始まりの天使 -Dear sweet reminiscence-   作:寝る練る錬るね

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連続投稿二話目。亡霊くんちゃんです。

アンヘル君の分はじういちじごろに投げる予定。

彼のは約束された本命チョコです。
では、恒例の……


……甘い予感がする……!


???? バレンタインイベント

「………すた。……た。……きて。今日は………」

 

 

 ……暖かい。そして、柔らかい。微睡の中で、立香はその二つの感覚を同時に味わっていた。毛布の掛かっていない顔が少し肌寒い分、その温もりを余計に感じてしまう。

 

 だがしかし。立香の部屋は侵入者(水泳部)が多いため、厳重なロックがかかっているはずだ。それを外から解除できるのはダ・ヴィンチちゃんとマシュぐらいなもので、他の誰かがいるとは考えづらい。

 

「ん、ん〜〜」

 

 考えているとどんどんと身体が寒くなる。手の中の温もりを逃さないように、改めて小さな何かを抱き直した。……やはり、小さなその生物はぽかぽかと暖かった。

 

「…抱……くらを御所望…?です……素直に……そう……よな……」

 

 もぞもぞと苦しそうに動いた後、しきりに身体を擦り付けてくる何か。少しくすぐったいその感触が、再び眠ろうとしていた立香の意識をぼんやりと覚醒させていく。

 

 だが、そうは問屋が卸さない。日頃からレイシフトの連続で疲れが溜まっている立香にとって、カルデアでの睡眠は数少ない休養だ。再び浮き上がっていた意識を、抱きしめている物体をまさぐることで沈めようとする。

 

「……ひゃん!」

 

 なにやらとても弾性に富んだ感触を手の中に感じながら、動く何かの熱を逃すまいと更に強く抱きとめる。

 

 次第に衣擦れの音が小さくなり、腕の中の何かが動かなくなる。

 

「……の………えっち…」

 

 何か聞こえた気がするが、それでも立香は覚醒に至らない。少し暑くなってきたので寝返りをうって、手の中にいる不届き者に裁きの鉄槌を……

 

 

 

「ぱんぱかぱーん!朝っぱらから事件の予感がしたから、シールダー、アンヘル!参上したよ!マスターが性犯罪者にならないうちに、起こします!」

 

「…お、同じく、フォーリナー……ハーメルン、です。親様(おやさま)……起こさないと、だね。ご、ごめんなさい…」

 

 

 途端、入り口から聞こえてきた大きな声と申し訳なさそうな声で、さしもの立香も目を覚ました。

 

「わーい!」

 

「う、うわぁ!」

 

 状況を把握しきれないまま……衝撃。楽しげな声と驚いた声の主が、またも湯たんぽとしてベッドの中に追加された。

 

「うぐっ!」

 

「ご、ごめんなさい……親様を起こすなら…これが一番だって、ダヴィンチちゃんさんが…」

 

「大丈夫、痛いところは外してあるよ。マスターは大人しく、僕らを掛け布団として使ってれば良いんだから、えへへ……」

 

「……お、重いぞ、お前ら…です」

 

 子供二人が跳び乗ってきたのだと、漸く把握して、元々布団の中にいたサーヴァントの声を聞き、恐る恐る毛布の中へと視線を移す。

 

 ……そこには、先日召喚したサーヴァントが一人、少し不満げな顔でフードを目深に被りなおしていた。顔は赤く、顔は汗やら涙やらでほんのり濡れている。髪も乱れており、他サーヴァントに見られれば一発通報間違いなしの事後状態だ。

 

「……随分、他人(ひと)の身体でお楽しみだったじゃねぇですか、ますた」

 

「……あ、いや。これは、その。違って……」

 

 どうやら先ほどの抱き枕扱いには文句はないらしいが、流石に体をまさぐったのはマズかったらしい。赤らんだ顔が不満げに歪んでいるのが見て取れる。慌てて弁解をしようにも、ほぼ状況が詰んでいる。

 

「……しょ、しょうがない、よ?親様、子供大好きだし…」

 

「ハーメルン君、若干誤解を招く言い方するのはわざと?」

 

「ひ、ひぇぇ……ご、ごめんね…」

 

 コミュニケーションの苦手なハーメルンなりのフォローが、アンヘルの無慈悲なツッコミによって脆くも崩れ去る。流石ウルク。容赦というものがまったくない。

 

 

「…ま、いいです。…こいつらのお陰でギリギリセーフってことにしといてやる。今日のところは特別に、許してやらんこともない、です」

 

 つーん、と。フードのサーヴァントは頬を膨らましながらも怒りを収めてくれる。なんだかんだ、お人好しの面が見え隠れしているのが彼らしい。

 

「そんなこと言っちゃって〜!キミも満更じゃないくせに〜」

 

 その心を読んだらしいアンヘルが、ニヤニヤ笑いながら彼の顔をつつく。…普段そういう風に余計なちょっかいを出すからトラブルに巻き込まれていることに、果たして彼は気がついているのだろうか……

 

「は、はぁ!?シールダー!て、適当なこと言ってんじゃねぇよ、です!」

 

「適当言ってませーん!事実でーす!」

 

「…け、喧嘩、しないで……」

 

 

 自分のベッドの上で美少年(?)3人が和気藹々(?)と話し合う光景。改めて見ると、中々に得難いものである。少なくとも、立香が日本にいたならばこうはいかなかっただろう。

 

「……?ますた。何を拝んでやがる、です?」

 

「……いや。ちょっと感動をば…」

 

「……あぁ。そういうことかよ、です。…ったく。変なますたに召喚されちまったもんです。これが人類最後の生き残りってのが、余計手に負えねぇ、です」

 

 心底呆れたようにため息をもらす彼に、アンヘルとハーメルンが若干の苦笑を漏らした。彼らが完全に否定しないのは同意だからなのか、それとも愚痴に返答をするのが無駄だと知っているからなのか。

 

 ……立香としては後者だと信じたい。

 

 

「それよりそれより!ねぇ、マスター。ちょっとこの子から言いたいことがあるらしいから、聞いてあげて!」

 

「言いたいこと…?」

 

 一体なんだろうか。苦情なら心当たりが多すぎてどれがどれだかわかったものではない。一体どうやって謝ったものかと思考が迷走し始めるが、そんな立香をみてアンヘルが笑っているところを見ると、どうやらそういうことでは無いらしい。

 

 フードのサーヴァントが、ベッドの上でもじもじとしながら口を開いた。

 

「……その、ますた。……ますたの故郷には、ばれんたいん…とかいう。チョコレートをお世話になってる相手に渡すとかいう。そういう風習があるとか無いとか聞いたぜ、です」

 

「う、うん。そういえば、今日は2月14日だったね。でもどっちかっていうと、意中の相手に渡すって方がメジャーで……」

 

 立香にはあまり縁がないことだったが、と自嘲しようとしたところで。

 

 亡霊と呼ばれていた彼の顔が、信じられないほど赤くなっていることに気がつく。具体的には、林檎や苺を思わせるほどかぁぁぁっと、真っ赤に。

 

 

「あ……や、その……違う、そういうのじゃ、ですけど。でも、その。これは、違って。いや……でも、これ…」

 

 

 なんとかちぐはぐに言葉らしきものを繋いだ彼が、立香の手に無理矢理何かを握らせる。……それは、ピンク色の紙と赤のリボンで丁寧に包装された箱で。……話題の流れからして、明らかに、本命っぽい…。

 

 

「も、もしかしてこれ……」

 

「……がう……です…」

 

「え?」

 

 

「本命チョコだとか!ますたのためを思って一生懸命作ったとか!そういうのと違うですから!勘違いすんなよな!でふ!」

 

 

 あ、噛んだ。

 

 

 ……そう思った直後、爆発。彼の熱を表すかのような白い煙が、立香の視界を覆った。すわ自爆かと身構えるも、どうやらそんなことはないらしい。お得意の煙幕のようだ。

 

「し、シールダー!フォーリナー!行くぞ、です!」

 

「……あわ、わ…」

 

「うひゃぁ!ま、マスター!僕もチョコ用意してるから!また夜に会いに行くね!」

 

 純白の世界でそんな二人の叫びが、どんどんと遠ざかっていく。大方、彼に抱えられて二人ともマイルームを出たのだろう。すごいスピードで声が帯のように引かれていく。流石に筋力A+は伊達ではない。

 

 

「……それにしても、チョコ」

 

 

 煙幕が晴れ、マイルームには立香とベッドの上に残されたチョコレートだけになった。

 

 シールとリボンを剥がし、中に入っていた袋を開けてみる。中から出てきたのは、金色の結晶。大凡チョコレートとは思えないそれを、立香は躊躇なく口の中に放り込む。

 

 

「……うっま」

 

 

 漏れたのは、そんな簡素な感想。食感も謎で、見た目も謎だが。味はしっかりと美味しく、何より思いを感じる優しい味だ。

 

「……今日、いい一日になりそうだな」

 

 朝から少し幸せを感じながら、立香はベッドから身を起こした。

 

 

 

 

 ……それはどこかで起こった夢。きっと叶わない、何かの間違い。あぁ、それでも。

 

 

 

(あぁ。まるで………みたいだ。………の為に………日が───)

 

『……やっと………たよ………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『夢の破片(チョコレート風味)×1』を

プレゼントボックスに送りました。

 

 




礼装:夢の破片(チョコレート風味)

解説:????からのバレンタインチョコ。

チョコレート……?否。もはや食品なのかすら怪しい、謎の結晶。口の中に入れるとホロリと溶け、ガリガリという食感の末、旨味と少しの苦味を残して去っていくという、あまりにも奇妙すぎる物体。味は美味しめのミルクチョコである。

監修の天使曰く『彼ったら、お菓子作りに宝具使おうとするんだよ!卵の殻は入れるし、メレンゲは泡立たないし。これも何故かできてしまった物体Xだし…………でも、愛情はしっかり籠もってるから。味わって食べてあげて』だそうだ。

何よりもおいしいものを、誰よりも早く、大好きなあなたに。例え技術が拙くても、想いだけは貴方に伝わると信じて。このチョコレートが少しでも。夢のようなこの時間の証明になるように。

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