が湧くとも。お前の望みは、奴が死ぬことのみだろう。殺せるのならば誰でもいい。違うか?』
…違わない。違わないが、違っている。自分でもよくわからない。死んで欲しいのか、殺したいのか…或いは、死にたいのか。
わからない。
「うっせぇ、です!」
なんだか無性にむしゃくしゃして。
意味がないと知りながら、声の主の姿へ拳を振るう。
筋力A+を誇る
『…そう怒るな、我が
正しく空を切ったような手応えに、
いる
『よくもまぁ、持ち続けているものだ。身体ではなく精神が、な。そこらの英霊なら、とっくに壊れているほどの魔術と令呪を仕込んだはずだが。…いやいや、全く。まだ抵抗する理性が残っているとは。流石の精神力だとも』
声の主人は……
故に、
『私の意思に背こうと体を動かす度、激痛が走っているはずだ。その意思を通そうとする度、凍るほどの冷たさが貴様を襲っているはずだ。………どうだ。私に従いさえすれば、その苦痛からは解放されるぞ。それどころか、天上の心地さえ味わわせてやれる。今からでも私に従う気はないか?』
「…お断りだって、何度も言ったはずだぜ、です。だって、ウチは………」
こんな自分でも、誰かの助けになれた。…あのマスターが、自分の忠告のおかげで死ななかったように。
「
自分は、─────は、誰かの英雄でいられる。それだけで、耐える理由には充分なのだ。
『……つまらん。これでも、私と限りなく似た考えをもつ英霊を探し出したつもりだったのだが……まさか、心持ち次第でここまで相反する属性になるとは、な』
「…はっ。それこそ、冥界のあいつを呼ぶべきだったぜ、です。あいつも相当、頭イってやがる。マスターの為なら…昔の友達だって殺すだろうぜ、です」
その点、自分が召喚されたのは僥倖だったろう。もし冥界の彼が召喚されれば[精神汚染]スキルでどうなっていたか、見当もつかない。
「……さぁ、どうする?ウチは、テメェの言うことなんて聞かねぇです。とっととその最後の令呪で殺して、別のサーヴァントでも召喚するんだな、です」
『……残念だが、その手には乗らない。生憎と、これ以上裂くリソースは残っていないのでね』
そして…と、愉快な喜劇でも観るかのように、魔術王はその顔を醜悪に歪めた。
『貴様は爆弾だ。想定外なことに時限式ではあったが、その分威力も高いらしい。愉しみにしているよ。その無駄な努力と共に、お前自身が弾ける時を』
浮かび上がった魔術王の姿が、完全に消え去る。ただでさえ何もない山は、その音が断たれたことで、本物の静謐に満たされた。
夜が、来る。
日が、落ちて。月が昇る。
そして………その
「………ぅっ………ぁっ……!」
身体の中を、ウジウジと悍ましい音を立てながら何かが這い回る。肉を喰い千切って、骨を噛み砕いて、血を吸う。
膝をつく。その膝から薄橙色の細長いモノが出てきていて。血のように際限なく溢れ出して地面に落ち、粘液に土をつけてのたくった。
「………がぁ………ぁっ……!」
激痛。そんな言葉が生優しく感じるほどの痛み。熱、不快感。身体の至る所が捕食され、陵辱され。犯され尽くす。訳もわからないナニカに全身を弄られ、上下感覚も平衡感覚も無くなって、地面に倒れ伏した。
これは、いつものこと。だから、辛くない。……そう自己暗示をかけようと、痛みに身体が慣れてくれない。
「………い゛っ……がっ……ぁあ!」
死んだ方がマシ。比喩抜きにそう思えるほどの感覚が、しきりに
……それでも。自害は、死ぬ事は、許されない。令呪が、
爛れた肉が、腕から剥がれて地に落ちた。……ボロ布で隠していた体には、もう隠しきれないほどの欠損が生じている。そしてその肉では、蟲に産み付けられた小さな卵が今か今かと孵化の時を待っていた。
「………ッ!………ァ……」
その肉を、令呪によって支配された身体が勝手に動いて食べる。どれだけ意思が嫌悪しようと、口はもう咀嚼を始めている。わけのわからない粒と自分の肉の塊。世界のどんな食物を合わせても超えられないほどの不快感が、喉を伝って食道を流れ落ちて。あまりの異物感に何度も
そして胃
体が、引き裂かれて。内部からズタズタに。痛い痛い、痛みに、心も体も犯され尽くして。壊れて、壊れて……でも、壊れることは許されない。
──そんな地獄が、何時間続いたのだったか。
体感は数日、数ヶ月にも及んだ気がするが、夜だけは冷酷に。正確な時間を告げる。
「………ぁっ?……ぅっ……ぁぁ……」
漸く、気が済んだのか。身体の中で暴れ回っていた蟲たちが、次第に動きの勢いを鈍らせていく。体から浮き出た虫の痕も鳴りを潜めた。しばらくすれば、動けるほどには体が回復するだろう。
……だが。もしも何もしなければ、またこの蟲たちは暴れ始める。じわじわと、宿主を苦しめるように。『その行動』をとらない限りは、延々と害を及ぼし、死なない程度に拷問を始めるのだ。この蟲達は、監査役。
……頭の中が、不安で一杯になる。
魔獣すら寝静まった静寂の夜に、恐怖と孤独という毒はあまりにも効きすぎて。
「…ぁぁ」
教えてよ、■■────
不安で、孤独で、たまらない。
一緒にいないと、何もできないよ。
嗚呼、あぁ……
「……
殺せば。誰かを殺せば。
この痛みから逃れられると、知っていた。
蟲が動きをやめて、最高のクスリをくれると知っていた。
「…………なさい……」
泣くように、溢れるように。
「ごめん、なさい…!」
謝罪。どれだけ悔いても飽き足りない。
それでも、伸ばす手は止められなくて。
一つ、二つ、三つ。
嫌々する子供のように首を振りながら。
伸びる手をもう片方の手で押さえながら。
グシャリ、と。
「………あ、ぁ…」
殺した。
眠っている、無防備な人間を。
何の罪もない、健やかな民を。
「………もう、や、です…」
不安が、胸から消えていく。
人間を殺すことで、心が癒えていく。
不快感も、不安も、悲しみも、絶望も。
人を殺した『快楽』が、洗い流していく。蟲の出す悍ましいナニカが、
その快楽が憎らしくて、憎らしくて、憎らしくて、憎らしくて。
────愛おしくて。
一度だって、止められない。
「…ぅ、ぁぁ……」
憎むべきはずの快楽が、思考さえも奪う。
もっと殺してしまえと、蠱惑的に囁く。
甘く、白く、蕩けた脳に、その言葉に抗う術はなく。
また、殺す。
そこに、人理を守り通す役目を持つ英雄の姿はなく。
ただ甘い蜜を貪る、人殺しの化け物のカタチだけがあった。
(ぁぁ、誰か───)
殺して。
早く、殺して。
殺すことしかできない、この愚かなナマモノを。
奪うしか能のない、魔獣よりも罪深い自分を。
人の命を穢す、浅ましい盗人を。
どうか、できるだけ早く────
「あ、あああ!!」
雨が、降っていた。地に伏して嘆くその身に、大粒の水滴が頬を伝って消える。まるで、空が泣いているようだ。
きっともう、誰にもわからなかった。
嘘は言ってない。全年齢ハート(ブレイク)フル。美少年と美少女(に取り憑いた蟲)たちがキャッキャウフフ。特にFate/stay night[Heaven's feel]で印象的だった日常のシーン(蟲蔵)を取り入れています。
うん。問題ないな。
……そろそろ亡霊くんちゃんの真名がわかるかな……?あんまりに自信のある方は作者にメッセで送ってきてくださいな!根拠がしっかりしてるなら正解か不正解ぐらいは答えるのも吝かではない……亡霊くんちゃんの真名判明後、その前に当ててた人は名前読み上げとかしようかな。大体12話ぐらいでわかる予定。
『……あれ?……こんなところに、珍しい』
『きっと、鍵なんだね…』
『余計なお世話だったかな?……お爺ちゃん』
『藤丸たちに、お願いしたいお仕事がございます』
『この、偽善者どもめが!』
『なんで!どうしてなんですか!?』
『………なんにも、わかんないや』