始まりの天使 -Dear sweet reminiscence-   作:寝る練る錬るね

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連続投稿最後。

優しいアンヘル君です。

ちなみに、ぐだーずはマスターとして3位ぐらいにアンヘル君と相性が良かったりします。なお2位は士郎、1位はフラット君です。

そういえばあらすじがあんまりにも本編に関係なかったことが判明したので代えました。二部っぽくてカッコよく、かつ本編の内容を如実に表しております。

それでは恒例の……


…誰かいる……


アンヘル バレンタインイベント

 部屋に備え付けられたインターフォンが鳴る。綺麗な電子音だが、立香はそれを気にしていられるほど元気ではなかった。わざわざインターフォンを丁寧に鳴らしてくれる相手。それもこの時間というなら、おおよそ見当がついている。

 

「は、はーい。空いてるよ〜」

 

 マイルームで既に困窮気味の立香は、少し気だるげにベッドから返事を返した。

 

 何せ、今日だけで十数人以上のサーヴァントからチョコレートやら作成者本人やらを受け取ったのだ。……訂正。作成者は受け取っていない。貰えること自体は嬉しいものの、色々とありすぎた。疲れない方が無理というものだろう。

 

 自動扉が開き、若干身長低めのサーヴァントが白金の髪を揺らして、室内へと入ってきた。

 

「や、マスター。調子はどう……って。訊くまでもないか。だいぶんお疲れ様だ」

 

「あぁ、うん。こんな有様でごめんね、アンヘル……」

 

「気にしないで。僕とマスターの仲じゃん。ちょっとくらい弱いところをみせても、誰かに言ったりしない。リラックスしてありのままでいてくれる方が、心を許してくれたみたいで、僕は嬉しいな」

 

 そう表情を崩した彼は……アンヘルは、まさしく天使らしい優しい笑みを浮かべて、立香の隣へと腰かけた。気遣っているのではなく、心の底からそう言ってくれているのが伝わってきて。ホッとして一息つくことができる。

 

「あはは…チョコレート自体はすごく嬉しいんだ。故郷にいたときは、こんなに……それに、みんなみたいな綺麗な子たちにもらう機会なんてそうそうなかったし」

 

「あ、わかるよ。カルデアはみんな、容姿端麗だよね……マスターの故郷だとさぞかしモテたんだろうなぁ」

 

 チョコレートもいっぱい貰って、と付け足して笑う彼に、つられてクスクスと笑う。それは学校の頃にいた学友のようで、信頼を置いた幼なじみのようで。お互いがお互いを信頼しきった、優しい関係。

 

「でも、やっぱり疲れちゃうわけだ。そりゃそうだよね。落ち着かないし、いつもと違う非日常だし……」

 

「相手が神様とかだと、気をつかっちゃうかも。その点、ハーメルンとかは楽なんだけどさ」

 

「お茶会、楽しかったね。……まぁ、ご先祖様がお菓子食べ過ぎでカロリーがどうたらこうたら、って言ってたけどさ」

 

 

 今日1日を振り返って、下らない話で盛り上がる。たまに入る愚痴のようなものも、彼は寛容に受け止め、間違っているときはちょっと茶化しながらも諭してくれる。こういうところが、彼の人気な部分なのだろうなぁ、とぼんやり考えた。

 

「そういえば……アンヘルは、チョコをどれぐらい貰ったの?それとも、あげた?」

 

「えっとね、いつもの二人に、エレシュキガル様、ご先祖様、シトナイさんとは交換したよ。あげて、貰った。エルと王様、ミニ王様にはお返しをもらったんだ。みて、ワクワクザブーンの貸切チケット。また一緒にいこ、マスター」

 

「………いい。みんなの水着姿、すごくいい」

 

 

 特に、ハーメルンあたりはプールなんて行ったこともないだろうから、すごく喜んでくれそうだ。そんなことを考えていたら、そんな思考を読まれたのだろう、アンヘルはクスリと笑い、すぐにまずいと思ったのかバツの悪そうな表情を作った。

 

「あ、ごめんね。ちょっと伝わってきちゃって」

 

「ううん、いいけど。……俺の想像、そんなにおかしかった?」

 

「いやいや。全然違うよ。そうやって自分の欲望も混ぜつつ、他の人の幸せも考えてあげられるのが、マスターのいいところだなぁって思っただけ」

 

「……急に褒められると照れるんだけどな。……ありがとう」

 

 

 そういう気恥ずかしい話をサラリと流すあたり、彼の人たらしの部分が見て取れる。そうやって友達を増やしているな、貴様!

 

 

「あ、そうだ。これ、マスターへのチョコレート。……本命を渡したらマスターが王様に何されるかわかんないから、ギリギリ義理チョコってことで」

 

「お、ありがとう。大切に食べるよ」

 

 几帳面に箱に入れられたチョコレートクッキーは、他のサーヴァント達と違ってかなりスタンダードなものだ。その分、気兼ねなく食べて欲しいということなのかもしれない。

 

 そうしてしばらく会話を続けていると、体制もあるのか、立香の意識が朦朧とし始めた。目蓋が自然に閉じて、弾んでいた会話への返事が稚拙になる。

 

「……お休みだね。やっぱり、疲れが溜まってたんだよ、マスター。このまま寝ちゃっていいよ。電気とかは、僕が消しておくから」

 

「……う、ん。お願い…」

 

 なんとかそう返事を返して、言葉を紡ぐことさえ面倒になって。微睡の中に、立香は落ちていく。沼のような眠りに、呑み込まれていく。

 

 

「……疲れたね、マスター。今日はゆっくり休んで。眠ったら、また明日。きっといい日だよ。今日みたいな、でも今日と違う、今日よりもいい日だ」

 

 頭を撫でられる。スベスベで柔らかい手が、少し冷たくて気持ち良かった。優しい、草原のような香り。

 

 

「…おやすみ、アンヘル……」

 

 そうして、立香の意識は完全に落ちきった。

 

 

 優しい泡沫に包まれて、夢を見る。それはとても自然で、とても尊いこと。故に、天使は優しくそれを見守る。

 

 

 

 

『ありがとう………でも…………もう……』

 

『………一緒に…救おう、マスター…』

 

 

 

 

 

「おやすみ、マスター。きっと、いい夢を。ハッピー、バレンタイン」

 

 

 

 

 

『優しいチョコレート×1』を

プレゼントボックスに送りました。

 




礼装:優しいチョコレート

解説:アンヘルからのバレンタインチョコ。

ごくごくスタンダードなチョコレートとプレーンのクッキー。極上の美味さではなく、慣れ親しんだ素朴な味。体に少しでもいいように、食べやすいようにと、甘さ控えめカロリー低めで作ってある。

大切なあなたへ。一番とはいかないけれど、何者にも代えがたいあなたへ。始まりの天使からの優しい贈り物を。どうか、普通で平和な日常が、当たり前に続きますように。

なお、味に対して文句を言う不届きなマスターがいた場合、どこからともなく過保護な王から宝具が光の速さで下賜されることになっている。

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