始まりの天使 -Dear sweet reminiscence-   作:寝る練る錬るね

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 嬉しいこと。なんと!支援絵をいただいてしまいました!
月宮桜霞様からいたたきました!アンヘル君です!服装が作者の想像通り過ぎて怖かったです(小並感)
 
【挿絵表示】


 いやぁ、支援絵なんて初めてもらってしまいました。びっくりです。Twitter始めて良かったな、って初めて思えました。マジで。あ、作者のTwitterアカウントはこちらです。こちらでも質問等募集しておりますので、是非ぜひ。

 なお、こちらでの質問は量が多いのでTwitterの方で返答させていただき、一部を作品の方でさらに取り扱わせていただく形になります。ご了承ください。


第八節 新星の在り処 (2/■)

 夢という言葉には、概ね二通りの意味があるそうだ。

 

 一つは、願望。将来的にこうなりたい、あるいはどうしたいという未来像を、勝手気ままに自らが妄想し、それを抱く。それこそが夢であり、それは誰しもが一度は持つものだという。

 

 二つ目は、追憶。

 

 ニンゲンというものは、眠っている間に昔の記憶を整理する。

 

 それは忘れるためであったり、あるいは記憶に焼き付けるため。ニンゲンがその生命を保つための防衛機構。

 

 その記憶の閲覧を脳は現実と勘違いし、あたかも現実の経験であるように体感する。それが、夢。

 

 ………では、振り返ってどうだろう。

 

 自分は、夢というものを持ったことはない。見たことはない。そもそも、昔の記憶というもの自体が希薄だ。親の顔すら、知る由もない。

 

 これといった記憶を持たず、故にこれといった夢を見ない自分は、ならばニンゲンでないのか。

 

 そんなわけはない。自分はニンゲンだ。ニンゲンでなければ、この脆い体はなんだというのか。この冷たい体は、なんだというのか。

 

 

 ………ホントウニ?

 

 そんな声が聞こえた気がした。

 

 気のせいだ。そんなもの、何処かで入ったノイズに違いない。

 

 そう確信して、目を開けて。

 

 

 

 

「………………なんだ。………ロクなもんじゃねぇな、夢なんか、です」

 

 

『目を開けるという行為が必要だったこと』が示しているところを、呆然と認識する。

 

 肉体の鈍い痛みが、意識を覚醒させていく。内側から抉られていないので、蟲は眠っているらしいと当たりをつけた。

 

 体の不調を無視して、無理やり起き上がる。節々が悲鳴を上げるように痛むが、いつもに比べれば数百倍はマシだ。

 

「……………はぁ?」

 

 ふと、気がつく。何か、騒がしい。色々な感情がごった煮になったような思いが、叫びや騒ぎとなって伝わってくる。

 

 

 

「………アイツ……死んだのか……?」

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 そんなわけがない、と思った。

 

 何かの間違いだと。そう思った。

 

『ふむ?ハーメルン……『ハーメルンの笛吹き男』の伝承なら存じてはいるが……生憎とそんなサーヴァントに覚えはないな』

 

『ハーメルン……?わたしたちは、そんな人は知らないよ?』

 

『ええ、ええ。アリスも知らないわ。とってもかわいそうな童話の男の人。会ってみたいけれど、会ったことはまだないの』

 

『ハーメルン。……悪いが、このオレの記憶に止めるほどの存在には思えない。マスターが言うのであれば、嘘であってもいるとしたほうがいいのだろうが……』

 

『うーん。すみません、マスター。私も特に覚えはありません。西洋のサーヴァントでしたら、誰しも一度は会っているはずなのですが………』

 

『ハーメルン……?今まで召喚したサーヴァントの中にかい?霊基グラフにそんな記録は無いけれど……』

 

『悪いが、ボクも知らない。藤丸君、もしかしたら記憶が混乱しているのかもしれない。バイタルのチェックを……って、ちょっと!?』

 

 食堂のサーヴァントには全て当たった。

 

 医務室に駆け込んだ。

 

 誰も。

 

 誰も、覚えていなかった。

 

 そんなわけはない、と思った。

 

 次に頼ったのは、アヴェンジャー達だった。

 

 アヴェンジャーには、[忘却補正]というクラススキルがある。何があっても、彼らは物事を忘れることがない。ならば、彼のことも覚えていて当然だろうと思った。

 

『ハーメルン………?知りませんね。ええ、知りません。そんな名前は口にしたことすらない。言葉というものは記憶だけでなく体に焼き付いているものです。それすらないということは、私は未だかつて、その名を知らなかったということでしょう』

 

『知らぬ。童話の絵空事など、作家にこそ尋ねればいいだろう。鬼に物語など、それこそ邪道』

 

 走った。

 

 あちこち走った。

 

『ハーメルン?ヴァカめ!作者不明の作品をこの俺に尋ねてどうする!知らんな!」

 

『ふむ、ハーメルン。童話としては、ええ。とても猟奇的で素敵だと思いますが……サーヴァントの記憶に関しては、吾輩にはありませんな!』

 

 走って、走って。

 

 カルデアの至る所で彼の名前を呼んで。

 

『はぁめるん殿。………いいえ、申し訳ありませんが、存じ上げません。図書館に本はあったと思うのですが……』

 

『ハーメルン?知らないわね、そんな男。強い勇士だというのなら、覚えていると思うのだけれど』

 

 ………呼んだ。

 

「ハーメルン!!」

 

 声が枯れるほど、呼んで。

 

(なんで……!)

 

 ………それでも。

 

「………なんで、なんでっ!?」

 

 どれだけ叫んでも。

 

「………なんでだよ……ハーメルン……!」

 

 誰一人として、彼の存在を知らなかった。

 

 どこにだって、彼はいなかった。

 

 令呪を使っても、彼が現れることはなかった。

 

 

 敵対する、何かしらからの攻撃。

 

 そんな考えが浮かんだ。

 

 だが、それならば[忘却補正]をもつアヴェンジャーまでもが影響を受けるとは思えない。そんな子綺麗な芸当ができるのならば、直接カルデアを攻撃したほうが早いはずだ。

 

 わざわざハーメルンという存在のみを記憶から消す意味がわからない。立香だけに記憶が残っている理由もわからない。

 

 ………なら、おかしいのは立香の方なのか。

 

「違うっ!!」

 

 自問を自答する。ふと浮かんだその思考は、絶対にあってはならないものだ。

 

 だって立香は覚えている。黄色のレインコートも、琥珀の髪も、蜂蜜色の瞳も。恥ずかしがり屋で怖がりで、人一倍優しい彼を、全て。

 

「どこにいるんだ……ハーメルン……!」

 

 一縷の希望をかけて、カルデアの部屋という部屋を探した。

 

 それが現実逃避だと、頭の片隅で理解するのをなんとか止めながら、広大なカルデアを、もう一時間は歩き回っていた。

 

(…………ハーメルン……)

 

 声が出せないほど乾ききった喉は、空気を求めてなおも喘ぐ。それでも心に映るのは、たった一人の少年のことだった。

 

「…………落ち着け。………他に、ハーメルンが行きそうな場所を探せば、まだ……」

 

 ……でも、そんな場所は真っ先に探したじゃないか。これ以上、どこがあるというんだ。

 

 カルデアの青っぽい廊下に手を当て、()()うの体で進む。

 

 重い。体もそうだが、心も。

 

 進みなくない。進んでしまって、もしその先に何もなくて。彼がいないということを、自分で証明してしまったら。

 

 そう想像してしまうと、今度こそ本当に何もできなくなってまう。

 

 折れてしまいそうだ。自重に耐えきれない。鉛のような心。濃ゆい塩酸をかけてしまったように、致命的に融けてしまう。

 

 一歩が重い。歩くことすらやめたくなって、T路路に差し掛かったと同時に座り込む。

 

 …………その時。

 

 視界の端に、見慣れた蜂蜜色が見えた気がした。

 

「…………ハーメルン?」

 

 色を目で追う。立香の側面。ちょうど暗がりになっているところで、黄金のように光を放っている。………しかしそれは、全く見当違いの、幼い少女が持つものだった。

 

「いいえ。違うわ、マスター。私はあの子じゃない。お父様の子の愛した子。私の義理の甥にあたるけれど、それでも私はあの子にはなれないの」

 

 見知らぬ少女は、手のクマの人形を抱えてそう言った。

 

 見慣れぬ風貌。黒いワンピースとドロワーズを合わせたのような、特徴的な服。見入った蜂蜜色は、その彼女の髪だった。その髪と服にはたくさんのリボンがついており、オレンジと黒のコントラストが目に眩しい。

 

 だが、そんなことはどうでもよかった。……今彼女は、はっきりと口にした。その『子』と。

 

「ハーメルン……!君は、ハーメルンのことを覚えているのか!?」

 

「ええ、マスター。覚えているというよりも、知っているという方が正しいけれど。私はあの子のお友達よ。彼とはとても仲がいいの。いつも遊んでいるわ」

 

「そっか……!良かった……!」

 

 自分の記憶を疑わずに済むこと。彼自体の存在を疑わずに済むこと。二つの安心の要素が合わさって、安堵でその場に座り込んだ。

 

「優しいのね。マスターは」

 

 少女はどこか楽しそうに溢した。嬉しそうではなく、面白いものでも見たかのように。

 

 新しいおもちゃか何かを見つけたかのような。残酷な笑みを携えた。

 

「ねぇ………ハーメルンに会いたい?」

 

「えっ……!?あ、会えるの!?」

 

「…………私の手を取って。決して離さないで。そうすれば、あなたはきっとあの子に会える」

 

 差し伸べられた手を、反射的に掴み取った。

 

 少し冷たい気がしたが、そんなことも気にならない。今はただ、彼に会いたかった。会って、安心したかった。

 

「………そう。私、アビゲイル。アビゲイル・ウィリアムズ。宜しければアビーって呼んでくださいな、マスター」

 

「あぁ!よろしく、アビー!」

 

 なんの疑いもなく、彼女の名前を呼ぶ。

 

 にこり、と笑った彼女に、邪気は感じられない。本当に、ハーメルンのところまで連れて行ってくれるのだろうと。そう確信できた。

 

(………それにしても、俺、こんなサーヴァントを召喚してたかな)

 

 彼女は立香のことをマスターと呼んだ。ならば、彼女は間違いなく立香のサーヴァントのはずだが。彼女とは面識もなければ、名前すら聞いたことのないような気がした。

 

「でも、アビー。俺って……」

 

 そのことを、尋ねようとして。

 

「…………ええ。

あなたなら(・・・・・)きっと耐えられるわ(・・・・・・・・・)

 

「…………えっ?」

 

 瞬間。

 

 立香は、無限の宇宙に放逐された。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 たぶん、星が綺麗だったとおもう。

 

 たぶん、みたこともないきれいな光景だったとおもう。

 

 でも、凄く怖くて。

 

「………アビー!?アビー!?」

 

 たぶん、さけんだ。

 

 握っている感覚はあったのに、姿が見えなかった。

 

 歩いていた。ゆっくり。ゆっくりと。

 

 黄色の布をかぶった誰かの後ろを。

 

 誰かの後ろ。

 

 せたけは、二めーとるほど。

 

 おどろくほどつめたい。

 

 ちがう。

 

 ハーメルンじゃない。

 

 やめろ。

 

 ふりむくな。

 

 けっして、そのかおをみてはいけない。

 

 やめてくれ。

 

 だって、それは。

 

 そのかおは。

 

 あおじろいかおは。

 

 ………その、仮面(・・)は。

 

「ぅぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

 

 

 ───顔面に隈なく湧いた、大量の(うじ)なのだから。

 

 

 




ドーモ。コンニチハ。ハスター=サン、デス。



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