始まりの天使 -Dear sweet reminiscence-   作:寝る練る錬るね

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拮抗の4です。どうぞ。





第七節 破滅への序曲 (4/5)

 

 

 ───ボクなら、すぐにでもネズミをたいじしてみせましょう。

 

 おとこは、そういいました。そんちょうはこのことをきいて、もしもせいこうしたときには、なんでもしてやるといいました。

 

 ───おやすいごようです。ほんとうに、なんでもしていただけるのですね?

 

 そんちょうがうなずいたのをみて、おとこはさっそくひろばへとむかいました。

 

 ひろばについたおとこは、ポケットからふえをとりだしました。

 

 ──ふえなんてつかって、なにをするんだ?

 

 まちのひとがふしぎにおもっていると、おとこは、ゆかいなおんがくをふきはじめました。

 

 すると、どうでしょう。あちこちのいえから、ねずみがあつまってきたのです。

 

 ──これは、どうしたことだ。

 

 みんな、びっくりしています。

 

 おとこは、ふえをふきながら、むらのそとへむかってあるきだしました。

 

 すると、ネズミがそのうしろについていきます。

 

 むらじゅうのいえから、つぎつぎにネズミがでてきては、そのれつにくわわっていきます。

 

 むらをでたネズミのぎょうれつをおいかけると、おとことネズミは川のそばまでやってきていました。

 

 ──どうするつもりなんだろう。

 

 むらびとたちがぎもんにおもっていると、おとこはざぶざぶとかわのなかにはいっていきました。

 

 ネズミたちはあとをおって川へ飛び込むと。そのまま、いっぴきのこらずおぼれしんでしまいました。

 

ハーメルンの笛吹き男 中章

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「先輩!ご無事ですか!?」

 

 立香が意識を取り戻したのは、そんな声が耳に入ってきたからだった。恐らく、そこまでの時間は経っていなかっただろう。

 

「………マシュ……?」

 

「申し訳ありません!マシュ・キリエライト、全速力で北壁の上を駆けてきたのですが距離が遠く、2分ほどの時間がかかってしまいました。それで、状況は………」

 

 息を切らしたマシュが、問いかけを途中で止めた。

 

 壁の下を眺めて押し黙るマシュを見て、暫く呆けていた立香も恐る恐る下を覗き込み……同じように、驚愕した。

 

「ぁ………え?……これは……一体、どなたが……?」

 

 壁の内側は、赤紫。赤黒いと言ってもいい魔獣の血が視界を埋め尽くしていた。絶え間なく流れるソレは血の()のように、じわじわと褐色の地面を染め上げていく。

 

 そして、その発生源。それは、足場にできるほど大量の魔獣の死体。北壁の穴近くで無造作に積み上がったそれらは、一匹の例外なくブロック状に切り刻まれている。

 

「この……笛の音は……」

 

 耳に、蕩けるような美しい音色が届く。重厚で濃密な旋律は、それこそワインか何かのように、人の心を虜にし、その毒性を露わにする。

 

 フラフラと、外壁から魔獣の一匹が吸い寄せられるが如く穴へと近づいた。ムシュマッヘと呼ばれていた、ヒトデのような化け物。千鳥足で穴から内部へと侵入しようとしたそれは、しかし壁の内部に入った途端、他の魔獣と同じように肉のブロックへと変わり果てている。

 

 まるで、生産工場か何かの工程をすっ飛ばされてみたかのような気分だ。

 

「これは……ハーメルンが、やったのか?」

 

 慌てて彼の姿を探すと、彼は北壁の内部で未だ戦っていた。対する獣は、三体。自らの数倍の巨体をもつウガルに対し、踊るような戦闘を繰り広げている。

 

 他の場所を見やると、アナや他の兵士たちが、チラホラと協力してもう何体かのウガルと対峙していた。だが、三体もの魔獣と戦闘を繰り広げているのはハーメルンだけだ。

 

「危ないっ!!」

 

 一体の獅子が、吠えたてるように口から火球を発射する。それに連動するよう、他の二匹も巨大な火球を放つ。

 

 だが、それらは瞬時に細切れとなった。ハーメルンが笛を吹いた途端、質量を持たないはずの火球は切り裂かれ、ハーメルンを避けるように後方へと消え去る。

 

 目の前で起こった状況に動揺を隠せないウガル達。その隙を逃さず、ハーメルンが再び笛を吹くと……今度は、呆気のないくらい簡単に、一匹のウガルが真っ二つに割れる。自らの死にすら気がつかなかったのか、数歩歩いた魔獣は、半身を崩し地面に倒れた。

 

「あれは……?」

 

 恐らくは、ハーメルンが使っていた風の刃。高圧レーザーのように圧縮された風が一つの武器となり、あれほどまでの破壊力を生み出したのだろう。

 

 だが、それは今まで立香が見ていたものとは大きく異なっていた。あれほど静かに肉体や炎を断てるなど、尋常ではない威力だ。少なくとも、今までのハーメルンはあんな芸当はしていなかったはず。

 

 あまりの圧倒ぶりに愕然としていると、立香の後ろから近寄ってくる影があった。

 

「おや、お目覚めかい。随分と短い睡眠だったね、藤丸君」

 

「マーリン?……に、フォウ君」

 

「フォウ。フォーン、フォ」

 

 白い髪を揺らし……つつ、その髪を肩に乗ったフォウ君に引っ張られている魔術師。マーリンは、にこやかに笑って肯定した。たまに痛そうにして顔を顰めている。……何故、嫌われているとわかっているのに肩に乗せたのだろうか。

 

「あぁ。状況の説明が必要かと思ってね。下はアナたちに任せてきてしまった。……これだけ数を減らせたなら、もう彼女たちだけで十分だろう」

 

「マーリン君、いったい何が……」

 

 マシュの疑問に、マーリンが長々と自慢話のように話を盛り上げる。長すぎて少し焦れたが。

 

 曰く。ハーメルンが最初にやったことは、北壁の穴を塞ぐことだったらしい。

 

 北壁の穴は、塞ぐことはできない巨大なものだった。……だが、その大きさを逆手に取り、ピアノ線を張り巡らせるかのように網目状に風の刃を設置することで、侵入してくる魔獣の半分ほどを仕留めたそうだ。

 

 さらに、おかれた状況を理解した魔獣たちが二の足を踏んだところで、あの笛らしい。

 

「とまぁ、顛末はさっきの通りだ。風を出すのとは両立できないらしいから隙を見てだが、音に誘われた外の魔獣には効果覿面だった。あとは、中に入り込んだ何体かを仕留めるだけさ」

 

「凄い………!あれだけの魔獣を、ハーメルンさん一人で!」

 

 驚嘆するマシュ。しかし、立香の胸中には別の感情が渦巻いていた。

 

「……どうして、そんなことができたんだ……?」

 

 今まで、ハーメルンが戦闘する機会は多々あったが、彼は精々『アサシンとしては強い』の範疇に収まるほどの強さだった。言えば悪いが、アナと同等か、それ以下程度の実力だったはずだ。

 

 多少相性がいいからといって、魔獣としてはかなりの強さを誇るウガル百体をも相手にここまでできるとは思えない。風の刃も、今までの戦闘では不可視ではなく立香でも見える程度のものだったのに。

 

 そんな立香の思案を、マーリンは楽しそうに笑い飛ばした。

 

「ははは!……なるほど。君は随分鈍感なようだね、藤丸君」

 

「鈍感……?」

 

「彼があそこまでやれるのはね。君のおかげだよ、藤丸君。君が命じて、君が信頼しているからこそ、あれだけの力を発揮できている」

 

 というか。と、マーリンは至極当然のことを口にするように続けて言葉を紡ぐ。

 

「元々、彼はあれだけ強かったのさ。けれど、今まで無意識にストッパーを掛けていた。恐らく、その原因も君だ」

 

「それも……?」

 

「最初からあれほどの強さを見せれば、君に嫌われる。或いは、怖がられてしまう。その考えが、彼の頭の片隅にはあったんだろう。しかし、信頼が深まることで、そんなことはないと彼自身が確信できた。いわば、心理的な壁が無くなったんだ。だからこそ、彼は一切の懸念なく動けるし、戦える。心と体が直接的に繋がっている。安心を得れば体が軽くなるし、不安になれば体も重くなる。そういうものだろう?人間(・・)というのは」

 

 呆然と、遠くのハーメルンを見た。

 

 ダンスか何かを踊るように、激しく、静かに敵の攻撃を躱す少年。その表情は、とても余裕があるようには見えない。だが、何一つ不満を言うことなく、ハーメルンは冷静に獣を仕留めていく。

 

(……なんだ……全部、俺のせいじゃないか)

 

 彼の弱さも。彼の強さも。全ては、立香が招いたものだ。立香が、引き起こした錯覚だ。

 

 つまり、あれこそが自然。ハーメルンが、最も輝いている姿。ありのままの、ハーメルンの姿なのだ。

 

 そう考えると、少しだけ腹に溜まるものがあった。

 

 嫌われると思って我慢していた?何を馬鹿な。その程度のことで立香がハーメルンを嫌うなどと思われていたということか。何度か、恐れたことはある。ただそれは、嫌悪の感情とは程遠いものだ。立香の思いは、そんな簡単に揺らぐものではない。

 

 すぅ、と息を吸い込む。

 

「………ハーーーメルン!!!!」

 

 自分でも、ビックリするくらい大きな声が出た。それがこの場において悪手だと、なんとなくは理解していた。だが、どうしても収まりがつかない。これだけは、言っておかなくては気が済まないと言う一言があった。

 

「ひゃい!?」

 

 ビクッ!と体を震わせて、ハーメルンが情けのない返事をする。また随分と、可愛らしい悲鳴をあげる殺人鬼がいたものだ。

 

 再び、息を大きく吸い込む。全力で、その一言を発した。

 

「………頑張れっ!!」

 

「………は、はいっ!!」

 

 再び体を硬くして、ハーメルンが返事をする。よし、と笑って。立香は、ハーメルンとは別の方向に向き直った。

 

「ははは!君らしいな、藤丸君!」

 

 茶々を入れてくるマーリンをスルーして、マシュの肩に手を置く。

 

「………マシュ、戦線の負傷者の救護に回ろう。もし魔獣が出てきたら、その時は頼む」

 

「……は、はい!……その。……あれで、よかったのですか?」

 

「……ああ!帰ったら、お説教だ」

 

 立香はハーメルンを怖がっていたことを、正直に話して。その上で、立香がハーメルンを大好きなことは、その程度では変わらなということを、しっかり教えてやらねばならない。そして、今度こそハーメルンの問いに答えるのだ。

 

 

 ──俺は、ハーメルンを赦したい、と。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「………頑張れ……って……こんなに……あったかい……ものだっけ……?」

 

 生前、何度か同じ言葉をかけられたことはある。ただ、それらは全て急かしたり無理を強いたりする意味のもので、到底応援とは程遠いもの。

 

 不思議な気分だった。胸が熱くなって、空だって飛べそうなほどポカポカして、フワフワとする。

 

 初めての感覚。初めての気分。浮かれて、その場で飛び跳ねてしまいそうだった。顔が赤くなって、思考がまとまらない。魔力の練り上げも、なんだかホワンホワンなピンク色だ。

 

 ……そんな油断は、戦場では命取りとなる。

 

「わっ……」

 

 ウガルが、ハーメルンの背後から迫っていた。慌てて笛を構えるが、ほんの数瞬間に合わない。ウガルの巨大な口が、視界いっぱいに広がる。

 

 

 

「いやぁ!いつの時代になっても、主人(あるじ)からの言葉と言うものは、心を昂らせるものですね!」

 

 大きな口を開けたまま、獣が脳天を貫かれて息絶えていた。あまりの早技に、視界がついていかなかった。そんな早技を繰り出した者の名は……

 

「………牛若丸……さん……」

 

「牛若で結構。なんなら、義経と呼んでくださっても構いませんよ?なに、主に褒められたいがために戦う者同士。仲良くいたしましょう」

 

 魔獣の血に塗れたまま、童顔の武士はなんでもない風に笑い、尻餅を作るハーメルンに手を差し伸べる。……流石に猟奇的すぎて、手を取るのは躊躇われた。

 

「……自分で……立てるの……ウシワカ」

 

「おや、その元気が残っているのなら結構。残りは有象無象の化生(けしょう)7体。軽く片付けてしまいましょうか。そして終わったら、存分に褒めていただきましょう」

 

「……ん」

 

 コクリとうなずき、互いに背を合わせて己が武器を構える。両者共に、仕える主人は異なる。されど、その目的はなお一致していた。

 

「ギルガメッシュ王が臣下!ライダー、牛若丸!推して参る!」

 

「……サーヴァント、フォーリナー。……ハーメルン、だよ。……殺すね」

 

 小さな武将二人は、合図もなく同時に駆け出した。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 北壁外部の被害は、比較的少ないものだった。大事になる前にハーメルンが行動したことにより、負傷者自体は最低限に抑えられ、幸いなことに死人は出なかったそうだ。

 

 とはいえ、重傷者が何人かいることもまた確か。横たわる彼らをカルデアの協力の元探知し、応急処置を施して北壁入口へと運んでいく。

 

 魔獣が何匹か襲ってくるが、量はたかが知れている。充分にマシュが戦える範囲であったし、少しでも量が増えれば壁の向こうのハーメルンが対応してくれた。

 

 そうして、何人かの兵士を運び終わった時。ふと、立香の目にとある人影が止まった。

 

「………あれは……?」

 

「マスター……?」

 

 ウガル達によって無残に壊されたバリケード。その向こう側に、蹲っているような人影が見える。……それも、割と近い。およそ50mといったところか。

 

 魔獣達の被害に遭ったのか。その割には北壁から少し離れすぎな気もするが、放っておくわけにもいかない。

 

「マシュ、ちょっとあの人見てくる。着いてきて」

 

「えっ!?ま、待ってください、マスター!」

 

 マシュの呼び止める声を背に、小走りで駆け出す。距離はほとんど空いていない。軽く背負って運ぶだけで終わる。なるべく時間はかけないでいたい。……そんな軽い気持ちだった。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「………ぎぁ……ぅっ………ぁ……」

 

「痛みますか!?」

 

「ぇ……ぁ……?」

 

 どうやら、言葉を話せる余裕はないが、意識だけはあるようだ。苦しそうに呻き声を上げて、体を度々震わせている。纏っているマントのせいか体躯はわからないが、かなり小柄なようだ。これなら、立香一人で運べるかもしれない。

 

「マシュ、俺がこの人を運ぶから……」

 

 護衛を頼む、と言おうとした矢先。マシュが奇妙なものでも見るかのように、こちらを見ていることに気がつく。

 

「先輩……一体(・・)誰と話しているのですか(・・・・・・・・・・・)

 

「…………え?」

 

 ゾクリ、と悪寒が背筋に走る。瞬間、立香の体は背後から伸びてきた手によって、マシュとは別方向へ投げ飛ばされた。

 

「うわぁっ!?」

 

「マスター!?」

 

「……が……ぁ……く、そっ!………大……馬鹿……やろー!……とっとと……避けとけ、です!」

 

 怒気を孕んだその声音と独特の口調で、先ほどまで蹲っていた存在の正体を知る。例の少年(ショウジョ)だ。恐らく、つい先ほどまで何かしらの宝具を使って隠れていたのだろう。……だが、何のために。

 

 もしや──罠か。そう思い至ったが、その仮説は瞬時に否定された。

 

 立香が状況を把握するや否や、とんでもない速度で地面へと突っ込んできた存在があったからだ。地面はクレーターのように無残に凹み、焦げたかのような音まで発している。その場所は……つい先ほどまで、立香が立っていたところ。

 

「……フン。外したか。人類最後の失敗作をついでに処分する、いい機会だったんだけどな」

 

「………キングゥ……!」

 

 轟音を立てながら空から飛来したのは、不敵な笑みを携えたキングゥだった。彼は無様に地面に転がる立香を見て鼻で笑い、その間に立つ少年(ショウジョ)へと向き合う。

 

「あぁ、そうだとも。……それにしても。ついさっきまで[気配探知]に引っかからなかったのに、突然前触れもなく現れるんだ。まさか、そんなところに小賢しく隠れていたとはね。驚いたよ」

 

「……お互い様だ。まさか、テメェじゃなくコイツに見つかるなんてな………そうか。テメェ、あいつと会ったのか、です。だから………チッ」

 

「……一人で勝手に解決せずに教えなよ。遺言として聞いてあげないこともないよ」

 

「余計なお世話だ、です」

 

 皮肉の効いた会話を繰り返す二人。その間になんとかマシュと合流しようとするが、一歩でも動けば殺されそうなほど剣呑な雰囲気が立ち込める中、それを試みるのは無謀だった。マシュもそれがわかっているのか、何度も機会を窺っては動けずにいる。

 

 だが。少年(ショウジョ)の後ろ姿を見ていた立香は、ふと気がつく。……少年(ショウジョ)の体のあちこちが、妙に盛り上がっている。筋肉や脂肪といったそれではなく、それだけ外付けでとりつけられたかのように。少年(ショウジョ)の体から、何かが浮き上がっている。

 

 そして、あろうことか。その妙な出っ張りは、意思を持っているかのように動き始めた。

 

「えっ……!?」

 

「……っ!…………ぁ……ぐ……」

 

 少年(ショウジョ)の反応は、酷く顕著なものだった。足から力が抜け、つい先ほどのように地面へと倒れ込む。しばしばの痙攣と、時折出る悲痛な呻き声は、その身を蝕む苦しみの程を表しているかのようだった。

 

 まさか、キングゥの攻撃か。……そう考えるがどうやら全く別口のものらしく、キングゥは意外そうな表情を浮かべている。

 

「……随分と、醜悪なものを飼っているな。お前の趣味か?」

 

「……ず……ァ……んな……わけ……ねぇ、だろうが……!」

 

「だろうな。となると、お前のマスターか。……まぁいい。どちらにせよ好都合だ。悪いが、君の言うように母親を宥めなくてはいけなくてね。早めに済まさせてもらうよ……!」

 

 そしてキングゥは、背後に大量の鎖を構えながら、倒れ伏す少年(ショウジョ)へと狙いを合わせた。少年(ショウジョ)は何かをしようとしているが、痛みでままならないようだ。

 

「じゃあ、さようなら。見知らぬサーヴァント。恨むなら、君を探し当てたそこの人間を恨むんだね……!」

 

 矢のように引き絞られた天の鎖が、少年(ショウジョ)を捉えようとした………ちょうどその時。

 

「何!?」

 

「まさか……!?」

 

「先輩……!」

 

 巨大な地震が、再び北壁全体を覆った。上下感覚も、平行感覚も、何もかもがなくなってしまいそうになるあの揺れ。

 

 しかし、先ほどと違ったのは、その揺れがあまりにも大きかったこと。………まるで、震源が立香の間近にあるかのように。

 

 揺れは収まることなく、ビキビキと地割れさえ作ってなおも揺れ続ける。……否。それは地割れではなく、ただの出口だった。地面を這っていた巨大な生物が、発泡スチロールか何かの蓋を破るかのように、地表を粉砕したに過ぎない。

 

 ………そうして。立ち上がることすらままならない状態で、立香は目撃する。

 

 天に届くほどの白き(くちなわ)。紫という概念を具現化したかのような紫の髪、女性の顔。それらが合体して、ラミアのような美しさと凶暴さを併せ持っている。そして、何より目に生えるのは、天使が如き黄金の翼。

 

「……これ……は………」

 

 ビリビリと、肌が危険を訴えるようにピリつく。それは、イシュタル神と対峙していたときと酷似していた。

 

 つまるところ、隠し切れないほど高ランクの[神性]。神の証。目の前の存在は、あまりにも桁違いの威圧感を放って、その名を口にする。

 

「……我が名は、三女神同盟が一柱。魔獣母神、ティアマト。人間共よ、滅びの時だ。頭を垂れ、咽び泣き、終末を……受け入れるがいい」

 

 

 魔獣母神。全ての神の生みの親。原初の神を名乗る女神は、立香たちをハエのように見下ろして、そう(のたま)った。

 

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