始まりの天使 -Dear sweet reminiscence-   作:寝る練る錬るね

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もう知ったもんか!前言撤回!二枚舌!一万字越え!

※深夜テンションで作成しているので内容が無茶苦茶な可能性があります。


第二節 セカイの現状 (2/3)

 Q.お前はマーリンなのかいや偽物だ偽物に違いない本性を出せ偽物!

 

 A.残念ながら本物だとも!グランドの資格を持つキャスター、マーリン!魔術師の中の魔術師さ!

 

 

 Q.どうしてそんなに身体が縮んでいるんだ!まさか女性を誑かすためにそこまでやったのか!?

 

 A.ウルクの現状を鑑みると仕方がないのさ。その辺りの詳しい説明は、ウルクの中に入ってからしたほうが早いだろう。

 

 

 Q.どうして永遠に死なないはずのお前が死ななければなれない英霊になっているんだ!

 

 A.私はこの時代ではまだ生まれていない。つまり死んでいると解釈できるわけだ!ちなみに、私はとある召喚主(マスター)に呼び出されたサーヴァントだが、アナは聖杯の影響で呼ばれたマスターを持たないはぐれサーヴァントなのさ。

 

 

 Q.『みんな、気をつけて!ワイバーンがやってくるぞ!』…どうかなロマ二。声は若干高いが、似ているだろう!

 

 A.ははは、100点をくれてやる!よし、藤丸君!どさくさに紛れてそのロクデナシを一発殴っておいてくれ!

 

 

 

 

 …以上が、カルデアのDr.ロマン及びダ・ヴィンチちゃんとマーリンの会話の概要である。実際にはもっと私情やら私怨やらが篭っていたが、大凡重要どころを纏めるとこんなところだろうか。

 

「…さて。そんなこんなで、日も暮れてきたところでボク達は野営をしているわけだが……」

 

 パチパチ、と小気味良い音を鳴らしながら火の粉が弾ける。ゆらゆらと揺れる炎はこの一年で見慣れたもので、座っているだけでじんわりと立香を温めてくれる。

 

 そして焚き火を囲い、立香、マシュ、そしてマーリンが向かい合った。アナとフォウ君はもう寝てしまったらしい。

 

 マーリンは身の丈に合わない立派な杖を置き楽にしているが、その顔は子供らしいあどけなさに似合わず、真面目そのものだった。

 

「…藤丸君。君は、ギルガメシュ叙事詩についてどれぐらい知っている?」

 

「………すみません。ギルガメッシュ王、エルキドゥ、アンヘル…という名前しか…」

 

 それも、レイシフト前にダ・ヴィンチから伝えられただけなのだが。

 

 ラーマヤーナ、マハーバーラタ、アーサー王伝説。これまでに関わってきた特異点の情報はあらかた頭に入っているつもりだが、いつも隣に優秀な後輩がいるお陰でどうしても甘えてしまい、次に訪れる可能性のある特異点についての勉強を怠る悪癖があることを立香は自分で理解していた。

 

 この特異点が見つかってから間のないレイシフトではあったものの、短い時間の中でダヴィンチやロマ二に訊くという選択肢もあったはずなのだが。……我ながら、少し情けない気持ちになる。

 

「うんうん。知らないことを知らないと言えるのは藤丸君の美点だね。その正直さは大切にしなさい」

 

「と、いうとマーリンく………さん。この特異点では、ギルガメシュ叙事詩の情報が役に立つのですね?」

 

「…あぁ。この特異点は、他のように別の歴史同士が混じり合っているということはあまりないからね。藤丸君が知らないならちょうどいい。復習がてら、ギルガメシュ叙事詩の内容をおさらいしておこう。なに、これでも誰かに物語を語るのは得意でね」

 

 そして、マーリンの口から英雄譚が語られる。

 

 強き英雄であり暴君であった半神半人、ギルガメッシュ王。それを諫めるため、天神アヌが命じて粘土から造られた神造人間、エルキドゥ。

 

 自分の使命に気づかず、単なる大男として獣たちと共に暮らしていたエルキドゥは、ある時ギルガメッシュが花嫁を奪い去っていくという噂を聞いて怒り狂い、ギルガメッシュと大格闘を繰り広げる。決着はつかなかったが、二人は互いを認め合い、互いを友とした。そしてエルキドゥは聖娼婦シャムハトと出会い、人間としての情緒と、彼女を模し、美しい容姿を手に入れた。

 

 彼らは常に行動を共にし、様々な冒険を繰り広げる。そんなある日、不思議な子供が現れる。アンヘル、と名乗ったその子供は優れた政治能力を持っていた。瞬く間に国を発展させ、良い方向へと導いていく。訝しんだエルキドゥは彼に試練を与えるが、その試練を見事突破したアンヘルを信頼するようになる。聡明なギルガメッシュ王はその正体と国に与える恩恵を見通し、一文官であったアンヘルに武具を与え、手厚く扱ったという。

 

 かけがえのない仲間となったアンヘルを巻き込み、ウルクはさらに発展の一途を辿っていく。恩のあるエレシュキガルへの義のために悪しき女神、タローマティを滅するべく冥界を下り、仲間と協力して森の番人であるフワワ(フンババ)を討伐し、ギルガメッシュがイシュタルの求婚を断ったことで差し向けられたグガランナを難なく撃破。アンヘルの優れた政治により、ウルクは安泰となった。そしてもう、誰もギルガメッシュを暴君と呼ぶものはいなくなっていた。

 

 しかし、そこから雲行きは怪しくなっていく。グガランナを差し向けた女神、イシュタルがかけた呪いにより、三人のうちの一人、エルキドゥが死んでしまうのだ。この時、アンヘルはエルキドゥの遺言に従い、エルキドゥの死をギルガメッシュが悲しまぬよう、国民全てをギルガメッシュの友とする偉業を成し遂げた。

 

 しかし、それでもギルガメッシュの心を動かすことはできなかった。ギルガメッシュはこの時より、最強と謳われた親友を奪った死を恐れるようになる。結果、ギルガメッシュは己を不死とすることを望み、アンヘルに国を任せて旅に出てしまう。このとき、国に取り残された彼が何を思ったかは定かではないが『寂しい』や『辛い』などと書かれた粘土板がウルク跡地で見つかったことから、ギルガメッシュには色々と思うところがあったのだろうと推測される。

 

 ギルガメッシュは長い旅の果て、不死となる草を手に入れた。しかしそれは、森で水浴びをしている際に蛇によって盗まれてしまう。これによって、蛇は脱皮という不死性を獲得することになる。

 

 何も得ることができず故郷に戻ったギルガメッシュは、何も変わらないウルクを見て安堵した。しかしその裏で、ウルクは王のいない状態で戦争に巻き込まれ、大きな被害を被っていた。その戦争を単独で終わらせたアンヘルは当然無事ではなく、帰還したギルガメッシュと会ったその日に命を落としてしまう。二度目の親友の死を噛みしめた彼は、彼が残した言葉通り、国民全てを友として扱った。その在り方から『英友王(えいゆうおう)』と呼ばれ、死んだ彼と同じように優れた治世を行ったという───

 

 

 

 …というのが、時間をとらないようにざっくりとした解説だった。適度なところでマシュやロマンの注釈が加えられ、なるほど。なかなかにわかりやすい。……わかりやすい、が。

 

 

「……うっ……えぐ……こ……こんな……凄い話があるなんて………しかも、そんな……そんな過去を送った英雄の最後が……死に別れだなんて……」

 

「う、ううーん。こ、この反応はいささか想定外だぞぅ」

 

「せ、先輩、ハンカチをどうぞ!」

 

 不覚……!藤丸立香、一生の不覚である。後輩の前でまさかの全力の男泣き。でも涙が出ちゃう。男の子だもん。

 

 ……冗談はさておき、もの凄く壮大な物語だった。マーリンの手腕もあるのだろうが、昔読んでもらった御伽話のような臨場感と高揚感。とても紀元前の物語とは思えない。あまりの感動に、思わず泣いてしまった。

 

『うんうん、わかるぞぅその気持ち。僕も最初にギルガメシュ叙事詩を読んだ時はそんなになってたよ。なにせ、人類最古の英雄譚にして人類最古の超傑作なんて言われてるくらいだ。そこなペテン師が語ってもまともに聞こえるんだろう』

 

「ペテン師呼ばわりとは……酷いなぁロマ二」

 

 心底心外だ、と言わんばかりに足を崩すマーリン。足を組むのがそもそも無理な体制だったのか、若干動きがぎこちない。

 

「……コホン!とにかく、これであのエルキドゥがどれほど強いかはわかったかい?」

 

「…うん。神に作られた神造兵器って言われてもピンとこなかったけど……多分、魔獣と戦ってるときでも、手の内を見せないよう手加減してた」

 

 涙をハンカチで拭いながら、つい数時間前まで共に歩いていた彼のことを思い出してみる。余裕のありそうな立ち振る舞い。魔獣を一掃した手際と強さ。どれをとっても手加減していたようにしか見えない。

 

『それはそうだろうね。なにせ、ギルガメッシュ王やアンヘルと渡り合えるほどの実力の持ち主だ。言ってしまえば悪いが、藤丸君とマシュなんて相手にもならないだろう』

 

 ……それはそうだ。基本的に、サーヴァントは古くなればなるほど……特に神代、神の力をもつサーヴァントほど、別格の力を有する。

 

 ヘラクレス、オリオン、カルナ、アルジュナ。思い返してみても、神の力というものには、絶対的に敵わない。唯一聖杯探索に成功したという円卓の英霊、ギャラハッドの力を持つマシュだろうと、その例外ではないだろう。一般人の立香など、塵が残ればいい方だ。

 

 …そんな神がわんさか残っていた神代で英霊となったエルキドゥなど、どれほどの力を秘めているかわかったものではない。

 

「だねぇ。私たちが逃げ切れたのも正直、運が良かったとしか言いようがない」

 

 うんうん、と頷き、再び組みにくそうに足を組み直すマーリン。小さな体が、炎の向こうへと朧げに隠れる。

 

「もしも彼が私たちを全力で捕まえる気だったら、こう上手くはいかなかっただろう。恐らく、彼は擬似サーヴァントに近い形態をとっている。身体自体はエルキドゥのものなのだろう。だからこそ彼はエルキドゥと変わらない力を発揮できるし、その能力を扱える。となると今回、私の幻術が彼に効いたのは、奇跡と言って差し支えない」

 

 マーリンはそう言って、幻術をかけた時を再現するかのように、杖で地面を一つ突いた。

 

 曰く、今彼の幻術は身体のせいもあって弱体化しているらしい。その幻術が効いたのは、もはやバグ……エルキドゥ自身に何らかの不具合が発生したからだそうだ。

 

「中の彼がどうかは知らないが。少なくとも、エルキドゥは精神系の攻撃に対しては慣れっこだったはずだ。精神干渉という面では、私ですら足元に及ばない存在と一緒にいたのだからね」

 

「…そっか。アンヘル……」

 

 ギルガメッシュ叙事詩にて人の意思を知ると言われる、謎の子供。その容姿と人柄から人々に恐れられることこそなかったものの、彼女だって神代を生き抜いた一人だ。その近くにいたエルキドゥに、その手の耐性がないとは思えない。

 

「あぁ。もし彼が私たちを全力で探していたら、見つかっていた可能性は高い。何せこっちは土地勘もなく、対して相手は森という最高のフィールドにいるのだから」

 

 やってられない、と言わんばかりにマーリンはため息をついた。焚き火に薪を適当に放り投げ、ついには座っていた丸太に寝転がり始める。ものぐさ感が半端ではない。

 

 

「あ〜あ、もうめんどくさい。藤丸君もマシュ君も寝たまえよ。ロマニも通信を切りたまえ。二人の優良な睡眠に悪影響だぞ〜」

 

『急に語り出したりめんどくさがったり!いつも以上に情緒不安定だなお前!』

 

「しょうがないだろ〜この身体になると、感情の処理が少し面倒なんだ。動きにくいし、舌は回らないし、杖は重いし……」

 

『魔術師が杖の重さを嘆くな!!』

 

 

「は、白熱してるね……」

 

「は、はい。どことなく、長年付き合ってきたような親しさを感じます。到底、初対面とは思えません……」

 

 マシュの言う通り、ドクターロマンとマーリンはあまりにも互いに馴れ馴れしすぎる。ロマニは毎回抜けているところこそあれど、基本的には英霊に敬意を払っているし、マーリンも初対面の相手を揶揄うような短絡的な子供には見えない。今日出会ったはずの二人に、どこか因縁らしきものを感じてしまう。

 

『……まぁ、確かに睡眠は大切だ。藤丸君、マシュ。今日は慣れない土地の半日行軍でだいぶ疲れが溜まっているだろう。ゆっくりとはいかないが、しっかり休んでくれ』

 

「了解しました、ドクター!」

 

「はいはい。二人の睡眠中の安全確保(・・・・)はしっかりやっておくよ。だから用済みのロマニ君は早く通信を切りたまえ切りたまえ」

 

『………ははは。今度会ったら覚えとけよお前。マシュの教育に悪いからこれぐらいにしといてやるっ!』

 

 ブチッ、と通信で鳴るはずのない音を立て、カルデアからの音声が途絶える。ドクターの堪忍袋の緒の音じゃないといいなぁ、などと立香は遠いカルデアへと想いを馳せるのであった(まる)

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「……おや?もう眠ってしまうのかい?」

 

 カルデアとの通信が切れ、即席の寝床に着こうとした立香とマシュを引き留めたのは、マーリンのその一言だった。ニコニコと笑うマーリン。その仕草から何かあるのだろうとマシュと目を合わせ、再び硬い丸太の上へと腰をおろした。

 

「…ええと。何かあるのでしょうか、マーリンく……さん」

 

「マーリン君でいいよ。さっきはロマニに馬鹿にされたくなかっただけだし、そっちの方が、ボクも親しみを持ってもらったみたいで嬉しいし、ね!」

 

 ウインクをするその姿は、ようやく年相応といえる雰囲気を纏っていた。……少しばかりテンションが高くなって鬱陶しさが増しているような気もするが。大方、ロマンあたりにこの姿を見られたくなかったのだろう。

 

「は、はぁ。ではお言葉に甘えて。マーリン君。何か、話すことがあるのでしょうか……?」

 

「いいや?ボクから話すことはないとも。ただ、君たちから話すことはあるだろう?例えば───君たちが一番最初に出会った、金髪のサーヴァントのこととかさ」

 

 …発されたその言葉に、一瞬固まった。どうしてそれを、いや、そもそもあのサーヴァントの正体を、目の前の少年は知っているのか。

 

「あぁ、別に警戒しなくてもいい。ボクは君たちとあの子があったことをこの目で視た(・・)だけだし、個人的にボクがあの子のことは知っているだけなんだ。一生を見たことがある。

 ……まぁ、ボク好みの終わりじゃなかったから放置していたんだが。まさかこの特異点に現れるとは思ってもみなかった」

 

 そう言って、マーリンは肩を竦める。そういえば、現在全てを見通す千里眼だとか、世界の端で全てを見ているだとか、そんな話をドクターとしていたな、と立香は思い出した。

 

「……ということは、マーリンはあのサーヴァントの真名を知ってるの?」

 

「あぁ、知っているとも。誰よりも報われず、誰よりも救えないあの子。そして今や、エルキドゥと同じく、魔術王の手先になってしまったこともね」

 

「魔術王の……手先…」

 

 やはり、マシュの言う通り敵だったのか。いや、それにしても苦しんでいたし、立香達にこれといった危害は与えなかった。寧ろ、親切なことに忠告もしてくれたのだ。もしかすれば、その忠告が罠だったのだろうか?

 

 

「……マーリン。実は───」

 

 

 

 そうして、立香とマシュはマーリンに大体の経緯を説明する。彼の宝具らしきものに救われたこと。三つの忠告をしてくれたこと。苦しそうにしていたことを。

 

「………ふぅむ。宝具はともかくとして……忠告?罠……いや、それにしてはボクと会えというのは不自然だ。では策略?…いや、そんなことより二人に……させた方が早いはずだ。……苦しんでいたということは、彼はまだ…………?でも、彼にそんな力は……」

 

「えぇと、何か分かりましたか、マーリン君」

 

 立香達の話を聞いてから、マーリンがぶつぶつと独り言を続けること数分。流石に耐えきれなくなったのだろう、マシュがマーリンに話しかけた。

 

「ん?……あぁ、すまない。事態が思いの外切迫しているようでね。いやぁ、これは風当たりがキツいかもなぁ」

 

「そ、そうなの?というか、何かわかった?」

 

 神妙顔とは裏腹に、抜けた口調で口を開いたマーリン。しかし、その思案に満ちた表情が、立香達の話した内容が相当にマズかったことを伝えてくる。

 

「…あぁ。だが、これはあまり話せた内容ではないね。不幸中の幸いは、藤丸君がロマニたちにこの事を話さなかった事だろうか」

 

「ドクター達に……?」

 

 ……そういえば。マーリンは、しきりにカルデアとの会話を終わらせたがっていた節がある。ロマニを煽っていたのも、怒らせることで通信が切れるのを待っていたのか。

 

ボク(マギ☆マリ)に頼るロマニはともかく……カルデアという組織自体は優秀だ。もしこの話が伝わっていたら、今ごろあの英霊の目的、下手をすれば真名までが特定されていたかもしれない」

 

「……?あの、それは一見、いいことのように聞こえるのですが……」

 

 立香も同意見だ。彼が敵だというのなら、情報は多いだけいいだろうし、味方だとしても、あれだけ苦しんでいる理由がわかるのならば救ってあげたいという気持ちが大きい。

 

 だが、マーリンの反応は芳しいものではなかった。

 

「いいや。世の中にはね、解き明かさない方がいい謎というものがいくつかあるんだよ。彼はその類だ。彼の真実を暴いた途端(・・・・・・・・・・)数万単位の人が死ぬ(・・・・・・・・・)可能性がある」

 

「す、数万……!?」

 

 どこか戒めるような口調でそう言い切るマーリン。余計な事をしないように、と立香とマシュに言い聞かせるような。いつにも増して真剣な表情だ。

 

 

 

 だが、そんな剣呑な雰囲気も、数秒と経って霧散する。キリリと引き締まったマーリンの表情が、少しだけ緩くなったからだ。

 

 

「…いやはや。ボクとしたことが。藤丸君たちばかりに話をさせてしまったね」

 

「…あ、あぁ、いえ、問題ありません」

 

 張り詰めていた空気が、嘘のように軽くなる。少し微笑んだマーリンは、しばらくするとバツの悪そうな顔を作った。

 

「いやいや。そういうわけにもいくまい。せめてものお詫びだ。あの子への君たちの質問に、いくつか答えるとしよう。多少なら、君たちも知っていた方がいいだろうし。ただし、彼の真名に関すること以外、だけどね」

 

「あのサーヴァントへの、質問……」

 

 ……正直、立香には正体が分からなさすぎて、何から訊いたものかわからない。金髪の子供ということ以外、性別すらも一切不明なのだ。

 

 しかし、マシュはそうでもなかったらしい。礼儀正しく手を上に挙げ、マーリンの方を向いている。

 

「はい、マシュ君」

 

「…先程、マーリン君は魔術王の手先、と仰られました。ということは、彼は私たちの敵、ということで間違い無いのでしょうか?」

 

「確かに。そこは、ハッキリさせておかないと」

 

 乗っかってしまうようで悪いが、確かにそこは気になってしまう点だ。どんなサーヴァントにしろ、敵が味方かはハッキリさせておかねばならない。

 

「うんうん。いい質問だ。結論から言うと、敵さ。それも、とても強大な、ね」

 

 …マーリンの回答は、立香にとっては望ましくないものだった。一度は自分を救ってくれた相手と、できることなら敵対はしたくない。少なくとも、倒すことができたとしていい気分にはならないだろう。

 

 そんな立香の内面を見透かしたかのように、花の魔術師はクスリと笑った。

 

「でもそれは、未来の話だ。君たちの話を聞くに、今は中立だろう。若干敵側に傾いてはいるがね」

 

「…中立?どういうこと?」

 

「………エルキドゥとはまた事情が違うのさ。彼は、今までのように聖杯に呼ばれたサーヴァントではない。魔術王に選ばれ、直接召喚された特別なサーヴァントなのさ」

 

「ま、魔術王が……直接…」

 

 脳裏を過るのは、第四特異点の記憶。ロンディニウムの騎士。造られた怪物。二面を合わせ持つ博士。皮肉屋の作家に日本の英雄、良妻を名乗る狐。その全てが、魔術王の強大な力によって倒れ伏していくその光景。

 

 その魔術王が、直々に呼び出したサーヴァント。一体、どれほどの力を秘めているのだろうか。

 

「幸運だったのは、あのサーヴァントが善の属性を保っていたことだ。魔術王の洗脳や令呪の命令を受けながらも、なんとか理性を保ち、こうして君たちを救っている。だから中立。……恐らく、理性を保っていられるのは時間の問題だろうがね」

 

「…そんな……」

 

 なら、早く助けなければ。

 

 そう口にしようとして、目の前の魔術師が、それができていればとっくにやっていることに気がつく。マシュも同じ結論に至ったのか、開きかけた口を閉じてしまっている。

 

 

「…まぁ、そう暗い顔をしないことだ。もしかすれば、彼が理性を保ち続けるかもしれないし、これから救う手立てが見つかる可能性だってある!何事も諦めないことが大切だからね!」

 

 さぁ、暗い話は置いておいて次だ。そう口にしたマーリンに、立香はようやく思いついた質問をぶつける。

 

「……あのサーヴァント、変な宝具を使ってたんだ。紫というか、黒というか……こう、いろんな色を集めたみたいな球体の。あれって何?」

 

「あぁ、それは答えやすい。あれは魔術王があの子に与えた宝具だよ。真名は知らないが……虚数と実数の狭間を彷徨う宝具。何物でもなく、何物でもある宝具、という性質だったはずだ」

 

 何物でもなく、何物でもある。虚数と、実数。学校で勉強したような内容がでてきて、頭がこんがらがってしまう。そんな立香をみて、マーリンはまたもクスリと笑った。

 

「要するに、何にでもなれる宝具、というわけさ。君たちの時は緩衝材と煙幕に使ったみたいだが……例えば、この棒切れ。これを彼の宝具だとすると…」

 

 そう言って、足元に落ちていた薪木を手に持つと、幻術なのか、あるいは手品なのか。手の中にあったはずの棒が一輪の花へと変わってしまった。

 

 おお〜と素晴らしい手際に控えめの拍手を送るマシュと立香。少し照れた様子を見せながら、マーリンはニコニコと手を振り、手の中の花を地面に置く。

 

「こんなふうに、宝具の曖昧さを利用して別のものに変えることができるのさ。質量変換自体長くは持たなかったはずだが……それでも、あの子が持てば強力極まりない宝具だね」

 

「何にでもなる……」

 

 考えるだけで恐ろしい宝具だ。剣、弓、槍などの武器を自在に変えられることもそうだが、毒ガスや爆発物に変えられるとすれば、さらに相当。その使い道は、それこそ無限大だろう。

 

 もし戦うことになれば、その戦いは今までのサーヴァントの中でもかなり厳しいものになるはずだ。……戦わないことが、理想ではあるのだが。

 

「……ええと、少し気になったのですが」

 

 おずおずと、マシュが再び手を挙げる。その質問は、しかして立香も気になっていたものだった。

 

「先程からマーリン君が『あの子』や『あのサーヴァント』だったので検討がつかなかったのですが……あのサーヴァントは、男の方なのか、女の方なのか、一体どちらなのでしょう?」

 

「気になる!」

 

 思わず脳死で反応してしまった。

 

 いやしかし、気になるものは気になってしまう。声で判別することはできなかったし、顔は隠れていて見えなかった。髪は金で伸びていたようだったが、それも男としてはおかしくない程度の長さだ。

 

「……あぁ、あの子の性別!そういえば言っていなかったね!」

 

 

 ハッと気がついたように笑うと、呆気からんと、さも簡単に。彼は今日最後となった質問の答えを口にする、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼はコロコロ性別が変わる体質らしくてね。これといった性別はないみたいなんだ

 

 

 その後のある日。全てを知ったカルデアの金髪の職員が、謎のガッツポーズを決めていたらしい。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

「おはようございます。先輩、朝ですよ」

 

 マシュの声がする。朝日が目に眩しい。暖かい。少し肌寒いが、起きなければならない。

 

 そうだ。彼?の性別を聞いたところで頭がショートして、立香は眠ることにしたのだったと、ぼやけた頭で思い出した。

 

「う、ん。おはよう、マシュ……」

 

 毛布を剥いで、体をムクリと起こす。朝の冷たさが二度寝しようとする身体を無情にも叩き起こし、だんだんと意識が覚醒していく。

 

「はい。よくお休みになられていました。睡眠から六時間、今はおよそ七時ごろかと思われぇぇぇっ!?」

 

「……マシュ、どうかしまし………えぇ……?」

 

「おやおや。朝から騒がしい。一体何がぁぁぁっ!?」

 

「フォウフォ!キュッフォ!(特別訳:いきなりそっちとは。やるじゃねぇか藤丸坊!)」

 

「ん〜?なに、どうしたの?」

 

 マシュが叫び、そしてそれに釣られてアナ、マーリン、フォウ君までもが、立香の方を見て絶叫している。

 

 まさかそんなに酷い寝癖なのか。いや、寝癖程度でこんなに大声を上げるマシュではない。というか、全員、若干視線が立香の横を向いていて………?

 

「うわぁっ!?」

 

 そして立香もその例外ではなく、大きな声を上げるハメになってしまった。

 

 

 眠っている。立香ではなくその横に、もう一人。毛布を一枚被っただけなのに、謎の暖かさの正体はそれだった。目に入る金を見て、すわ噂のサーヴァントかと警戒するも、身長や体つきが異なっていることに気がつく。髪色も、金というよりはもっと濃い。

 

 すぅすぅと、無防備な寝顔を晒す少年。髪は綺麗な琥珀色。そしてまたもフード、というか黄のレインコートを羽織っており……そしてそのレインコートの下ははだけ、スパッツだけのほぼ全裸であった。

 

 

全裸であった!

 

 

「んっ………んぅ…?」

 

 一斉に視線を集めたその少年は、モゾモゾと動きながら、ゆっくりと身体を起こす。美しいその純白の肌を晒し、細く緩められた金の目を擦りながら立香へとすり寄る。

 

 

「親、様……寒いよぅ……」

 

「お、親ぁ!?」

 

「待ってくれマシュ!誤解なんだ!」

 

「……藤丸は最低です。死んでください」

 

「ほほう、藤丸君にそっちの気がある上に(自主規制)とは……これはボクも注意しないとかな……?」

 

「フォウフォッ!ファ!!(特別訳:安易に下ネタに走るマーリンは死ぬべきだと思うの)」

 

 下がる下がる。立香の株がみるみるうちに下がっていく。なんとかせねば、今後の立ち位置が変態で確定してしまう。

 

「き、君!君の名前は!?ほ、本当の親はどこにいるのかなぁ!?」

 

 慌てふためきながら、なんとか出てきた言葉を口にする。慌てたらそれしか口にできないのか自分は、と思いつつも、二の句を継ぐともできずに相手の返答を待つこととなる。

 

 

 数秒、沈黙。その後にコテン、と可愛らしく首を傾げたその美少年は、少し寂しそうにしながらも……

 

 

 

 

「サーヴァント、フォー……リナー。真名を、ハーメルン、です。親様、アナタはボクを、赦してくれますか……?」

 

 

 

 そう、語ったのだった。

 




あのフードのサーヴァントがハーメルン君じゃないって断言してた訳?

出そうか迷ってたからだよ!

てなわけでハーメルン君登場。別にフードのサーヴァント=ハーメルン君じゃないです。留意ください。

前作品に挙げたステータスよりちょっと変わるのでスキルとかの欄は変えます。すまんて……

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